三角関数はどう定義するか

同義語:三角関数の定義

概要

三角関数は、高校では単位円と弧度法で定義されるが、この定義は弧の長さや扇形の面積を前提にしており、厳密にしようとすると循環しやすい。そこで、$S'=C$、$C'=-S$、$S(0)=0$、$C(0)=1$ を満たす実数全体で微分可能な関数の組という条件を取り出すと、微分方程式 $y''=-y$ の解の一意性だけから加法定理が従い、$\pi$ を余弦の最小の正の零点の 2 倍と定義すれば、周期 $2\pi$ と単位円の弧長による表示が定理になる。冪級数 $\sum_k(-1)^kx^{2k+1}/(2k+1)!$ や $y''=-y$ による定義、$\arcsin x=\int_0^x\frac{dt}{\sqrt{1-t^2}}$ の逆関数を周期的に延ばす定義はどれもこの条件を満たし、同じ関数と同じ $\pi=2\int_0^1\frac{dt}{\sqrt{1-t^2}}$ を与える。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 微分係数と導関数の定義(高校数学), 平均値の定理, 中間値の定理, 微分積分学の基本定理, 上限と下限

高校での出発点:単位円と弧度法

高校では、原点 $O$ を中心とする半径 $1$ の円(単位円)の上を、点 $A=(1,0)$ から反時計回りに長さ $\theta$ だけ進んだ点 $P$ の座標を $(\cos\theta,\sin\theta)$ と定める(時計回りなら $\theta<0$)。角を弧の長さで測るのが弧度法で、半周の長さを $\pi$ と書く。
導関数は次のように求める。$0< h<\frac\pi2$ のとき、三角形 $OAP$ の面積 $\frac12\sin h$、扇形 $OAP$ の面積 $\frac h2$、$A$ での接線と直線 $OP$ の交点を $T$ とした三角形 $OAT$ の面積 $\frac12\tan h$ を比べて
$$ \sin h< h<\tan h\qquad\Bigl(0< h<\frac\pi2\Bigr) $$
を得る。これを変形した $\cos h<\frac{\sin h}h<1$ とはさみうちから $\lim_{h\to0}\frac{\sin h}h=1$ を得る(たとえば $\frac{\sin0.1}{0.1}=0.99833\ldots$、$\frac{\tan0.1}{0.1}=1.00334\ldots$)。最後に加法定理で $\frac{\sin(x+h)-\sin x}h=\sin x\cdot\frac{\cos h-1}h+\cos x\cdot\frac{\sin h}h\to\cos x$ として $(\sin x)'=\cos x$ を得る。
計算としては正しいが、定義として見ると、次の 3 点が未解決である。

  1. 弧の長さとは何か。 曲線の長さは、折れ線の長さの上限や積分 $\int\sqrt{1+y'(x)^2}\,dx$ で初めて定義できる量で、極限と積分の理論を前提にする。長さ $\theta$ の弧の終点が 1 つに決まることも示す必要がある。
  2. 扇形の面積 $\frac h2$ はどこから来たか。 円の面積 $\int_{-1}^1 2\sqrt{1-x^2}\,dx=\pi$ を計算するには置換 $x=\sin\theta$、$dx=\cos\theta\,d\theta$ を使う。これは $(\sin\theta)'=\cos\theta$ そのもので、これから証明する式を先に使っている。面積を別に基礎づけない限り、議論は循環する。
  3. 加法定理は一般の角で成り立つか。 図による証明は特定の範囲の角について描かれ、残りは場合分けや回転で補う。回転を座標で書くには三角関数が要る。
    これは高校数学の誤りではなく、長さ・面積・角という幾何の量を、実数と極限の言葉でまだ定義していないことから来ている。
    この記事では、三角関数がもつべき性質を条件 (T) として取り出し、(T) だけから加法定理・$\pi$・周期 $2\pi$・単位円との関係を導く。そのうえで (T) を満たす関数の作り方として、級数、微分方程式 $y''=-y$、$\arcsin$ の積分と逆関数の 3 つを示し、すべて同じ関数と同じ $\pi$ を与えることを証明する。弧の長さは最後に定理として回収される。
    前提として、実数の連続性(上限の存在)と、そこから導かれる微分積分の基本事項(平均値の定理、「導関数が区間で $0$ なら定数」「導関数が正なら狭義単調増加」、中間値の定理、微分積分学の基本定理、逆関数の微分公式、級数の比較判定と「絶対収束する級数は収束する」)を証明なしに使う(Leb26a Theorem 3.3.8、4.2.4、4.4.2、5.3.3、Proposition 4.2.6・4.2.8、§2.5)。三角関数の性質は一切前提にしない。

取り出すべき構造:条件 (T)

高校の $\sin,\cos$ は、$(\sin x)'=\cos x$、$(\cos x)'=-\sin x$、$\sin0=0$、$\cos0=1$ を満たす。この 4 つの式には角も長さも面積も現れない。これを定義の出発点にする。

条件 (T)

