既約空間(irreducible space)とは、空でなく、2 つの真の閉部分集合の和に書けない位相空間である。同値な言い方として、空でない開集合はどれも互いに交わり、どれも全体で稠密である。2 点以上の Hausdorff 空間は既約にならないが、Zariski 位相では整域のスペクトルや無限体上の直線が既約であり、一般に $\operatorname{Spec}A$ が既約であることは冪零元根基 $\sqrt{0}$ が素イデアルであることと同値である。既約空間は連結だが、2 本の座標軸 $xy=0$ のように連結でも既約でない空間があり、既約性は代数幾何学で図形が 1 つのかたまりであることを表す。
Euclid空間のような見慣れた空間では、2 点以上からなる図形はいつでも小さな閉集合に切り分けられる。線分は 2 本の短い線分の和であり、どちらも閉集合である。ところが代数幾何学で使うZariski位相では閉集合は多項式の共通零点に限られるので非常に少なく、たとえば無限体上の直線は 2 つの真の閉部分集合の和に書けない。既約空間(irreducible space)は、このように「閉集合の和としてこれ以上分けられない」位相空間である。言い換えると、空でない開集合がどれも互いに交わり、どれも空間全体の中で稠密になっている空間であり、1 つの開集合で成り立つことが「ほとんど至るところ」で成り立つとみなせる。代数幾何学では、図形が 1 つの「かたまり」であること(多項式環の言葉では、座標環の冪零元根基が素イデアルであること)を表す基本の性質であり、既約成分・生成点・Krull次元・関数体など多くの概念がこの上に立っている。
以下、位相空間 $X$ の部分集合 $Y$ には相対位相($Y\cap U$、$U$ は $X$ の開集合、を開集合とする位相)を入れる。$Y$ の閉集合は $Y\cap F$($F$ は $X$ の閉集合)の形の集合である。
位相空間 $X$ が既約(irreducible)である、または既約空間(irreducible space)であるとは、$X$ が空でなく、$X$ の閉集合 $F_1,F_2$ について
$$
X=F_1\cup F_2\ \Longrightarrow\ X=F_1\ \text{または}\ X=F_2
$$
が成り立つことをいう。すなわち、$X$ は 2 つの真の閉部分集合の和に書けない。空でない位相空間が既約でないとき、可約(reducible)であるという。$X$ の部分集合 $Y$ は、相対位相で既約なとき既約であるという。
この定義は 既約成分 の記事の定義「既約な位相空間」、Zariski位相 の記事の定義「既約な位相空間と生成点」と同じものであり、Vak25 3.6.4、Stacks Tag 004V とも一致する。帰納法で、既約な $X$ が有限個の閉集合の和 $X=F_1\cup\cdots\cup F_n$ に書ければ、ある $i$ で $X=F_i$ となる。
空集合は既約でないと約束する。この約束は次の 2 つの場面で効いている。
部分集合の既約性は、$X$ の閉集合だけで言い換えられる(既約成分 の記事の補題「既約性の言い換え」の 2):$Y\subset X$ が既約であることは、$Y$ が空でなく、$X$ の閉集合 $F_1,F_2$ について $Y\subset F_1\cup F_2$ ならば $Y\subset F_1$ または $Y\subset F_2$ となることと同値である。
「既約」という語は既約多項式・既約加群(単純加群)・既約表現などにも使われる。この記事の既約性は位相空間についての性質であり、代数的な既約性との関係は prop-irreducible-space-spec と注意の節で述べる。
既約性は、閉集合の言葉から開集合の言葉へ言い換えると扱いやすくなる。
空でない位相空間 $X$ について、次の 6 条件は同値である。
条件 (i) と (ii) の同値は 既約成分 の記事の補題「既約性の言い換え」の 1 である(閉集合 $F_1,F_2$ を補集合の開集合 $X\setminus F_1$、$X\setminus F_2$ に取り替えると、$X=F_1\cup F_2$ は $(X\setminus F_1)\cap(X\setminus F_2)=\emptyset$ に、$X\neq F_i$ は $X\setminus F_i\neq\emptyset$ になる)。残りを (ii) を中心に示す。
条件 (ii) ⇒ (iii):空でない開集合 $U$ の閉包 $\overline{U}$ が $X$ でなければ、$X\setminus\overline{U}$ は $U$ と交わらない空でない開集合であり、(ii) に反する。
