遠アーベル幾何

同義語:遠アーベル幾何学anabelian geometry

概要

遠アーベル幾何(anabelian geometry)とは、数論的な体の上の代数多様体やスキームが、エタール基本群とその上の絶対 Galois 群の外部作用からどこまで復元できるかを問う、Grothendieck が構想した分野である。幾何学的基本群の中心が自明なら数論的基本群は外部 Galois 表現から復元され、この「アーベルから遠い」条件が予想の定式化に含まれる。最初の段階として、大域体の絶対 Galois 群では非 Archimedes 的素点と別の素点の分解群が自明にしか交わらず、絶対 Galois 群の中心は自明になる。代数体についての Neukirch–内田の定理、双曲的曲線についての玉川・望月の定理があり、切断予想は未解決である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: エタール基本群, 絶対Galois群, 無限次Galois理論, 付値, 分解群

遠アーベル幾何(anabelian geometry)は、数論的な体の上の代数多様体が、そのエタール基本群と絶対 Galois 群の作用からどこまで復元できるかを問う分野である。A. Grothendieck が 1983 年の G. Faltings への手紙と『Esquisse d'un Programme』で構想を述べた。「遠アーベル」(anabelian)は「アーベルから遠い」の意味で、群が十分に非可換であること、目安としては有限指数のどの部分群も中心が自明であることを指す(NSW20 第 XII 章の序、p. 785)。
位相幾何では、Eilenberg–MacLane 空間 $K(\pi,1)$ は基本群 $\pi$ から弱ホモトピー型が決まる(Eilenberg–MacLane空間)。遠アーベル幾何の考え方は、スキームでもエタール位相の意味で $K(\pi,1)$ であるものは、基本群が「遠アーベル」であり、スキーム自身が素体上有限生成(絶対的に有限生成)なら、基本群から本質的に復元されるはずだ、というものである。この世界の最も小さい構成要素は体のスペクトルで、そのエタール基本群は絶対 Galois 群である。
この記事の主定理(thm-anab-core と cor-anab-center)は、その最初の段階である。大域体の絶対 Galois 群では、相異なる素点の分解群は(一方が非 Archimedes 的なら)自明にしか交わらず、その結果、絶対 Galois 群の中心は自明になる。これを記事内で証明し、Neukirch–内田の定理、Grothendieck の予想とその解決(玉川、望月)、切断予想は、所在を示して述べる。

外部 Galois 作用

$k$ を体、$\bar k$ を代数閉包、$G_k:=\operatorname{Gal}(\bar k/k)$ とし、$X$ を $k$ 上準コンパクトで幾何学的に連結なスキームとする。幾何学的点 $\bar x$ を固定して
$$ \Delta_X:=\pi_1(X_{\bar k},\bar x),\qquad \Pi_X:=\pi_1(X,\bar x) $$
とおくと、位相群の完全列 $1\to\Delta_X\to\Pi_X\to G_k\to1$ がある(エタール基本群 の定理「基本完全列」)。$\Delta_X$ を幾何学的基本群、$\Pi_X$ を数論的基本群という。この完全列から、群論だけで次の二つが従う。

外部 Galois 表現

群の完全列 $1\to\Delta\to\Pi\xrightarrow{\ \varpi\ }G\to1$ について、$\sigma\in G$ に、$\varpi(\tilde\sigma)=\sigma$ となる $\tilde\sigma\in\Pi$ による共役 $\delta\mapsto\tilde\sigma\delta\tilde\sigma^{-1}$ の外部自己同型類を対応させる写像
$$ \rho\colon G\longrightarrow\operatorname{Out}(\Delta)=\operatorname{Aut}(\Delta)/\operatorname{Inn}(\Delta) $$
は well-defined な群準同型である。さらに $\Delta$ の中心が自明なら、$\Phi(\pi):=(\pi(-)\pi^{-1}|_\Delta,\ \varpi(\pi))$ で定まる $\Phi$ は群の同型
$$ \Pi\xrightarrow{\ \cong\ }\operatorname{Aut}(\Delta)\times_{\operatorname{Out}(\Delta)}G=\{(\alpha,\sigma)\mid[\alpha]=\rho(\sigma)\} $$
を与える。すなわち $\Pi$ は $\Delta$ と $\rho$ から復元される。

