スタック(stack)とは、景の上の亜群でファイバー付けられた圏であって、対象の間の同型が層をなし、被覆に沿った降下データがすべて有効であるもの、すなわち対象と同型の両方が局所的なデータから貼り合わさるものである。前層から作った圏がスタックであることは前層が層であることと同値で、スタックは自己同型をもつ対象を扱えるように層を一般化したものである。群の層 $G$ のトーサー全体はスタック $BG$ をなし、しかも対象が局所的に存在してどの 2 つも局所的に同型な gerbe になり、2-米田の補題によりスタック $BG$ への射は $G$ トーサーに対応する。fppf 位相の上で対角射と滑らかな被覆の条件を課したものが代数的スタックである。
前提知識: 圏, 亜群, Grothendieck位相, トーサー
位相空間 $X$ の各開集合 $U$ に「$U$ 上の対象」を対応させ、開被覆に沿って貼り合わせる、という考えは層の理論そのものである。ところが、貼り合わせたい対象が集合の元ではなく、ベクトル束や主束、トーサーのように自己同型をもつ対象である場合、同型類の集合を対応させる前層は層にならない。円周上の Möbius の帯は、局所的には自明な帯と同型だが、全体としては自明でない。同型類だけを記録すると「局所的には同じ」という情報からは全体が決まらず、貼り合わせに使った同型そのものを覚えておく必要がある。そこで、各 $U$ に対象と同型からなる亜群を対応させ、同型と対象がどちらも被覆に沿って貼り合わさることを要求したものが スタック である。この記事では、スタックを Grothendieck 位相の入った圏(景)の上で定義し、景の上の層が貼り合わさることを証明して、群の層 $G$ のトーサー全体がスタック、さらに gerbe をなすことを示す。2-米田の補題により、このスタック $BG$ への射がちょうど $G$ トーサーであることも示す。最後に代数的スタックの定義を述べる。
$\mathcal C$ をファイバー積をもつ圏とし、Grothendieck 位相を入れて景とする(Grothendieck位相 の定義「Grothendieck位相」)。被覆 $\{U_i\to U\}_{i\in I}$ について $U_{ij}:=U_i\times_UU_j$、$U_{ijk}:=U_i\times_UU_j\times_UU_k$ と書く。対象 $U$ について、$U$ への射 $V\to U$ を対象とする圏を $\mathcal C/U$ と書き、$\{V_k\to V\}$ が $\mathcal C$ の被覆であるものを被覆として景とみなす。
関手 $p\colon\mathcal S\to\mathcal C$ が 亜群でファイバー付けられた圏(category fibred in groupoids)であるとは、次の 2 条件を満たすことをいう。
$p(x)=U$ のとき $x$ は $U$ の上にあるという。$U$ の上の対象と、$p$ で $\mathrm{id}_U$ に写る射のなす部分圏を ファイバー $\mathcal S(U)$ という。条件 2 を $h=\mathrm{id}$ に使うと、ファイバーの射はすべて同型であることが分かり、$\mathcal S(U)$ は亜群になる。条件 1 の $y$ は、条件 2 により $\mathcal S(V)$ の中で一意な同型を除いて決まるので、1 つ選んで $f^*x$ または $x|_V$ と書き、$x$ の 引き戻し という。ファイバーの射 $a\colon x\to x'$ も条件 2 により引き戻し $a|_V\colon x|_V\to x'|_V$ をもつ。この定義は Stacks Tag 003T(Categories, Definition 4.35.1)である。
$\mathcal C$ 上の集合値の前層 $F$ に対し、対象を組 $(U,s)$($s\in F(U)$)、射 $(V,t)\to(U,s)$ を $F(f)(s)=t$ となる $f\colon V\to U$ とする圏 $\mathcal S_F$ は、$(U,s)\mapsto U$ により亜群でファイバー付けられた圏になる。ファイバー $\mathcal S_F(U)$ は集合 $F(U)$ で、恒等射以外の射をもたない。特に、対象 $X$ が表す前層 $\operatorname{Hom}(-,X)$ からは圏 $\mathcal C/X$ が得られる。
