基点自由定理

同義語:Kawamata–Shokurovの基点自由定理Kawamata–Shokurovの基点自由定理base point free theorem固定点自由定理固定点自由化定理basepoint-free theorem

概要

基点自由定理(base point free theorem)とは、複素数体上の正規射影多様体 $X$ と klt 対 $(X,B)$、ネフな Cartier 因子 $L$ について、ある $a>0$ で $aL-(K_X+B)$ が豊富なら、十分大きなすべての整数 $m$ で $\lvert mL\rvert$ が基点をもたないことを述べる定理である。Kawamata–Shokurov の基点自由定理とも呼ばれ、数値の条件であるネフ性から射を作る極小モデル理論の基本定理で、錐定理の端射線を潰す収縮はこの定理から得られる。$\mathbb{Q}$ 因子の klt 対では、豊富の仮定はネフかつ巨大に弱められる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 川又–Viehwegの消滅定理, ネフ因子, 豊富な可逆層, 標準因子, Stein分解, 双有理幾何学

基点自由定理(base point free theorem)は、極小モデル理論の基本定理の一つで、ネフな Cartier 因子の十分大きな倍数が定める線形系に基点がないことを保証する定理である。$X$ を複素数体上の正規射影多様体、$(X,B)$ を klt 対、$L$ をネフな Cartier 因子とし、ある $a>0$ について $aL-(K_X+B)$ が豊富であるとする。このとき十分大きなすべての整数 $m$ について $\lvert mL\rvert$ は基点をもたない。Kawamata–Shokurov の基点自由定理、固定点自由定理、固定点自由化定理とも呼ばれ、川又雄二郎(Yujiro Kawamata)と Shokurov の名に結びつけられている。
ネフ性は曲線との交点数という数値の条件で、基点がないことは大域切断という幾何の条件である。一般にこの 2 つの間には大きな隔たりがあり、ネフな因子の倍数が切断を 1 つももたないこともある。基点自由定理は、標準因子との比較の条件のもとでこの隔たりを埋める。結論から $\lvert mL\rvert$ が定める射が得られるので、錐定理 の端射線を実際に潰す射(収縮)はこの定理から作られる。
一般の場合の証明は研究水準で、この記事では主張と証明の筋を述べ、完全な証明は引用する。そのかわり、定理から射を取り出す議論、ネフかつ巨大の形への還元、曲線の場合、$L$ が数値的に自明な場合、滑らかな曲面の場合を証明し、klt の仮定やネフ性を外すと結論が崩れることを具体例で確かめる。

結果内容
thm-bpf-main基点自由定理(引用)
prop-bpf-morphism大きな倍数がすべて基点をもたなければ、$L$ は豊富な因子の引き戻し
prop-bpf-nefbig$aL-(K_X+B)$ がネフかつ巨大でよい($\mathbb{Q}$ 因子のとき)
prop-bpf-curve曲線の場合
prop-bpf-numtrivial$L$ が数値的に自明な場合
thm-bpf-surface滑らかな曲面の場合。$m$ の下限も具体的に与える

定義と記号

この記事では多様体は複素数体上で考える。$X$ の上の実係数の Weil 因子を $\mathbb{R}$ 因子といい、Cartier 因子の実係数の有限和と書けるものを $\mathbb{R}$-Cartier という。$\mathbb{R}$-Cartier 因子 $D$ が曲線 $C$ と交わる数 $D\cdot C$ は線形に定まり、すべての曲線で $D\cdot C\ge0$ のとき $D$ はネフである(ネフ因子)。$D$ が豊富であるとは、豊富な Cartier 因子の正の実係数の有限和と書けることをいう。ネフな因子と豊富な因子の和は豊富であり、豊富な因子に数値的に $0$ な因子を足しても豊富である(Kleimanの判定法(豊富性))。$\mathbb{Q}$-Cartier 因子の巨大(big)の意味は 巨大因子 の定義のとおりで、切断の個数が $m^{\dim X}$ の程度で増えることをいう。
Cartier 因子 $D$ について、$\lvert D\rvert$ を $D$ と線形同値な有効因子全体の完備線形系とし、$H^0(X,\mathcal{O}_X(D))$ のすべての元が同時に $0$ になる点の集合を基点集合 $\operatorname{Bs}\lvert D\rvert$ と書く。$\operatorname{Bs}\lvert D\rvert=\emptyset$ のとき $\lvert D\rvert$ は基点をもたないといい、これは $\mathcal{O}_X(D)$ が大域切断で生成されることと同じである。ある $m\ge1$ で $\lvert mD\rvert$ が基点をもたないとき、$D$ は半豊富(semi-ample)であるという。

