球面三角形の半角公式(half-angle formulas for spherical triangles)とは、単位球面の上の球面三角形 $ABC$ の角の半分の正弦・余弦・正接を、3 辺 $a,b,c$ と半周長 $s=\frac{a+b+c}{2}$ で表す式 $\sin\frac A2=\sqrt{\frac{\sin(s-b)\sin(s-c)}{\sin b\sin c}}$、$\cos\frac A2=\sqrt{\frac{\sin s\sin(s-a)}{\sin b\sin c}}$ と、両者の比の正接の式である。平面の半角公式の辺を正弦に置き換えた形で、球面の余弦定理と和積の公式から導かれる。根号の中が正であることから三角不等式と $a+b+c<2\pi$ が従う。小さい三角形では平面の式に近づく。
前提知識: 球面三角法, 三角形の半角公式, 加法定理から積和・和積・合成・正接の公式を導く, 加法定理から2倍角・半角・3倍角の公式を導く
平面の三角形では、3 辺の長さから角の半分の三角比を直接求める式があった(三角形の半角公式)。たとえば $\sin\dfrac A2=\sqrt{\dfrac{(s-b)(s-c)}{bc}}$ で、$s$ は 3 辺の和の半分である。球面の上の三角形でも、同じような式があるだろうか。
以下、原点を中心とする半径 $1$ の球面(単位球面)の上の球面三角形 $ABC$ を考える。辺 $a,b,c$ は大円の弧の長さ(中心角)で、$0< a,b,c<\pi$ である。角 $A,B,C$ は $0$ と $\pi$ の間にある。辺と角の間には、球面三角法 の主定理である球面の余弦定理
$$
\cos a=\cos b\cos c+\sin b\sin c\cos A
$$
が成り立つ($b$ と $B$、$c$ と $C$ についても同じ形の式)。まず、この余弦定理と半角の公式を続けて使ってみる。
$a=90^\circ$、$b=c=60^\circ$ の球面三角形の角 $A$ を求める(図 1)。
(1) 球面の余弦定理から
$$
\cos A=\frac{\cos a-\cos b\cos c}{\sin b\sin c}=\frac{0-\frac12\cdot\frac12}{\frac{\sqrt3}2\cdot\frac{\sqrt3}2}=\frac{-\frac14}{\frac34}=-\frac13
$$
で、$A=109.47\ldots^\circ$ の鈍角である。
(2) 半角の公式 $\sin^2\dfrac\theta2=\dfrac{1-\cos\theta}2$、$\cos^2\dfrac\theta2=\dfrac{1+\cos\theta}2$(加法定理から2倍角・半角・3倍角の公式を導く)から
$$
\sin^2\frac A2=\frac{1+\frac13}2=\frac23,\qquad \cos^2\frac A2=\frac{1-\frac13}2=\frac13
$$
である。
(3) 3 辺の和の半分を $s=\dfrac{90^\circ+60^\circ+60^\circ}2=105^\circ$ とおくと、$s-a=15^\circ$、$s-b=s-c=45^\circ$ である。平面の式の辺を正弦に置き換えた
$$
\frac{\sin(s-b)\sin(s-c)}{\sin b\sin c}=\frac{\frac{\sqrt2}2\cdot\frac{\sqrt2}2}{\frac{\sqrt3}2\cdot\frac{\sqrt3}2}=\frac{\frac12}{\frac34}=\frac23
$$
を計算すると、(2) の $\sin^2\dfrac A2$ がそのまま現れる。また $\sin s\sin(s-a)=\sin105^\circ\sin15^\circ=\cos15^\circ\sin15^\circ=\dfrac12\sin30^\circ=\dfrac14$(2 倍角の公式)なので
$$
\frac{\sin s\sin(s-a)}{\sin b\sin c}=\frac{\frac14}{\frac34}=\frac13
$$
で、(2) の $\cos^2\dfrac A2$ が現れる。
単位球面の上の、辺が 90 度、60 度、60 度の球面三角形 ABC。A の角は約 109.47 度の鈍角で、B と C の角は約 54.74 度
北極 $A$ と、赤道の上で経度が $60^\circ$ 離れた 2 点 $B$、$C$ を頂点とする球面三角形では、$b=c=90^\circ$(北極から赤道まで)、$a=60^\circ$(赤道に沿う弧)である。角は $A=60^\circ$(経度の差)、$B=C=90^\circ$(経線は赤道に垂直)である。
$s=\dfrac{60^\circ+90^\circ+90^\circ}2=120^\circ$、$s-a=60^\circ$、$s-b=s-c=30^\circ$ である。
