Hermite形式

同義語:Hermitian formエルミート形式

概要

Hermite形式(Hermitian form)とは、複素ベクトル空間の上で第 1 変数について線形、第 2 変数について共役線形で、$h(y,x)=\overline{h(x,y)}$ を満たす写像のことで、正定値なものが複素内積であり、より一般に位数 $2$ の自己同型をもつ体の上でも定義される。基底を選ぶと Hermite 行列 $G$ で表され、基底の取り替えで $G$ は $P^*GP$ に変わり、標数によらずつねに直交基底をもつ。複素数の上では値が正・負・零になる直交基底のベクトルの個数が基底によらず(慣性法則)、それが形式を分類し、保つ変換の群は不定値ユニタリ群 $\mathrm{U}(p,q)$ になる。有限体 $\mathbb{F}_{q^2}$ の上の非退化な Hermite 形式は正規直交基底をもち、次元だけで決まる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: ベクトル空間, 内積, 双線形形式, Hermite行列

複素ベクトル空間 $V$ の上で、第 1 変数について線形、第 2 変数について共役線形な写像 $V\times V\to\mathbb{C}$ を 半双線形形式 といい、そのうち $h(y,x)=\overline{h(x,y)}$ を満たすものを Hermite 形式 という。内積 は正定値な Hermite 形式である。実ベクトル空間で対称な 双線形形式 が果たす役割を、複素ベクトル空間では Hermite 形式が担う。$h(x,x)$ がつねに実数になるので、その符号を考えることができる。
基底を選ぶと Hermite 形式は Hermite行列 $G$ で表され、基底の取り替えで $G$ は $P^*GP$ に変わる。この記事の主定理は、Hermite 形式がつねに直交基底をもつこと(thm-hf-orthogonal-basis)と、複素数の上では値が正・負・零になる基底ベクトルの個数が基底によらないこと(Sylvester の慣性法則の Hermite 版、thm-hf-inertia)である。複素共役の代わりに体の位数 $2$ の自己同型を使っても同じように定義でき、有限体の上では非退化な Hermite 形式は次元だけで決まる(thm-hf-finite-field)。

定義

以下、$L$ を体とし、$a\mapsto\bar a$ を $L$ の環としての自己同型で、恒等写像でなく、すべての $a$ について $\bar{\bar a}=a$ を満たすものとする(位数 $2$ の自己同型)。その固定体を $L_0:=\{a\in L\mid\bar a=a\}$ と書き、$a\in L$ について
$$ \operatorname{Tr}(a):=a+\bar a,\qquad N(a):=a\bar a $$
とおく。$\overline{\operatorname{Tr}(a)}=\operatorname{Tr}(a)$、$\overline{N(a)}=N(a)$ なので、どちらも $L_0$ に属し、$N(ab)=N(a)N(b)$ である。代表的な場合は次の 2 つである。

  • $L=\mathbb{C}$、$\bar a$ は複素共役、$L_0=\mathbb{R}$、$N(a)=|a|^2$。
  • $L=\mathbb{F}_{q^2}$($q$ は素数の冪、有限体)、$\bar a:=a^q$、$L_0=\mathbb{F}_q$、$N(a)=a^{q+1}$。
    2 つ目の場合、$a\mapsto a^q$ は Frobenius 写像 $a\mapsto a^p$ の冪なので環の自己同型であり、$\bar{\bar a}=a^{q^2}=a$ である。$x^q-x$ の根は高々 $q$ 個なので恒等写像ではなく、固定体 $\{a\mid a^q=a\}$ はちょうど $q$ 個の元からなる部分体 $\mathbb{F}_q$ である。
半双線形形式と Hermite 形式

$V$ を $L$ 上のベクトル空間とする。写像 $s\colon V\times V\to L$ が 半双線形形式(sesquilinear form)であるとは、すべての $x,x',y,y'\in V$ と $a\in L$ について
$$ s(x+x',y)=s(x,y)+s(x',y),\quad s(ax,y)=a\,s(x,y),\quad s(x,y+y')=s(x,y)+s(x,y'),\quad s(x,ay)=\bar a\,s(x,y) $$
が成り立つことをいう。半双線形形式 $h$ がすべての $x,y\in V$ について
$$ h(y,x)=\overline{h(x,y)} $$
を満たすとき、$h$ を Hermite 形式(Hermitian form、エルミート形式)という。

