数値半群環(numerical semigroup ring)とは、補集合が有限な加法的部分モノイド $H\subset\mathbb{N}$(数値半群)に対し、体 $k$ 上の形式的冪級数環 $k[\![t]\!]$ の中で $H$ に指数が属する冪級数の全体 $k[\![H]\!]$(または多項式版 $k[H]$)のことである。$k[\![H]\!]$ は 1 次元の Cohen–Macaulay 局所整域で、正規化は $k[\![t]\!]$ である。$H$ の最小の正の元 $e$ について $t^e$ で割った環は Apéry 集合の冪を基底にもち、そのソクルの次元は擬 Frobenius 数の個数に等しい。これにより $k[\![H]\!]$ の Gorenstein 性は、$H$ の対称性(種数が導手の半分であること)と同値になる。
前提知識: 形式的冪級数, Cohen–Macaulay環, Gorenstein環
体 $k$ 上の形式的冪級数環 $k[\![t]\!]$ の中で、$t$ の冪 $t^{n_1},\dots,t^{n_r}$($n_i\ge1$、$\gcd(n_1,\dots,n_r)=1$)を冪級数環 $k[\![X_1,\dots,X_r]\!]$ の変数に代入して得られる部分環 $k[\![t^{n_1},\dots,t^{n_r}]\!]$ を数値半群環(numerical semigroup ring)という。たとえば $k[\![t^2,t^3]\!]$ は尖点 $y^2=x^3$ の局所環の完備化であり、$k[\![t^3,t^4,t^5]\!]$ は空間曲線 $(t^3,t^4,t^5)$ の原点の完備局所環である。どの冪級数がこの環に入るかは、現れる指数の集合 $H$(数値半群)だけで決まるので、環の性質が自然数の加法の組合せで読める。
数値半群環は 1 次元の Cohen–Macaulay 局所整域であり、その正規化は $k[\![t]\!]$ である。この記事の中心は、Gorenstein 性が数値半群の対称性という数の性質と同値になるという定理であり、それを Apéry 集合を使って証明する。2 つの数で生成される場合は Frobeniusの硬貨問題 の対称性がこの定理の特別な場合にあたる。almost Gorenstein 性や最小重複度との関係は almost Gorenstein局所環、最小重複度Cohen–Macaulay局所環 で扱われている。
非負整数の集合 $\mathbb{N}=\{0,1,2,\dots\}$ の部分集合 $H$ が数値半群であるとは、$0\in H$、$H+H\subset H$ であり、補集合 $\mathbb{N}\setminus H$ が有限集合であることをいう。
$n_1,\dots,n_r\in\mathbb{N}$ の非負整数係数の和全体を $\langle n_1,\dots,n_r\rangle$ と書く。
$0$ を含み加法で閉じた $\mathbb{N}$ の部分集合 $H\ne\{0\}$ について、$\mathbb{N}\setminus H$ が有限であることと、$H$ の元の最大公約数が $1$ であることは同値である。とくに $\gcd(n_1,\dots,n_r)=1$ なら $\langle n_1,\dots,n_r\rangle$ は数値半群である。
要点:公約数 $d\ge2$ があれば $d$ で割って $1$ 余る数がすべて隙間になり、最大公約数が $1$ なら差が $1$ の 2 元 $p,q\in H$ から十分大きい数がすべて作れる。
