弱Hausdorff空間(weak Hausdorff space)とは、コンパクト Hausdorff 空間からのどの連続写像についても像が閉集合になる位相空間であり、Hausdorff 空間と $T_1$ 空間の中間の分離条件である。このとき試験写像の像はコンパクト Hausdorff 部分空間になり、部分空間・任意の直積・$k$ 化で性質が保たれる。$k$-空間については、対角線が $k$ 化した積で閉であることと同値で、商空間が弱 Hausdorff になることは同値関係が $k$ 化した積で閉であることと同値である。コンパクト生成空間の分離条件として使われる。
前提知識: コンパクト生成空間, Hausdorff空間, T1空間, 商写像
弱Hausdorff空間(weak Hausdorff space)とは、コンパクト Hausdorff 空間からのどの連続写像についても、その像が閉集合になる位相空間のことである。Hausdorff 空間ではコンパクト集合がつねに閉集合なので、Hausdorff 空間は弱 Hausdorff であり、弱 Hausdorff 空間では点が閉集合になる。つまりこの条件は Hausdorff と T1空間 の間にある。
ホモトピー論では、コンパクト Hausdorff 空間からの写像だけで位相を測り直した コンパクト生成空間(弱 Hausdorff な $k$-空間)の圏がよく使われる。分離条件を Hausdorff ではなく弱 Hausdorff にしておくと、商空間を作る操作との相性がよくなる。たとえば、コンパクト生成空間を同値関係で割った商が再びコンパクト生成空間になる条件は、Hausdorff 性を要求するよりもずっと扱いやすい形(同値関係が閉集合であること)で書ける。この記事では、弱 Hausdorff 性の基本性質、対角線による特徴付け、商空間の判定を証明し、条件を外したときの反例をまとめる。
コンパクト生成空間 と同じく、コンパクト空間であって Hausdorff空間 でもある空間を コンパクト Hausdorff 空間 とよび、記号 $K$ で表す。コンパクト Hausdorff 空間 $K$ からの連続写像 $u\colon K\to X$ を $X$ への 試験写像 とよぶ。
位相空間 $X$ が 弱 Hausdorff(weak Hausdorff)であるとは、すべての試験写像 $u\colon K\to X$ について像 $u(K)$ が $X$ の閉集合であることをいう。
1:Hausdorff 空間ではコンパクト集合 $u(K)$ は閉集合である(Hausdorff空間 の命題「コンパクト部分集合の閉性」)。弱 Hausdorff 空間の点 $x$ は 1 点空間からの試験写像の像なので、$\{x\}$ は閉集合である。
2:$C:=u(K)$ とおき、$u$ を全射 $u\colon K\to C$ とみる。$K$ の閉集合 $L$ はコンパクト Hausdorff なので、$u|_L$ も試験写像で、$u(L)$ は $X$ の閉集合、したがって $C$ の閉集合である。よって $u\colon K\to C$ は閉写像である。$C$ の相異なる 2 点 $a,b$ をとる。1 により $\{a\},\{b\}$ は閉なので、ファイバー $u^{-1}(a)$、$u^{-1}(b)$ は $K$ の交わらない閉集合であり、コンパクト Hausdorff 空間は正規空間なので、それぞれを含む交わらない開集合 $U,V\subset K$ がある。$O:=C\setminus u(K\setminus U)$、$P:=C\setminus u(K\setminus V)$ は閉写像性により $C$ の開集合で、$u^{-1}(a)\subset U$ から $a\in O$、同様に $b\in P$ である。$c\in O\cap P$ なら $u^{-1}(c)\subset U\cap V=\emptyset$ となり、$u$ が $C$ への全射であることに反する。よって $C$ は Hausdorff であり、連続像としてコンパクトである。閉集合であることは定義による。
3:$A\subset X$ を部分空間とし、$u\colon K\to A$ を試験写像とする。包含との合成は $X$ への試験写像なので $u(K)$ は $X$ の閉集合であり、$u(K)=u(K)\cap A$ は $A$ の閉集合である。
4:$P:=\prod_iX_i$、射影を $p_i$ とし、試験写像 $u\colon K\to P$ をとる。$p_i\circ u$ は $X_i$ への試験写像なので、2 により $C_i:=p_i(u(K))$ は $X_i$ の閉集合でコンパクト Hausdorff である。$Q:=\prod_iC_i=\bigcap_ip_i^{-1}(C_i)$ は $P$ の閉集合であり、Hausdorff 空間の直積として Hausdorff である。$u(K)$ は $Q$ に含まれるコンパクト集合なので $Q$ の閉集合であり、したがって $P$ の閉集合である。この議論は無限個の因子でも Tychonoffの定理 を使わない。