$\Delta$ は正規部分群なので、$\tilde\sigma$ による共役は $\Delta$ の自己同型である。$\varpi(\tilde\sigma)=\varpi(\tilde\sigma')$ なら $\tilde\sigma'=\delta\tilde\sigma$($\delta\in\Delta$)で、共役は内部自己同型 $\operatorname{Inn}(\delta)$ だけ違うので、外部類は $\tilde\sigma$ の選び方によらない。$\tilde\sigma\tilde\tau$ は $\sigma\tau$ の持ち上げで、その共役は共役の合成なので、$\rho$ は準同型である。
後半の写像 $\Phi$ は $\rho$ の定義により右辺に値をとり、準同型である。$\Phi(\pi)=(\mathrm{id},1)$ なら $\varpi(\pi)=1$ より $\pi\in\Delta$ で、$\pi$ の共役が $\Delta$ 上で恒等なので $\pi$ は $\Delta$ の中心に属し、$\pi=1$ である。$(\alpha,\sigma)$ を右辺の元とし、$\sigma$ の持ち上げ $\tilde\sigma$ をとると、$\alpha$ と $\tilde\sigma$ の共役は同じ外部類なので、ある $\delta\in\Delta$ で $\alpha=\operatorname{Inn}(\delta)\circ(\tilde\sigma\text{ の共役})$ となり、$\Phi(\delta\tilde\sigma)=(\alpha,\sigma)$ である。$\square$

$X$ に適用した $\rho_X\colon G_k\to\operatorname{Out}(\Delta_X)$ を $X$ の外部 Galois 表現という。幾何学的基本群の中心が自明であることは、数論的基本群が $\Delta_X$ と $\rho_X$ の組から決まるための十分条件であり、NSW20 p. 800 は Grothendieck の予想の定式化にこの条件が暗に含まれていると注意している。

Grothendieck の予想

$k$ 上の滑らかで幾何学的に連結な曲線 $X$ が双曲的であるとは、その滑らかな完備化 $C$ の種数を $g$、$C(\bar k)\setminus X(\bar k)$ の点の個数を $n$ として
$$ \chi(X):=2-2g-n<0 $$
となることをいう。種数 $2$ 以上の曲線はすべて双曲的である。
$k$ を $\mathbb Q$ 上有限生成な体とする。Grothendieck は、双曲的曲線などの「遠アーベル的」な $k$ 上のスキーム $X_1,X_2$ について、自然な写像
$$ \operatorname{Isom}_k(X_1,X_2)\longrightarrow\operatorname{Isom}_{G_k}(\Pi_{X_1},\Pi_{X_2})/\operatorname{Inn}(\Delta_{X_2}) $$
が全単射になると予想した。右辺は $G_k$ への射影と両立する同型を、$\Delta_{X_2}$ の元による内部自己同型を除いて考えたものである。支配的な射についての版、さらに固有な双曲的曲線 $X$ と有限次分離拡大 $K/k$ について、$k$ 上の射 $\operatorname{Spec}K\to X$ の集合から、$G_K\to\Pi_X$ で $G_k$ への射影と両立するものの $\operatorname{Inn}(\Delta_X)$ 類の集合への写像が全単射になるという切断予想もある(NSW20 (12.3.1)、p. 799)。$K=k$ の場合、$k$ 有理点 $x$ は、基点を $x$ の上の幾何学的点にとれば、関手性(エタール基本群 の命題「関手性」)により $x_*\colon G_k=\pi_1(\operatorname{Spec}k)\to\Pi_X$ を与え、構造射との合成は恒等写像なので、$\Pi_X\to G_k$ の切断になる。

対象結果所在
代数体絶対 Galois 群の外部同型は体の同型から一意に来る(Neukirch–内田の定理)NSW20 (12.2.1)–(12.2.2)、pp. 792–793
$\mathbb Q$ 上有限生成な体Neukirch–内田の定理の一般化(Pop)NSW20 p. 798、p. 800
有限体上のアフィン双曲的曲線スキームの同型と基本群の外部同型の全単射(玉川安騎男)NSW20 p. 801
$\mathbb Q$ 上有限生成な体の上の双曲的曲線上の予想の全単射(アフィンの場合は玉川、一般の場合は望月新一)NSW20 p. 802
劣 $p$ 進体の上の双曲的曲線支配的な射の版(望月新一)NSW20 p. 802
切断予想未解決(写像の単射性は知られている)NSW20 p. 802

