体積形式(volume form)とは、$n$ 次元多様体の上のいたるところ $0$ にならない $n$ 次微分形式であり、各点で $n$ 個の接ベクトルの張る平行体に符号つきの体積を与える。値が正になる基底を正とすることで向きを定め、多様体が体積形式をもつことは向き付け可能であることと同値である。向きと Riemann 計量があると、正の向きの正規直交基底に値 $1$ を与える Riemann 体積形式がただ一つ定まり、正の向きの局所座標では $\sqrt{\det(g_{ij})}\,dx^1\wedge\cdots\wedge dx^n$ と書ける。積分・体積・発散・Hodge のスター作用素の基礎であり、超曲面の体積形式は単位法ベクトルとの内部積で得られる。
前提知識: 微分形式, 向き付け可能多様体, 行列式, Riemann多様体
体積形式(volume form)とは、$n$ 次元多様体 $M$ の上の、いたるところ $0$ にならない $n$ 次微分形式のことである。各点で、接空間の $n$ 個のベクトルが張る平行体に符号つきの「体積」を割り当てる。
体積形式は、値が正になる基底を正の向きと定めることで $M$ に向きを与える。逆に向き付け可能な多様体は体積形式をもつ(向き付け可能多様体 の定理「体積形式による特徴づけ」)。向きと Riemann 計量 $g$ があると、正の向きの正規直交基底に値 $1$ を与える体積形式 $dV_g$ がただ一つ定まり、局所座標では $\sqrt{\det(g_{ij})}\,dx^1\wedge\cdots\wedge dx^n$ と書ける。これが Riemann 体積形式であり、Riemann 多様体の上の積分・体積・発散(ベクトル場)・Hodgeのスター作用素の基礎になる。
この記事では、体積形式の変換則、交代形式の内積、Riemann 体積形式の存在・一意性・座標表示、超曲面の体積形式の内部積による公式を証明する。
外積は 微分形式 の規約(同記事の A 方式、行列式の流儀)で定める:1 次形式 $\alpha^1,\dots,\alpha^n$ について $(\alpha^1\wedge\cdots\wedge\alpha^n)(v_1,\dots,v_n)=\det\bigl(\alpha^i(v_j)\bigr)$。反対称化の流儀(B 方式)での違いは rem-volume-form-conventions にまとめる。$V$ を $\mathbb{R}$ 上の $n$ 次元線形空間($n\ge1$)とする。
$\mu\in\Lambda^n(V^\ast)$、$e_1,\dots,e_n$ を $V$ の基底とし、$v_j=\sum_ia_{ij}e_i$($1\le j\le n$)とおく。このとき
$$
\mu(v_1,\dots,v_n)=\det(a_{ij})\,\mu(e_1,\dots,e_n)
$$
である。とくに $\Lambda^n(V^\ast)$ は 1 次元で、$\mu$ は 1 つの基底での値で決まる。
多重線形性で展開すると $\mu(v_1,\dots,v_n)=\sum_{i_1,\dots,i_n}a_{i_11}\cdots a_{i_nn}\,\mu(e_{i_1},\dots,e_{i_n})$ である。交代性により添字に重複がある項は $0$ であり、残る項は $(i_1,\dots,i_n)=(\sigma(1),\dots,\sigma(n))$($\sigma$ は置換)で $\mu(e_{\sigma(1)},\dots,e_{\sigma(n)})=\operatorname{sgn}(\sigma)\,\mu(e_1,\dots,e_n)$ となる。よって和は $\sum_\sigma\operatorname{sgn}(\sigma)a_{\sigma(1)1}\cdots a_{\sigma(n)n}\,\mu(e_1,\dots,e_n)=\det(a_{ij})\,\mu(e_1,\dots,e_n)$ である(行列式 の定義)。$\mu(e_1,\dots,e_n)=0$ なら $\mu$ はすべての組で $0$ なので、$\mu\mapsto\mu(e_1,\dots,e_n)$ は単射な線形写像 $\Lambda^n(V^\ast)\to\mathbb{R}$ であり、$e^1\wedge\cdots\wedge e^n$(双対基底の外積)の値が $1$ なので全射でもある。$\square$
