縮小写像と漸化式(contraction mappings and recurrences)とは、漸化式 $a_{n+1}=f(a_n)$ で定まる数列が $f(\alpha)=\alpha$ の解 $\alpha$ に収束することを、平均値の定理から示す方法である。有界な閉区間 $I=[p,q]$ を $I$ に写す $f$ が、ある $0\le k<1$ についてすべての $x,y\in I$ で $|f(x)-f(y)|\le k|x-y|$ を満たす($I$ 上で微分可能で $|f'|\le k$ なら満たす)とき、不動点 $\alpha$ はただ 1 つ存在し、$|a_n-\alpha|\le k^n|a_0-\alpha|\le\frac{k^n}{1-k}|a_1-a_0|$ である。$a_{n+1}=\cos a_n$ などに使える。
前提知識: 平均値の定理による差の評価, 漸化式, 数列の極限, 中間値の定理
高校では、$a_{n+1}=\sqrt{a_n+2}$ のような漸化式で定まる数列の極限を求める問題によく出会う。極限 $\alpha$ があるとすれば、両辺で $n\to\infty$ として $\alpha=\sqrt{\alpha+2}$ となるので、$\alpha=2$ と見当がつく。しかし、この計算は「極限がある」ことを前提にしている。本当に近づくことは、別に示さなければならない。
$a_0=0$、$a_{n+1}=\sqrt{a_n+2}$ とする。次の値は数値計算による(以下切り捨て)。
| $n$ | $0$ | $1$ | $2$ | $3$ | $4$ | $5$ | $6$ |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| $a_n$ | $0$ | $1.4142\ldots$ | $1.8477\ldots$ | $1.9615\ldots$ | $1.9903\ldots$ | $1.9975\ldots$ | $1.9993\ldots$ |
| $2-a_n$ | $2$ | $0.585\ldots$ | $0.152\ldots$ | $0.038\ldots$ | $0.0096\ldots$ | $0.0024\ldots$ | $0.0006\ldots$ |
$2$ との差は、1 回ごとにおよそ $\frac14$ 倍になっている。
$a_0=2$、$a_{n+1}=1+\frac1{a_n}$ とすると
$$
a_1=1+\frac12=\frac32,\quad a_2=1+\frac23=\frac53,\quad a_3=1+\frac35=\frac85,\quad a_4=1+\frac58=\frac{13}8,\quad a_5=\frac{21}{13}
$$
であり、小数では $1.5$、$1.666\ldots$、$1.6$、$1.625$、$1.615\ldots$ と、増えたり減ったりしながら $1.618\ldots$ に近づく。極限の候補は $\alpha=1+\frac1\alpha$、すなわち $\alpha^2-\alpha-1=0$ の正の解 $\alpha=\frac{1+\sqrt5}2=1.6180\ldots$(黄金比)である。分子と分母には Fibonacci 数 $1,2,3,5,8,13,21,\dots$ が並んでいる。
この記事で答える問いは次のとおりである。
| 高校で見ること | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| 極限の候補を $\alpha=f(\alpha)$ で求める | $f$ の不動点 | 不動点 |
| 差が 1 回ごとに縮む | 極限との差が 1 回ごとに $k$ 倍以下になる | 縮小写像 |
| 近づく速さの見積もり | $k^n$ で押さえる | 1 次収束 |
$I$ を区間とし、$f\colon I\to I$ とする($I$ の点を $I$ の点に写す)。
縮小写像は、2 点の距離を $k$ 倍以下に縮める写像である。縮小写像は連続である($y\to x$ のとき $|f(y)-f(x)|\le k|y-x|\to0$)。rem-cmr-premises の 1 から、$I$ 上で $|f'|\le k<1$ を満たす微分可能な $f\colon I\to I$ は縮小写像である。
$p< q$ を実数とし、$I=[p,q]$ を(両端 $p,q$ を含む、有界な)閉区間とする。$f\colon I\to I$ は、ある $0\le k<1$ について $I$ 上の縮小写像であるとする(縮小写像なので連続である)。このとき
方針:存在は $f(x)-x$ に中間値の定理を使い、一意性と評価は縮小の不等式を使う。
