超平面

同義語:hyperplane

概要

超平面(hyperplane)とは、ベクトル空間・アフィン空間・射影空間の中で 1 本の 1 次方程式によって定まる、次元が 1 つ小さい部分のことである。線形超平面は商空間が 1 次元の部分空間で、$0$ でない線形汎関数の核と同じものであり、その方程式は $0$ でない定数倍を除いて一意に定まる。$\mathbb{R}^n$ の超平面 $\langle a,x\rangle=c$ は補集合を 2 つの凸な連結成分に分けるが、複素数の空間ではこの性質は成り立たない。射影空間の超平面は 1 次の斉次多項式の零点で、その補集合はアフィン空間になり、因子や直線束の基準として代数幾何で使われる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: ベクトル空間, 線形写像, 双対空間(線形代数), 斉次多項式

座標空間で、平面上の直線 $ax+by=d$ や空間内の平面 $ax+by+cz=d$(空間の平面と法線ベクトル)は、どれも 1 本の 1 次方程式で表され、まわりの空間より次元が 1 つ小さい。超平面はこれを一般の次元・一般の体に広げた概念で、$n$ 次元の空間の中の 1 本の 1 次方程式 $a_1x_1+\dots+a_nx_n=c$($(a_1,\dots,a_n)\neq0$)の解の集合である。線形代数では「$0$ でない線形汎関数の核」として、射影幾何では「1 次の斉次式の零点」として現れ、実数の空間では空間を 2 つの側に分ける壁の役割を果たす。代数幾何では、射影空間の中の次数 $1$ の超曲面であり、超平面による切断や超平面の定める因子を通して、図形の次数や直線束を測る基準になる。

定義

以下、$k$ は体、$V$ は $k$ 上のベクトル空間とする(無限次元でもよい)。$V$ から $k$ への線形写像を $V$ 上の線形汎関数といい、その全体を $V^*$ と書く(双対空間(線形代数))。部分空間 $H\subset V$ に対し、商空間 $V/H$ は剰余類 $v+H$ の全体に和とスカラー倍を入れたベクトル空間である。

線形超平面

$V$ の部分空間 $H$ が $V$ の 線形超平面(linear hyperplane)であるとは、商空間 $V/H$ が 1 次元であることをいう。$V$ が有限次元 $n$ のときは、これは $\dim H=n-1$ と同値である。

$V$ が有限次元のとき、$\dim V/H=\dim V-\dim H$ だから定義の中の同値が成り立つ。無限次元の $V$ では「$\dim H=\dim V-1$」は意味をなさないので、商の次元で定義する。すぐ後で示すように、線形超平面は $0$ でない線形汎関数の核と同じものであり(thm-hyperplane-functional)、$V$ の真部分空間のうち極大なものとも同じものである。

アフィン超平面

$V$ の部分集合 $A$ が アフィン超平面(affine hyperplane)であるとは、ある線形超平面 $H$ とベクトル $v\in V$ によって $A=v+H:=\{v+h\mid h\in H\}$ と書けることをいう。

$V=k^n$ では、線形超平面は方程式 $a_1x_1+\dots+a_nx_n=0$、アフィン超平面は $a_1x_1+\dots+a_nx_n=c$(どちらも $(a_1,\dots,a_n)\neq0$)の解の集合である(cor-hyperplane-equation)。原点を通るアフィン超平面が線形超平面である。単に「超平面」と言うとき、文脈によってどちらかを指す。
次に射影空間の超平面を定める。$V$ を $n+1$ 次元とし、$V$ の 1 次元部分空間の全体を $\mathbb{P}(V)$ と書く。$V=k^{n+1}$ のとき $\mathbb{P}(V)$ は射影空間 $\mathbb{P}^n(k)$ で、$0$ でない $a$ の張る直線を $[a_0:\dots:a_n]$ と書く。

射影空間の超平面

$\mathbb{P}(V)$ の部分集合で、線形超平面 $H\subset V$ に含まれる 1 次元部分空間全体
$$ \mathbb{P}(H):=\{\ell\in\mathbb{P}(V)\mid\ell\subset H\} $$
の形のものを $\mathbb{P}(V)$ の 超平面(hyperplane)という。$\mathbb{P}^n(k)$ では、$0$ でない 1 次の斉次多項式 $L=a_0x_0+\dots+a_nx_n$ の零点集合 $V_+(L)=\{[x]\mid L(x)=0\}$ のことである。