条件 (iii) ⇒ (ii):空でない開集合 $U,V$ について、$U$ は稠密なので空でない開集合 $V$ と交わる。
条件 (ii) ⇒ (iv):$n$ についての帰納法による。$n=1$ は仮定そのものである。$W:=U_1\cap\cdots\cap U_{n-1}$ が空でないとすると、$W$ は空でない開集合なので、(ii) により $W\cap U_n\neq\emptyset$ である。(iv) ⇒ (ii) は $n=2$ の場合である。
条件 (ii) ⇒ (v):$U$ を空でない開集合とする。$U$ の空でない開集合 $V_1,V_2$ は、$U$ が開なので $X$ の空でない開集合でもあり、(ii) により交わる。$U$ は空でないので、(i) と (ii) の同値を空間 $U$ に使えば $U$ は既約である。
条件 (v) ⇒ (vi):既約な空間は連結空間である(既約成分 の記事の命題「開集合と連続像」の 3。交わらない空でない 2 つの開集合がないからである)。
条件 (vi) ⇒ (ii):交わらない空でない開集合 $U_1,U_2$ があれば、開集合 $U_1\cup U_2$ は交わらない空でない 2 つの開集合 $U_1,U_2$ の和なので連結でなく、(vi) に反する。$\square$
条件 (ii) は Vak25 3.6.4 の言い換え、条件 (iii) は Vak25 Exercise 3.6.B (a) にある。条件 (iii) から、既約空間では空でない開集合はどれも「大きい」。1 つの空でない開集合 $U$ の上で成り立つ性質は、$X$ の稠密な部分で成り立つ性質とみなせる。
条件 (iv) の「有限個」は外せない。無限集合 $X$ に余有限位相を入れると $X$ は既約である(ex-irreducible-space-cofinite)が、各点 $a\in X$ について $U_a:=X\setminus\{a\}$ は空でない開集合で、無限個の共通部分は $\bigcap_{a\in X}U_a=\emptyset$ である。
1 点集合は既約である(閉集合は空集合と全体だけで、全体を 2 つの空集合の和には書けない)。より一般に、空でない集合 $X$ に密着位相(開集合が $\emptyset$ と $X$ だけ)を入れると、空でない開集合は $X$ だけなので prop-irreducible-space-equivalent の条件 (ii) が成り立ち、$X$ は既約である。
2 点集合 $\{0,1\}$ に開集合 $\emptyset,\{1\},\{0,1\}$ を入れた Sierpiński空間 も既約である。空でない開集合 $\{1\}$ と $\{0,1\}$ はどちらも点 $1$ を含むので、互いに交わる。一方、2 点集合に離散位相を入れると、$\{0\}$ と $\{1\}$ が交わらない空でない開集合なので可約である。
無限集合 $X$ に余有限位相(空集合と、補集合が有限な集合を開集合とする位相)を入れると、$X$ は既約である(余有限位相 の記事の命題「空でない開集合の交わり」の 2)。実際、空でない開集合 $U,V$ の補集合はどちらも有限集合なので、$X\setminus(U\cap V)=(X\setminus U)\cup(X\setminus V)$ は有限集合であり、$X$ は無限集合だから $U\cap V\neq\emptyset$ となる。
無限体 $k$ 上の直線 $k$ に古典的な Zariski 位相(多項式の零点集合を閉集合とする位相)を入れたものは、この位相空間である(余有限位相 の記事の例「無限体上の直線の Zariski 位相」)。したがって無限体上の直線は既約である。
$A$ を整域とすると、$X=\operatorname{Spec}A$ は既約であり、零イデアル $(0)$ の閉包は $X$ 全体である(Zariski位相 の記事の命題「既約閉集合と素イデアルの対応」の 3)。たとえば $\operatorname{Spec}\mathbb{Z}$、体 $k$ 上の $\operatorname{Spec}k[x_1,\dots,x_n]=\mathbb{A}^n_k$、離散付値環のスペクトルは既約である。$\operatorname{Spec}\mathbb{Z}$ については、真の閉部分集合が有限個の素数の点からなる有限集合であり、無限集合 $\operatorname{Spec}\mathbb{Z}$ が 2 つの有限集合の和にならないことからも直接分かる(既約成分 の記事の例「整数環のスペクトル」)。
