コンパクト作用素

同義語:compact operatorコンパクト線形作用素

概要

コンパクト作用素(compact operator)とは、Banach 空間の間の有界線形作用素で、閉単位球の像の閉包がコンパクトになるもの、すなわち有界列の像が必ず収束部分列をもつものである。有限階作用素や連続な核をもつ積分作用素が典型例で、全体は作用素ノルムで閉じた両側イデアルをなし、作用素がコンパクトであることと双対作用素がコンパクトであることは同値である(Schauder の定理)。コンパクト作用素 $T$ と $\lambda\ne0$ について、$\lambda I-T$ は核が有限次元で単射と全射が同値になり、$0$ でないスペクトルは $0$ にしか集積しない固有値からなる(Riesz–Schauder の理論)。Hilbert 空間の自己共役なコンパクト作用素は、固有ベクトルの正規直交系による展開をもつ。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Banach空間, Hilbert空間, 全有界, 開写像定理

有限次元に近い作用素

有限次元の線形写像 $A\colon\mathbb C^n\to\mathbb C^n$ では、単射と全射は同値であり、$\lambda I-A$ が逆をもたない $\lambda$ は固有値だけで、高々 $n$ 個しかない。無限次元の Banach空間 ではどちらも崩れる。数列空間の右シフト $(x_1,x_2,\dots)\mapsto(0,x_1,x_2,\dots)$ は単射だが全射でない。
コンパクト作用素(compact operator)は、閉単位球を相対コンパクトな集合へ写す有界線形作用素である。連続な核をもつ積分作用素や、Sobolev 空間の包含(Rellichの定理)が典型例で、積分方程式と楕円型方程式の理論はこの性質の上に立つ。コンパクト作用素 $T$ と $\lambda\ne0$ について、$\lambda I-T$ には有限次元の性質がほぼそのまま戻ってくる。単射と全射は同値になり、固有空間は有限次元で、固有値は $0$ にしか集積しない(Riesz–Schauder の理論)。さらに Hilbert空間 の自己共役なコンパクト作用素は、対称行列と同じように、固有ベクトルの正規直交系による展開をもつ。
この記事では定義と例、作用素ノルムで閉じたイデアルであること、随伴との関係を述べ、Riesz–Schauder の理論と自己共役コンパクト作用素の固有展開を証明する。
以下 $\mathbb K=\mathbb R$ または $\mathbb C$ とし、$E,F,G$ は $\mathbb K$ 上の Banach 空間とする。$L(E,F)$ は有界線形作用素の全体に作用素ノルムを入れた空間、$B_E:=\{x\in E:\|x\|\le1\}$ は閉単位球、$\ker A$・$R(A)$ は核と像である。

定義と例

コンパクト作用素

$T\in L(E,F)$ がコンパクト作用素であるとは、$T(B_E)$ の閉包が $F$ でコンパクトであることをいう。全体を $K(E,F)$ と書き、$K(E):=K(E,E)$ とする。像 $R(T)$ が有限次元の $T\in L(E,F)$ を有限階作用素という。

$F$ は完備なので、$T(B_E)$ の閉包がコンパクトであることは、$T(B_E)$ が全有界であることと同値である(全有界 の記事の系「完備距離空間の中の全有界集合」)。全有界性は「どの点列も Cauchy 部分列をもつ」ことと同値なので(同記事の定理「Cauchy部分列による特徴づけ」)、$T$ がコンパクトであることは次と同値になる。

$E$ の任意の有界列 $(x_n)$ について、$(Tx_n)$ は $F$ で収束する部分列をもつ。
Fredholm作用素 の記事と Rellichの定理 の記事の定義はこの点列の形であり、同じ概念である。有限階作用素はコンパクトである(有限次元のノルム空間の有界集合は全有界)。