一般に、$x$ を $f\colon V\to U$ と $g\colon W\to V$ で続けて引き戻した $g^*f^*x$ は、射 $g^*f^*x\to f^*x\to x$ が $f\circ g$ の上にあるので $x$ の $f\circ g$ による引き戻しでもあり、条件 2 により $x$ への射と両立するただ 1 つの同型で $(f\circ g)^*x$ と同一視する。たとえば $x|_{U_i}$ と $x|_{U_j}$ をさらに $U_{ij}$ へ引き戻したものはどちらも $x|_{U_{ij}}$ と同一視され、$U_{ij}$ の上の射を $U_{ijk}$ へ引き戻すときも同じ同一視を使う。
$p\colon\mathcal S\to\mathcal C$ を亜群でファイバー付けられた圏とする。
3 は Stacks Tag 02ZI(Stacks, Definition 8.5.1)、4 は Tag 06NZ(Definition 8.11.1)である。gerbe は「対象が局所的に存在し、どの 2 つの対象も局所的に同型な」スタックであり、モチーフ的Galois群 の記事ではファイバー関手のなすスタックがこの意味の gerbe になる。
景 $\mathcal C$ 上の前層 $F$ について、$\mathcal S_F$ がスタックであることと、$F$ が層であることは同値である。
$s,t\in F(U)$ について、$\operatorname{Isom}(s,t)(V)$ は $s|_V=t|_V$ なら 1 点、そうでなければ空である。被覆 $\{V_k\to V\}$ について、この前層の層の条件は「各 $k$ で $s|_{V_k}=t|_{V_k}$ なら $s|_V=t|_V$」であり、すべての $U,s,t$ と $V\to U$ についてこれが成り立つことは、$F$ の切断が局所的な値で決まること(層の条件の一意性の部分)と同じである。ファイバーには恒等射しかないので、降下データは $s_i\in F(U_i)$ で $s_i|_{U_{ij}}=s_j|_{U_{ij}}$ を満たすものであり(コサイクル条件は自動的に成り立つ)、有効であることは $s|_{U_i}=s_i$ となる $s\in F(U)$ があることである。これは層の条件の存在の部分である。$\square$
この命題により、スタックは層の一般化である。層は「対象の間の射が恒等射しかない」スタックにあたる。この主張は Stacks Tag 0430(Lemma 8.6.2)にある。
次の補題は、景の上の層そのものが貼り合わさることを述べる。$\mathcal C/U$ 上の層 $F$ と $U_i\to U$ について、$F|_{U_i}$ は $(V\to U_i)\mapsto F(V\to U_i\to U)$ で定まる $\mathcal C/U_i$ 上の層である。
$\{U_i\to U\}$ を景 $\mathcal C$ の被覆とする。
要点:$V\to U$ について $V_i:=V\times_UU_i$ とおくと $\{V_i\to V\}$ は被覆である。1 では $\alpha(s)$ を $\alpha_i(s|_{V_i})$ の貼り合わせとして定め、2 では $F(V)$ を、各 $V_i$ 上の切断の組で $\varphi_{ij}$ と両立するものの集合として定める。
1:$s\in F(V)$ に対し、$t_i:=\alpha_i(s|_{V_i})\in F'(V_i)$ とおく。$V_i\times_VV_j=V\times_UU_{ij}$ は $U_{ij}$ の上にあり、そこで $\alpha_i$ と $\alpha_j$ は一致するので $t_i$ と $t_j$ の制限は等しい。$F'$ は層なので、$t_i$ を貼り合わせた $t\in F'(V)$ がただ 1 つあり、$\alpha(s):=t$ とおく。$W\to V$ に対し $W_i\to V_i$ が誘導され、$\alpha_i$ が制限と可換なので $\alpha(s)|_W$ と $\alpha(s|_W)$ はどちらも $\alpha_i(s|_{W_i})$ の貼り合わせであり、$\alpha$ は層の射である。$V\to U$ が $U_i$ を経由するときは、$V\to V_i$ が切断になることから $\alpha(s)=\alpha_i(s)$ が従う。一意性は $\alpha(s)|_{V_i}$ が $\alpha_i(s|_{V_i})$ でなければならないことによる。