(1) 角 $A$:$\dfrac{\sin(s-b)\sin(s-c)}{\sin b\sin c}=\dfrac{\frac12\cdot\frac12}{1\cdot1}=\dfrac14$ で、$\sin^2\dfrac A2=\sin^230^\circ=\dfrac14$ と一致する。
(2) 角 $B$:$B$ をはさむ辺は $c$ と $a$ なので、(1) の $b,c$ の役を $c,a$ に替えて $\dfrac{\sin(s-c)\sin(s-a)}{\sin c\sin a}=\dfrac{\frac12\cdot\frac{\sqrt3}2}{1\cdot\frac{\sqrt3}2}=\dfrac12$ を計算すると、$\sin^2\dfrac B2=\sin^245^\circ=\dfrac12$ と一致する。
2 つの例では、平面の 三角形の半角公式 の $s-b$、$b$ などを $\sin(s-b)$、$\sin b$ に置き換えた式が、角の半分の三角比を与えている。この記事で答える問いは次の 3 つである。
| 平面の三角形 | 球面三角形(単位球面) |
|---|---|
| 辺の長さ $a$ | 辺の正弦 $\sin a$ |
| $s-a$ | $\sin(s-a)$ |
| $\sin\dfrac A2=\sqrt{\dfrac{(s-b)(s-c)}{bc}}$ | $\sin\dfrac A2=\sqrt{\dfrac{\sin(s-b)\sin(s-c)}{\sin b\sin c}}$ |
| 余弦定理 $a^2=b^2+c^2-2bc\cos A$ | 余弦定理 $\cos a=\cos b\cos c+\sin b\sin c\cos A$ |
| 分子の因数分解に使う式:2 乗の差 | 分子の因数分解に使う式:和積の公式 |
球面三角形 $ABC$ の 3 辺 $a,b,c$ の和の半分
$$
s=\frac{a+b+c}2
$$
を、球面三角形の 半周長 という。
平面の三角形では $s-a=\dfrac{b+c-a}2$ で、三角不等式 $b+c>a$ から $s-a>0$ だった。球面三角形でも同じ不等式が成り立つが、この記事では、それを先に仮定せず、主定理の式から導く(cor-sha-ineq)。いまは、$s-a$ などがとりうる範囲だけを確かめておく。$0< a,b,c<\pi$ なので
$$
0< s<\frac{3\pi}2,\qquad -\frac\pi2< s-a=\frac{b+c-a}2<\pi
$$
である($b+c-a$ は $0+0-\pi=-\pi$ より大きく、$\pi+\pi-0=2\pi$ より小さい)。$s-b$、$s-c$ も同じ範囲にある。
| 3 辺 $a,b,c$ | $s$ | $s-a$ | $s-b$ | $s-c$ |
|---|---|---|---|---|
| $90^\circ,60^\circ,60^\circ$ | $105^\circ$ | $15^\circ$ | $45^\circ$ | $45^\circ$ |
| $60^\circ,90^\circ,90^\circ$ | $120^\circ$ | $60^\circ$ | $30^\circ$ | $30^\circ$ |
| $90^\circ,90^\circ,90^\circ$ | $135^\circ$ | $45^\circ$ | $45^\circ$ | $45^\circ$ |
| $120^\circ,100^\circ,110^\circ$ | $165^\circ$ | $45^\circ$ | $65^\circ$ | $55^\circ$ |
3 行目は球面を座標平面で 8 等分した三角形(球面三角法 の最初の例)で、4 行目は 3 辺がどれも $90^\circ$ を超える大きな三角形である。どの行でも $s-a$、$s-b$、$s-c$ は正で、$s$ は $180^\circ$ より小さい。
単位球面の上の球面三角形 $ABC$ の半周長を $s$ とすると
$$
\sin\frac A2=\sqrt{\frac{\sin(s-b)\sin(s-c)}{\sin b\sin c}},\qquad
\cos\frac A2=\sqrt{\frac{\sin s\,\sin(s-a)}{\sin b\sin c}},\qquad
\tan\frac A2=\sqrt{\frac{\sin(s-b)\sin(s-c)}{\sin s\,\sin(s-a)}}
$$
が成り立つ。根号の中はどれも正である。角 $B$、$C$ についても、文字を $a\to b\to c\to a$、$A\to B\to C\to A$ と回した式が成り立つ。たとえば $\sin\dfrac C2=\sqrt{\dfrac{\sin(s-a)\sin(s-b)}{\sin a\sin b}}$ である。
方針:三角形の半角公式 と同じ筋で進む。半角の公式の右辺 $1-\cos A$、$1+\cos A$ に球面の余弦定理を代入する。平面では分子を 2 乗の差で因数分解したが、球面では加法定理と和積の公式で因数分解する。