段 1(存在)。$\varphi(x):=f(x)-x$ とおくと、$f$ は連続なので $\varphi$ は $[p,q]$ で連続である。$f(p)\in I$ なので $f(p)\ge p$、すなわち $\varphi(p)\ge0$ である。$f(q)\in I$ なので $f(q)\le q$、すなわち $\varphi(q)\le0$ である。$0$ は $\varphi(p)$ と $\varphi(q)$ の間の値なので、rem-cmr-premises の 2 により $\varphi(\alpha)=0$、すなわち $f(\alpha)=\alpha$ となる $\alpha\in I$ がある。
段 2(一意性)。$\alpha,\beta$ がどちらも不動点だとする。縮小の不等式から
$$
|\alpha-\beta|=|f(\alpha)-f(\beta)|\le k|\alpha-\beta|
$$
なので $(1-k)|\alpha-\beta|\le0$ である。$1-k>0$ なので $|\alpha-\beta|\le0$、すなわち $\alpha=\beta$ である。
段 3(数列は $I$ の中にある)。$a_0\in I$ であり、$a_n\in I$ なら $a_{n+1}=f(a_n)\in I$ である($f$ は $I$ を $I$ に写す)。帰納法により、すべての $n$ で $a_n\in I$ である。
段 4(1 回ごとの評価)。$a_n,\alpha\in I$ なので、縮小の不等式と $f(\alpha)=\alpha$ から
$$
|a_{n+1}-\alpha|=|f(a_n)-f(\alpha)|\le k|a_n-\alpha|
$$
である。
段 5(くり返す)。段 4 を $n$ 回使うと $|a_n-\alpha|\le k|a_{n-1}-\alpha|\le k^2|a_{n-2}-\alpha|\le\cdots\le k^n|a_0-\alpha|$ である($n$ についての帰納法)。$0\le k<1$ なので $k^n\to0$ であり、はさみうちにより $a_n\to\alpha$ である。$\square$
a_{n+1} = cos a_n の蜘蛛の巣図
図 1 は $a_{n+1}=\cos a_n$ を蜘蛛の巣図で描いたものである。点 $(a_n,a_n)$ から縦に動いて曲線 $y=\cos x$ に当たると高さが $a_{n+1}$ になり、そこから横に動いて直線 $y=x$ に当たると点 $(a_{n+1},a_{n+1})$ に移る。これをくり返すと、階段が渦を巻きながら、曲線と直線の交点 $(\alpha,\alpha)$ に近づいていく。電卓で(角度の単位をラジアンにして)$\cos$ のキーを押し続けると、この値 $0.739\ldots$ に落ち着く。
thm-cmr-contraction の評価には $|a_0-\alpha|$ が入っている。$\alpha$ がわからないときは、最初の 1 歩の大きさ $|a_1-a_0|$ で置き換えられる。
thm-cmr-contraction の仮定のもとで、すべての $n$ について
$$
|a_n-\alpha|\le\frac{k^n}{1-k}|a_1-a_0|
$$
である。
段 1(三角不等式)。$|a_0-\alpha|\le|a_0-a_1|+|a_1-\alpha|$ である。
段 2(2 項目を評価)。thm-cmr-contraction の証明の段 4 で $n=0$ とすると $|a_1-\alpha|\le k|a_0-\alpha|$ なので
$$
|a_0-\alpha|\le|a_1-a_0|+k|a_0-\alpha|
$$
である。
段 3(移項)。$k|a_0-\alpha|$ を左辺に移すと $(1-k)|a_0-\alpha|\le|a_1-a_0|$ であり、$1-k>0$ で割って $|a_0-\alpha|\le\frac{|a_1-a_0|}{1-k}$ である。
段 4(主定理と合わせる)。thm-cmr-contraction の $|a_n-\alpha|\le k^n|a_0-\alpha|$ に段 3 を代入して主張を得る。$\square$
$a_{n+1}=\cos a_n$、$a_0=1$ で、誤差を $0.001$ 未満にしたいとする。$a_1=\cos1=0.5403\ldots$ なので $|a_1-a_0|=0.4596\ldots$、$k=\sin1=0.8414\ldots$ である。prop-cmr-a-posteriori の右辺 $\frac{k^n}{1-k}\cdot0.4596\ldots$ が $0.001$ 未満になる最小の $n$ は $n=47$ である(数値計算)。よって $a_{47}$ は、$\alpha$ の値を知らなくても誤差 $0.001$ 未満と保証される。
実際には $n=15$ で誤差は $0.001$ 未満になっている(数値計算)。評価 $k=\sin1$ は区間の端 $x=1$ での値で、$\alpha$ の近くでは $|f'(\alpha)|=\sin\alpha=0.673\ldots$ とより小さいため、保証は控えめになる。保証が控えめでも、「確実にこれ以下」と言えることに価値がある。
