Hausdorff測度と面積・余面積公式(Hausdorff measure and area/coarea formulas)とは、距離空間の部分集合の次元別の大きさを直径被覆から測り、Euclid空間間のLipschitz写像についてJacobianの積分を像の重複度またはファイバーのHausdorff測度へ変換する枠組みである。正規化、面積Jacobianと余面積Jacobian、可測性、重複度、次元の仮定を固定すると、曲線・曲面の面積、Lipschitzグラフ、等位集合の積分を同じ原理で扱える。
前提知識: 測度, Lebesgue積分, Lipschitz写像, 多変数微分積分学
曲線は平面内でLebesgue測度 $0$ になるが、長さまで $0$ になるわけではない。Hausdorff測度は、集合を小集合で覆い、それらの直径の $s$ 乗を足すことで、距離空間の部分集合の「$s$ 次元的な大きさ」を測る。さらに面積公式はLipschitz写像の像を、余面積公式はその等位集合を積分で数える。この二公式では、写像の重なりを数えることと、微分が体積を伸縮する割合を表すJacobianを入れることが不可欠である。
$s>0$ に対して
$$
\alpha_s:=\frac{\pi^{s/2}}{\Gamma(1+s/2)}
$$
とおく。整数 $s$ では、これは $\mathbb{R}^s$ の単位球のLebesgue測度である。
$(X,d)$ を距離空間、$E\subset X$、$s>0$、$\delta>0$ とする。$E$ の高々可算な被覆のうち、各被覆集合の直径が $\delta$ 以下であるものを用いて
$$
\mathcal H^s_\delta(E)
:=\inf\left\{
\sum_{i=1}^{\infty}\alpha_s\left(\frac{\operatorname{diam}U_i}{2}\right)^s
\mathrel{\Big|}
E\subset\bigcup_{i=1}^{\infty}U_i,
\ \operatorname{diam}U_i\leq\delta
\right\}
$$
と定める。$\delta$ を小さくすると右辺は単調非減少になるので、
$$
\mathcal H^s(E):=\lim_{\delta\downarrow0}\mathcal H^s_\delta(E)
$$
が定まり、これを $s$ 次元Hausdorff測度という。また $\mathcal H^0$ は点を数える測度、すなわち有限集合では点の個数、無限集合では $\infty$ と定める。
係数 $\alpha_s/2^s$ は単なる飾りではない。この正規化では、$\mathbb{R}^n$ 上の $\mathcal H^n$ が通常の $n$ 次元Lebesgue測度と一致し、線分の $\mathcal H^1$ が通常の長さに一致する。文献によっては係数を付けずに定義するため、その場合は以下の公式全体に一定の換算係数が現れる。
$\mathcal H^s$ は距離的外測度であり、すべてのBorel集合は $\mathcal H^s$-可測である。さらに任意の整数 $n\geq1$ について、$\mathbb{R}^n$ 上では $\mathcal H^n$ と $n$ 次元Lebesgue測度が一致する。
外測度の構成、Borel可測性、および上の正規化定数によるLebesgue測度との一致の証明は EG15 Chapter 2 を参照。本記事ではこの標準定理を証明せず、被覆から直接従う性質を以下で証明する。
$F\colon X\to Y$ が $L$-Lipschitz写像、$E\subset X$、$s>0$ ならば
$$
\mathcal H^s(F(E))\leq L^s\mathcal H^s(E)
$$
が成り立つ。
まず $L>0$ とする。$E\subset\bigcup_iU_i$ かつ $\operatorname{diam}U_i\leq\delta$ ならば、$F(E)\subset\bigcup_iF(U_i)$ であり、
$$
\operatorname{diam}F(U_i)\leq L\operatorname{diam}U_i\leq L\delta
$$
である。したがって
$$
\mathcal H^s_{L\delta}(F(E))
\leq
L^s\sum_i\alpha_s\left(\frac{\operatorname{diam}U_i}{2}\right)^s.
$$
左辺の被覆について下限をとるのではなく、右辺に現れた $E$ のすべての $\delta$-被覆について下限をとれば
$$
\mathcal H^s_{L\delta}(F(E))\leq L^s\mathcal H^s_\delta(E)
$$
を得る。$\delta\downarrow0$ として所望の不等式が従う。$L=0$ なら $F(E)$ は空集合または一点集合であり、$s>0$ に対してその $\mathcal H^s$ は $0$ なので、同じ結論が成り立つ。
$0< s< t$ とし、$E\subset X$ が $\mathcal H^s(E)<\infty$ を満たすとする。このとき $\mathcal H^t(E)=0$ である。
$E$ の各 $\delta$-被覆 $(U_i)_i$ に対して、$\operatorname{diam}U_i\leq\delta$ より
$$
\begin{aligned}
\sum_i\alpha_t\left(\frac{\operatorname{diam}U_i}{2}\right)^t
&=\frac{\alpha_t}{\alpha_s}
\sum_i\left(\frac{\operatorname{diam}U_i}{2}\right)^{t-s}
\alpha_s\left(\frac{\operatorname{diam}U_i}{2}\right)^s\\
&\leq
\frac{\alpha_t}{\alpha_s}
\left(\frac{\delta}{2}\right)^{t-s}
\sum_i\alpha_s\left(\frac{\operatorname{diam}U_i}{2}\right)^s.