2:$V\to U$ に対し $V_{ij}:=V\times_UU_{ij}$ とおき、$F(V)$ を、$\prod_iF_i(V_i)$ の元 $(s_i)$ で各 $i,j$ について $\varphi_{ij}(s_i|_{V_{ij}})=s_j|_{V_{ij}}$ を満たすものの全体とする。制限は成分ごとに定める。$\{W_k\to V\}$ が被覆なら $\{W_k\times_UU_i\to V_i\}$ も被覆(底変換の公理)なので、$V\mapsto F_i(V_i)$ は層であり、その積の中で 2 つの層の射が一致する部分として定まる $F$ も層である。$V\to U$ が $U_l$ を経由するとき、$V\to V_l$ の切断 $\delta=(\mathrm{id}_V,V\to U_l)$ により $\psi_l((s_i)):=\delta^*s_l\in F_l(V)$ と定める。逆向きは、$t\in F_l(V)$ に対し、$V_i$ が $U_{li}$ の上にあることから $s_i:=\varphi_{li}(t|_{V_i})$ とおくと、コサイクル条件により $\varphi_{ij}(s_i)=\varphi_{lj}(t)=s_j$ なので $(s_i)\in F(V)$ である。コサイクル条件を $i=j=k=l$ に使うと $\varphi_{ll}=\mathrm{id}$ なので、$\psi_l((s_i))=t$ である。また $(s_i)\in F(V)$ について、$s_l$ の $V_l\times_VV_i$ への制限と $s_i$ の両立条件を $V_i\to V_l\times_VV_i$($\delta$ から誘導される切断)で引き戻すと $s_i=\varphi_{li}(\delta^*s_l|_{V_i})$ となり、2 つの対応は互いに逆である。$\varphi_{lj}\circ\psi_l=\psi_j$ も同じ計算で確かめられる。$\square$
1 は Stacks Tag 04TQ(Sites, Lemma 7.26.1)、2 は Tag 04TS(Lemma 7.26.5)の内容である。トーサー の記事の定理「トーサーとコサイクルの対応」の全射性の証明は、この補題に依っている。
$G$ を景 $\mathcal C$ 上の群の層とし、対象 $U$ について $G|_U$ を $\mathcal C/U$ 上の群の層とする。$\mathcal C/U$ は終対象 $U$ をもつので、トーサー の記事の定義「トーサー」により $G|_U$ トーサーが定まる。
圏 $BG$ の対象を、$\mathcal C$ の対象 $U$ と $G|_U$ トーサー $P$ の組 $(U,P)$ とする。射 $(V,Q)\to(U,P)$ は、$\mathcal C$ の射 $f\colon V\to U$ と $G|_V$ トーサーの同型 $\alpha\colon Q\to P|_V$ の組 $(f,\alpha)$ とし、$(f,\alpha)\circ(g,\beta):=(f\circ g,\ \alpha|_W\circ\beta)$ で合成する($g\colon W\to V$)。関手 $p\colon BG\to\mathcal C$ を $(U,P)\mapsto U$ で定める。
$G$ トーサー $P$ の $V\to U$ への制限 $P|_V$ は $G|_V$ トーサーである(作用と単純推移性は制限で保たれ、$U$ の被覆の $V$ への底変換は $V$ の被覆である)。
$BG$ は亜群でファイバー付けられた圏であり、スタックであり、さらに gerbe である。
ファイバー付けられていること. $f\colon V\to U$ と $(U,P)$ に対し、$(f,\mathrm{id})\colon(V,P|_V)\to(U,P)$ が条件 1 の射である。条件 2:$(f,\alpha)\colon(V,Q)\to(U,P)$、$(g,\beta)\colon(W,R)\to(U,P)$、$f\circ h=g$ とする。$(f,\alpha)\circ(h,\gamma)=(g,\beta)$ は $\alpha|_W\circ\gamma=\beta$ のことなので、$\gamma=(\alpha|_W)^{-1}\circ\beta$ がただ 1 つの解である。
