初等関数で表せない原始関数

同義語:初等関数で書けない積分非初等的な積分nonelementary integral

概要

初等関数で表せない原始関数(nonelementary integral)とは、連続関数の原始関数で、有理関数・指数関数・対数関数・代数方程式の解を有限回組み合わせた式(初等関数。三角関数も含む)で書けないものである。有理関数 $f\ne0$ と定数でない $g$ について、$fe^g$ が初等関数の原始関数をもつのは $R'+g'R=f$ を満たす有理関数 $R$ があるとき、かつそのときに限る(Liouville の判定法)。これと Liouville の定理の一般形などを認めると $e^{-x^2}$、$\frac{e^x}x$、$\frac1{\log x}$ の原始関数が初等関数でないと示せ、$\frac1{\sqrt{1-x^4}}$ も同様と知られる。定積分 $\int_{-\infty}^\infty e^{-x^2}\,dx=\sqrt\pi$ は挟んで求まる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 不定積分, 微分積分学の基本定理, 部分積分, 置換積分, 複素数, 有理関数, 指数関数, 対数関数

動機

置換積分・部分積分・部分分数分解を覚えると、どんな関数でも頑張れば積分できそうに思える。ところが $e^{-x^2}$、$\frac{e^x}x$、$\frac{\sin x}x$ のように、式は簡単なのにどの手も効かない関数がある。
まず、原始関数そのものは必ず存在することを確認しておく。区間 $I$ で連続な関数 $f$ と $c\in I$ について $F(x):=\int_c^xf(t)\,dt$ とおけば、微分積分学の基本定理により $F'=f$ である(Leb26 Theorem 5.3.3)。問題は、その $F$ を多項式・指数関数・対数関数・三角関数などを有限回組み合わせた式で書けるか、である。書けないとき、その原始関数を初等関数で表せない原始関数という。
本記事では、「初等関数」を定義し、Liouville の判定法を使って、行き詰まりが技法の不足ではなく答が初等関数の中にないためであることを示す。例では実際に手を尽くしてどこで行き詰まるかを見たうえで判定し、最後に、それでも定積分の値なら求まる例(Gauss 積分)を証明する。
以下、$\log$ は自然対数である。

定義

以下では、実数の区間の上で定義された複素数値の関数を考える。複素数の値を許すのは、三角関数を指数関数で書けるようにするためである。実際、$e^{ix}:=\cos x+i\sin x$ とおくと
$$ \cos x=\frac{e^{ix}+e^{-ix}}2,\qquad \sin x=\frac{e^{ix}-e^{-ix}}{2i},\qquad \arctan x=\frac1{2i}\log\frac{1+ix}{1-ix} $$
となり、三角関数・逆三角関数は指数関数・対数関数の仲間になる(Con05 Example 2.1 参照)。複素数係数の多項式の商を有理関数といい、その微分は実数係数のときと同じ規則で行う。

初等関数

複素数係数の有理関数から出発し、すでに得た関数 $u$ について

  • 指数関数 $e^{u}$、
  • 対数関数 $\log u$(値の決め方を 1 つ固定したもの)、
  • すでに得た関数を係数とする、$0$ でない(モニックな)多項式の方程式の解($\sqrt u$、$\sqrt[3]{u+x}$ など)
    を付け加え、四則演算を行う、という操作を有限回繰り返して得られる関数を初等関数という(Con05 Definition 3.3 を言葉で述べたもの)。初等関数 $f$ が初等関数の原始関数をもつとは、$F'=f$ となる初等関数 $F$ があることをいう。
    この操作で順に付け加えた関数を $f_1,\dots,f_n$ とするとき、$x,f_1,\dots,f_n$ と複素数から四則で作れる関数(分母が恒等的に $0$ でないもの)の全体を $\mathbb{C}(x,f_1,\dots,f_n)$ と書き、初等体という。初等関数とは、ある初等体に属する関数のことである。

初等関数 $f,g$ の合成 $f\circ g$ も初等関数である。$f$ を作る操作の列で、出発点の有理関数 $r(x)$ をすべて $r(g(x))$ に替え、以後の操作($e^u$、$\log u$、多項式方程式の解、四則)を同じ順に施せば $f\circ g$ が得られる。$r(g(x))$ は $g$ に四則を施したものなので初等関数であり、各操作は初等関数から初等関数を作るからである(合成が意味をもつ区間で考え、$\log$ や方程式の解の値の決め方は $f$ での決め方に合わせてとる)。また、初等関数の導関数も初等関数である(Con05 Theorem 3.6)。$\sin(x^2)$、$\frac{e^x}x$、$\sqrt{1-x^4}$、$\log(1+\sin x)$ などはすべて初等関数である。問題は、初等関数の原始関数が初等関数とは限らないことである。