関数の組 $(S,C)$、$S\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$、$C\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$ が条件 (T) を満たすとは、$S,C$ が $\mathbb{R}$ 上で微分可能であって
$$ S'=C,\qquad C'=-S,\qquad S(0)=0,\qquad C(0)=1 $$
が成り立つことをいう。

(T) を満たす組では、$S''=(S')'=C'=-S$、同様に $C''=-C$ であり、$S,C$ は何回でも微分できる。すなわち $S$ は微分方程式 $y''=-y$ の解で、$S(0)=0$、$S'(0)=1$ を満たす。
(T) から何でも導けるのは、次の補題のおかげである。

微分方程式 y''=-y の解の一意性

$I$ を $0$ を含む区間とし、$f\colon I\to\mathbb{R}$ は 2 回微分可能で $f''=-f$ を満たすとする。$f(0)=0$ かつ $f'(0)=0$ ならば、$I$ 上で $f=0$ である。

エネルギーが保存される

$E(x):=f(x)^2+f'(x)^2$ とおく。$E'(x)=2f(x)f'(x)+2f'(x)f''(x)=2f'(x)\bigl(f(x)+f''(x)\bigr)=0$ なので、$E$ は区間 $I$ 上で定数であり(平均値の定理の帰結)、$E(x)=E(0)=0$ である。平方の和が $0$ なので $f(x)=0$ である。$\square$

条件 (T) からの帰結

$(S,C)$ が条件 (T) を満たすとする。

  1. 一意性:(T) を満たす組は $(S,C)$ ただ 1 つである。
  2. 一般解:$y''=-y$ を満たす 2 回微分可能な関数 $f\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$ は、$f=f(0)\,C+f'(0)\,S$ の形に限る。
  3. 平方の和:すべての $x$ で $S(x)^2+C(x)^2=1$。特に $|S(x)|\le1$、$|C(x)|\le1$。
  4. 偶奇:$S(-x)=-S(x)$、$C(-x)=C(x)$。
  5. 加法定理:すべての $x,y$ で
    $$ S(x+y)=S(x)C(y)+C(x)S(y),\qquad C(x+y)=C(x)C(y)-S(x)S(y). $$
すべて補題に帰着する

どの場合も、$0$ になってほしい関数を作って lem-deftrig-uniqueness を使う。
2:$g:=f-f(0)C-f'(0)S$ は $g''=-g$、$g(0)=0$、$g'(0)=f'(0)-f(0)C'(0)-f'(0)S'(0)=0$ を満たすので $g=0$。
1:$(S_1,C_1)$ も (T) を満たせば、2 により $S_1=S_1(0)C+S_1'(0)S=S$、$C_1=S_1'=S'=C$。
3:$E:=S^2+C^2$ とおくと $E'=2SC+2C(-S)=0$ なので $E$ は定数で、$E(0)=0+1=1$。
4:$f(x):=S(-x)$ は $f''(x)=S''(-x)=-f(x)$、$f(0)=0$、$f'(0)=-S'(0)=-1$ を満たすので、2 により $f=-S$。同様に $h(x):=C(-x)$ は $h''=-h$、$h(0)=1$、$h'(0)=-C'(0)=S(0)=0$ を満たすので、2 により $h=C$。
5:$y$ を固定し、$f(x):=S(x+y)-S(x)C(y)-C(x)S(y)$ とおく。$x$ で微分すると
$$ f'(x)=C(x+y)-C(x)C(y)+S(x)S(y),\qquad f''(x)=-S(x+y)+S(x)C(y)+C(x)S(y)=-f(x) $$
であり、$f(0)=S(y)-0-S(y)=0$、$f'(0)=C(y)-C(y)+0=0$。補題により $f=0$、したがって $f'=0$ でもある。$f=0$ が正弦の加法定理、$f'=0$ が余弦の加法定理である。$\square$

加法定理の証明に、図も角の場合分けも要らなかったことに注意する。代わりに使ったのは「$y''=-y$ の解は $x=0$ での値と微分係数で決まる」という一意性だけである。

主定理:π・周期・単位円

この節では、(T) だけから $\pi$ を定義して周期 $2\pi$ を導き、単位円と弧の長さを回収する。
$\sin x< x<\tan x$ を使って正多角形で $\pi$ を挟む方法は 正多角形で円周率を挟む で扱う。

π の定義と周期

余弦の零点・π・周期

$(S,C)$ が条件 (T) を満たすとする。

  1. $C$ は正の零点をもつ。正の零点のうち最小のものが存在するので、それを $p$ とし、$\pi:=2p$ と定義する。
  2. $S\bigl(\frac\pi2\bigr)=1$ であり、すべての $x$ で $S\bigl(x+\frac\pi2\bigr)=C(x)$、$C\bigl(x+\frac\pi2\bigr)=-S(x)$。
  3. $S,C$ は周期 $2\pi$ をもち、$2\pi$ より小さい正の周期はもたない。
  4. $S>0$ が $(0,\pi)$ で成り立ち、$C$ は $[0,\pi]$ で $1$ から $-1$ まで狭義単調に減少する。
零点の存在は背理法、残りは加法定理

