等間隔の角の正弦の積

同義語:正弦の積の公式product of sines at equally spaced angles

概要

等間隔の角の正弦の積(product of sines at equally spaced angles)とは、$n\ge1$ とすべての実数 $x$ について $\sin nx=2^{n-1}\sin x\sin\bigl(x+\frac\pi n\bigr)\cdots\sin\bigl(x+\frac{(n-1)\pi}n\bigr)$ が成り立つという公式である。複素数平面で $z^n-1$ を 1 の $n$ 乗根を根とする 1 次式に分解して示せる。$\sin x$ で割って $x\to0$ とすると、$n\ge2$ で $\prod_{k=1}^{n-1}\sin\frac{k\pi}n=\frac n{2^{n-1}}$ が得られ、そこから $\prod_{k=1}^m\cos\frac{k\pi}{2m+1}=\frac1{2^m}$ も出る。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 余弦の積と倍角の公式, 複素数の掛け算は回転と拡大, 剰余の定理と因数定理, sin x/xの極限

高校での出発点:$\sin20^\circ\sin40^\circ\sin80^\circ$

余弦の積と倍角の公式 では、$\cos20^\circ\cos40^\circ\cos80^\circ=\dfrac18$ を、角が $2$ 倍ずつ並ぶことを使って求めた。正弦の積 $\sin20^\circ\sin40^\circ\sin80^\circ$ はどうだろうか。こちらは積和の公式で計算できる。

$\sin20^\circ\sin40^\circ\sin80^\circ$ を積和の公式で求める

積和の公式 $\sin A\sin B=\dfrac12\bigl(\cos(A-B)-\cos(A+B)\bigr)$、$\sin A\cos B=\dfrac12\bigl(\sin(A+B)+\sin(A-B)\bigr)$ を使う(加法定理から積和・和積・合成・正接の公式を導く)。まず
$$ \sin40^\circ\sin80^\circ=\frac12\bigl(\cos40^\circ-\cos120^\circ\bigr)=\frac12\cos40^\circ+\frac14 $$
である($\cos120^\circ=-\dfrac12$)。これに $\sin20^\circ$ を掛けると
$$ \sin20^\circ\sin40^\circ\sin80^\circ=\frac12\sin20^\circ\cos40^\circ+\frac14\sin20^\circ $$
で、第 1 項は $\dfrac12\cdot\dfrac12\bigl(\sin60^\circ+\sin(-20^\circ)\bigr)=\dfrac14\sin60^\circ-\dfrac14\sin20^\circ$ である。よって
$$ \sin20^\circ\sin40^\circ\sin80^\circ=\frac14\sin60^\circ=\frac{\sqrt3}8 $$
となる。計算機では $0.3420201\times0.6427876\times0.9848078=0.2165064$、$\dfrac{\sqrt3}8=0.2165064$ である。

この $3$ つの角は $2$ 倍ずつではなく、$20^\circ$、$20^\circ+60^\circ=80^\circ$、$20^\circ+120^\circ=140^\circ$ と読むと等間隔に並ぶ($\sin140^\circ=\sin40^\circ$)。そう読むと、答えの中の $\sin60^\circ$ は $\sin(3\cdot20^\circ)$ である。

等間隔の角の積を 2 つ、3 つで試す
  1. $2$ つの角 $x$、$x+\dfrac\pi2$:$\sin\Bigl(x+\dfrac\pi2\Bigr)=\cos x$ なので
    $$ 2\sin x\sin\Bigl(x+\frac\pi2\Bigr)=2\sin x\cos x=\sin2x $$
    である。
  2. $3$ つの角 $20^\circ$、$80^\circ$、$140^\circ$(間隔 $60^\circ=\dfrac\pi3$):ex-pse-start から
    $$ 4\sin20^\circ\sin80^\circ\sin140^\circ=4\cdot\frac{\sqrt3}8=\frac{\sqrt3}2=\sin60^\circ=\sin(3\cdot20^\circ) $$
    である。

$n$ 個の角を間隔 $\dfrac\pi n$ で並べて掛け、$2^{n-1}$ 倍すると、$\sin nx$ になりそうである。この記事で答える問いは次の 3 つである。