対角作用素

$1\le p\le\infty$ とし、有界な数列 $(\lambda_n)$ について $\ell^p$ 上の $Tx:=(\lambda_1x_1,\lambda_2x_2,\dots)$ を考える。$T$ がコンパクトであることと $\lambda_n\to0$ は同値である。

対角作用素の確かめ
証明を開く

$\lambda_n\to0$ なら、最初の $N$ 成分だけを残す有限階作用素 $T_N$ について $\|T-T_N\|\le\sup_{n>N}|\lambda_n|\to0$ であり、thm-cpt-ideal の 2 により $T$ はコンパクトである。逆に $\lambda_n\not\to0$ なら、$\delta>0$ と無限個の番号 $n_1< n_2<\cdots$ で $|\lambda_{n_k}|\ge\delta$ となるものがある。標準基底 $e_n$ について $k\ne l$ なら $\|Te_{n_k}-Te_{n_l}\|\ge\delta$ なので、有界列 $(e_{n_k})$ の像は収束する部分列をもたない。$\square$

連続な核の積分作用素と Volterra 作用素

$E=C([0,1])$($\mathbb K$ 値、最大値ノルム)とする。$k\colon[0,1]^2\to\mathbb K$ が連続なら
$$ (Tu)(x):=\int_0^1k(x,y)u(y)\,dy $$
はコンパクト作用素である。Volterra 作用素 $(Vu)(x):=\int_0^xu(y)\,dy$ もコンパクトである。ただし $V(B_E)$ は閉じていない。

積分作用素の確かめ
証明を開く

$\|u\|\le1$ なら $|Tu(x)|\le\max|k|$ であり、$|Tu(x)-Tu(x')|\le\max_y|k(x,y)-k(x',y)|$ は $k$ の一様連続性により $|x-x'|\to0$ で一様に $0$ へ行く。よって $T(B_E)$ は各点有界かつ同程度連続であり、Arzelà–Ascoliの定理 の記事の系「相対コンパクト性の判定」(複素数値なら実部と虚部の $\mathbb R^2$ 値として)により閉包はコンパクトである。$V$ については $|Vu(x)|\le1$、$|Vu(x)-Vu(x')|\le|x-x'|$ から同じ結論が出る。

$V(B_E)$ の元は $C^1$ 級である。一方 $g(x):=\tfrac12-|x-\tfrac12|$ を考え、$u_n$ を $[0,\tfrac12-\tfrac1n]$ で $1$、$[\tfrac12+\tfrac1n,1]$ で $-1$、その間で一次の連続関数とすると、$\|u_n\|\le1$ かつ $\|Vu_n-g\|\le\tfrac2n$ である。$g$ は $x=\tfrac12$ で微分可能でないので $V(B_E)$ に属さず、$V(B_E)$ は閉じていない。定義で閉包をとるのはこのためである。$\square$

無限次元の恒等作用素

$E$ が無限次元なら恒等作用素 $I$ はコンパクトでない。$I(B_E)=B_E$ は閉集合なので、これがコンパクトなら $E$ は有限次元になるからである(Fredholm作用素 の記事の補題「Rieszの補題」の 2)。

基本的な性質

閉じたイデアル

コンパクト作用素の全体は閉じたイデアル
  1. $K(E,F)$ は $L(E,F)$ の線形部分空間である。
  2. $K(E,F)$ は作用素ノルムで閉じている。特に、有限階作用素の作用素ノルムでの極限はコンパクトである。
  3. $S\in L(F,G)$、$T\in L(E,F)$ の一方がコンパクトなら、$ST$ はコンパクトである。