$L$ は斉次だから、点 $[x]$ で $L$ が消えるかどうかは斉次座標の選び方によらない(斉次多項式の命題「射影空間の点で消えるかどうか」)。スキームとしての射影空間 $\mathbb{P}^n_k$ では、$0$ でない 1 次の斉次多項式 $L$ の定める閉部分スキーム $V_+(L)$ を超平面という。これは次数 $1$ の超曲面である(Vak25 9.3.2)。
3 種類の超平面を並べると次のようになる。

線形超平面アフィン超平面射影空間の超平面
住む場所ベクトル空間 $V$ベクトル空間 $V$射影空間 $\mathbb{P}(V)$
方程式$\varphi(x)=0$$\varphi(x)=c$$a_0x_0+\dots+a_nx_n=0$
方程式の定まり方$\varphi$ は $0$ でない定数倍を除いて一意$(\varphi,c)$ は $0$ でない定数倍を除いて一意$(a_0,\dots,a_n)$ は $0$ でない定数倍を除いて一意
次元(全体が $n$ 次元のとき)$n-1$$n-1$$n-1$

例

低い次元の超平面

$\mathbb{R}^1$ の超平面は点、$\mathbb{R}^2$ の超平面は直線 $ax+by=c$、$\mathbb{R}^3$ の超平面は平面 $ax+by+cz=d$ である($(a,b)\neq0$、$(a,b,c)\neq0$)。$\mathbb{R}^3$ の平面の係数ベクトル $(a,b,c)$ は法線ベクトルであり、これは $\mathbb{R}^n$ の超平面 $\langle a,x\rangle=c$ の係数ベクトル $a$ が超平面の方向と直交することの特別な場合である(thm-hyperplane-euclidean)。射影平面 $\mathbb{P}^2(k)$ の超平面は射影直線である。

座標超平面と無限遠超平面

$k^n$ の $x_i=0$ で定まる超平面を座標超平面という。射影空間 $\mathbb{P}^n(k)$ の $x_0=0$ で定まる超平面 $H_\infty=\{[0:x_1:\dots:x_n]\}$ は、補集合 $\{x_0\neq0\}$ を $k^n$ と同一視するとき無限遠超平面と呼ばれる(射影閉包)。$H_\infty$ 自身は $[x_1:\dots:x_n]$ を斉次座標とする $\mathbb{P}^{n-1}(k)$ と同一視できる。

跡が $0$ の行列

$n\times n$ 行列の空間 $M_n(k)$($n^2$ 次元)上の跡 $\operatorname{tr}\colon M_n(k)\to k$ は $0$ でない線形汎関数だから、跡が $0$ の行列全体 $\{X\mid\operatorname{tr}X=0\}$ は $n^2-1$ 次元の線形超平面である。

無限次元の空間の超平面

$V=k[x]$(多項式全体、無限次元)と $a\in k$ に対し、値をとる写像 $p\mapsto p(a)$ は $0$ でない線形汎関数で、その核 $\{p\mid p(a)=0\}=(x-a)$ は $V$ の線形超平面である。実際、$p\mapsto p(a)$ が全射だから $V/(x-a)\cong k$ は 1 次元である。$(x-a)$ 自身も無限次元であり、「次元が 1 小さい」という言い方はここでは使えない。

超平面切断

射影空間の中の図形 $X\subset\mathbb{P}^n$ と超平面 $H$ の共通部分 $X\cap H$ を超平面切断という。たとえば $\mathbb{P}^2$ の円錐曲線 $V_+(yz-x^2)$ を直線 $z=0$ で切ると $x^2=0$ から点 $[0:1:0]$ が重複度 $2$ で現れ、この直線は円錐曲線に接している。超平面切断はスキームの言葉では $\mathcal{O}(1)$ の切断の零点であり、豊富な可逆層の例「射影スキームの超平面切断」に述べられている。

