車輪グラフ(wheel graph)とは、$n\ge3$ について閉路 $C_n$ のすべての頂点を新しい頂点(ハブ)と結んだ $n+1$ 頂点 $2n$ 辺の単純グラフ $W_n$ であり、$W_3$ は完全グラフ $K_4$ である。$W_n$ は 3-連結な平面グラフで、彩色数は $n$ が偶数なら $3$、奇数なら $4$、彩色多項式は $k((k-2)^n+(-1)^n(k-2))$ である。全域木の個数は Lucas 数を使って $L_{2n}-2$ と表され、外周の切り方とスポークの選び方を $2\times2$ 行列の冪の跡で数えて求められる。標準的な描画の双対グラフは $W_n$ 自身と同型であり、車輪はすべての 3-連結グラフを辺の操作で作る構成の出発点にもなる。
閉路の中央に 1 つの頂点を置き、閉路のすべての頂点と結ぶと、車輪のスポークのような形のグラフができる。これが車輪グラフである。小さいながら平面グラフ・彩色・連結度のいろいろな現象の典型例になる。4 頂点の車輪は完全グラフ $K_4$ であり、5 角形の車輪は 四色定理 の記事で 4 色が必要な平面グラフの例として現れる。6 角形の車輪は ペニーグラフ の記事で硬貨を並べた配置として現れる。Kuratowskiの定理 の記事では、一般の車輪が、縮約しても 3-連結のままの辺とそうでない辺の例として使われる。
この記事では、車輪グラフの彩色数と彩色多項式、全域木の個数が Lucas 数で表されること(thm-wh-spanning-trees)、外周を正多角形に、中央の頂点をその中心に置いて描いた車輪グラフの双対グラフが、元の車輪グラフと同型であること(thm-wh-self-dual)を証明する。車輪は 3-連結グラフの構成の出発点でもある(rem-wh-tutte)。
$n\ge3$ とする。閉路 $C_n=v_1v_2\cdots v_nv_1$ に新しい頂点 $h$ を加え、$h$ を $v_1,\dots,v_n$ のすべてと辺で結んだ単純グラフを 車輪グラフ(wheel graph)といい、$W_n$ と書く。$h$ をハブ、$C_n$ を外周、辺 $hv_i$ をスポークという。添字は $n$ を法として考え、$v_{n+1}=v_1$ とする。
$W_n$ は頂点 $n+1$ 個、辺 $2n$ 本(外周 $n$ 本とスポーク $n$ 本)をもつ。ハブの次数は $n$、外周の頂点の次数は $3$ である。この記事では添字を外周の頂点数とし、$W_n$ の頂点数は $n+1$ である。Kuratowskiの定理・ペニーグラフ・Vizingの定理 の記事も同じ添字を使っている。
$W_n$ から外周の辺 $v_nv_1$ を 1 本除いたグラフ、すなわち道 $v_1v_2\cdots v_n$ のすべての頂点を $h$ と結んだグラフを扇といい、$F_n$ と書く。
外周の頂点を正 $n$ 角形の頂点に、ハブをその中心に置き、辺を線分で描くと、$W_n$ の平面への描画が得られる。これを $W_n$ の標準的な描画という。
$n\ge3$ のとき、$W_n$ は 3-連結である。すなわち、頂点は $4$ 個以上あり、どの 2 個以下の頂点を除いても連結のままである。
頂点は $n+1\ge4$ 個ある。高々 2 個の頂点の集合 $Z$ を除く。$h\in Z$ なら、残りは閉路 $C_n$ から高々 1 頂点を除いたもので、閉路か道なので連結である。$h\notin Z$ なら、残りのどの頂点も $h$ と隣接するので連結である。$\square$
3-連結性は 連結度(グラフ) の記事の定義「$k$-連結グラフ」の $k=3$ の場合である。$n\ge4$ のとき、外周の辺を縮約すると $W_{n-1}$ になり 3-連結のままだが、スポークを縮約すると扇 $F_{n-1}$ になって 3-連結でなくなる(Kuratowskiの定理 の記事の例「縮約できる辺」)。$W_n$ は 3-連結なので、平面性判定 の記事の定理「分離による帰着」のような 2 個以下の頂点での分割ができない。
$n\ge3$ のとき、$W_n$ の彩色数は、$n$ が偶数なら $3$、$n$ が奇数なら $4$ である。