$0$ でない $\mu\in\Lambda^n(V^\ast)$ を $V$ の体積形式という。$\mu(v_1,\dots,v_n)$ は $v_1,\dots,v_n$ の張る平行体の符号つき体積と読める:基底を取り替えると行列式倍され、$v_j$ の一つを他の一次結合だけずらしても変わらず、退化した平行体では $0$ である。lem-volume-form-det の式により、$\mu(v_1,\dots,v_n)>0$ となる基底の全体は、行列式が正の行列で移り合う基底の類、すなわち $V$ の向き(向き付け可能多様体 の定義「ベクトル空間の向き」)の一つである。これを $\mu$ の定める向きという。
$n$ 次元多様体 $M$($n\ge1$)の上の $n$ 次微分形式 $\mu\in\Omega^n(M)$ で、すべての点 $x$ で $\mu_x\ne0$ となるものを $M$ の体積形式(volume form)という。向きづけられた $M$ の体積形式 $\mu$ が正の向きであるとは、各点で $\mu_x$ の定める向きが $M$ の向きと一致することをいう。
体積形式は各点で接空間の向きを定め、これは連続に動く(局所座標で $\mu=f\,dx^1\wedge\cdots\wedge dx^n$ と書くと、$f$ は連結な座標近傍の上で符号が一定)。逆に向きづけられた $M$ は正の向きの体積形式をもつ。この同値は 向き付け可能多様体 の定理「体積形式による特徴づけ」で証明されている。向きを定める形式であることを強調して、英語では orientation form ともいう。
$\mu$ を $M$ の体積形式とする。任意の $n$ 形式 $\eta$ に対し $\eta=f\,\mu$ となる滑らかな関数 $f$ がただ一つあり、$\eta$ が体積形式であることと $f$ がいたるところ $0$ でないことは同値である。$M$ が連結で $\eta$ も体積形式なら、$f$ の符号は一定であり、$\eta$ と $\mu$ は同じ向きか逆の向きを定める。
各点で $\Lambda^n(T^\ast_xM)$ は 1 次元で $\mu_x\ne0$ なので(lem-volume-form-det)、$\eta_x=f(x)\mu_x$ となる実数 $f(x)$ がただ一つある。局所座標で $\mu=h\,dx^1\wedge\cdots\wedge dx^n$、$\eta=k\,dx^1\wedge\cdots\wedge dx^n$ と書くと、$h,k$ は滑らかで $h$ は $0$ にならないので $f=k/h$ は滑らかである。$\eta_x\ne0\iff f(x)\ne0$ は明らかである。$f$ が $0$ にならない連続関数なら $\{f>0\}$ と $\{f<0\}$ は互いに交わらない開集合で $M$ を覆うので、$M$ が連結ならどちらかが空である。$\square$
以下、$g$ を $V$ の内積とし、$V^\ast$ には $g$ から誘導される内積 $g^\ast$ を入れる($\alpha\in V^\ast$ に $g(\alpha^\sharp,w)=\alpha(w)$ となる $\alpha^\sharp\in V$ を対応させ、$g^\ast(\alpha,\beta):=g(\alpha^\sharp,\beta^\sharp)$ とおく。$g$ の任意の正規直交基底 $e_1,\dots,e_n$ について $(e^i)^\sharp=e_i$ なので、双対基底 $e^1,\dots,e^n$ は $g^\ast$ の正規直交基底である)。
$1\le p\le n$ とする。$\Lambda^p(V^\ast)$ の内積 $\langle\ ,\ \rangle$ で、1 次形式 $\alpha^i,\beta^j\in V^\ast$ に対して
$$
\langle\alpha^1\wedge\cdots\wedge\alpha^p,\ \beta^1\wedge\cdots\wedge\beta^p\rangle=\det\bigl(g^\ast(\alpha^i,\beta^j)\bigr)_{1\le i,j\le p}