klt 対と対数標準対

$X$ を正規多様体、$B$ を有効な $\mathbb{R}$ 因子で $K_X+B$ が $\mathbb{R}$-Cartier であるものとする。$f\colon Y\to X$ を特異点解消で、例外集合と $B$ の強変換の和の台が単純正規交叉であるものとし、
$$ K_Y=f^*(K_X+B)+\sum_ia_iE_i $$
と書く($E_i$ は相異なる素因子で、例外因子と $B$ の強変換の成分の全体を走る)。すべての $i$ で $a_i>-1$ のとき $(X,B)$ を klt 対(Kawamata log terminal)といい、すべての $i$ で $a_i\ge-1$ のとき対数標準対(log canonical、lc)という。

この定義は Fuj10 4.4(p. 11)に従う。$(X,B)$ が klt(lc)であることは $f$ の取り方によらない。$X$ が滑らかで $B$ の台が単純正規交叉なら、$f=\mathrm{id}$ として、klt はすべての係数が $1$ 未満であること、lc はすべての係数が $1$ 以下であることと同値である。

定理の主張

基点自由定理

$X$ を正規射影多様体、$B$ を有効な $\mathbb{R}$ 因子で $(X,B)$ が klt 対であるものとし、$L$ をネフな Cartier 因子とする。ある実数 $a>0$ について $aL-(K_X+B)$ が豊富なら、ある $m_0$ があって、すべての整数 $m\ge m_0$ で $\lvert mL\rvert$ は基点をもたない。

出典

これは藤野修(Osamu Fujino)による Fuj10 Theorem 13.1(p. 38)を、底 $S$ を 1 点とし $(X,B)$ を klt として読んだものである。同定理は lc 対より一般の対について述べられ、そこでは $\operatorname{Nlc}(X,B)$($(X,B)$ が lc でない点の集合)の上で $\mathcal{O}(mL)$ が大域切断で生成されることを追加の仮定とする。klt 対では $\operatorname{Nlc}(X,B)=\emptyset$ なのでこの仮定は空である。とくに lc 対でも同じ結論が成り立つ。klt 対の場合は Kawamata–Shokurov の基点自由定理として知られ、消滅定理を使う従来の方法で証明された(Fuj10 §2, p. 7、§3, p. 8)。この記事では一般の場合を証明しない。

$a$ を大きくしても仮定は保たれる。$a'\ge a$ なら $a'L-(K_X+B)=(a'-a)L+(aL-(K_X+B))$ はネフと豊富の和だからである。とくに $a$ は正の整数としてよい。
結論の「十分大きな $m$」は省けない。$X$ を楕円曲線、$L=P$ を 1 点、$B=0$ とすると、$L-K_X=P$ は豊富だが、$h^0(\mathcal{O}_X(P))=1$ なので $\lvert L\rvert=\{P\}$ は基点 $P$ をもつ。$m\ge2$ では $\lvert mP\rvert$ は基点をもたない(prop-bpf-curve の証明)。

定理から得られる射

基点自由定理の結論は、次のように射の言葉で言い換えられる。

半豊富な因子と射

$X$ を正規射影多様体、$L$ を Cartier 因子とし、ある $m_0$ があって $m\ge m_0$ のすべてで $\lvert mL\rvert$ が基点をもたないとする。このとき、正規射影多様体 $Y$、$f_*\mathcal{O}_X=\mathcal{O}_Y$ をみたす全射 $f\colon X\to Y$、$Y$ の上の豊富な可逆層 $A$ があって、次が成り立つ。

  1. $\mathcal{O}_X(L)\cong f^*A$。
  2. 曲線 $C\subset X$ について、$f(C)$ が 1 点であることと $L\cdot C=0$ は同値である。
2 つの連続する倍数の差をとる

