Lyapunovの安定性定理(Lyapunov stability theorem)とは、$C^1$ 級の自励系 $x'=f(x)$ の平衡点 $p$ の近傍で、$p$ で $0$、ほかで正の $C^1$ 級関数 $V$ が解に沿って増えない($\nabla V\cdot f\le0$)なら $p$ は安定であり、$p$ のほかで真に減るなら漸近安定であるという定理である。$V$ を Lyapunov 関数という。減少が止まる点があっても、そこにずっととどまる解が $p$ だけなら漸近安定である(Krasovskii–LaSalle の定理)。2 次形式の Lyapunov 関数を使うと、$p$ での線形化の行列の固有値の実部がすべて負なら $p$ は指数安定であり、実部が正の固有値があれば不安定であることが示せる。
振り子を少し揺らしても元の位置の近くにとどまるか、摩擦があれば静止の位置に戻っていくか。このような平衡点の安定性は、方程式を解かなくても判定できることが多い。Lyapunov の安定性定理 は、平衡点で最小値 $0$ をとり、解に沿って増えない関数(Lyapunov 関数)が見つかれば平衡点は安定であり、解に沿って真に減るなら漸近安定である、と述べる。力学のエネルギーの考え方を一般化したもので、この判定の方法を Lyapunov の 直接法(第 2 の方法)という。
この記事では、自励系の平衡点の安定性を定義し、Lyapunov の安定性定理と、Lyapunov 関数の減少が止まる場合も扱える Krasovskii–LaSalle の定理を証明する。次に、平衡点での線形化の行列の固有値の実部がすべて負なら平衡点は指数的に安定であり、実部が正の固有値があれば不安定であることを、2 次形式の Lyapunov 関数を作って証明する。最後に、どの仮定を外しても結論が崩れることを反例で確かめる。
この記事を通して、$U\subset\mathbb{R}^n$ を開集合、$f\colon U\to\mathbb{R}^n$ を $C^1$ 級の写像とし、自励系
$$
x'=f(x)
$$
を考える。$f$ は局所 Lipschitz 条件を満たすので、各 $x\in U$ について初期値 $x$ の最大解がただ 1 つあり(常微分方程式 の定理「最大解の存在と一意性」)、その時刻 $t$ での値を $\varphi(t,x)$ と書く。$\varphi$ の定義域は $\mathbb{R}\times U$ の開集合で、$\varphi$ はそこで連続である(初期値への滑らかな依存性 の定理「初期値への滑らかな依存性」)。$f(p)=0$ となる点 $p$ を 平衡点 という。$\lvert\cdot\rvert$ は Euclid ノルム、$B(p,r)$ は中心 $p$、半径 $r$ の開球、$\overline B(p,r)$ は閉球である。
$p\in U$ を平衡点とする。
指数安定なら漸近安定である。離散時間の力学系の不動点についての同じ言葉は 力学系 の定義「安定性」にある。吸引的でも安定とは限らない(ex-ly-attractive)ので、漸近安定の定義には安定性を別に課す。線形の系 $x'=Ax$ の原点が漸近安定であることと、$A$ の固有値の実部がすべて負であることが同値であることは、制御理論 の定理「線形な系の安定性」にある。
$x\mapsto Sx+p$($S$ は正則行列)で座標を替えても、ノルムが定数倍の範囲で比べられるので、安定・漸近安定・指数安定・不安定の区別は変わらない。そこで平衡点を原点に移して考えてよい。
$p$ を平衡点、$W\subset U$ を $p$ の開近傍とし、$V\colon W\to\mathbb{R}$ を $C^1$ 級の関数とする。
連鎖律から、解 $x(t)=\varphi(t,x_0)$ が $W$ にある間は
$$
\frac{d}{dt}V(x(t))=\nabla V(x(t))\cdot x'(t)=\dot V(x(t))
$$
である。したがって $\dot V\le0$ は「$V$ が解に沿って増えない」ことを意味し、解を求めなくても $f$ と $V$ だけで確かめられる。
$p$ を平衡点とする。
要点:$V$ は球面 $\lvert x-p\rvert=\varepsilon$ の上で正の最小値 $m$ をとる。$V< m$ となる小さな球から出た解は、$V$ が増えないので球面に届かない。狭義の場合は、$V$ の値が正の値にとどまると減り続けて矛盾する。