$$
を満たすものを、$g$ から誘導される交代形式の内積という。$\Lambda^0(V^\ast)=\mathbb{R}$ では通常の積とする。そのような内積がただ一つ存在することは prop-volume-form-inner-product で示す。
この内積は 微分形式 の定義「交代形式の内積」の $\langle\ ,\ \rangle_s$(外積代数の標準的な内積)であり、テンソルの内積の制限とは定数倍だけ違う(同記事の命題「3 種類の内積の関係」)。Hodgeのスター作用素 はこの内積で定義される。
$e_1,\dots,e_n$ を $g$ の正規直交基底、$e^1,\dots,e^n$ をその双対基底とし、増加する添字 $I=(i_1<\cdots< i_p)$ に対し $e^I:=e^{i_1}\wedge\cdots\wedge e^{i_p}$ とおく。$\{e^I\}$ が正規直交基底になる内積は def-volume-form-inner-product の等式を満たし、その等式を満たす内積はこれに限る。とくにこの内積は正規直交基底の取り方によらない。
$\{e^I\}$ は $\Lambda^p(V^\ast)$ の基底なので(微分形式 の命題「交代形式の基底と成分表示」)、これを正規直交基底とする内積 $B$ が一つ定まる。$L(\alpha^1,\dots,\alpha^p;\beta^1,\dots,\beta^p):=B(\alpha^1\wedge\cdots\wedge\alpha^p,\beta^1\wedge\cdots\wedge\beta^p)$ と $R:=\det\bigl(g^\ast(\alpha^i,\beta^j)\bigr)$ は、どちらも $(\alpha^1,\dots,\alpha^p)$ と $(\beta^1,\dots,\beta^p)$ のそれぞれについて多重線形かつ交代的である($L$ は外積の性質から、$R$ は行列式の行と列の性質から)。このような関数は、$\alpha^a$、$\beta^b$ を基底の元 $e^{i_a}$、$e^{j_b}$ にとり、添字の列が狭義に増加する場合の値で決まる(多重線形性で展開し、交代性で並べ替えると、重複のある項は $0$、ほかは符号をつけて増加列の値になる)。増加列 $I,J$ について $L=B(e^I,e^J)$ は $I=J$ なら $1$、そうでなければ $0$ である。$R=\det(\delta_{i_aj_b})$ は、$I=J$ なら単位行列の行列式 $1$ であり、$I\ne J$ なら $J$ に現れない $i_a$ があってその行がすべて $0$ なので $0$ である。よって $L=R$ である。分解可能な元は $\Lambda^p(V^\ast)$ を張るので、等式を満たす双線形形式は一つしかない。右辺は基底によらないので、内積も基底によらない。$\square$
Riemann 体積形式を定める主定理を、まず線形空間で述べる。
$(V,g)$ を向きづけられた $n$ 次元内積空間($n\ge1$)とする。$\Lambda^n(V^\ast)$ の元 $\mu_g$ で、正の向きのすべての正規直交基底 $(e_1,\dots,e_n)$ について $\mu_g(e_1,\dots,e_n)=1$ となるものがただ一つ存在する。さらに次が成り立つ。
正の向きの正規直交基底 $(e_i)$ を一つ固定し、$\mu:=e^1\wedge\cdots\wedge e^n$ とおく。任意の基底を $v_j=\sum_ia_{ij}e_i$、$A:=(a_{ij})$ と書くと、外積の定義から $\mu(v_1,\dots,v_n)=\det\bigl(e^i(v_j)\bigr)=\det A$ である。一方 $g(v_j,v_k)=\sum_ia_{ij}a_{ik}$ は ${}^tAA$ の $(j,k)$ 成分なので $\det\bigl(g(v_j,v_k)\bigr)=(\det A)^2>0$ であり、$\mu(v_1,\dots,v_n)=\pm\sqrt{\det(g(v_i,v_j))}$ となる。$(v_j)$ が正の向きであることは $\det A>0$ と同値なので($(e_i)$ が正の向き)、符号は 2 のとおりである。
