恒等式は、変数にどんな値を代入しても成り立つ等式である。実数を係数とする多項式では、零多項式でない次数 $n$ の多項式の相異なる根は高々 $n$ 個なので、次数 $n$ 以下の 2 つの多項式の値が相異なる $n+1$ 個の点で一致すれば、係数はすべて等しい(多項式の一致の定理)。これが未定係数法の 2 つのやり方、係数比較法と数値代入法の根拠であり、両辺が次数 $n$ 以下の多項式なら、$n+1$ 個の値を代入して得た係数は確認なしに恒等式を与える。$n+1$ 個の点での値を指定した次数 $n$ 以下の多項式は、Lagrange の補間公式でただ 1 つ作れる。$6$ で割った余りの世界のように「積が $0$ なら一方が $0$」が成り立たない係数では、根の個数の上限が崩れる。
前提知識: 多項式, 展開と因数分解, 連立1次方程式, 数学的帰納法
等式には 2 種類ある。$x$ にどんな実数を入れても成り立つ等式を 恒等式 といい、特定の $x$ でだけ成り立つ等式を 方程式 という(多項式の恒等式は、後で def-iuc-identity で正確に定める)。
高校では、恒等式に含まれる未知の係数を決める方法を 2 つ習う。係数比較法 と 数値代入法 である。係数を文字でおいて決めるこのやり方を 未定係数法 という。同じ問題を 2 通りで解いてみる。
$x^2+3x+5=a(x-1)^2+b(x-1)+c$ が $x$ についての恒等式になるように、定数 $a,b,c$ を定める。
右辺を展開すると
$$
a(x^2-2x+1)+b(x-1)+c=ax^2+(-2a+b)x+(a-b+c)
$$
である。両辺の $x^2$、$x$、定数項の係数を比べると
$$
a=1,\qquad -2a+b=3,\qquad a-b+c=5
$$
である。1 つ目から $a=1$、2 つ目から $b=3+2a=5$、3 つ目から $c=5-a+b=9$ となる。
同じ恒等式 $x^2+3x+5=a(x-1)^2+b(x-1)+c$ で、$x$ に数を入れる。
2 つの例から、次の問いが出てくる。
| 高校の計算 | 大学の見方 | ボックス |
|---|---|---|
| 因数定理 | $x-a$ で割り切れる | lem-iuc-factor |
| $n$ 次方程式の解は高々 $n$ 個 | 根の個数の定理 | thm-iuc-root-count |
| 係数比較法 | 多項式としての等しさ=関数としての等しさ | thm-iuc-identity |
| 数値代入法(逆の確認) | $n+1$ 点での一致で十分 | cor-iuc-substitution |
| 点を通る 2 次関数を求める | Lagrange の補間公式 | prop-iuc-lagrange |
実数 $c_0,c_1,\dots,c_n$ を使って
$$
P(x)=c_nx^n+c_{n-1}x^{n-1}+\cdots+c_1x+c_0
$$
と書ける式を、実数を係数とする $x$ の 多項式 という。$c_k$ を $x^k$ の 係数 という。係数がすべて $0$ の多項式を 零多項式 といい、$0$ と書く。零多項式でない多項式で、$0$ でない係数をもつ最大の $k$ をその 次数 という。$P(a)=0$ となる実数 $a$ を $P$ の 根(方程式 $P(x)=0$ の実数解)という。
「次数が $n$ 以下」には、零多項式も含めることにする。
2 つの多項式 $P$、$Q$ について、すべての実数 $x$ で $P(x)=Q(x)$ が成り立つとき、等式 $P(x)=Q(x)$ を 恒等式 という。
多項式が「等しい」には、2 つの意味がある。
$P$ を次数 $n\ge1$ の多項式、$a$ を実数とする。$P(a)=0$ ならば、次数 $n-1$ の多項式 $Q$ があって、すべての実数 $x$ で
$$
P(x)=(x-a)Q(x)
$$
が成り立つ。
方針:$P(x)=P(x)-P(a)$ と書き、各項 $x^k-a^k$ が $x-a$ でくくれることを使う。
段 1($x^k-a^k$ の因数分解)。$k\ge1$ について
$$
x^k-a^k=(x-a)\bigl(x^{k-1}+x^{k-2}a+\cdots+xa^{k-2}+a^{k-1}\bigr)
$$
