Lax–Milgramの定理

同義語:Lax-Milgramの定理Lax–Milgram theorem

概要

Lax–Milgramの定理(Lax–Milgram theorem)とは、Hilbert 空間上の有界で強圧的な半双線形形式について、任意の連続な線形汎関数を与えたときの解の存在・一意性と安定性を保証する。複素数上では形式の対角成分の実部に一様な下界を課し、共役対称性は要しない。境界値問題の弱解の構成と Galerkin 近似の誤差評価に用いられる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Hilbert空間, Rieszの表現定理

定理が解く問題

Hilbert 空間の連続な線形汎関数は、Riesz の表現定理によって内積で表せる。内積を、必ずしも対称でない半双線形形式に置き換えたときにも、同じように未知の元を決められるだろうか。Lax–Milgram の定理は、有界性と強圧性という二つの評価のもとで、答えが肯定的になることを述べる。関数の空間でこの未知の元を求める問題は、微分方程式を積分の等式として解く「弱解」の問題に現れる。
たとえば行列 $A$ に対する連立方程式 $Au=b$ では、すべての試験ベクトル $v$ に対して $\langle v,Au\rangle=\langle v,b\rangle$ と言い換えても同じである。無限次元では、行列の逆を直接作る代わりに左辺の形式の評価から解の存在、一意性、右辺への連続な依存を同時に導く。この定理で必要な強圧性は、零でないベクトルに作用した結果が小さくなりすぎないことを表す。

複素 Hilbert 空間での規約と仮定

以下、$H$ は実または複素 Hilbert 空間、内積 $\langle v,u\rangle$ は第 1 変数について線形、第 2 変数について共役線形とする。複素数の場合、形式 $a(v,u)$ も第 1 変数 $v$ について線形、第 2 変数 $u$ について共役線形とする。実数の場合は両変数について線形である。ここでは試験元を第 1 変数、未知元を第 2 変数に置く。したがって右辺 $\varphi(v)$ は連続な線形汎関数になる。逆の変数順を採用する文献の式は、複素共役を取ればこの規約に移せる。

有界性と強圧性

形式 $a\colon H\times H\to\mathbb{F}$ が有界であるとは、ある $M>0$ に対して
$$|a(v,u)|\le M\|v\|\|u\|\qquad(u,v\in H)$$
が成り立つことである。強圧的であるとは、ある $\alpha>0$ に対して
$$\operatorname{Re}a(u,u)\ge\alpha\|u\|^2\qquad(u\in H)$$
が成り立つことである。実 Hilbert 空間では実部の記号を省ける。

複素数は大小比較できないため、強圧性の左辺には実部を取る。$|a(u,u)|\ge\alpha\|u\|^2$ という絶対値だけの下界は別の条件である。また $a(v,u)=\overline{a(u,v)}$ という共役対称性は仮定しない。共役対称なら $a$ 自体が元の内積と同値な内積を与えるが、定理はそこに限らない。

Lax–Milgramの定理

$a$ を $H$ 上の有界で強圧的な形式とする。このとき、任意の連続な線形汎関数 $\varphi\colon H\to\mathbb{F}$ に対して
$$a(v,u)=\varphi(v)\qquad(v\in H)$$
を満たす $u\in H$ がただ 1 つ存在する。さらに
$$\|u\|\le\frac{\|\varphi\|}{\alpha}$$
である。二つの右辺 $\varphi_1,\varphi_2$ に対する解を $u_1,u_2$ とすると、
$$\|u_1-u_2\|\le\frac{\|\varphi_1-\varphi_2\|}{\alpha}$$
も成り立つ。