1:全有界集合 $A,B$ について、$A$ の $\varepsilon$-網と $B$ の $\varepsilon$-網の和の全体は $A+B$ の $2\varepsilon$-網なので、$A+B$ は全有界である。$(S+T)(B_E)\subset S(B_E)+T(B_E)$ と $(cT)(B_E)=c\,T(B_E)$ から従う。
2:$T_n\in K(E,F)$、$\|T_n-T\|\to0$ とする。$\varepsilon>0$ に対して $\|T_n-T\|<\varepsilon/2$ となる $n$ をとり、$T_n(B_E)$ の $\varepsilon/2$-網 $f_1,\dots,f_m$ をとる。$x\in B_E$ なら $\|T_nx-f_i\|<\varepsilon/2$ となる $i$ があり、$\|Tx-f_i\|<\varepsilon$ である。よって $T(B_E)$ は全有界で、$T$ はコンパクトである。
3:$T$ がコンパクトなら、$ST(B_E)\subset S\bigl(\overline{T(B_E)}\bigr)$ で、右辺はコンパクト集合の連続像なのでコンパクトである。$S$ がコンパクトなら、$T(B_E)\subset\|T\|B_F$ から $ST(B_E)\subset\|T\|\,S(B_F)$ で、右辺の閉包はコンパクトである。$\square$

2 の逆、つまりコンパクト作用素が有限階作用素のノルム極限であるかは、行き先が Hilbert 空間なら正しい。

Hilbert空間への作用素の有限階近似

$F$ が Hilbert 空間なら、$T\in L(E,F)$ がコンパクトであることと、有限階作用素 $T_n$ で $\|T_n-T\|\to0$ となるものがあることは同値である。

証明を開く

逆向きは thm-cpt-ideal の 2 である。$T$ がコンパクトとし、$\varepsilon>0$ について $T(B_E)$ の $\varepsilon$-網 $f_1,\dots,f_m$ をとる。$f_i$ の張る有限次元部分空間 $M$ への直交射影を $P$ とし(Hilbert空間 の記事の定理「直交射影と直交分解」)、有限階作用素 $T_\varepsilon:=PT$ を考える。$x\in B_E$ について $\|Tx-f_i\|<\varepsilon$ となる $i$ をとると、$Pf_i=f_i$ と $\|P\|\le1$ から $$ \|PTx-Tx\|\le\|P(Tx-f_i)\|+\|f_i-Tx\|<2\varepsilon . $$ よって $\|T_\varepsilon-T\|\le2\varepsilon$ である。$\square$

一般の Banach 空間ではこの同値は成り立たない。Enflo は、有限階作用素のノルム極限にならないコンパクト作用素の例を構成した(Bre11 Chapter 6 の Remark 1(pp. 157–158)に経緯と文献がある。この記事では証明しない)。

弱収束と随伴

$x_n$ が $x$ に弱収束するとは、すべての $\varphi\in E^*$ について $\varphi(x_n)\to\varphi(x)$ となることをいう。

弱収束する列をノルム収束する列へ写す

$T\in K(E,F)$ とする。$x_n$ が $x$ に弱収束するなら、$Tx_n\to Tx$(ノルム収束)である。逆に $E$ が反射的で、$T\in L(E,F)$ が弱収束する列をすべてノルム収束する列へ写すなら、$T$ はコンパクトである。

証明を開く

弱収束する列は有界である(Banach空間 の記事の定理「一様有界性原理」を $E\subset E^{**}$ の元の列に当てる)。$\psi\in F^*$ なら $\psi\circ T\in E^*$ なので、$Tx_n$ は $Tx$ に弱収束する。$Tx_n\not\to Tx$ なら、$\delta>0$ と部分列で $\|Tx_{n_k}-Tx\|\ge\delta$ となるものがあり、コンパクト性からさらに部分列をとって $Tx_{n_k}\to y$ とできる。ノルム収束は弱収束を導き、弱極限は一つしかない(Hahn–Banachの定理 により $F^*$ は $F$ の点を分ける)ので $y=Tx$ となり、矛盾する。

逆:$E$ が反射的なら、有界列は弱収束する部分列をもつ(反射的Banach空間 の記事の定理「有界列の弱収束部分列」)。その像はノルム収束するので、$T$ はコンパクトである。$\square$