$k$ を無限体とし、$k^n$ に古典的な Zariski 位相を入れる。空でないアフィン代数的集合 $V\subset k^n$ が既約であることと、その座標環 $k[V]$ が整域であることは同値である(座標環 の記事の命題「既約性と整域性」)。とくに $k^n$ 自身(座標環は多項式環)や、放物線 $V(y-x^2)\subset k^2$(座標環は $k[x]$ に同型)は既約である。
$k$ が有限体なら事情が違う。$k^n$ の 1 点 $\{a\}$ は $x_1-a_1,\dots,x_n-a_n$ の共通零点なので閉集合であり、$k^n$ は有限集合なので、すべての部分集合が有限個の点の和として閉集合になる。つまり古典的な Zariski 位相は離散位相であり、$k^n$ は($k^n$ が 2 点以上なら)可約である。一方、スキーム $\mathbb{A}^n_k=\operatorname{Spec}k[x_1,\dots,x_n]$ は多項式環が整域なので $k$ によらず既約である(ex-irreducible-space-domain)。スキームの点には $k$ に座標をもつ点のほかに生成点などの点があり、それが既約性を回復している。
$\mathbb{C}^n$($n\ge1$)は古典的な Zariski 位相では既約である(ex-irreducible-space-classical)。同じ集合に通常の(Euclid の)位相を入れると、$\mathbb{C}^n$ は Hausdorff空間で 2 点以上をもつので可約である(prop-irreducible-space-hausdorff)。たとえば $\mathbb{C}$ の 2 つの開円板 $\{\lvert z\rvert<1\}$ と $\{\lvert z-3\rvert<1\}$ は交わらない空でない開集合である。Zariski 位相は通常の位相より真に粗く(Zariski位相 の記事の例「反例:複素数空間の Zariski 位相と通常の位相」)、閉集合が少ないことが既約性を生んでいる。
既約な空間は連結である(prop-irreducible-space-equivalent の条件 (vi) で開集合として $X$ 自身をとる)が、逆は成り立たない。2 つの性質を並べると次のようになる。
| 既約空間 | 連結空間 | |
|---|---|---|
| 分けられないもの | 2 つの真の閉部分集合の和 | 交わらない空でない 2 つの開集合の和 |
| 空でない開部分集合 | つねに既約 | 連結とは限らない |
| 閉部分集合 | 既約とは限らない | 連結とは限らない |
| 閉包・連続像・積位相 | 既約性を保つ | 連結性を保つ |
| 共通点をもつ 2 つの部分集合の和 | 既約とは限らない | 連結 |
| 2 点以上の Hausdorff 空間 | 既約でない | 連結でありうる($\mathbb{R}$) |
| $\mathbb{R}$ への連続関数 | 定数だけ | 定数とは限らない($\mathbb{R}$ の恒等写像) |
既約空間の側:開部分集合は prop-irreducible-space-equivalent の条件 (v)、閉部分集合は ex-irreducible-space-closed-subset、閉包・連続像は prop-irreducible-space-closure-image、積位相は prop-irreducible-space-product、共通点をもつ和は ex-irreducible-space-two-axes(2 本の座標軸はどちらも既約で原点を共有するが、和は既約でない)、Hausdorff 空間と連続関数は prop-irreducible-space-hausdorff による。
連結空間の側:$\mathbb{R}$ は連結だが、開部分集合 $(0,1)\cup(2,3)$ は連結でない。閉部分集合 $[0,1]\cup[2,3]$ も連結でない(連結空間 の記事の注意「反例:部分空間と共通部分には遺伝しない」)。閉包・連続像・積はそれぞれ 連結空間 の記事の命題「連結な集合の閉包も連結」、定理「連続像は連結」、定理「直積の連結性」、共通点をもつ和は命題「共通点をもつ族の和」による。
表から分かるように、既約性は連結性よりずっと強い。連結空間は「つながっていれば 1 つ」と見るが、既約空間は「どの 2 つの開集合も重なり合う」ことを要求する。Hausdorff 空間では 2 点が交わらない近傍で分けられるので、既約性は Zariski 位相のような Hausdorff でない位相のための概念である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 既約を連結に弱める | 2 本の座標軸 $\operatorname{Spec}k[x,y]/(xy)$ | 既約であること |