段 1($\cos A$ を辺で書く)。$0< b,c<\pi$ なので $\sin b>0$、$\sin c>0$ である。球面の余弦定理(球面三角法 の主定理)を $\cos A$ について解くと
$$
\cos A=\frac{\cos a-\cos b\cos c}{\sin b\sin c}
$$
である。
段 2($1-\cos A$)。段 1 を代入して通分すると
$$
1-\cos A=\frac{\sin b\sin c-\cos a+\cos b\cos c}{\sin b\sin c}=\frac{\cos(b-c)-\cos a}{\sin b\sin c}
$$
である。ここで加法定理 $\cos(b-c)=\cos b\cos c+\sin b\sin c$ を使った。分子に和積の公式 $\cos X-\cos Y=-2\sin\dfrac{X+Y}2\sin\dfrac{X-Y}2$(加法定理から積和・和積・合成・正接の公式を導く)を $X=b-c$、$Y=a$ で使うと
$$
\cos(b-c)-\cos a=-2\sin\frac{a+b-c}2\sin\frac{b-c-a}2=2\underbrace{\sin\frac{a+b-c}2}_{\sin(s-c)}\,\underbrace{\sin\frac{a-b+c}2}_{\sin(s-b)}
$$
となる。2 つ目の等号では $\sin\dfrac{b-c-a}2=-\sin\dfrac{a-b+c}2$($\sin(-x)=-\sin x$)を使った。また $\dfrac{a+b-c}2=\dfrac{(a+b+c)-2c}2=s-c$、$\dfrac{a-b+c}2=s-b$ である。よって
$$
1-\cos A=\frac{2\sin(s-b)\sin(s-c)}{\sin b\sin c}
$$
である。
段 3($1+\cos A$)。同じように
$$
1+\cos A=\frac{\sin b\sin c+\cos a-\cos b\cos c}{\sin b\sin c}=\frac{\cos a-\cos(b+c)}{\sin b\sin c}
$$
である(加法定理 $\cos(b+c)=\cos b\cos c-\sin b\sin c$)。分子に和積の公式を $X=a$、$Y=b+c$ で使うと
$$
\cos a-\cos(b+c)=-2\sin\frac{a+b+c}2\sin\frac{a-b-c}2=2\underbrace{\sin\frac{a+b+c}2}_{\sin s}\,\underbrace{\sin\frac{b+c-a}2}_{\sin(s-a)}
$$
なので
$$
1+\cos A=\frac{2\sin s\,\sin(s-a)}{\sin b\sin c}
$$
である。
段 4(2 乗の式)。半角の公式 $\sin^2\dfrac A2=\dfrac{1-\cos A}2$、$\cos^2\dfrac A2=\dfrac{1+\cos A}2$ に段 2・段 3 を代入すると
$$
\sin^2\frac A2=\frac{\sin(s-b)\sin(s-c)}{\sin b\sin c},\qquad \cos^2\frac A2=\frac{\sin s\,\sin(s-a)}{\sin b\sin c}
$$
である。
段 5(符号)。$0< A<\pi$ なので $0<\dfrac A2<\dfrac\pi2$ で、$\sin\dfrac A2>0$、$\cos\dfrac A2>0$ である。したがって段 4 の左辺は正で、右辺(根号の中)も正である。正の数の正の平方根をとって、$\sin\dfrac A2$ と $\cos\dfrac A2$ の式を得る。
段 6(正接)。$\tan\dfrac A2=\dfrac{\sin\frac A2}{\cos\frac A2}$ に段 5 の式を代入すると、分母の $\sin b\sin c$ が約分されて
$$
\tan\frac A2=\sqrt{\frac{\sin(s-b)\sin(s-c)}{\cancel{\sin b\sin c}}\cdot\frac{\cancel{\sin b\sin c}}{\sin s\,\sin(s-a)}}=\sqrt{\frac{\sin(s-b)\sin(s-c)}{\sin s\,\sin(s-a)}}
$$
である。
角 $B$、$C$ についても、余弦定理を $\cos B=\dfrac{\cos b-\cos c\cos a}{\sin c\sin a}$、$\cos C=\dfrac{\cos c-\cos a\cos b}{\sin a\sin b}$ に替えて段 1〜6 を繰り返せばよい。$\square$
平面の証明(三角形の半角公式 の主定理の証明)との違いは、段 2・段 3 の因数分解だけである。平面では $a^2-(b-c)^2=(a-b+c)(a+b-c)$ と 2 乗の差で分けたが、球面では $\cos(b-c)-\cos a$ を和積の公式で分ける。その結果、平面の $s-b$ が $\sin(s-b)$ に替わる。段 5 で、根号の中が正であることは、三角不等式からではなく「角の半分が鋭角である」ことから出ている点にも注意する。