2 の右辺は $(e_i)$ によらない。別の正の向きの正規直交基底から同じように作った形式も、すべての基底で同じ値をとるので $\mu$ に等しい。よって 1 が成り立ち、正の向きの正規直交基底 $(e'_i)$ について $\mu(e'_1,\dots,e'_n)=\sqrt{\det(\delta_{ij})}=1$ である。こうして存在が示された。一意性は、$\Lambda^n(V^\ast)$ の元が 1 つの基底での値で決まること(lem-volume-form-det)による。
3:def-volume-form-inner-product により $\langle\mu,\mu\rangle=\det\bigl(g^\ast(e^i,e^j)\bigr)=1$ である。$\Lambda^n(V^\ast)$ の正の向きの元は $c\,\mu$($c>0$)であり、$\langle c\mu,c\mu\rangle=c^2$ なので、値が $1$ になるのは $c=1$ のときに限る。$\square$
$(M,g)$ を向きづけられた $n$ 次元 Riemann 多様体(Riemann多様体)とする。各点 $x$ で、向きづけられた内積空間 $(T_xM,g_x)$ に thm-volume-form-riemannian を当てて得られる $\mu_{g_x}$ を並べた $n$ 形式を $M$ の Riemann 体積形式(Riemannian volume form)といい、$dV_g$ と書く($\mathrm{vol}_g$、$\omega_g$、$dv$ とも書く)。
正の向きの局所座標 $(U;x^1,\dots,x^n)$ で $g_{ij}:=g(\partial_i,\partial_j)$ とおくと、$U$ の上で
$$
dV_g=\sqrt{\det(g_{ij})}\,dx^1\wedge\cdots\wedge dx^n
$$
である。したがって $dV_g$ は滑らかで、正の向きの体積形式である。正の向きの局所的な正規直交枠の双対余枠 $\theta^1,\dots,\theta^n$ については $dV_g=\theta^1\wedge\cdots\wedge\theta^n$ である。
座標枠 $(\partial_1,\dots,\partial_n)$ は各点で正の向きの基底なので、thm-volume-form-riemannian の 2 により $dV_g(\partial_1,\dots,\partial_n)=\sqrt{\det(g_{ij})}$ である。$(dx^1\wedge\cdots\wedge dx^n)(\partial_1,\dots,\partial_n)=\det(\delta_{ij})=1$ なので、$n$ 形式は 1 つの基底での値で決まること(lem-volume-form-det)から等式が従う。$g_{ij}$ は滑らかで $\det(g_{ij})>0$ なので係数は滑らかで正である。最後の主張は thm-volume-form-riemannian の 1 である(Lee12 Proposition 15.29・15.31 も同じ内容)。$\square$
定義が点ごとに座標を使わずになされているので、座標表示が座標の取り方によらないことは自動的に従う。この両立を座標変換の計算で直接確かめておく。
正の向きの 2 つの局所座標 $(U;x^i)$、$(V;y^i)$ について、$U\cap V$ の上で $J:=\bigl(\partial y^i/\partial x^j\bigr)$ とおくと
$$
dy^1\wedge\cdots\wedge dy^n=\det J\,dx^1\wedge\cdots\wedge dx^n,\qquad\sqrt{\det(g^x_{ij})}\,dx^1\wedge\cdots\wedge dx^n=\sqrt{\det(g^y_{ij})}\,dy^1\wedge\cdots\wedge dy^n
$$
が成り立つ。ここで $g^x_{ij}$、$g^y_{ij}$ はそれぞれの座標での計量の成分である。