| 閉集合の少ない位相(Hausdorff な位相にする) | 通常の位相の $\mathbb{R}$ | 既約であること |
| 部分集合が開(閉部分集合にする) | $\mathbb{A}^1_k$ の 2 つの閉点の集合 | 既約性が部分集合に遺伝すること |
| 共通部分が有限個(無限個にする) | 無限集合の余有限位相の $X\setminus\{a\}$($a\in X$) | 空でない開集合の共通部分が空でないこと |
| 積位相(スキームのファイバー積にする) | $\operatorname{Spec}\mathbb{C}\times_{\operatorname{Spec}\mathbb{R}}\operatorname{Spec}\mathbb{C}$ | 既約なものの積が既約であること |
2 行目は prop-irreducible-space-hausdorff の 2 で、4 行目は prop-irreducible-space-equivalent の直後で確かめる。残りの行は次の例で確かめる。
$k$ を体、$A:=k[x,y]/(xy)$、$X:=\operatorname{Spec}A$ とし、$x,y$ の像も $x,y$ と書く。$A/(x)\cong k[y]$ と $A/(y)\cong k[x]$ は整域なので $(x)$ と $(y)$ は素イデアルである。$X=V(xy)=V(x)\cup V(y)$ は 2 つの閉集合の和であり(素イデアルは $xy=0$ を含むので $x$ か $y$ を含む)、点 $(x)$ は $V(x)$ に属するが $V(y)$ に属さない($y\notin(x)$。$A/(x)\cong k[y]$ での $y$ の像は $0$ でない)。同様に点 $(y)$ は $V(y)$ に属するが $V(x)$ に属さない。よって $V(x),V(y)$ はどちらも真の閉部分集合であり、$X$ は可約である。
一方、$(x)$ は素イデアルなので $V(x)=\overline{\{(x)\}}$ であり(Zariski位相 の記事の命題「点の閉包と閉点」)、1 点の閉包は既約である(生成点 の記事の補題「1 点の閉包は既約」)。よって $V(x)$ は既約、したがって連結であり、$V(y)$ も同様である。両者は点 $(x,y)$(原点)を共有するので、連結空間 の記事の命題「共通点をもつ族の和」により $X$ は連結である。この例は満たす性質「連結」、満たさない性質「既約」を示し、含意「連結ならば既約」を破る。$x$ 軸と $y$ 軸という 2 つの既約な部分が $X$ の既約成分である(既約成分 の記事の例「2 本の座標軸」)。
$k$ を体、$X:=\mathbb{A}^1_k=\operatorname{Spec}k[x]$ とする。$X$ は既約である(ex-irreducible-space-domain)。$a\neq b$ を $k$ の元とし、閉点 $p:=(x-a)$、$q:=(x-b)$ をとる($k[x]/(x-a)\cong k$ は体なので $p$ は極大イデアルであり、$\{p\}=V(x-a)$ は閉集合である)。$Y:=\{p,q\}=V\bigl((x-a)(x-b)\bigr)$ は $X$ の閉集合であるが、$Y=\{p\}\cup\{q\}$ は $Y$ の 2 つの真の閉部分集合の和なので、$Y$ は既約でない。
この例は、満たす性質「既約空間の閉部分集合である」、満たさない性質「既約」を示し、含意「既約空間の部分集合は既約である」を破る。開部分集合については prop-irreducible-space-equivalent の条件 (v) によりこの含意が正しく、また稠密な部分集合についても正しい(prop-irreducible-space-closure-image の 1)。$Y$ は閉集合で $X$ と異なるので、$X$ で稠密でない。
$\operatorname{Spec}\mathbb{C}$ は 1 点なので既約である。しかし $\mathbb{R}$ 上のファイバー積 $\operatorname{Spec}\mathbb{C}\times_{\operatorname{Spec}\mathbb{R}}\operatorname{Spec}\mathbb{C}=\operatorname{Spec}(\mathbb{C}\otimes_{\mathbb{R}}\mathbb{C})$ は既約でない。実際、$\mathbb{C}=\mathbb{R}[t]/(t^2+1)$ から
$$