$y=x$ とおくと $h(x,x)=\overline{h(x,x)}$ なので、$h(x,x)\in L_0$ である。$L=\mathbb{C}$ のとき、Hermite 形式 $h$ が $x\ne0$ でつねに $h(x,x)>0$ を満たすことを 正定値 といい、正定値な Hermite 形式は複素内積にほかならない。物理学の文献などでは、第 1 変数について共役線形とする逆の約束を使う。$h'(x,y):=h(y,x)$ と置き換えれば一方の約束から他方に移れる。

直交・核・非退化

$h$ を $V$ 上の Hermite 形式とする。$h(x,y)=0$ のとき $x$ と $y$ は 直交する といい、$x\perp y$ と書く。$h(y,x)=\overline{h(x,y)}$ なので、これは対称な関係である。部分集合 $S\subset V$ に対し $S^\perp:=\{x\in V\mid\text{すべての }y\in S\text{ について }h(x,y)=0\}$ とおく。$\operatorname{rad}h:=V^\perp$ を $h$ の 核 といい、$\operatorname{rad}h=0$ のとき $h$ は 非退化 であるという。$V$ が $n$ 次元のとき、$i\ne j$ ならつねに $h(v_i,v_j)=0$ となる基底 $v_1,\dots,v_n$ を 直交基底 という。さらに $h(v_i,v_i)=1$ がすべての $i$ で成り立つものを 正規直交基底 という。

行列 $A=(a_{ij})$ に対し $\bar A:=(\overline{a_{ij}})$、$A^*:=\bar A^{\top}$ と書く。$(AB)^*=B^*A^*$、$\det(A^*)=\overline{\det A}$ である。$G^*=G$ を満たす正方行列 $G$ を、$L=\mathbb{C}$ の場合と同じく Hermite 行列 という(Hermite行列)。$L^n$ の元は列ベクトルとする。

Hermite 形式の行列

$\dim V=n$ とし、$V$ の基底 $v_1,\dots,v_n$ を 1 つ固定する。$g_{ij}:=h(v_j,v_i)$ を $(i,j)$ 成分とする $n$ 次正方行列 $G=(g_{ij})$ を、この基底に関する $h$ の 行列 という。

行列による表示

$h$ を $n$ 次元の $V$ 上の Hermite 形式、$G$ を基底 $v_1,\dots,v_n$ に関する行列とする。

  1. $x=\sum_jx_jv_j$、$y=\sum_iy_iv_i$ の座標を列ベクトル $x,y\in L^n$ で表すと $h(x,y)=y^*Gx$ である。$G$ は Hermite 行列であり、逆に Hermite 行列 $G$ に対し $h_G(x,y):=y^*Gx$ は $L^n$ 上の Hermite 形式である。
  2. $P=(p_{ij})$ を正則行列とし、新しい基底を $v'_j:=\sum_ip_{ij}v_i$ とすると、その基底に関する行列は $P^*GP$ である。
  3. $x\in\operatorname{rad}h$ であることと $Gx=0$ は同値である。とくに $h$ が非退化であることと $\det G\ne0$ は同値であり、$G$ の階数(線形代数)は基底によらない。これを $h$ の 階数 という。
  4. $\det G\in L_0$ であり、基底を取り替えると $\det(P^*GP)=N(\det P)\det G$ となる。
双線形性を成分で展開する

要点:$h(x,y)=\sum_{i,j}\bar y_ig_{ij}x_j$ と展開し、残りはこの式から読む。

詳しい証明を開く

1:半双線形性から $h(\sum_jx_jv_j,\sum_iy_iv_i)=\sum_{i,j}x_j\bar y_ih(v_j,v_i)=\sum_{i,j}\bar y_ig_{ij}x_j=y^*Gx$ である。$\overline{g_{ji}}=\overline{h(v_i,v_j)}=h(v_j,v_i)=g_{ij}$ なので $G^*=G$ である。逆に $G^*=G$ なら $h_G$ は明らかに半双線形で、$h_G(y,x)=x^*Gy$ は $1\times1$ 行列なので転置しても同じであり、$\overline{h_G(y,x)}=(x^*Gy)^*=y^*G^*x=y^*Gx=h_G(x,y)$ である。

2:$v'_j$ の座標は $P$ の第 $j$ 列なので、新しい座標 $x'$ と古い座標の関係は $x=Px'$ である。$h(x,y)=y^*Gx=y'^*(P^*GP)x'$ である。$g'_{ij}=h(v'_j,v'_i)$ は新しい座標で $x'=e_j$、$y'=e_i$(標準基底)とおいた値なので、$(P^*GP)_{ij}$ に等しい。