性質

線形汎関数との対応

線形超平面と線形汎関数

$V$ を体 $k$ 上のベクトル空間とする。
(R1) $0$ でない線形汎関数 $\varphi\in V^*$ の核 $\ker\varphi$ は線形超平面である。
(R2) 任意の線形超平面 $H$ に対し、$\ker\varphi=H$ となる $\varphi\in V^*$ がある。
(R3) $0$ でない $\varphi,\psi\in V^*$ について、$\ker\varphi=\ker\psi$ であることと、ある $c\in k^\times$ で $\psi=c\varphi$ となることは同値である。
(R4) 部分空間 $H\subset V$ が線形超平面であることと、$H\neq V$ かつ $H\subsetneq W\subset V$ を満たす部分空間 $W$ が $W=V$ に限ることは同値である。
とくに、線形超平面の全体と、$V^*\setminus\{0\}$ を $0$ でない定数倍で割った集合とは、$H\leftrightarrow\varphi$($H=\ker\varphi$)によって一対一に対応する。

条件 (i):$\varphi(v_0)\neq0$ となる $v_0$ をとり、$v_0$ を $v_0/\varphi(v_0)$ に取り替えて $\varphi(v_0)=1$ とする。任意の $v\in V$ は
$$ v=\bigl(v-\varphi(v)v_0\bigr)+\varphi(v)v_0,\qquad v-\varphi(v)v_0\in\ker\varphi $$
と書けるので、$V/\ker\varphi$ は $v_0$ の類で張られる。$v_0\notin\ker\varphi$ だからこの類は $0$ でなく、$V/\ker\varphi$ は 1 次元である。
条件 (ii):$V/H$ は 1 次元だから同型 $\iota\colon V/H\to k$ がある。射影 $\pi\colon V\to V/H$ との合成 $\varphi:=\iota\circ\pi$ は線形汎関数で、$\ker\varphi=\ker\pi=H$ である。
条件 (iii):$\psi=c\varphi$ なら核が等しいのは明らかである。逆に $\ker\varphi=\ker\psi$ とし、(i) と同じく $\varphi(v_0)=1$ となる $v_0$ をとる。上の分解の第 1 項は $\ker\varphi=\ker\psi$ に属するから、$\psi$ を施すと $\psi(v)=\varphi(v)\psi(v_0)$ である。$c:=\psi(v_0)$ とおけば $\psi=c\varphi$ で、$\psi\neq0$ だから $c\neq0$ である。
条件 (iv):$H$ を含む部分空間 $W$ と、$V/H$ の部分空間 $W/H$ とは一対一に対応する($W=\pi^{-1}(W/H)$)。$V/H$ が 1 次元なら、その部分空間は $0$ と全体だけなので、$W=H$ か $W=V$ である。逆に $H$ が極大な真部分空間とし、$v\notin H$ をとる。$H+kv$ は $H$ を真に含む部分空間だから $V$ に等しく、$V/H$ は $v$ の類で張られる。この類は $0$ でないから $V/H$ は 1 次元である。$\square$

$V$ が有限次元なら、(i) は次元定理(線形写像の定理「次元定理の言明」、Axl24 3.21)からも出る:$\varphi\neq0$ の像は $k$ 全体だから $\dim\ker\varphi=\dim V-1$ である。座標で書くと次のようになる。

超平面の方程式

$k^n$ の線形超平面は、$(a_1,\dots,a_n)\neq0$ による $\{x\in k^n\mid a_1x_1+\dots+a_nx_n=0\}$ の形の集合であり、係数 $(a_1,\dots,a_n)$ は $0$ でない定数倍を除いて一意に定まる。アフィン超平面は $\{x\mid a_1x_1+\dots+a_nx_n=c\}$ の形の集合で、$(a_1,\dots,a_n,c)$ は $0$ でない定数倍を除いて一意に定まる。したがって $k^n$ の線形超平面は $\mathbb{P}^{n-1}(k)$ の点と一対一に対応する。