  1. $2^{n-1}\sin x\sin\bigl(x+\frac\pi n\bigr)\cdots\sin\bigl(x+\frac{(n-1)\pi}n\bigr)=\sin nx$ はいつも成り立つか。→ thm-pse-main
  2. $x\to0$ とすると何が分かるか。→ thm-pse-product
  3. 余弦や正接の積も求まるか。→ cor-pse-cos-tan
    高校の計算この記事の言葉大学の言葉
    積和の公式を何回も使う等間隔の角の正弦の積の公式$z^n-1$ の 1 次式への分解
    ド・モアブルの定理単位円の上で $n$ 等分した点$1$ の $n$ 乗根
    $\dfrac{\sin nx}{\sin x}\to n$正弦の積 $\dfrac n{2^{n-1}}$$\prod_{k=1}^{n-1}(1-\zeta^k)=n$
    積和の公式を使う計算は、角の数が増えると急に長くなる。この記事では複素数平面を使って、すべての $n$ で一度に示す。

準備:単位円の上の点と $z^n-1$ の分解

実数 $\theta$ について、単位円の上の点を表す複素数を
$$ E(\theta)=\cos\theta+i\sin\theta $$
と書く(複素数の掛け算は回転と拡大 の定義「単位円上の点 $E(\theta)$」)。同じ記事の定理「偏角の足し算と加法定理」により $E(\alpha)E(\beta)=E(\alpha+\beta)$ であり、とくに $E(\theta)E(-\theta)=E(0)=1$、$E(\theta)^n=E(n\theta)$(ド・モアブルの定理)である。また $E\bigl(-\frac\pi2\bigr)=-i$ である。
まず、正弦を $E$ で書き表す。

正弦を単位円の点で表す

すべての実数 $\theta$ について
$$ 1-E(2\theta)=-2i\sin\theta\,E(\theta) $$
である。とくに $\lvert1-E(2\theta)\rvert=2\lvert\sin\theta\rvert$ である。

左辺は、2 倍角の公式 $\cos2\theta=1-2\sin^2\theta$、$\sin2\theta=2\sin\theta\cos\theta$ を使って
$$ 1-E(2\theta)=1-\cos2\theta-i\sin2\theta=2\sin^2\theta-2i\sin\theta\cos\theta $$
である。右辺は
$$ -2i\sin\theta\,(\cos\theta+i\sin\theta)=-2i\sin\theta\cos\theta-2i^2\sin^2\theta=2\sin^2\theta-2i\sin\theta\cos\theta $$
で、左辺と一致する。絶対値は、$\lvert-2i\rvert=2$、$\lvert E(\theta)\rvert=1$ なので $2\lvert\sin\theta\rvert$ である。$\square$

補題を数で確かめる

$\theta=\dfrac\pi6$ では、左辺は $1-E\bigl(\frac\pi3\bigr)=1-\dfrac12-\dfrac{\sqrt3}2i=\dfrac12-\dfrac{\sqrt3}2i$、右辺は $-2i\cdot\dfrac12\Bigl(\dfrac{\sqrt3}2+\dfrac12i\Bigr)=-\dfrac{\sqrt3}2i+\dfrac12$ で一致する。絶対値は $1=2\sin\dfrac\pi6$ である。

次に、$\omega=E\Bigl(\dfrac{2\pi}n\Bigr)$ とおく($n\ge1$)。$\omega^k=E\Bigl(\dfrac{2k\pi}n\Bigr)$($k=0,1,\ldots,n-1$)は単位円を $n$ 等分する点で、互いに異なり、どれも $z^n=1$ を満たす(複素数の掛け算は回転と拡大 の定理「1 の $n$ 乗根」)。

$z^n-1$ の分解

$n\ge1$ とする。すべての複素数 $z$ について
$$ z^n-1=(z-1)(z-\omega)(z-\omega^2)\cdots(z-\omega^{n-1}) $$
である。

$f(z)=z^n-1$ は最高次の係数が $1$ の $n$ 次式で、互いに異なる $n$ 個の値 $1,\omega,\ldots,\omega^{n-1}$ で $0$ になる。
段 1。因数定理(剰余の定理と因数定理 の系「因数定理」。係数が複素数でも同じ証明が通る)により、$f(1)=0$ から $f(z)=(z-1)f_1(z)$ と書ける。$f_1$ は $n-1$ 次式で、最高次の係数は $1$ である。
段 2。$k\ge1$ について $f(\omega^k)=(\omega^k-1)f_1(\omega^k)=0$ で、$\omega^k\ne1$ なので $f_1(\omega^k)=0$ である。よって $f_1(z)=(z-\omega)f_2(z)$ と書ける。同じことを繰り返すと、$n$ 回で
$$ f(z)=(z-1)(z-\omega)\cdots(z-\omega^{n-1})\cdot c $$
となり、$c$ は $0$ 次式、つまり定数である。両辺の $z^n$ の係数を比べて $c=1$ である。$\square$

