Gauss積分(高校数学)では、広義積分 $\int_0^\infty e^{-x^2}\,dx$ を扱い、その値が $\frac{\sqrt\pi}2$ であることを高校の積分で示す。$e^{-x^2}$ の原始関数は初等関数で書けないが、$e^t\ge1+t$ から $e^{-nx^2}$ を $(1-x^2)^n$($0\le x\le1$)と $(1+x^2)^{-n}$ で挟み、置換 $x=\sin\theta$、$x=\tan\theta$ で Wallis 積分 $I_m=\int_0^{\pi/2}\sin^m\theta\,d\theta$ に直すと、Wallis の公式 $\sqrt mI_m\to\sqrt{\pi/2}$ から値が決まる。正規分布の密度の定数 $\frac1{\sqrt{2\pi}}$ はこの値から来る。
前提知識: Wallis積分(高校数学), Wallisの公式(高校数学), 置換積分, 指数関数, はさみうちの原理
関数 $e^{-x^2}$ のグラフは、$x=0$ で最大値 $1$ をとり、左右に離れると急速に $0$ に近づく釣鐘の形をしている。確率や統計に出てくる正規分布の曲線は、この形である。ところが、$e^{-x^2}$ の原始関数は、多項式・指数関数・対数関数・三角関数などを有限回組み合わせた形では書けないことが、Liouville の理論によって知られている(本記事では証明しない。Con05、初等関数で表せない原始関数)。
それでも、定積分の値は、上下から「値の分かる積分」で挟めば見積もれる。
後で示す不等式 $e^t\ge1+t$(lem-gi-exp)で $t=-x^2$ とすると $e^{-x^2}\ge1-x^2$、$t=x^2$ とすると $e^{x^2}\ge1+x^2$、すなわち $e^{-x^2}\le\frac1{1+x^2}$ である。よって
$$
\int_0^1(1-x^2)\,dx\le\int_0^1e^{-x^2}\,dx\le\int_0^1\frac{dx}{1+x^2}
$$
であり、左辺は $\bigl[x-\frac{x^3}3\bigr]_0^1=\frac23$、右辺は $\bigl[\arctan x\bigr]_0^1=\frac\pi4$ である。したがって $0.666\ldots\le\int_0^1e^{-x^2}dx\le0.785\ldots$ である(数値計算による値は $0.7468\ldots$)。
この記事では、同じ挟み方を $n$ 乗して強め、Wallis 積分と比べることで、区間 $[0,\infty)$ 全体の積分の値を正確に求める。
$\int_0^3e^{-x^2}dx$ を数値計算すると $0.886207\ldots$ であり、$\frac{\sqrt\pi}2=0.886226\ldots$ にかなり近い。
$x\ge3$ の部分の寄与は小さい。被積分関数の値が小さいことだけでは、長い区間の積分が小さいとは言えない(ex-gi-divergent の $\frac1x$ がその例である)ので、積分そのものを評価する。$x\ge3$ では $x^2\ge3x$ なので $e^{-x^2}\le e^{-3x}$ である。よって $R>3$ について
$$
\int_3^Re^{-x^2}dx\le\int_3^Re^{-3x}dx=\Bigl[-\frac{e^{-3x}}3\Bigr]_3^R=\frac{e^{-9}-e^{-3R}}3<\frac{e^{-9}}3=0.0000411\ldots
$$
である。$R$ をどれだけ大きくしても、$x\ge3$ の部分の寄与は $0.00005$ より小さい(数値計算では $\int_3^Re^{-x^2}dx$ は $R\to\infty$ で $0.0000195\ldots$ に近づく)。
この記事の主定理は、$\int_0^\infty e^{-x^2}dx$ がちょうど $\frac{\sqrt\pi}2$ になることである。
| 問い | 答え |
|---|---|
| 区間の端が $\infty$ の積分とは何か | 広義積分 → def-gi-improper |
| $\int_0^\infty e^{-x^2}dx$ はいくつか | $\frac{\sqrt\pi}2$ → thm-gi-gauss |
| どうやって値を決めるのか | $e^{-nx^2}$ を 2 つの関数で挟み、Wallis 積分に直す → prf-thm-gi-gauss |
| 正規分布とどう関係するか | 密度の定数 $\frac1{\sqrt{2\pi}}$ → ex-gi-normal |
高校で習う定積分は、有界な閉区間 $[a,b]$ の上のものである。区間の端が $\infty$ の積分は、極限で定める。
$\displaystyle\int_1^R\frac{dx}x=\log R$ は、$R=10,100,1000$ で $2.30\ldots,\ 4.60\ldots,\ 6.90\ldots$ と限りなく大きくなる。よって $\displaystyle\int_1^\infty\frac{dx}x$ は収束しない。被積分関数 $\frac1x$ は $0$ に近づくが、近づき方が遅いので、積分は上に有界にならない。