が成り立つ。右辺を展開すると、$x$ を掛けた項 $x^k+x^{k-1}a+\cdots+xa^{k-1}$ と、$-a$ を掛けた項 $-x^{k-1}a-\cdots-xa^{k-1}-a^k$ が現れ、真ん中の項が打ち消し合って $x^k-a^k$ だけが残るからである。右側のかっこの中は、$x^{k-1}$ の係数が $1$ の次数 $k-1$ の多項式である。
段 2(くくり出す)。$P(x)=c_nx^n+\cdots+c_1x+c_0$ とする。$P(a)=0$ なので
$$
P(x)=P(x)-P(a)=c_n(x^n-a^n)+c_{n-1}(x^{n-1}-a^{n-1})+\cdots+c_1(x-a)
$$
である(定数項 $c_0$ は打ち消し合う)。段 1 により各項は $x-a$ でくくれるので、$P(x)=(x-a)Q(x)$ の形になる。
段 3($Q$ の次数)。$Q$ の中で $x^{n-1}$ が現れるのは $c_n(x^n-a^n)$ からだけで、その係数は $c_n$ である。$c_n\ne0$ なので、$Q$ の次数は $n-1$ である。$\square$
$P(x)=x^3-6x^2+11x-6$ とする。$P(1)=1-6+11-6=0$ なので、lem-iuc-factor により $x-1$ でくくれる。実際に割ると $P(x)=(x-1)(x^2-5x+6)$ で、さらに $x^2-5x+6=(x-2)(x-3)$ なので
$$
P(x)=(x-1)(x-2)(x-3)
$$
である。根は $1,2,3$ の 3 個で、次数 $3$ と同じ個数である(図1)。確かめると $P(2)=8-24+22-6=0$、$P(3)=27-54+33-6=0$ である。
もっと小さな例もある。$P(x)=x^2-4$ は $x=2$ で $P(2)=4-4=0$ なので、lem-iuc-factor により $x-2$ でくくれる。証明の段 1 の式を $k=2$、$a=2$ で使うと $x^2-2^2=(x-2)(x+2)$ なので、$Q(x)=x+2$ である。$Q$ の次数は $2-1=1$ で、補題のとおりである。
図1:$y=x^3-6x^2+11x-6$ のグラフ。$x$ 軸と交わる点(根)は $1,2,3$ の 3 個であり、次数を超えないことを見る図。
$n\ge0$ とする。次数 $n$ の多項式(零多項式ではない)の相異なる根は、高々 $n$ 個である。
方針:lem-iuc-factor で根を 1 つくくり出すと、次数が 1 下がる。これを帰納法で繰り返す。
段 1($n=0$)。次数 $0$ の多項式は $0$ でない定数 $c_0$ である。どの $x$ でも値は $c_0\ne0$ なので、根は $0$ 個である。
段 2(帰納法の仮定)。$n\ge1$ とし、次数 $n-1$ の多項式の相異なる根は高々 $n-1$ 個であると仮定する。$P$ を次数 $n$ の多項式とする。
段 3(根がない場合)。$P$ に根がなければ、根は $0$ 個で、$n$ 個以下である。
段 4(根がある場合)。$P$ に根 $a$ があるとする。lem-iuc-factor により、次数 $n-1$ の多項式 $Q$ で $P(x)=(x-a)Q(x)$ となるものがある。$b$ を $a$ と異なる $P$ の根とすると、$0=P(b)=(b-a)Q(b)$ であり、$b-a\ne0$ なので $Q(b)=0$ である。つまり、$a$ 以外の $P$ の根はすべて $Q$ の根である。帰納法の仮定から $Q$ の相異なる根は高々 $n-1$ 個なので、$P$ の相異なる根は $a$ を合わせて高々 $(n-1)+1=n$ 個である。$\square$
多項式の割り算の定理から因数定理を導く証明は 剰余の定理と因数定理 で扱う。
$P$、$Q$ を次数 $n$ 以下の多項式とし、$x_0,x_1,\dots,x_n$ を相異なる $n+1$ 個の実数とする。$i=0,1,\dots,n$ のすべてで $P(x_i)=Q(x_i)$ ならば、$P$ と $Q$ の係数はすべて等しい。したがって、すべての実数 $x$ で $P(x)=Q(x)$ である。
方針:差 $R:=P-Q$ が $n+1$ 個の根をもつことから、$R$ が零多項式であることを導く。
段 1(差の多項式)。$P(x)=\sum_{k=0}^np_kx^k$、$Q(x)=\sum_{k=0}^nq_kx^k$ とし(次数が $n$ より小さいときは高い次の係数を $0$ とおく)、
$$
R(x):=P(x)-Q(x)=\sum_{k=0}^n(p_k-q_k)x^k