$dy^i=\sum_j(\partial y^i/\partial x^j)\,dx^j$ なので $dy^i(\partial_{x^j})=J_{ij}$ であり、$(dy^1\wedge\cdots\wedge dy^n)(\partial_{x^1},\dots,\partial_{x^n})=\det J$ である。$n$ 形式は 1 つの基底での値で決まるので第 1 式を得る。連鎖律 $\partial_{x^i}=\sum_kJ_{ki}\,\partial_{y^k}$ から $g^x_{ij}=\sum_{k,l}J_{ki}\,g^y_{kl}\,J_{lj}$、すなわち $(g^x)={}^tJ\,(g^y)\,J$ であり、$\det(g^x)=(\det J)^2\det(g^y)$ となる。2 つの座標は同じ向きなので $\det J>0$ であり、$\sqrt{\det(g^x)}=\det J\sqrt{\det(g^y)}$ である。これと第 1 式から第 2 式が従う。$\square$
外積を B 方式で定めても、Riemann 体積形式は正の向きの正規直交余枠の外積 $\theta^1\wedge\cdots\wedge\theta^n$、座標では $\sqrt{\det(g_{ij})}\,dx^1\wedge\cdots\wedge dx^n$ と書くのがふつうである。このとき正の向きの正規直交基底での値は $1/n!$ であり(平行体でなく単体の体積)、thm-volume-form-riemannian の正規化「値 $1$」は A 方式のものである。$n$ 形式の積分は座標表示の係数で定めるので(Stokesの定理 の定義「向き付けられた多様体上の $n$ 形式の積分」)、$\int_MdV_g$ はどちらの方式でも同じ値になる。
$(M,g)$ の超曲面の体積形式は、単位法ベクトルとの内部積で書ける。
$(M,g)$ を向きづけられた $n$ 次元 Riemann 多様体($n\ge2$)、$S\subset M$ を埋め込まれた超曲面、$\iota_S\colon S\hookrightarrow M$ を包含写像、$g_S:=\iota_S^\ast g$ を誘導計量とする。$N$ を $S$ に沿った滑らかな単位法ベクトル場(各 $x\in S$ で $N_x\in T_xM$、$g(N_x,N_x)=1$、$N_x\perp T_xS$)とする。$S$ 上の $(n-1)$ 形式 $\sigma$ を
$$
\sigma_x(w_1,\dots,w_{n-1}):=(dV_g)_x(N_x,w_1,\dots,w_{n-1})\qquad(w_i\in T_xS)
$$
で定める($N$ を $M$ のベクトル場に延ばせば $\sigma=\iota_S^\ast(\iota_NdV_g)$)。このとき $\sigma$ は $S$ の体積形式であり、$\sigma$ の定める向き、すなわち「$(N_x,w_1,\dots,w_{n-1})$ が $T_xM$ の正の向きの基底になる $(w_i)$ を正とする向き」について、$\sigma$ は $(S,g_S)$ の Riemann 体積形式 $dV_{g_S}$ に等しい。
$S$ のスライス座標($S$ との共通部分が $\{x^n=0\}$ で、像が原点中心の立方体になる $M$ の局所座標)で $N$ の成分を $x^n$ によらないように延ばすと、$N$ は局所的に $M$ のベクトル場 $\widetilde N$ の制限になり、$\sigma=\iota_S^\ast(\iota_{\widetilde N}dV_g)$ は滑らかである。$N_x\notin T_xS$ なので、$T_xS$ の基底 $(w_i)$ に $N_x$ を加えた $(N_x,w_1,\dots,w_{n-1})$ は $T_xM$ の基底であり、$dV_g$ は基底で $0$ にならないので $\sigma_x\ne0$ である。よって $\sigma$ は $S$ の体積形式であり、thm-volume-form-riemannian の 2 により $\sigma_x(w)>0$ は $(N_x,w)$ が正の向きであることと同値なので、$\sigma$ の定める向きは主張のとおりである。