ex-sha-start の三角形($s=105^\circ$、$s-a=15^\circ$、$s-b=s-c=45^\circ$)で、3 つの角をすべて thm-sha-main で求める。
(1) 角 $A$。ex-sha-start (3) で $\sin^2\dfrac A2=\dfrac23$、$\cos^2\dfrac A2=\dfrac13$ を得たので、$\sin\dfrac A2=\dfrac{\sqrt6}3$、$\cos\dfrac A2=\dfrac{\sqrt3}3$、$\tan\dfrac A2=\sqrt2$ である。$\tan\dfrac A2$ は正接の式でも $\sqrt{\dfrac{\frac12}{\frac14}}=\sqrt2$ と求まる。$\dfrac A2=54.73\ldots^\circ$、$A=109.47\ldots^\circ$ である。
(2) 角 $B$。$B$ をはさむ辺は $c$ と $a$ なので
$$
\sin^2\frac B2=\frac{\sin(s-c)\sin(s-a)}{\sin c\sin a}=\frac{\sin45^\circ\sin15^\circ}{\frac{\sqrt3}2\cdot1}
$$
である。積和の公式から $\sin45^\circ\sin15^\circ=\dfrac12(\cos30^\circ-\cos60^\circ)=\dfrac{\sqrt3-1}4$ なので
$$
\sin^2\frac B2=\frac{\sqrt3-1}4\cdot\frac2{\sqrt3}=\frac{\sqrt3-1}{2\sqrt3}=\frac{3-\sqrt3}6=0.2113\ldots
$$
である。2 倍角の公式で元の角にもどすと
$$
\cos B=1-2\sin^2\frac B2=1-\frac{3-\sqrt3}3=\frac{\sqrt3}3
$$
で、余弦定理 $\cos B=\dfrac{\cos b-\cos c\cos a}{\sin c\sin a}=\dfrac{\frac12-\frac12\cdot0}{\frac{\sqrt3}2\cdot1}=\dfrac1{\sqrt3}$ と一致する。$B=54.73\ldots^\circ$ で、$b=c$ なので $C=B$ である。
(3) 内角の和は $109.47\ldots^\circ+2\times54.73\ldots^\circ=218.94\ldots^\circ$ で、$180^\circ$ より $38.94\ldots^\circ$ 大きい。
3 つの式を比べておく。
| 式 | 根号の中の分子 | 根号の中の分母 | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| $\sin\dfrac A2$ | $\sin(s-b)\sin(s-c)$ | $\sin b\sin c$ | $A$ をはさむ辺の側の差だけを使う |
| $\cos\dfrac A2$ | $\sin s\,\sin(s-a)$ | $\sin b\sin c$ | 2 倍角の公式で $\sin A$ にもどす |
| $\tan\dfrac A2$ | $\sin(s-b)\sin(s-c)$ | $\sin s\,\sin(s-a)$ | 角を求める。$\dfrac A2$ が $0$ と $\dfrac\pi2$ の間でただ 1 つに決まる |
| 余弦定理 → $\cos A$ | — | — | 角そのものの余弦がほしいとき |
主定理の根号の中が正であることから、球面三角形の 3 辺が満たす不等式が出る。
球面三角形 $ABC$ の半周長を $s$ とすると
$$
s-a>0,\qquad s-b>0,\qquad s-c>0,\qquad s<\pi
$$
である。つまり $a< b+c$、$b< c+a$、$c< a+b$(三角不等式)と、$a+b+c<2\pi$(周の長さは大円 1 周より短い)が成り立つ。
方針:thm-sha-main の根号の中が正であることから、$\sin(s-a)$ などの符号を決める。def-sha-s の後で確かめた範囲 $-\dfrac\pi2< s-a<\pi$、$0< s<\dfrac{3\pi}2$ を使う。
段 1(3 つの正弦は同じ符号)。thm-sha-main の $\sin\dfrac A2$、$\sin\dfrac B2$、$\sin\dfrac C2$ の式で、根号の中は正である。分母 $\sin b\sin c$ などは正なので、分子について
$$
\sin(s-b)\sin(s-c)>0,\qquad \sin(s-c)\sin(s-a)>0,\qquad \sin(s-a)\sin(s-b)>0
$$
である。2 つの数の積が正なら、2 つは $0$ でなく同じ符号である。よって $\sin(s-a)$、$\sin(s-b)$、$\sin(s-c)$ は 3 つとも正か、3 つとも負である。