Isom が層であること. $P,Q$ を $G|_U$ トーサーとする。$V\to U$ の被覆 $\{V_k\to V\}$ と、$V_k\times_VV_l$ の上で一致する同型 $\alpha_k\colon P|_{V_k}\to Q|_{V_k}$ が与えられたとする。lem-stack-glue の 1 により、これらは層の射 $\alpha\colon P|_V\to Q|_V$ にただ 1 通りに貼り合わさる。$\alpha_k^{-1}$ も貼り合わさって $\alpha$ の逆射を与える(合成が恒等射であることは各 $V_k$ で確かめられ、一意性から従う)。$G$ の作用との両立は、2 つの層の射 $P|_V\times G|_V\to Q|_V$、$(s,g)\mapsto\alpha(sg)$ と $(s,g)\mapsto\alpha(s)g$ が各 $V_k$ で一致することなので、一意性から成り立つ。
降下データが有効であること. 被覆 $\{U_i\to U\}$ に関する降下データ $(P_i,\varphi_{ij})$ をとる。lem-stack-glue の 2 により、層 $P$ と同型 $\psi_i\colon P|_{U_i}\to P_i$ で $\varphi_{ij}\circ\psi_i=\psi_j$ となるものがある。$P_i$ の作用を $\psi_i$ で移した $P|_{U_i}\times G|_{U_i}\to P|_{U_i}$ は、$\varphi_{ij}$ が $G$ 同変なので $U_{ij}$ の上で一致し、補題の 1 により作用 $P\times G|_U\to P$ に貼り合わさる。作用の公理と、$P\times G\to P\times P$、$(s,g)\mapsto(s,sg)$ が同型であることは、各 $U_i$ の上で成り立つ層の射の等式・同型なので、補題の 1 の一意性により $U$ の上でも成り立つ。$P_i$ を自明にする被覆 $\{U_{ik}\to U_i\}$ を合成した $\{U_{ik}\to U\}$ は被覆(合成の公理)で、$P(U_{ik})\cong P_i(U_{ik})\ne\emptyset$ である。よって $P$ は $G|_U$ トーサーで、$\psi_i$ は降下データとの同型を与える。
gerbe であること. (a):$G|_U$ 自身が自明なトーサーなので、$BG(U)$ は空でない。(b):$G|_U$ トーサー $P,Q$ をそれぞれ自明にする被覆 $\{U_i\to U\}$、$\{U'_j\to U\}$ をとると、$\{U_i\times_UU'_j\to U\}$ は被覆で(底変換と合成の公理)、その上で $P,Q$ はどちらも切断をもつ。切断をもつトーサーは自明なトーサーと同型なので(トーサー の命題「切断をもつトーサーは自明」)、$P$ と $Q$ はその上で同型である。$\square$
$\mathcal C$ がスキーム $S$ 上のスキームの圏に fppf 位相(fppf位相)を入れた景のとき、$BG$ がスタックであることは Stacks Tag 04UK(Examples of Stacks, Lemma 95.14.2。$G$ はこの景の上の任意の群の層)にある。
亜群でファイバー付けられた圏 $\mathcal S,\mathcal S'$ の間の 1 射 とは、$p'\circ F=p$ を満たす関手 $F\colon\mathcal S\to\mathcal S'$ であり、1 射の間の 2 射 とは、各成分 $t_x$ が $p'(t_x)=\mathrm{id}$ を満たす自然変換 $t\colon F\to F'$ である。1 射と 2 射のなす圏を $\operatorname{Hom}(\mathcal S,\mathcal S')$ と書く。2 射はすべて同型なので、これは亜群である。
$\mathcal S$ を亜群でファイバー付けられた圏、$U$ を $\mathcal C$ の対象とする。関手
$$
\operatorname{Hom}(\mathcal C/U,\mathcal S)\longrightarrow\mathcal S(U),\qquad F\longmapsto F(\mathrm{id}_U),\quad t\longmapsto t_{\mathrm{id}_U}
$$
は圏同値である。
各 $f\colon V\to U$ について、引き戻しの射 $c_f\colon f^*x\to x$($p(c_f)=f$、$c_{\mathrm{id}}=\mathrm{id}$)を選んでおく。
本質的全射. $x\in\mathcal S(U)$ に対し、$G_x(f):=f^*x$ とし、$\mathcal C/U$ の射 $h\colon(V',f')\to(V,f)$($f\circ h=f'$)を、$c_f\circ\chi=c_{f'}$ を満たすただ 1 つの $\chi\colon f'^*x\to f^*x$($p(\chi)=h$、条件 2)に写す。一意性から $G_x$ は合成と恒等射を保ち、$p\circ G_x$ は射影 $\mathcal C/U\to\mathcal C$ に等しい。$G_x(\mathrm{id}_U)=x$ である。