これらはこの記事では証明しない。それ以前には、点を除いた射影直線の数論的基本群についての中村博昭の結果などの部分的な結果があった(NSW20 p. 801)。劣 $p$ 進体とは、$\mathbb Q_p$ の有限生成拡大の部分体のことである。
$p$ 進体は遠アーベル的ではない。$\operatorname{Aut}(\mathbb Q_p)$ は自明だが、$G_{\mathbb Q_p}$ には内部的でない自己同型があり、同型でない局所体が同型な絶対 Galois 群をもつこともある(NSW20 p. 798。この記事では証明しない)。有限体では、どの有限体の絶対 Galois 群も $\widehat{\mathbb Z}$ と同型である(絶対Galois群 の定理「有限体の絶対Galois群」)。

主定理:大域体の分解群と中心

記号と使う事実

体の絶対値は 付値 の定義「体の絶対値」の意味とし、自明な絶対値は除く。$k$ を大域体、$\bar k$ を分離閉包、$G_k=\operatorname{Gal}(\bar k/k)$ とする。$k$ の各素点 $v$ に代表の絶対値 $|\cdot|_v$ を一つ固定し、$\bar k$ の絶対値 $w$ で $w|_k=|\cdot|_v$ となるものを、$v$ の上の $\bar k$ の素点という。$v$ が非 Archimedes 的なら $w$ も非 Archimedes 的である。素点 $w$ の分解群を
$$ G_w:=\{\sigma\in G_k\mid w\circ\sigma=w\} $$
とする(Neu99 II (9.2)、p. 167。有限次の場合は 分解群 の定義「分解群」に一致する)。$\tau\in G_k$ について $G_{w\circ\tau}=\tau^{-1}G_w\tau$ である(同 p. 169)。次の事実を使い、この記事では証明しない。

  • (A) 近似定理:体 $K$ の互いに同値でない有限個の絶対値 $|\cdot|_1,\ldots,|\cdot|_n$、$a_1,\ldots,a_n\in K$、$\varepsilon>0$ について、すべての $i$ で $|x-a_i|_i<\varepsilon$ となる $x\in K$ がある(Neu99 II (3.4)、p. 117)。
  • (B) 共役性:$L/K$ を有限次または無限次の Galois 拡大とすると、$K$ の絶対値の $L$ への二つの延長 $w,w'$ について $w'=w\circ\tau$ となる $\tau\in\operatorname{Gal}(L/K)$ がある(同 II (9.1)、p. 167)。
  • (C) $G_w$ は $G_k$ の閉部分群である(同 p. 168)。閉部分群 $H$ の固定体を $K$ とすると $\operatorname{Gal}(\bar k/K)=H$ であり、$H$ の固定体は $K$ である(無限次Galois理論 の定理「無限次Galois理論の基本定理」)。

根の連続性

根の連続性

$L$ を体、$|\cdot|$ を $L$ の絶対値、$g=X^d+\sum_{j< d}b_jX^j\in L[X]$ を $L$ の中に相異なる根 $\gamma_1,\ldots,\gamma_d$ をもつ多項式、$\varepsilon>0$ とする。ある $\delta>0$ があって、$f=X^d+\sum_{j< d}a_jX^j\in L[X]$ が $L$ で一次式の積に分解し $\max_j|a_j-b_j|<\delta$ ならば、$f$ の根は相異なり、番号を付け直して $f=\prod_i(X-\beta_i)$、$|\beta_i-\gamma_i|<\varepsilon$ とできる。さらに $\varepsilon\le\frac12\min_{i\ne i'}|\gamma_i-\gamma_{i'}|$ なら、$\gamma_i$ から距離 $\varepsilon$ 未満にある $f$ の根は $\beta_i$ だけである。

要点:$|g(\beta)|=|g(\beta)-f(\beta)|$ が小さいので $\beta$ はある $\gamma_i$ に近く、個数を数えると一対一になる。