3:$x\in\operatorname{rad}h$ は、すべての $y\in L^n$ について $y^*Gx=0$ であることで、$y$ に標準基底を代入すると $Gx=0$ と同値である。$P$ が正則なら $P^*GP$ と $G$ の階数は等しい。

4:$\overline{\det G}=\det(G^*)=\det G$ である。$\det(P^*GP)=\overline{\det P}\,\det G\,\det P=N(\det P)\det G$ である。$\square$

したがって、$h$ が非退化なら、$\det G$ の類 $[\det G]\in L_0^\times/N(L^\times)$ は基底によらない $h$ の不変量である。これを $h$ の 判別式 という。$L=\mathbb{C}$ では $N(\mathbb{C}^\times)$ は正の実数の全体なので、判別式は $\det G$ の符号である。

直感

実ベクトル空間の対称双線形形式 $b$ では $b(cx,cx)=c^2b(x,x)$ であり、$b(x,x)$ は $x$ の「長さの平方」の候補になる。複素ベクトル空間で同じことを双線形形式でしようとすると、$\beta(x,y)=x_1y_1+x_2y_2$ について $\beta((1,i),(1,i))=1+i^2=0$ となり、$0$ でないベクトルの「長さ」が $0$ になる。Hermite 形式では $h(cx,cx)=c\bar c\,h(x,x)=|c|^2h(x,x)$ なので、スカラー倍しても値の符号は変わらない。標準形式 $h(x,y)=\sum_kx_k\bar y_k$ では $h((1,i),(1,i))=1+1=2$ である。
実対称形式と Hermite 形式の対応をまとめる。

実対称形式Hermite 形式($L=\mathbb{C}$)
線形性両方の変数に線形第 1 変数に線形、第 2 変数に共役線形
対称性$b(y,x)=b(x,y)$$h(y,x)=\overline{h(x,y)}$
行列と基底の取り替え対称行列、$G\mapsto P^{\top}GP$Hermite 行列、$G\mapsto P^*GP$
直交基底の存在成り立つ(一般の体では標数 $2$ でないことが要る)成り立つ(一般の $L$ でも標数によらない)
分類の不変量階数と符号数階数と符号数
保つ変換の群直交群 $\mathrm{O}(p,q)$ユニタリ群 $\mathrm{U}(p,q)$

最後の行の $\mathrm{U}(p,q)$ は ユニタリ群 の記事の定義「Hermite 形式のユニタリ群」で定めた群である。非退化な Hermite 形式 $h$ の値が正・負になる基底ベクトルの個数が $p$、$q$ なら、$h$ を保つ正則行列の群は $\mathrm{U}(p,q)$ と同型になる(cor-hf-classification)。

例

標準 Hermite 形式

$L^n$ 上の $h(x,y):=\sum_{k=1}^nx_k\bar y_k=y^*x$ を 標準 Hermite 形式 という。標準基底に関する行列は単位行列 $I_n$ で、標準基底は正規直交基底である。$L=\mathbb{C}$ では $h(x,x)=\sum_k|x_k|^2$ なので正定値であり、$\mathbb{C}^n$ の標準内積(Hermite行列 の記事の「定義」の節で定めた標準内積)に一致する。
一般に、$\mathbb{C}^n$ の標準内積 $\langle\cdot,\cdot\rangle$ と正方行列 $A$ について $h_A(x,y):=\langle Ax,y\rangle=y^*Ax$ は半双線形形式であり、prop-hf-matrix の 1 により、$h_A$ が Hermite 形式であることと $A$ が Hermite 行列であることは同値である。

双曲平面

$L^2$ 上の $h(x,y):=x_1\bar y_2+x_2\bar y_1$ を考える。行列は $G=\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}$ で、$\det G=-1\ne0$ なので非退化である。標準基底の $e_1,e_2$ はどちらも $h(e_k,e_k)=0$ を満たし、直交基底ではない。$x=(1,c)$ については $h(x,x)=\bar c+c=\operatorname{Tr}(c)$ である。

  • $L=\mathbb{C}$ のとき、$v_1=e_1+e_2$、$v_2=e_1-e_2$ とすると $h(v_1,v_1)=2$、$h(v_2,v_2)=-2$、$h(v_1,v_2)=-1+1=0$ なので、直交基底で、値は正と負が 1 つずつである。
  • $L=\mathbb{F}_4=\{0,1,\omega,\omega^2\}$($\omega^2=\omega+1$、$\bar\omega=\omega^2$)のとき、$\operatorname{Tr}(\omega)=\omega+\omega^2=1$ である。$v_1=(1,\omega)$、$v_2=(1,\omega^2)$ とすると $h(v_1,v_1)=\omega^2+\omega=1$、$h(v_2,v_2)=\omega+\omega^2=1$、$h(v_1,v_2)=1\cdot\omega+\omega\cdot1=0$ である。よって $P=\begin{pmatrix}1&1\\\omega&\omega^2\end{pmatrix}$ について $P^*GP=I_2$ となり、$\mathbb{F}_4$ の上では双曲平面は標準 Hermite 形式と同じものである(thm-hf-finite-field)。
対角成分がすべて 0 の Hermite 行列