$$
とおく。$R$ は零多項式か、次数 $n$ 以下の多項式である。
段 2(根の個数)。仮定から $R(x_i)=P(x_i)-Q(x_i)=0$($i=0,\dots,n$)なので、$R$ は相異なる $n+1$ 個の根 $x_0,\dots,x_n$ をもつ。
段 3(矛盾から零多項式へ)。$R$ が零多項式でないとすると、その次数 $m$ は $n$ 以下であり、thm-iuc-root-count により相異なる根は高々 $m\le n$ 個である。これは段 2 の $n+1$ 個と矛盾する。よって $R$ は零多項式で、すべての $k$ で $p_k-q_k=0$、すなわち $p_k=q_k$ である。
段 4(値の一致)。係数がすべて等しいので、どの $x$ を代入しても $P(x)=Q(x)$ である。$\square$
この定理を使うと三角関数の 3 倍角の公式が 4 つの角での値の確認だけで証明できることは 三角関数の公式を確かめる方法 で扱う。
例 1(2 次式)。$P(x)=(x+1)^2-x$、$Q(x)=x^2+x+1$ はどちらも次数 $2$ 以下である。$n=2$ なので、$n+1=3$ 個の点 $x=0,1,2$ で値を比べる。
| $x$ | $P(x)=(x+1)^2-x$ | $Q(x)=x^2+x+1$ |
|---|---|---|
| $0$ | $1-0=1$ | $0+0+1=1$ |
| $1$ | $4-1=3$ | $1+1+1=3$ |
| $2$ | $9-2=7$ | $4+2+1=7$ |
3 点で一致したので、thm-iuc-identity により係数はすべて等しいはずである。実際に展開すると $P(x)=x^2+2x+1-x=x^2+x+1$ で、$Q(x)$ と係数が一致する。
例 2(1 次式)。1 次式どうしなら $n=1$ で、2 点で足りる。$P(x)=2x+1$、$Q(x)=(x+1)+x$ は、$x=0$ で $1$ と $1$、$x=1$ で $3$ と $3$ になり、2 点で一致する。展開すると $Q(x)=2x+1$ で、確かに係数が等しい。
この定理から、高校の 2 つの方法の正しさがすぐに分かる。
多項式 $P$、$Q$ について、$P(x)=Q(x)$ が恒等式であることと、$P$ と $Q$ の係数がすべて等しいことは同値である。
係数がすべて等しければ、代入して $P(x)=Q(x)$ がすべての $x$ で成り立つ。逆に恒等式であるとし、$P$、$Q$ がともに次数 $n$ 以下(零多項式を含む)となる $n$ をとる(たとえば次数の大きいほう。両方とも零多項式なら $n=0$ とする)。$P$ と $Q$ はすべての実数で値が等しいので、特に相異なる $n+1$ 個の実数 $0,1,\dots,n$ で等しい。thm-iuc-identity により係数はすべて等しい。$\square$
両辺が次数 $n$ 以下の多項式である等式 $P(x)=Q(x)$ が、相異なる $n+1$ 個の値 $x_0,\dots,x_n$ で成り立てば、それは恒等式である。
thm-iuc-identity の結論そのものである。$\square$
ex-iuc-substitute では、両辺は次数 $2$ 以下で、$x=0,1,2$ の 3 個($=2+1$ 個)の値を代入した。代入で得た $a=1$、$b=5$、$c=9$ を右辺に入れると、右辺 $(x-1)^2+5(x-1)+9$ は $x=0,1,2$ で左辺と一致する。cor-iuc-substitution により、これだけで恒等式であることが保証される。実際に展開しても $x^2-2x+1+5x-5+9=x^2+3x+5$ で、左辺に一致する。
高校で「逆に、このとき…」と確かめるのは、代入した値の個数が「次数 $+1$」に足りないときや、両辺が多項式でないときに必要になる確認である。
$x^3-1$ は $x=1$ で $0$ になるので、lem-iuc-factor により $x^3-1=(x-1)(ax^2+bx+c)$ と書ける。右辺を展開すると
$$
(x-1)(ax^2+bx+c)=ax^3+(b-a)x^2+(c-b)x-c
$$
である。係数を比べて $a=1$、$b-a=0$、$c-b=0$、$-c=-1$。よって $a=b=c=1$ で、$x^3-1=(x-1)(x^2+x+1)$ である。未知数 3 個に対して式が 4 本あるが、矛盾なく解ける。