$H$ のすべての元が $d\ge2$ で割り切れるなら、$d$ で割って $1$ 余る数はどれも $H$ に属さず、隙間は無限個ある。逆に最大公約数が $1$ とする。$H$ の有限個の元の最大公約数は元を加えるごとに減るか変わらないので、ある有限個の元 $h_1,\dots,h_s$ で $1$ になる。Bézout の等式から $1=\sum z_ih_i$($z_i\in\mathbb{Z}$)と書け、正の係数の項の和を $p$、負の係数の項の符号を変えた和を $q$ とすると $p,q\in H$、$p-q=1$ である。$q=0$ なら $1\in H$ で $H=\mathbb{N}$ である。$q\ge1$ のとき、$n\ge q(q-1)$ を $n=aq+b$($0\le b\le q-1$)と書くと $a\ge q-1\ge b$ であり、$n=aq+b(p-q)=(a-b)q+bp\in H$ となる。よって隙間は有限個である。$\square$
$H^*:=H\setminus\{0\}$ とおく。$H\ne\mathbb{N}$ のとき、正の元 2 つの和に書けない $H^*$ の元の全体 $A(H)$ は、$H$ を生成する(小さい元から順に、和に書ける元は小さい 2 元の和に分ける)。$H$ を生成するどの部分集合も $A(H)$ を含み、$A(H)$ の元は $e(H)$ を法として互いに合同でない(合同な 2 元の大きいほうは、小さいほうに $e(H)$ の正の倍数を足したものになる)ので、$A(H)$ は高々 $e(H)$ 個である。$A(H)$ を $H$ の極小生成系、その個数を $H$ の埋め込み次元という。たとえば $\langle 3,4,5\rangle=\{0,3,4,5,6,\dots\}$ の極小生成系は $\{3,4,5\}$、$\langle 3,6,7\rangle$ の極小生成系は $\{3,7\}$ である($6=3+3$)。
数値半群 $H$ と $n\in H^*$ について、$\operatorname{Ap}(H,n):=\{h\in H\mid h-n\notin H\}$ を $n$ に関する Apéry 集合という。
$H$ を数値半群、$n\in H^*$ とする。
要点:各剰余類の $H$ の最小元から $n$ を引くと $H$ の外に出るが、それ以外の元から $n$ を引いても $H$ に残る。
1.十分大きい整数はすべて $H$ に属するので、各剰余類は $H$ と交わり、最小元 $w_i$ がある。$w_i-n$ は同じ類で $w_i$ より小さいので $H$ に属さず、$w_i\in\operatorname{Ap}(H,n)$ である。$h\in H$ が類 $i$ に属し $h\ne w_i$ なら、$h\ge w_i+n$ なので $h-n$ は $w_i$ に $n$ の非負の倍数を足したものであり $H$ に属する。よって $h\notin\operatorname{Ap}(H,n)$ である。2.$h$ の類を $i$ とすると、1 と同じく $h=w_i+qn$($q\ge0$)であり、$w$ は $h$ の類で決まるので一意である。3.2 により、整数 $x$ が $H$ に属さないことは、$x$ の類を $i$ として $x$ が $w_i$ より小さいことと同値である。そのような $x$ の最大値は $\max_i(w_i-n)$ である。$\square$
$H=\langle a,b\rangle$($\gcd(a,b)=1$)では $\operatorname{Ap}(H,a)=\{0,b,2b,\dots,(a-1)b\}$ であり(下の cor-nsr-two-generators の証明)、3 から $F(H)=(a-1)b-a=ab-a-b$ が出る。これは Frobeniusの硬貨問題 の定理「表せない最大の数」と同じ値である。
$k$ を体、$H$ を数値半群とする。
$$
k[\![H]\!]:=\Bigl\{\sum_{h\in H}a_ht^h\Bigm| a_h\in k\Bigr\}\subset k[\![t]\!]