$m_0\ge1$ としてよい。$m\ge m_0$ について、$\lvert mL\rvert$ が定める射の Stein分解 を $X\xrightarrow{f_m}Y_m\xrightarrow{g_m}\mathbb{P}^{N}$ とする。$f_{m*}\mathcal{O}_X=\mathcal{O}_{Y_m}$ で、$X$ は正規だから $Y_m$ も正規であり、$g_m$ は像の上への有限射である。$A_m:=g_m^*\mathcal{O}(1)$ は豊富で(豊富な可逆層 の命題「有限射による引き戻し」)、$f_m^*A_m\cong\mathcal{O}_X(mL)$ である。曲線 $C$ について、$f_m(C)$ が 1 点なら $mL\cdot C=0$ であり、1 点でなければ射影公式により $mL\cdot C=\deg(C\to f_m(C))\,A_m\cdot f_m(C)>0$ である。したがって 2 は各 $f_m$ で成り立つ。
$m,m'\ge m_0$ とする。$f_m$ のファイバー $F$ は連結で、その中の曲線 $C$ は $L\cdot C=0$ をみたすので $f_{m'}$ で 1 点に潰れる。連結な射影スキームの 2 点は曲線の鎖で結べるから、$f_{m'}(F)$ は 1 点である。$f_m$ は閉全射で $f_{m*}\mathcal{O}_X=\mathcal{O}_{Y_m}$ をみたすので、$f_{m'}$ は $f_m$ を経由する。役割を入れ替えれば $Y_m\cong Y_{m'}$ となり、$f_m$ はこの同型で $f_{m'}$ と同一視される。これを $f\colon X\to Y$ と書く。
$m\ge m_0$ を固定し、$A:=A_{m+1}\otimes A_m^{-1}$ とおくと $f^*A\cong\mathcal{O}_X(L)$ である。可逆層 $M$ について射影公式から $f_*f^*M\cong M$ なので $f^*$ は単射であり、$f^*A^{\otimes m}\cong f^*A_m$ から $A^{\otimes m}\cong A_m$ を得る。$A_m$ は豊富なので $A$ も豊富である。$\square$

$L$ が数値的に自明なら $Y$ は 1 点である。錐定理 の端射線 $R$ については、$R$ の上でだけ $0$ になるネフな Cartier 因子 $L$ をとって基点自由定理と prop-bpf-morphism を使うと、$R$ の方向の曲線を潰す収縮が得られる(Fuj10 Theorem 16.4 とその証明, pp. 47–48。収縮定理(極小モデル理論))。

ネフかつ巨大の形

$\mathbb{Q}$ 因子の範囲では、klt 対について「豊富」を「ネフかつ巨大」に弱めることができる。これは小平の補題による短い還元である。

ネフかつ巨大な差

$X$ を正規射影多様体、$B$ を有効な $\mathbb{Q}$ 因子で $(X,B)$ が klt 対であるものとし、$L$ をネフな Cartier 因子とする。ある有理数 $a>0$ について $N:=aL-(K_X+B)$ がネフかつ巨大なら、$m\gg0$ で $\lvert mL\rvert$ は基点をもたない。

小さな有効因子を境界に足す

$tN$ が Cartier で巨大となる正の整数 $t$ をとり、$A$ を非常に豊富な有効 Cartier 因子とする。小平の補題(Voj11 Proposition 9.12, p. 146)により、$t$ を倍数に取り替えて $tN\sim A+E$ となる有効な Cartier 因子 $E$ がとれる。同書の巨大の定義は十分大きく割り切れるすべての $m$ についての評価だが、無限に多くの $m$ の評価から同じ結論が出る。$h^0(\mathcal{O}_A(mtN))$ は高々 $m^{\dim X-1}$ の程度なので、$0\to\mathcal{O}_X(mtN-A)\to\mathcal{O}_X(mtN)\to\mathcal{O}_A(mtN)\to0$ から、ある $m$ で $H^0(X,\mathcal{O}_X(mtN-A))\ne0$ となるからである。$0<\delta<1/t$ に対し $B_\delta:=B+\delta E$ とおくと、
$$ aL-(K_X+B_\delta)=N-\delta E\sim_{\mathbb{Q}}(1-\delta t)N+\delta A $$
はネフと豊富の和なので豊富である。$(X,B+E)$ の特異点解消 $f\colon Y\to X$ を def-bpf-klt のようにとると、$f$ は $(X,B)$ についても定義の条件をみたす。$E$ の強変換の成分のうち $B$ の強変換でも例外因子でもないものは $a_i=0$ として和に加えると、$(X,B_\delta)$ の係数は $a_i-\delta\,\operatorname{mult}_{E_i}f^*E$ で、$E_i$ は有限個だから、$\delta$ が十分小さければどれも $-1$ より大きい。よって $(X,B_\delta)$ は klt 対で、thm-bpf-main が使える。$\square$