定理と証明

Liouville の定理と判定法

Liouville は 19 世紀に、初等関数の原始関数が初等関数になるなら、その形が強く制限されることを示した。本記事では、その一般形(Liouville の定理)と、そこから導かれる判定法を、どちらも証明せずに引用する。

Liouville の定理

初等関数 $f$ が初等関数の原始関数をもつなら、$f$ を含む任意の初等体 $K$ について、$0$ でない複素数 $c_1,\dots,c_n$、$0$ でない $u_1,\dots,u_n\in K$、および $v\in K$ があって
$$ f=\sum_{j=1}^nc_j\frac{u_j'}{u_j}+v' $$
が成り立つ。ただし $n=0$(和がない場合)も含める(Con05 Theorem 4.1。微分体の言葉で述べた同じ定理が Ros72 p. 968 にあり、証明は pp. 968–970)。

右辺は $\sum_jc_j\log u_j+v$ の導関数であり、原始関数が初等関数なら、$K$ の元の対数と $K$ の元だけで書き直せる、という主張である。$K$ は $f$ を含む初等体なら何でもよいので、次の判定法より強い。判定法は、$K=\mathbb{C}(x,e^g)$ にこの定理を使って導かれる(Con05 §5)。

Liouville の判定法

$f,g$ を複素数係数の有理関数とし、$f\ne0$、$g$ は定数でないとする。$f(x)e^{g(x)}$ が初等関数の原始関数をもつための必要十分条件は、
$$ R'(x)+g'(x)R(x)=f(x) $$
を満たす複素数係数の有理関数 $R$ が存在することである(Con05 Theorem 4.4。thm-inel-liouville-general から導かれる)。

十分性はすぐ分かる。そのような $R$ があれば $\bigl(R\,e^g\bigr)'=(R'+g'R)e^g=fe^g$ なので、$Re^g$ が初等関数の原始関数である。必要性(初等関数の原始関数があれば、それは $R\,e^g$ の形に取り直せる)が Liouville の定理の核心で、その証明には微分体の代数的な理論が要る。後の例 1 の (d) は、この形の $R$ を多項式に限って探したものである。有理関数まで広げても解がないことは、次の補題で示せる。

極をもたない解

$g,h$ を複素数係数の多項式で $g$ は定数でないとし、$e\in\{0,1\}$ とする。有理関数 $R$ が $x^e\bigl(R'+g'R\bigr)=h$ を満たすなら、$R$ は多項式である。

分母の根を代入する

$R$ が多項式でないとする。$R$ を既約分数 $\frac PQ$ に書くと $Q$ は定数でなく、代数学の基本定理(証明しない)により複素数の根 $z_0$ をもつ。$R=\frac{P}{(x-z_0)^\ell T}$($\ell\ge1$、$P,T$ は多項式で $P(z_0)\ne0$、$T(z_0)\ne0$)と書ける。商の微分から
$$ R'=\frac{P'(x-z_0)T-\ell PT-(x-z_0)PT'}{(x-z_0)^{\ell+1}T^2} $$
なので、与式の両辺に $(x-z_0)^{\ell+1}T^2$ を掛けると多項式の等式
$$ x^e\bigl(P'(x-z_0)T-\ell PT-(x-z_0)PT'+g'(x-z_0)PT\bigr)=h\,(x-z_0)^{\ell+1}T^2 $$
を得る。$x=z_0$ を代入すると $-\ell z_0^eP(z_0)T(z_0)=0$ である。$e=0$ または $z_0\ne0$ なら、これは矛盾である。残るのは $e=1$、$z_0=0$ の場合で、このとき両辺は $x$ で割り切れる(右辺は $x^{\ell+1}$ を含む)。$x$ で割ってから $x=0$ を代入すると、$\ell\ge1$ より右辺は $0$ で、左辺は $-\ell P(0)T(0)$ となり、やはり矛盾である。$\square$