$L=\mathbb{C}$、$G=\begin{pmatrix}0&i\\-i&0\end{pmatrix}$ とする。$G^*=G$ で、$h(x,x)=x^*Gx=i(\bar x_1x_2-x_1\bar x_2)=-2\operatorname{Im}(\bar x_1x_2)$ である。$e_1,e_2$ では値が $0$ なので、まず $h(v_1,v_1)\ne0$ となる $v_1$ を探す。$v_1=(1,-i)$ では $h(v_1,v_1)=2$ である。$v_1^\perp$ は $h(x,v_1)=v_1^*Gx=x_1+ix_2=0$ で定まり、$v_2=(-i,1)$ が張る。$h(v_2,v_2)=-2$ なので、この形式の値は正と負が 1 つずつで、$\det G=-1<0$ と符号が合っている(cor-hf-eigenvalues)。

偏極:値 $h(x,x)$ で形式が決まる

値 $h(x,x)$ による復元

$s$ を $V$ 上の半双線形形式とし、$q_s(x):=s(x,x)$ とおく。$\bar\theta\ne\theta$ となる $\theta\in L$ を 1 つとる。

  1. すべての $x,y\in V$、$a\in L$ について $q_s(x+ay)-q_s(x)-N(a)q_s(y)=a\,s(y,x)+\bar a\,s(x,y)$ である。
  2. $h$ が Hermite 形式なら、1 の右辺は $\operatorname{Tr}(a\,h(y,x))$ であり、$\Delta_a:=q_h(x+ay)-q_h(x)-N(a)q_h(y)$ とおくと
    $$ h(y,x)=\frac{\Delta_\theta-\bar\theta\,\Delta_1}{\theta-\bar\theta} $$
    である。とくに Hermite 形式は値 $h(x,x)$($x\in V$)だけで決まり、すべての $x$ で $h(x,x)=0$ となる Hermite 形式は $0$ である。
  3. すべての $x\in V$ について $s(x,x)\in L_0$ なら、$s$ は Hermite 形式である。
2 変数の値を 1 変数の値の差で書く

要点:1 の展開で $\operatorname{Tr}(a\,h(y,x))$ が現れ、$a=1,\theta$ の 2 つの式から $h(y,x)$ を解く。

詳しい証明を開く

1:$s(x+ay,x+ay)=s(x,x)+a\,s(y,x)+\bar a\,s(x,y)+a\bar a\,s(y,y)$ を展開すればよい。

2:$h(x,y)=\overline{h(y,x)}$ なので $\bar a\,h(x,y)=\overline{a\,h(y,x)}$ であり、1 の右辺は $\operatorname{Tr}(a\,h(y,x))$ になる。$t:=h(y,x)$ とおくと $\Delta_1=t+\bar t$、$\Delta_\theta=\theta t+\bar\theta\bar t$ なので $\Delta_\theta-\bar\theta\Delta_1=\theta t+\bar\theta\bar t-\bar\theta t-\bar\theta\bar t=(\theta-\bar\theta)\,t$ であり、$\theta-\bar\theta\ne0$ で割れば式を得る。右辺は $q_h$ の値だけで書けている。

3:$u:=s(y,x)$、$w:=s(x,y)$ とおく。仮定から 1 の左辺は $L_0$ に属するので、すべての $a$ について $au+\bar aw\in L_0$、すなわち $au+\bar aw=\bar a\bar u+a\bar w$ である。これは $c:=a(u-\bar w)$ について $c=\bar c$ を意味する。$u\ne\bar w$ なら $a:=\theta(u-\bar w)^{-1}$ とおくと $c=\theta$ で、$\theta=\bar\theta$ となり矛盾する。よって $u=\bar w$、すなわち $s(y,x)=\overline{s(x,y)}$ である。$\square$

$L=\mathbb{C}$、$\theta=i$ のとき、2 の式は複素内積の偏極恒等式であり、3 は 内積 の記事の命題「複素半双線形形式の共役対称性」と同じ主張である。実対称形式の場合の「$b(x,x)$ で $b$ が決まる」は、$2$ で割る式 $b(x,y)=\frac12\bigl(b(x+y,x+y)-b(x,x)-b(y,y)\bigr)$ によるので標数 $2$ では使えない。Hermite 形式では $2$ の代わりに $\theta-\bar\theta$ で割るので、標数によらない。