まず各 $u\in H$ に対し、$v\mapsto a(v,u)$ は有界な線形汎関数である。Rieszの表現定理を使うと、ただ 1 つの $Au\in H$ が存在して
$$a(v,u)=\langle v,Au\rangle\qquad(v\in H)$$
となる。この式と第 2 変数の共役線形性から $A\colon H\to H$ は線形であり、$\|Au\|\le M\|u\|$ である。ここで Riesz の対応 $h\mapsto\langle\cdot,h\rangle$ 自体は共役線形だが、形式の第 2 変数にも共役が入るため、二つが打ち消し合う。
強圧性と Cauchy–Schwarz の不等式より
$$\alpha\|u\|^2\le\operatorname{Re}\langle u,Au\rangle \le|\langle u,Au\rangle|\le\|u\|\|Au\|.$$
よって $\|Au\|\ge\alpha\|u\|$ であり、$A$ は単射である。この下界は像 $A(H)$ が閉じていることも示す。実際、$Au_n\to y$ なら
$$\|u_n-u_m\|\le\alpha^{-1}\|Au_n-Au_m\|$$
なので $(u_n)$ は Cauchy 列となる。$H$ の完備性から $u_n\to u\in H$、$A$ の有界性から $y=Au$ である。
さらに $w$ が $A(H)$ と直交すると、特に $Aw\in A(H)$ なので $\langle w,Aw\rangle=0$ である。強圧性から $\alpha\|w\|^2\le\operatorname{Re}\langle w,Aw\rangle=0$、従って $w=0$。閉部分空間 $A(H)$ の直交補が零だから $A(H)=H$ となる。
最後に $\varphi(v)=\langle v,f\rangle$ と Riesz 表示し、全射性によって $Au=f$ を解く。この $u$ が求める等式を満たし、単射性から一意である。$\|u\|\le\alpha^{-1}\|f\|=\alpha^{-1}\|\varphi\|$。二つの解の差にも同じ評価を適用すれば最後の不等式が得られる。

この証明で Riesz の表現定理が担うのは、形式を有界作用素 $A$ に置き換える部分である。強圧性は $A$ の下からの評価を与え、さらに直交補を零にする。開写像定理から有界な逆写像の存在を得る方法もあるが、ここでは強圧性から逆のノルムの具体的な上界 $\alpha^{-1}$ まで直接得ている。閉グラフ定理は線形作用素の有界性を保証する別の定理であり、この証明の前提には使っていない。

有限次元での見方と非対称性

$H=\mathbb{C}^n$ に標準内積を入れ、$a(v,u)=\langle v,Au\rangle$ とすると、有界性は行列 $A$ について自動的に成り立つ。強圧性は
$$\operatorname{Re}\langle u,Au\rangle\ge\alpha\|u\|^2$$
であり、行列の Hermite 部分 $(A+A^*)/2$ が $\alpha I$ 以上であることと同値である。$A$ 自身が Hermite 行列である必要はない。この条件から $Au=0$ なら $u=0$、有限次元では直ちに $A$ が可逆になる。無限次元では単射だけでは全射といえず、上の証明の「閉な像」と「直交補が零」の両方が要る。

共役対称でない形式

$H=\mathbb{C}^2$ とし、
$$A=\begin{pmatrix}2&-1\\1&2\end{pmatrix}, \qquad a(v,u)=\langle v,Au\rangle$$
とする。$A^*\ne A$ であるが、$A=2I+K$、$K^*=-K$ なので
$$\operatorname{Re}a(u,u)=\operatorname{Re}\langle u,Au\rangle =2\|u\|^2.$$
従って $\alpha=2$ として定理を適用でき、任意の $b\in\mathbb{C}^2$ に対し $Au=b$ はただ 1 つ解ける。実際 $\det A=5$ であり、
$$A^{-1}=\frac15\begin{pmatrix}2&1\\-1&2\end{pmatrix}.$$
この例は、共役対称性を外しても強圧性があれば結論が保たれることを示す。

固定した右辺への依存

$\varphi$ をわずかに変えたとき、解がどれだけ変わるかを定理の最後の不等式が測る。$\alpha$ は逆作用素のノルムの上限を与え、有界性の定数 $M$ は後の近似誤差を評価するときに現れる。同じ形式 $a$ に対する解写像 $\varphi\mapsto u$ は線形かつ有界である。

