積分で円周率を評価する

概要

積分で円周率を評価する方法とは、$\int_0^1\frac{dx}{1+x^2}=\frac\pi4$ などの積分表示と、正の連続関数の積分は正であることを使って $\pi$ を有理数で挟む方法である。素朴に挟むと粗いが、$\int_0^1\frac{x^4(1-x)^4}{1+x^2}dx=\frac{22}7-\pi$ のように「有理数 $-\pi$」そのものを小さな正の積分として設計すると、$\frac1{1260}<\frac{22}7-\pi<\frac1{630}$ が短い計算で得られる。この設計がうまくいくのは、有理数係数の分子 $h$ を $x^2+1$ で割った余りが $0$ でない定数のとき、すなわち $h(i)$ が $0$ でない実数のときであり、余りが定数でないと $\log2$ が混ざり、$h(i)=0$ だと $\pi$ が消える。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 円周率, 定積分, 逆三角関数, 複素数

積分で円周率を表す

円周率 $\pi$ は、積分で表すことができる。$\arctan$ を $\tan$ の $\bigl(-\frac\pi2,\frac\pi2\bigr)$ 上の逆関数とすると、$(\arctan x)'=\frac1{1+x^2}$、$\arctan0=0$、$\arctan1=\frac\pi4$ なので
$$ \int_0^1\frac{dx}{1+x^2}=\arctan1-\arctan0=\frac\pi4 $$
である。また、四分円の面積として $\int_0^1\sqrt{1-x^2}\,dx=\frac\pi4$ でもある。
積分は「面積」なので、被積分関数を大きな関数・小さな関数で挟めば、$\pi$ も挟める。しかし、素朴に挟むと評価は粗い。この記事では、発想を逆にして、「有理数 $-\pi$」そのものが小さな正の積分になるように被積分関数を設計する方法を学ぶ。その代表が
$$ \int_0^1\frac{x^4(1-x)^4}{1+x^2}\,dx=\frac{22}7-\pi $$
という等式である。この記事で答える問いは次の 3 つである。

  • 積分で $\pi$ を挟むとき、何を使うのか。→ prop-pint-positive、ex-pint-naive
  • $\frac{22}7$ と $\pi$ の差は、どうして積分で表せるのか。→ thm-pint-22-7、cor-pint-22-7-bounds
  • 同じ設計がうまくいく条件は何か。→ prop-pint-remainder、ex-pint-no-pi、ex-pint-zero
    高校の計算この記事の言葉大学での見方
    $\int_0^1\frac{dx}{1+x^2}=\frac\pi4$$\pi$ を積分で表す逆三角関数の積分表示
    多項式の割り算余りが定数になるように設計する$x=i$ を代入すること($x^2=-1$ で計算する)
    $\int_0^1x^4(1-x)^4dx=\frac1{630}$小さな正の積分ベータ関数の値

正の関数の積分は正

積分による評価は、すべて次の性質にもとづく。高校で習う積分の単調性「$[a,b]$ で $f\le g$ なら $\int_a^bf\le\int_a^bg$」を前提とする。

正の関数の積分

$f(x)=x(1-x)$ は $[0,1]$ で $0$ 以上で、$x=0,1$ では $0$、$x=\frac12$ では $\frac14$ である。積分は
$$ \int_0^1x(1-x)\,dx=\Bigl[\frac{x^2}2-\frac{x^3}3\Bigr]_0^1=\frac12-\frac13=\frac16 $$
で、正である。区間の端で $0$ になっても、途中で正の値をとれば積分は正になる。

正の関数の積分は正

$f$ が $[a,b]$($a< b$)で連続で、すべての $x$ で $f(x)\ge0$ であり、ある点 $c$ で $f(c)>0$ ならば、$\int_a^bf(x)\,dx>0$ である。
特に、$[a,b]$ で連続な関数 $f,g$ が $f\le g$ を満たし、ある点で $f< g$ ならば、$\int_a^bf<\int_a^bg$ である。