1:$(0,\infty)$ に零点がないと仮定すると、$C(0)=1$ と中間値の定理から $[0,\infty)$ で $C>0$。すると $S'=C>0$ で $S$ は狭義増加し、$a:=S(1)>0$。$x\ge1$ では $C'=-S\le-a$ なので、平均値の定理により $C(x)\le1-a(x-1)$ で、$x>1+\frac1a$ で負になり矛盾する。よって $Z:=\{x>0:C(x)=0\}$ は空でない。連続性から $[0,\delta)$ で $C>0$ となる $\delta>0$ があるので、$p:=\inf Z\ge\delta>0$(下限の存在)。$p$ に収束する $Z$ の点列をとれば、連続性から $C(p)=0$ で、$p$ は最小の正の零点である。
2:$[0,p)$ で $C>0$ なので $S$ は $[0,p]$ で狭義増加し $S(p)>0$。$S(p)^2=1-C(p)^2=1$ から $S(p)=1$。加法定理に $y=p$ を代入すると $S(x+p)=C(x)$、$C(x+p)=-S(x)$。
3・4:2 を繰り返すと $S(x+2p)=-S(x)$、$C(x+2p)=-C(x)$、$S(x+4p)=S(x)$、$C(x+4p)=C(x)$ で、$4p=2\pi$。$(0,p]$ で $S>0$、$x\in[p,2p)$ では $S(x)=C(x-p)>0$ なので $(0,\pi)$ で $S>0$、したがって $C$ は $[0,\pi]$ で $1$ から $C(\pi)=-1$ まで狭義減少する。$x\in[\pi,2\pi)$ では $C(x)=-C(x-\pi)$ と $C(x-\pi)\in(-1,1]$ から $C(x)<1$。よって $(0,2\pi)$ で $C<1$。$T>0$ が $C$ の周期なら $C(T)=1$ なので $T\ge2\pi$。$S$ の周期は $C=S'$ の周期でもあるので同じである。$\square$

1 では $\inf Z$ の存在、すなわち実数の連続性を使った。$\pi$ という実数を取り出すには下限の存在が欠かせない。また 2〜4 から、$S(x)=0\iff x\in\pi\mathbb{Z}$、$C(x)=0\iff x\in\frac\pi2+\pi\mathbb{Z}$ も分かる。

単位円と弧の長さの回収

ここで初めて幾何に戻る。$C^1$ 級の曲線 $\gamma(t)=(x(t),y(t))$($a\le t\le b$)の長さを、高校でも習う積分
$$ L=\int_a^b\sqrt{x'(t)^2+y'(t)^2}\,dt $$
で定義する。折れ線の長さの上限による定義とこの積分が一致することは、ここでは証明しない(Leb26b §11.4.3 はこの積分を弧長の定義として採用している)。

単位円の弧長パラメータ

$(S,C)$ が条件 (T) を満たすとする。

  1. 写像 $t\mapsto(C(t),S(t))$ は、区間 $[0,2\pi)$ から単位円 $\{(a,b):a^2+b^2=1\}$ への全単射である。
  2. $0\le\theta\le2\pi$ のとき、曲線 $t\mapsto(C(t),S(t))$($0\le t\le\theta$)の長さは $\theta$ である。特に単位円の周の長さは $2\pi$ である。
余弦の単調性と速さ 1

1:値が単位円に入ることは thm-deftrig-consequences の 3 である。点 $(a,b)$、$a^2+b^2=1$ をとる。thm-deftrig-pi-period の 4 により、$C$ は $[0,\pi]$ から $[-1,1]$ への狭義減少の連続な全単射なので、$C(t_0)=a$ となる $t_0\in[0,\pi]$ がただ 1 つある。$S(t_0)\ge0$ かつ $S(t_0)^2=1-a^2=b^2$ なので $S(t_0)=|b|$。$b\ge0$ なら $t_0$ が求める点である。$b<0$ なら $|a|<1$ なので $t_0\in(0,\pi)$ で、$t_1:=2\pi-t_0\in(\pi,2\pi)$ は偶奇と周期から $C(t_1)=C(t_0)=a$、$S(t_1)=-S(t_0)=b$ を満たす。単射性:$[0,2\pi)$ で $S$ は $(0,\pi)$ で正、$(\pi,2\pi)$ で負($S(x)=-S(x-\pi)$)なので、同じ点に移る 2 つの $t$ はともに $[0,\pi]$ にあるか、ともに $(\pi,2\pi)$ にある。前者は $C$ の単射性から、後者は $C(t)=C(2\pi-t)$ から一致する。
2:速さは $\sqrt{C'(t)^2+S'(t)^2}=\sqrt{S(t)^2+C(t)^2}=1$ なので、長さは $\int_0^\theta1\,dt=\theta$。$\square$

曲線の長さの定義と公式は 媒介変数表示と曲線の長さ で扱う。
こうして「単位円上を $(1,0)$ から長さ $\theta$ だけ進んだ点が $(\cos\theta,\sin\theta)$」という高校の定義は、(T) から導かれる定理になった。$\pi$ も単位円の半周の長さ(円周と直径の比)に一致する。