境界値問題の弱解

定理の代表的な用途は、微分方程式を積分の等式に直して解くことである。以下では区間 $(0,1)$ 上の二階方程式を、必要な関数空間から明示的に作る。この例では古典的な二階微分を初めから仮定しない。$L^2(0,1)$ は二乗可積分関数をほとんど至る所一致で同一視した Hilbert 空間とする。
$$H=\left\{u(x)=\int_0^x g(t)\,dt:\ g\in L^2(0,1), \int_0^1g(t)\,dt=0\right\}.$$
この $u$ は絶対連続な代表を持ち、$u'(x)=g(x)$ がほとんど至る所で成り立ち、$u(0)=u(1)=0$ である。$H$ に
$$\langle v,u\rangle_H=\int_0^1v'(x)\overline{u'(x)}\,dx, \qquad\|u\|_H=\|u'\|_{L^2}$$
を入れる。微分写像 $u\mapsto u'$ は $H$ を $L^2(0,1)$ の閉部分空間
$$L^2_0(0,1)=\left\{g\in L^2(0,1):\int_0^1g=0\right\}$$
に等長に写す。積分 $g\mapsto\int_0^1g$ は連続な線形汎関数なので、その核 $L^2_0(0,1)$ は閉じている。したがって $H$ は確かに Hilbert 空間である。通常、この空間を零境界値の Sobolev 空間 $H^1_0(0,1)$ と書く。
後で使う評価も定義から直接出る。Cauchy–Schwarz の不等式により
$$|u(x)|=\left|\int_0^x u'(t)\,dt\right| \le\sqrt{x}\,\|u'\|_{L^2},\qquad \|u\|_{L^2}^2\le\frac12\|u\|_H^2.$$
第二の不等式は第一の二乗を $0\le x\le1$ で積分したものである。この定数はこの例に必要な簡単な上界であり、最良定数とは主張しない。

区間上の Dirichlet 問題の弱解

$f\in L^2(0,1)$ と $\lambda\ge0$ に対し、ただ 1 つの $u\in H$ が存在して、すべての $v\in H$ に対し
$$\int_0^1u'(x)\overline{v'(x)}\,dx +\lambda\int_0^1u(x)\overline{v(x)}\,dx =\int_0^1f(x)\overline{v(x)}\,dx$$
を満たす。また $\|u\|_H\le\|f\|_{L^2}/\sqrt2$ である。

規約に合わせて
$$a(v,u)=\int_0^1v'\overline{u'}\,dx +\lambda\int_0^1v\overline u\,dx,\qquad \varphi(v)=\int_0^1v\overline f\,dx$$
と置く。Cauchy–Schwarz と上の評価から
$$|a(v,u)|\le\left(1+\frac{\lambda}{2}\right)\|v\|_H\|u\|_H, \qquad |\varphi(v)|\le\frac{\|f\|_{L^2}}{\sqrt2}\|v\|_H.$$
また $\lambda\ge0$ より
$$\operatorname{Re}a(u,u) =\|u'\|_{L^2}^2+\lambda\|u\|_{L^2}^2 \ge\|u\|_H^2.$$
従って Lax–Milgram の定理を $\alpha=1$ として適用でき、$a(v,u)=\varphi(v)$ を満たす元がただ 1 つ存在する。その等式の複素共役を取ると定理に掲げた弱形式になり、ノルム評価も得られる。

もし $u$ が十分滑らかなら、$v(0)=v(1)=0$ を使う部分積分によって左辺は $\int_0^1(-u''+\lambda u)\overline v\,dx$ になる。この意味で定理の $u$ は
$$-u''+\lambda u=f,\qquad u(0)=u(1)=0$$
の弱解である。ここで示した存在証明は $u''$ の通常の意味での存在を仮定も結論もしていない。追加の滑らかさは別の正則性の議論で調べる。$f$ が複素数値でも、試験関数と右辺の共役の置き方を上のように揃えれば同じ証明が成り立つ。

一定の荷重に対する解

$\lambda=0$、$f(x)=1$ とすると、$u(x)=x(1-x)/2$ は両端で $0$ であり、$-u''=1$ である。任意の $v\in H$ について部分積分により
$$\int_0^1u'\overline{v'}\,dx =\int_0^1\overline v\,dx.$$
従ってこの $u$ は弱解であり、一意性によって定理で得た解に一致する。ここでは滑らかな解を後から検算できたが、一般の $f\in L^2$ に対して最初からこの形の明示式を探す必要はない。