$T\in L(E,F)$ の双対作用素 $T^*\colon F^*\to E^*$ を $T^*\psi:=\psi\circ T$ で定める(Hilbert 空間では 随伴作用素 と同一視できる)。

Schauderの定理

$T\in L(E,F)$ について、$T$ がコンパクトであることと $T^*$ がコンパクトであることは同値である。

証明を開く

$T$ がコンパクトとし、$\varepsilon>0$ について $T(B_E)$ の $\varepsilon$-網 $y_1,\dots,y_m$ をとる。写像 $\Phi\colon F^*\to\mathbb K^m$、$\psi\mapsto(\psi(y_1),\dots,\psi(y_m))$ による $B_{F^*}$ の像は有界なので全有界であり($\mathbb K^m$ には最大値ノルムを入れる)、$\psi_1,\dots,\psi_r\in B_{F^*}$ で、どの $\psi\in B_{F^*}$ にも $\max_i|\psi(y_i)-\psi_j(y_i)|<\varepsilon$ となる $j$ があるものがとれる。$x\in B_E$ について $\|Tx-y_i\|<\varepsilon$ となる $i$ をとると $$ |(T^*\psi-T^*\psi_j)(x)|\le|(\psi-\psi_j)(Tx-y_i)|+|(\psi-\psi_j)(y_i)|<2\varepsilon+\varepsilon . $$ よって $\|T^*\psi-T^*\psi_j\|\le3\varepsilon$ で、$T^*(B_{F^*})$ は全有界である。$E^*$ は完備なので $T^*$ はコンパクトである。

逆:$T^*$ がコンパクトなら、いま示したことから $T^{**}\colon E^{**}\to F^{**}$ もコンパクトである。標準の等長埋め込み $J_E\colon E\to E^{**}$、$J_F$ について $T^{**}J_E=J_FT$ が成り立つ($\psi\in F^*$ で両辺の値はともに $\psi(Tx)$)。$J_E(B_E)\subset B_{E^{**}}$ なので $J_F(T(B_E))$ は全有界であり、$J_F$ は等長だから $T(B_E)$ も全有界である。$\square$

Riesz–Schauder の理論

コンパクト作用素 $T$ と $\lambda\ne0$ について、$\lambda I-T$ は有限次元の線形写像のようにふるまう。道具は Fredholm作用素 の記事の補題「Rieszの補題」である:真の閉部分空間 $U\subsetneq V$ に対して、$\|x\|=1$ かつ $\operatorname{dist}(x,U)\ge1/2$ となる $x$ がとれる。

Riesz–Schauderの理論

$T\in K(E)$、$\lambda\in\mathbb K\setminus\{0\}$、$A:=\lambda I-T$ とする。

  1. $\ker A$ は有限次元である。
  2. $R(A)$ は閉じている。
  3. $A$ が単射であることと、$A$ が全射であることは同値である。
  4. 特に $A$ が単射なら、$A$ は有界な逆作用素をもつ。