\end{aligned}
$$
下限をとると
$$
\mathcal H^t_\delta(E)
\leq
\frac{\alpha_t}{\alpha_s}
\left(\frac{\delta}{2}\right)^{t-s}
\mathcal H^s_\delta(E)
\leq
\frac{\alpha_t}{\alpha_s}
\left(\frac{\delta}{2}\right)^{t-s}
\mathcal H^s(E).
$$
右辺は $\delta\downarrow0$ で $0$ に収束するので、$\mathcal H^t(E)=0$ である。
この命題により、$\mathcal H^s(E)$ が有限値から $0$ へ移る臨界指数としてHausdorff次元
$$
\dim_{\mathrm H}E
:=\inf\{s>0\mid \mathcal H^s(E)=0\}
$$
を定義できる。ただし、臨界指数そのものにおける測度は $0$、有限正値、$\infty$ のいずれにもなり得る。
$a,b\in\mathbb{R}^n$ に対し、線分 $[a,b]$ の一次元Hausdorff測度は
$$
\mathcal H^1([a,b])=\|b-a\|
$$
である。
$a=b$ の場合は明らかなので $\ell:=\|b-a\|>0$ とする。写像 $\gamma(t)=a+t(b-a)/\ell$ は $[0,\ell]$ から $[a,b]$ への等長写像であるから、Lipschitz評価を両方向に適用すれば、$[0,\ell]\subset\mathbb{R}$ の場合を示せばよい。
$\alpha_1=2$ なので、一次元Hausdorff和の各項は $\operatorname{diam}U_i$ である。$[0,\ell]$ の任意の可算被覆 $(U_i)_i$ に対し、各 $U_i$ を長さ $\operatorname{diam}U_i$ の閉区間で覆える。Lebesgue外測度の可算劣加法性から
$$
\ell\leq\sum_i\operatorname{diam}U_i
$$
であり、したがって $\mathcal H^1_\delta([0,\ell])\geq\ell$ である。逆に、$[0,\ell]$ を長さが $\delta$ 以下で、内部が互いに交わらない有限個の閉区間に分割すれば、直径の総和は $\ell$ になる。ゆえに $\mathcal H^1_\delta([0,\ell])\leq\ell$ である。任意の $\delta>0$ で等号が成り立つので、極限をとって結論を得る。
以下では、$dx$ と $dy$ は対応するEuclid空間のLebesgue測度を表す。Lipschitz写像は至るところ微分可能とは限らないが、次の定理により微分がほとんど至るところ存在する。
$F\colon\mathbb{R}^m\to\mathbb{R}^n$ がLipschitz写像ならば、$F$ はLebesgue測度に関してほとんど至るところFréchet微分可能である。
Rademacherの定理の証明は EG15 Chapter 3 を参照。本記事では証明せず、微分不能な零集合上では以下のJacobianを $0$ と置く。
$DF(x)$ を $n\times m$ 行列とみなす。
添字を付けずに $JF$ とだけ書くと、定義域と値域のどちらの次元を用いるかが隠れてしまう。本記事では面積公式では $J_mF$、余面積公式では $J_nF$ と書き分ける。
$1\leq m\leq n$、$F\colon\mathbb{R}^m\to\mathbb{R}^n$ をLipschitz写像、$A\subset\mathbb{R}^m$ をLebesgue可測集合、$g\colon A\to[0,\infty]$ をLebesgue可測関数とする。このとき、両辺が $[0,\infty]$ に値をもつ等式として
$$
\int_A g(x)J_mF(x)\,dx
=
\int_{\mathbb{R}^n}
\left(
\sum_{x\in A\cap F^{-1}(y)}g(x)
\right)
\,d\mathcal H^m(y)
$$
が成り立つ。空のファイバー上の和は $0$ とする。
この形の面積公式と被積分関数の可測性を含む証明は EG15 Chapter 3 を参照。完全な証明にはRademacherの定理、微分の階数ごとの分解、ほとんど単射なLipschitz部分への分解、および線形写像に対する体積計算が必要であり、本記事では省略する。
$g=1$ とすれば、右辺は像の点 $y$ を単に一回ずつ測るのではなく、ファイバー $A\cap F^{-1}(y)$ の点数を重複度として数える。
面積公式の仮定のもとで、$F$ が $A$ 上単射ならば
$$
\mathcal H^m(F(A))=\int_AJ_mF(x)\,dx
$$
が成り立つ。
面積公式で $g=1$ とする。$F$ が $A$ 上単射なので、各 $y$ に対する $A\cap F^{-1}(y)$ の点数は、$y\in F(A)$ なら $1$、そうでなければ $0$ である。したがって右辺は $\int_{\mathbb{R}^n}1_{F(A)}\,d\mathcal H^m=\mathcal H^m(F(A))$ になる。
$F\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}^2$ を $F(t)=(\cos t,\sin t)$ とし、$A=[0,4\pi]$ とする。$J_1F(t)=\|F'(t)\|=1$ なので
$$
\int_0^{4\pi}J_1F(t)\,dt=4\pi.