$$
($H$ に属さない指数の係数が $0$ である冪級数の全体)を $H$ の(完備な)数値半群環という。$H+H\subset H$ なので $k[\![H]\!]$ は $k[\![t]\!]$ の部分環である。$H=\langle n_1,\dots,n_r\rangle$ のとき $k[\![H]\!]$ を $k[\![t^{n_1},\dots,t^{n_r}]\!]$ とも書く。多項式の部分環 $k[H]:=k[t^h\mid h\in H]\subset k[t]$ も数値半群環と呼ばれる。
以下この記事では $R:=k[\![H]\!]$、$c=c(H)$、$g=g(H)$ とし、$H=\langle n_1,\dots,n_r\rangle$($n_i\ge1$)を生成系の一つとする。
要点:$R$ は代入 $X_i\mapsto t^{n_i}$ による冪級数環 $k[\![X_1,\dots,X_r]\!]$ の像であり、$t^c,t^{c+1}\in R$ から $k[\![t]\!]$ は $R$ 上有限で商体が一致する。
1.代入 $X_i\mapsto t^{n_i}$ による $k$ 代数の準同型 $\varphi\colon k[\![X_1,\dots,X_r]\!]\to k[\![t]\!]$ を考える。単項式 $X^\alpha$ は $t^{\sum\alpha_in_i}$ に送られ、指数が一定の単項式は有限個なので、$\varphi$ は係数ごとに有限和で定まり、像は $R$ に含まれる。逆に $f=\sum_{h\in H}a_ht^h\in R$ について、各 $h$ に $\sum_i\alpha(h)_in_i=h$ となる $\alpha(h)\in\mathbb{N}^r$ を一つ選ぶと、$\sum_ha_hX^{\alpha(h)}$ は冪級数でその像は $f$ である。よって $R$ は Noether 局所環 $k[\![X]\!]$ の剰余環と同型で Noether 局所環であり、極大イデアルは $(X_1,\dots,X_r)$ の像、すなわち定数項が $0$ の元の全体である。$k[\![t]\!]$ の部分環なので整域である。2.$c$ 以上の指数はすべて $H$ に属するので $t^ck[\![t]\!]\subset R$ であり、$f\in k[\![t]\!]$ を $\sum_{i\le c-1}b_it^i+t^cf'$ と分ければ $f\in\sum_{i\le c-1}Rt^i$ である。隙間 $x$ についての $t^x$ の類が $k[\![t]\!]/R$ の基底になる。3.$t=t^{c+1}/t^c$ は $R$ の商体に属するので、商体は $k(\!(t)\!)$ である。2 と 整拡大 の定理「有限生成な加群による判定」により $k[\![t]\!]$ は $R$ 上整であり、$k[\![t]\!]$ は離散付値環なので整閉である(付値環 の命題「付値環は整閉」)。よって正規化は $k[\![t]\!]$ である。$H\ne\mathbb{N}$ なら $t\notin R$ は $R$ 上整なので $R$ は整閉でない。4.整拡大 の系「整拡大と Krull 次元」により $\dim R=\dim k[\![t]\!]=1$ である。$t^{n_1}\in\mathfrak{m}$ は整域 $R$ の非零因子なので深さは $1$ 以上で、次元を超えないから $1$ であり、$R$ は Cohen–Macaulay である。$\square$
整数の上に $x\le_Hy:\iff y-x\in H$ で半順序を入れ($0\in H$、$H+H\subset H$ と、$H$ と $-H$ の共通部分が $\{0\}$ であることによる)、その部分集合にも制限して使う。以下 $H\ne\mathbb{N}$、$e=e(H)$ とし、$\operatorname{Ap}=\operatorname{Ap}(H,e)$ と書く。$R/t^eR$ の中での $t^w$ の類を $\overline{t^w}$ と書く。
1.lem-nsr-apery の 2 により、$f=\sum_{h\in H}a_ht^h\in R$ は
$$
f=\sum_{w\in\operatorname{Ap}}t^w\Bigl(\sum_{q\ge0}a_{w+qe}\,t^{qe}\Bigr)
$$
とただ一通りに書ける(各 $h\in H$ がちょうど一つの組 $(w,q)$ に対応するので、係数の分け方が一意である)。括弧の中は $k[\![t^e]\!]$ の元であり、逆にこの形の和はどれも $R$ に属する。