$x^{10}$ を $(x-1)(x-2)$ で割った余りを求める。2 次式で割った余りは 1 次以下なので、商を $S(x)$、余りを $ax+b$ として
$$
x^{10}=(x-1)(x-2)S(x)+ax+b
$$
が恒等式として成り立つ(多項式の割り算ができることは本記事では証明しない。Sho08 Theorem 7.10)。$S(x)$ は分からないが、$x=1$、$x=2$ を代入すると $S$ の項が消える。
$\dfrac1{x(x+1)}=\dfrac Ax+\dfrac B{x+1}$ が $x\ne0,-1$ で成り立つように $A,B$ を定める。
段 1。両辺に $x(x+1)$ を掛けると
$$
1=A(x+1)+Bx
$$
である。この等式は、もとの式が意味をもつ $x\ne0,-1$ のすべての $x$ で成り立つ必要がある。
段 2($x=0$ を代入してよい理由)。両辺は次数 $1$ 以下の多項式である。$x\ne0,-1$ を満たす実数は無数にあるので、その中の相異なる 2 個で両辺が一致すれば、cor-iuc-substitution により段 1 の等式は すべての $x$ で成り立つ。したがって、もとの分数式では許されない $x=0$、$x=-1$ を代入してもよい。
段 3。$x=0$ を代入して $1=A$、$x=-1$ を代入して $1=-B$、すなわち $B=-1$ である。よって
$$
\frac1{x(x+1)}=\frac1x-\frac1{x+1}
$$
である。逆に $A=1$、$B=-1$ なら $A(x+1)+Bx=1$ は恒等式なので、両辺を $x(x+1)$ で割れば、もとの式が $x\ne0,-1$ で成り立つ。$x=1$ で確かめると、左辺 $\frac12$、右辺 $1-\frac12=\frac12$ である。
この分解を使うと、和 $\sum_{k=1}^n\frac1{k(k+1)}=\bigl(1-\frac12\bigr)+\bigl(\frac12-\frac13\bigr)+\cdots+\bigl(\frac1n-\frac1{n+1}\bigr)=1-\frac1{n+1}$ が求まる。$n=10$ なら $\frac{10}{11}$ である。
thm-iuc-identity は「$n+1$ 個の点での値が決まれば、次数 $n$ 以下の多項式はただ 1 つに決まる」と言っている。では、どんな値を指定しても、それを実現する多項式はあるだろうか。答えは「ある」で、具体的な式で書ける。
3 点 $(0,1)$、$(1,3)$、$(2,7)$ を通る、次数 $2$ 以下の多項式 $P(x)=ax^2+bx+c$ を求める。
$P(0)=c=1$、$P(1)=a+b+c=3$、$P(2)=4a+2b+c=7$ である。$c=1$ を入れると $a+b=2$、$4a+2b=6$ で、2 つ目から 1 つ目の 2 倍を引いて $2a=2$。よって $a=1$、$b=1$、$c=1$ で、$P(x)=x^2+x+1$ である。
thm-iuc-identity により、次数 $2$ 以下ではこれ以外にない。一方、次数を $3$ まで許すと、$x^2+x+1+t\,x(x-1)(x-2)$($t$ は任意の実数)はどれも 3 点を通る。$x(x-1)(x-2)$ は $x=0,1,2$ で $0$ になるからである。たとえば $t=1$ のとき $x^3-2x^2+3x+1$ で、$x=3$ での値は $19$ であり、$P(3)=13$ とは異なる(図2)。
図2:3 点 $(0,1)$、$(1,3)$、$(2,7)$ を通る多項式。次数 2 以下では $y=x^2+x+1$ だけだが、3 次まで許すと無数にあることを見る図。
連立方程式を解く代わりに、直接式を書くこともできる。鍵は「1 つの点で $1$、ほかの点で $0$ になる多項式」である。まず 3 点 $0,1,2$ で試す。
3 点 $x=0,1,2$ について、次の 3 つの 2 次式を考える。
$$
L_0(x)=\frac{(x-1)(x-2)}{(0-1)(0-2)},\qquad L_1(x)=\frac{(x-0)(x-2)}{(1-0)(1-2)},\qquad L_2(x)=\frac{(x-0)(x-1)}{(2-0)(2-1)}
$$