$(e_1,\dots,e_{n-1})$ をこの向きで正の向きの $(T_xS,g_S)$ の正規直交基底とすると、$N_x$ は単位ベクトルで $T_xS$ に直交するので $(N_x,e_1,\dots,e_{n-1})$ は $T_xM$ の正規直交基底であり、正の向きである。よって $\sigma_x(e_1,\dots,e_{n-1})=(dV_g)_x(N_x,e_1,\dots,e_{n-1})=1$ となり、thm-volume-form-riemannian の一意性から $\sigma_x=(dV_{g_S})_x$ である。$\square$
$M$ が境界をもつ Riemann 多様体なら、境界上の外向き単位法ベクトル $N$ について $\iota_{\partial M}^\ast(\iota_NdV_g)$ が境界の体積形式になり、これが Gaussの発散定理 の面積要素である(Lee12 Proposition 15.32・Corollary 15.34)。
$\mathbb{R}^n$ の標準の計量と標準の向きでは $g_{ij}=\delta_{ij}$ なので $dV=dx^1\wedge\cdots\wedge dx^n$ である。単位球面 $S^{n-1}$ の外向き単位法ベクトルは $N_x=\sum_ix^i\partial_i$(Euler ベクトル場の制限)であり、prop-volume-form-hypersurface と 内部積 の例「Euler ベクトル場と体積形式」の計算から
$$
dV_{S^{n-1}}=\iota^\ast\Bigl(\sum_{i=1}^n(-1)^{i-1}x^i\,dx^1\wedge\cdots\wedge\widehat{dx^i}\wedge\cdots\wedge dx^n\Bigr)
$$
である。$n=3$ で球面座標 $\Phi(\theta,\varphi)=(\sin\theta\cos\varphi,\sin\theta\sin\varphi,\cos\theta)$($0<\theta<\pi$、$0<\varphi<2\pi$)をとると、$\partial_\theta\Phi\times\partial_\varphi\Phi=\sin\theta\,\Phi$ なので $(N,\partial_\theta,\partial_\varphi)$ は正の向きであり、誘導計量は $d\theta^2+\sin^2\theta\,d\varphi^2$ である。prop-volume-form-coordinates により $dV_{S^2}=\sin\theta\,d\theta\wedge d\varphi$ であり、面積は $\int_0^{2\pi}\!\int_0^\pi\sin\theta\,d\theta\,d\varphi=4\pi$ である(座標で覆えない部分は面積 $0$ の閉集合)。
$\mathbb{R}^{2n}$ の座標を $(x_1,y_1,\dots,x_n,y_n)$、$\tau_i:=dx_i\wedge dy_i$、$\omega:=\sum_i\tau_i$ とする。2 形式どうしは外積で可換で $\tau_i\wedge\tau_i=0$ なので、$\omega^n=(\tau_1+\cdots+\tau_n)^{\wedge n}$ を展開すると添字がすべて異なる項だけが残り、$n!$ 通りの並べ方がすべて $\tau_1\wedge\cdots\wedge\tau_n$ に等しい。よって
$$
\frac{\omega^n}{n!}=dx_1\wedge dy_1\wedge\cdots\wedge dx_n\wedge dy_n
$$
は体積形式である(Liouville の体積形式、シンプレクティック体積形式ともいう)。一般のシンプレクティック多様体 $(M,\omega)$ でも $\omega^n$ はいたるところ $0$ でない(シンプレクティック多様体 の定理「線形シンプレクティック形式の標準形」の 3)ので、シンプレクティック多様体は向き付け可能である。
向きづけられた $M$ の正の向きの体積形式 $\mu$ と、台がコンパクトな連続関数 $f$ について積分 $\int_Mf\,\mu$ が定まる(Stokesの定理 の定義「向き付けられた多様体上の $n$ 形式の積分」)。$f\ge0$ で $f\not\equiv0$ なら $\int_Mf\,\mu>0$ である。Riemann 多様体では $\int_MdV_g$ を $M$ の体積といい、$\mathcal{L}_X\,dV_g=(\operatorname{div}X)\,dV_g$ で発散が定まる(発散(ベクトル場))。