2.1 により $t^eR=\bigoplus_{w}t^w\,t^ek[\![t^e]\!]$ なので、$R/t^eR\cong\bigoplus_w t^w\bigl(k[\![t^e]\!]/t^ek[\![t^e]\!]\bigr)$ は $\overline{t^w}$ を基底とし、その個数は lem-nsr-apery の 1 により $e$ である。$t^h t^w=t^{w+h}$ で、$w+h\in H$ を $w'+qe$($w'\in\operatorname{Ap}$)と書くと、$q=0$ すなわち $w+h\in\operatorname{Ap}$ なら類は $\overline{t^{w+h}}$、$q\ge1$ なら $t^{w+h}\in t^eR$ で類は $0$ である。$\square$
$R/t^eR$ は Artin 局所環で、その極大イデアルは $\mathfrak{m}$ の像である。$R/t^eR$ のソクル $\operatorname{Soc}(R/t^eR)$ は、極大イデアルに消される元の全体である(socle)。
$\operatorname{Soc}(R/t^eR)$ は、$\operatorname{Ap}$ の $\le_H$ に関する極大元 $w$ についての $\overline{t^w}$ を基底とする。
$\mathfrak{m}=(t^{n_1},\dots,t^{n_r})R$ なので、$x\in R/t^eR$ がソクルに属することは、すべての $h\in H^*$ について $t^hx=0$ であることと同値である($t^h\in\mathfrak{m}$ であり、逆に生成元 $t^{n_i}$ が消せば $\mathfrak{m}$ 全体が消す)。$x=\sum_{w}a_w\overline{t^w}$ と書くと、thm-nsr-apery-basis の 2 により
$$
t^hx=\sum_{w\,:\,w+h\in\operatorname{Ap}}a_w\overline{t^{w+h}}
$$
であり、異なる $w$ は異なる $w+h$ を与えるので、$t^hx=0$ は「$w+h\in\operatorname{Ap}$ となるすべての $w$ で $a_w=0$」と同値である。よって $x$ がソクルに属するのは、$a_w\ne0$ となる $w$ がどれも「どの $h\in H^*$ についても $w+h\notin\operatorname{Ap}$」を満たすとき、すなわち $\operatorname{Ap}$ の中で $w$ より真に大きい元がない($w$ が極大)ときに限る。$\square$
数値半群 $H\ne\mathbb{N}$ について、整数 $x\notin H$ で、すべての $h\in H^*$ について $x+h\in H$ となるものを擬 Frobenius 数といい、その全体を $\operatorname{PF}(H)$、個数を $H$ の型 $\operatorname{t}(H)$ という。$F(H)\in\operatorname{PF}(H)$ である($F(H)+h>F(H)$)。
$H$ が対称であるとは、すべての整数 $x$ について「$x\in H$ と $F(H)-x\notin H$ が同値」であることをいう。
$w\mapsto w-e$ は、$\operatorname{Ap}$ の $\le_H$ に関する極大元の全体から $\operatorname{PF}(H)$ への全単射である。とくに $\dim_k\operatorname{Soc}(R/t^eR)=\operatorname{t}(H)$ である。
$w\in\operatorname{Ap}$ と $h\in H^*$ について $w+h\in H$ なので、「$w+h\notin\operatorname{Ap}$」は「$w+h-e\in H$」と同値である。よって $w$ が極大であることは、すべての $h\in H^*$ で $(w-e)+h\in H$ となることと同値であり、$w-e\notin H$($w\in\operatorname{Ap}$)と合わせて $w-e\in\operatorname{PF}(H)$ である。逆に $x\in\operatorname{PF}(H)$ なら $x+e\in H$、$(x+e)-e\notin H$ より $x+e\in\operatorname{Ap}$ であり、同じ同値で極大である。最後の主張は lem-nsr-socle による。$\square$
数値半群 $H\ne\mathbb{N}$ について、次は同値である。