5:$kX$ への試験写像は $X$ への試験写像でもあるので(コンパクト生成空間 の命題「$k$ 化」の 1)、像は $X$ の閉集合であり、$kX$ の位相は $X$ の位相より細かいので $kX$ でも閉集合である。$\square$
2 により、弱 Hausdorff 空間 $X$ の部分集合 $A$ が $k$-閉集合であること(すべての試験写像による逆像が閉)と、$X$ のすべてのコンパクト Hausdorff 部分空間 $C$ について $A\cap C$ が $C$ の閉集合であることは同値になる(試験写像 $u$ を像 $u(K)$ への写像とみればよい)。弱 Hausdorff 空間では、位相を測るのに「コンパクト Hausdorff 空間からの写像」を「コンパクト Hausdorff 部分空間」に置き換えてよい。
4 は $k$-空間との違いを示している。$k$-空間の直積は直積位相のままでは $k$-空間とは限らない(コンパクト生成空間 の注意「反例:$k$-空間の直積」)が、弱 Hausdorff 性は任意の直積で保たれる。コンパクト生成空間の圏の直積 $X\times_kY:=k(X\times Y)$ が再びコンパクト生成空間になるのは、4 と 5 による。
Hausdorff 空間であることは、対角線 $\Delta_X=\{(x,x)\mid x\in X\}$ が直積空間 $X\times X$ の閉集合であることと同値である($x\ne y$ を分ける開集合 $U\times V$ が $\Delta_X$ と交わらないことと $U\cap V=\emptyset$ が同じ条件である)。弱 Hausdorff 性は、直積を $k$ 化した積に替えた同じ形の条件で特徴付けられる。
$X$ を $k$-空間とする。$X$ が弱 Hausdorff であることと、対角線 $\Delta_X$ が $X\times_kX=k(X\times X)$ の閉集合であることは同値である。
($\Rightarrow$) $X$ を弱 Hausdorff とする。$\Delta_X$ が $k(X\times X)$ の閉集合であることは、$X\times X$ のすべての試験写像 $w\colon K\to X\times X$ について $w^{-1}(\Delta_X)$ が閉集合であることと同じである。$w=(u,v)$ と成分に分ける。$K\sqcup K$ はコンパクト Hausdorff で、$u$ と $v$ を並べた写像 $K\sqcup K\to X$ は試験写像なので、prop-wh-basic の 2 によりその像 $C:=u(K)\cup v(K)$ はコンパクト Hausdorff な部分空間である。$w$ は $C\times C$ への連続写像とみなせ、$C$ は Hausdorff なので $\Delta_C=\Delta_X\cap(C\times C)$ は $C\times C$ の閉集合である。よって $w^{-1}(\Delta_X)=w^{-1}(\Delta_C)$ は閉集合である。この向きでは $X$ が $k$-空間であることを使わない。
($\Leftarrow$) $\Delta_X$ が $k(X\times X)$ の閉集合であるとし、試験写像 $u\colon K\to X$ をとる。$u(K)$ が $k$-閉集合であることを示せば、$X$ は $k$-空間なので $u(K)$ は閉集合である。別の試験写像 $v\colon L\to X$ をとる。$K\times L$ はコンパクト Hausdorff であり(Tychonoffの定理)、$u\times v\colon K\times L\to X\times X$ は試験写像なので $k(X\times X)$ への連続写像でもある。よって
$$
E:=(u\times v)^{-1}(\Delta_X)=\{(a,b)\in K\times L\mid u(a)=v(b)\}
$$
は $K\times L$ の閉集合、したがってコンパクトである。第 2 射影 $K\times L\to L$ による $E$ の像は $v^{-1}(u(K))$ に等しく、コンパクト集合の連続像として Hausdorff 空間 $L$ のコンパクト集合なので、閉集合である。$v$ は任意だったので、$u(K)$ は $k$-閉集合である。$\square$
