行列式(determinant)とは、$n$ 次正方行列 $A=(a_{ij})$ に対して Leibniz の公式 $\det A=\sum_{\sigma\in S_n}\operatorname{sgn}(\sigma)a_{1\sigma(1)}\cdots a_{n\sigma(n)}$ で定まるスカラーであり、実行列では列ベクトルが張る平行体の符号付き体積を表す。各行について線形かつ 2 つの行が等しければ $0$ という性質と $\det I=1$ で特徴づけられ、積の公式 $\det(AB)=\det A\det B$ が従う。余因子展開により計算でき、$A\operatorname{adj}A=(\det A)I$ から、$A$ が正則であることと $\det A\ne0$ が同値で、逆行列と連立 1 次方程式の解(Cramer の公式)が行列式で表される。
以下、$K$ は体とする。$n$ 次の対称群 $S_n$ は $\{1,\ldots,n\}$ の置換全体のなす群であり、各置換 $\sigma\in S_n$ にはその符号 $\operatorname{sgn}(\sigma)\in\{1,-1\}$ が定まる。符号は乗法的($\operatorname{sgn}(\sigma\tau)=\operatorname{sgn}(\sigma)\operatorname{sgn}(\tau)$)で、互換の符号は $-1$ であり、したがって $\operatorname{sgn}(\sigma^{-1})=\operatorname{sgn}(\sigma)$ である。可換環上へ移せる言明と、体の性質を必要とする言明の区別は補足で明記する。
本記事では、置換が互換の積に表せ、その表示に現れる互換の個数の偶奇性が表示によらないこと、およびその偶奇性から得られる符号の乗法性を外部入力とする。これらの証明は Lan02 Chapter XIII §4 Determinants にある。Lan02
$n$ 次正方行列 $A=(a_{ij})\in M_n(K)$ に対し、
$$
\det A:=\sum_{\sigma\in S_n}\operatorname{sgn}(\sigma)\,a_{1\sigma(1)}a_{2\sigma(2)}\cdots a_{n\sigma(n)}
$$
を $A$ の行列式(determinant)という。$|A|$ とも書き、$A$ の行ベクトルを $r_1,\ldots,r_n$ とするとき $\det(r_1,\ldots,r_n)$ とも書く。和は $n!$ 個の置換にわたり、各項は $A$ の各行から 1 つずつ、かつ各列から 1 つずつ選んだ $n$ 個の成分の積に符号を付けたものである。Lan02
$A\in M_n(K)$($n\ge2$)から第 $i$ 行と第 $j$ 列を取り除いて得られる $n-1$ 次正方行列を $M_{ij}$ と書き、$\det M_{ij}$ を $A$ の $(i,j)$ 小行列式という。
$$
C_{ij}:=(-1)^{i+j}\det M_{ij}
$$
を $A$ の $(i,j)$ 余因子(cofactor)といい、$(i,j)$ 成分が $C_{ji}$(添字が入れ替わることに注意)である $n$ 次正方行列
$$
\operatorname{adj}A:=(C_{ji})_{1\le i,j\le n}
$$
を $A$ の余因子行列(adjugate、古典随伴行列)という。HJ13
行列式は正方行列に 1 つのスカラーを対応させ、「行列が正則行列かどうか」を $\det A\ne0$ で判定する(thm-determinant-invertible)。実数の行列では、$|\det A|$ は $A$ の列ベクトルが張る平行体の体積($n=2$ なら平行四辺形の面積)であり、$\det A$ の符号は向きを保つか反転するかを表す。したがって $\det A=0$ は「平行体がつぶれている」、すなわち列ベクトルが同じ超平面に乗っている(線形独立でない)ことを意味する。
Leibniz の公式は計算には向かないが、行列式の性質を導くのに適している。実用上の計算は、行基本変形で三角行列に直す方法(ex-determinant-row-reduction)や余因子展開(thm-determinant-cofactor-expansion)による。理論上もっとも重要なのは、行列式が「各行について線形」かつ「2 つの行が等しければ $0$」という性質(多重線形性と交代性)で特徴づけられることであり(thm-determinant-characterization)、積の公式 $\det(AB)=\det A\det B$ はここから数行で導かれる。