忠実. $F,F'$ を 1 射、$t\colon F\to F'$ を 2 射とする。$(V,f)$ から $(U,\mathrm{id})$ への射 $f$ について自然性から $F'(f)\circ t_f=t_{\mathrm{id}}\circ F(f)$ であり、$t_f$ は $\mathrm{id}_V$ の上の射なので、条件 2 によりこの等式で一意に決まる。よって $t$ は $t_{\mathrm{id}_U}$ で決まる。
充満. $a\colon F(\mathrm{id}_U)\to F'(\mathrm{id}_U)$ を $\mathcal S(U)$ の射とする。各 $(V,f)$ について、$F'(f)\circ t_f=a\circ F(f)$ を満たす $\mathrm{id}_V$ の上の $t_f$ が条件 2 によりただ 1 つある。$h\colon(V',f')\to(V,f)$ について、$F'(h)\circ t_{f'}$ と $t_f\circ F(h)$ はどちらも $h$ の上の射 $F(V',f')\to F'(V,f)$ で、$F'(f)$ と合成すると $a\circ F(f')$ に等しい。条件 2 の一意性から両者は等しく、$t$ は自然変換で $t_{\mathrm{id}}=a$ である。$\square$
これは Stacks Tag 004B(Categories, Lemma 4.41.2)である。$\mathcal C/U$ を $U$ と同一視すると、「$U$ から $\mathcal S$ への射」は $U$ の上の対象と同じものになる。thm-stack-bg と合わせると、次の系が得られる。
景 $\mathcal C$ の対象 $U$ について、$\operatorname{Hom}(\mathcal C/U,BG)$ は $G|_U$ トーサーと同型のなす亜群と圏同値である。とくに、$\mathcal C/U\to BG$ の 1 射の同型類の集合は、$G|_U$ トーサーの同型類の集合 $H^1(U,G)$ と 1 対 1 に対応する。
ここで $H^1(U,G)$ は トーサー の記事の注意「非可換な1次コホモロジー」の意味である。位相空間の分類空間 $BG$ は「$X$ から $BG$ へのホモトピー類が $X$ 上の主 $G$ 束の同型類に対応する」という性質をもつが、スタック $BG$ では対応がホモトピーを介さず、亜群の同値として成り立つ。
スキーム $S$ 上のスキームの圏に fppf 位相を入れた景を $(\mathrm{Sch}/S)_{\mathrm{fppf}}$ と書く。この上のスタック $\mathcal X$ が 代数的スタック(algebraic stack)であるとは、対角射 $\mathcal X\to\mathcal X\times\mathcal X$ が代数空間で表現可能であり、スキーム $U$ からの滑らかで全射な 1 射 $\mathcal C/U\to\mathcal X$ があることをいう(Stacks Tag 026O、Algebraic Stacks, Definition 94.12.1)。滑らかな 1 射の代わりに全射でエタールな 1 射がとれる代数的スタックを Deligne–Mumford スタックという(同 Tag 03YO、Definition 94.12.2)。
$G$ が $S$ 上の群スキーム、$X$ が $G$ の作用する $S$ 上のスキームのとき、$T$ の上の対象を「$G_T$ トーサー $P$ と $G$ 同変な射 $P\to X$ の組」とする 商スタック $[X/G]$ が定まる。$X=S$ のときは $G$ トーサーのスタック $BG$ と同値である(Stacks Tag 0CQJ、Lemma 95.15.4)。$G$ が $S$ 上平坦かつ局所有限表示なら $[X/G]$ は代数的スタックである(この記事では証明しない)。作用から定まる亜群 $(X,G\times_SX,s,t,c)$($s(g,x)=x$、$t(g,x)=gx$)では、$s$ は $G\to S$ の底変換なので平坦かつ局所有限表示であり、$t$ は自己同型 $(g,x)\mapsto(g,gx)$(逆は $(g,y)\mapsto(g,g^{-1}y)$)と $s$ の合成なので同じ性質をもつ。よってこの亜群の商スタックは代数的スタックであり(Tag 06FI、Criteria for Representability, Theorem 97.17.2)、それは上の $[X/G]$ と同値である(Tag 04WM、Examples of Stacks, Proposition 95.15.3)。分類空間 の記事で述べられている代数群 $G$ の分類スタック $BG=[\operatorname{Spec}k/G]$ はこの例である。