\mathbb{C}\otimes_{\mathbb{R}}\mathbb{C}\cong\mathbb{C}[t]/(t^2+1)=\mathbb{C}[t]/\bigl((t-i)(t+i)\bigr)\cong\mathbb{C}[t]/(t-i)\times\mathbb{C}[t]/(t+i)\cong\mathbb{C}\times\mathbb{C}
$$
であり(最後から 2 番目の同型は、$(t-i)$ と $(t+i)$ が $(t-i)-(t+i)=-2i$ から互いに素なので中国剰余定理による)、体の直積 $\mathbb{C}\times\mathbb{C}$ のスペクトルは 2 点の離散空間である(アフィンスキーム の記事の例「体の直積のスペクトル」)。この計算は Vak25 Example 10.2.3 にある。
この例は、満たす性質「既約なスキームのファイバー積である」、満たさない性質「既約」を示し、積位相についての prop-irreducible-space-product の結論がスキームのファイバー積では成り立たないことを示す。スキームのファイバー積の位相は、底の位相空間の積位相ではない(アフィン平面の場合は Zariski位相 の記事の例「反例:平面の Zariski 位相は直積位相でない」)。代数閉体 $k$ の上では、既約な $k$ 上の代数多様体の $k$ 上の積は既約である(Vak25 Proposition 11.2.11 (b)。この記事では証明しない)。
$X$ を位相空間とする。
1 の前半は 既約成分 の記事の命題「既約集合の閉包」の 1・2 である。要点は、閉集合 $F$ について $Y\subset F$ と $\overline{Y}\subset F$ が同値なので、定義の直後に述べた言い換え($Y\subset F_1\cup F_2$ ならば $Y\subset F_1$ または $Y\subset F_2$)が $Y$ と $\overline{Y}$ で同じ条件になることである。$Y$ が $X$ で稠密なら $\overline{Y}=X$ なので、$X$ が既約なら $Y$ も既約である。
2 の $f(Y)$ については 既約成分 の記事の命題「開集合と連続像」の 2 である($f(Y)\subset G_1\cup G_2$ なら $Y\subset f^{-1}(G_1)\cup f^{-1}(G_2)$ で、$f^{-1}(G_i)$ は閉集合だからである)。$\overline{f(Y)}$ の既約性は 1 から従う。$\square$
2 は Stacks Tag 0379(Topology, Lemma 8.2)、1 の前半は Vak25 Exercise 3.6.B (b) にある(Stacks Tag 004W(Topology, Lemma 8.3)の (1) は、既約なら閉包も既約という向き)。2 から、既約空間からの連続写像の像は既約であり、たとえば既約な多様体の射による像の閉包は既約である。
既約性は、互いに交わる既約な開集合を貼り合わせても保たれる。これは、スキームのように開集合を貼り合わせて作る空間の既約性を確かめるときに使う。
$X$ を位相空間とし、$X=\bigcup_{i\in I}U_i$ を既約な開集合 $U_i$ による開被覆とする(添字集合 $I$ は空でないとする)。
1.$X\supset U_i\neq\emptyset$ である。空でない開集合 $V,W\subset X$ が交わることを示せばよい(prop-irreducible-space-equivalent の条件 (ii))。$V$ は $X$ を覆う $U_i$ のどれかと交わるので $V\cap U_i\neq\emptyset$ となる $i$ があり、同様に $W\cap U_j\neq\emptyset$ となる $j$ がある。$V\cap U_i$ と $U_i\cap U_j$ は既約空間 $U_i$ の空でない開集合なので交わり、$V\cap U_i\cap U_j\neq\emptyset$ である。とくに $V\cap U_j$ は空でない。$V\cap U_j$ と $W\cap U_j$ は既約空間 $U_j$ の空でない開集合なので交わり、$V\cap W\neq\emptyset$ である。
2 の要点:「交わる開集合の有限列でつながる」という同値関係を $U_i$ の添字に入れると、連結性から同値類はただ 1 つになる。つながった有限列の和は 1 を繰り返し使って既約になり、任意の 2 つの空でない開集合はそのような既約な開集合の中で交わる。