3 つの構成

ここまでは「(T) を満たす組が存在すれば」の話である。3 つの定義は、存在の確保の仕方と $\pi$ の現れ方が違う。
級数による定義と一致する正弦・余弦の Taylor 展開は 関数の近似とテイラー展開 で扱う。

級数による定義

級数による正弦と余弦

実数 $x$ に対して
$$ S(x):=\sum_{k=0}^\infty\frac{(-1)^kx^{2k+1}}{(2k+1)!}=x-\frac{x^3}{3!}+\frac{x^5}{5!}-\cdots,\qquad C(x):=\sum_{k=0}^\infty\frac{(-1)^kx^{2k}}{(2k)!}=1-\frac{x^2}{2!}+\frac{x^4}{4!}-\cdots $$
と定める。

どちらも $\sum_na_nx^n$ の形で、係数は $|a_n|\le\frac1{n!}$ を満たす。まず収束を確かめる。$R>0$ を固定し、整数 $N\ge2R$ をとると、$n\ge N$ では $\frac{R^{n+1}/(n+1)!}{R^n/n!}=\frac R{n+1}\le\frac12$ なので $\frac{R^n}{n!}\le\frac{R^N}{N!}\bigl(\frac12\bigr)^{n-N}$。等比級数との比較により $\sum_n\frac{R^n}{n!}$ は収束する。したがって $|x|\le R$ で $\sum_n|a_nx^n|$ は収束し、絶対収束する級数は収束するので $S(x),C(x)$ は定まる。この「収束する」の部分で実数の連続性を使っている。

項別微分

係数が $|a_n|\le\frac1{n!}$($n\ge0$)を満たすとき、$f(x):=\sum_{n=0}^\infty a_nx^n$ はすべての実数 $x$ で微分可能で、$f'(x)=\sum_{n=1}^\infty na_nx^{n-1}$ である。右辺の係数 $b_n:=(n+1)a_{n+1}$ も $|b_n|\le\frac1{n!}$ を満たす。

2 次の誤差で押さえる

後半は $|(n+1)a_{n+1}|\le\frac{n+1}{(n+1)!}=\frac1{n!}$ から従い、特に右辺の級数は収束する。$x$ を固定し、$0<|h|\le1$ とする。二項展開により
$$ (x+h)^n-x^n-nx^{n-1}h=\sum_{k=2}^n\binom nkx^{n-k}h^k $$
であり、$|h|^k\le|h|^2$($k\ge2$)から
$$ \bigl|(x+h)^n-x^n-nx^{n-1}h\bigr|\le|h|^2\sum_{k=2}^n\binom nk|x|^{n-k}\le|h|^2(1+|x|)^n. $$
これを $|a_n|$ 倍して $n$ について足すと
$$ \Bigl|\frac{f(x+h)-f(x)}h-\sum_{n=1}^\infty na_nx^{n-1}\Bigr|\le|h|\sum_{n=0}^\infty\frac{(1+|x|)^n}{n!}. $$
右辺の和は上で示したとおり有限の値なので、$h\to0$ で右辺は $0$ に近づく。$\square$

級数による組は条件 (T) を満たす

def-deftrig-series の $(S,C)$ は条件 (T) を満たす。

項別に微分する

lem-deftrig-termwise により項別に微分できる。$S$ の $x^{2k+1}$ の項を微分すると $\frac{(-1)^k(2k+1)x^{2k}}{(2k+1)!}=\frac{(-1)^kx^{2k}}{(2k)!}$ で、これは $C$ の項である。$C$ の $x^{2k}$ の項($k\ge1$)を微分すると $\frac{(-1)^k2k\,x^{2k-1}}{(2k)!}=-\frac{(-1)^{k-1}x^{2(k-1)+1}}{(2(k-1)+1)!}$ で、これは $-S$ の項であり、定数項 $1$ の微分は $0$。よって $S'=C$、$C'=-S$。$S(0)=0$、$C(0)=1$ は明らかである。$\square$

級数では存在は一目で分かるが、周期や $\pi$ は式から見えない。それを取り出すのが thm-deftrig-pi-period である。

微分方程式 y''=-y による定義

微分方程式による正弦と余弦

$\sin$ を、微分方程式 $y''=-y$ の解で $y(0)=0$、$y'(0)=1$ を満たす 2 回微分可能な関数 $y\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$ と定め、$\cos:=\sin'$ と定める。