段 2(3 つとも正)。3 つとも負だったとする。$-\dfrac\pi2< x<\pi$ の範囲で $\sin x<0$ となるのは $-\dfrac\pi2< x<0$ のときだけなので、$s-a<0$、$s-b<0$、$s-c<0$ である。3 つを足すと
$$
(s-a)+(s-b)+(s-c)=3s-(a+b+c)=3s-2s=s<0
$$
となり、$s>0$ に反する。よって 3 つの正弦は正である。$-\dfrac\pi2< x<\pi$ の範囲で $\sin x>0$ となるのは $0< x<\pi$ のときなので、$s-a>0$、$s-b>0$、$s-c>0$ である。
段 3($s<\pi$)。thm-sha-main の $\cos\dfrac A2$ の式の根号の中も正なので、$\sin s\,\sin(s-a)>0$ である。段 2 より $\sin(s-a)>0$ なので $\sin s>0$ である。$0< s<\dfrac{3\pi}2$ の範囲で $\sin s>0$ となるのは $0< s<\pi$ のときなので、$s<\pi$ である。$\square$
平面の 三角形の半角公式 では、三角不等式を使って根号の中が正であることを確かめた。球面では向きが逆で、根号の中が正であること(角の半分が鋭角であること)から三角不等式を導いた。球面三角形では、平面にない条件 $a+b+c<2\pi$ も加わる。ex-sha-s の表の 4 行目($330^\circ$)のように、3 辺がどれも $90^\circ$ を超えても、和が $360^\circ$ より小さければ球面三角形がある。
1 つの大円(赤道)の上に、経度 $0^\circ$、$120^\circ$、$240^\circ$ の 3 点をとると、2 点ずつの距離はどれも $120^\circ$ で、和は $360^\circ$ である。3 点は 1 つの大円の上にあるので、球面三角形ではない。
半角公式に入れてみると、$s=180^\circ$、$\sin s=0$ なので $\cos^2\dfrac A2=\dfrac{\sin s\,\sin(s-a)}{\sin b\sin c}=0$ となり、$\dfrac A2=90^\circ$、$A=180^\circ$ になる。角が $180^\circ$ とは、2 本の辺が 1 本の大円につながっていることを表す。cor-sha-ineq の $s<\pi$ は、この境目の手前にいることを言っている。
地球の上の 2 地点 $T$、$Y$ と北極 $N$ で球面三角形を作ると、$T$ での角は「$T$ から見て $Y$ がどの方角にあるか」(北から時計回りに測った角)を表す。3 辺は緯度・経度から求まるので、半角公式で角が求まる。
東京 $T$ を北緯 $35.68^\circ$・東経 $139.69^\circ$、シドニー $Y$ を南緯 $33.87^\circ$・東経 $151.21^\circ$ とし、地球を球とみなす。
(1) 3 辺。北極から $T$ までは $t_1=90^\circ-35.68^\circ=54.32^\circ$、北極から $Y$ までは $t_2=90^\circ+33.87^\circ=123.87^\circ$ である。$T$ と $Y$ の間の辺 $d$ は、球面三角法 の系「大円距離の公式」から
$$
\cos d=\sin35.68^\circ\sin(-33.87^\circ)+\cos35.68^\circ\cos33.87^\circ\cos11.52^\circ=0.3358\ldots
$$
で、$d=70.378\ldots^\circ$ である(経度の差は $151.21^\circ-139.69^\circ=11.52^\circ$)。
(2) 半周長。$T$ の向かいの辺は $t_2$ で、$T$ をはさむ辺は $t_1$ と $d$ である。
$$
s=\frac{54.32^\circ+123.87^\circ+70.38^\circ}2=124.28^\circ,\qquad s-t_2=0.41^\circ,\qquad s-t_1=69.96^\circ,\qquad s-d=53.91^\circ
$$
である(小数第 2 位までの値。計算は丸めない値で行った)。
(3) 正接の式。角 $T$ の正接の式は、分子に $T$ をはさむ辺の側の差、分母に $s$ と向かいの辺の差が来るので
$$
\tan\frac T2=\sqrt{\frac{\sin(s-t_1)\sin(s-d)}{\sin s\,\sin(s-t_2)}}=\sqrt{\frac{0.9394\ldots\times0.8080\ldots}{0.8262\ldots\times0.00723\ldots}}=11.27\ldots
$$
で、$\dfrac T2=84.93\ldots^\circ$、$T=169.86\ldots^\circ$ である。東京から見たシドニーは、北から時計回りに約 $170^\circ$、つまり真南から $10^\circ$ ほど東の方角にある(図 2)。