主定理 1:直交基底の存在

直交基底の存在

$V$ を $L$ 上の $n$ 次元ベクトル空間、$h$ を $V$ 上の Hermite 形式とする。

  1. $V$ は $h$ に関する直交基底 $v_1,\dots,v_n$ をもつ。$d_i:=h(v_i,v_i)$ はすべて $L_0$ に属する。
  2. 1 の直交基底について、$d_i\ne0$ となる $i$ の個数は $h$ の階数に等しく、$d_i=0$ となる $v_i$ の全体は $\operatorname{rad}h$ の基底である。
  3. 行列で言えば、任意の Hermite 行列 $G\in M_n(L)$ に対し、正則行列 $P$ で $P^*GP$ が $L_0$ の元を成分とする対角行列になるものがある。
値が 0 でないベクトルを 1 つずつ切り出す

1 を $n$ についての帰納法で示す。$n=0$ なら空の基底でよい。$n\ge1$ とする。$h=0$ ならどの基底も直交基底である。$h\ne0$ なら、prop-hf-polarization の 2 により $h(v,v)\ne0$ となる $v\in V$ がある。
$V=Lv\oplus v^\perp$ を示す。$x\in V$ に対し $c:=h(x,v)/h(v,v)$ とおくと、第 1 変数についての線形性から $h(x-cv,v)=h(x,v)-c\,h(v,v)=0$ なので $x-cv\in v^\perp$、$x=cv+(x-cv)$ である。$av\in v^\perp$ なら $a\,h(v,v)=0$ で $a=0$ なので、$Lv\cap v^\perp=0$ である。$v^\perp$ は線形写像 $x\mapsto h(x,v)$ の核なので部分空間で、次元は $n-1$ である。
$h$ を $v^\perp$ に制限したものも Hermite 形式なので、帰納法の仮定により $v^\perp$ は直交基底 $v_2,\dots,v_n$ をもつ。$v_1:=v$ とすると、$v_2,\dots,v_n\in v^\perp$ と直交関係の対称性から $h(v_1,v_j)=h(v_j,v_1)=0$($j\ge2$)であり、$v_1,\dots,v_n$ は $V$ の直交基底である。$d_i\in L_0$ は定義のあとの注意による。
2:この基底に関する行列は $\operatorname{diag}(d_1,\dots,d_n)$ なので、階数は $d_i\ne0$ となる $i$ の個数である。$x=\sum_ic_iv_i$ について $h(x,v_j)=c_jd_j$ なので、$x\in\operatorname{rad}h$ であることは「$d_j\ne0$ なら $c_j=0$」と同値である。よって $d_i=0$ となる $v_i$ の全体が $\operatorname{rad}h$ を張り、線形独立なので基底である。
3:$G$ が定める $L^n$ 上の Hermite 形式 $h_G$(prop-hf-matrix の 1)に 1 を当て、直交基底を列に並べた行列を $P$ とすれば、prop-hf-matrix の 2 により $P^*GP=\operatorname{diag}(d_1,\dots,d_n)$ である。$\square$

対称双線形形式の対角化(2次形式 の記事の定理「平方完成による対角化」)は標数が $2$ でないことを使うが、この定理は標数を仮定しない。使ったのは $\bar\theta\ne\theta$ となる $\theta$ があることだけで、自己同型が恒等写像だと成り立たなくなる(ex-hf-counterexamples の 2 行目)。

主定理 2:複素数の上の慣性法則

この節では $L=\mathbb{C}$ とする。Hermite 形式 $h$ が部分空間 $W$ の上で 正定値(負定値)であるとは、$0$ でないすべての $x\in W$ について $h(x,x)>0$($h(x,x)<0$)であることをいう。

Hermite 形式の慣性法則

$V$ を $n$ 次元の複素ベクトル空間、$h$ を $V$ 上の Hermite 形式、$v_1,\dots,v_n$ を直交基底とし、$h(v_i,v_i)>0$、$<0$、$=0$ となる $i$ の個数をそれぞれ $n_+$、$n_-$、$n_0$ とする。