1:$N:=\ker A$ の上では $x=\lambda^{-1}Tx$ なので、$B_N\subset\lambda^{-1}T(B_E)$ である。$B_N$ は閉集合だからコンパクトになり、Riesz の補題の 2 により $N$ は有限次元である。
2:$Ax_n=y_n\to y$ とする。$N$ は有限次元なので、$\|x_n-v_n\|=\operatorname{dist}(x_n,N)$ となる $v_n\in N$ がある。$z_n:=x_n-v_n$ とおくと $Az_n=y_n$ かつ $\operatorname{dist}(z_n,N)=\|z_n\|$ である。$(z_n)$ が有界でないとすると、部分列で $\|z_n\|\to\infty$ とし、$w_n:=z_n/\|z_n\|$ とおけば $Aw_n\to0$ である。部分列をとって $Tw_n$ が収束するようにすると、$\lambda w_n=Aw_n+Tw_n$ も収束し、極限 $w$ は $\|w\|=1$、$Aw=0$ を満たす。ところが $\operatorname{dist}(w_n,N)=1$ なので $\operatorname{dist}(w,N)=1$ となり、$w\in N$ に反する。よって $(z_n)$ は有界で、部分列で $Tz_n\to\ell$ とでき、$z_n=\lambda^{-1}(y_n+Tz_n)\to z:=\lambda^{-1}(y+\ell)$、$Az=y$ となる。
3(単射なら全射):$A$ が単射で $R(A)\ne E$ とする。$A^k=\lambda^kI-T_k$ と展開すると、$T_k$ は $T$ を因子に含む項の和なので thm-cpt-ideal によりコンパクトであり、2 により $E_k:=A^k(E)$ は閉じている。$E_{k+1}=E_k$ なら $A^k(A(E))=A^k(E)$ と $A^k$ の単射性から $A(E)=E$ となるので、$E_0\supsetneq E_1\supsetneq E_2\supsetneq\cdots$ である。Riesz の補題で $u_k\in E_k$、$\|u_k\|=1$、$\operatorname{dist}(u_k,E_{k+1})\ge1/2$ をとる。$m>k$ なら
$$ Tu_k-Tu_m=\lambda u_k-\bigl(Au_k+\lambda u_m-Au_m\bigr) $$
で、括弧の中は $E_{k+1}$ に属するから $\|Tu_k-Tu_m\|\ge|\lambda|/2$ である。$(Tu_k)$ が収束する部分列をもたないので、$T$ のコンパクト性に反する。
3(全射なら単射):$A$ が全射で $\ker A\ne0$ とする。$N_k:=\ker A^k$ は閉じた部分空間の増大列である。$0\ne x_1\in\ker A$ をとり、全射性で $Ax_{k+1}=x_k$ となる $x_k$ を順にとると、$A^{k-1}x_k=x_1\ne0$、$A^kx_k=0$ なので $N_{k-1}\subsetneq N_k$ である。Riesz の補題で $u_k\in N_k$、$\|u_k\|=1$、$\operatorname{dist}(u_k,N_{k-1})\ge1/2$ をとる。$T$ は $A$ と可換なので $T(N_m)\subset N_m$ であり、$k>m$ なら
$$ Tu_k-Tu_m=\lambda u_k-\bigl(Au_k+Tu_m\bigr),\qquad Au_k+Tu_m\in N_{k-1} $$
だから $\|Tu_k-Tu_m\|\ge|\lambda|/2$ となって、やはり矛盾する。
4:3 により $A$ は全単射であり、開写像定理 の記事の系「有界逆写像定理」により逆は有界である。$\square$

さらに $\dim\ker(\lambda I-T)=\dim\ker(\lambda I-T^*)$ が成り立ち、$\lambda I-T$ は指数 $0$ の Fredholm 作用素である(Bre11 Theorem 6.6(pp. 160–162)、複素の場合は同 §11.4(p. 366)。Hilbert 空間の随伴では $\bar\lambda I-T^*$ となり、Fredholm作用素 の記事の系「Fredholmの択一定理」で証明されている)。

スペクトル

$T\in L(E)$ について、$\lambda I-T$ が有界な逆をもたない $\lambda\in\mathbb K$ の全体をスペクトル $\sigma(T)$ という。$\ker(\lambda I-T)\ne0$ となる $\lambda$ が固有値である。

コンパクト作用素のスペクトル

$T\in K(E)$ とする。

  1. $\sigma(T)\setminus\{0\}$ は固有値からなり、各固有空間は有限次元である。
  2. 任意の $\delta>0$ について、$|\lambda|\ge\delta$ を満たす固有値は有限個しかない。したがって $\sigma(T)\setminus\{0\}$ は有限集合か、$0$ に収束する列である。
  3. $E$ が無限次元なら $0\in\sigma(T)$ である。