極限の候補 $\alpha=f(\alpha)$ があっても、仮定を外すと数列が近づくとは限らない。
| 外した仮定 | 崩れる主張 | ボックス |
|---|---|---|
| 縮小率 $k<1$ | $a_n\to\alpha$ | ex-cmr-expanding |
| $f$ が $I$ を $I$ に写す | 不動点が $I$ の中にある | ex-cmr-leaves |
| 区間が端点を含む | 不動点が $I$ の中にある | ex-cmr-open-end |
| 区間が有界で、かつ 1 つの $k<1$ がとれる(2 つとも外す) | 不動点が存在する | ex-cmr-no-fixed-point |
$f(x)=2x-1$ の不動点は $\alpha=1$ である。しかし $a_0=1.1$ から始めると
$$
a_1=1.2,\quad a_2=1.4,\quad a_3=1.8,\quad a_4=2.6,\quad a_5=4.2
$$
と $1$ から離れていく。$a_{n+1}-1=2(a_n-1)$ なので、差は 1 回ごとに 2 倍になる。$|f'|=2>1$ で、縮小写像でない。
近づく漸化式と離れる漸化式
図 2 の左は $a_{n+1}=1+\frac1{a_n}$ で、傾きの絶対値が $1$ より小さいので、階段は渦を巻いて交点に近づく。右は $a_{n+1}=2a_n-1$ で、傾きが $2$ なので、階段は交点から離れていく。
$f(x)=\frac x2+1$ を $I=[0,1]$ で考える。$|f'|=\frac12<1$ だが、$f(1)=1.5$ は $I$ の外にある。不動点は $\frac\alpha2+1=\alpha$ から $\alpha=2$ で、やはり $I$ の外である。$a_0=0$ から始めると $1,\ 1.5,\ 1.75,\ 1.875,\dots$ と $I$ を出て $2$ に近づく。thm-cmr-contraction の証明の段 1 で使った $\varphi(q)\le0$($q=1$ では $\varphi(1)=0.5>0$)が成り立たない。
$f(x)=\frac x2$ を、左端 $0$ を含まない区間 $I=(0,1]$ で考える。$0< x\le1$ なら $0<\frac x2\le\frac12$ なので、$f(I)=\bigl(0,\frac12\bigr]\subset I$ であり、$f$ は $I$ を $I$ に写す。また $|f(x)-f(y)|=\frac12|x-y|$ なので、$k=\frac12$ の縮小写像である。
ところが $f(x)=x$ とすると $\frac x2=x$ から $x=0$ であり、$0$ は $I$ に入っていないので、$f$ は $I$ の中に不動点をもたない。$a_0=1$ から始めると $a_1=\frac12$、$a_2=\frac14$、$a_3=\frac18$、…、$a_n=\frac1{2^n}$ であり、数列はすべて $I$ の中にあるが、近づく先の $0$ は $I$ の外である。
thm-cmr-contraction の証明の段 1 では、左端 $p$ が $I$ に入っていることを使って $\varphi(p)=f(p)-p\ge0$ としていた。この例では左端 $0$ が $I$ にないので、この段が使えない。
$f(x)=x+\frac1x$ を $I=[1,\infty)$ で考える。$x\ge1$ なら $f(x)\ge1$ なので $f$ は $I$ を $I$ に写し、$f'(x)=1-\frac1{x^2}$ は $0\le f'(x)<1$ を満たす。しかし $f(x)=x$ とすると $\frac1x=0$ となり、不動点はない。実際 $a_0=1$ から $2,\ 2.5,\ 2.9,\ 3.24\ldots,\ 3.55\ldots$ と増え続ける(数値計算)。
$f'(x)<1$ ではあっても、$x$ を大きくすると $f'(x)$ は $1$ にいくらでも近づくので、区間全体で使える 1 つの $k<1$ がとれない。また $I=[1,\infty)$ は端を含むが有界でなく、$[p,q]$ の形の区間ではない。thm-cmr-contraction の仮定「ある $k<1$ で縮小写像」「有界な閉区間 $[p,q]$」がどちらも満たされていない。
どちらか一方だけを外しても、この現象は起こらない。有界な閉区間 $[p,q]$ なら、thm-cmr-contraction の証明の段 1 は $k$ を使っていないので、$f$ が連続で $I$ を $I$ に写しさえすれば不動点は存在する。逆に、$[1,\infty)$ のように端を含むが有界でない区間でも、1 つの $k<1$ がとれれば不動点は存在する(Banachの不動点定理。本記事では証明しない)。この例で不動点がないのは、区間が有界でないうえに、1 つの $k<1$ がとれないからである。
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