$k^n$ 上の線形汎関数は $\varphi(x)=a_1x_1+\dots+a_nx_n$($a_i=\varphi(e_i)$、$e_i$ は標準基底)の形であり(双対空間(線形代数)の例「数ベクトル空間の双対」)、$\varphi\neq0$ は $(a_i)\neq0$ と同値だから、線形超平面についての主張は thm-hyperplane-functional から従う。アフィン超平面 $A=v+\ker\varphi$ は $\{x\mid\varphi(x)=\varphi(v)\}$ に等しい($\varphi(x)=\varphi(v)\iff x-v\in\ker\varphi$)ので、$c:=\varphi(v)$ とおけばよい。$\{\varphi=c\}=\{\psi=c'\}$ なら、この集合 $A$ から $A$ 自身を引いた差の集合 $\{x-y\mid x,y\in A\}$ が $\ker\varphi=\ker\psi$ に等しいので $\psi=\lambda\varphi$($\lambda\neq0$)であり、$A$ の点で値を比べて $c'=\lambda c$ である。$\square$

実数の空間の超平面

$\mathbb{R}^n$ に標準内積 $\langle x,y\rangle=\sum_ix_iy_i$ とノルム $\|x\|=\sqrt{\langle x,x\rangle}$ を入れる。cor-hyperplane-equation により $\mathbb{R}^n$ のアフィン超平面は $H=\{x\mid\langle a,x\rangle=c\}$($a\neq0$)と書ける。

点と超平面の距離、超平面の両側

$a\in\mathbb{R}^n\setminus\{0\}$、$c\in\mathbb{R}$、$H=\{x\mid\langle a,x\rangle=c\}$ とする。
(R1) 点 $p\in\mathbb{R}^n$ に対し $p_0:=p-\dfrac{\langle a,p\rangle-c}{\|a\|^2}\,a$ とおくと、$p_0\in H$ であり、$H$ の点のうち $p$ に最も近い点は $p_0$ ただ 1 つである。その距離は $\operatorname{dist}(p,H)=\lvert\langle a,p\rangle-c\rvert/\|a\|$ である。
(R2) $H_+:=\{x\mid\langle a,x\rangle>c\}$、$H_-:=\{x\mid\langle a,x\rangle< c\}$ とおくと、$\mathbb{R}^n\setminus H=H_+\sqcup H_-$ であり、$H_+$ と $H_-$ は空でない凸な開集合で、$\mathbb{R}^n\setminus H$ の連結成分はちょうど $H_+$ と $H_-$ の 2 つである。

条件 (i):$\langle a,p_0\rangle=\langle a,p\rangle-(\langle a,p\rangle-c)=c$ だから $p_0\in H$ である。$q\in H$ とすると、$p-p_0$ は $a$ の実数倍であり、$\langle a,p_0-q\rangle=c-c=0$ だから $p-p_0$ と $p_0-q$ は直交する。よって
$$ \|p-q\|^2=\|p-p_0\|^2+\|p_0-q\|^2\ge\|p-p_0\|^2 $$
で、等号は $q=p_0$ のときに限る。$\|p-p_0\|=\lvert\langle a,p\rangle-c\rvert\,\|a\|/\|a\|^2$ から距離の式が出る。
条件 (ii):$f(x):=\langle a,x\rangle-c$ は連続だから $H_\pm=f^{-1}(\{t\mid\pm t>0\})$ は開集合で、$\mathbb{R}^n\setminus H=H_+\sqcup H_-$ は明らかである。$x_\pm:=\dfrac{c\pm\|a\|^2}{\|a\|^2}\,a$ は $f(x_\pm)=\pm\|a\|^2$ を満たすので $H_\pm$ は空でない。$x,y\in H_+$、$0\le t\le1$ なら $f(tx+(1-t)y)=tf(x)+(1-t)f(y)>0$ なので $H_+$ は凸集合であり、同様に $H_-$ も凸である。凸集合は線分でつながるので弧状連結、したがって連結空間である。一方 $\mathbb{R}^n\setminus H$ は交わらない空でない 2 つの開集合 $H_+$、$H_-$ の和だから連結でない。連結な $H_\pm$ を含む連結部分集合は $H_\pm$ から出られないので、連結成分は $H_+$ と $H_-$ である。$\square$

(i) で $n=3$ としたものが高校数学の点と平面の距離の公式である(空間の平面と法線ベクトルの定理「点と平面の距離」)。(ii) から、$H_+$ の点と $H_-$ の点を結ぶ連続な道は必ず $H$ を通る($f$ に中間値の定理を使う)。これが「超平面は空間を 2 つの側に分ける」ということの正確な意味であり、凸集合の分離や線形計画法の基礎になる。この性質は実数の順序に依存し、複素数の空間では成り立たない(下の反例の表)。