$W_n$ の頂点彩色では、ハブの色は外周のどの頂点の色とも異なる。外周の頂点に使う色は $C_n$ の頂点彩色をなすので、色の数は $C_n$ の彩色数に $1$ を加えたもの以上である。逆に、$C_n$ を彩色数ぶんの色で塗り、ハブに新しい色を塗れば $W_n$ の頂点彩色になる。よって $W_n$ の彩色数は $C_n$ の彩色数に $1$ を加えたものである。$C_n$ は $n$ が偶数なら二部グラフで彩色数 $2$、奇数なら奇閉路で 2 色では塗れず(彩色 の記事の注意「反例:奇閉路の2-頂点彩色」)、色 $1,2,\dots,1,2,3$ と塗れば 3 色で足りるので彩色数 $3$ である。$\square$
$n$ が奇数のとき、$W_n$($n\ge5$)は $K_4$ を部分グラフとして含まないのに 4 色を要する。4 色が必要になる理由が $K_4$ を含むことだけではない例である(四色定理 の記事の例「4 色が必要な平面グラフ」)。
$n\ge3$ のとき、$W_n$ の彩色多項式は
$$
P_{W_n}(k)=k\bigl((k-2)^n+(-1)^n(k-2)\bigr)
$$
である。
正の整数 $k$ について、$k$ 色による頂点彩色の個数を数える。ハブの色の選び方は $k$ 通りである。ハブの色を決めると、外周の頂点はどれもハブと隣接するので残りの $k-1$ 色から選び、外周の隣り合う頂点の色は異なる。その塗り方は $C_n$ の $k-1$ 色による頂点彩色の個数 $P_{C_n}(k-1)$ に等しい。彩色多項式 の記事の例「基本的なグラフの彩色多項式」の 4 により $P_{C_n}(q)=(q-1)^n+(-1)^n(q-1)$ なので、$q=k-1$ を代入して $P_{W_n}(k)=k\,P_{C_n}(k-1)$ が主張の式になる($k=1$ では両辺とも $0$)。両辺は多項式で、すべての正の整数で値が一致するので、多項式として等しい。$\square$
たとえば $P_{W_4}(3)=3(1+1)=6$、$P_{W_5}(3)=3(1-1)=0$、$P_{W_5}(4)=4(32-2)=120$ であり、thm-wh-chromatic-number と合う。
$W_n$ の全域木を数える。外周を一周しながら、どの辺が切れているか、どの頂点からスポークが出ているかを記録すると、$2\times2$ 行列の冪の跡で数えられる。
$W_n$ の全域木 $T$ について、外周の辺のうち $T$ に属さないものの集合を $S$ とする。
1:$T$ は閉路を含まないので外周の辺をすべては含まず、$S\neq\emptyset$ である。閉路から $s\ge1$ 本の辺を除くと $s$ 個の道に分かれる。
2:弧 $Q$ の頂点から出る $T$ の辺は、$Q$ の中の外周の辺か、スポークである(隣の弧への外周の辺は $S$ に属する)。$Q$ のどの頂点からも $T$ のスポークが出ていなければ、$Q$ の頂点は $T$ の中で $h$ と結ばれず、$T$ の連結性に反する。$Q$ の 2 頂点 $v,v'$ から $T$ のスポークが出ていれば、$h$、$v$、$Q$ に沿った $v$ から $v'$ への道、$v'$、$h$ が $T$ の中の閉路をなし矛盾する。
3:選んだ辺の集合を $T$ とする。$T$ の辺は外周の $n-\lvert S\rvert$ 本とスポーク $\lvert S\rvert$ 本で、合わせて $n$ 本である。各弧の頂点はその弧に沿って選んだ頂点に、そこからスポークで $h$ に結ばれるので、$T$ は $n+1$ 頂点すべてを結ぶ連結なグラフである。全域木 の記事の命題「木の判定」により $T$ は全域木であり、その $S$ と選んだ頂点は与えたものに一致する。1・2 で $T$ から得たものに 3 を使えば $T$ に戻るので、2 つの対応は互いに逆である。弧ごとに頂点の選び方は弧の頂点数だけあるので、最後の主張が従う。$\square$
$n\ge3$ のとき
$$
\tau(W_n)=\Bigl(\frac{3+\sqrt5}{2}\Bigr)^{n}+\Bigl(\frac{3-\sqrt5}{2}\Bigr)^{n}-2
$$
である。右辺は Lucas 数 $L_m$($L_0=2$、$L_1=1$、$L_{m}=L_{m-1}+L_{m-2}$)を使って $L_{2n}-2$ と書ける。