正の値をとる小区間で下から押さえる

段 1(小区間を見つける)。$f$ は $c$ で連続なので、$c$ の十分近くでは $f(x)$ は $f(c)$ に近い。正確には、連続の定義($\varepsilon$–$\delta$ 論法)で $\varepsilon=\frac{f(c)}2>0$ とすると、ある $\delta>0$ があって、$[a,b]$ の点 $x$ が $\lvert x-c\rvert<\delta$ を満たせば $\lvert f(x)-f(c)\rvert<\frac{f(c)}2$、特に $f(x)>\frac{f(c)}2$ となる。よって、$c$ を含む長さが正の小区間 $[\alpha,\beta]\subset[a,b]$($\alpha<\beta$)で、その上では $f(x)>\frac{f(c)}2$ となるものがとれる(たとえば $[c-\frac\delta2,c+\frac\delta2]$ と $[a,b]$ の共通部分)。
段 2(積分を分ける)。$f\ge0$ なので、$[a,b]$ 全体の積分は $[\alpha,\beta]$ の上の積分以上である(残りの部分の積分は $0$ 以上)。$[\alpha,\beta]$ の上では $f(x)>\frac{f(c)}2$ なので、積分の単調性により
$$ \int_a^bf(x)\,dx\ge\int_\alpha^\beta f(x)\,dx\ge\frac{f(c)}2(\beta-\alpha)>0 $$
である。
段 3(後半)。$g-f$ は連続で $0$ 以上、ある点で正なので、前半により $\int_a^b(g-f)>0$、つまり $\int_a^bf<\int_a^bg$ である。$\square$

積分の単調性で値を評価する方法全般は 積分の評価 で扱う。

素朴に挟む

被積分関数を定数で挟む

$0< x<1$ では $1<1+x^2<2$ なので $\frac12<\frac1{1+x^2}<1$ である。prop-pint-positive の後半により
$$ \frac12=\int_0^1\frac12\,dx<\int_0^1\frac{dx}{1+x^2}<\int_0^11\,dx=1 $$
つまり $\frac12<\frac\pi4<1$、$2<\pi<4$ である。正しいが、とても粗い。

四分円を長方形で挟む

$f(x)=\sqrt{1-x^2}$ は $[0,1]$ で減少するので、$[0,1]$ を $N$ 等分した各小区間 $\bigl[\frac{k-1}N,\frac kN\bigr]$ で、$f$ は右端の値以上、左端の値以下である。長方形の面積を足すと
$$ \frac1N\sum_{k=1}^Nf\Bigl(\frac kN\Bigr)<\frac\pi4<\frac1N\sum_{k=0}^{N-1}f\Bigl(\frac kN\Bigr) $$
となる(各小区間で prop-pint-positive の後半を使うので不等号は狭義)。
$N=4$ では、$f(0)=1$、$f\bigl(\frac14\bigr)=\frac{\sqrt{15}}4=0.9682\ldots$、$f\bigl(\frac12\bigr)=\frac{\sqrt3}2=0.8660\ldots$、$f\bigl(\frac34\bigr)=\frac{\sqrt7}4=0.6614\ldots$、$f(1)=0$ なので、4 倍して $2.4957\ldots<\pi<3.4957\ldots$ である。$N=10$ では $2.9045\ldots<\pi<3.3045\ldots$ である(数値計算)。両辺の差は $4\cdot\frac{f(0)-f(1)}N=\frac4N$ である。$3.14<\pi<3.15$ を長方形で示すには、まず幅 $\frac4N$ を $0.01$ より小さくする必要があるので $N>400$ が要る。しかしそれだけでは足りない。数値計算によると、上からの和が $3.15$ を下回るのは $N=229$ から、下からの和が $3.14$ を上回るのは $N=1277$ からである($N=1000$ でも下からの和は $3.1395\ldots$)。つまり $N$ を千以上にしなければならない。