有限個の超平面で空間を覆えるか

有限個の真部分空間による被覆

$V$ を体 $k$ 上のベクトル空間、$m\ge1$ とし、$k$ は $m$ 個以上の元をもつとする。このとき $V$ は $m$ 個の真部分空間の和集合にはならない。とくに、$k$ が無限体なら、$V\neq0$ は有限個の線形超平面で覆えない。

$V=W_1\cup\dots\cup W_m$($W_j\subsetneq V$)となる $m$ があったとして、その最小のものをとる。$m=1$ は $W_1\neq V$ に反するので $m\ge2$ である。最小性から $W_1\not\subset W_2\cup\dots\cup W_m$(含まれれば $W_1$ を除いて $m-1$ 個で覆える)なので、$u\in W_1$ で $W_2,\dots,W_m$ のどれにも属さないものがとれる。また $W_1\neq V$ だから $v\notin W_1$ がとれる。
$\lambda\in k$ に対し $v+\lambda u$ を考える。$v+\lambda u\in W_1$ なら $v=(v+\lambda u)-\lambda u\in W_1$ となって矛盾するので、$v+\lambda u$ は $W_2,\dots,W_m$ のどれかに属する。$k$ は $m$ 個以上の元をもち、行き先は $m-1$ 個しかないので、鳩の巣原理により $\lambda\neq\mu$ で $v+\lambda u$ と $v+\mu u$ が同じ $W_j$($j\ge2$)に属するものがある。すると $(\lambda-\mu)u\in W_j$、よって $u\in W_j$ となり、$u$ の選び方に反する。$\square$

この定理の「$k$ の元の個数」の条件は外せない。$q$ 元体 $\mathbb{F}_q$ 上の $\mathbb{F}_q^2$ は、原点を通る $q+1$ 本の直線の和集合になる(ex-hyperplane-finite-field)。無限体の場合の帰結として、$0$ でない有限個の線形汎関数 $\varphi_1,\dots,\varphi_m$ に対し、どれも $0$ にならない $v$($\varphi_i(v)\neq0$ がすべての $i$ で成り立つ $v$)が存在する。「一般の位置にある点」「どの超平面にも含まれない点」を選ぶ議論は、この形で使われる。

射影空間の超平面

以下 $V$ は $n+1$ 次元($n\ge1$)とし、$\mathbb{P}(V)$ の点 $\ell$ を $0$ でない $v\in\ell$ を使って $[v]$ と書く。$W\subset V$ が $r+1$ 次元の部分空間のとき、$\mathbb{P}(W)\subset\mathbb{P}(V)$ を $r$ 次元の射影部分空間といい、$r=1$ のものを射影直線という($W=0$ のとき $\mathbb{P}(W)=\emptyset$ で、その次元は $-1$ と約束する)。

射影空間の超平面の基本性質

$\varphi\in V^*$ を $0$ でない線形汎関数、$H:=\mathbb{P}(\ker\varphi)$ とする。
(R1) $\varphi(v_0)=1$ となる $v_0$ を 1 つ選ぶと、$w\mapsto[v_0+w]$ は $\ker\varphi$ から補集合 $\mathbb{P}(V)\setminus H$ への全単射である。したがって $\mathbb{P}(V)\setminus H$ は $n$ 次元のベクトル空間 $\ker\varphi\cong k^n$ と一対一に対応する。
(R2) $H$ に含まれない射影直線は、$H$ とちょうど 1 点で交わる。
(R3) $0$ でない $\varphi_1,\dots,\varphi_r\in V^*$ の定める $r$ 個の超平面の共通部分は、$\bigcap_i\ker\varphi_i$ の定める射影部分空間で、その次元は $n-r$ 以上である。とくに $r\le n$ なら共通部分は空でない。$\varphi_1,\dots,\varphi_r$ が 1 次独立なら次元はちょうど $n-r$ である。