添字 $i,j$ について、$i=i_0,i_1,\dots,i_m=j$ で $U_{i_{l-1}}\cap U_{i_l}\neq\emptyset$($1\le l\le m$)となる有限列があるとき $i\sim j$ と書く。これは同値関係である。同値類 $C$ ごとに開集合 $W_C:=\bigcup_{i\in C}U_i$ をおく。異なる同値類 $C\neq C'$ について $W_C\cap W_{C'}\neq\emptyset$ なら、ある $i\in C$、$j\in C'$ で $U_i\cap U_j\neq\emptyset$ となり $i\sim j$ に反するので、$W_C$ たちは互いに交わらない空でない開集合で $X$ を覆う。$X$ は連結なので同値類はただ 1 つである。
空でない開集合 $V,W\subset X$ をとり、$V\cap U_i\neq\emptyset$、$W\cap U_j\neq\emptyset$ となる $i,j$ を選ぶ。$i\sim j$ なので、上の有限列 $i=i_0,\dots,i_m=j$ がある。$Y_l:=U_{i_0}\cup\cdots\cup U_{i_l}$ が既約であることを $l$ についての帰納法で示す。$Y_0=U_{i_0}$ は既約である。$Y_{l-1}$ が既約なら、開集合 $Y_l$ は 2 つの既約な開集合 $Y_{l-1}$ と $U_{i_l}$ で覆われ、両者は $U_{i_{l-1}}\cap U_{i_l}\neq\emptyset$ を共有するので、1 を空間 $Y_l$ に使えば $Y_l$ は既約である。$Y:=Y_m$ は既約な開集合で、$V\cap Y\supset V\cap U_i$ と $W\cap Y\supset W\cap U_j$ はその空でない開集合なので交わる。よって $V\cap W\neq\emptyset$ であり、$X$ は既約である。$\square$
1 は 整スキーム の記事の補題「交わる既約な開集合による被覆」と同じ主張であり、そちらでは閉集合の側から証明している。2 のスキームの場合は Vak25 Exercise 5.3.C の説明の中で述べられている。2 は「連結」と「局所的に既約」を合わせると既約になることを示しており、連結性と既約性の差は、開集合の中での既約性の破れ(2 本の座標軸の原点のような点)に集中していることが分かる。
$k$ を体とし、$\mathbb{P}^n_k$ を $n+1$ 個のアフィン空間 $U_i\cong\operatorname{Spec}k[x_0/x_i,\dots,x_n/x_i]$($x_i/x_i$ を除いた $n$ 変数の多項式環)を貼り合わせたスキームとする(スキーム の記事の例「射影空間の貼り合わせ」)。各 $U_i$ は多項式環が整域なので既約である(ex-irreducible-space-domain)。$i\neq j$ について、$U_i\cap U_j$ は $U_i$ の基本開集合 $D(x_j/x_i)$ であり、$x_j/x_i$ は多項式環の $0$ でない元なので冪零でなく、$D(x_j/x_i)\neq\emptyset$ である(アフィンスキーム の記事の命題「Zariski位相の基本性質」の 5)。prop-irreducible-space-cover の 1 により $\mathbb{P}^n_k$ は既約である。
1.$f(x)\neq f(y)$ となる $x,y\in X$ があれば、Hausdorff 性により $f(x)\in G$、$f(y)\in H$、$G\cap H=\emptyset$ となる開集合 $G,H\subset Z$ がある。$f^{-1}(G)$ と $f^{-1}(H)$ は $X$ の空でない開集合で交わらず、prop-irreducible-space-equivalent の条件 (ii) に反する。
2.1 点集合は既約である(ex-irreducible-space-small)。既約な Hausdorff 空間 $X$ の恒等写像 $X\to X$ は 1 により定値写像なので、$X$ は 1 点である($X$ は空でない)。
3.$X$ が有限集合で 2 点以上をもてば、$X=\{x_1\}\cup\cdots\cup\{x_n\}$ は有限個の閉集合の和であり、各 $\{x_i\}$ は $X$ と異なる。定義の直後に述べたとおり、既約なら有限個の閉集合の和の 1 つが $X$ に等しくなるので、$X$ は既約でない。$\square$