有限次元近似と誤差

実際の計算では $H$ 全体で未知元を求める代わりに、有限次元部分空間 $V\subset H$ を選ぶ。$V$ は閉じているので Hilbert 空間であり、$a$ の有界性・強圧性は同じ定数 $M,\alpha$ で $V$ 上にも残る。従って $V$ 内で
$$a(v,u_V)=\varphi(v)\qquad(v\in V)$$
を満たす元 $u_V$ がただ 1 つ定まる。これを Galerkin 近似という。未知の係数は、$V$ の基底を試験元として代入した有限個の連立一次方程式で求められる。

Céaの誤差評価

全空間 $H$ での解を $u$、部分空間 $V$ での Galerkin 解を $u_V$ とする。このとき
$$\|u-u_V\|\le\frac{M}{\alpha}\inf_{w\in V}\|u-w\|.$$
特に、有限次元部分空間の列 $V_n$ による最良近似誤差が $0$ に収束すれば、対応する $u_{V_n}$ は $u$ に収束する。

$e=u-u_V$ と置く。二つの定義式を引くと、$v\in V$ について $a(v,e)=0$ である。任意の $w\in V$ に対し、$w-u_V\in V$ だから
$$a(e,e)=a(u-w,e)+a(w-u_V,e)=a(u-w,e).$$
強圧性と有界性より
$$\alpha\|e\|^2\le\operatorname{Re}a(e,e) \le|a(u-w,e)|\le M\|u-w\|\|e\|.$$
$e=0$ なら結論は明らかであり、そうでなければ $\|e\|$ で割る。最後に $w$ について下限を取ればよい。複素形式では第 1 変数に入る $w-u_V$ から直交条件を使う点に注意する。第 2 変数に入れ替えるには共役対称性が要るが、ここでは仮定していない。

この評価は「方程式の近似解」が「空間 $V$ による最良近似」から高々 $M/\alpha$ 倍だけ離れることを保証する。区間の例なら、区間を小分けして各小区間で一次関数となり両端で $0$ になる関数を $V$ として選べる。そのとき Galerkin の式は有限個の係数の方程式となる。収束を主張するには、選んだ空間列で最良近似誤差が零に向かうことを別に確かめる必要がある。

強圧性が欠ける場合

有界性だけで解の存在は出ない。零でない元を必ず零でない元に写す単射性があっても、無限次元では像が全体を覆わないことがある。次の例では正値性はあるが、すべての単位ベクトルに共通の正の下界がない。

反例:正だが一様には強圧的でない形式

$H=\ell^2(\mathbb{N})$ とし、
$$a(v,u)=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{v_n\overline{u_n}}{n}$$
と置く。$|a(v,u)|\le\|v\|\|u\|$ なので有界であり、$u\ne0$ なら $a(u,u)=\sum_n|u_n|^2/n>0$ である。しかし標準基底 $e_n$ では $a(e_n,e_n)=1/n\to0$ だから、どの $\alpha>0$ に対しても強圧性は成り立たない。
$b=(1/n)_{n\ge1}\in\ell^2$ として $\varphi(v)=\langle v,b\rangle$ と置く。もし $a(v,u)=\varphi(v)$ がすべての $v\in H$ で成り立てば、$v=e_n$ を代入して $u_n/n=1/n$、つまり $u_n=1$ がすべての $n$ で必要になる。これは $u\notin\ell^2$ に矛盾する。よって連続な線形汎関数 $\varphi$ に対する解が存在しない。この反例が破るのは「有界で正値かつ単射なら、すべての右辺に解がある」という含意である。

文献と範囲

Hilbert 空間の半双線形形式から弱解を得る枠組みは Edm18 第 4 章で扱われる。強圧性からの存在・安定性と Céa の評価が有限要素法に結び付くことは Dem23 第 2 章の主題である。ここでは規約を既存の Riesz の表現定理に合わせ、区間の関数空間の完備性、境界値問題の評価、強圧性を外した反例まで計算した。

関連項目

参考文献

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