1 は thm-cpt-riesz-schauder の 1 と 4 である。
2:$|\lambda_n|\ge\delta$ を満たす相異なる固有値 $\lambda_1,\lambda_2,\dots$ が無限個あるとし、固有ベクトル $e_n$ をとる。相異なる固有値の固有ベクトルは一次独立なので(行列の場合と同じ帰納法)、$E_n:=\operatorname{span}(e_1,\dots,e_n)$ は真に増大する有限次元(したがって閉じた)部分空間の列である。$(T-\lambda_n I)E_n\subset E_{n-1}$ に注意する。Riesz の補題で $u_n\in E_n$、$\|u_n\|=1$、$\operatorname{dist}(u_n,E_{n-1})\ge1/2$ をとる。$m< n$ なら
$$ T\Bigl(\frac{u_n}{\lambda_n}\Bigr)-T\Bigl(\frac{u_m}{\lambda_m}\Bigr)=u_n-\Bigl(\frac{(\lambda_nI-T)u_n}{\lambda_n}+\frac{Tu_m}{\lambda_m}\Bigr) $$
で、括弧の中は $E_{n-1}$ に属するので、左辺のノルムは $1/2$ 以上である。$\|u_n/\lambda_n\|\le1/\delta$ は有界なので、$T$ のコンパクト性に反する。
3:$0\notin\sigma(T)$ なら $I=T\,T^{-1}$ は thm-cpt-ideal の 3 によりコンパクトで、ex-cpt-identity に反する。$\square$

ex-cpt-diagonal の対角作用素では $\sigma(T)$ は $\{\lambda_n\}$ の閉包であり、$0$ は固有値であってもなくてもよい。ex-cpt-integral の Volterra 作用素 $V$ は固有値をもたず、$\sigma(V)=\{0\}$ である(ex-cpt-counterexamples)。

自己共役コンパクト作用素の固有展開

ここでは $H$ を $\mathbb K$ 上の Hilbert 空間とし、$T\in L(H)$ は自己共役、すなわちすべての $x,y$ で $\langle Tx,y\rangle=\langle x,Ty\rangle$ とする。このとき $\langle Tx,x\rangle$ は実数で、固有値も実数である。

固有値 ±‖T‖ の存在

$T\ne0$ が自己共役なコンパクト作用素なら、$\|T\|$ と $-\|T\|$ の少なくとも一方は $T$ の固有値である。

$a:=\|T\|$ とし、$\|x_n\|=1$、$\|Tx_n\|\to a$ となる列をとる。$\langle T^2x_n,x_n\rangle=\|Tx_n\|^2$ と $\|T^2x_n\|\le a^2$ から
$$ \|T^2x_n-a^2x_n\|^2=\|T^2x_n\|^2-2a^2\|Tx_n\|^2+a^4\le2a^4-2a^2\|Tx_n\|^2\to0 . $$
$T^2$ はコンパクトなので、部分列で $T^2x_n\to y$ とでき、$a^2x_n\to y$ となる。$x:=y/a^2$ は $\|x\|=1$、$T^2x=a^2x$ を満たす。$z:=(T+aI)x$ とおくと $(T-aI)z=(T^2-a^2I)x=0$ である。$z\ne0$ なら $a$ が固有値で、$z=0$ なら $Tx=-ax$ で $-a$ が固有値である。$\square$

自己共役コンパクト作用素のスペクトル分解

$T$ を $H$ 上の自己共役なコンパクト作用素とする。$0$ でない固有値の固有空間は有限次元で互いに直交し、それらから選んだ正規直交基底を並べた高々可算な正規直交系 $(e_j)$($Te_j=\lambda_je_j$、$\lambda_j\in\mathbb R\setminus\{0\}$ は重複度だけ繰り返す)について次が成り立つ。