この形から次の系が直ちに従う。

Fano 型の対とネフ因子

$(X,B)$ を $X$ が射影的な klt 対とする。

  1. $-(K_X+B)$ が豊富なら、すべてのネフな Cartier 因子は半豊富である。
  2. $B$ が $\mathbb{Q}$ 因子で $K_X+B$ が数値的に $0$ なら、すべてのネフかつ巨大な Cartier 因子は半豊富である。
  3. $B$ が $\mathbb{Q}$ 因子で $K_X+B$ がネフかつ巨大なら、$K_X+B$ は半豊富である。すなわち、$r(K_X+B)$ が Cartier となる $r\ge1$ をとると、$m\gg0$ で $\lvert mr(K_X+B)\rvert$ は基点をもたない。
$a$ を選ぶ

1 は thm-bpf-main を $a=1$ で使う($L-(K_X+B)$ はネフと豊富の和)。2 は prop-bpf-nefbig を $a=1$ で使う。$N:=L-(K_X+B)$ は $L$ と数値的に等しいのでネフである。小平の補題により $tL\sim A+E$($A$ は豊富、$E$ は有効、$t\ge1$ は $t(K_X+B)$ が Cartier となる整数)と書けるので、$tN\sim\bigl(A-t(K_X+B)\bigr)+E$ は豊富な因子と有効な因子の和であり、$N$ は巨大である。3 は $L:=r(K_X+B)$、$a:=2/r$ として prop-bpf-nefbig を使う($aL-(K_X+B)=K_X+B$)。$\square$

3 で prop-bpf-morphism により得られる $Y$ は、$(X,B)$ の対数標準モデルにあたる。

証明の筋

thm-bpf-main の証明の流れを Fuj10 §13(pp. 38–39)に沿って述べる。この節は筋の説明であり、用いる定理は証明しない。$(X,B)$ を lc 対、$M$ を有効な因子とするとき、$c:=\sup\{t\mid(X,B+tM)\text{ は lc}\}$ を対数標準閾値といい、$(X,B)$ の lc 中心とは、def-bpf-klt のいずれかの $f$ で $a_i=-1$ となる素因子 $E_i$ の $X$ の上の像である(Fuj10 4.4・定義 4.5・定義 4.6, pp. 11–12。lc でない点の集合に含まれる像は除く)。
中心になるのは、次の形の非消滅定理である(Fuj10 Theorem 12.1, p. 34。Shokurov の非消滅定理の一般化)。$(X,B)$ が lc 対、$L$ がネフな Cartier 因子で $aL-(K_X+B)$ が豊富なら、$m\gg0$ で $\operatorname{Bs}\lvert mL\rvert$ はどの lc 中心も含まない。この定理の証明に消滅定理が使われる。

  1. klt から lc 中心をもつ対へ.$L$ が数値的に自明なら、消滅定理により $h^0(L)=\chi(L)=\chi(\mathcal{O}_X)>0$ となり(prop-bpf-numtrivial と同じ議論)、$D\in\lvert L\rvert$ がとれる。$D$ は数値的に自明な有効因子なので $D=0$ で、$L\sim0$ となって終わる。$L$ が数値的に自明でなければ、$l$ を大きくすると豊富な因子 $lL-(K_X+B)$ の自己交点数が大きくなることを使い、一般の部分多様体 $V$ に沿う重複度が大きい有効な因子 $D\sim_{\mathbb{R}}lL-(K_X+B)$ を作る(集中法、Fuj10 Lemma 12.2, p. 36)。$c$ を $D$ に関する対数標準閾値として $(X,B+cD)$ に取り替えると、$(X,B)$ は lc だが klt でないとしてよい。この取り替えで $a$ は $a-ac+cl$ に変わるが、$(a-ac+cl)L-(K_X+B+cD)\sim_{\mathbb{R}}(1-c)(aL-(K_X+B))$ なので仮定は保たれる。
  2. 基点集合を小さくする.素数 $p$ を固定する。lc 中心があるので、非消滅定理により $\lvert p^{m_1}L\rvert\ne\emptyset$ となる $m_1$ がある。基点があれば、$n=\dim X$ として一般の元 $D_1,\dots,D_{n+1}\in\lvert p^{m_1}L\rvert$ の和 $D$ をとる。$(X,B+D)$ は基点集合の各成分の生成点で lc でないので、$D$ に関する対数標準閾値 $c$ をとると $(X,B+cD)$ は基点集合に含まれる lc 中心をもつ。非消滅定理をこの対に使うと、$\operatorname{Bs}\lvert p^{m_2}L\rvert\subsetneq\operatorname{Bs}\lvert p^{m_1}L\rvert$ となる $m_2>m_1$ がとれる。Noether 帰納法により、$\lvert p^mL\rvert$ が基点をもたない $m$ がある。
  3. 互いに素な 2 つの倍数.別の素数 $p'$ でも同じことが成り立つ。$\lvert p^mL\rvert$ と $\lvert p'^{m'}L\rvert$ が基点をもたなければ、$p^m,p'^{m'}$ は互いに素なので、十分大きな整数 $k$ はすべて $k=up^m+vp'^{m'}$($u,v\ge0$ は整数)と書け、$\lvert kL\rvert$ も基点をもたない。
    3 が結論の「すべての $m\ge m_0$」を与える。曲線、$L$ が数値的に自明な場合、滑らかな曲面では、Riemann–Roch の定理、消滅定理、Reider の定理を使って同じことが直接確かめられる。これが次の節である。