この定義が意味をもつには、そのような関数がちょうど 1 つあることが要る。一意性は lem-deftrig-uniqueness から分かる(2 つの解の差に使う)。存在は、級数の $S$ が $S''=-S$、$S(0)=0$、$S'(0)=1$ を満たすことから従う。逐次近似(Picard の方法。1 階の単独の方程式の局所的な存在定理が Leb26a Theorem 6.3.2)を連立方程式 $y'=z$、$z'=-y$ に使って存在を示すこともできるが、この記事では扱わない。$(\sin,\cos)=(y,y')$ が (T) を満たすのは $\cos'=y''=-y$ から明らかである。初期条件を $y(0)=0$ だけにすると、$y=B\sin x$($B$ は任意)がすべて解になり(thm-deftrig-consequences の 2)、関数は決まらない。この定義は、ばねの単振動の運動方程式 $y''=-\omega^2y$ との関係をそのまま見せるが、存在は別の構成に頼る。

arcsin を積分で定義する方法

高校で習う $(\arcsin x)'=\frac1{\sqrt{1-x^2}}$ を逆にたどり、まず $\arcsin$ を積分で定義する。

積分による逆正弦と π

$-1< x<1$ に対して
$$ A(x):=\int_0^x\frac{dt}{\sqrt{1-t^2}} $$
と定め、これを(積分による)逆正弦と呼ぶ。$q:=\lim_{x\to1-0}A(x)$ とし、$\pi_A:=2q$ と定める。

微分積分学の基本定理により $A'(x)=\frac1{\sqrt{1-x^2}}>0$ で、$A$ は狭義増加である。$0\le t<1$ で $1-t^2\ge1-t$ だから、$0\le x<1$ で
$$ A(x)\le\int_0^x\frac{dt}{\sqrt{1-t}}=2-2\sqrt{1-x}<2. $$
上に有界な増加関数なので極限 $q\le2$ が存在する(実数の連続性)。$A$ は奇関数なので、中間値の定理と合わせて $A$ は $(-1,1)$ から $(-q,q)$ への狭義増加の全単射である。

逆関数による組は条件 (T) を満たす

$s\colon(-q,q)\to(-1,1)$ を $A$ の逆関数、$c(u):=\sqrt{1-s(u)^2}$ とする。

  1. $(-q,q)$ 上で $s'=c$、$c'=-s$、$s(0)=0$、$c(0)=1$。
  2. $s(\pm q):=\pm1$、$c(\pm q):=0$ とおいて $[-q,q]$ に連続に延ばし、さらに $x\in[q,3q]$ では $S(x):=s(2q-x)$、$C(x):=-c(2q-x)$、$x\in[-q,q]$ では $S:=s$、$C:=c$ と定め、周期 $4q$ で $\mathbb{R}$ 全体に延ばす。こうして得た $(S,C)$ は条件 (T) を満たし、$C$ の最小の正の零点は $q$ である。したがって thm-deftrig-pi-period の $\pi$ について $\pi=2q=\pi_A$ である。
逆関数の微分と、つなぎ目での微分可能性

1:逆関数の微分公式により $s'(u)=\frac1{A'(s(u))}=\sqrt{1-s(u)^2}=c(u)$。$c>0$ なので $c$ は微分可能で、$c'=\frac{-2ss'}{2c}=\frac{-2sc}{2c}=-s$。$A(0)=0$ から $s(0)=0$、$c(0)=1$。
2:$u\to q-0$ で $s(u)\to1$ である($s$ は単調増加で極限 $L\le1$ をもつ。$L<1$ なら $u=A(s(u))\le A(L)< q$ がすべての $u$ で成り立ち、$u\to q$ で矛盾する)。よって $c(u)\to0$。$-q$ でも同様で、$s,c$ は $[-q,q]$ で連続になる。$x=q$ で 2 つの式の値は一致し($s(q)=1$、$-c(q)=0=c(q)$)、$S(3q)=s(-q)=S(-q)$、$C(3q)=0=C(-q)$ なので、周期 $4q$ の延長は矛盾なく定まり連続である。
つなぎ目以外では $S'=C$、$C'=-S$ である($(q,3q)$ では $S'(x)=-s'(2q-x)=-c(2q-x)=C(x)$、$C'(x)=c'(2q-x)=-s(2q-x)=-S(x)$)。つなぎ目 $x_0\in q+2q\mathbb{Z}$ では、「$F$ が $x_0$ の近くで連続、$x_0$ 以外で微分可能で $\lim_{x\to x_0}F'(x)=L$ ならば、$F'(x_0)=L$」を使う(平均値の定理で $\frac{F(x)-F(x_0)}{x-x_0}=F'(\xi)$ とし $x\to x_0$ とすればよい。片側ずつの形が Leb26a Proposition 4.2.10)。両側で $S'=C$、$C'=-S$ であり $C,S$ は連続なので、$x_0$ でも $S'(x_0)=C(x_0)$、$C'(x_0)=-S(x_0)$ である。
最後に、$[0,q)$ で $C=c>0$、$C(q)=0$ なので、$C$ の最小の正の零点は $q$ である。$\square$

積分 $A(y)$ には幾何の意味がある。単位円の右半分を $x=\sqrt{1-y^2}$($-1< y<1$)と $y$ の関数として表すと、点 $(1,0)$ から点 $\bigl(\sqrt{1-y^2},y\bigr)$ までの弧の長さは
$$ \int_0^y\sqrt{1+\Bigl(\frac{dx}{dt}\Bigr)^2}\,dt=\int_0^y\sqrt{1+\frac{t^2}{1-t^2}}\,dt=\int_0^y\frac{dt}{\sqrt{1-t^2}}=A(y) $$
である($y\ge0$ の場合。$y<0$ では符号つきの長さ)。つまり $A(y)$ は「高さ $y$ の点までの弧の長さ」であり、その逆関数が $\sin$ だというのは、高校の定義「長さ $\theta$ だけ進んだ点の高さが $\sin\theta$」を、弧長を積分で定義したうえでそのまま書いたものである。