  1. $n_+$ は $h$ が正定値になる部分空間の次元の最大値に等しく、$n_-$ は $h$ が負定値になる部分空間の次元の最大値に等しく、$n_0=\dim\operatorname{rad}h$ である。とくに $(n_+,n_-,n_0)$ は直交基底の選び方によらない。
  2. $h(v_i,v_i)$ が $1$、$-1$、$0$ のどれかになる直交基底がある。行列で言えば、Hermite 行列 $G$ に対し、正則行列 $P$ で $P^*GP=\operatorname{diag}(I_{n_+},-I_{n_-},O_{n_0})$ となるものがある。
  3. $n$ 次元の複素ベクトル空間の上の 2 つの Hermite 形式 $h$、$h'$ について、線形同型 $T$ で $h'(Tx,Ty)=h(x,y)$ を満たすものがあることと、$(n_+,n_-)$ が一致することは同値である。

組 $(n_+,n_-)$ を $h$ の 符号(signature)といい、$n_+-n_-$ を符号数と呼ぶこともある。

正定値な部分空間は負の部分と交わらない

1:$I_+$、$I_-$、$I_0$ を値が正・負・零になる添字の集合とし、$V_+$ を $v_i$($i\in I_+$)が張る部分空間、$V_{\le}$ を $v_i$($i\in I_-\cup I_0$)が張る部分空間とする。$x=\sum_ic_iv_i$ について、直交性から
$$ h(x,x)=\sum_{i=1}^n|c_i|^2\,h(v_i,v_i) $$
である。よって $h$ は $V_+$ の上で正定値であり、$V_{\le}$ のすべての $x$ について $h(x,x)\le0$ である。$W$ を $h$ が正定値になる部分空間とすると、$W\cap V_{\le}=0$ なので
$$ \dim W\le n-\dim V_{\le}=n-(n_-+n_0)=n_+ $$
である。$V_+$ はこの上限を実現するので、$n_+$ は正定値な部分空間の次元の最大値である。$n_-$ も符号を入れ替えて同じように示せる。$n_0=\dim\operatorname{rad}h$ は thm-hf-orthogonal-basis の 2 による。
2:$d_i:=h(v_i,v_i)\ne0$ となる $i$ について $v_i$ を $v_i/\sqrt{|d_i|}$ に取り替えると、値は $d_i/|d_i|=\pm1$ になる。直交性は保たれる。並べ替えれば行列は $\operatorname{diag}(I_{n_+},-I_{n_-},O_{n_0})$ になり、行列の主張は prop-hf-matrix の 2 による。
3:$(n_+,n_-)$ が一致すれば $n_0$ も一致する。2 の基底 $v_i$、$v'_i$ を値の順をそろえて並べ、$Tv_i:=v'_i$ で $T$ を定めると、$h'(Tx,Ty)=h(x,y)$ が基底の上で成り立ち、半双線形性から全体で成り立つ。逆に $T$ があれば、$T$ は $h$ が正定値な部分空間を $h'$ が正定値な同じ次元の部分空間に移し、$T^{-1}$ も同様なので、1 の特徴づけから $n_+$ が一致する。$n_-$ も同じである。$\square$

符号と固有値

$G\in M_n(\mathbb{C})$ を Hermite 行列とする。$h_G(x,y)=y^*Gx$ の $n_+$、$n_-$、$n_0$ は、それぞれ $G$ の正・負・零の固有値の個数(重複度を込めて数える)に等しい。とくに $h_G$ が非退化なら $\det G$ の符号は $(-1)^{n_-}$ である。

ユニタリ対角化の基底は直交基底

要点:ユニタリ対角化の列ベクトルが直交基底になる。

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Hermite行列 の記事の定理「ユニタリ対角化できる行列」により、ユニタリ行列 $U$ と実対角行列 $D$ で $G=UDU^*$ となるものがある。$U^*=U^{-1}$ なので $U^*GU=D$ であり、$U$ の列は $h_G$ の直交基底で、その値は $D$ の対角成分、すなわち $G$ の固有値である。thm-hf-inertia の 1 から主張を得る。行列式は固有値の積である。$\square$

Hermite 形式の分類と保つ変換の群

複素ベクトル空間の上の非退化な Hermite 形式 $h$ の符号を $(p,q)$ とすると、$h$ を保つ線形同型の群 $\mathrm{U}(h):=\{T\in\mathrm{GL}(V)\mid h(Tx,Ty)=h(x,y)\}$ は、ユニタリ群 の記事の定義「Hermite 形式のユニタリ群」の不定値ユニタリ群 $\mathrm{U}(p,q)$ と同型である。とくに $h$ が正定値なら $\mathrm{U}(h)\cong\mathrm{U}(n)$ である。