証明できる場合

曲線

曲線の場合

$X$ を滑らかな射影曲線、$B$ を有効な $\mathbb{R}$ 因子、$L$ を $\deg L\ge0$ の因子とする。ある $a>0$ について $\deg(aL-K_X-B)>0$ なら、$m\gg0$ で $\lvert mL\rvert$ は基点をもたない。

次数で場合分けする

$g$ を $X$ の種数とする。$\deg L>0$ のとき、$m\deg L\ge2g$ なら、任意の点 $P$ について Riemann–Rochの定理 から $h^0(mL-P)=h^0(mL)-1$ なので、$P$ は基点でない。$\deg L=0$ のとき、仮定は $\deg(K_X+B)<0$ を意味する。$\deg B\ge0$ なので $2g-2<0$、すなわち $X\cong\mathbb{P}^1$ であり、次数 $0$ の因子は主因子だから $L\sim0$ で、$\lvert mL\rvert=\{0\}$ は基点をもたない。$\square$

曲線では $B$ の係数の条件(klt)は要らない。係数の条件が効いてくるのは曲面からである(ex-bpf-cubic)。

$L$ が数値的に自明な場合

数値的に自明な因子

$X$ を滑らかな射影多様体、$B$ を有効な $\mathbb{Q}$ 因子で、台が単純正規交叉因子であり $\lfloor B\rfloor=0$ をみたすものとする。$-(K_X+B)$ が豊富なら、数値的に自明な Cartier 因子 $L$ はすべて $L\sim0$ をみたす。

$\chi$ の数値的不変性

$L$ は数値的に自明なので、$L-(K_X+B)$ は豊富な因子と数値的に等しく、豊富である。川又–Viehwegの消滅定理 の主定理を $L$ と $0$ に使うと、$i>0$ で $H^i(X,\mathcal{O}_X(L))=H^i(X,\mathcal{O}_X)=0$ である。Euler 標数は数値的同値で変わらない(Fuj10 §13, p. 38 が引く Kleiman の定理)ので
$$ h^0(\mathcal{O}_X(L))=\chi(\mathcal{O}_X(L))=\chi(\mathcal{O}_X)=h^0(\mathcal{O}_X)=1 $$
である。よって $L$ と線形同値な有効因子 $D$ がある。$H$ を豊富な因子、$n=\dim X$ とすると $D\cdot H^{n-1}=L\cdot H^{n-1}=0$ であり、有効因子でこれが $0$ となるのは $D=0$ のときだけである。$\square$

とくに、$-K_X$ が豊富な滑らかな射影多様体では、Picard 群は数値的同値類の群に等しい。

滑らかな曲面

滑らかな曲面では、Reider の定理を使うと、$m$ の下限まで込めて基点自由定理が証明できる。

Reider の定理

$X$ を滑らかな射影曲面、$N$ を $N^2\ge5$ のネフな因子とする。$P$ が $\lvert K_X+N\rvert$ の基点なら、$P$ を通る有効因子 $D\ne0$ で、$N\cdot D=0,\ D^2=-1$ または $N\cdot D=1,\ D^2=0$ をみたすものがある。