詳しい証明を開く

$\delta\le1$ とし、$B:=\max_j|b_j|$、$R:=\max(1,d(B+1))$ とおく。$f$ の根 $\beta$ が $|\beta|>1$ なら $|\beta|^d=|\sum_ja_j\beta^j|\le d(B+1)|\beta|^{d-1}$ なので $|\beta|\le R$ であり、同様に $|\gamma_i|\le R$ である。よって $|g(\beta)|=|\sum_j(b_j-a_j)\beta^j|\le d\delta R^d$、すなわち $\prod_i|\beta-\gamma_i|\le d\delta R^d$ で、ある $i$ について $|\beta-\gamma_i|\le\eta:=(d\delta R^d)^{1/d}$ である。同じ計算で各 $\gamma_i$ についても $|f(\gamma_i)|\le d\delta R^d$ から、ある根 $\beta$ が $|\beta-\gamma_i|\le\eta$ を満たす。$\rho:=\min_{i\ne i'}|\gamma_i-\gamma_{i'}|$($d=1$ なら $\rho:=\infty$)とし、$\eta<\min(\varepsilon,\rho/2)$ となるよう $\delta$ をとる。三角不等式により、半径 $\rho/2$ の球 $\{y\mid|y-\gamma_i|<\rho/2\}$ は互いに交わらないので、重複を込めた $d$ 個の根それぞれが入る球はただ一つであり、各球には少なくとも一つの根が入る。$d$ 個を $d$ 個の球に配って各球が空でないので、各球にちょうど一つずつ入り、根は相異なる。最後の主張は、$\beta_{i'}$($i'\ne i$)について $|\beta_{i'}-\gamma_i|\ge|\gamma_{i'}-\gamma_i|-|\beta_{i'}-\gamma_{i'}|>\rho-\varepsilon\ge\varepsilon$ による。$\square$

主定理

二つの絶対値を保つ Galois 群

$\bar k$ を分離閉体、$K\subset\bar k$ を部分体で $\bar k/K$ が Galois 拡大であるもの、$H:=\operatorname{Gal}(\bar k/K)$ とする。$w_1,w_2$ を $\bar k$ の絶対値で、$w_1$ は非 Archimedes 的、$K$ への制限はどちらも自明でなく互いに同値でないとし、すべての $\tau\in H$ について $w_1\circ\tau=w_1$、$w_2\circ\tau=w_2$ が成り立つとする。このとき $K=\bar k$ である。

$K\ne\bar k$ と仮定し、$\alpha\in\bar k\setminus K$ をとる。$\alpha$ の $K$ 上の最小多項式を $f_1$ とすると、$\bar k/K$ は Galois なので $f_1$ は $\bar k$ の中に相異なる根 $\alpha=\alpha_1,\alpha_2,\ldots,\alpha_d$($d\ge2$)をもつ。$K$ は自明でない絶対値をもつので無限体であり(有限体の絶対値は自明)、相異なる $x_1,\ldots,x_d\in K$ がとれる。$f_2:=\prod_j(X-x_j)$ とおく。$\rho_1:=\min_{i\ne i'}w_1(\alpha_i-\alpha_{i'})$、$\rho_2:=\min_{j\ne j'}w_2(x_j-x_{j'})$ とする。
$\delta>0$ を、lem-anab-roots を $(\bar k,w_1,g=f_1,\varepsilon=\rho_1/2)$ と $(\bar k,w_2,g=f_2,\varepsilon=\rho_2/2)$ に当てたときの $\delta$ の小さい方より小さくとる。判別式は係数の整数係数多項式なので、$\delta$ をさらに小さくとれば、係数が $w_2$ で $f_2$ の係数から $\delta$ 未満の距離にあるモニック多項式の判別式は $0$ でない($f_2$ の判別式は $0$ でない)。$w_1|_K$ と $w_2|_K$ は同値でないので、近似定理 (A) を係数ごとに当てて、$d$ 次のモニック多項式 $f\in K[X]$ で、係数が $w_1$ で $f_1$ の係数に、$w_2$ で $f_2$ の係数に、それぞれ $\delta$ 未満の距離にあるものがとれる。$f$ の判別式は $0$ でないので $f$ は分離的で、分離閉体 $\bar k$ の中で一次式の積に分解する。
第 1 段($w_2$ で根が $K$ に入ること)。lem-anab-roots により $f$ の根を $\beta_1,\ldots,\beta_d$、$w_2(\beta_j-x_j)<\rho_2/2$ と番号づけられる。$\tau\in H$ をとる。$f$ の係数は $K$ にあるので $\tau\beta_j$ も $f$ の根であり、$\tau x_j=x_j$ と $w_2\circ\tau=w_2$ から
$$ w_2(\tau\beta_j-x_j)=w_2\bigl(\tau(\beta_j-x_j)\bigr)=w_2(\beta_j-x_j)<\rho_2/2 $$
である。補題の最後の主張により $x_j$ から距離 $\rho_2/2$ 未満にある根は $\beta_j$ だけなので $\tau\beta_j=\beta_j$ である。$\tau$ は任意なので、(C) により $\beta_j\in K$ である。
第 2 段($w_1$ で $\alpha$ が $K$ に入ること)。補題により $f$ のある根 $\beta$ が $w_1(\beta-\alpha_1)<\rho_1/2$ を満たす。$\tau\in H$ について $\tau\alpha_1$ は $f_1$ の根なので $\tau\alpha_1=\alpha_i$ となる $i$ がある。第 1 段より $\tau\beta=\beta$ なので
$$ w_1(\alpha_i-\beta)=w_1\bigl(\tau(\alpha_1-\beta)\bigr)=w_1(\alpha_1-\beta)<\rho_1/2. $$
$i\ne1$ なら、$w_1$ が非 Archimedes 的であることから $w_1(\alpha_i-\alpha_1)\le\max\bigl(w_1(\alpha_i-\beta),w_1(\beta-\alpha_1)\bigr)<\rho_1/2$ となり、$\rho_1$ の定義に反する。よって $\tau\alpha=\alpha$ がすべての $\tau\in H$ で成り立ち、(C) により $\alpha\in K$ となって矛盾する。$\square$