この分解から、主定理の証明で使う形を作る。

$1$ から引く形の積

$n\ge1$ とする。すべての複素数 $w$ について
$$ (1-w)(1-w\omega)(1-w\omega^2)\cdots(1-w\omega^{n-1})=1-w^n $$
である。

左辺を $P(w)$、右辺を $Q(w)=1-w^n$ とおく。$P$ は $n$ 個の 1 次式の積なので、$w$ の $n$ 次以下の多項式である。$Q$ も $n$ 次以下である。
段 1($n$ 個の値で一致)。$j=0,1,\ldots,n-1$ について $w=\omega^{n-j}$($j=0$ のときは $w=1$)を代入する。$P$ の因子 $1-w\omega^j$ は $1-\omega^{n}=1-1=0$ になるので $P(\omega^{n-j})=0$ である。一方 $Q(\omega^{n-j})=1-(\omega^n)^{n-j}=1-1=0$ である。$\omega^{n-j}$($j=0,\ldots,n-1$)は $n$ 個の互いに異なる値 $1,\omega,\ldots,\omega^{n-1}$ をちょうど 1 回ずつとるので、$P$ と $Q$ はこの $n$ 個の値で一致する。
段 2(もう 1 つの値で一致)。$w=0$ では $P(0)=1=Q(0)$ である。$0$ は $1$ の $n$ 乗根ではないので、段 1 の $n$ 個とは別の値である。
段 3(結論)。$P-Q$ は $n$ 次以下の多項式で、$n+1$ 個の異なる値で $0$ になる。剰余の定理と因数定理 の定理「根の個数は次数以下」により、これは $0$ でない多項式ではありえないので、$P-Q=0$、つまり $P(w)=Q(w)$ である。$\square$

$n=2$、$n=3$ で確かめる

$n=2$ では $\omega=E(\pi)=-1$ で、$(1-w)(1+w)=1-w^2$ である。$n=3$ では $\omega=E\bigl(\frac{2\pi}3\bigr)$、$\omega^2=E\bigl(\frac{4\pi}3\bigr)$ で、$\omega+\omega^2=-1$、$\omega\cdot\omega^2=\omega^3=1$ なので
$$ (1-w\omega)(1-w\omega^2)=1-(\omega+\omega^2)w+\omega^3w^2=1+w+w^2 $$
であり、$(1-w)(1+w+w^2)=1-w^3$ となる。

主定理 1:等間隔の角の正弦の積

等間隔の角の正弦の積

$n\ge1$ の整数と、すべての実数 $x$ について
$$ \sin nx=2^{n-1}\sin x\,\sin\Bigl(x+\frac\pi n\Bigr)\sin\Bigl(x+\frac{2\pi}n\Bigr)\cdots\sin\Bigl(x+\frac{(n-1)\pi}n\Bigr) $$
が成り立つ。