$f\ge0$ なら $F(R):=\int_a^Rf$ は $R$ について増加する。増加する関数は、上に有界であれば $R\to\infty$ で収束する(上限と下限による。単調で有界な数列が収束するのと同じ理由である)。この記事で使う広義積分の収束は、すべてこの形で確かめる。ex-gi-divergent は、「上に有界」の条件を外すと収束しない例である。
すべての実数 $t$ について $e^t\ge1+t$ である。
方針:差 $h(t):=e^t-1-t$ の最小値が $0$ であることを、微分で増減を調べて示す。
段 1(導関数):$h'(t)=e^t-1$ である。$e^t$ は増加関数で $e^0=1$ なので、$t<0$ では $h'(t)<0$、$t>0$ では $h'(t)>0$ である。
段 2(最小値):段 1 から $h$ は $t\le0$ で減少、$t\ge0$ で増加するので、最小値は $h(0)=e^0-1-0=0$ である。よってすべての $t$ で $h(t)\ge0$、すなわち $e^t\ge1+t$ である。$\square$
接線の不等式 $e^t\ge1+t$ を凸関数の性質から示す証明は 曲線の凹凸と接線 で扱う。
直線 $y=1+t$ は、曲線 $y=e^t$ の $t=0$ での接線である。この補題は「接線はグラフの下にある」ことを述べている。
証明の前に、証明で使う 2 つの置換を具体的な $n$ で計算しておく。Wallis 積分 $I_m=\int_0^{\pi/2}\sin^mx\,dx$ は $\int_0^{\pi/2}\cos^mx\,dx$ にも等しい(Wallis積分(高校数学))。
広義積分 $\displaystyle\int_0^\infty e^{-x^2}\,dx$ は収束し、
$$
\int_0^\infty e^{-x^2}\,dx=\frac{\sqrt\pi}2
$$
である。
方針:まず積分が収束することを示し、その値を $G$ とおく。次に $e^{-nx^2}$ を $(1-x^2)^n$ と $(1+x^2)^{-n}$ で挟み、ex-gi-substitutions と同じ置換で両側を Wallis 積分にする。最後に $n\to\infty$ として Wallisの公式(高校数学)を使う。
段 1(収束):ex-gi-two-ineq の 2 で $n=1$ とすると $0< e^{-x^2}\le\frac1{1+x^2}$ である。よって $R>0$ について
$$
\int_0^Re^{-x^2}dx\le\int_0^R\frac{dx}{1+x^2}=\arctan R<\frac\pi2
$$
である。左辺は $R$ について増加し、上に有界なので収束する(def-gi-improper の後の注意)。その値を $G$ とおく。
段 2(尺度の変換):$n\ge1$ とする。$x=\frac y{\sqrt n}$ と置換すると $dx=\frac{dy}{\sqrt n}$、$nx^2=y^2$ なので
$$
\int_0^Re^{-nx^2}dx=\frac1{\sqrt n}\int_0^{\sqrt nR}e^{-y^2}dy
$$
である。$R\to\infty$ とすると右辺は $\frac{G}{\sqrt n}$ に近づくので、$\int_0^\infty e^{-nx^2}dx=\frac{G}{\sqrt n}$ である。
段 3(下からの評価):ex-gi-two-ineq の 1 により、$0\le x\le1$ で $(1-x^2)^n\le e^{-nx^2}$ である。$x=\sin\theta$($0\le\theta\le\frac\pi2$)と置換すると $(1-x^2)^ndx=\cos^{2n}\theta\cdot\cos\theta\,d\theta$ なので、
$$
I_{2n+1}=\int_0^1(1-x^2)^n\,dx\le\int_0^1e^{-nx^2}dx\le\int_0^\infty e^{-nx^2}dx=\frac{G}{\sqrt n}
$$
である(2 つ目の不等号は、被積分関数が正なので区間を広げると積分が大きくなることによる)。
段 4(上からの評価):ex-gi-two-ineq の 2 により、すべての $x$ で $e^{-nx^2}\le(1+x^2)^{-n}$ である。$x=\tan\theta$($0\le\theta<\frac\pi2$)と置換すると $dx=\frac{d\theta}{\cos^2\theta}$、$(1+\tan^2\theta)^{-n}=\cos^{2n}\theta$ なので
$$
\int_0^R\frac{dx}{(1+x^2)^n}=\int_0^{\arctan R}\cos^{2n-2}\theta\,d\theta
$$
であり、$R\to\infty$ で $\arctan R\to\frac\pi2$ だから右辺は $I_{2n-2}$ に近づく。各 $R>0$ で $\int_0^Re^{-nx^2}dx\le\int_0^R\frac{dx}{(1+x^2)^n}$ なので、両辺で $R\to\infty$ とすると(極限をとっても $\le$ は保たれる)、$\frac{G}{\sqrt n}=\int_0^\infty e^{-nx^2}dx\le I_{2n-2}$ である。
段 5(挟む):段 3・段 4 の各辺に $\sqrt n$ を掛けると、すべての $n\ge1$ について
$$