第 2 段は Krasner の補題の議論そのものである。NSW20 (12.1.1)–(12.1.2)(pp. 786–787)は、同じ近似の議論を「$\bar k$ の真の部分体は、$\bar k$ で分解しない素点を高々一つしかもたない」という形で述べる。

分解群は自明にしか交わらない

$k$ を大域体、$w_1\ne w_2$ を $\bar k$ の素点とし、$w_1$ は非 Archimedes 的とする。このとき $G_{w_1}\cap G_{w_2}=1$ である。

$H:=G_{w_1}\cap G_{w_2}$ は (C) により閉部分群なので、固定体を $K$ とすると $\operatorname{Gal}(\bar k/K)=H$ で、$H$ は $w_1,w_2$ を保つ。$K\supset k$ で $w_i|_k$ は自明でないので、$w_i|_K$ も自明でない。$w_1|_K$ と $w_2|_K$ が同値だったとすると、$k$ への制限も同値なので $w_1,w_2$ は同じ素点 $v$ の上にあり、$w_1|_k=w_2|_k=|\cdot|_v$ である。同値な絶対値は一方が他方の正の実数乗なので(付値 の定理「絶対値が同値であるための条件」)、$w_2|_K=(w_1|_K)^s$ で、$k$ に制限して $s=1$、すなわち $w_1|_K=w_2|_K$ である。共役性 (B) により $w_2=w_1\circ\tau$ となる $\tau\in H$ があるが、$\tau\in G_{w_1}$ なので $w_2=w_1$ となり矛盾する。よって $w_1|_K$ と $w_2|_K$ は同値でなく、thm-anab-core により $K=\bar k$、すなわち $H=1$ である。$\square$

非 Archimedes 的素点の分解群は自明でない

$k$ を大域体、$w$ を $\bar k$ の非 Archimedes 的な素点とすると、$G_w\ne1$ である。

$w$ の下の素点 $v$ の正規化された離散付値を $\operatorname{ord}_v$ とし、$\operatorname{ord}_v(\pi)=1$ となる $\pi\in k$ をとる。$g:=X^2+\pi X+\pi$ は $v$ での完備化 $k_v$ 上の Eisenstein 多項式なので $k_v$ 上既約である(Eisenstein多項式 の定理「Eisenstein多項式が定める拡大」)。$g'=2X+\pi\ne0$ なので既約な $g$ は分離的であり、根 $\alpha\in\bar k$ について $M:=k(\alpha)$ は $k$ の 2 次 Galois 拡大である。$v$ の $M$ への延長は $g$ の $k_v$ 上の既約因子と一対一に対応する(Neu99 II (8.2)、p. 163)ので、延長は一つしかない。$\operatorname{Gal}(M/k)$ の非自明な元を $\tilde\sigma\in G_k$ に延ばす。$w\circ\tilde\sigma$ の $M$ への制限は $v$ の延長なので $w|_M$ に等しい。よって $w\circ\tilde\sigma$ と $w$ は $w|_M$ の $\bar k$ への延長で、(B) により $w\circ\tilde\sigma=w\circ\tau$ となる $\tau\in\operatorname{Gal}(\bar k/M)$ がある。$\tilde\sigma\tau^{-1}\in G_w$ であり、$M$ 上では $\tilde\sigma$ と同じく非自明なので、$G_w\ne1$ である。$\square$