北極 N、東京 T、シドニー Y を結ぶ細長い球面三角形。T での角は約 169.86 度で、シドニーはほぼ真南にある
この三角形では $s-t_2=0.41^\circ$ がとても小さい。北極から東京を経てシドニーまで行く道のり $t_1+d=124.70^\circ$ が、辺 $t_2=123.87^\circ$ とほとんど同じで、三角形がつぶれかけているからである(cor-sha-ineq の三角不等式 $t_2< t_1+d$ の差が小さい)。
角 $T$ が $180^\circ$ に近いので、余弦定理で $\cos T=-0.984\ldots$ を出してから角を読むと、$\cos$ のグラフが平らなところで読むことになり、$\cos T$ の小さな誤差が角の大きな誤差になる。正接の式は $\tan\dfrac T2$ が大きく変わるところで読むので、角が決めやすい。平面の三角形での同じ注意は 三角形の半角公式 の「大学数学で見る」にある。
半径 $R$ の球面の上の三角形で、辺の長さ(弧の長さ)を $\alpha,\beta,\gamma$、その半分の和を $\sigma=\dfrac{\alpha+\beta+\gamma}2$ とすると、中心角は $\dfrac\alpha R,\dfrac\beta R,\dfrac\gamma R$ で、半周長は $\dfrac\sigma R$ である。半径 $R$ の球面を $\dfrac1R$ 倍に縮めて単位球面にしても角は変わらないので、thm-sha-main は
$$
\sin^2\frac A2=\frac{\sin\frac{\sigma-\beta}R\,\sin\frac{\sigma-\gamma}R}{\sin\frac\beta R\,\sin\frac\gamma R}
$$
となる。
辺の長さが半径 $R$ に比べて小さいとき、$x$ が $0$ に近いときの近似 $\sin x\approx x$(関数の近似とTaylor展開)を分子と分母の 4 つの正弦に使うと
$$
\sin^2\frac A2\approx\frac{\frac{\sigma-\beta}R\cdot\frac{\sigma-\gamma}R}{\frac\beta R\cdot\frac\gamma R}=\frac{(\sigma-\beta)(\sigma-\gamma)}{\beta\gamma}
$$
となる。$R$ が約分されて消え、平面の 三角形の半角公式 $\sin^2\dfrac A2=\dfrac{(s-b)(s-c)}{bc}$ と同じ形になる。$\cos\dfrac A2$、$\tan\dfrac A2$ の式も同じである。ここでは近似の形を示しただけで、誤差の大きさは評価しない。
平面では 3 辺 $7,5,8$ の三角形の角 $A$ は $60^\circ$ である(三角形の半角公式 の最初の例)。単位球面の上で辺が $7h,5h,8h$(ラジアン)の球面三角形の角 $A$ を、thm-sha-main で求める。
| $h$ | 辺(度に直した値) | 角 $A$ | $A-60^\circ$ |
|---|---|---|---|
| $0.15$ | $60.2^\circ,\ 43.0^\circ,\ 68.8^\circ$ | $68.54^\circ$ | $8.54^\circ$ |
| $0.1$ | $40.1^\circ,\ 28.6^\circ,\ 45.8^\circ$ | $63.51^\circ$ | $3.51^\circ$ |
| $0.05$ | $20.1^\circ,\ 14.3^\circ,\ 22.9^\circ$ | $60.84^\circ$ | $0.84^\circ$ |
| $0.01$ | $4.0^\circ,\ 2.9^\circ,\ 4.6^\circ$ | $60.033^\circ$ | $0.033^\circ$ |
| $0.001$ | $0.40^\circ,\ 0.29^\circ,\ 0.46^\circ$ | $60.00033^\circ$ | $0.00033^\circ$ |
$h$ を $\dfrac1{10}$ にすると、$60^\circ$ とのずれはおよそ $\dfrac1{100}$ になる(図 3)。このずれは、内角の和が $180^\circ$ を超える分(球過量)のおよそ $\dfrac13$ で、そのことは Legendreの球面三角形の定理 で扱う。
辺が 7h、5h、8h の球面三角形の角 A を h に対して描いたグラフ。h が 0 に近づくと、平面の三角形の角 60 度に近づく
thm-sha-main を使うときの誤りと、球面三角形にならない 3 つの数を並べる。
| 外す条件・誤り | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 辺の正弦を使う(平面の式をそのまま使わない) | 辺 $90^\circ,60^\circ,60^\circ$ に平面の式を使う | 角 $A$ が正しく求まる |