$n=1$ のとき $\det(a)=a$ である。$n=2$ のとき $S_2$ は恒等置換と互換 $(1\,2)$ からなり、
$$
\det\begin{pmatrix}a & b\\ c & d\end{pmatrix}=ad-bc
$$
である。$n=3$ のとき $S_3$ の 6 個の置換に対応して
$$
\det\begin{pmatrix}a_{11} & a_{12} & a_{13}\\ a_{21} & a_{22} & a_{23}\\ a_{31} & a_{32} & a_{33}\end{pmatrix}
=a_{11}a_{22}a_{33}+a_{12}a_{23}a_{31}+a_{13}a_{21}a_{32}-a_{13}a_{22}a_{31}-a_{12}a_{21}a_{33}-a_{11}a_{23}a_{32}
$$
である(Sarrus の規則)。符号 $+$ の 3 項は恒等置換と 2 つの巡回置換(偶置換)、$-$ の 3 項は 3 つの互換(奇置換)に対応する。たとえば
$$
\det\begin{pmatrix}2 & -1 & 0\\ -1 & 2 & -1\\ 0 & -1 & 2\end{pmatrix}=8+0+0-0-2-2=4
$$
である。
上三角行列(対角成分より下がすべて $0$)や下三角行列の行列式は対角成分の積である(prop-determinant-triangular)。たとえば
$$
\det\begin{pmatrix}2 & 5 & -3\\ 0 & -1 & 7\\ 0 & 0 & 4\end{pmatrix}=2\cdot(-1)\cdot4=-8,\qquad \det I_n=1,\qquad \det(cI_n)=c^n
$$
である。とくに対角行列の行列式は対角成分の積であり、$\det O=0$ である。
平面の回転を表す行列と、$x$ 軸に関する鏡映を表す行列について
$$
\det\begin{pmatrix}\cos\theta & -\sin\theta\\ \sin\theta & \cos\theta\end{pmatrix}=\cos^2\theta+\sin^2\theta=1,\qquad
\det\begin{pmatrix}1 & 0\\ 0 & -1\end{pmatrix}=-1
$$
である。どちらも長さと面積を保つので行列式の絶対値は $1$ だが、回転は向きを保ち($+1$)、鏡映は向きを反転する($-1$)。一般に直交行列 $Q$($Q^{\top}Q=I$)は $\det Q=\pm1$ を満たす(thm-determinant-productとprop-determinant-transposeにより $(\det Q)^2=\det(Q^{\top}Q)=1$)。
thm-determinant-multilinearにより、ある行の定数倍を別の行に加えても行列式は変わらず、2 行を入れ替えると符号が変わり、1 つの行を $c$ 倍すると行列式は $c$ 倍になる。これを使って三角行列に直せば行列式が求まる。
$$
\det\begin{pmatrix}1 & 2 & 1\\ 2 & 4 & 3\\ 1 & 1 & 2\end{pmatrix}
=\det\begin{pmatrix}1 & 2 & 1\\ 0 & 0 & 1\\ 0 & -1 & 1\end{pmatrix}
=-\det\begin{pmatrix}1 & 2 & 1\\ 0 & -1 & 1\\ 0 & 0 & 1\end{pmatrix}
=-(1\cdot(-1)\cdot1)=1
$$
である(第 1 の等号は第 2 行から第 1 行の 2 倍、第 3 行から第 1 行を引いた。第 2 の等号は第 2 行と第 3 行を入れ替えた)。この方法の計算量は $n^3$ 程度であり、Leibniz の公式の $n!$ 項に比べてはるかに小さい。
$x_1,\ldots,x_n\in K$ に対し、$(i,j)$ 成分が $x_i^{\,j-1}$ である Vandermonde行列 の行列式は
$$
\det\begin{pmatrix}1 & x_1 & x_1^2 & \cdots & x_1^{n-1}\\ 1 & x_2 & x_2^2 & \cdots & x_2^{n-1}\\ \vdots & \vdots & \vdots & & \vdots\\ 1 & x_n & x_n^2 & \cdots & x_n^{n-1}\end{pmatrix}=\prod_{1\le i< j\le n}(x_j-x_i)
$$