方針:各因子を lem-pse-sine で $E$ の式に直し、積を lem-pse-one-minus でまとめる。最後にもう一度 lem-pse-sine を使って $\sin nx$ に戻す。
段 1(各因子を書き直す)。$\theta_k=x+\dfrac{k\pi}n$($k=0,1,\ldots,n-1$)とおく。lem-pse-sine の両辺を $-2iE(\theta_k)$ で割ると($E(\theta_k)\ne0$)、$\dfrac1{-2i}=\dfrac i2$、$\dfrac1{E(\theta_k)}=E(-\theta_k)$ なので
$$ \sin\theta_k=\frac i2\bigl(1-E(2\theta_k)\bigr)E(-\theta_k) $$
である。
段 2($E(2\theta_k)$ を $w\omega^k$ で書く)。$w=E(2x)$ とおくと、$2\theta_k=2x+\dfrac{2k\pi}n$ なので $E(2\theta_k)=E(2x)E\bigl(\frac{2k\pi}n\bigr)=w\omega^k$ である。
段 3(積をとる)。段 1 の式を $k=0,1,\ldots,n-1$ について掛けると
$$ \prod_{k=0}^{n-1}\sin\theta_k=\Bigl(\frac i2\Bigr)^n\prod_{k=0}^{n-1}\bigl(1-w\omega^k\bigr)\cdot E\bigl(-(\theta_0+\theta_1+\cdots+\theta_{n-1})\bigr) $$
である($E$ の積は角の和の $E$ になる)。lem-pse-one-minus により真ん中の積は $1-w^n=1-E(2nx)$ である。角の和は
$$ \theta_0+\cdots+\theta_{n-1}=nx+\frac\pi n(0+1+\cdots+(n-1))=nx+\frac{(n-1)\pi}2 $$
なので、$E(-\text{角の和})=E(-nx)E\bigl(-\frac\pi2\bigr)^{n-1}=E(-nx)(-i)^{n-1}$ である。
段 4(定数をまとめる)。$\Bigl(\dfrac i2\Bigr)^n(-i)^{n-1}=\dfrac{i\cdot\bigl(i\cdot(-i)\bigr)^{n-1}}{2^n}=\dfrac{i\cdot1^{n-1}}{2^n}=\dfrac{i}{2^n}$ なので
$$ \prod_{k=0}^{n-1}\sin\theta_k=\frac{i}{2^n}\bigl(1-E(2nx)\bigr)E(-nx) $$
である。
段 5($\sin nx$ に戻す)。lem-pse-sine を $\theta=nx$ で使うと $1-E(2nx)=-2i\sin nx\,E(nx)$ である。代入すると、$E(nx)E(-nx)=1$ なので
$$ \prod_{k=0}^{n-1}\sin\theta_k=\frac i{2^n}\cdot(-2i)\sin nx=\frac{2}{2^n}\sin nx=\frac{\sin nx}{2^{n-1}} $$
となる($i\cdot(-2i)=2$)。両辺に $2^{n-1}$ を掛けて主張を得る。$\square$

証明では、符号を場合分けで決める必要がなかった。$n$ が偶数でも奇数でも、定数 $\dfrac i2$、$-i$ の冪がちょうど打ち消し合う。

$n=3$、$n=4$ で確かめる
  1. $n=3$、$x=20^\circ$:右辺は $4\sin20^\circ\sin80^\circ\sin140^\circ$ で、ex-pse-pattern (2) のとおり $\sin60^\circ$ に等しい。
  2. $n=4$、$x=0.37$:右辺は $8\sin0.37\,\sin\Bigl(0.37+\dfrac\pi4\Bigr)\sin\Bigl(0.37+\dfrac\pi2\Bigr)\sin\Bigl(0.37+\dfrac{3\pi}4\Bigr)$ で、計算機では $0.9958808$、左辺 $\sin1.48=0.9958808$ と一致する。$n=5$ でも $x=0.37$ で両辺は $0.9612752$ になる。

n=3 のとき、3 つの因子 sin x、sin(x+π/3)、sin(x+2π/3) の積の 4 倍(破線)が sin 3x(太い線)にぴったり重なり、0 になる点が π/3 ずつ並ぶ n=3 のとき、3 つの因子 sin x、sin(x+π/3)、sin(x+2π/3) の積の 4 倍(破線)が sin 3x(太い線)にぴったり重なり、0 になる点が π/3 ずつ並ぶ
図 1 で見ると、右辺の各因子 $\sin\bigl(x+\frac{k\pi}3\bigr)$ はそれぞれ $x=-\frac{k\pi}3+m\pi$($m$ は整数)で $0$ になり、3 つ合わせると $0$ になる点は $x=\frac{j\pi}3$($j$ は整数)のすべてである。これは $\sin3x$ が $0$ になる点とちょうど一致する。主定理 1 は、「$\sin nx$ の $0$ になる点は間隔 $\frac\pi n$ で並び、それを $n$ 個の正弦の因子に分けられる」と読める。

主定理 2:$\sin\frac{k\pi}n$ の積

主定理 1 で $k=0$ の因子 $\sin x$ だけを取り出して両辺を割り、$x\to0$ とする。

$\sin\frac{k\pi}{n}$ の積

$n\ge2$ のとき
$$ \sin\frac\pi n\,\sin\frac{2\pi}n\cdots\sin\frac{(n-1)\pi}n=\frac n{2^{n-1}} $$
である。