$L_0$ の分子 $(x-1)(x-2)$ は、$0$ 以外の点 $1,2$ で $0$ になるように作ってある。分母 $(0-1)(0-2)=2$ は、分子に $x=0$ を入れた値なので、$x=0$ で分子と分母が等しくなり、値が $1$ になる。値を表にすると次のとおりである。
| $x=0$ | $x=1$ | $x=2$ | |
|---|---|---|---|
| $L_0(x)$ | $\frac{(-1)(-2)}2=1$ | $\frac{0\cdot(-1)}2=0$ | $\frac{1\cdot0}2=0$ |
| $L_1(x)$ | $\frac{0\cdot(-2)}{-1}=0$ | $\frac{1\cdot(-1)}{-1}=1$ | $\frac{2\cdot0}{-1}=0$ |
| $L_2(x)$ | $\frac{0\cdot(-1)}2=0$ | $\frac{1\cdot0}2=0$ | $\frac{2\cdot1}2=1$ |
したがって $1\cdot L_0(x)+3L_1(x)+7L_2(x)$ は、$x=0$ で $1\cdot1+3\cdot0+7\cdot0=1$、$x=1$ で $3$、$x=2$ で $7$ になり、ex-iuc-three-points の 3 点を通る。連立方程式を解かずに、値 $1,3,7$ を係数として並べるだけでよい。
ex-iuc-basis の作り方を、一般の $n+1$ 個の点に広げる。記号 $\prod$ は $\sum$ の掛け算版で、$\sum$ が「足し合わせる」のに対し、$\prod$ は「掛け合わせる」ことを表す。
$x_0,x_1,\dots,x_n$ を相異なる実数、$y_0,y_1,\dots,y_n$ を任意の実数とする。$i=0,\dots,n$ に対し
$$
L_i(x):=\prod_{j\ne i}\frac{x-x_j}{x_i-x_j}
$$
とおく。ここで $\prod_{j\ne i}$ は、$j$ を $0,1,\dots,n$ のうち $i$ 以外の $n$ 個の値に動かしてできる $n$ 個の分数 $\frac{x-x_j}{x_i-x_j}$ を、すべて掛け合わせることを表す。たとえば $n=2$、$i=0$ なら $j=1,2$ の 2 個を掛けて
$$
L_0(x)=\frac{x-x_1}{x_0-x_1}\cdot\frac{x-x_2}{x_0-x_2}=\frac{(x-x_1)(x-x_2)}{(x_0-x_1)(x_0-x_2)}
$$
である。そのうえで、$P(x):=\sum_{i=0}^ny_iL_i(x)$ と定める。このとき $P$ は次数 $n$ 以下の多項式で、$P(x_i)=y_i$($i=0,\dots,n$)を満たす。このような多項式は $P$ ただ 1 つである。
方針:$L_i$ が「$x_i$ で $1$、ほかの $x_k$ で $0$」になることを確かめ、それを重ね合わせる。
段 1($L_i$ の次数)。$L_i(x)$ は $n$ 個の 1 次式 $\frac{x-x_j}{x_i-x_j}$ の積である。分母の $x_i-x_j$ は、$x_i\ne x_j$ なので $0$ でない定数である。よって $L_i$ は次数 $n$ の多項式で、$P$ は次数 $n$ 以下の多項式(または零多項式)である。
段 2($x_i$ での値)。$x=x_i$ を代入すると、各因数は $\frac{x_i-x_j}{x_i-x_j}=1$ なので $L_i(x_i)=1$ である。
段 3(ほかの点での値)。$k\ne i$ のとき、$L_i$ の因数の中に $j=k$ のもの $\frac{x-x_k}{x_i-x_k}$ があり、$x=x_k$ でこれが $0$ になる。よって $L_i(x_k)=0$ である。
段 4(重ね合わせ)。$P(x_k)=\sum_iy_iL_i(x_k)$ で、段 2・段 3 から $i=k$ の項だけが残り、$P(x_k)=y_k\cdot1=y_k$ である。
段 5(ただ 1 つであること)。次数 $n$ 以下の多項式 $\tilde P$ も $\tilde P(x_k)=y_k$ を満たせば、$P$ と $\tilde P$ は $n+1$ 個の点で一致するので、thm-iuc-identity により $\tilde P=P$ である。$\square$
$x_0,x_1,x_2=0,1,2$、$y_0,y_1,y_2=1,3,7$ とする。prop-iuc-lagrange の $L_0,L_1,L_2$ は ex-iuc-basis のものと同じで、展開すると