$F=F(H)$ とおく。$x\in H$ なら $F-x\notin H$ は常に成り立つ($F-x\in H$ なら $F=x+(F-x)\in H$ となる)。したがって対称性は「$x\notin H$ なら $F-x\in H$」と同値である。
1 ⇒ 2:$x\in\operatorname{PF}(H)$ とする。$x\notin H$ なので $F-x\in H$ である。$x\ne F$ なら $F-x\in H^*$ で、擬 Frobenius 数の条件から $F=x+(F-x)\in H$ となり矛盾する。よって $x=F$ である。
2 ⇒ 1:整数 $x\notin H$ をとる。$x+h\notin H$ となる $h\in H$ の全体は $h=0$ を含み、$x+h\le F$ なので有限である。その中で $x+h$ が最大になる $h_0$ をとり $y=x+h_0$ とおくと、$h\in H^*$ について $y+h=x+(h_0+h)$ は最大性から $H$ に属する。よって $y\in\operatorname{PF}(H)=\{F\}$ であり、$F-x=h_0\in H$ である。
1 ⇔ 3:隙間はすべて $\{0,1,\dots,F\}$ に属する。この集合は対合 $x\mapsto F-x$ で軌道に分かれ、上で見たように各軌道の少なくとも一つの元は隙間である。$F$ が奇数なら軌道は $(F+1)/2$ 個の 2 元集合なので $g(H)\ge(F+1)/2$ であり、等号はどの軌道でもちょうど一つが隙間であるとき、すなわち $\{0,\dots,F\}$ の各 $x$ について $x$ と $F-x$ のちょうど一方が $H$ に属するときに限る。$\{0,\dots,F\}$ の外では $x<0$ なら $F-x>F$ で $F-x\in H$、$x>F$ なら $x\in H$ かつ $F-x<0$ なので、これは対称性と同値である。$F$ が偶数なら、$x=F/2$ は隙間で($x\in H$ なら $F=2x\in H$)$F-x=x$ も隙間なので $H$ は対称でなく、軌道は $F/2$ 個の 2 元集合と $\{F/2\}$ なので $g(H)\ge F/2+1>(F+1)/2$ となり、3 も成り立たない。$\square$
$k$ を体、$H\ne\mathbb{N}$ を数値半群、$e=e(H)$ とする。$R=k[\![H]\!]$ が Gorenstein 環であるための必要十分条件は、$H$ が対称であることである。より詳しく、$\dim_k\operatorname{Soc}(R/t^{e}R)=\operatorname{t}(H)$ である。
$t^e\in\mathfrak{m}$ は整域 $R$ の非零因子なので、Gorenstein環 の定理「非零因子による商の同値性」により、$R$ が Gorenstein であることと $R/t^eR$ が Gorenstein であることは同値である。thm-nsr-apery-basis により $R/t^eR$ は $k$ 上 $e$ 次元の零でない環であり、局所環 $R$ の剰余環なので零次元の Noether 局所環である。Gorenstein環 の定理「Artin局所環のソクル判定」により、$R/t^eR$ が Gorenstein であることは $\dim_k\operatorname{Soc}(R/t^eR)=1$ と同値である。lem-nsr-max-pf によりこの次元は $\operatorname{t}(H)$ であり、prop-nsr-symmetric により $\operatorname{t}(H)=1$ は $H$ が対称であることと同値である。$\square$
$\operatorname{t}(H)$ は、$R$ の非零因子 $t^e$ で割った環のソクルの次元であり、Cohen–Macaulay 局所環の型(Cohen–Macaulay 型。最小重複度Cohen–Macaulay局所環 の節「型とGorenstein性」)の数値半群環での値である。型が $1$ であることが Gorenstein 性であり、上の定理は「環の型 $=$ 擬 Frobenius 数の個数」という対応を通して Gorenstein 性を数の性質に移す。$H=\mathbb{N}$ のときは $R=k[\![t]\!]$ は離散付値環、とくに正則局所環なので Gorenstein である(Gorenstein環 の例「体と正則局所環」)。
$a,b\ge2$ を互いに素な整数とし、$H=\langle a,b\rangle$ とする。$H$ は対称で $F(H)=ab-a-b$、$g(H)=(a-1)(b-1)/2$ であり、$k[\![t^a,t^b]\!]$ は Gorenstein である。