$V\colon W\to\mathbb{R}$ を Lyapunov 関数とし、$\overline B(p,r)\subset W$ となる $r>0$ をとる。
1:$0<\varepsilon\le r$ とする。球面 $S_\varepsilon:=\{\lvert x-p\rvert=\varepsilon\}$ はコンパクトで、その上で $V>0$ は連続なので、最小値 $m>0$ をとる。$V(p)=0$ と $V$ の連続性から、$\delta\in(0,\varepsilon)$ があって $B(p,\delta)$ の上で $V< m$ である。$\lvert x_0-p\rvert<\delta$ とし、$x(t):=\varphi(t,x_0)$ の正の側の最大存在区間を $[0,T_+)$ とする。$\lvert x(t)-p\rvert\ge\varepsilon$ となる $t$ があったとすると、連続性からそのような最初の時刻 $t_1>0$ があり、$\lvert x(t_1)-p\rvert=\varepsilon$ である。$[0,t_1]$ で $x(t)\in\overline B(p,\varepsilon)\subset W$ なので、$\frac{d}{dt}V(x(t))=\dot V(x(t))\le0$ から $V(x(t_1))\le V(x_0)< m$ となり、$x(t_1)\in S_\varepsilon$ に反する。よって $[0,T_+)$ の全体で $x(t)\in B(p,\varepsilon)$ であり、解はコンパクト集合 $\overline B(p,\varepsilon)$ にとどまるので、常微分方程式 の定理「爆発の二者択一」により $T_+=\infty$ である。
2:1 を $\varepsilon=r$ に使って得た $\delta$ をとり、$\lvert x_0-p\rvert<\delta$ とする。$h(t):=V(x(t))$ は $t\ge0$ で増えず $0$ 以上なので、極限 $L\ge0$ をもつ。$L>0$ と仮定する。$B(p,\eta)$ の上で $V< L$ となる $\eta\in(0,r)$ をとると、$h(t)\ge L$ なので $x(t)$ はコンパクト集合 $K:=\{\eta\le\lvert x-p\rvert\le r\}$ にとどまる。$K$ の上で $\dot V<0$ は連続なので、$c>0$ があって $K$ の上で $\dot V\le-c$ である。すると $h(t)\le h(0)-ct\to-\infty$ となり矛盾する。よって $L=0$ である。$x(t)\to p$ でないとすると、$\varepsilon'\in(0,r)$ と $t_k\to\infty$ があって $\varepsilon'\le\lvert x(t_k)-p\rvert\le r$ となる。$V$ のコンパクト集合 $\{\varepsilon'\le\lvert x-p\rvert\le r\}$ の上の最小値 $m'>0$ について $h(t_k)\ge m'$ となり、$h(t_k)\to0$ に反する。$\square$
1 は Tes12 Theorem 6.13(p. 201)にあり、そこでは $V$ を連続とし、解に沿って増えないことを直接仮定している。定理は Lyapunov 関数が存在するための条件を与えないので、使うには $V$ を見つける必要がある。力学の系ではエネルギーが、線形化できる系では次の節の 2 次形式が候補になる。
振り子に摩擦があると、エネルギーは $\dot V=-\gamma y^2$ の割合で減るが、速度 $y$ が $0$ になる瞬間には減らない。このように $\dot V$ が $0$ になる点が $p$ のほかにあっても、そこに解がずっととどまれないなら漸近安定である。
$V\colon W\to\mathbb{R}$ を平衡点 $p$ の Lyapunov 関数とする。$W$ にとどまり、すべての $s\ge0$ で $\dot V(y(s))=0$ を満たす解 $y\colon[0,\infty)\to W$ は定数 $y\equiv p$ だけであるとする。このとき $p$ は漸近安定である。
要点:$V(x(t))$ は単調で極限 $L$ をもつ。$x(t)$ が $p$ に近づかなければ、$p$ と異なる集積点 $q$ があり、$q$ から出る解に沿って $V$ はずっと $L$ に等しい。これは仮定に反する。