条件 (i):$[v_0+w]\notin H$ は $\varphi(v_0+w)=1\neq0$ から分かる。点 $[v]\notin H$ は $\varphi(v)\neq0$ を満たし、その代表元のうち $\varphi$ の値が $1$ のものは $v/\varphi(v)$ ただ 1 つである。$v/\varphi(v)=v_0+w$ と書くと $w=v/\varphi(v)-v_0\in\ker\varphi$ であり、この $w$ は $[v]$ から一意に定まる。よって写像は全単射である。$\ker\varphi$ が $n$ 次元であることは thm-hyperplane-functional と $\dim V=n+1$ から従う。
条件 (ii):射影直線を $\mathbb{P}(W)$($\dim W=2$)とする。$\mathbb{P}(W)\not\subset H$ は $W\not\subset\ker\varphi$、すなわち制限 $\varphi|_W$ が $0$ でないことを意味する。すると $\varphi|_W\colon W\to k$ は全射で、その核 $W\cap\ker\varphi$ は $2-1=1$ 次元である。交点 $\mathbb{P}(W)\cap H=\mathbb{P}(W\cap\ker\varphi)$ は 1 次元部分空間 1 つ、すなわち 1 点である。
条件 (iii):$[v]$ がすべての $\mathbb{P}(\ker\varphi_i)$ に属することは $v\in K:=\bigcap_i\ker\varphi_i$ と同値だから、共通部分は $\mathbb{P}(K)$ である。$\Phi:=(\varphi_1,\dots,\varphi_r)\colon V\to k^r$ の核は $K$ で、像の次元は $r$ 以下だから、次元定理により $\dim K\ge n+1-r$、よって $\mathbb{P}(K)$ の次元は $n-r$ 以上である。$r\le n$ なら $\dim K\ge1$ で、$\mathbb{P}(K)$ は空でない。$\varphi_i$ が 1 次独立のときは $\Phi$ が全射である。実際、像 $U$ が $k^r$ の真部分空間なら、$U$ の基底を $k^r$ の基底に延ばし、$U$ に属さない基底ベクトルを 1 つ除いて残りで張ると、$U$ を含む線形超平面が得られる。cor-hyperplane-equation によりそれは $\{y\mid\sum_ic_iy_i=0\}$($(c_i)\neq0$)と書けるので、$\sum_ic_i\varphi_i=0$ となって 1 次独立性に反する。よって $\dim K=n+1-r$ である。$\square$

$\mathbb{P}^n(k)$ で $\varphi=x_0$ とすれば、(i) は補集合 $\{x_0\neq0\}$ と $k^n$ の対応 $[x_0:\dots:x_n]\mapsto(x_1/x_0,\dots,x_n/x_0)$ にほかならない。スキームとしても、$\mathbb{P}^n_k$ の超平面 $V_+(x_0)$ の補集合は開部分スキーム $D_+(x_0)\cong\mathbb{A}^n_k$ であり、1 次の斉次多項式 $L\neq0$ は座標の線形変換で $x_0$ に移せるので、どの超平面の補集合もアフィン空間 $\mathbb{A}^n_k$ と同型である。(iii) で $n=2$、$r=2$ とすると、射影平面の相異なる 2 本の直線はちょうど 1 点で交わる。平面 $k^2$ の平行な 2 直線は、射影平面の中では無限遠直線上の 1 点で交わる。
thm-hyperplane-functional により、$\mathbb{P}(V)$ の超平面は $V^*$ の $0$ でない元の定数倍の類、すなわち $\mathbb{P}(V^*)$ の点と一対一に対応する。$\mathbb{P}(V^*)$ を双対射影空間といい、「超平面の全体」を再び射影空間として扱える。
代数幾何では、超平面は因子と直線束の基準になる。$\mathbb{P}^n_k$ の超平面 $V_+(x_0)$ は各 $D_+(x_i)$ の上で 1 つの方程式 $x_0/x_i=0$ で定まる有効 Cartier 因子で、付随する可逆層は $\mathcal{O}(1)$ である(Cartier因子の例「射影空間の超平面と超曲面」)。複素射影空間では、超平面のコホモロジー類が超平面類であり(Chern類の定義「複素射影空間の超平面類」)、$\mathcal{O}(1)$ の第 1 Chern 類に等しい(第1Chern類の例「射影空間の超平面束」)。
アフィン超平面と射影空間の超平面の関係も (i) から読み取れる。$\mathbb{P}^n(k)$ の超平面 $V_+(L)$、$L=a_0x_0+a_1x_1+\dots+a_nx_n$ を $\{x_0\neq0\}=k^n$ に制限すると $a_1y_1+\dots+a_ny_n=-a_0$ で、これは $(a_1,\dots,a_n)\neq0$、すなわち $V_+(L)$ が無限遠超平面 $V_+(x_0)$ と異なるときに限りアフィン超平面になる。逆に $k^n$ のアフィン超平面 $\sum_ia_iy_i=c$ は、射影空間の超平面 $\sum_ia_ix_i-cx_0=0$ の $k^n$ への制限である(これは斉次化であり、射影閉包で扱われる)。