  1. $H=\ker T\oplus\overline{\operatorname{span}}\{e_j\}$(直交直和)である。
  2. すべての $x\in H$ について $Tx=\sum_j\lambda_j\langle x,e_j\rangle e_j$(ノルム収束)である。
  3. $(e_j)$ が無限個なら $\lambda_j\to0$ であり、$T_Nx:=\sum_{j\le N}\lambda_j\langle x,e_j\rangle e_j$ は $\|T-T_N\|\le\sup_{j>N}|\lambda_j|\to0$ を満たす。

固有空間の有限次元性と、$|\lambda|\ge\delta$ の固有値が有限個であること(よって $(e_j)$ が高々可算で、無限個なら $\lambda_j\to0$)は thm-cpt-spectrum による。異なる固有値の固有空間の直交性は スペクトル定理 の記事の命題「異なる固有値の固有空間は直交する」と同じ計算で、固有値 $0$ と $\lambda_j$ の間でも成り立つから $\ker T\perp e_j$ である。
$M:=\overline{\operatorname{span}}\{e_j\}$ とおく。$T(M)\subset M$ であり、$x\in M^\perp$、$v\in M$ なら $\langle Tx,v\rangle=\langle x,Tv\rangle=0$ なので $T(M^\perp)\subset M^\perp$ である。$M^\perp$ への制限 $T_0$ は自己共役なコンパクト作用素である($B_{M^\perp}\subset B_H$)。$T_0\ne0$ なら lem-cpt-norm-eigen により $T_0u=\mu u$、$\mu\ne0$、$u\in M^\perp\setminus\{0\}$ がとれるが、$u$ は $T$ の固有ベクトルだから $u\in M$ であり、$u\in M\cap M^\perp=0$ に反する。よって $T_0=0$、つまり $M^\perp\subset\ker T$ である。逆に $\ker T\perp M$ なので $\ker T\subset M^\perp$ で、$M^\perp=\ker T$ となり 1 が出る。
$x=x_0+\sum_j\langle x,e_j\rangle e_j$($x_0\in\ker T$。級数は Hilbert空間 の記事の定理「完全正規直交系の特徴づけとParsevalの等式」を $M$ に当てたもの)に有界作用素 $T$ を施せば 2 を得る。3 は $\|(T-T_N)x\|^2=\sum_{j>N}|\lambda_j|^2|\langle x,e_j\rangle|^2\le\sup_{j>N}|\lambda_j|^2\|x\|^2$ による。$\square$

$H$ が可分なら、$\ker T$ の正規直交基底と $(e_j)$ を合わせて $T$ の固有ベクトルからなる正規直交基底が得られる(Bre11 Theorem 6.11(pp. 167–168))。この定理は スペクトル定理 の記事の定理「コンパクト自己共役作用素のスペクトル定理」の証明を与える。固有値の 2 乗和で書けるノルムを考えると Hilbert–Schmidt作用素 になり、正の作用素の最大固有値については Krein–Rutmanの定理 がある。

仮定を外すと成り立たなくなること

外す条件反例成り立たなくなること
$T$ のコンパクト性(thm-cpt-riesz-schauder の 1)無限次元の $E$ で $T=I$、$\lambda=1$$\ker(\lambda I-T)=E$ は無限次元
$T$ のコンパクト性(同 3)$\ell^2$ の右シフト $S$ について $T=I+S$、$\lambda=1$$\lambda I-T=-S$ は単射だが全射でない
$\lambda\ne0$(同 3)$\ell^2$ 上の $Tx=(x_n/n)_n$、$\lambda=0$$-T$ は単射だが全射でない
自己共役性(thm-cpt-selfadjoint)$L^2(0,1)$ 上の Volterra 作用素 $V$$V\ne0$ なのに固有値が一つもなく、固有ベクトルで展開できない
反例の確かめ
確かめを開く