外周を $v_1$、辺 $v_1v_2$、$v_2$、辺 $v_2v_3$、…、$v_n$、辺 $v_nv_1$ の順にたどり、各時点で「いまいる弧で、選んだ頂点をもう通ったか」を状態 $1$(通った)、$0$(まだ)で記録する。頂点を通るときは、状態 $0$ からは $0$ のまま(選ばない)か $1$ へ(選ぶ)移り、状態 $1$ からは $1$ のまま(選ばない)である。辺を通るときは、辺を残すなら状態はそのままで、辺を切る($S$ に入れる)のは状態 $1$ のときだけ許し、切ったら次の弧に入るので状態 $0$ に戻る。状態の移り方の数を行列で表すと、頂点の段は $V=\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix}$、辺の段は $E=\begin{pmatrix}1&0\\1&1\end{pmatrix}$(行が移る前、列が移った後の状態)であり、頂点 1 つと辺 1 本をまとめると
$$
M:=VE=\begin{pmatrix}2&1\\1&1\end{pmatrix}
$$
となる。一周して最初の状態に戻る状態の列の個数は $\operatorname{tr}(M^n)$ である。
状態の列と全域木の対応.$S\neq\emptyset$ と各弧の選んだ頂点が与えられたとき、各時点の状態は上の意味で決まり、一周すると最初の状態に戻る(同じ時点だから)。逆に、切る辺が 1 本以上ある状態の列が与えられたとする。切った直後は状態 $0$ で、次に辺を切るときには状態 $1$ でなければならず、$0$ から $1$ へは頂点で選ぶときにだけ、ちょうど 1 回移る。よって各弧($v_n$ から $v_1$ へまたがる弧も、最初と最後の状態が等しいので同様)で選ぶ頂点はちょうど 1 つで、lem-wh-arcs の 3 の組が得られる。この 2 つの対応は互いに逆である。切る辺がない状態の列では、状態は $1$ から $0$ に戻らないので一周して戻るには一定でなければならず、すべて $0$ ですべての頂点を選ばない列と、すべて $1$ ですべての頂点を選ばない列の 2 つである。lem-wh-arcs により
$$
\tau(W_n)=\operatorname{tr}(M^n)-2
$$
である。
跡の計算.$M$ の固有多項式は $\lambda^2-3\lambda+1$ で、固有値は $\lambda_\pm=\frac{3\pm\sqrt5}{2}$ である。異なる 2 つの固有値をもつので $M$ は対角化でき、$\operatorname{tr}(M^n)=\lambda_+^n+\lambda_-^n$ となる。$\varphi=\frac{1+\sqrt5}{2}$、$\psi=\frac{1-\sqrt5}{2}$ とすると $\lambda_+=\varphi^2$、$\lambda_-=\psi^2$ であり、$L_m=\varphi^m+\psi^m$(Fibonacci数列 の一般項の公式と同じ形)から $\operatorname{tr}(M^n)=L_{2n}$ である。ここで $L_m=\varphi^m+\psi^m$ は、$m=0,1$ で成り立ち、$\varphi,\psi$ が $x^2=x+1$ の根なので右辺も同じ漸化式を満たすことから従う。$\square$
$n=4$ で lem-wh-arcs の和を直接計算する。$\lvert S\rvert=1$ のとき、切る辺 4 通りのそれぞれで弧は 4 頂点の 1 本なので $4\cdot4=16$。$\lvert S\rvert=2$ のとき、隣り合う 2 辺を切る 4 通りは弧の頂点数が $1,3$ で積 $3$、向かい合う 2 辺を切る 2 通りは $2,2$ で積 $4$ なので $12+8=20$。$\lvert S\rvert=3$ のとき 4 通りで弧の頂点数は $1,1,2$、積 $2$ なので $8$。$\lvert S\rvert=4$ のとき $1$。合計 $45=L_8-2$ である。$n=3$ では同様に $9+6+1=16$ で、$W_3=K_4$ の全域木の個数 $4^{4-2}=16$(行列木定理 の記事の系「Cayley の公式」)に一致する。$n=5,6$ では $121,320$ となる。
$t_n:=\tau(W_n)$ は $n\ge5$ で $t_n=3t_{n-1}-t_{n-2}+2$ を満たす。$x_n:=\operatorname{tr}(M^n)$ が、$M$ の固有多項式から $x_n=3x_{n-1}-x_{n-2}$ を満たすからである。