段 1(割る)。$0< x<\dfrac\pi n$ とすると $\sin x>0$ である。thm-pse-main の両辺を $\sin x$ で割ると
$$ \frac{\sin nx}{\sin x}=2^{n-1}\sin\Bigl(x+\frac\pi n\Bigr)\sin\Bigl(x+\frac{2\pi}n\Bigr)\cdots\sin\Bigl(x+\frac{(n-1)\pi}n\Bigr) $$
である。
段 2(左辺の極限)。左辺は
$$ \frac{\sin nx}{\sin x}=n\cdot\frac{\sin nx}{nx}\cdot\frac{x}{\sin x} $$
と書ける。$x\to+0$ のとき $nx\to0$ なので、sin x/xの極限 の定理「$\frac{\sin x}{x}$ の極限の値」から $\dfrac{\sin nx}{nx}\to1$、$\dfrac x{\sin x}\to1$ であり、左辺は $n$ に近づく。
段 3(右辺の極限)。$\sin$ は連続なので、$x\to+0$ のとき各因子 $\sin\bigl(x+\frac{k\pi}n\bigr)$ は $\sin\frac{k\pi}n$ に近づく。右辺は有限個の因子の積なので、$2^{n-1}\sin\frac\pi n\cdots\sin\frac{(n-1)\pi}n$ に近づく。
段 4。段 1 の等式は $0< x<\frac\pi n$ のすべての $x$ で成り立つので、両辺の極限も等しい。よって $n=2^{n-1}\prod_{k=1}^{n-1}\sin\frac{k\pi}n$ で、両辺を $2^{n-1}$ で割って主張を得る。$\square$

$z=1$ を代入する別証明を開く

lem-pse-factor の両辺を $z-1$ で割る。左辺は $z^n-1=(z-1)(z^{n-1}+z^{n-2}+\cdots+1)$ なので、$z\ne1$ では

$$z^{n-1}+z^{n-2}+\cdots+z+1=(z-\omega)(z-\omega^2)\cdots(z-\omega^{n-1})$$

である。両辺は多項式で、$z\ne1$ のすべての $z$ で一致するので(差は無限個の根をもつ多項式で $0$)、$z=1$ でも等しい。$z=1$ を代入すると $n=(1-\omega)(1-\omega^2)\cdots(1-\omega^{n-1})$ である。絶対値をとると、lem-pse-sine により $\lvert1-\omega^k\rvert=\lvert1-E(\frac{2k\pi}n)\rvert=2\sin\frac{k\pi}n$($0<\frac{k\pi}n<\pi$ で正)なので、$n=2^{n-1}\prod_{k=1}^{n-1}\sin\frac{k\pi}n$ を得る。この証明の図形の意味は 正多角形の頂点までの距離の積 で扱う。

単位円を 7 等分する点 1, ω, …, ω^6 と、点 1 から他の 6 点へ引いた弦で、弦の長さは 2 sin(kπ/7) になり、6 本の積は 7 になる 単位円を 7 等分する点 1, ω, …, ω^6 と、点 1 から他の 6 点へ引いた弦で、弦の長さは 2 sin(kπ/7) になり、6 本の積は 7 になる
図 2 は $n=7$ の場合で、点 $1$ から $\omega^k$ への弦の長さ $2\sin\frac{k\pi}7$ は $0.868$、$1.564$、$1.950$、$1.950$、$1.564$、$0.868$ である。6 本の積は $2^6\cdot\frac7{64}=7$ になる。

小さい $n$ での値
$n$$2$$3$$4$$5$$6$$7$$8$
$\prod_{k=1}^{n-1}\sin\frac{k\pi}n$$1$$\frac34$$\frac12$$\frac5{16}$$\frac3{16}$$\frac7{64}$$\frac1{16}$

たとえば $n=3$ では $\sin60^\circ\sin120^\circ=\dfrac{\sqrt3}2\cdot\dfrac{\sqrt3}2=\dfrac34$、$n=4$ では $\sin45^\circ\sin90^\circ\sin135^\circ=\dfrac{\sqrt2}2\cdot1\cdot\dfrac{\sqrt2}2=\dfrac12$ で、手で確かめられる。$n=5$ では $\sin\dfrac{3\pi}5=\sin\dfrac{2\pi}5$、$\sin\dfrac{4\pi}5=\sin\dfrac\pi5$ なので $\Bigl(\sin\dfrac\pi5\sin\dfrac{2\pi}5\Bigr)^2=\dfrac5{16}$ であり、正の平方根をとって $\sin\dfrac\pi5\sin\dfrac{2\pi}5=\dfrac{\sqrt5}4$ を得る。