2 から、Hausdorff 空間の既約な部分集合は 1 点集合だけであり、既約成分は点にすぎない(既約成分 の記事の例「反例:Hausdorff 空間の既約成分」)。1 は、既約空間の上では実数値連続関数が何の情報ももたないことを示す。Zariski 位相の空間を調べるときは、連続関数の代わりに多項式や正則関数(構造層の切断)を使う。余有限位相は $T_1$ 位相のうち最も粗いものであり(余有限位相 の記事の命題「$T_1$ 位相の特徴づけ」)、無限集合の上では既約になる(ex-irreducible-space-cofinite)。有限集合の上では余有限位相は離散位相であり、3 のとおり 2 点以上なら可約である。
既約空間の上では「局所的に定数」と「定数」が一致するので、層の議論が簡単になる。
$X$ を既約空間、$S$ を集合とする。
1.$x,y\in U$ をとり、$f$ が定数になる開近傍 $x\in V_x\subset U$、$y\in V_y\subset U$ を選ぶ。$V_x,V_y$ は $X$ の空でない開集合なので、prop-irreducible-space-equivalent の条件 (ii) により交わる。$z\in V_x\cap V_y$ をとれば $f(x)=f(z)=f(y)$ である。
2・3 の要点:空でない開集合どうしが交わるので、整合する切断の族はすべて同じ値をとり、その値が貼り合わせになる。制限写像は恒等写像か 1 点集合への写像である。
2.空でない開集合 $U$ とその開被覆 $U=\bigcup_\alpha U_\alpha$、整合する族 $s_\alpha\in P(U_\alpha)$ をとる。空でない $U_\alpha,U_\beta$ は交わるので、$s_\alpha=s_\alpha|_{U_\alpha\cap U_\beta}=s_\beta|_{U_\alpha\cap U_\beta}=s_\beta$ となり、すべての $s_\alpha$($U_\alpha\neq\emptyset$)は同じ元 $s\in S$ である。$s\in P(U)$ は各 $U_\alpha$ への制限が $s_\alpha$ になるただ 1 つの切断である(空の $U_\alpha$ への制限は 1 点集合の元で自動的に一致する)。$U=\emptyset$ の場合は $P(\emptyset)$ が 1 点なので明らかである。よって $P$ は層である。1 により、空でない $U$ の上の局所定数写像は定数写像であり、定数写像 $U\to S$ は $S$ の元と 1 対 1 に対応するので、定数層の切断の集合は $S=P(U)$ と同一視でき、制限写像も恒等写像になる。
3.$V\neq\emptyset$ なら制限写像は恒等写像 $S\to S$、$V=\emptyset$ なら 1 点集合への写像なので、どちらも全射である。$\square$
2 は 層 の記事の例「反例:定数前層は層でない」の後半、3 は flasque層 の記事の命題「既約空間上の定数層の flasque 性」でも示されている。逆に、交わらない空でない開集合 $U_1,U_2$ をもつ空間では、$S$ が 2 元以上なら定数前層は層でない(層 の同じ例の前半)。代数幾何学では、整スキームの関数体 $K$ が定める定数層(有理関数の層)がこの形であり、既約性のおかげですべての空でない開集合の上で切断が $K$ そのものになる。
Zariski位相 の記事の命題「既約閉集合と素イデアルの対応」の 3 は、閉集合と根基イデアルの対応を通して $\operatorname{Spec}A$ の既約性を冪零元根基で特徴づけている。ここでは同じ結果を、条件 (ii)「空でない開集合は交わる」と基本開集合 $D(f)=\{\mathfrak{p}\mid f\notin\mathfrak{p}\}$ を使って、環の元の言葉で直接示す。
可換環 $A$ とその冪零元根基 $\sqrt{0}$ について、次は同値である。
このとき、ただ 1 つの極小素イデアルは $\sqrt{0}$ であり、点 $\sqrt{0}$ の閉包は $\operatorname{Spec}A$ 全体である。
アフィンスキーム の記事の命題「Zariski位相の基本性質」から次の 3 つを使う:$D(f)\cap D(g)=D(fg)$、$D(f)=\emptyset$ ⟺ $f$ が冪零、基本開集合の全体は開基をなす。
条件 (i) ⇒ (ii):$\operatorname{Spec}A$ は空でないので $A\neq0$ である(零環には素イデアルがない)。$fg$ が冪零とすると $D(f)\cap D(g)=D(fg)=\emptyset$ であり、prop-irreducible-space-equivalent の条件 (ii) により $D(f)$ と $D(g)$ の一方は空、すなわち $f$ か $g$ は冪零である。よって $\sqrt{0}\neq A$ で、$fg\in\sqrt{0}$ ならば $f\in\sqrt{0}$ または $g\in\sqrt{0}$ であり、$\sqrt{0}$ は素イデアルである。