図1:四分円(面積 π/4)を N=10 の長方形で下と上から挟む。長方形の和の差は 1/10 残る 図1:四分円(面積 π/4)を N=10 の長方形で下と上から挟む。長方形の和の差は 1/10 残る

台形にすると良くなる

$f(x)=\sqrt{1-x^2}$ は上に凸なので、各小区間で、両端を結ぶ線分(弦)はグラフより下にある(曲線の凹凸と接線)。よって各小区間の台形の面積は、その区間の積分より小さい。台形の面積の和は上の 2 つの長方形の和の平均であり、$N=10$ では $\pi>3.1045\ldots$ となる。凸性を使うと精度が上がるが、台形の和からは上からの評価は得られない。

これらの評価が粗いのは、$\pi$ を表す積分の被積分関数そのものは小さくないのに、それを別の関数で近似し、その差の積分を誤差として抱えるからである。次の節では、積分の値そのものが小さく、しかもそれが「有理数 $-\pi$」に等しいように被積分関数を設計する。

22/7 は π より大きい

まず、分子に使う多項式 $x^4(1-x)^4$ の積分を計算しておく。

小さな正の積分

$x^4(1-x)^4$ は $[0,1]$ の両端で $0$、$x=\frac12$ で最大値 $\bigl(\frac14\bigr)^4=\frac1{256}$ をとる、小さな正の関数である。$(1-x)^4=1-4x+6x^2-4x^3+x^4$ なので
$$ x^4(1-x)^4=x^4-4x^5+6x^6-4x^7+x^8 $$
であり、
$$ \int_0^1x^4(1-x)^4\,dx=\frac15-\frac46+\frac67-\frac48+\frac19=\frac{126-420+540-315+70}{630}=\frac1{630} $$
である($\frac48=\frac12$ なので、$5,6,7,2,9$ の最小公倍数 $630$ で通分した。たとえば $\frac15=\frac{126}{630}$、$\frac46=\frac{420}{630}$)。

22/7 と π の差の積分表示

$$ \int_0^1\frac{x^4(1-x)^4}{1+x^2}\,dx=\frac{22}7-\pi $$
である。したがって $\pi<\frac{22}7$ である。

多項式の割り算と項ごとの積分

方針:分子を $x^2+1$ で割り、「商(多項式)$+$ 余り$/(1+x^2)$」の形にして、項ごとに積分する。余りが定数になるので $\pi$ が現れる。
段 1(割り算)。$x^8-4x^7+6x^6-4x^5+x^4$ を $x^2+1$ で割る。最高次の項を順に消していく。
$$ \begin{aligned} x^8-4x^7+6x^6-4x^5+x^4-x^6(x^2+1)&=-4x^7+5x^6-4x^5+x^4\\ -4x^7+5x^6-4x^5+x^4-(-4x^5)(x^2+1)&=5x^6+x^4\\ 5x^6+x^4-5x^4(x^2+1)&=-4x^4\\ -4x^4-(-4x^2)(x^2+1)&=4x^2\\ 4x^2-4(x^2+1)&=-4 \end{aligned} $$
よって商は $x^6-4x^5+5x^4-4x^2+4$、余りは $-4$ であり、
$$ x^4(1-x)^4=(x^2+1)(x^6-4x^5+5x^4-4x^2+4)-4 $$
である。両辺を $1+x^2$ で割ると
$$ \frac{x^4(1-x)^4}{1+x^2}=x^6-4x^5+5x^4-4x^2+4-\frac4{1+x^2} $$
となる。
段 2(項ごとに積分する)。$0$ から $1$ まで積分すると、$\int_0^1\frac{dx}{1+x^2}=\frac\pi4$ を使って
$$ \int_0^1\frac{x^4(1-x)^4}{1+x^2}\,dx=\frac17-\frac46+\frac55-\frac43+4-4\cdot\frac\pi4=\frac17-2+5-\pi=\frac{22}7-\pi $$
である($-\frac46-\frac43=-\frac23-\frac43=-2$、$\frac55+4=5$)。
段 3(符号)。被積分関数は $[0,1]$ で連続、$0$ 以上で、$x=\frac12$ で正なので、prop-pint-positive により積分は正である。よって $\frac{22}7-\pi>0$、つまり $\pi<\frac{22}7$ である。$\square$