余弦と正接の積

$n$ を奇数 $2m+1$ にとると、余弦の積と正接の積も求まる。

余弦と正接の積

$m\ge1$、$N=2m+1$ とする。
$$ \prod_{k=1}^{m}\sin\frac{k\pi}N=\frac{\sqrt N}{2^m},\qquad\prod_{k=1}^{m}\cos\frac{k\pi}N=\frac1{2^m},\qquad\prod_{k=1}^{m}\tan\frac{k\pi}N=\sqrt N $$
である。

段 1(正弦の積)。thm-pse-product を $n=N$ で使うと $\prod_{k=1}^{2m}\sin\frac{k\pi}N=\frac N{2^{2m}}$ である。$k$ と $N-k$ を組にすると $\sin\frac{(N-k)\pi}N=\sin\bigl(\pi-\frac{k\pi}N\bigr)=\sin\frac{k\pi}N$ なので、$k=m+1,\ldots,2m$ の因子は $k=1,\ldots,m$ の因子と同じ値になり、
$$ \Bigl(\prod_{k=1}^m\sin\frac{k\pi}N\Bigr)^2=\frac N{4^m} $$
である。各因子は正なので、正の平方根をとって $\prod_{k=1}^m\sin\frac{k\pi}N=\frac{\sqrt N}{2^m}$ である。
段 2(角を 2 倍にした正弦の積)。2 倍角の公式で
$$ \prod_{k=1}^m\sin\frac{2k\pi}N=\prod_{k=1}^m2\sin\frac{k\pi}N\cos\frac{k\pi}N=2^m\prod_{k=1}^m\sin\frac{k\pi}N\cdot\prod_{k=1}^m\cos\frac{k\pi}N $$
である。
段 3(並べかえ)。左辺の角 $\frac{2k\pi}N$($k=1,\ldots,m$)について、$2k\le m$ ならそのまま、$2k>m$ なら $\sin\frac{2k\pi}N=\sin\frac{(N-2k)\pi}N$ と書き直す。こうしてできる番号 $j=2k$ または $j=N-2k$ は、$1$ から $m$ までの整数をちょうど 1 回ずつとる。実際、$m$ 以下の偶数 $j$ は $k=\frac j2$ から、$m$ 以下の奇数 $j$ は $k=\frac{N-j}2$ から($N$ も $j$ も奇数なので $k$ は整数で、$\frac{m+1}2\le k\le m$ を満たす)ちょうど 1 つずつ出てくる。数は $m$ 個ずつで等しいので、
$$ \prod_{k=1}^m\sin\frac{2k\pi}N=\prod_{j=1}^m\sin\frac{j\pi}N $$
である。
段 4。段 2 と段 3 から $\prod_{j=1}^m\sin\frac{j\pi}N=2^m\prod_{k=1}^m\sin\frac{k\pi}N\cdot\prod_{k=1}^m\cos\frac{k\pi}N$ で、正弦の積は $0$ でないので割って $\prod_{k=1}^m\cos\frac{k\pi}N=\frac1{2^m}$ である。正接の積は正弦の積を余弦の積で割って $\frac{\sqrt N}{2^m}\cdot2^m=\sqrt N$ である。$\square$

余弦の積の例
  1. $m=2$($N=5$):$\cos\dfrac\pi5\cos\dfrac{2\pi}5=\dfrac14$、つまり $\cos36^\circ\cos72^\circ=\dfrac14$ で、余弦の積と倍角の公式 の例と同じ値である。正接は $\tan36^\circ\tan72^\circ=\sqrt5=2.2360680$ である。
  2. $m=3$($N=7$):$\cos\dfrac\pi7\cos\dfrac{2\pi}7\cos\dfrac{3\pi}7=\dfrac18$ である。$\cos\dfrac{3\pi}7=-\cos\dfrac{4\pi}7$ なので、これは 余弦の積と倍角の公式 の $\cos\dfrac\pi7\cos\dfrac{2\pi}7\cos\dfrac{4\pi}7=-\dfrac18$ と同じ等式である。
偶数 $2m$ で割った角の正弦の積を開く

thm-pse-product を $n=2m$ で使うと $\prod_{k=1}^{2m-1}\sin\frac{k\pi}{2m}=\frac{2m}{2^{2m-1}}$ である。真ん中の $k=m$ の因子は $\sin\frac\pi2=1$ で、残りは $k$ と $2m-k$ が同じ値の組になるので $\Bigl(\prod_{k=1}^{m-1}\sin\frac{k\pi}{2m}\Bigr)^2=\frac{2m}{2^{2m-1}}=\frac{m}{4^{m-1}}$、よって $\prod_{k=1}^{m-1}\sin\frac{k\pi}{2m}=\frac{\sqrt m}{2^{m-1}}$ である。$m=3$ では $\sin30^\circ\sin60^\circ=\frac{\sqrt3}4$ である。