1 行目は ex-cpt-identity である。2 行目:$T=I+S$ は $Te_n=e_n+e_{n+1}$ で、$|n-m|\ge2$ なら $\|Te_n-Te_m\|=2$ なのでコンパクトでない。$S$ は等長なので単射で、$e_1$ は $S$ の像と直交するから全射でない。3 行目:$T$ は ex-cpt-diagonal によりコンパクトで単射だが、$(1/n)_n\in\ell^2$ の原像は $(1,1,\dots)\notin\ell^2$ となるので全射でない。

4 行目:$(Vu)(x)=\int_0^xu$ は核 $\mathbf 1_{\{y\le x\}}\in L^2((0,1)^2)$ をもつので Hilbert–Schmidt作用素 であり、コンパクトである(同記事の定理「積分作用素との一致」)。$Vu=\mu u$、$\mu\ne0$ なら $u=\mu^{-1}Vu$ は連続、さらに $C^1$ 級で $u'=u/\mu$、$u(0)=0$ を満たすから $u=0$ である。$Vu=0$ なら $u$ のすべての区間 $[0,x]$ 上の積分が $0$ なので、すべての区間上の積分が $0$ となり $u=0$(a.e.)である。よって固有値はなく、thm-cpt-spectrum から $\sigma(V)=\{0\}$ である。$\langle Vu,v\rangle=\int_0^1u(y)\overline{\int_y^1v}\,dy$ なので $V^*v(y)=\int_y^1v$ で、$V$ は自己共役でない。

4 行目では、自己共役でない作用素について $\sigma(V)=\{0\}$ でも $V\ne0$ である。自己共役なら lem-cpt-norm-eigen により、固有値をもたないコンパクト作用素は $0$ に限られる。

文献

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定義・閉じたイデアル・Schauder の定理・弱収束との関係は Bre11 §6.1(Definition と Theorem 6.1(p. 157)、Proposition 6.3・Theorem 6.4・Remark 2(p. 159))、Riesz–Schauder の理論とスペクトルは同 §6.2–6.3(Lemma 6.1・Theorem 6.5(p. 160)、Theorem 6.6(pp. 160–162)、Theorem 6.8・Lemma 6.2(pp. 164–165))、自己共役の場合は同 §6.4(Theorem 6.11、pp. 167–168)にある。Hilbert 空間への有限階近似は同 Remark 1(pp. 157–158)、対角作用素は同 Exercise 6.1(pp. 170–171)、Volterra 作用素の像が閉じないことは同 Exercise 6.2(p. 171)にある。Hilbert 空間に限った扱いは Axl26 §10C–10D(10.66–10.69(pp. 312–313)、10.73(p. 315)、10.85(p. 319)、10.93(p. 322)、10.99(p. 326)、10.106(p. 329))にある。thm-cpt-riesz-schauder の 3 の「全射なら単射」の証明は、Bre11 Theorem 6.6 の双対作用素による証明とは異なり、核の増大列による。lem-cpt-norm-eigen の証明は $T^2$ の近似固有ベクトルによる。

関連項目

参考文献

[1]
Haim Brezis, Functional Analysis, Sobolev Spaces and Partial Differential Equations, Universitext, Springer, 2011, Chapter 6:§6.1 Definition・Theorem 6.1・Corollary 6.2(p. 157)、Remark 1(pp. 157–158、Hilbert 空間への有限階近似と近似問題)、Proposition 6.3・Theorem 6.4・Remark 2(p. 159)、§6.2 Lemma 6.1・Theorem 6.5(p. 160)、Theorem 6.6(pp. 160–162)、§6.3 Theorem 6.8・Lemma 6.2(pp. 164–165)、§6.4 Theorem 6.11(pp. 167–168)、Exercises 6.1–6.2(pp. 170–171)。Theorem 3.18(p. 69、反射的空間の有界列の弱収束部分列)。§11.4(p. 366、複素の場合も第 6 章 6.1–6.2 節がそのまま成り立つこと)

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