3 つの定義の同値性

3 つの定義は同じ関数と同じ π を与える

級数による組(def-deftrig-series)、微分方程式による組(def-deftrig-ode)、逆正弦の積分から作った組(prop-deftrig-arcsin-t)は、$\mathbb{R}$ 上の関数としてすべて一致する。また、それぞれから定まる $\pi$(余弦の最小の正の零点の 2 倍、$2\int_0^1\frac{dt}{\sqrt{1-t^2}}$、単位円の周の長さの半分)はすべて等しい。

条件 (T) の一意性

3 つの組はいずれも条件 (T) を満たす(prop-deftrig-series-t、微分方程式による定義の直後の注意、prop-deftrig-arcsin-t)。thm-deftrig-consequences の 1 により、(T) を満たす組は 1 つしかないので、3 つは一致する。$\pi$ は thm-deftrig-pi-period で組だけから定まるので共通であり、prop-deftrig-arcsin-t によりそれは $2q=2\int_0^1\frac{dt}{\sqrt{1-t^2}}$ に等しく、prop-deftrig-unit-circle により単位円の周の長さは $2\pi$ である。$\square$

定義存在の確保一意性$\pi$ の現れ方幾何との距離
級数収束の判定だけで済む(T) の一意性余弦の最小の正の零点の 2 倍遠い(単位円は定理)
微分方程式 $y''=-y$別の構成(級数や逐次近似)が要る補題でただちに分かる同上中間(単振動)
$\arcsin$ の積分積分と逆関数で作れるが、延長が要る(T) の一意性$2\int_0^1\frac{dt}{\sqrt{1-t^2}}$近い(弧長そのもの)

高校の計算がその特別な場合であること

以下、(T) を満たすただ 1 つの組を改めて $\sin=S$、$\cos=C$ と書く。高校で習う計算が、ここまでの定理からどう出てくるかを確かめる。
$\lim_{x\to0}\frac{\sin x}x=1$。 これは $\sin'(0)=\cos0=1$ を導関数の定義で書いたものにすぎない。高校では導関数を求めるための材料だったこの極限が、ここでは定義から直接出る。
不等式 $\sin x< x<\tan x$($0< x<\frac\pi2$)。 面積なしで示せる。$(x-\sin x)'=1-\cos x>0$、$(\tan x-x)'=\frac{\sin^2x}{\cos^2x}>0$($0< x<\frac\pi2$)で、どちらも $x=0$ で $0$ だからである。
円と扇形の面積。 円の面積 $\int_{-1}^12\sqrt{1-x^2}\,dx$ は、置換 $x=\sin\theta$ により $\int_{-\pi/2}^{\pi/2}2\cos^2\theta\,d\theta=\int_{-\pi/2}^{\pi/2}(1+\cos2\theta)\,d\theta=\pi$ となる。ここで使った $(\sin\theta)'=\cos\theta$ と倍角の公式は、面積と無関係にすでに証明してあるので、導入で指摘した循環は断ち切られる。$0<\theta<\frac\pi2$ のとき中心角 $\theta$ の扇形は、直角三角形(頂点 $O$、$(\cos\theta,0)$、$(\cos\theta,\sin\theta)$)と、円の下で $\cos\theta\le x\le1$ の部分に分かれるので、置換 $x=\cos\varphi$ により面積は
$$ \frac12\cos\theta\sin\theta+\int_{\cos\theta}^1\sqrt{1-x^2}\,dx=\frac12\cos\theta\sin\theta+\int_0^\theta\sin^2\varphi\,d\varphi=\frac12\cos\theta\sin\theta+\frac\theta2-\frac{\sin2\theta}4=\frac\theta2 $$
となる。高校の証明で使った「扇形の面積 $\frac h2$」は、この意味で正しかった。
その他の公式。 倍角・半角・和積の公式や $\sin(\pi-x)=\sin x$ などは、加法定理と thm-deftrig-pi-period の 2 から計算で出る。度数法の $\sin(x^\circ)=\sin\frac{\pi x}{180}$ では $\frac d{dx}\sin(x^\circ)=\frac\pi{180}\cos(x^\circ)=0.01745\ldots\times\cos(x^\circ)$ となり、$\sin'=\cos$ は弧度法でしか成り立たない。(T) の $S'=C$ は、弧度法を選ぶという宣言でもある。