Gauss 関数の原始関数

$e^{-x^2}$ は初等関数の原始関数をもたない(thm-inel-liouville を仮定する)。

有理関数の解がない

thm-inel-liouville を $f=1$、$g=-x^2$ に使うと、$R'-2xR=1$ を満たす有理関数 $R$ がないことを示せばよい。lem-inel-no-pole($e=0$、$h=1$)により $R$ は多項式である。$R=0$ なら左辺は $0$ である。$R$ が $r$ 次なら $-2xR$ は $r+1$ 次、$R'$ は $r-1$ 次以下なので、$R'-2xR$ は $r+1\ge1$ 次である。どちらも定数 $1$ にならない。$\square$

同じ議論で、$g=-x^2$ を $g=ix^2$ に替えても($R'+2ixR=c$、$c\ne0$ は定数)有理関数の解はない。$g$ が 2 次以上の多項式で $f$ が $0$ でない定数なら、$R'+g'R$ の次数は $r+\deg g-1\ge1$ となって定数にならないからである。

例

例 1($e^{-x^2}$ で行き詰まる)

例 1

$\int e^{-x^2}\,dx$ を、知っている技法で求めようとしてみよ。

指数関数の中に $x^2$ が入った合成関数である。$\int xe^{-x^2}\,dx=-\frac12e^{-x^2}$ は置換 $u=x^2$ ですぐ求まるが、今回は前に $x$ がない。候補は (a) 置換 $u=x^2$、(b) 部分積分、(c) 冪級数で項別に積分する、(d) 答の形を $P(x)e^{-x^2}$ と予想して係数を決める、である。
(a) $u=x^2$、$x=\sqrt u$ とすると $dx=\frac{du}{2\sqrt u}$ で、$\int\frac{e^{-u}}{2\sqrt u}\,du$ になる。根号が分母に移っただけで、易しくなっていない。
(b) $F=e^{-x^2}$、$G'=1$ とすると
$$ \int e^{-x^2}\,dx=xe^{-x^2}+2\int x^2e^{-x^2}\,dx $$
で、右辺の方が $x$ の次数が高い。逆向きに $\int x^2e^{-x^2}\,dx$ から出発すると元に戻るだけである。
(c) $e^{-x^2}=\sum_{k=0}^\infty\frac{(-1)^kx^{2k}}{k!}$ を項別に積分すると、$\int_0^xe^{-t^2}\,dt=\sum_{k=0}^\infty\frac{(-1)^kx^{2k+1}}{k!\,(2k+1)}$ が得られる(項別積分できることはここでは証明しない)。これは正しい式で数値計算にも使えるが、無限個の項の和であり、有限回の組合せで書いた式ではない。
(d) $\int xe^{-x^2}\,dx=-\frac12e^{-x^2}$ にならい、多項式 $P$ で $\bigl(P(x)e^{-x^2}\bigr)'=e^{-x^2}$ となるものを探す。左辺は $\bigl(P'(x)-2xP(x)\bigr)e^{-x^2}$ なので、$P'-2xP=1$ が必要である。$P$ が $r$ 次なら $P'-2xP$ は $r+1$ 次で、定数 $1$ にはならない。$P=0$ も駄目である。多項式の範囲に答はない。
ところで、(d) は「答が $P(x)e^{-x^2}$ の形」と決めつけた。分母のある形、$\log$ を含む形、根号を含む形など、候補は無数にある。それらを全部調べ尽くすことはできるのか。これに答えるのが Liouville の判定法(thm-inel-liouville)である。この判定法によれば (d) の形の $P$ を有理関数まで広げて探せば十分で、prop-inel-gauss で示したとおりそこに解はないので、$e^{-x^2}$ の原始関数は初等関数で書けないことが確定する。

例 2(似ているのに、積分できるものとできないもの)

例 2

次の 3 つの原始関数が初等関数で書けるかを判定せよ。(i) $xe^{-x^2}$、(ii) $(1-2x^2)e^{-x^2}$、(iii) $x^2e^{-x^2}$。答は、(i)(ii) は書け、(iii) は書けない。