ノルム空間の超平面

$\mathbb{R}^n$ の超平面はすべて閉集合だが、無限次元では閉でない線形超平面が現れる。以下、$X$ を $\mathbb{R}$ 上のノルム空間(ノルム $\|\cdot\|$ をもつベクトル空間)とする。

線形超平面は閉か稠密か

$\varphi\colon X\to\mathbb{R}$ を $0$ でない線形汎関数とする。$\ker\varphi$ が閉集合であることと $\varphi$ が連続であることは同値である。$\varphi$ が連続でないとき、$\ker\varphi$ は $X$ で稠密である。

要点:核が閉なら、$\varphi(v_0)=1$ となる $v_0$ と核との距離 $\delta>0$ を使って $\lvert\varphi(x)\rvert\le\|x\|/\delta$ が出る。後半は、核の閉包が核を含む部分空間であることと、線形超平面が極大な真部分空間であること(thm-hyperplane-functional の条件 (iv))から従う。

詳しい証明を開く

$\varphi$ が連続なら $\ker\varphi=\varphi^{-1}(0)$ は閉である。逆に $\ker\varphi$ が閉とし、$\varphi(v_0)=1$ となる $v_0$ をとる。$v_0\notin\ker\varphi$ で $\ker\varphi$ は閉だから、$\delta:=\inf\{\|v_0-h\|\mid h\in\ker\varphi\}>0$ である。$\varphi(x)\neq0$ なる $x$ について $h:=v_0-x/\varphi(x)$ は $\ker\varphi$ に属するので、$\|x\|/\lvert\varphi(x)\rvert=\|v_0-h\|\ge\delta$、すなわち $\lvert\varphi(x)\rvert\le\|x\|/\delta$ である($\varphi(x)=0$ でも成り立つ)。線形性から $\lvert\varphi(x)-\varphi(y)\rvert\le\|x-y\|/\delta$ となり、$\varphi$ は連続である。

$\ker\varphi$ の閉包 $\overline{\ker\varphi}$ は $\ker\varphi$ を含む部分空間である(和とスカラー倍は連続だから)。条件 (iv) により、それは $\ker\varphi$ か $X$ に等しい。$\varphi$ が連続でなければ $\ker\varphi$ は閉でないので $\overline{\ker\varphi}=X$、すなわち $\ker\varphi$ は稠密である。$\square$

$\mathbb{R}^n$(標準のノルム)上の線形汎関数 $\varphi(x)=\langle a,x\rangle$ は、Cauchy–Schwarz の不等式 $\lvert\langle a,x\rangle\rvert\le\|a\|\,\|x\|$ により連続なので、$\mathbb{R}^n$ の線形超平面はつねに閉である。無限次元では不連続な線形汎関数がありうる。具体例は下の ex-hyperplane-dense にある。

完備な空間で不連続な線形汎関数を作る方法を開く

2 乗総和可能な実数列の空間 $\ell^2$ のような完備な無限次元のノルム空間では、ベクトル空間としての基底をとって不連続な線形汎関数を作るのがふつうである。1 次独立な部分集合が基底に延長できることは 基底と次元の定理「一般のベクトル空間の基底の存在」で、その証明には選択公理(Zorn の補題)を使う。ノルムが $1$ の 1 次独立なベクトル $e_1,e_2,\dots$ を含む基底 $B$ をとり、$\varphi(e_m)=m$、$B$ のほかの元では $0$ と定めて線形に延ばせば、$\lvert\varphi(e_m)\rvert=m$ が有界でないので $\varphi$ は連続でない。