$M$ を向きづけられた空でない $n$ 次元の閉多様体(コンパクトで境界のない多様体、$n\ge1$)とする。$M$ の体積形式は完全形式でない。とくに $H^n_{dR}(M)\ne0$ である。
$\mu$ を体積形式とする。各連結成分の上で $\mu$ か $-\mu$ が正の向きであり(prop-volume-form-ratio)、$\mu=d\eta$ なら成分ごとに符号を変えたものも $\eta$ の符号を変えて完全形式になるので、$\mu$ は正の向きとしてよい。$M$ を正の向きの有限個の局所座標 $N_1,\dots,N_m$ で覆い、従属する滑らかな 1 の分割 $(\rho_j)$ をとると、$\int_M\mu=\sum_j\int_{x(N_j)}\rho_jf_j\,dx^1\cdots dx^n$($N_j$ の上で $\mu=f_j\,dx^1\wedge\cdots\wedge dx^n$、$f_j>0$)である。各項は $0$ 以上の連続関数の積分で、$\rho_j\not\equiv0$ となる項は正なので $\int_M\mu>0$ である。一方 $\mu=d\eta$ なら Stokesの定理 の系「閉多様体上の積分と完全形式」の 1 により $\int_Md\eta=0$ であり、矛盾する。$\square$
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $M$ が向き付け可能 | 開いた Möbius の帯 | 体積形式が存在すること |
| $\eta$ がいたるところ $0$ でない | $\mathbb{R}$ 上の $\eta=x\,dx$ と $\mu=dx$ | 連結な $M$ で比 $f$ の符号が一定であること($f=x$) |
| $M$ がコンパクト | $\mathbb{R}$ 上の $dx$ | 体積形式が完全でないこと($dx=d(x)$) |
| $M$ に境界がない | $[0,1]$ 上の $dx$ | 体積形式が完全でないこと($dx=d(x)$、$\int_{[0,1]}dx=1$) |
| $g$ が正定値 | $\mathbb{R}^2$ の Minkowski 計量 $-dt^2+dx^2$ | $\sqrt{\det(g_{ij})}$ が実数であること、ノルム $1$ の正の元の存在 |
1 行目:開いた Möbius の帯は向き付け可能でない(Möbiusの帯 の注意「Möbius の帯は向き付け可能でない」)。体積形式があれば向きが定まるので(向き付け可能多様体 の定理「体積形式による特徴づけ」)、体積形式は存在しない。
2 行目:$\eta=x\,dx$ は $x=0$ で $0$ になるので体積形式でない。$\eta=f\,\mu$ の $f=x$ は $x>0$ で正、$x<0$ で負であり、$\eta$ は正の側と負の側で逆の向きを与える。
3・4 行目:$dx$ はいたるところ $0$ でない 1 形式で、関数 $x$ の微分なので完全形式である。$\mathbb{R}$ はコンパクトでなく、$[0,1]$ は境界 $\{0,1\}$ をもつので、cor-volume-form-not-exact の仮定の一方だけが破れている。$[0,1]$ では Stokes の定理の境界項 $x(1)-x(0)=1$ が残る。
5 行目:$g=-dt^2+dx^2$ では $\det(g_{ij})=-1<0$ である。双対の対称形式で $\langle dt,dt\rangle=-1$、$\langle dx,dx\rangle=1$ なので $\langle dt\wedge dx,dt\wedge dx\rangle=-1$ であり、$\Lambda^2$ の元 $c\,dt\wedge dx$ の「ノルムの 2 乗」は $-c^2\le0$ で、$1$ にならない。不定値の計量では $\sqrt{\lvert\det(g_{ij})\rvert}\,dt\wedge dx$ を体積形式に使う(Hodgeのスター作用素)。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する