どれも「多項式 × $e^{-x^2}$」である。候補は (a) 置換 $u=x^2$、(b) 部分積分で次数を下げる、(c) 答を $P(x)e^{-x^2}$ と予想する、である。
(i) は (a) で $-\frac12e^{-x^2}$ である。(iii) に (b) を使い、$x^2e^{-x^2}=x\cdot xe^{-x^2}$ として $F=x$、$G=-\frac12e^{-x^2}$ とすると
$$ \int x^2e^{-x^2}\,dx=-\frac12xe^{-x^2}+\frac12\int e^{-x^2}\,dx $$
となる。次数は下がったが、最後に例 1 の $\int e^{-x^2}\,dx$ が残る。
そこで (c) の考えで、$\bigl(P(x)e^{-x^2}\bigr)'=(P'-2xP)e^{-x^2}$ が目標に一致する多項式 $P$ を探す。(ii) は $P=x$ で $P'-2xP=1-2x^2$ となり、原始関数は $xe^{-x^2}$ である。(iii) は、$P$ が $r$ 次なら $P'-2xP$ は $r+1$ 次なので $r=1$、$P=ax+b$ とおくと $P'-2xP=-2ax^2-2bx+a$ である。これが $x^2$ に等しいには $a=-\frac12$、$b=0$、かつ定数項 $a=0$ が必要で、矛盾する。
(iii) が初等関数で書けないことは、上の部分積分の式から分かる。もし $x^2e^{-x^2}$ が初等関数の原始関数 $H$ をもてば、$2H+xe^{-x^2}$ は初等関数で、その導関数は $e^{-x^2}$ となり、prop-inel-gauss に反する。
多項式 $Q\ne0$ について、$Qe^{-x^2}$ の原始関数が初等関数で書けるのは、$Q=P'-2xP$ となる多項式 $P$ があるとき、かつそのときに限る(thm-inel-liouville と lem-inel-no-pole から、$R$ は多項式に限ってよい)。部分積分で次数を下げていって、最後に残る $e^{-x^2}$ の係数が $0$ になるかどうかで決まる、と言ってもよい。見た目が似ていても、積分できるかどうかは係数の小さな違いで分かれる。

例 3($\frac{e^x}x$ と $\frac1{\log x}$)

例 3

$\frac{e^x}x$($x>0$)と $\frac1{\log x}$($x>1$)の原始関数は初等関数で書けないことを示せ。

$\frac{e^x}x$ は「有理関数 × $e^x$」である。$\frac1{\log x}$ は $x=e^t$ と置換すると $\frac{e^t}t$ になる。候補は (a) 部分積分を繰り返す、(b) thm-inel-liouville を使う、である。
(a) $F=\frac1x$、$G=e^x$ とすると $\int\frac{e^x}x\,dx=\frac{e^x}x+\int\frac{e^x}{x^2}\,dx$ である。これを繰り返すと
$$ \int\frac{e^x}x\,dx=e^x\Bigl(\frac1x+\frac1{x^2}+\frac{2!}{x^3}+\cdots+\frac{(n-1)!}{x^n}\Bigr)+n!\int\frac{e^x}{x^{n+1}}\,dx $$
となり、いつまでも積分が残る。係数 $(n-1)!$ は急速に大きくなり、$n\to\infty$ としても収束しない。
そこで (b)。$f=\frac1x$、$g=x$ として、$R'+R=\frac1x$、すなわち $x(R'+R)=1$ を満たす有理関数 $R$ がないことを示す。lem-inel-no-pole($e=1$、$h=1$)により $R$ は多項式である。$R=0$ なら左辺は $0$、$R$ が $r$ 次なら $x(R'+R)$ は $r+1\ge1$ 次である。どちらも $1$ にならない。よって $\frac{e^x}x$ は初等関数の原始関数をもたない。
$\frac1{\log x}$ については、$x>1$ で初等関数 $G$ が $G'(x)=\frac1{\log x}$ を満たしたとすると、$t>0$ で $\frac d{dt}G(e^t)=\frac{e^t}{\log e^t}=\frac{e^t}t$ となり、$G(e^t)$ は初等関数(初等関数の合成)なので、いま示したことに反する。
(a) の展開は、分母の $x$ を部分積分で消そうとするたびに $x$ の次数が上がることを示している。判定法は、この「消えない分母」を、有理関数 $R$ の極(分母の根)の議論で正確に述べたものである。$\int_2^x\frac{dt}{\log t}$ は素数の個数の近似に現れる関数で(Con05 §1)、初等関数で書けないので名前(対数積分)がついている。

例 4($\frac{\sin x}x$ と $\sin(x^2)$)