$$
一方、像は単位円であり、その $\mathcal H^1$ は $2\pi$ である。ほとんどすべての像点が二つの逆像をもつため、面積公式の右辺は重複度を数えて $4\pi$ になる。この例は「$\int_AJ_mF=\mathcal H^m(F(A))$ が単射性なしにも成り立つ」という含意を破る。
$u\colon\mathbb{R}^m\to\mathbb{R}$ をLipschitz関数とし、$F(x)=(x,u(x))$ とおく。$F$ は単射で、微分可能点では
$$
J_mF(x)=\sqrt{1+\|\nabla u(x)\|^2}
$$
である。したがって可測集合 $A\subset\mathbb{R}^m$ に対し
$$
\mathcal H^m\big(\{(x,u(x))\mid x\in A\}\big)
=\int_A\sqrt{1+\|\nabla u(x)\|^2}\,dx.
$$
これは滑らかなグラフの面積公式がLipschitzグラフにも成り立つことを示す。
$1\leq n\leq m$、$F\colon\mathbb{R}^m\to\mathbb{R}^n$ をLipschitz写像、$g\colon\mathbb{R}^m\to[0,\infty]$ をLebesgue可測関数とする。このとき、両辺が $[0,\infty]$ に値をもつ等式として
$$
\int_{\mathbb{R}^m}g(x)J_nF(x)\,dx
=
\int_{\mathbb{R}^n}
\left(
\int_{F^{-1}(y)}g(x)\,d\mathcal H^{m-n}(x)
\right)dy
$$
が成り立つ。特にLebesgue可測集合 $A\subset\mathbb{R}^m$ に対して $g=1_A$ とすれば
$$
\int_AJ_nF(x)\,dx
=
\int_{\mathbb{R}^n}\mathcal H^{m-n}(A\cap F^{-1}(y))\,dy.
$$
Lipschitz写像に対する余面積公式の証明と、ほとんどすべてのファイバー上の内部積分の可測性は EG15 Chapter 3 を参照。証明にはRademacherの定理、階数が落ちる部分の処理、線形余面積公式、Lipschitz分解が必要であり、本記事では省略する。
内側の測度はファイバーの期待次元 $m-n$ に対応する。$m=n$ では $\mathcal H^0$ が点を数えるため、余面積公式は重複度を含む変数変換公式となる。
$F(x)=\|x\|$ を $\mathbb{R}^m\to\mathbb{R}$ の写像とする。$x\neq0$ では $J_1F(x)=\|\nabla F(x)\|=1$ である。したがって非負可測関数 $g$ に対して
$$
\int_{\mathbb{R}^m}g(x)\,dx
=
\int_0^\infty
\left(
\int_{\{x:\|x\|=r\}}g(x)\,d\mathcal H^{m-1}(x)
\right)dr.
$$
これは極座標積分を、球面上のHausdorff測度で表した形である。
$a>0$ とし、$F_a\colon\mathbb{R}^m\to\mathbb{R}$ を $F_a(x_1,\ldots,x_m)=ax_1$、$A=[0,1]^m$ とする。$J_1F_a=a$ なので左辺は
$$
\int_AJ_1F_a\,dx=a
$$
である。$0< y< a$ では $A\cap F_a^{-1}(y)$ は一辺 $1$ の $(m-1)$ 次元立方体で、その $\mathcal H^{m-1}$ は $1$ だから、右辺も $\int_0^a1\,dy=a$ である。左辺からJacobianを除けば値は $1$ となり、$a\neq1$ では等式が壊れる。この例は「余面積公式で $J_nF$ を省ける」という主張への反例である。
面積公式は、媒介変数領域の各点を像上で重複度つきに数える公式である。したがって自己交差をもつ媒介表示では、像集合のHausdorff測度だけに置き換えてはならない。余面積公式は、値 $y$ ごとのファイバーの大きさをLebesgue測度で積分する公式であり、すべての $y$ についてファイバーが滑らかな多様体であることを要求しない。
可算 $m$-整流可能集合とは、$\mathcal H^m$-零集合を除いて可算個の $\mathbb{R}^m$ からのLipschitz像で覆える集合である。面積公式を各Lipschitz像に適用することで、このような集合上の接Jacobianを用いる積分公式へ進める。ただし、純粋に非整流な集合では、Hausdorff測度が定義できることと、Lipschitz曲面による面積表示ができることは別問題である。整流可能集合上の一般形は Fed69 §3.2 を参照。
また、ここで述べた公式はEuclid空間間のLipschitz写像に対するものである。一般の距離空間における類似の不等式やmetric Jacobianには追加の仮定と別の定式化が必要であり、上の行列式公式をそのまま使うことはできない。
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