$$
L_0(x)=\frac{(x-1)(x-2)}{(0-1)(0-2)}=\frac{x^2-3x+2}2,\quad L_1(x)=\frac{x(x-2)}{(1-0)(1-2)}=-(x^2-2x),\quad L_2(x)=\frac{x(x-1)}{(2-0)(2-1)}=\frac{x^2-x}2
$$
である。$P=1\cdot L_0+3L_1+7L_2$ の各係数を計算すると、$x^2$ の係数は $\frac12-3+\frac72=1$、$x$ の係数は $-\frac32+6-\frac72=1$、定数項は $1$ である。よって $P(x)=x^2+x+1$ で、ex-iuc-three-points と一致する。
thm-iuc-identity の仮定は 2 つある。点が $n+1$ 個あることと、両辺が次数 $n$ 以下の多項式であることである。さらに、係数が実数であることも使っている。証明の中では、実数の性質「積が $0$ なら一方が $0$」を prf-thm-iuc-root-count の段 4 で使った($(b-a)Q(b)=0$ と $b-a\ne0$ から $Q(b)=0$ を出したところ)。これらを 1 つずつ外すと結論が崩れる。
| 外した仮定 | 崩れる主張 | ボックス |
|---|---|---|
| 点が $n+1$ 個ある | 一致の定理 | ex-iuc-too-few |
| 両辺が次数 $n$ 以下の多項式 | 一致の定理 | ex-iuc-powers-of-two |
| 係数が実数(積が $0$ なら一方が $0$) | 根の個数の定理と係数比較 | ex-iuc-mod |
$P(x)=x^2$ と $Q(x)=3x-2$ は、どちらも次数 $2$ 以下である。$x=1$ では $P(1)=1=Q(1)$、$x=2$ では $P(2)=4=Q(2)$ で、2 点で一致する。しかし $x=0$ では $P(0)=0$、$Q(0)=-2$ で異なる。実際、$P(x)-Q(x)=x^2-3x+2=(x-1)(x-2)$ の根は $1,2$ だけである。
満たす性質:次数 $2$ 以下の多項式。満たさない性質:一致する点が $2+1=3$ 個あること。破る主張:thm-iuc-identity の結論(恒等式になる)。
未定係数法でいえば、ex-iuc-substitute で $x=1$ と $x=0$ の 2 個だけを代入すると、$c=9$ と $a-b=-4$ しか得られず、$a,b$ は決まらない。
図3:$y=2^x$ と、$x=0,1,2,3$ でそれと値が一致する 3 次多項式 $y=\frac{x^3+5x+6}6$。4 点で一致しても、$x=4$ では $16$ と $15$ に分かれることを見る図。
整数 $a,b$ について、$a-b$ が $6$ で割り切れること($6$ で割った余りが等しいこと)を $a\equiv b\pmod 6$ と書き、$a\not\equiv b\pmod 6$ はそうでないことを表す(合同式)。$6$ で割った余りの世界では、$x$ は $0,1,2,3,4,5$ の 6 個の値だけを動き、値も $6$ で割った余りで比べる。
この世界で、$P(x)=x^2-x$ の値を $x=0,1,2,3,4,5$ について計算すると
$$
0,\ 0,\ 2,\ 6,\ 12,\ 20
$$
であり、$6$ で割った余りは $0,0,2,0,0,2$ である。つまり $x\equiv0,1,3,4$ の 4 個で $P(x)\equiv0\pmod6$ となり、次数 $2$ の多項式が 4 個の根をもつ。
どこで thm-iuc-root-count の証明が崩れるかを見る。根 $a=0$ で $P(x)=x(x-1)$ とくくり、別の根 $b=3$ を考えると、$(b-a)Q(b)=3\cdot2=6\equiv0$ であるが、$b-a=3\not\equiv0$ かつ $Q(b)=2\not\equiv0$ である。「積が $0$ なら一方が $0$」が成り立たないので、段 4 が使えない。
同じ $6$ で割った余りの世界では、係数比較法も崩れる。$R(x)=x^3-x$ の値を $x=0,1,2,3,4,5$ について計算すると
$$
0,\ 0,\ 6,\ 24,\ 60,\ 120
$$