$X$ が $k$-空間で、しかも $X\times X$ も $k$-空間であるとき(たとえば $X$ が第1可算空間のとき)は $X\times_kX=X\times X$ なので、thm-wh-diagonal は「弱 Hausdorff なら Hausdorff」を意味する。弱 Hausdorff と Hausdorff の差は、$k$ 化した積の位相が直積位相より真に細かい空間にだけ現れる。
$X$ を $k$-空間、$R\subset X\times X$ を同値関係とし、$q\colon X\to X/R$ を商写像とする。このとき、$X/R$ が弱 Hausdorff であることと、$R$ が $X\times_kX$ の閉集合であることは同値である。とくに $X$ がコンパクト生成空間で $R$ が $X\times_kX$ の閉集合なら、$X/R$ はコンパクト生成空間である。
$Y:=X/R$ とおく。まず $Y$ は $k$-空間である。実際、$A\subset Y$ が $k$-閉集合なら、$X$ への試験写像 $v$ について $q\circ v$ は $Y$ への試験写像なので $v^{-1}(q^{-1}(A))$ は閉であり、$X$ は $k$-空間なので $q^{-1}(A)$ は閉、商位相の定義により $A$ は閉集合である。
$q\times q\colon X\times X\to Y\times Y$ は連続なので、$X\times_kX\to Y\times Y$ も連続であり、$X\times_kX$ は $k$-空間なので $X\times_kX\to Y\times_kY$ も連続である(コンパクト生成空間 の命題「$k$ 化」の 4)。$R=(q\times q)^{-1}(\Delta_Y)$ である。
($\Rightarrow$) $Y$ が弱 Hausdorff なら、thm-wh-diagonal により $\Delta_Y$ は $Y\times_kY$ の閉集合であり、その逆像 $R$ は $X\times_kX$ の閉集合である。
($\Leftarrow$) $q\times q\colon X\times_kX\to Y\times_kY$ は、$q\times\mathrm{id}_X\colon X\times_kX\to Y\times_kX$ と $\mathrm{id}_Y\times q\colon Y\times_kX\to Y\times_kY$ の合成である。$k$-空間の商写像に $k$-空間を $k$ 化した積で掛けたものは商写像である(写像空間の指数法則(位相空間) の系「$k$ 化した積と商写像」)。$X$ と $Y$ は $k$-空間なので、2 つの写像はどちらも商写像であり、合成 $q\times q$ も商写像である。$R$ が閉集合なら、$\Delta_Y$ の逆像が閉なので $\Delta_Y$ は $Y\times_kY$ の閉集合であり、$Y$ は $k$-空間なので thm-wh-diagonal により弱 Hausdorff である。
最後の主張は、$Y$ が $k$-空間であることと前半による。$\square$
$X$ がコンパクト生成空間の場合の主張は May99 Chapter 5 §1–§2(p. 40)に、対角線の補題とともに述べられている(同書は証明を読者に任せている)。thm-wh-quotient では $X$ 自身が弱 Hausdorff である必要はない。
$X$ をコンパクト生成空間、$A\subset X$ を空でない閉集合とし、$A$ を 1 点につぶした商空間を $X/A$ とする。対応する同値関係は $R=\Delta_X\cup(A\times A)$ である。$\Delta_X$ は thm-wh-diagonal により $X\times_kX$ の閉集合であり、$A\times A$ は $X\times X$ の閉集合なので、より細かい $X\times_kX$ でも閉集合である。よって $R$ は閉集合であり、thm-wh-quotient により $X/A$ はコンパクト生成空間である。CW 複体の部分複体をつぶした空間や、スマッシュ積 の構成に現れる商はこの形である。
非可算集合 $X$ に、補集合が可算である集合と空集合を開集合とする位相(補可算位相)を入れる。$X$ のコンパクト集合は有限集合である。実際、無限なコンパクト集合 $L$ があれば、その可算無限部分集合 $D$ をとると、各 $x\in L$ について $X\setminus(D\setminus\{x\})$ は $x$ を含む開集合で $D$ の点を高々 1 つしか含まず、これらの開集合による $L$ の被覆は有限部分被覆をもたない。したがって試験写像の像(コンパクト集合)は有限集合であり、1 点集合は閉なので閉集合である。よって $X$ は弱 Hausdorff である。空でない 2 つの開集合は補集合が可算なので交わり、$X$ は Hausdorff でない(コンパクト生成空間 の例「反例:弱 Hausdorff だが Hausdorff でも $k$-空間でもない空間」と同じ空間)。