\sqrt n\,I_{2n+1}\le G\le\sqrt n\,I_{2n-2}
$$
である。Wallisの公式(高校数学)の主定理「$\sqrt m\,I_m\to\sqrt{\pi/2}$」を $m=2n+1$ と $m=2n-2$ に使うと、
$$
\sqrt n\,I_{2n+1}=\sqrt{\frac n{2n+1}}\cdot\sqrt{2n+1}\,I_{2n+1}\to\frac1{\sqrt2}\sqrt{\frac\pi2}=\frac{\sqrt\pi}2,\qquad
\sqrt n\,I_{2n-2}=\sqrt{\frac n{2n-2}}\cdot\sqrt{2n-2}\,I_{2n-2}\to\frac{\sqrt\pi}2
$$
である($\frac n{2n+1}\to\frac12$、$\frac n{2n-2}\to\frac12$。後者は $n\ge2$ で考える)。はさみうちの原理により $G=\frac{\sqrt\pi}2$ である。$\square$
段 5 の不等式 $\sqrt nI_{2n+1}\le G\le\sqrt nI_{2n-2}$ を具体的な $n$ で計算すると、次のようになる(図 2)。
| $n$ | 下からの評価 $\sqrt nI_{2n+1}$ | 上からの評価 $\sqrt nI_{2n-2}$ |
|---|---|---|
| 1 | $I_3=0.6666\ldots$ | $I_0=1.5707\ldots$ |
| 10 | $0.8546\ldots$ | $0.9212\ldots$ |
| 100 | $0.88292\ldots$ | $0.88956\ldots$ |
| 1000 | $0.885894\ldots$ | $0.886559\ldots$ |
$\frac{\sqrt\pi}2=0.886226\ldots$ はつねにその間にある。$n=1$ の上からの評価は、$\int_0^\infty\frac{dx}{1+x^2}=\frac\pi2=I_0$ そのものである(ex-gi-improper-examples の 2)。
図1:$y=\sqrt nx$ の尺度で見た $(1-\frac{y^2}n)^n$、$e^{-y^2}$、$(1+\frac{y^2}n)^{-n}$。$n$ が大きいほど両側から $e^{-y^2}$ に近づく。下の関数は $y>\sqrt n$ では $0$ として描いた
証明の核心は、$e^{-nx^2}$ を $(1-x^2)^n$ と $(1+x^2)^{-n}$ で挟んだところにある。$y=\sqrt nx$ の尺度で見ると、下の関数は $\bigl(1-\frac{y^2}n\bigr)^n$、上の関数は $\bigl(1+\frac{y^2}n\bigr)^{-n}$ であり、どちらも $n\to\infty$ で $e^{-y^2}$ に近づく(図 1)。つまり Wallis 積分は、尺度を変えると $e^{-y^2}$ の積分の近似になっている。
図2:下からの評価 $\sqrt nI_{2n+1}$ と上からの評価 $\sqrt nI_{2n-2}$ が、$\frac{\sqrt\pi}2$ を挟みながら近づく(横軸は対数目盛り)
段 1(全体の積分):$e^{-x^2}$ は偶関数なので、$x=-u$ と置換すると $\int_{-R}^0e^{-x^2}dx=\int_0^Re^{-u^2}du$ である。よって $\int_{-\infty}^\infty e^{-x^2}dx=2\cdot\frac{\sqrt\pi}2=\sqrt\pi$ である。
段 2(尺度を変える):$x=\frac y{\sqrt2}$ と置換すると $dx=\frac{dy}{\sqrt2}$ なので
$$
\int_{-\infty}^\infty e^{-y^2/2}\,dy=\sqrt2\int_{-\infty}^\infty e^{-x^2}dx=\sqrt{2\pi}
$$
である。したがって $\int_{-\infty}^\infty\frac1{\sqrt{2\pi}}e^{-y^2/2}dy=1$ であり、標準正規分布の密度 $\frac1{\sqrt{2\pi}}e^{-y^2/2}$ の定数 $\frac1{\sqrt{2\pi}}$ は、全体の確率を $1$ にするためのものである(数値積分でも $1.0000\ldots$)。
| 外した条件 | 崩れる主張 | ボックス |
|---|---|---|
| 積分が上に有界 | 広義積分が収束する | ex-gi-divergent |
| $0\le x\le1$ | $(1-x^2)^n\le e^{-nx^2}$ | ex-gi-outside |
prf-thm-gi-gauss の段 3 は $0\le x\le1$ に限った。$x=2$、$n=2$ では $(1-x^2)^n=(1-4)^2=9$ であり、$e^{-nx^2}=e^{-8}=0.00033\ldots$ より大きい。$1-x^2<0$ のときは、$e^{-x^2}\ge1-x^2$ の両辺を $n$ 乗しても不等号の向きが保たれるとは限らない(負の数を偶数乗すると正になる)。段 3 で積分の区間を $[0,1]$ にしたのはこのためである。
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