であり、どれも $6$ で割り切れる($6=6\cdot1$、$24=6\cdot4$、$60=6\cdot10$、$120=6\cdot20$)。つまり 6 個の値すべてで $R(x)\equiv0\pmod6$ となり、$R$ は関数としては零多項式と一致する。しかし $R$ の係数は $x^3$ が $1$、$x$ が $-1$ で、零多項式ではない。$R$ の次数は $3$ で、相異なる値は $6$ 個($3+1=4$ 個以上)あるので、点が足りないわけではない。
原因はやはり「積が $0$ なら一方が $0$」が成り立たないことである。$x^3-x=(x-1)x(x+1)$ は連続する 3 つの整数の積なので、どれかが $2$ の倍数、どれかが $3$ の倍数であり、積は必ず $6$ で割り切れる。たとえば $x=2$ では $(x-1)x(x+1)=1\cdot2\cdot3=6\equiv0$ であるが、$1,2,3$ はどれも $\not\equiv0$ である。ここで効いているのは $2\cdot3=6\equiv0$ という積である。
注(別の理由で崩れる例)。$2$ で割った余りの世界では、$x$ は $0,1$ の 2 個の値だけを動く。$x^2+x$ は $x=0$ で $0$、$x=1$ で $2\equiv0\pmod2$ となり、2 個の値すべてで $0$ と一致するのに、零多項式ではない。ただし、原因は「積が $0$ なら一方が $0$」の破れではない。この世界で $0$ でない余りは $1$ だけで、$1\cdot1=1\not\equiv0$ なので、この性質は成り立つ。実際、$x^2+x=x(x+1)$ の根は $0,1$ の 2 個で次数 $2$ を超えず、thm-iuc-root-count は成り立っている。崩れるのは prf-cor-iuc-compare の「相異なる $n+1$ 個の点をとる」ところである。次数 $2$ なら $3$ 個の点が要るが、この世界には値が $2$ 個しかない。これは rem-iuc-polynomial-ring で述べる「要素が有限個しかない」ことから起こる現象である。
満たす性質:$x^2-x$、$x^3-x$ は多項式であり、相異なる値は $6$ 個とれる(次数 $3$ の $x^3-x$ でも $3+1=4$ 個以上ある)。満たさない性質:積が $0$ なら一方が $0$($3\cdot2\equiv0$ なのに $3\not\equiv0$、$2\not\equiv0$)。破る主張:thm-iuc-root-count($x^2-x$ は次数 $2$ なのに根が $4$ 個)と cor-iuc-compare($x^3-x$ は 6 個の値すべてで $0$ と一致するのに零多項式ではない)。
大学では、多項式を係数の並び $(c_0,c_1,c_2,\dots)$(有限個を除いて $0$)そのものとみなし、係数が実数の多項式全体を $\mathbb{R}[x]$ と書いて 多項式環 と呼ぶ。多項式が等しいとは係数がすべて等しいことであり、値が等しいこと(関数として等しいこと)とは別の概念として定義する。
cor-iuc-compare は、係数が実数のとき 2 つの概念が一致することを示した。証明で主に使ったのは「積が $0$ なら一方が $0$」と「実数が無限個ある」ことなので、係数が複素数や有理数でも同じ結論が成り立つ。係数の世界が「積が $0$ なら一方が $0$」を満たせば、次数 $n$ の多項式の根は高々 $n$ 個である(Sho08 Theorem 7.14)。一方、要素が有限個しかない世界では、「積が $0$ なら一方が $0$」が成り立っていても、次数が高いと相異なる $n+1$ 個の点がとれず、式として異なる多項式が関数として一致することがある(ex-iuc-mod の注の、$2$ で割った余りの世界の $x^2+x$)。
線形代数の言葉では、thm-iuc-identity と prop-iuc-lagrange は「次数 $n$ 以下の多項式の係数 $(c_0,\dots,c_n)$ と、$n+1$ 個の点での値 $(P(x_0),\dots,P(x_n))$ は、互いにただ 1 通りに移り合う」と言い換えられる(Sho08 Theorem 7.15)。未定係数法は、この対応を使って係数を値から決める方法である。
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