似た形の余有限位相は、無限集合に入れると弱 Hausdorff でない($T_1$ ではある)。$\mathbb{R}$ の場合を示す。$\mathbb{R}$ に余有限位相を入れ、$\mathbb{N}$ の一点コンパクト化 $\mathbb{N}^+=\mathbb{N}\cup\{\infty\}$ から $u(n)=n+1$、$u(\infty)=0$ で写像を定める。余有限位相の閉集合は全体と有限集合で、有限集合の逆像は $\mathbb{N}^+$ の有限集合なので閉であり、$u$ は連続である。しかし像 $\{0,1,2,\dots\}$ は全体でない無限集合なので閉集合でない。
コンパクト生成空間 の例「反例:$k$-空間だが弱 Hausdorff でない空間」の空間 $X=\mathbb{N}\cup\{\infty_1,\infty_2\}$($\mathbb{N}$ の点は孤立点、$\infty_i$ の基本近傍は $\{\infty_i\}\cup(\mathbb{N}\setminus F)$、$F$ は有限)を考える。$X$ は第1可算な T1空間だが、$\mathbb{N}$ の一点コンパクト化 $\mathbb{N}^+$ 2 枚の非交和から $X$ への写像(一方の $\infty$ を $\infty_1$、他方を $\infty_2$ に送る)の像は $X$ 全体で、Hausdorff でない。1 枚分の像 $\mathbb{N}\cup\{\infty_1\}$ は $\infty_2$ を閉包に含むので閉でない。
thm-wh-diagonal で見ると、$X\times X$ も第1可算なので $k$-空間であり、$X\times_kX=X\times X$ である。対角線上の点列 $(n,n)$ は $(\infty_1,\infty_2)\notin\Delta_X$ に収束するので、$\Delta_X$ は閉集合でない。
$X=\mathbb{R}\times\{1,2\}$($\mathbb{R}$ の 2 枚の非交和)に、$t\ne0$ について $(t,1)\sim(t,2)$ とする同値関係 $R$ を入れた商空間 $Y$ を、原点が二つある直線という。$X$ は距離空間なので $k$-空間であり、$X\times X$ も距離空間なので $X\times_kX=X\times X$ である。$R$ の点 $((1/n,1),(1/n,2))$ は $((0,1),(0,2))\notin R$ に収束するので、$R$ は閉集合でない。thm-wh-quotient により $Y$ は弱 Hausdorff でない。直接にも、$[-1,1]\times\{1\}$ の像はコンパクト Hausdorff 空間 $[-1,1]$ の像だが、もう一方の原点を閉包に含むので閉でない。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 弱 Hausdorff 性(T1空間であることだけを仮定) | ex-wh-two-limits | 試験写像の像が閉集合で Hausdorff であること(prop-wh-basic の 2) |
| Hausdorff 性(弱 Hausdorff であることだけを仮定) | ex-wh-cocountable | 2 点を交わらない開集合で分けられること |
| $R$ が $X\times_kX$ の閉集合であること(thm-wh-quotient) | ex-wh-two-origins | 商空間 $X/R$ が弱 Hausdorff であること |
| $k$ 化した積(thm-wh-diagonal の ($\Rightarrow$) を直積位相で読む) | ex-wh-cocountable | 弱 Hausdorff 空間の対角線が閉集合であること |
4 行目について:ex-wh-cocountable の空間 $X$ では、$X\times X$ のコンパクト Hausdorff 部分空間は両方の射影の像が有限なので有限集合であり、$k(X\times X)$ は離散空間で $\Delta_X$ はその閉集合である(thm-wh-diagonal の ($\Rightarrow$) は $k$-空間であることを使わない)。一方、$X$ は Hausdorff でないので $\Delta_X$ は直積位相では閉でない。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する