大域体の絶対 Galois 群の中心は自明

大域体 $k$ の絶対 Galois 群 $G_k$ の中心は自明である。さらに $k$ の有限次分離拡大 $K$ について $G_K$ の中心も自明であり、$G_k$ は有限指数のどの開部分群も中心が自明という意味で遠アーベル的である。

$\sigma$ を $G_k$ の中心の元とする。$k$ の非 Archimedes 的な素点 $v$ をとり、$|\cdot|_v$ を $k_v$ の代数閉包の絶対値に一意に延ばし(Neu99 II (4.8)、p. 131)、$k$ 上の埋め込み $\bar k\to\overline{k_v}$ で引き戻して、$v$ の上の素点 $w$ を得る。$w\circ\sigma^{-1}$ も $v$ の上の素点で、$G_{w\circ\sigma^{-1}}=\sigma G_w\sigma^{-1}=G_w$ である。$w\circ\sigma^{-1}\ne w$ なら、cor-anab-decomposition により $G_w=G_w\cap G_{w\circ\sigma^{-1}}=1$ となり lem-anab-nontrivial に反する。よって $w\circ\sigma^{-1}=w$、すなわち $\sigma\in G_w$ である。大域体は無限個の非 Archimedes 的素点をもつので、相異なる素点 $v\ne v'$ の上の $w,w'$ について同じく $\sigma\in G_w\cap G_{w'}$ であり、cor-anab-decomposition により $\sigma=1$ である。有限次分離拡大 $K$ も大域体で、$\bar k$ は $K$ の分離閉包なので、$G_K$ にも同じ議論が当てはまる。開部分群は有限次分離拡大の絶対 Galois 群なので(絶対Galois群 の定理「有限次分離拡大と開部分群の対応」)、最後の主張が従う。$\square$

NSW20 (12.1.5)(p. 787)はより強く、有限次 Galois 拡大 $K/k$ について共役による $G_k\to\operatorname{Aut}(G_K)$ が単射であることを示す。中心が自明であることは、Neukirch–内田の定理から $\operatorname{Aut}(G_{\mathbb Q})$ がすべて内部自己同型で、共役による $G_{\mathbb Q}\to\operatorname{Aut}(G_{\mathbb Q})$ が同型であること(NSW20 (12.2.3)、p. 793)を導くときに使われる。

条件を外したときの反例

外す条件反例成り立たなくなること
$k$ が大域体であること(cor-anab-center)有限体 $\mathbb F_q$$G_{\mathbb F_q}\cong\widehat{\mathbb Z}$ は可換で、中心は全体
$K$ への $w_1,w_2$ の制限が同値でないこと(thm-anab-core)$w_1=w_2=w$(非 Archimedes 的)、$K$ を $G_w$ の固定体$K\ne\bar k$
曲線が双曲的であること(幾何学的基本群の中心が自明)標数 $0$ の体の上の乗法群 $\mathbb G_m$($g=0$、$n=2$、$\chi=0$)$\Delta_{\mathbb G_m}\cong\widehat{\mathbb Z}$ は可換で中心が全体になり、prop-anab-outer の $\Phi$ は同型でない
表の各行の確かめ

1 行目:絶対Galois群 の定理「有限体の絶対Galois群」による。2 行目:$H=G_w$ は $w$ を保ち、lem-anab-nontrivial により $G_w\ne1$ なので、(C) により固定体 $K$ は $\bar k$ でない。仮定のうち破れているのは、$K$ への $w_1,w_2$ の制限が同値でないことだけである。3 行目:エタール基本群 の命題「標数0の乗法群のエタール基本群」により $\pi_1(\mathbb G_{m,\bar k})\cong\widehat{\mathbb Z}$ である。$\Delta$ が可換なので $\operatorname{Inn}(\Delta)=1$、$\operatorname{Out}(\Delta)=\operatorname{Aut}(\Delta)$ で、$\operatorname{Aut}(\Delta)\times_{\operatorname{Out}(\Delta)}G_k=\{(\rho(\sigma),\sigma)\}\cong G_k$ となり、$\Phi$ は $\varpi$ と同じになって核 $\Delta\ne1$ をもつ。

関連項目

参考文献

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