thm-ly-direct の 1 により $p$ は安定である。$\overline B(p,r)\subset W$ となる $r$ をとり、$\varepsilon=r/2$ に対する安定性の $\delta$ をとる。$\lvert x_0-p\rvert<\delta$ とし、$x(t):=\varphi(t,x_0)$ とおくと、すべての $t\ge0$ で $x(t)$ はコンパクト集合 $K:=\overline B(p,r/2)\subset W$ に入る。$h(t):=V(x(t))$ は増えないので極限 $L$ をもつ。
$x(t)\to p$ でないとすると、$\varepsilon'>0$ と $t_k\to\infty$ があって $\lvert x(t_k)-p\rvert\ge\varepsilon'$ となる。$K$ はコンパクトなので部分列をとって $x(t_k)\to q\in K$、$q\ne p$ としてよい。$q$ の正の側の最大存在区間を $[0,S_+)$ とし、$0\le s< S_+$ とする。$\varphi$ の定義域は開集合で $\varphi$ は連続なので、十分大きい $k$ で $\varphi(s,x(t_k))$ が定義されて $\varphi(s,q)$ に収束する。$\varphi(s,x(t_k))=x(t_k+s)\in K$ で $K$ は閉集合なので $\varphi(s,q)\in K$ であり、
$$V(\varphi(s,q))=\lim_{k\to\infty}h(t_k+s)=L$$
である。解が $[0,S_+)$ でコンパクト集合 $K$ にとどまるので、常微分方程式 の定理「爆発の二者択一」により $S_+=\infty$ である。よって $y(s):=\varphi(s,q)$ は $W$ にとどまる解で、$V(y(s))=L$ が一定だから $\dot V(y(s))=\frac{d}{ds}V(y(s))=0$ である。仮定から $y\equiv p$、とくに $q=y(0)=p$ となり矛盾する。$\square$
狭義の Lyapunov 関数なら $\dot V(y(s))=0$ は $y(s)=p$ を意味するので、thm-ly-direct の 2 はこの定理の特別な場合である。Tes12 Theorem 6.14(p. 202)は同じ結論を「$V$ が $W\setminus\{p\}$ に含まれるどの軌道の上でも一定でない」という仮定で述べている。
$\gamma\ge0$ とし、振り子の方程式 $x''+\gamma x'+\sin x=0$ を 1 階の系
$$
x'=y,\qquad y'=-\sin x-\gamma y
$$
に直す。原点は平衡点である。$W:=(-\pi,\pi)\times\mathbb{R}$ の上でエネルギー $V(x,y):=\frac12y^2+1-\cos x$ は原点で正定値であり、
$$
\dot V=\sin x\cdot y+y\,(-\sin x-\gamma y)=-\gamma y^2\le0
$$
である。よって thm-ly-direct の 1 により原点は安定である。
平衡点 $p$ での $f$ の Jacobi 行列 $A:=Df(p)$ を 線形化の行列 という。$f(x)=A(x-p)+o(\lvert x-p\rvert)$ なので、$p$ の近くでは $x'=f(x)$ は線形の系 $x'=A(x-p)$ で近似される。線形の系の安定性は $A$ の固有値で決まるが、非線形の項があっても、固有値の実部が $0$ でない限り同じ判定が成り立つ。これを示すには、線形の系の 2 次形式の Lyapunov 関数を作り、それが非線形の系でも使えることを確かめればよい。
$B$ を実の $n$ 次正方行列とし、$B$ の固有値の実部はすべて負であるとする。このとき
$$
P:=\int_0^\infty e^{sB^{\mathsf T}}e^{sB}\,ds
$$
は収束し、$P$ は正定値な対称行列で、$B^{\mathsf T}P+PB=-I$ を満たす。