である。$n=2$ では $x_2-x_1$、$n=3$ では Sarrus の規則により $x_2x_3^2+x_3x_1^2+x_1x_2^2-x_3x_2^2-x_2x_1^2-x_1x_3^2=(x_2-x_1)(x_3-x_1)(x_3-x_2)$ となる。一般の場合の証明(各行から前の行を引く操作と $n$ についての帰納法による)は Vandermonde行列 の記事および Lan02 Chapter XIII §4 に譲る。この行列式が $x_i$ たちが相異なるとき $0$ でないことは、多項式補間の一意性や、相異なる指数関数の線形独立性(線形独立 の記事の例「指数関数」)の根拠になる。
$\mathbb{R}^2$ のベクトル $u=(a,c)$、$v=(b,d)$ が張る平行四辺形の面積は $|ad-bc|$、すなわち $u,v$ を列に並べた行列の行列式の絶対値である。実際、$u$ と $v$ のなす角を $\theta$ とすると面積は $\|u\|\|v\||\sin\theta|$ であり、恒等式 $(ad-bc)^2+(ab+cd)^2=(a^2+c^2)(b^2+d^2)$ と $ab+cd=\langle u,v\rangle=\|u\|\|v\|\cos\theta$(標準内積)から $|ad-bc|=\|u\|\|v\|\sqrt{1-\cos^2\theta}=\|u\|\|v\||\sin\theta|$ が従う。$u,v$ が平行なら面積は $0$ で、行列式も $0$ である。この解釈は $n$ 次元の平行体の体積に一般化され、多変数の積分の変数変換における Jacobi行列 の行列式の意味を与える。
任意の $A\in M_n(K)$ について $\det A^{\top}=\det A$ が成り立つ。したがって、行について成り立つ行列式の性質はすべて列についても成り立つ。Lan02
$A^{\top}=(b_{ij})$、$b_{ij}=a_{ji}$ とおくと
$$
\det A^{\top}=\sum_{\sigma\in S_n}\operatorname{sgn}(\sigma)\,b_{1\sigma(1)}\cdots b_{n\sigma(n)}=\sum_{\sigma\in S_n}\operatorname{sgn}(\sigma)\,a_{\sigma(1)1}\cdots a_{\sigma(n)n}
$$
である。各項の積で、$\tau:=\sigma^{-1}$ とおいて因子を第 1 行、第 2 行、…の順に並べ替えると $a_{\sigma(1)1}\cdots a_{\sigma(n)n}=a_{1\tau(1)}\cdots a_{n\tau(n)}$ である($a_{ij}$ の因子は $i=\sigma(j)$、すなわち $j=\tau(i)$ のとき現れる)。$\sigma\mapsto\sigma^{-1}$ は $S_n$ の全単射で $\operatorname{sgn}(\sigma^{-1})=\operatorname{sgn}(\sigma)$ であるから
$$
\det A^{\top}=\sum_{\tau\in S_n}\operatorname{sgn}(\tau)\,a_{1\tau(1)}\cdots a_{n\tau(n)}=\det A
$$
である。$\square$
$A\in M_n(K)$ の行ベクトルを $r_1,\ldots,r_n$ とし、$\det A=\det(r_1,\ldots,r_n)$ と書く。
1 を示す。Leibniz の公式の各項 $\operatorname{sgn}(\sigma)a_{1\sigma(1)}\cdots a_{n\sigma(n)}$ は第 $i$ 行の成分をちょうど 1 つ($a_{i\sigma(i)}$)だけ因子に含む。第 $i$ 行を $ar_i+br_i'$ にすると各項は $a\cdot(r_i$ の項$)+b\cdot(r_i'$ の項$)$ に分かれ、$\sigma$ について足し合わせれば主張を得る。
2 を示す。$r_i=r_j$($i\ne j$)とし、互換 $\tau:=(i\,j)$ をとる。写像 $\sigma\mapsto\sigma\tau$ は $S_n$ の全単射で、$\sigma\tau\ne\sigma$ であり、$(\sigma\tau)\tau=\sigma$ である。したがって $S_n$ は $\{\sigma,\sigma\tau\}$ の形の 2 元集合に分割される。各対について、$\sigma\tau$ に対応する積は
$$
a_{1\sigma\tau(1)}\cdots a_{n\sigma\tau(n)}
$$