Reider の定理の出典

これは BHPV04 IV 章 (11.4) Theorem (i)(p. 176)であり、この記事では証明しない。

曲面の基点自由定理

$X$ を滑らかな射影曲面、$L$ をネフな因子とし、正の整数 $a$ について $A:=aL-K_X$ が豊富であるとする。このとき、すべての整数 $m\ge a+3$ で $\lvert mL\rvert$ は基点をもたない。

$D^2+K_X\cdot D$ の偶奇

$L$ が数値的に自明なら、$-K_X$ は豊富な $A$ と数値的に等しいので豊富で、prop-bpf-numtrivial($B=0$)により $L\sim0$ である。
$L$ が数値的に自明でないとする。$L$ はネフなので $L^2\ge0$、$L\cdot A\ge0$ である。$L\cdot A=0$ なら Hodge指数定理 により $L^2<0$ となって矛盾するので、$L\cdot A\ge1$ である。$m\ge a+3$ について $N:=mL-K_X=(m-a)L+A$ は豊富で
$$ N^2=(m-a)^2L^2+2(m-a)L\cdot A+A^2\ge6+1>5 $$
である。$P$ を $\lvert mL\rvert=\lvert K_X+N\rvert$ の基点とすると、thm-bpf-reider の因子 $D$ がある。$N$ は豊富なので $N\cdot D>0$ であり、残るのは $N\cdot D=1$、$D^2=0$ の場合だけである。$N\cdot D=(m-a)L\cdot D+A\cdot D$ で、$L\cdot D\ge0$、$A\cdot D\ge1$、$m-a\ge3$ なので、$L\cdot D=0$、$A\cdot D=1$ である。すると $K_X\cdot D=aL\cdot D-A\cdot D=-1$ で、$D^2+K_X\cdot D=-1$ は奇数である。一方、曲面の交点形式とRiemann–Rochの定理 の Riemann–Roch の公式により $\frac12D\cdot(D-K_X)$ は整数なので、$D^2-K_X\cdot D$ は偶数であり、$D^2+K_X\cdot D$ も偶数である。これは矛盾である。$\square$

例と反例

点の爆発の 2 つの収縮

$f\colon X\to\mathbb{P}^2$ を点の爆発、$E$ を例外曲線、$h$ を直線の引き戻しとする。$K_X=-3h+E$ である。$xh-yE$ は、$x>y>0$ なら豊富である。実際、自己交点数は $x^2-y^2>0$、$E$ との交点数は $y>0$、$E$ と異なる曲線 $C\sim dh-\mu E$($d\ge1$、$0\le\mu\le d$)との交点数は $xd-y\mu\ge d(x-y)>0$ である(中井–Moishezon の判定)。
$L=h$ なら $L-K_X=4h-E$ は豊富で、$\lvert mL\rvert$ が定める射の Stein 分解は $f$ である。$L\cdot C=0$ となる曲線は $E$ だけで、prop-bpf-morphism の 2 と一致する。$L=h-E$ なら $L-K_X=4h-2E$ は豊富で、$\lvert L\rvert$ は $P$ を通る直線の束で、$X\to\mathbb{P}^1$ を定める。$L\cdot C=0$ となる曲線はこの射のファイバーである。$\overline{NE}(X)$ は $E$ と $h-E$ の類が張る 2 本の端射線からなり、この 2 つの $L$ はそれぞれの端射線を潰す。

次の表は、仮定を 1 つ外すと結論が崩れることを示す。

外す条件例成り立たなくなること
thm-bpf-main の $aL-(K_X+B)$ の豊富性楕円曲線、$B=0$、位数無限の次数 $0$ の $L$すべての $m\ge1$ で切断がない
thm-bpf-main の $L$ のネフ性点の爆発、$B=0$、$L=E$、$a=\frac12$すべての $m\ge1$ で $E$ が基点集合に含まれる
thm-bpf-main の kltex-bpf-cubic の曲面、$B=(1+s)C$(有理数 $s>0$)すべての $m\ge1$ で $C$ が基点集合に含まれる
prop-bpf-nefbig の kltex-bpf-cubic の曲面、$B=C$(lc 対)すべての $m\ge1$ で $C$ が基点集合に含まれる
3 次曲線上の 12 点の爆発