以下、$X=S^1$(単位円周)の開集合の圏に、開被覆を被覆とする位相を入れた景を使う。$G$ を値 $\{\pm1\}$ の局所定数関数の層とし、2 重被覆 $z\mapsto z^2$ の連続な切断の層 $P$($P(V)$ は $s(v)^2=v$ を満たす連続写像 $s\colon V\to S^1$ の集合、$G$ は符号で作用する)を考える。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| Isom が層 | $F(S^1)=\{0,1\}$、$S^1$ 以外の開集合 $V$ で $F(V)=\{*\}$ とする前層 $F$ の圏 $\mathcal S_F$ | 前スタックであること |
| 降下データの有効性 | 自明な $G$ トーサーだけからなる $BG$ の充満部分圏 | スタックであること(前スタックではある) |
| 同型を記録する(亜群のまま扱う) | 開集合 $V$ に $V$ 上の $G$ トーサーの同型類の集合を対応させる前層 | 層であること |
| 局所的に同型(gerbe の条件 (b)) | 1 点の空間の上の値 $\{0,1\}$ の層 $F$ の圏 $\mathcal S_F$ | gerbe であること(スタックではある) |
準備:$P$ は $G$ トーサーで、$P(S^1)=\emptyset$ である。$V$ 上の 2 つの切断 $s,s'$ について $s'/s$ は $\{\pm1\}$ に値をもつ連続関数なので、$s'=s\cdot g$ となる $g\in G(V)$ がただ 1 つある。$U_1=S^1\setminus\{1\}$、$U_2=S^1\setminus\{-1\}$ の上では偏角の連続な分枝による平方根があるので $P(U_i)\ne\emptyset$ である。$S^1$ 全体の切断 $s$ があったとすると、$s(e^{i\theta})=\varepsilon(\theta)e^{i\theta/2}$ と書け、$\varepsilon\colon[0,2\pi]\to\{\pm1\}$ は連続なので定数である。$\theta=0$ と $2\pi$ で $s(1)=\varepsilon$ と $s(1)=-\varepsilon$ が得られ、矛盾する。よって $P$ は自明でない(トーサー の命題「切断をもつトーサーは自明」)が、$U_1,U_2$ の上では自明である。
1 行目:$s=0,t=1\in F(S^1)$ について、$\operatorname{Isom}(s,t)(U_i)$ は 1 点($F(U_i)$ が 1 点)だが $\operatorname{Isom}(s,t)(S^1)=\emptyset$ なので、被覆 $\{U_1,U_2\}$ で層の条件が破れる。prop-stack-sheaf のとおり、これは $F$ の切断が局所的な値で決まらないことの言い換えである。
2 行目:Isom の前層は $BG$ と同じなので層である。$P|_{U_i}\cong G|_{U_i}$ を選ぶと、$P$ の標準的な降下データは自明なトーサーの降下データ $(G|_{U_1},G|_{U_2},\varphi_{12})$ と同型である。これが部分圏の中で有効なら、$P$ と同型な自明なトーサーがあることになり、$P(S^1)=\emptyset$ に反する。
3 行目:$P$ と $G$ の類は $S^1$ の上で異なるが、$U_1$、$U_2$ への制限ではどちらも自明な類に等しい。層なら局所的な値が等しい 2 つの切断は等しいので、この前層は層でない。対象の同型を忘れると、貼り合わせに使った $\varphi_{12}$ の情報が失われる。
4 行目:prop-stack-sheaf により $\mathcal S_F$ はスタックである。1 点の空間の被覆は全体を含む族なので、$0,1\in F(\mathrm{pt})$ を同型にする被覆はなく、条件 (b) が破れる。
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