平面グラフ図 $G$ の双対グラフ $G^{*}$ は、$G$ の面を頂点とし、$G$ の各辺 $e$ に対してその両側の面を結ぶ辺 $e^{*}$ を置いた多重グラフである(双対グラフ の記事の定義「双対グラフ」)。
$n\ge3$ のとき、$W_n$ の標準的な描画の双対グラフは $W_n$ と同型である。
標準的な描画で、$i=1,\dots,n$ について三角形 $hv_iv_{i+1}$ の内部を $t_i$、正 $n$ 角形の外部を $o$ とする。これらは互いに交わらない $n+1$ 個の連結な開集合で、描画と交わらず、境界は描画に含まれる。描画の面(描画を除いた残りの連結成分)で $t_i$ と交わるものは $t_i$ を含み、その面が $t_i$ からはみ出せば、はみ出す道は $t_i$ の境界、すなわち描画の点を通るので矛盾する。よって $t_i$ と $o$ はそれぞれ面である。平面グラフ の記事の定理「Eulerの公式」により面の数は $2-(n+1)+2n=n+1$ なので、面はこれで全部である。
外周の辺 $v_iv_{i+1}$ の両側の面は $t_i$ と $o$ であり、スポーク $hv_i$ の両側の面は $t_{i-1}$ と $t_i$ である($n\ge3$ なので $t_{i-1}\neq t_i$)。よって $W_n^{*}$ は、$o$ と各 $t_i$ を 1 本ずつ結ぶ辺 $(v_iv_{i+1})^{*}$ と、$t_{i-1}$ と $t_i$ を結ぶ辺 $(hv_i)^{*}$ からなり、平行辺もループもない。対応 $h\mapsto o$、$v_i\mapsto t_i$ は、外周の辺 $v_iv_{i+1}$ を $t_it_{i+1}=(hv_{i+1})^{*}$ に、スポーク $hv_i$ を $ot_i=(v_iv_{i+1})^{*}$ に移す。これは頂点の全単射で辺の全体を辺の全体に移すので、同型 $W_n\cong W_n^{*}$ である。$\square$
辺数 $m$、頂点数 $p$ の連結な平面グラフ図が自己双対なら、面の数も $p$ なので Euler の公式から $m=2p-2$ である。$W_n$ では $p=n+1$、$m=2n$ でこれを満たす。BM76 Exercise 9.2.2(p. 142)は、$4$ 以上の各 $p$ について $p$ 頂点の自己双対な平面グラフを求める問題で、$W_{p-1}$ がその答えになる。
Kuratowskiの定理 の記事の補題「3-連結グラフの縮約できる辺」は Lemma 3.2.4 と同じ主張で、そこでは平面性の判定に使われている。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| ハブが外周のすべての頂点と隣接すること | $W_5$ からスポーク $hv_1$ を除いたグラフ | $n$ が奇数なら彩色数 $4$ |
| 外周が閉路であること(1 辺を除いて道にする) | 扇 $F_3$ | $\tau=L_{2n}-2$ |
| 外周が閉路であること(同上) | 扇 $F_n$($n\ge3$) | 3-連結性 |
| ハブがあること | 閉路 $C_n$ | 自己双対性 |
1 行目:$W_5-hv_1$ で、外周を $v_1,\dots,v_5$ の順に色 $3,1,2,1,2$、ハブを色 $3$ で塗る。ハブは $v_1$ と隣接しないので、これは 3 色の頂点彩色であり、彩色数は奇閉路を含むので $3$ である。
2 行目:$F_3$ は $K_4$ から 1 辺を除いたグラフである。$K_4$ の 16 個の全域木(ex-wh-spanning-small)のうち、6 本の辺のどれも $16\cdot3/6=8$ 個に含まれるので、1 辺を含まない全域木は $8$ 個であり、$L_6-2=16$ と異なる。
3 行目:$F_n$ の $v_1$ は $v_2$ と $h$ にしか隣接しないので、$v_2,h$ を除くと $v_1$ が孤立し、残りの頂点 $v_3$ もあるので連結でない。
4 行目:双対グラフ の記事の例「双対グラフの例」の 2 のとおり、$C_n$ の双対は 2 頂点を $n$ 本の平行辺で結んだ多重グラフで、頂点数が $2\neq n$ なので $C_n$ と同型でない。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する