$C_0\subset\mathbb{P}^2$ を滑らかな 3 次曲線とする。相異なる 11 点 $p_1,\dots,p_{11}\in C_0$ を選ぶ。点 $p\in C_0$ に次数 $0$ の可逆層 $\mathcal{O}_{C_0}(4)(-\sum_{i\le11}p_i-p)$ を対応させる写像は、種数 $1$ なので単射であり、$\operatorname{Pic}^0(C_0)$ のねじれ元は可算個だから、この可逆層が位数無限となる $p=:p_{12}$($p_1,\dots,p_{11}$ と異なる)がとれる。$X$ を 12 点の爆発、$E_i$ を例外曲線、$h$ を直線の引き戻し、$C$ を $C_0$ の強変換とする。$C\sim3h-\sum E_i$、$K_X=-3h+\sum E_i=-C$、$C^2=-3$ である。
$L:=C+h=4h-\sum E_i$ とおく。$L\cdot C=12-12=0$ で、$C$ と異なる曲線 $\Gamma$ については $L\cdot\Gamma=C\cdot\Gamma+h\cdot\Gamma\ge0$ なので $L$ はネフであり、$L^2=4>0$ なので巨大である(川又–Viehwegの消滅定理 の命題「曲面の上のネフかつ巨大な因子」)。$\mathcal{O}_X(L)|_C$ は $C\cong C_0$ の上で上の次数 $0$ の位数無限の可逆層である。よって $m\ge1$ で $\mathcal{O}_X(mL)|_C$ は $0$ でない切断をもたず、$H^0(X,\mathcal{O}_X(mL))$ の元はすべて $C$ の上で $0$ になる。すなわち $C\subset\operatorname{Bs}\lvert mL\rvert$ であり、$L$ は半豊富でない。
$B=C$ の場合.$C$ は滑らかで係数は $1$ なので $(X,C)$ は lc 対だが klt でない。$aL-(K_X+C)=aL$ はネフかつ巨大である。よって prop-bpf-nefbig の klt を lc に弱めることはできない。
$B=(1+s)C$ の場合.有理数 $s>0$ と有理数 $a>s$ をとる。$D:=aL-(K_X+B)=aL-sC$ は豊富である。実際 $D^2=4a^2-3s^2>0$、$D\cdot C=3s>0$ で、$C$ と異なる曲線 $\Gamma$ については $D\cdot\Gamma=(a-s)C\cdot\Gamma+ah\cdot\Gamma$ である。$h\cdot\Gamma=0$ となるのは $\Gamma=E_i$ のときだけで、そのとき $C\cdot E_i=1$ なので、$D\cdot\Gamma>0$ である。中井–Moishezon の判定により $D$ は豊富である。$(X,B)$ は lc でないので klt も破れており、ほかの仮定はすべて成り立つ。これは rem-bpf-source の追加の仮定が $\operatorname{Nlc}(X,B)=C$ の上で破れている例である。

豊富性とネフ性を外した例の確かめ

豊富性を外した例.$X$ を楕円曲線、$L$ を次数 $0$ で位数無限の因子とする。$L$ はネフで、$K_X=0$ なので $aL-K_X$ の次数は $0$ であり、豊富でない(巨大でもない)。$mL\not\sim0$ なので $H^0(\mathcal{O}_X(mL))=0$ である。
ネフ性を外した例.ex-bpf-blowup の曲面で $L=E$、$a=\frac12$ とする。$L\cdot E=-1$ なのでネフでない。$aL-K_X=3h-\frac12E$ は豊富である。$h^0(\mathcal{O}_X(mE))=1$($f_*\mathcal{O}_X(mE)=\mathcal{O}_{\mathbb{P}^2}$)なので $\lvert mE\rvert=\{mE\}$ であり、$E$ は基点集合に含まれる。

関連項目

参考文献

[1]
Osamu Fujino, Fundamental theorems for the log minimal model program, arXiv:0909.4445v3, 2010, §2(p. 7)、§3(p. 8)、4.4・定義 4.5・定義 4.6(pp. 11–12)、Theorem 12.1(p. 34)、Lemma 12.2(p. 36)、Theorem 13.1 とその証明(pp. 38–39)、Lemma 13.2(p. 40)、Theorem 16.4 とその証明(pp. 47–48)
[3]
Paul Vojta, Diophantine approximation and Nevanlinna theory, Arithmetic Geometry, Lecture Notes in Mathematics, 2011, 著者サイトの版(刊行版と同じ頁番号)。Proposition 9.12(p. 146)

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