例 4

$\frac{\sin x}x$ と $\sin(x^2)$ の原始関数が初等関数で書けないことを示せ。

$\sin$ は $\frac{e^{ix}-e^{-ix}}{2i}$ なので、どちらも「有理関数 × 指数関数」の2 項の和である。
$$ \sin(x^2)=\frac1{2i}e^{ix^2}-\frac1{2i}e^{-ix^2},\qquad \frac{\sin x}x=\frac1{2ix}e^{ix}-\frac1{2ix}e^{-ix}. $$
候補は (a) 部分積分、(b) 各項に thm-inel-liouville を使う、である。
(a) $\frac{\sin x}x$ では例 3 と同じく分母の次数が上がり続ける。$\sin(x^2)$ では例 1 の (b) と同じく $x$ の次数が上がる。
(b) $g=ix^2$、$f=\frac1{2i}$ について $R'+2ixR=\frac1{2i}$ には有理関数の解がない(prop-inel-gauss の直後の注意)。したがって $e^{ix^2}$ 自身は初等関数の原始関数をもたない。$e^{-ix^2}$ も同じである。しかし、だからといって和 $\sin(x^2)$ が初等関数の原始関数をもたないとは、すぐには言えない。原始関数をもたない 2 つの関数の和が、原始関数をもつことはありうるからである(たとえば $e^{-x^2}$ と $-2x^2e^{-x^2}$ はどちらも初等関数の原始関数をもたないが、和 $(1-2x^2)e^{-x^2}$ はもつ。例 2)。
そこで、2 つの項を同時に扱う。thm-inel-liouville-general を初等体 $K=\mathbb{C}(x,t)$、$t:=e^{ix^2}$ に使う($\sin(x^2)=\frac1{2i}t-\frac1{2i}t^{-1}\in K$)。次の 2 つの事実は証明せずに引用する。

  • (ア) $t$ は、$\mathbb{C}(x)$ の元($x$ の有理関数)を係数とする $0$ でない多項式の根にならない(Con05 Lemma 5.1)。したがって $K$ の元は、係数が $\mathbb{C}(x)$ の元である $t$ の多項式の商として扱え、$t$ についての部分分数分解は一通りに決まり、$t$ の冪の係数を比べてよい。
  • (イ) 係数が $\mathbb{C}(x)$ の元である $t$ の多項式 $b(t)=\sum_kr_kt^k$ を $x$ で微分すると、$t'=2ixt$ から $b(t)'=\sum_k(r_k'+2ikxr_k)t^k$ となり、また $t$ の多項式である。$b(t)$ がモニック(最高次の係数が $1$)で既約で $b(t)\ne t$ なら、$b(t)$ は $b(t)'$ を割り切らない(Ros72 pp. 966–967 の Lemma、Con05 §5)。
    $\sin(x^2)$ が初等関数の原始関数をもつとすると、thm-inel-liouville-general により
    $$ \sin(x^2)=\sum_jc_j\frac{u_j'}{u_j}+v'\qquad(u_j,v\in K) $$
    と書ける。$\frac{(u_1u_2)'}{u_1u_2}=\frac{u_1'}{u_1}+\frac{u_2'}{u_2}$ と $\frac{(u^m)'}{u^m}=m\frac{u'}u$($m$ は負でもよい整数)を使って、各 $u_j$ を $\mathbb{C}(x)$ の元と $t$ のモニック既約多項式の整数乗(負の指数も許す)の積に分けて書き直し、同じものをまとめ、まとめて係数が $0$ になった項は除いておけば、各 $u_j$ は $\mathbb{C}(x)$ の元か、互いに異なるモニック既約多項式 $b(t)$ であり、$c_j\ne0$ であるとしてよい。
    いま、$t$ 以外のモニック既約多項式 $b=b(t)$ が $v$ の部分分数分解の分母に最大で $\ell\ge1$ 回現れるとする。その項 $\frac r{b^\ell}$($r$ は $b$ より次数の低い $0$ でない多項式)について $\bigl(\frac r{b^\ell}\bigr)'=\frac{r'b-\ell rb'}{b^{\ell+1}}$ であり、(イ) と $b$ が既約であることから $b$ は $\ell rb'$ を割り切らないので、$v'$ の分母には $b$ がちょうど $\ell+1$ 回現れる。ところが $c_j\frac{u_j'}{u_j}$ の分母に $b$ は高々 1 回しか現れず、左辺の分母は $t$ の冪だけなので、打ち消し合うものがない。よって $b$ は $v$ の分母に現れない。すると、$u_j=b$ となる項があれば、$\frac{u_j'}{u_j}=\frac{b'}{b}$ は (イ) により約分されず、分母に $b$ が 1 回残って打ち消すものがないので、そのような $u_j$ もない。したがって各 $u_j$ は $\mathbb{C}(x)$ の元か $t$ であり、どちらの場合も $\frac{u_j'}{u_j}\in\mathbb{C}(x)$($\frac{t'}t=2ix$)である。また $v=\sum_ka_kt^k$($a_k\in\mathbb{C}(x)$、$k$ は有限個の整数で、負でもよい)と書ける。$(a_kt^k)'=(a_k'+2ikxa_k)t^k$ なので、両辺の $t$ と $t^{-1}$ の係数を比べると
    $$ a_1'+2ixa_1=\frac1{2i},\qquad a_{-1}'-2ixa_{-1}=-\frac1{2i} $$
    である。この 2 つの式は、prop-inel-gauss の直後の注意($g=\pm ix^2$、$f$ は $0$ でない定数)により有理関数の解をもたない。よって $\sin(x^2)$ は初等関数の原始関数をもたない。この議論は、Ros72 pp. 971–972 が $\frac{\sin z}z$ に対して行う議論を、$e^z$ を $e^{ix^2}$ に替えてなぞったものである。
    $\frac{\sin x}x$($x>0$)も同じ議論で示せる。$t:=e^{ix}$、$K=\mathbb{C}(x,t)$ とすると $\frac{\sin x}x=\frac1{2ix}t-\frac1{2ix}t^{-1}$ で、左辺の $t$ についての分母はやはり $t$ の冪だけである($\frac1{2ix}$ は係数で、$\mathbb{C}(x)$ の元)。(ア)(イ) は $t=e^{ix}$ でも成り立つ(引用元は、$g$ が定数でない有理関数のときの $t=e^g$ について述べている。(イ) の式は $b(t)'=\sum_k(r_k'+ikr_k)t^k$ になる)ので、上と同じく $t$ の係数を比べて $a_1'+ia_1=\frac1{2ix}$、すなわち $x(a_1'+ia_1)=\frac1{2i}$ を得る。lem-inel-no-pole($e=1$、$g=ix$、$h=\frac1{2i}$)により $a_1$ は多項式である。$a_1=0$ なら左辺は $0$、$a_1$ が $r$ 次なら左辺は $r+1\ge1$ 次なので、どちらも定数 $\frac1{2i}$ にならない。よって $\frac{\sin x}x$ も初等関数の原始関数をもたない(Ros72 pp. 971–972 に同じ型の証明がある)。
    1 項ずつの判定法だけでは、和についての結論は出ない。2 項を同時に扱うには、一般形 thm-inel-liouville-general と (ア)(イ) が要った。本記事では、引用した定理と事実を仮定したうえで、$e^{-x^2}$、$e^{\pm ix^2}$、$x^2e^{-x^2}$、$\frac{e^x}x$、$\frac1{\log x}$、$\sin(x^2)$、$\frac{\sin x}x$ の原始関数が初等関数でないことを証明した。