| 3 辺の和が $2\pi$ より小さい | 3 つの数 $150^\circ,150^\circ,150^\circ$ | 根号の中が正になる(三角形がある) |
| 三角不等式 $a< b+c$ | 3 つの数 $100^\circ,30^\circ,40^\circ$ | 根号の中が正になる(三角形がある) |
ex-sha-start の三角形で、辺をラジアンで $a=\dfrac\pi2$、$b=c=\dfrac\pi3$ として、平面の式 $\sin^2\dfrac A2=\dfrac{(s-b)(s-c)}{bc}$ をそのまま使う。$s=\dfrac{7\pi}{12}$、$s-b=s-c=\dfrac\pi4$ なので
$$
\sin^2\frac A2=\frac{\frac\pi4\cdot\frac\pi4}{\frac\pi3\cdot\frac\pi3}=\frac9{16},\qquad \sin\frac A2=\frac34
$$
で、$A=97.18\ldots^\circ$ となる。正しい値 $109.47\ldots^\circ$ より $12^\circ$ 以上小さい。平面の式は、ex-sha-small のように辺が小さいときの近似としてだけ使える。
$a=b=c=150^\circ$ とすると、$s=225^\circ$、$s-a=75^\circ$ である。$\sin s=-\dfrac{\sqrt2}2<0$、$\sin(s-a)>0$ なので
$$
\cos^2\frac A2=\frac{\sin225^\circ\sin75^\circ}{\sin^2150^\circ}=\frac{-0.7071\ldots\times0.9659\ldots}{0.25}=-2.73\ldots<0
$$
となり、$\cos\dfrac A2$ が実数として定まらない。余弦定理の式でも $\dfrac{\cos150^\circ-\cos^2150^\circ}{\sin^2150^\circ}=-6.46\ldots<-1$ で、余弦がこの値になる角はない。3 辺がどれも $150^\circ$ の球面三角形はない。三角不等式 $150^\circ<150^\circ+150^\circ$ は成り立っているので、cor-sha-ineq の条件 $s<\pi$ が三角不等式とは別の条件であることが分かる。
$a=100^\circ$、$b=30^\circ$、$c=40^\circ$ とすると、$s=85^\circ$、$s-a=-15^\circ$ で、$\sin(s-a)<0$ である。
$$
\cos^2\frac A2=\frac{\sin85^\circ\sin(-15^\circ)}{\sin30^\circ\sin40^\circ}=\frac{0.9961\ldots\times(-0.2588\ldots)}{0.5\times0.6427\ldots}=-0.80\ldots<0
$$
で、やはり角が定まらない。$100^\circ>30^\circ+40^\circ$ で、頂点 $A$ からの距離が $30^\circ$ の点と $40^\circ$ の点は、どう置いても $70^\circ$ より離れられないからである。
球面三角法 の「大学数学で見る」で扱った 極三角形 は、辺が $\pi-A$、$\pi-B$、$\pi-C$、角が $\pi-a$、$\pi-b$、$\pi-c$ の球面三角形である。極三角形に thm-sha-main を当てはめると、辺と角の役割が入れ替わった「辺の半角公式」が得られる。$S=\dfrac{A+B+C}2$ とおくと
$$
\sin\frac a2=\sqrt{\frac{-\cos S\,\cos(S-A)}{\sin B\sin C}},\qquad \cos\frac a2=\sqrt{\frac{\cos(S-B)\cos(S-C)}{\sin B\sin C}},\qquad \tan\frac a2=\sqrt{\frac{-\cos S\,\cos(S-A)}{\cos(S-B)\cos(S-C)}}
$$
である。3 つの角から辺が求まる。平面の三角形では 3 つの角から辺は決まらない(相似な三角形がいくらでもある)ので、これは球面だけの式である。Wei26 は正接の式を $\tan\dfrac a2=K\cos(S-A)$、$K^2=\dfrac{-\cos S}{\cos(S-A)\cos(S-B)\cos(S-C)}$ の形で載せている。
極三角形の辺を $a'=\pi-A$、$b'=\pi-B$、$c'=\pi-C$、角を $A'=\pi-a$ とする。半周長は $s'=\dfrac{3\pi-(A+B+C)}2=\dfrac{3\pi}2-S$ で、$s'-a'=\dfrac\pi2-(S-A)$ である。$\sin\left(\dfrac{3\pi}2-S\right)=-\cos S$、$\sin\left(\dfrac\pi2-x\right)=\cos x$、$\sin(\pi-x)=\sin x$ を使うと