要点:符号の標準形の基底で行列に直す。

詳しい証明を開く

thm-hf-inertia の 2 の基底をとると、$h$ の行列は $G_{p,q}:=\operatorname{diag}(I_p,-I_q)$ になる。$T$ の行列を $A$ とすると、$h(Tx,Ty)=y^*A^*G_{p,q}Ax$ なので、$T\in\mathrm{U}(h)$ は $A^*G_{p,q}A=G_{p,q}$ と同値であり、$T\mapsto A$ が群の同型 $\mathrm{U}(h)\to\mathrm{U}(p,q)$ を与える。$\square$

主定理 3:有限体の上の分類

有限体のノルムの全射性

$q$ を素数の冪とする。$N\colon\mathbb{F}_{q^2}^\times\to\mathbb{F}_q^\times$、$N(a)=a^{q+1}$ は全射な群準同型である。

核の大きさを数える

要点:核は $x^{q+1}=1$ の根で高々 $q+1$ 個。

詳しい証明を開く

$N(a)^q=a^{q^2+q}=a\cdot a^q=N(a)$ なので $N(a)\in\mathbb{F}_q^\times$ であり、$N$ は乗法についての準同型である。核は $x^{q+1}=1$ の根なので高々 $q+1$ 個の元からなる。よって像の元の個数は $(q^2-1)/(q+1)=q-1$ 以上で、$|\mathbb{F}_q^\times|=q-1$ だから $N$ は全射である。$\square$

有限体の上の Hermite 形式

$L=\mathbb{F}_{q^2}$、$\bar a=a^q$ とし、$h$ を $n$ 次元の $L$ 上のベクトル空間 $V$ の上の非退化な Hermite 形式とする。

  1. $V$ は $h$ に関する正規直交基底をもつ。行列で言えば、非退化な Hermite 行列 $G\in M_n(\mathbb{F}_{q^2})$ に対し、正則行列 $P$ で $P^*GP=I_n$ となるものがある。
  2. 同じ次元の 2 つの非退化な Hermite 形式 $h$、$h'$ に対し、線形同型 $T$ で $h'(Tx,Ty)=h(x,y)$ を満たすものがある。一般の Hermite 形式は次元と階数で決まる。
対角成分をノルムで 1 にそろえる

1:thm-hf-orthogonal-basis により直交基底 $v_1,\dots,v_n$ があり、$h$ は非退化なので $d_i:=h(v_i,v_i)\in\mathbb{F}_q^\times$ である(同定理の 2)。lem-hf-norm-surjective により $N(c_i)=d_i$ となる $c_i\in\mathbb{F}_{q^2}^\times$ がある。$w_i:=c_i^{-1}v_i$ とすると
$$ h(w_i,w_i)=c_i^{-1}\,\overline{c_i^{-1}}\,d_i=N(c_i)^{-1}d_i=1 $$
であり、直交性は保たれるので、$w_1,\dots,w_n$ は正規直交基底である。行列の主張は prop-hf-matrix の 2 による。
2:1 の正規直交基底どうしを対応させる線形同型 $T$ が条件を満たす。一般の場合は、thm-hf-orthogonal-basis の 2 により $V=\operatorname{rad}h\oplus V'$($V'$ は $d_i\ne0$ の $v_i$ が張る部分空間で、$h$ は $V'$ の上で非退化)と分け、$h'$ も同じく $V=\operatorname{rad}h'\oplus V''$ と分ける。階数が等しいので $\dim V'=\dim V''$、$\dim\operatorname{rad}h=\dim\operatorname{rad}h'$ である。$V'$ と $V''$ は 1 の正規直交基底どうしで、核どうしは任意の線形同型で対応させればよい。$\square$

したがって有限体 $\mathbb{F}_{q^2}$ の上では、ユニタリ群は次元 $n$ だけで決まり、標準 Hermite 形式を保つ行列の群 $\mathrm{U}_n(q):=\{A\in\mathrm{GL}_n(\mathbb{F}_{q^2})\mid A^*A=I_n\}$ で代表される(ユニタリ群 の注意「ほかの体と無限次元」)。

有理数体の上では符号だけでは決まらない

$L=\mathbb{Q}(i)$、$\bar a$ は複素共役、$L_0=\mathbb{Q}$、$N(a+bi)=a^2+b^2$ とする。$L^2$ 上で標準基底に関する行列が $\operatorname{diag}(1,1)$、$\operatorname{diag}(1,3)$ である Hermite 形式を $h_1$、$h_2$ とする。どちらも、$0$ でない $x$ で $h(x,x)$ が正の有理数になる。しかし判別式は $1$ と $3$ で、$3$ は $N(L^\times)$ に属さないので、prop-hf-matrix の 4 により $h_1$ と $h_2$ を移り合わせる基底の取り替えはない。