例 5(根号の中が 4 次式)

例 5

$\int\frac{dx}{\sqrt{1-x^2}}$ と $\int\frac{dx}{\sqrt{1-x^4}}$($-1< x<1$)を比べよ。

どちらも根号の中が多項式である。前者は 2 次、後者は 4 次である。候補は (a) $x=\sin\theta$ と置換する、(b) $t=x^2$ と置換する、である。
前者は (a) で $\int d\theta=\theta$、すなわち $\arcsin x$ である。後者に (a) を使うと $1-\sin^4\theta=\cos^2\theta(1+\sin^2\theta)$ なので $\int\frac{d\theta}{\sqrt{1+\sin^2\theta}}$ となり、根号が残る。(b) は $dx=\frac{dt}{2\sqrt t}$ で $\int\frac{dt}{2\sqrt t\sqrt{1-t^2}}$ となり、根号が 2 つに増える。
実は後者は初等関数で書けない。一般に、$P$ が重根をもたない 3 次以上の実数係数の多項式なら $\int\frac{dx}{\sqrt{P(x)}}$ は初等関数でないことが知られている(Con05 Example 4.3。Riemann 面の理論を使う。証明はしない)。$1-x^4$ は $x^4-1$ の $-1$ 倍で、$x^4-1$ は $\pm1,\pm i$ を単根にもつ 4 次式である($\frac1{\sqrt{1-x^4}}$ は $\frac1{\sqrt{x^4-1}}$ の定数倍)。
2 次式の根号は円や双曲線を有理式で媒介変数表示できるので、置換で有理関数に直せる。根号の中が重根のない 3 次・4 次式になると、対応する曲線(楕円曲線)はそうした表示をもたず(証明しない)、置換で有理関数に直らない。こうした積分を楕円積分という。定積分 $\int_0^1\frac{dx}{\sqrt{1-x^4}}=1.3110\ldots$ はレムニスケート(極座標で $r^2=\cos2\theta$ と表される 8 の字形の曲線)の全長の $\frac14$ に等しい。