図2:y=x^4(1−x)^4/(1+x^2) のグラフ。面積はちょうど 22/7−π で、上下の破線の曲線の面積 1/630 と 1/1260 の間にある 図2:y=x^4(1−x)^4/(1+x^2) のグラフ。面積はちょうど 22/7−π で、上下の破線の曲線の面積 1/630 と 1/1260 の間にある

22/7 による両側の評価

$$ \frac{22}7-\frac1{630}<\pi<\frac{22}7-\frac1{1260} $$
であり、$3.14126\ldots<\pi<3.14206\ldots$ である。

分母を 1 と 2 で挟む

$0< x<1$ では $1<1+x^2<2$ である。各辺は正なので、逆数をとると大小が逆になり、$\frac12<\frac1{1+x^2}<1$ である。各辺に正の数 $x^4(1-x)^4$ を掛けると
$$ \frac{x^4(1-x)^4}2<\frac{x^4(1-x)^4}{1+x^2}< x^4(1-x)^4 $$
である。prop-pint-positive の後半により、積分しても不等号は狭義のままで、ex-pint-small-integral から
$$ \frac1{1260}<\frac{22}7-\pi<\frac1{630} $$
である。移項すると主張の不等式になる。$\square$

数値で確かめる

$\frac{22}7-\pi=0.0012644\ldots$ であり、確かに $\frac1{1260}=0.0007936\ldots$ と $\frac1{630}=0.0015873\ldots$ の間にある。$\frac{22}7-\frac1{630}=3.1412698\ldots$、$\frac{22}7-\frac1{1260}=3.1420634\ldots$ で、この評価の精度は正九十六角形(正多角形で円周率を挟む)と同じくらいだが、計算はずっと短い。

なぜ π が出てくるのか

prf-thm-pint-22-7 の要点は、割り算の余りが定数 $-4$ になったことである。余りに $x$ の項が残ると、$\int_0^1\frac{x}{1+x^2}dx=\frac12\log2$ が混ざってしまう。余りは、割り算をしなくても前もって計算できる。

割り算の余りは x = i での値

実数係数の多項式 $h(x)$ を $x^2+1$ で割った余りを $\alpha x+\beta$($\alpha,\beta$ は実数)とすると、$h(i)=\alpha i+\beta$ である($i$ は虚数単位)。特に、余りが定数であること($\alpha=0$)と、$h(i)$ が実数であることは同値である。さらに $h$ が有理数係数で $h(i)$ が実数なら
$$ \int_0^1\frac{h(x)}{1+x^2}dx=(\text{有理数})+h(i)\cdot\frac\pi4 $$
となる。

商の部分が消える

段 1($x=i$ を代入)。割り算の結果を $h(x)=q(x)(x^2+1)+\alpha x+\beta$ と書く。$x=i$ を代入すると、$i^2+1=0$ なので商の部分が消え、$h(i)=\alpha i+\beta$ である。
段 2(実数との関係)。$\alpha,\beta$ は実数なので、$\alpha i+\beta$ の虚部は $\alpha$ である。よって $h(i)$ が実数であることと $\alpha=0$ は同値であり、そのとき $h(i)=\beta$ である。
段 3(積分)。$\alpha=0$ なら $\frac{h(x)}{1+x^2}=q(x)+\frac\beta{1+x^2}$ である。$h$ が有理数係数なら、割り算の途中に現れる係数もすべて有理数なので、$q$ は有理数係数であり、$\int_0^1q(x)\,dx$ は有理数である。また $\int_0^1\frac\beta{1+x^2}dx=\beta\cdot\frac\pi4=h(i)\cdot\frac\pi4$ である。$\square$