制御理論 の定理「線形な系の安定性」により、$M\ge1$、$\sigma>0$ があって $s\ge0$ で $e^{sB}$ の各成分の絶対値は $Me^{-\sigma s}$ 以下であり、作用素ノルムについて $\|e^{sB}\|\le nMe^{-\sigma s}$ である。行列の指数関数 の命題「相似・転置・固有ベクトル」により $e^{sB^{\mathsf T}}=(e^{sB})^{\mathsf T}$ なので、被積分関数のノルムは $n^2M^2e^{-2\sigma s}$ 以下で、積分は絶対収束し、$P$ は対称である。$x\ne0$ なら $x^{\mathsf T}Px=\int_0^\infty\lvert e^{sB}x\rvert^2\,ds>0$(被積分関数は連続で $s=0$ で $\lvert x\rvert^2>0$)なので、$P$ は正定値である。$\frac{d}{ds}\bigl(e^{sB^{\mathsf T}}e^{sB}\bigr)=B^{\mathsf T}e^{sB^{\mathsf T}}e^{sB}+e^{sB^{\mathsf T}}e^{sB}B$ を $0$ から $S$ まで積分して $S\to\infty$ とすると、$e^{SB^{\mathsf T}}e^{SB}\to0$ なので $B^{\mathsf T}P+PB=0-I=-I$ である。$\square$
$p$ を平衡点、$A:=Df(p)$ とする。
要点:1 は lem-ly-equation の $P$ で $V(x)=x^{\mathsf T}Px$ とおくと $\dot V\le-\frac12\lvert x\rvert^2$ となる。2 は、固有値の実部が大きい部分と小さい部分に空間を分け、前者で正、後者で負になる 2 次形式 $V$ を作ると、$V>0$ の範囲で $V$ が指数関数的に増える。
$p=0$ としてよい。$g(x):=f(x)-Ax$ とおくと、$f$ は $0$ で全微分可能なので、任意の $\eta>0$ に対し $r>0$ があって $\overline B(0,r)\subset U$ かつ $\lvert x\rvert\le r$ で $\lvert g(x)\rvert\le\eta\lvert x\rvert$ である。
1:lem-ly-equation の $P$($B=A$)をとり、$P$ の最小の固有値を $\lambda>0$、$\Lambda:=\|P\|$ とおくと、$\lambda\lvert x\rvert^2\le V(x):=x^{\mathsf T}Px\le\Lambda\lvert x\rvert^2$ である。$\eta:=1/(4\Lambda)$ に対する $r$ をとると、$\lvert x\rvert\le r$ で
$$\dot V(x)=2x^{\mathsf T}Pf(x)=x^{\mathsf T}(PA+A^{\mathsf T}P)x+2x^{\mathsf T}Pg(x)\le-\lvert x\rvert^2+2\Lambda\eta\lvert x\rvert^2=-\tfrac12\lvert x\rvert^2\le-\frac{V(x)}{2\Lambda}$$
である。$\delta:=r\sqrt{\lambda/\Lambda}$、$\lvert x_0\rvert<\delta$ とすると $V(x_0)<\lambda r^2$ である。解 $x(t)$ が $\overline B(0,r)$ にある間は $V(x(t))$ は増えず、$V<\lambda r^2$ の点は $\lvert x\rvert< r$ を満たすので、解は球面 $\lvert x\rvert=r$ に届かず、常微分方程式 の定理「爆発の二者択一」によりすべての $t\ge0$ で定義される。$h(t):=V(x(t))$ は $h'\le-h/(2\Lambda)$ を満たすので $(e^{t/(2\Lambda)}h)'\le0$、すなわち $h(t)\le e^{-t/(2\Lambda)}h(0)$ であり、
$$\lvert x(t)\rvert\le\sqrt{h(t)/\lambda}\le\sqrt{\Lambda/\lambda}\;e^{-t/(4\Lambda)}\lvert x_0\rvert$$
である。