例 6(それでも定積分は求まる)

例 6

$\int_{-\infty}^\infty e^{-x^2}\,dx=\sqrt\pi$ を示せ。

被積分関数の原始関数は初等関数で書けない(prop-inel-gauss)。したがって「原始関数を求めて両端の値を代入する」道は最初から閉じている。候補は (a) 例 1 (c) の冪級数を項別に積分して極限をとる、(b) $e^{-x^2}$ を積分の値が分かる関数で上下から挟み、はさみうちにする、である。
(a) $\int_0^Re^{-t^2}\,dt=\sum_k\frac{(-1)^kR^{2k+1}}{k!(2k+1)}$ は各 $R$ で正しいが、$R\to\infty$ のとき巨大な正負の項が打ち消し合う形で、極限は見えない。
そこで (b) の方針をとる。挟む関数として $(1-x^2)^n$ と $(1+x^2)^{-n}$ を使うと、どちらも三角関数の置換で $I_m:=\int_0^{\pi/2}\cos^m\theta\,d\theta$ に直る。そこでまず $I_m$ を調べる。

余弦の累乗の積分

$I_0=\frac\pi2$、$I_1=1$ であり、(1) $m\ge2$ で $I_m=\frac{m-1}mI_{m-2}$、(2) $m\ge1$ で $I_mI_{m-1}=\frac\pi{2m}$、(3) $\lim_{m\to\infty}\sqrt m\,I_m=\sqrt{\pi/2}$ である。

部分積分と、積が保存されること
  1. $\cos^m\theta=\cos^{m-1}\theta\cdot(\sin\theta)'$ として部分積分する。$m\ge2$ なので境界の項は $0$ で、$\sin^2=1-\cos^2$ から $I_m=(m-1)\int_0^{\pi/2}\cos^{m-2}\theta\sin^2\theta\,d\theta=(m-1)(I_{m-2}-I_m)$、すなわち $mI_m=(m-1)I_{m-2}$ である。(2) (1) より $mI_mI_{m-1}=(m-1)I_{m-1}I_{m-2}$ なので、$mI_mI_{m-1}$ は $m$ によらず $1\cdot I_1I_0=\frac\pi2$ である。(3) $0\le\cos\theta\le1$ より $I_m\le I_{m-1}\le I_{m-2}$ であり、$I_m>0$ である($\cos^m\theta$ は連続で $\theta=0$ で $1$)。(1) から $\frac{m-1}m=\frac{I_m}{I_{m-2}}\le\frac{I_m}{I_{m-1}}\le1$ となり、はさみうちの原理で $\frac{I_m}{I_{m-1}}\to1$ である。(2) より $mI_m^2=\frac\pi2\cdot\frac{I_m}{I_{m-1}}\to\frac\pi2$ である。$\square$

正弦・余弦の累乗の積分の漸化式と値は Wallis積分(高校数学) で扱う。
$0\le x<\infty$ での広義積分 $\int_0^\infty h(x)\,dx$ は、極限 $\lim_{R\to\infty}\int_0^Rh(x)\,dx$ が存在するときその値と定める。$\int_{-\infty}^\infty$ は $\int_0^\infty$ と $\int_{-\infty}^0$ がともに存在するときの和である。

Gauss 積分

$G:=\int_0^\infty e^{-x^2}\,dx$ は収束し、$G=\frac{\sqrt\pi}2$ である。したがって $\int_{-\infty}^\infty e^{-x^2}\,dx=\sqrt\pi$ である。