$$\sin s'=-\cos S,\qquad \sin(s'-a')=\cos(S-A),\qquad \sin b'=\sin B,\qquad \sin c'=\sin C$$
である。また $\dfrac{A'}2=\dfrac\pi2-\dfrac a2$ なので $\sin\dfrac{A'}2=\cos\dfrac a2$、$\cos\dfrac{A'}2=\sin\dfrac a2$ である。これらを thm-sha-main の $\sin\dfrac{A'}2$、$\cos\dfrac{A'}2$ の式に代入すると、上の $\cos\dfrac a2$、$\sin\dfrac a2$ の式になる。
例:ex-sha-main の三角形では $A=109.47\ldots^\circ$、$B=C=54.73\ldots^\circ$ で、$A=2B$ なので $S=\dfrac{A+2B}2=A$ である。$\cos S=\cos A=-\dfrac13$、$\cos(S-A)=1$、$\cos(S-B)=\cos(S-C)=\cos B=\dfrac1{\sqrt3}$、$\sin B\sin C=1-\dfrac13=\dfrac23$ なので、$\sin^2\dfrac a2=\dfrac{\frac13\cdot1}{\frac23}=\dfrac12$ で $a=90^\circ$ となり、もとの辺と一致する。
平面では $\tan\dfrac A2=\dfrac r{s-a}$($r$ は内接円の半径)だった(三角形の半角公式 の命題「内接円の半径と半角の正接」)。thm-sha-main の正接の式は
$$
\tan\frac A2=\frac k{\sin(s-a)},\qquad k^2=\frac{\sin(s-a)\sin(s-b)\sin(s-c)}{\sin s}
$$
と書き直せる(右辺の 2 乗が $\dfrac{\sin(s-b)\sin(s-c)}{\sin s\,\sin(s-a)}$ になることは、代入すれば確かめられる。Wei26 の形)。平面の $r^2=\dfrac{(s-a)(s-b)(s-c)}s$ に当たる式で、$k$ は球面三角形の内接円の半径(弧の長さ)$r$ の正接 $\tan r$ に等しい(図 4)。
内接円の中心 $I$ から辺 $AB$ に下ろした垂線の足を $F$ とすると、球面三角形 $AFI$ は $F$ で直角で、$\angle IAF=\dfrac A2$、$AF=s-a$、$IF=r$ である(内接円があり、$I$ が角の二等分線の上にあり、$AF=s-a$ となることは平面と同じように示せるが、この記事では証明しない)。$F$ で直角の球面三角形では $\tan IF=\sin AF\,\tan\angle IAF$ が成り立つ(次の折りたたみ)ので、$\tan r=\sin(s-a)\tan\dfrac A2=k$ となる。ex-sha-main の三角形では $k^2=\dfrac{\sin15^\circ\cdot\frac12}{\sin105^\circ}=\dfrac12\tan15^\circ=\dfrac{2-\sqrt3}2$、$k=\dfrac{\sqrt3-1}2=0.366\ldots$ で、$r=20.10\ldots^\circ$ である。
球面三角形 $PQR$ が $R$ で直角で、$P$ の向かいの辺を $p$、$Q$ の向かいの辺を $q$、$R$ の向かいの辺を $h$ とする($p\ne\dfrac\pi2$ とする)。$R$ での余弦定理は $\cos R=0$ から $\cos h=\cos p\cos q$ である。正弦定理 $\dfrac{\sin P}{\sin p}=\dfrac{\sin R}{\sin h}=\dfrac1{\sin h}$ から $\sin P=\dfrac{\sin p}{\sin h}$ である。$P$ での余弦定理に $\cos h=\cos p\cos q$ を代入すると
$$\cos P=\frac{\cos p-\cos q\cos h}{\sin q\sin h}=\frac{\cos p-\cos p\cos^2q}{\sin q\sin h}=\frac{\cos p\sin^2q}{\sin q\sin h}=\frac{\cos p\sin q}{\sin h}$$
である。よって $\tan P=\dfrac{\sin P}{\cos P}=\dfrac{\sin p}{\cos p\sin q}=\dfrac{\tan p}{\sin q}$ で、$\tan p=\sin q\tan P$ となる。
辺が 90 度、60 度、60 度の球面三角形の内接円。A から接点 E、F までの弧はどちらも s−a=15 度で、中心 I から F への弧が半径 r になる
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