2:実部の最大値を $\alpha>0$ とし、$0< c<\alpha$ でどの固有値の実部とも等しくない $c$ をとる。$A$ の固有多項式を、実部が $c$ より大きい根の因子の積 $\chi_+$ と残りの積 $\chi_-$ に分ける。共役な根は実部が等しく重複度も等しいので、$\chi_\pm$ は実係数で、互いに素である。Bézout の等式 $a\chi_++b\chi_-=1$($a,b$ は実係数の多項式)と Cayley–Hamilton の定理 $\chi_+(A)\chi_-(A)=O$ から、$E_\pm:=\ker\chi_\pm(A)$ について $\mathbb{R}^n=E_+\oplus E_-$ である($x=a(A)\chi_+(A)x+b(A)\chi_-(A)x$ の第 1 項は $E_-$、第 2 項は $E_+$ に入り、$x\in E_+\cap E_-$ なら右辺は $0$)。$E_\pm$ は $A$ で不変で、$A$ を $E_\pm$ に制限した行列 $A_\pm$ の固有値 $\mu$ は $\chi_\pm(\mu)=0$ を満たす($Av=\mu v$ なら $\chi_\pm(\mu)v=\chi_\pm(A)v=0$)。実部が $\alpha$ の固有値の固有ベクトル $v\in\mathbb{C}^n$ は $\chi_+(A)v=0$ を満たすので $E_+\ne\{0\}$ である。$E_+$ と $E_-$ の基底を並べて座標を替え、$A=\operatorname{diag}(A_+,A_-)$、$x=(x_+,x_-)$ としてよい。
$-(A_+-cI)$ と $A_--cI$ の固有値の実部は負なので、lem-ly-equation により正定値な対称行列 $P_\pm$ で $(A_+-cI)^{\mathsf T}P_++P_+(A_+-cI)=I$、$(A_--cI)^{\mathsf T}P_-+P_-(A_--cI)=-I$ となるものがある。$Q:=\operatorname{diag}(P_+,-P_-)$、$V(x):=x^{\mathsf T}Qx=x_+^{\mathsf T}P_+x_+-x_-^{\mathsf T}P_-x_-$ とおくと
$$x^{\mathsf T}(QA+A^{\mathsf T}Q)x=x_+^{\mathsf T}(I+2cP_+)x_+-x_-^{\mathsf T}(-I+2cP_-)x_-=\lvert x\rvert^2+2cV(x)$$
である。$q:=\|Q\|$ とし、$\eta:=1/(4q)$ に対する $r$ をとると、$\lvert x\rvert\le r$ で $\dot V(x)=\lvert x\rvert^2+2cV(x)+2x^{\mathsf T}Qg(x)\ge\frac12\lvert x\rvert^2+2cV(x)$ であり、$V(x)>0$ の点では $V(x)\le q\lvert x\rvert^2$ から $\dot V(x)\ge V(x)/(2q)$ である。
$\varepsilon:=r$ について、どの $\delta>0$ も安定性の条件を満たさないことを示す。$v\in E_+$ を $0<\lvert v\rvert<\min(\delta,r)$ となるようにとり、$x_0:=(v,0)$ とおくと $V(x_0)=v^{\mathsf T}P_+v>0$ である。$x(t):=\varphi(t,x_0)$ が正の側の最大存在区間のすべてで $\lvert x(t)\rvert< r$ を満たすと仮定すると、常微分方程式 の定理「爆発の二者択一」により $x(t)$ はすべての $t\ge0$ で定義される。$h(t):=V(x(t))$ とし、$T':=\sup\{t\mid[0,t]\text{ で }h>0\}$ とおく。$[0,T')$ で $h'\ge h/(2q)$ なので $h(t)\ge h(0)e^{t/(2q)}$ である。$T'<\infty$ なら連続性から $h(T')\ge h(0)e^{T'/(2q)}>0$ となり、$T'$ の定義に反する。よって $T'=\infty$ で $h(t)\to\infty$ となるが、$\lvert x\rvert< r$ では $V\le qr^2$ なので矛盾する。したがって $\lvert x(t)\rvert\ge r$ となる時刻があり、$p$ は不安定である。$\square$
1 は Tes12 Theorem 6.10(p. 199)にあり、そこでは摂動された線形の系の解の評価から導かれている。2 は、平衡点が双曲型(実部が $0$ の固有値がない)の場合について Tes12 p. 260 が安定多様体の定理の帰結として述べている。上の証明は双曲型を仮定せず、2 次形式の Lyapunov 関数の考え方で直接示した。固有値の実部が $0$ のものがあり、ほかは実部が $0$ 以下のときは、線形化だけでは判定できない(ex-ly-center)。