Wallis 型の積分で上下から挟む

$h(s):=e^s-1-s$ は $h'(s)=e^s-1$ より $s=0$ で最小値 $0$ をとるので、すべての実数 $s$ で $e^s\ge1+s$ である。$s=x^2$ として $e^{-x^2}\le\frac1{1+x^2}$ なので、$\int_0^Re^{-x^2}\,dx$ は $R$ について増加し $\int_0^R\frac{dx}{1+x^2}<\frac\pi2$ 以下である。よって $G$ は収束する。
正の整数 $n$ をとる。$e^s\ge1+s$ に $s=-x^2$、$s=x^2$ を代入して $n$ 乗すると、$0\le x\le1$ で $(1-x^2)^n\le e^{-nx^2}$、すべての $x$ で $e^{-nx^2}\le(1+x^2)^{-n}$ である。被積分関数は正なので
$$ \int_0^1(1-x^2)^n\,dx\le\int_0^\infty e^{-nx^2}\,dx\le\int_0^\infty\frac{dx}{(1+x^2)^n} $$
である。左は $x=\sin\theta$ の置換で $I_{2n+1}$ に等しい。中央は $x=\frac y{\sqrt n}$ の置換で $\frac G{\sqrt n}$ に等しい。右は $x=\tan\theta$ の置換で $\int_0^R\frac{dx}{(1+x^2)^n}=\int_0^{\arctan R}\cos^{2n-2}\theta\,d\theta$ となり、$R\to\infty$ で $I_{2n-2}$ に近づく。よって $\sqrt n\,I_{2n+1}\le G\le\sqrt n\,I_{2n-2}$($n\ge2$)である。prop-inel-wallis (3) により
$$ \sqrt n\,I_{2n+1}=\sqrt{\tfrac n{2n+1}}\cdot\sqrt{2n+1}\,I_{2n+1}\to\tfrac1{\sqrt2}\sqrt{\tfrac\pi2}=\tfrac{\sqrt\pi}2 $$
であり、同様に $\sqrt n\,I_{2n-2}\to\frac{\sqrt\pi}2$ である。はさみうちにより $G=\frac{\sqrt\pi}2$ である。$e^{-x^2}$ は偶関数なので、$x=-y$ の置換で $\int_{-\infty}^0e^{-x^2}\,dx=G$ となり、和は $\sqrt\pi$ である。$\square$

$n=50$ では $0.8796\ldots\le G\le0.8929\ldots$ となり、$\frac{\sqrt\pi}2=0.8862\ldots$ がその間にある。
Gauss 積分の値を高校の積分で示す方法は Gauss積分(高校数学) で扱う。
原始関数が初等関数で書けないことと、定積分の値が簡単な数になることは両立する。この証明は、被積分関数を「値の分かる積分」で挟むこと(置換積分・部分積分・漸化式・はさみうち)だけでできている。$\int_0^\infty\frac{\sin x}x\,dx=\frac\pi2$ も、原始関数を使わずに求まる定積分の有名な例である(本記事では証明しない)。

補足

判断の目安

表の「疑うべきこと」は、括弧内の例で示した(または引用した)結果に基づく。「駄目なら」の列は例で試した手だけを書き、例で試していない行はその旨を書く。

被積分関数の形疑うべきこと最初に試す手駄目なら
$P(x)e^{g(x)}$、$P\ne0$ と $g$ は多項式で $g$ は 2 次以上初等関数で書けないことがある($e^{-x^2}$、$x^2e^{-x^2}$。例 1・2)$(Qe^g)'=(Q'+g'Q)e^g$ で多項式 $Q$ を探す。見つからなければ書けない(thm-inel-liouville、lem-inel-no-pole)定積分なら値の分かる積分で挟む(例 6)。不定積分なら冪級数で表す(例 1 (c))
$\frac{e^x}{x}$、$\frac1{\log x}$、$\frac{\sin x}x$書けない(例 3・4。$\frac{\sin x}x$ は thm-inel-liouville-general も仮定)部分積分で次数が上がり続けないか見る(例 3 (a)・例 4 (a))(例では試していない)
$\sin(x^2)$書けない(例 4。thm-inel-liouville-general も仮定)$x\sin(x^2)$ のように $x$ が掛かっていれば、例 1 の $xe^{-x^2}$ と同じ置換 $u=x^2$ で書ける(例では試していない)
$\frac1{\sqrt{P(x)}}$、$P$ は重根のない 3 次以上の実数係数の多項式書けない(楕円積分、例 5。引用)引用した結果の仮定(重根がない、3 次以上、実数係数)を満たすかを確かめる(例では試していない)
定積分 $\int_a^b$ で原始関数が書けない値そのものは求まることがある被積分関数を値の分かる積分で挟む(例 6)(例では試していない)

さらに先へ

  • Liouville の定理(thm-inel-liouville-general)の証明は、微分を備えた体(微分体)の代数的な議論で行われる(Ros72 pp. 968–970)。判定法をそこから導く議論は Con05 §5 にある。
  • 初等関数で書けない原始関数には名前がつけられ、特殊関数として研究される:誤差関数 $\operatorname{erf}x=\frac2{\sqrt\pi}\int_0^xe^{-t^2}\,dt$、対数積分、正弦積分 $\int_0^x\frac{\sin t}t\,dt$、Fresnel 積分 $\int_0^x\sin(t^2)\,dt$、楕円積分など。

関連項目

参考文献

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