例と反例

級数から π を挟む

級数による定義から、$2\sqrt2<\pi<2\sqrt{6-2\sqrt3}$、すなわち $2.828\ldots<\pi<3.184\ldots$ が分かる。
$0< x\le2$ のとき、$C(x)$ の項の絶対値 $t_k:=\frac{x^{2k}}{(2k)!}$ は $k\ge1$ で $\frac{t_{k+1}}{t_k}=\frac{x^2}{(2k+1)(2k+2)}\le\frac13$ を満たして狭義減少し $0$ に近づく。このような交代級数では、途中から先の和 $\sum_{k\ge m}(-1)^{k-m}t_k$ は $t_m-t_{m+1}$ と $t_m$ の間(端を含まない)にある(項を 2 つずつまとめればよい。Leb26a Proposition 2.6.2 も参照)。$m=2,3$ に使うと
$$ 1-\frac{x^2}2< C(x)<1-\frac{x^2}2+\frac{x^4}{24}\qquad(0< x\le2). $$
左の不等式から $0\le x\le\sqrt2$ で $C(x)>0$($x=0$ では $C=1$)なので、最小の正の零点 $p$ は $\sqrt2$ より大きい。右辺の多項式は $x^2=6-2\sqrt3$、$x=r:=\sqrt{6-2\sqrt3}=1.5924\ldots$($\le2$)で $0$ になるので $C(r)<0$ であり、中間値の定理から $p< r$。よって $2\sqrt2<\pi=2p<2r=3.1849\ldots$。数値計算では $p=1.5707963\ldots$ である。

積分による π/6

$\int_0^{1/2}\frac{dt}{\sqrt{1-t^2}}=\frac\pi6=0.5235987\ldots$ である。加法定理から 3 倍角の公式 $\sin3u=3\sin u-4\sin^3u$ が出る。$u=\frac\pi6$ とおくと $\sin\frac\pi2=1$ なので $s:=\sin\frac\pi6$ は $4s^3-3s+1=0$、すなわち $(s+1)(2s-1)^2=0$ を満たし、$s>0$(thm-deftrig-pi-period の 4)から $s=\frac12$。prop-deftrig-arcsin-t と thm-deftrig-equivalence により、$(-\frac\pi2,\frac\pi2)$ 上で $\sin$ は $A$ の逆関数なので、$A\bigl(\frac12\bigr)=\frac\pi6$ である。

反例:加法定理だけでは三角関数は決まらない

$k\ne0$ を実数とし、$S_k(x):=\sin kx$、$C_k(x):=\cos kx$ とおく。この組は微分可能で、加法定理(thm-deftrig-consequences の 5 の 2 式)、$S_k(0)=0$、$C_k(0)=1$、$S_k^2+C_k^2=1$ をすべて満たす。しかし $S_k'=kC_k$ なので、$k\ne1$ なら条件 (T) の $S'=C$ を満たさず、周期は $\frac{2\pi}{|k|}$ になる。度数法の正弦は $k=\frac\pi{180}$ の場合である。定数の組 $(S,C)=(0,1)$ も加法定理を満たす。
破れているのは $S'(0)=1$ という条件である。実際、加法定理と $S(0)=0$、$C(0)=1$ を満たし、$0$ で微分可能な組では
$$ S'(x)=\lim_{h\to0}\frac{S(x)\bigl(C(h)-1\bigr)+C(x)S(h)}h=S'(0)\,C(x)+C'(0)\,S(x) $$
となり($C'(x)$ も同様)、加法定理と $S'(0)=1$、$C'(0)=0$ を合わせると (T) が出る。高校の導関数の求め方は、まさにこの計算である。$S'(0)=1$ は、角を弧度法で測ることに対応する。

反例:y''=y では周期が生まれない

双曲線関数 $\sinh x:=\frac{e^x-e^{-x}}2$、$\cosh x:=\frac{e^x+e^{-x}}2$ は、$\sinh'=\cosh$、$\cosh'=\sinh$、$\sinh0=0$、$\cosh0=1$ を満たす。条件 (T) との違いは $C'=-S$ の符号だけである。ところが $\cosh x\ge1$ なので $\cosh$ は零点をもたず、$\pi$ にあたる数も周期も生じない。thm-deftrig-pi-period の 1 の証明で使った「$C'=-S\le-a$ なので $C$ はいずれ負になる」という評価が、符号が逆だと成り立たない。保存される量も $\cosh^2-\sinh^2=1$(双曲線)である。周期性は $y''=-y$ のマイナスの符号から生まれている。

数学オリンピックの問題から

加法定理から出る和積の公式 $\sin(a+b)+\sin(a-b)=2\sin a\cos b$、$\cos(a+b)+\cos(a-b)=2\cos a\cos b$ を関数方程式として読むと、次の問題になる。

国際数学オリンピック(1972 年)第 5 問

実数全体で定義された実数値関数 $f,g$ が、すべての実数 $x,y$ について
$$ f(x+y)+f(x-y)=2f(x)g(y) $$
を満たすとする。$f$ が恒等的に $0$ ではなく、すべての $x$ について $|f(x)|\le1$ ならば、すべての $y$ について $|g(y)|\le1$ であることを証明せよ。(Oly72 Problem 5 の和訳)