$A:=\begin{pmatrix}-1&4\\0&-1\end{pmatrix}$ の固有値は $-1$(重複度 2)なので、$x'=Ax$ の原点は漸近安定である。ところが $V_0(x,y):=x^2+y^2$ の軌道微分は
$$
\dot V_0=2x(-x+4y)+2y(-y)=-2x^2+8xy-2y^2
$$
で、$(1,1)$ では $4>0$ になる。$V_0$ は Lyapunov 関数ではなく、解は一時的に原点から遠ざかる。lem-ly-equation の方程式 $A^{\mathsf T}P+PA=-I$ を $P=\begin{pmatrix}a&b\\b&c\end{pmatrix}$ について解くと、成分を比べて $-2a=-1$、$4a-2b=0$、$8b-2c=-1$ から
$$
P=\begin{pmatrix}1/2&1\\1&9/2\end{pmatrix}
$$
である。跡と行列式 $\frac94-1=\frac54$ が正なので $P$ は正定値で、$V(x,y):=\frac12x^2+2xy+\frac92y^2$ は $\dot V=-(x^2+y^2)$ を満たす狭義の Lyapunov 関数である。行列が同じでも、測り方(ノルム)を選び直すと、解が単調に減って見えるようになる。
$F\colon U\to\mathbb{R}$ を $C^2$ 級とし、勾配系 $x'=-\nabla F(x)$ を考える。平衡点は $F$ の臨界点である。$p$ が $F$ の狭義の極小点($p$ の近傍 $W$ で $x\ne p$ なら $F(x)>F(p)$)なら、$V:=F-F(p)$ は $p$ で正定値で、
$$
\dot V=\nabla F\cdot(-\nabla F)=-\lvert\nabla F\rvert^2\le0
$$
なので、thm-ly-direct の 1 により $p$ は安定である。さらに $W$ が $p$ のほかに臨界点を含まなければ $V$ は狭義の Lyapunov 関数で、$p$ は漸近安定である。たとえば $F(x,y)=x^2+y^4$ では原点の Hesse 行列は $\operatorname{diag}(2,0)$ で、線形化の行列 $\operatorname{diag}(-2,0)$ は実部 $0$ の固有値をもつので thm-ly-linearization は使えないが、原点は漸近安定である。
$\sigma\in\{1,-1\}$ について、平面の系
$$
x'=-y+\sigma x^3,\qquad y'=x+\sigma y^3
$$
を考える。どちらの場合も原点での線形化の行列は $\begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix}$ で、固有値は $\pm i$(実部 $0$)である。$V(x,y):=x^2+y^2$ とおくと
$$
\dot V=2x(-y+\sigma x^3)+2y(x+\sigma y^3)=2\sigma(x^4+y^4)
$$
である。
$U:=\mathbb{R}^2\setminus\{0\}$ の上で、極座標 $(r,\theta)$ で
$$
r'=r(1-r^2),\qquad\theta'=1-\cos\theta
$$
と書ける系を考える。$x=r\cos\theta$、$y=r\sin\theta$ で書き直すと
$$
x'=x(1-r^2)-y\Bigl(1-\frac xr\Bigr),\qquad y'=y(1-r^2)+x\Bigl(1-\frac xr\Bigr)\qquad(r=\sqrt{x^2+y^2})
$$
となり、右辺は $U$ で $C^1$ 級である。点 $p:=(1,0)$ は平衡点で、$p$ は吸引的だが安定でない。
$r$ と $\theta$ の方程式は分離していて、それぞれ 1 変数の自励系である。$r_0>0$ から出た $r(t)$ は、$1$ と $r_0$ の間にとどまりながら単調に $1$ に収束する($r'$ の符号は $1-r$ の符号)。$\theta_0\in[0,2\pi)$ から出た $\theta(t)$ は、$\theta_0=0$ なら $0$ のままで、$0<\theta_0<2\pi$ なら $\theta'>0$ で単調に増え、平衡点 $2\pi$ を越えないので収束し、極限は $1-\cos\theta=0$ の根 $2\pi$ である。よって $U$ のすべての点から出た解は $p$ に収束し、とくに $p$ は吸引的である。