$e(H)=\min\{a,b\}$ だが、Apéry 集合は $a$ に関するものでも同じ議論ができるので、$\operatorname{Ap}(H,a)$ を求める。$0\le j< a$ について $jb\in H$ であり、$jb-a\in H$ と仮定すると $jb-a=xa+yb$($x,y\ge0$)と書ける。$y\le j$ なら $(j-y)b=(x+1)a$ で、$\gcd(a,b)=1$ から $a\mid j-y$、$0\le j-y< a$ より $j=y$ となり $(x+1)a=0$ に反する。$y>j$ なら左辺 $(j-y)b$ は負で右辺は正なので矛盾する。よって $jb\in\operatorname{Ap}(H,a)$ であり、$0,b,\dots,(a-1)b$ は $a$ を法として互いに合同でないので、lem-nsr-apery の 1 により $\operatorname{Ap}(H,a)=\{jb\mid 0\le j< a\}$ である。$(a-1)b-jb=(a-1-j)b\in H$ なので $(a-1)b$ はただ一つの極大元である。
lem-nsr-max-pf の証明は $e$ を $H^*$ の任意の元 $n$ に置き換えてもそのまま成り立ち($\operatorname{Ap}(H,n)$ の極大元と $\operatorname{PF}(H)$ の全単射 $w\mapsto w-n$)、$\operatorname{PF}(H)=\{(a-1)b-a\}$ を得る。prop-nsr-symmetric により $H$ は対称で、$F(H)=ab-a-b$、$g(H)=(F+1)/2=(a-1)(b-1)/2$ である。thm-nsr-gorenstein により $k[\![t^a,t^b]\!]$ は Gorenstein である。$\square$
$F$ と $g$ の値は Frobeniusの硬貨問題 の定理「表せない最大の数」「表せない数の対称性と個数」と一致する。
| $H$ | 隙間 | $F$ | $\operatorname{Ap}(H,e)$ | $\operatorname{PF}(H)$ | $k[\![H]\!]$ |
|---|---|---|---|---|---|
| $\langle2,3\rangle$ | $1$ | $1$ | $\{0,3\}$ | $\{1\}$ | Gorenstein |
| $\langle3,4,5\rangle$ | $1,2$ | $2$ | $\{0,4,5\}$ | $\{1,2\}$ | Gorenstein でない(型 $2$) |
| $\langle3,5,7\rangle$ | $1,2,4$ | $4$ | $\{0,5,7\}$ | $\{2,4\}$ | Gorenstein でない(型 $2$) |
| $\langle3,7,8\rangle$ | $1,2,4,5$ | $5$ | $\{0,7,8\}$ | $\{4,5\}$ | Gorenstein でない(型 $2$) |
| $\langle4,5,6\rangle$ | $1,2,3,7$ | $7$ | $\{0,5,6,11\}$ | $\{7\}$ | Gorenstein |
確かめ方は同じなので $\langle4,5,6\rangle$ と $\langle3,7,8\rangle$ を示す。$\langle4,5,6\rangle=\{0,4,5,6,8,9,10,11,12,\dots\}$ で($7$ は $4,5,6$ の和に書けず、$8$ 以上は $8,9,10,11$ から $4$ を足して得られる)、$4$ を法とする各類の最小元は $0,5,6,11$ である。$11-5=6$、$11-6=5$、$11-0=11$ がどれも $H$ に属するので $11$ がただ一つの極大元であり、$\operatorname{PF}=\{11-4\}=\{7\}$ である。$g=4=(7+1)/2$ とも合う。$\langle3,7,8\rangle=\{0,3,6,7,8,9,\dots\}$ では $\operatorname{Ap}(H,3)=\{0,7,8\}$ で、$8-7=1\notin H$ なので $7$ と $8$ はどちらも極大であり、$\operatorname{PF}=\{4,5\}$ である。$g=4\ne3=(5+1)/2$ とも合う。