余弦の積は、Chebyshev多項式 で扱う $\cos n\theta$ を $\cos\theta$ の多項式で表す見方からも出せる。この記事では正弦の積から導いた。

例と反例

thm-pse-main の「間隔 $\frac\pi n$ で $n$ 個」と、thm-pse-product の番号の範囲は、どれも外せない。

外す条件反例成り立たなくなること
角の間隔が $\frac\pi n$($n=2$ で間隔を $\frac{2\pi}5$ にする)$\sin\frac\pi5\sin\frac{3\pi}5$$2\sin x\sin(x+\text{間隔})=\sin2x$
角の間隔が $\frac\pi n$(間隔を $\frac{2\pi}n$ にする)$n=3$、$x=20^\circ$$4\sin x\sin(x+\frac{2\pi}3)\sin(x+\frac{4\pi}3)=\sin3x$(符号が逆になる)
番号は $1$ から $n-1$ まで($k=n$ も含める)$\prod_{k=1}^n\sin\frac{k\pi}n$積が $\frac n{2^{n-1}}$($\sin\pi=0$ で積は $0$)
反例の確認
  1. 間隔 $\dfrac{2\pi}5$ の 2 つの角:$\sin\dfrac\pi5\sin\dfrac{3\pi}5=0.5590170$ である。一方、主定理 1 の $n=2$ の形なら $\dfrac12\sin\dfrac{2\pi}5=0.4755283$ になるはずで、一致しない。$n=2$ の正しい間隔は $\dfrac\pi2$ である。
  2. 間隔 $\dfrac{2\pi}3$:$4\sin20^\circ\sin140^\circ\sin260^\circ=-0.8660254$ で、$\sin60^\circ=0.8660254$ の符号を変えた値になる。$\sin260^\circ<0$ だからである。間隔を $\dfrac{2\pi}n$ にすると、角は $x$ から $x+2\pi$ までを一周して並び、$\pi$ を越えた角の正弦が負になる。
  3. $k=n$ の因子 $\sin\pi=0$ を含めると、積はいつも $0$ である。

大学数学で見る

lem-pse-factor は、大学向けの 1の冪根 の命題「$x^n-1$ の 1 次式への分解」と同じ内容で、別証明で使った等式 $\prod_{k=1}^{n-1}(1-\omega^k)=n$ も同じ記事で $1$ の冪根の性質として扱われている。$1$ の冪根の全体は掛け算で閉じた集まり(群)をなし、$z^n-1$ はそれらを根とする 1 次式に分かれる。主定理 1 は、この分解を正弦の言葉に訳したものである。
主定理 2 の値 $\dfrac n{2^{n-1}}$ は、$n$ が大きくなると急に $0$ に近づく。$n-1$ 個の因子のうち、$k$ が $0$ や $n$ に近い因子は $0$ に近く、真ん中の因子は $1$ に近い。$n-1$ 個の因子の相乗平均は $\Bigl(\dfrac n{2^{n-1}}\Bigr)^{\frac1{n-1}}=\dfrac{n^{\frac1{n-1}}}2$ で、$n^{\frac1{n-1}}$ は $n=10$ で $1.292$、$n=100$ で $1.048$ と $1$ に近づいていくので、相乗平均は $\dfrac12$ に近い。

さらに先へ

  • 正多角形の頂点までの距離の積 では、$\lvert1-\omega^k\rvert=2\sin\frac{k\pi}n$ を「正 $n$ 角形の 1 つの頂点から他の頂点までの距離」と読み、主定理 2 を図形の等式として見直す。平面の任意の点から頂点までの距離の積も求める。
  • 角が $2$ 倍ずつ並ぶ余弦の積は 余弦の積と倍角の公式 で扱った。そこでの $\cos\frac\pi7\cos\frac{2\pi}7\cos\frac{4\pi}7=-\frac18$ は、ex-pse-cos (2) のとおりこの記事の系からも出る。

関連項目

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