であり、$k\ne i,j$ では $\sigma\tau(k)=\sigma(k)$、$k=i$ では $a_{i\sigma\tau(i)}=a_{i\sigma(j)}=a_{j\sigma(j)}$($r_i=r_j$)、$k=j$ では $a_{j\sigma(i)}=a_{i\sigma(i)}$ であるから、この積は $\sigma$ に対応する積と等しい。一方 $\operatorname{sgn}(\sigma\tau)=-\operatorname{sgn}(\sigma)$ であるから、各対の 2 項は打ち消し合い、和は $0$ である。
3 を示す。$i\ne j$ とし、第 $i$ 行と第 $j$ 行に $r_i+r_j$ を置いた行列を考えると 2 により行列式は $0$ である。1 で展開すると
$$
0=\det(\ldots,r_i+r_j,\ldots,r_i+r_j,\ldots)=\det(\ldots,r_i,\ldots,r_i,\ldots)+\det(\ldots,r_i,\ldots,r_j,\ldots)+\det(\ldots,r_j,\ldots,r_i,\ldots)+\det(\ldots,r_j,\ldots,r_j,\ldots)
$$
であり、右辺の第 1 項と第 4 項は 2 により $0$ である。よって $\det(\ldots,r_j,\ldots,r_i,\ldots)=-\det(\ldots,r_i,\ldots,r_j,\ldots)$ である。
4 を示す。$i\ne j$、$c\in K$ について、1 と 2 により $\det(\ldots,r_i+cr_j,\ldots,r_j,\ldots)=\det(\ldots,r_i,\ldots,r_j,\ldots)+c\det(\ldots,r_j,\ldots,r_j,\ldots)=\det A$ である。
5 を示す。第 $i$ 行が $0=0\cdot r_i$ なら 1 により $\det A=0\cdot\det(\ldots,r_i,\ldots)=0$ である。$I_n=(\delta_{ij})$ については、$\sigma\ne\mathrm{id}$ なら $\sigma(k)\ne k$ となる $k$ があって $\delta_{k\sigma(k)}=0$ であるから、Leibniz の公式で残るのは $\sigma=\mathrm{id}$ の項 $1$ だけである。$\square$
2 の前半を示す。$n:=p+q$ とし、区分行列を $(m_{ij})$ と書く。$i>p$ かつ $j\le p$ なら $m_{ij}=0$ である。$\sigma\in S_n$ に対応する項 $\prod_im_{i\sigma(i)}$ が $0$ でないためには、すべての $i>p$ について $\sigma(i)>p$ が必要である。このとき $\sigma$ は $\{p+1,\ldots,n\}$ をそれ自身に単射に写すから全単射に写し、したがって $\{1,\ldots,p\}$ もそれ自身に全単射に写す。すなわち $\sigma$ は $\sigma_1\in S_p$ と $\sigma_2\in S_q$ の組 $(\sigma_1,\sigma_2)$ に対応し、この対応はそのような $\sigma$ の全体と $S_p\times S_q$ の間の全単射である。$\sigma$ の転倒数($i< j$ かつ $\sigma(i)>\sigma(j)$ となる組の個数)は、$\{1,\ldots,p\}$ 内の転倒と $\{p+1,\ldots,n\}$ 内の転倒の和である(前半の元は後半の元より小さい値に写るので、前半と後半にまたがる転倒はない)から、$\operatorname{sgn}(\sigma)=\operatorname{sgn}(\sigma_1)\operatorname{sgn}(\sigma_2)$ である。よって
$$
\det\begin{pmatrix}A & B\\ O & D\end{pmatrix}=\sum_{\sigma_1\in S_p}\sum_{\sigma_2\in S_q}\operatorname{sgn}(\sigma_1)\operatorname{sgn}(\sigma_2)\prod_{i=1}^{p}a_{i\sigma_1(i)}\prod_{k=1}^{q}d_{k\sigma_2(k)}=\det A\cdot\det D
$$
である。後半は転置をとって前半とprop-determinant-transposeを使えばよい。
1 を示す。上三角行列については、$n$ についての帰納法で、$A$ を第 1 行・第 1 列で $1\times1$ ブロック $(a_{11})$ と $(n-1)\times(n-1)$ ブロックに区分けすると左下ブロックが $O$ であるから、2 により $\det A=a_{11}\det A'$($A'$ は $A$ から第 1 行と第 1 列を除いた上三角行列)となり、帰納法の仮定から主張を得る。下三角行列は転置をとればよい。$\square$