一方、$\varepsilon:=1$ とし、任意の $\delta>0$ に対して $0<\theta_0<\delta$ をとり、$(\cos\theta_0,\sin\theta_0)$ から出た解を考える。$p$ からの距離は $\delta$ 未満で、$r\equiv1$ であり、$\theta(t)$ は連続に $\theta_0$ から $2\pi$ に近づくので、ある時刻で $\theta=\pi$、すなわち点 $(-1,0)$ を通る。そこでの $p$ からの距離は $2>\varepsilon$ なので、$p$ は安定でない。
$\mu\in\mathbb{R}$ について $x'=\mu x^3$($n=1$)を考える。線形化の行列は $0$ である。$x_0\ne0$ から出た解は $x(t)=x_0\bigl(1-2\mu x_0^2t\bigr)^{-1/2}$ である。$\mu<0$ なら $V=x^2$ は狭義の Lyapunov 関数で($\dot V=2\mu x^4$)、原点は漸近安定だが、$\lvert x(t)\rvert$ は $t\to\infty$ で $(2\lvert\mu\rvert t)^{-1/2}$ と同じ速さでしか減らないので指数安定ではない。$\mu>0$ なら解は時刻 $1/(2\mu x_0^2)$ で発散するので原点は不安定であり、$\mu=0$ なら安定である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $V$ の正定値性(thm-ly-direct の 1) | $x'=-x$、$y'=y$、$V=x^2$($\dot V=-2x^2\le0$、$V(0,y)=0$) | 原点の安定性 |
| $\dot V<0$(thm-ly-direct の 2) | $x'=y$、$y'=-x$、$V=x^2+y^2$($\dot V=0$) | 漸近安定性 |
| 固有値の実部が $0$ でないこと(thm-ly-linearization) | ex-ly-center($\sigma=\pm1$) | 線形化の行列だけによる判定 |
| 漸近安定の定義に安定性を課すこと(def-ly-stability) | ex-ly-attractive | 「吸引的なら安定」 |
1 行目:$V=x^2$ は $C^1$ 級で $V\ge0$、$V(0,0)=0$、$\dot V=2x\cdot(-x)=-2x^2\le0$ であり、正定値性だけが崩れている($y$ 軸の上で $V=0$)。解 $(0,y_0e^t)$ は $y_0\ne0$ がどれほど小さくても原点から離れていくので、原点は不安定である。
2 行目:$V$ は正定値で $\dot V=2xy-2yx=0\le0$ なので、thm-ly-direct の 1 により原点は安定である。解 $(r\cos t,-r\sin t)$ は半径 $r$ の円の上を回り、$r>0$ なら原点に近づかないので、漸近安定ではない。
3 行目:2 つの系は $f$ の 3 次の項だけが違い、線形化は同じ回転の行列(固有値 $\pm i$)だが、ex-ly-center のとおり一方は漸近安定、他方は不安定である。
4 行目:ex-ly-attractive の確かめのとおりである。
1 行目では $V$ は解に沿って増えないが、$V=0$ となる方向($y$ 軸)に沿って解が逃げていく。正定値性は、$V$ の値が小さい点が $p$ の小さな近傍に収まることを保証するために要る(prf-ly-direct の球面の上の最小値 $m>0$)。
平衡点の近くの解の振る舞いは、ほかの記事の定理とも結びつく。Hartman–Grobmanの定理 は、双曲型の平衡点の近くで流れが線形化の流れと位相共役であることを示し、軌道の形まで決める。平面の系で、正の向きの解がコンパクト集合にとどまり、その $\omega$ 極限集合が平衡点を含まない場合は、Poincaré–Bendixsonの定理 によりその $\omega$ 極限集合は周期軌道であり、周期軌道のまわりの線形化は Floquetの定理 の対象になる。この記事の定理は、平衡点という 1 点の安定性を、関数 $V$ の値の大小だけで判定する点に特徴がある。
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