$\langle4,5,6\rangle$ は 3 つの数で生成されるが対称であり、Gorenstein 性は生成元が 2 つであることより真に弱い。$\langle3,4,5\rangle$ が Gorenstein でないことは、almost Gorenstein局所環 の例「例:$k[\![t^3,t^4,t^5]\!]$ はalmost GorensteinだがGorensteinでない」と 最小重複度Cohen–Macaulay局所環 の例「例:$k[\![t^3,t^4,t^5]\!]$」でも別の方法で確かめられている。
$e\ge2$ について $H=\langle e,e+1,\dots,2e-1\rangle=\{0\}\cup\{e,e+1,\dots\}$ とする。隙間は $1,\dots,e-1$、$F=e-1$、$\operatorname{Ap}(H,e)=\{0,e+1,\dots,2e-1\}$ で、$e+1,\dots,2e-1$ の差はどれも $e$ 未満の正の数で $H$ に属さないので、これらはすべて極大である。よって $\operatorname{PF}(H)=\{1,\dots,e-1\}$、型は $e-1$ であり、$k[\![H]\!]$ が Gorenstein になるのは $e=2$ のときに限る。埋め込み次元は上で見た上限 $e$ に等しい。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 隙間が有限個(prop-nsr-basic の 2・3) | $H=2\mathbb{N}$、$R=k[\![t^2]\!]$ | $t$ は $R$ の商体 $k(\!(t^2)\!)$ に属さず、正規化は $k[\![t]\!]$ にならない($R$ 自身が整閉) |
| $H$ が対称(thm-nsr-gorenstein の「対称なら Gorenstein」) | $H=\langle3,7,8\rangle$ | $\operatorname{t}(H)=2$ で $k[\![H]\!]$ は Gorenstein でない |
| 生成元が 2 つ(cor-nsr-two-generators) | $H=\langle3,4,5\rangle$ | $\operatorname{PF}(H)=\{1,2\}$ で対称でなく、$k[\![H]\!]$ は Gorenstein でない |
1 行目:$2\mathbb{N}$ は $0$ を含み加法で閉じるが、奇数がすべて隙間である。$k[\![t^2]\!]$ は変数 $s=t^2$ の冪級数環で離散付値環なので整閉であり、その商体 $k(\!(t^2)\!)$ の元はどれも偶数の指数しかもたないので $t$ を含まない。prop-nsr-basic の 3 の「正規化は $k[\![t]\!]$」は $t\in$ 商体を使っており、隙間が有限個であること($t^c,t^{c+1}\in R$)が要る。
2 行目・3 行目:ex-nsr-small の表と確かめのとおりである。$\langle3,7,8\rangle$ は $\operatorname{PF}(H)=\{4,5\}$ なので対称でなく、$\langle3,4,5\rangle$ は極小生成系が $\{3,4,5\}$ なので 2 つの数では生成されない。$\square$
thm-nsr-gorenstein の証明は、非零因子 $t^e$ で割って零次元の環のソクルの次元に帰着させた。同じ帰着は、Mat89 Theorem 18.1 の (5)・(5′)(pp. 141–142。Cohen–Macaulay 局所環が Gorenstein であることは、任意のパラメータイデアルが既約であること、またあるパラメータイデアルが既約であることと同値)を $t^eR$ に当てても得られる。零次元の Noether 局所環では、零でないイデアルはどれもソクルの零でない元を含むので、零イデアルが既約であることはソクルが 1 次元であることと同値である。3 つの数で生成される Gorenstein でない数値半群環の almost Gorenstein 性は GMP11 §4(p. 18 から)で調べられており、そこでは導手 $c(H)$ と Frobenius 数 $f=c-1$ を上と同じ意味で使っている。
$k[H]$ は、$t\mapsto(t^{n_1},\dots,t^{n_r})$ で与えられる単項式曲線 $C\subset\mathbb{A}^r_k$ の座標環であり、$H$ の隙間 $x$ は、正規化の座標環 $k[t]$ にはあるが $k[H]$ にはない単項式 $t^x$ に対応する。種数 $g$(隙間の個数)は、prop-nsr-basic の 2 により $\dim_kk[\![t]\!]/R$ に等しい。
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