条件 (ii) ⇒ (i):$\sqrt{0}$ は素イデアルなので $\operatorname{Spec}A$ の点であり、空でない。空でない開集合 $V,W$ は、開基の性質から空でない基本開集合 $D(f)\subset V$、$D(g)\subset W$ を含む。$f,g$ は冪零でないので、条件 (ii) により $fg$ も冪零でなく、$V\cap W\supset D(f)\cap D(g)=D(fg)\neq\emptyset$ である。よって $\operatorname{Spec}A$ は既約である。
条件 (ii) と (iii) の同値は、$\sqrt{0}$ が極小素イデアル全体の共通部分であることから従う。
$A\neq0$ なら、$\sqrt{0}$ は $A$ の極小素イデアル全体の共通部分に等しく、極小素イデアルは少なくとも 1 つある(極小素イデアル の記事の系「根基と極小素イデアル」)。極小素イデアルがただ 1 つ $\mathfrak{p}$ なら $\sqrt{0}=\mathfrak{p}$ は素イデアルである。逆に $\sqrt{0}$ が素イデアルなら、$\sqrt{0}$ はすべての素イデアルに含まれる素イデアルなので、ただ 1 つの極小素イデアルである。$A=0$ のときは (ii) も (iii) も成り立たない。
最後に、$\sqrt{0}$ はすべての素イデアルに含まれるので $\overline{\{\sqrt{0}\}}=V(\sqrt{0})=\operatorname{Spec}A$ である(Zariski位相 の記事の命題「点の閉包と閉点」の 1)。$\square$
条件 (iii) との同値は Vak25 Exercise 3.7.G にある。点 $\sqrt{0}$ が $\operatorname{Spec}A$ の生成点である。
被約な環では $\sqrt{0}=(0)$ であり、$(0)$ が素イデアルであることは $A$ が整域であることにほかならない。整域は被約なので、1 と 2 はどちらも prop-irreducible-space-spec の条件 (i) と (ii) の同値から従う。$\square$
被約でない環では、既約でも整域とは限らない。たとえば $A=k[x,y]/(y^2)$($k$ は体)では $\sqrt{0}=(y)$ で $A/(y)\cong k[x]$ は整域なので、$\operatorname{Spec}A$ は既約であるが、$y\neq0$、$y^2=0$ なので $A$ は整域でない。既約性は位相空間の性質なので、冪零元による「厚み」は見えない。スキームについては、整スキームであることと、被約(被約スキーム)かつ既約であることが同値になる。
位相空間 $X,Y$ が既約ならば、直積 $X\times Y$ に直積位相を入れた空間は既約である。したがって有限個の既約空間の直積(直積位相)は既約である。
$X\times Y$ は空でない。$W_1,W_2$ を $X\times Y$ の空でない開集合とする。直積位相の定義により、$W_1\supset U_1\times V_1$、$W_2\supset U_2\times V_2$ となる $X$ の空でない開集合 $U_1,U_2$ と $Y$ の空でない開集合 $V_1,V_2$ がある。$X,Y$ は既約なので $U_1\cap U_2\neq\emptyset$、$V_1\cap V_2\neq\emptyset$ であり、$W_1\cap W_2\supset(U_1\cap U_2)\times(V_1\cap V_2)\neq\emptyset$ である。prop-irreducible-space-equivalent の条件 (ii) により $X\times Y$ は既約である。有限個の場合は帰納法による。$\square$
この命題は位相空間の直積についてのものである。スキームのファイバー積の底空間は底空間の直積位相とは違う位相をもち、既約性も保たれるとは限らない(ex-irreducible-space-scheme-product)。たとえばアフィン平面 $\mathbb{A}^2_k$ は多項式環 $k[x,y]$ が整域なので既約であるが、その既約性は $\mathbb{A}^1_k\times\mathbb{A}^1_k$(直積位相)の既約性とは別に示す必要がある。
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