$x-a$ で割った余りが $f(a)$ になる剰余の定理は 剰余の定理と因数定理 で扱う。

余りを x = i で求める

$h(x)=x^4(1-x)^4$ では、$i^4=1$、$(1-i)^2=1-2i+i^2=-2i$ なので
$$ h(i)=i^4\bigl((1-i)^2\bigr)^2=1\cdot(-2i)^2=4i^2=-4 $$
であり、prf-thm-pint-22-7 の割り算の余り $-4$ と一致する。したがって積分は「有理数 $+(-4)\cdot\frac\pi4$」$=$「有理数 $-\pi$」の形になる。

同じ設計で、精度を上げることもできる。

指数を上げる

$h(x)=x^8(1-x)^8$ では $h(i)=i^8\bigl((1-i)^2\bigr)^4=(-2i)^4=16$ なので、積分は「有理数 $+16\cdot\frac\pi4$」$=$「有理数 $+4\pi$」の形になる。計算すると
$$ \int_0^1\frac{x^8(1-x)^8}{1+x^2}dx=4\pi-\frac{188684}{15015} $$
である(sympy で検算)。左辺は正なので $\pi>\frac{188684}{4\cdot15015}=\frac{47171}{15015}=3.14159174\ldots$ を得る。$x^8(1-x)^8$ は $x=\frac12$ で最大値 $\frac1{65536}$ しかとらないので、積分はとても小さく($3.6\times10^{-6}$ 程度)、評価は精密になる。
$\frac{355}{113}>\pi$ についても、$\int_0^1\frac{x^8(1-x)^8(25+816x^2)}{3164(1+x^2)}dx=\frac{355}{113}-\pi$ という積分表示が知られている(Luc05。この記事では検算のみ行った)。

例と反例

設計の条件は 3 つある:$h(i)$ が実数であること(余りが定数)、$h(i)$ が $0$ でないこと、$h$ が $[0,1]$ で小さいこと。どれかを外すと何が崩れるかをまとめる。

外した条件崩れることボックス
$h(i)$ が実数でない(余りが定数でない)$\log2$ が混ざり、「有理数 $\pm\pi$」の形にならないex-pint-no-pi
$h(i)=0$(余りが $0$)$\pi$ が消えて、積分は有理数だけになるex-pint-zero
$h$ が $[0,1]$ で小さくない積分が大きく、評価が粗いex-pint-not-small
反例:余りが定数でないと log 2 が混ざる

$h(x)=x^2(1-x)^2$ も $[0,1]$ で $0$ 以上であり、$\int_0^1\frac{h(x)}{1+x^2}dx>0$ である。しかし $h(i)=i^2(1-i)^2=(-1)(-2i)=2i$ は実数でない。実際、割り算すると $h(x)=x^4-2x^3+x^2=(x^2-2x)(x^2+1)+2x$ で、余りは $2x$ である。$\int_0^1\frac{2x}{1+x^2}dx=\bigl[\log(1+x^2)\bigr]_0^1=\log2$ なので
$$ \int_0^1\frac{x^2(1-x)^2}{1+x^2}dx=\int_0^1(x^2-2x)\,dx+\log2=\frac13-1+\log2=\log2-\frac23 $$
となる(値は $0.0264\ldots$)。$\pi$ は現れず、$\log2$ だけが残る。
余りが定数でなくても $\pi$ が現れることはある。たとえば $h(x)=x^2(1-x)^2+1$ では $h(i)=1+2i$、余りは $2x+1$ で、積分は $\log2-\frac23+\frac\pi4$ になる(sympy で検算)。しかしどちらも $\log2$ が混ざるので「有理数 $\pm\pi$」の形にはならず、有理数で $\pi$ を挟む評価には使えない。有理数で $\pi$ を挟むには、$h(i)$ が実数であることが要る。さらに、次の例のとおり $h(i)$ が $0$ でないことも要る。