高校数学で解く

ある $y_0$ で $|g(y_0)|=k>1$ だったと仮定する。$f(x_0)\ne0$ となる $x_0$ をとる。式に $x=x_0$、$y=y_0$ を代入すると
$$ |f(x_0+y_0)|+|f(x_0-y_0)|\ge|f(x_0+y_0)+f(x_0-y_0)|=2k|f(x_0)| $$
なので、$x_0\pm y_0$ の少なくとも一方 $x_1$ で $|f(x_1)|\ge k|f(x_0)|$ である。$f(x_1)\ne0$ なので $x_1$ から同じことを繰り返せば、$|f(x_n)|\ge k^n|f(x_0)|$ となる $x_n$ が得られる。$k>1$ なので $k^n\ge1+n(k-1)$(二項定理)は $n$ を大きくするといくらでも大きくなり、やがて $k^n|f(x_0)|>1$ となって $|f|\le1$ に反する。よって $|g(y)|\le1$ である。$\square$

大学数学で見ると見通しがよくなる

上限を使うと 1 行になる。 $M:=\sup_x|f(x)|$ とおくと $0< M\le1$ で、すべての $x,y$ について $2|f(x)||g(y)|\le|f(x+y)|+|f(x-y)|\le2M$。$x$ について上限をとると $M|g(y)|\le M$、すなわち $|g(y)|\le1$。高校数学の解の「繰り返し」は、上限の存在(実数の連続性)を使わずに済ませるための工夫だった。
どんな $f,g$ がこの式を満たすか。 和積の公式により、$f(x)=a\cos kx+b\sin kx$、$g(y)=\cos ky$ は式を満たす。$f(x)=\cosh kx$、$g(y)=\cosh ky$ も満たすが、$f$ は有界でない。問題の主張は、「$f$ が有界なら、$g$ は $\cosh$ 型ではありえない」ということである。微分できる場合には、これを次のように完全に言える。

有界な解は余弦を与える

$f,g$ は 2 回微分可能で、問題の式を満たし、$f$ は有界で恒等的に $0$ ではないとする。このとき、ある $k\ge0$ について $g(y)=\cos ky$ である。

y で 2 回微分して y''=λy に帰着する

$f(x_0)\ne0$ となる $x_0$ をとると、$g(y)=\frac{f(x_0+y)+f(x_0-y)}{2f(x_0)}$ と $f$ で書ける。式の両辺を $y$ で 2 回微分して $y=0$ とおくと、$\lambda:=g''(0)$ として $f''=\lambda f$。
$\lambda=-k^2<0$($k>0$)のとき:$F(x):=f(x/k)$ は $F''=-F$ を満たすので、thm-deftrig-consequences の 2 により $f(x)=a\cos kx+b\sin kx$ の形で、和積の公式から $g(y)=\cos ky$。
$\lambda=0$ のとき:$f(x)=a+bx$ が有界なので $b=0$、$f=a\ne0$、式から $g=1=\cos(0\cdot y)$。
$\lambda=k^2>0$($k>0$)のとき:$u:=f'+kf$、$v:=f'-kf$ とおくと $u'=f''+kf'=k^2f+kf'=ku$ なので $\bigl(u(x)e^{-kx}\bigr)'=0$、$u(x)=u(0)e^{kx}$。同様に $v(x)=v(0)e^{-kx}$。$f=\frac{u-v}{2k}$ なので
$$ |f(x)|\ge\frac{|u(0)|e^{kx}-|v(0)|e^{-kx}}{2k}. $$
$u(0)\ne0$ なら $x\to\infty$ で右辺は限りなく大きくなり、$f$ の有界性に反する。よって $u(0)=0$。$x\to-\infty$ を考えると同様に $v(0)=0$。すると $f=0$ となり仮定に反するので、この場合は起こらない。$\square$

$f=g$ とした式 $g(x+y)+g(x-y)=2g(x)g(y)$ は d'Alembert の関数方程式と呼ばれる。この命題は、「和積の公式と有界性で余弦が特徴づけられる。ただし尺度 $k$ は決まらない」ことを示しており、ex-deftrig-addition-not-enough と同じ構図である。尺度を決めるのが弧度法の条件 $S'(0)=1$ だった。微分可能性を仮定しない場合の扱いは関数方程式論の話題であり、ここでは扱わない。

さらに先へ

  • 複素数と Euler の公式:級数による定義は複素数にもそのまま使え、$e^{ix}=\cos x+i\sin x$ が得られる。加法定理は指数法則 $e^{i(x+y)}=e^{ix}e^{iy}$ の実部と虚部になる(Leb26b Proposition 11.4.2 はこの道筋で、$\pi$ を余弦の最小の正の零点の 2 倍として定義している)。
  • 群としての見方:加法定理は、$\theta\mapsto(\cos\theta,\sin\theta)$ が足し算の群 $\mathbb{R}$ から単位円(回転の群 $SO(2)$)への準同型であることを言い、prop-deftrig-unit-circle はその核が $2\pi\mathbb{Z}$ であることを言っている。
  • 楕円関数へ:def-deftrig-arcsin の $\sqrt{1-t^2}$ を $\sqrt{1-t^4}$ に替えた積分(レムニスケートの弧長)の逆関数も、加法定理をもつ周期関数になる。この考え方は楕円関数の理論へ発展した(本記事では扱わない)。

関連項目

参考文献

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