反例と注意

外す条件反例成り立たなくなること
$k$ の元が $m$ 個以上$\mathbb{F}_q^2$ と原点を通る $q+1$ 本の直線空間は $m$ 個の真部分空間で覆えない
係数体が $\mathbb{R}$$\mathbb{C}^n$ の超平面補集合が 2 つの連結成分に分かれる
射影空間で考える$k^2$ の平行な 2 直線 $y=0$、$y=1$2 本の直線はちょうど 1 点で交わる
有限次元多項式の空間の $p\mapsto p'(0)$線形超平面は閉集合である
反例:有限体上の平面は有限個の直線で覆える

$k=\mathbb{F}_q$($q$ 元体)とする。$\mathbb{F}_q^2$ の原点を通る直線は、方向ベクトル $(1,s)$($s\in\mathbb{F}_q$)と $(0,1)$ の張る $q+1$ 本である。各直線は $q$ 個の点をもち、どの 2 本も原点だけで交わるので、和集合の点の個数は $1+(q+1)(q-1)=q^2$ で、$\mathbb{F}_q^2$ 全体に一致する。すなわち $\mathbb{F}_q^2$ は $q+1$ 個の線形超平面の和集合である。thm-hyperplane-cover により $q$ 個以下では覆えないので、この個数は最小である。「有限個の超平面では覆えない」は無限体(より正確には、元の個数が超平面の個数より多い体)に特有の性質である。

反例:複素数の空間では超平面は空間を分けない

$a\in\mathbb{C}^n\setminus\{0\}$、$c\in\mathbb{C}$、$H=\{z\in\mathbb{C}^n\mid a_1z_1+\dots+a_nz_n=c\}$ とする。$a_1\neq0$ として一般性を失わない。写像 $z\mapsto(a_1z_1+\dots+a_nz_n-c,\,z_2,\dots,z_n)$ は $\mathbb{C}^n$ からそれ自身への同相写像(逆写像も 1 次式で書ける)で、$H$ を $\{w_1=0\}$ に移すから、$\mathbb{C}^n\setminus H$ は $(\mathbb{C}\setminus\{0\})\times\mathbb{C}^{n-1}$ と同相である。$\mathbb{C}\setminus\{0\}$ は弧状連結であり($w,w'\neq0$ を結ぶ線分が $0$ を通るときは $iw$ を経由すればよい)、弧状連結な空間の直積は弧状連結だから、$\mathbb{C}^n\setminus H$ は連結である。実の場合の thm-hyperplane-euclidean の (ii) は、$\mathbb{C}^n=\mathbb{R}^{2n}$ で見ると $H$ が実 $2n-2$ 次元、すなわち実の余次元が $2$ であることに対応して成り立たない。

反例:稠密な線形超平面

$X$ を実係数の多項式全体に $\|p\|:=\max_{0\le x\le1}\lvert p(x)\rvert$ を入れたノルム空間とし、$\varphi(p):=p'(0)$ とおく。$\varphi$ は $0$ でない線形汎関数で、$\ker\varphi$ は線形超平面である。$p_m:=(1-x)^m$ は $\|p_m\|=1$、$\varphi(p_m)=-m$ だから $\varphi$ は有界でなく、連続でない。よって prop-hyperplane-closed-dense により $\ker\varphi$ は稠密で、閉でない線形超平面である。

稠密であることを直接確かめる

$r_m:=\bigl(1-(1-x)^m\bigr)/m$ は $r_m'(x)=(1-x)^{m-1}\ge0$ より $[0,1]$ で $0$ から $1/m$ まで増加し、$r_m'(0)=1$ である。任意の $p\in X$ に対し $q_m:=p-p'(0)\,r_m$ は $q_m'(0)=0$ を満たし、$\|p-q_m\|=\lvert p'(0)\rvert/m\to0$ となる。したがって $\ker\varphi$ は $X$ で稠密で、$x\notin\ker\varphi$ だから閉でない。

この例では基底 $1,x,x^2,\dots$ が具体的に与えられているので、選択公理は使わない。

関連項目

参考文献

[2]
Ravi Vakil, The Rising Sea: Foundations of Algebraic Geometry, Princeton University Press, 2025, 9.3.2 Definition

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