反例:h(i) = 0 だと π が消える

$h(x)=x^4(1-x)^4(1+x^2)$ とする。$h$ は $[0,1]$ で $0$ 以上で、$x=\frac12$ で正である。$1+i^2=0$ なので $h(i)=0$ であり、$h(i)$ は実数である。しかし
$$ \int_0^1\frac{h(x)}{1+x^2}dx=\int_0^1x^4(1-x)^4\,dx=\frac1{630} $$
(ex-pint-small-integral)となり、$\pi$ は現れない。prop-pint-remainder の式で言えば「有理数 $+0\cdot\frac\pi4$」である。この積分が正であることから分かるのは $\frac1{630}>0$ だけで、$\pi$ については何も分からない。$h$ が $x^2+1$ で割り切れる(余りが $0$)と、このように $\pi$ が消える。

反例:小さくない関数では評価が粗い

$h(x)=x^4$ では $h(i)=1$ で、$0$ でない実数なので、余りについての条件は満たす。$x^4=(x^2-1)(x^2+1)+1$ より
$$ \int_0^1\frac{x^4}{1+x^2}dx=\int_0^1(x^2-1)\,dx+\frac\pi4=\frac13-1+\frac\pi4=\frac\pi4-\frac23 $$
であり、これが正であることから $\pi>\frac83=2.666\ldots$ しか分からない。$x^4$ は $x=1$ で $1$ になり、$[0,1]$ で小さくないからである。$x^4(1-x)^4$ のように区間の両端で $0$ になる因子を掛けて、関数全体を小さくすることが大切である。

歴史と大学数学での見方

等式の出典

thm-pint-22-7 の等式は、D. P. Dalzell が 1944 年に発表した(Dal44)。Putnam 数学競技会(北米の大学生向けの競技会)の 1968 年の A1 として、この等式を示す問題が出題されている(Kal68)。解き方は prf-thm-pint-22-7 のとおり、多項式の割り算と項ごとの積分だけである。

ベータ関数と x = i の意味
  • $\int_0^1x^m(1-x)^ndx=\frac{m!\,n!}{(m+n+1)!}$($m,n$ は $0$ 以上の整数)はベータ関数の値である。$m=n=4$ で $\frac{4!\,4!}{9!}=\frac{576}{362880}=\frac1{630}$ となり、ex-pint-small-integral と一致する(一般の場合は部分積分をくり返して示せるが、この記事では証明しない)。$0\le x\le1$ で $x(1-x)\le\frac14$ なので、指数を上げると積分は指数関数的に小さくなる。
  • $x^2+1$ で割った余りを考えることは、多項式を「$x^2=-1$」という規則で計算すること、つまり複素数 $i$ を代入することと同じである(prop-pint-remainder)。

さらに先へ

  • 無理数であることの証明:「値が小さい正の数」と「値が整数」を 1 つの積分で両立させる同じ設計で、$\pi$ が無理数であることが証明できる(I. Niven、1947 年。Niv47)。証明は 円周率の無理性 にある。
  • 連分数:$\pi=3+\cfrac1{7+\cfrac1{15+\cfrac1{1+\cdots}}}$ と展開して途中で打ち切ると、$3,\ \frac{22}7,\ \frac{333}{106},\ \frac{355}{113},\dots$ という分数が得られる(数値計算)。$\frac{22}7$ と $\frac{355}{113}$ がこの記事の積分表示に現れるのは偶然ではなく、分母の大きさの割に $\pi$ に特に近い分数だからである($\frac{355}{113}-\pi=2.66\ldots\times10^{-7}$)。詳しくは 連分数 で扱う。
  • 級数で速く計算する:$\frac\pi4=\int_0^1\frac{dx}{1+x^2}$ を級数に展開する方法と、それを速くする Machin の公式は Machinの公式 で扱う。

関連項目

参考文献

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