$3\notin N(L^\times)$ の確かめを開く

$3=(a^2+b^2)/c^2$($a,b,c$ は整数、$c\ge1$)と書けたとし、$c$ が最小のものをとる。$a^2+b^2=3c^2$ で、整数の平方を $3$ で割った余りは $0$ か $1$ なので、$a$、$b$ はどちらも $3$ の倍数である。すると $9\mid3c^2$ から $3\mid c$ となり、$(a/3,b/3,c/3)$ がより小さい解になって矛盾する。

仮定を外したときの反例

各行は定理の条件を 1 つだけ外す。

外す条件反例成り立たなくなること
共役対称性 $h(y,x)=\overline{h(x,y)}$(thm-hf-orthogonal-basis)$\mathbb{C}^2$ 上の半双線形形式 $s(x,y)=x_1\bar y_2$直交基底の存在
自己同型が恒等写像でないこと(thm-hf-orthogonal-basis)$L=\mathbb{F}_2$、$\bar a=a$、$h(x,y)=x_1y_2+x_2y_1$直交基底の存在
非退化(thm-hf-finite-field)$L=\mathbb{F}_4$、$L^2$ 上の $h(x,y)=x_1\bar y_1$正規直交基底の存在
体が有限体(thm-hf-finite-field)$L=\mathbb{C}$、行列 $\operatorname{diag}(1,-1)$ の形式正規直交基底の存在
$L=\mathbb{C}$(thm-hf-inertia の 3)$L=\mathbb{Q}(i)$、行列 $\operatorname{diag}(1,1)$ と $\operatorname{diag}(1,3)$ の形式符号が同じ非退化な形式は移り合う
反例の確かめ
各行の確かめを開く

1 行目:$s(x,x)=x_1\bar x_2$ は実数とは限らない。$v,w$ が $s(v,w)=v_1\bar w_2=0$ と $s(w,v)=w_1\bar v_2=0$ を満たすとする。$v_1=0$ なら $v=(0,v_2)$ で、$v\ne0$ なら $v_2\ne0$ なので $w_1=0$ となり、$v$ と $w$ は平行である。$v_1\ne0$ なら $w_2=0$ で、$w\ne0$ なら $w_1\ne0$ なので $v_2=0$ となり、やはり平行である。よって直交基底はない。

2 行目:$h$ は対称な双線形形式で、$h(x,x)=2x_1x_2=0$ がすべての $x$ で成り立つが、$h(e_1,e_2)=1$ なので $h\ne0$ である。直交基底があればその上の値はすべて $0$ なので行列は零行列になり、$h=0$ となって矛盾する。$\theta\ne\bar\theta$ となる $\theta$ がないので、prop-hf-polarization の 2 が使えない。

3 行目:階数が $1$ なので、prop-hf-matrix の 3 により、行列が $I_2$ になる基底はない。

4 行目:thm-hf-inertia の 1 により $n_-=1$ はどの直交基底でも同じなので、すべての値が $1$ になる直交基底はない。

5 行目:ex-hf-gaussian で確かめた。

補足

文献

半双線形形式、Hermite 形式と Hermite 行列の対応、Hermite 形式を保つ線形写像の行列による判定は Lan02 Chapter XIII §7(pp. 532–535、Proposition 7.6、Corollary 7.5)にある。Lang は $h(x,y)={}^tXG\bar Y$ と書き、行列の添字の約束がこの記事の $G$ の転置になっている。Lang の Chapter XV §1(p. 571)も同じ定義を述べ、§5(pp. 579–580)は $L_0$ が順序体で $L=L_0(\sqrt{-1})$ の場合に、直交基底の存在と正・負の個数の不変性(Theorem 5.1)、値が $\pm1$ の直交基底(Corollary 5.2。Lang はこれを orthonormal basis と呼ぶ)を述べ、証明は対称形式の場合と同じとして読者に任せている。

関連項目

参考文献

[1]
Serge Lang, Algebra, Revised 3rd ed.(Graduate Texts in Mathematics 211), Springer, 2002, Chapter XIII §7(pp. 532–535、Corollary 7.5・Proposition 7.6:半双線形形式・Hermite 形式と Hermite 行列、形式を保つ写像の行列)、Chapter XV §1(p. 571:Hermite 形式の定義)、§5(pp. 579–580、Theorem 5.1・Corollaries 5.2–5.3:直交基底と正・負の個数の不変性)

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