写像 $D\colon M_n(K)\to K$ が、行列を行ベクトルの組 $(r_1,\ldots,r_n)$ とみて、各行について線形(多重線形)であり、2 つの行が等しいとき $0$ になる(交代的である)とする。このとき任意の $A\in M_n(K)$ について
$$
D(A)=\det A\cdot D(I_n)
$$
が成り立つ。とくに、多重線形かつ交代的で $D(I_n)=1$ を満たす写像は $\det$ に限る。Lan02
まず、$D$ が交代的なら 2 つの行を入れ替えると $D$ の値は $-1$ 倍になる。これはthm-determinant-multilinearの 3 の証明が多重線形性と交代性しか使っていないことから従う。
$e_1,\ldots,e_n$ を $K^n$ の標準基底(行ベクトル)とすると、$A$ の第 $i$ 行は $r_i=\sum_{j=1}^{n}a_{ij}e_j$ と書ける。各行について線形であることを第 1 行から順に使うと
$$
D(A)=D\Bigl(\sum_{j_1}a_{1j_1}e_{j_1},\ldots,\sum_{j_n}a_{nj_n}e_{j_n}\Bigr)=\sum_{j_1,\ldots,j_n=1}^{n}a_{1j_1}\cdots a_{nj_n}\,D(e_{j_1},\ldots,e_{j_n})
$$
である。添字の組 $(j_1,\ldots,j_n)$ に重複があれば $D(e_{j_1},\ldots,e_{j_n})$ は等しい 2 行をもつので交代性により $0$ である。重複がない組は $\{1,\ldots,n\}$ の置換 $\sigma$($j_i=\sigma(i)$)と 1 対 1 に対応するから
$$
D(A)=\sum_{\sigma\in S_n}a_{1\sigma(1)}\cdots a_{n\sigma(n)}\,D(e_{\sigma(1)},\ldots,e_{\sigma(n)})
$$
である。$\sigma$ を互換の積 $\sigma=\tau_1\cdots\tau_m$ に分解すると、$(e_{\sigma(1)},\ldots,e_{\sigma(n)})$ は $(e_1,\ldots,e_n)$ から行の入れ替えを $m$ 回行って得られるので、$D(e_{\sigma(1)},\ldots,e_{\sigma(n)})=(-1)^mD(e_1,\ldots,e_n)=\operatorname{sgn}(\sigma)D(I_n)$ である。よって $D(A)=\det A\cdot D(I_n)$ である。$\square$
$B$ を固定し、$D(A):=\det(AB)$ とおく。$AB$ の第 $i$ 行は $A$ の第 $i$ 行 $r_i$ を使って $r_iB$ と書ける(行列 の記事の命題「区分けした行列の積」)。$r_i\mapsto r_iB$ は線形であるから、$D$ は $A$ の各行について線形である(thm-determinant-multilinearの 1 を $AB$ に適用)。また $A$ の第 $i$ 行と第 $j$ 行が等しければ $AB$ の第 $i$ 行と第 $j$ 行も等しく、$D(A)=0$ である(同 2)。よって $D$ は多重線形かつ交代的であり、thm-determinant-characterizationにより $D(A)=\det A\cdot D(I_n)=\det A\cdot\det B$ である。
$A$ が正則なら $\det A\cdot\det(A^{-1})=\det(AA^{-1})=\det I_n=1$ であり、$\det(P^{-1}AP)=\det(P^{-1})\det A\det P=\det A$ である。$\square$
$A=(a_{ij})\in M_n(K)$($n\ge2$)と、その余因子 $C_{ij}$ について、任意の $i$ に対し第 $i$ 行に関する展開
$$
\det A=\sum_{j=1}^{n}a_{ij}C_{ij}
$$
が成り立ち、任意の $j$ に対し第 $j$ 列に関する展開
$$
\det A=\sum_{i=1}^{n}a_{ij}C_{ij}
$$
が成り立つ(Laplace 展開)。Lan02
第 $i$ 行 $r_i$ は標準基底(行ベクトル)を使って $r_i=\sum_ja_{ij}e_j$ と書ける。thm-determinant-multilinearの 1 により
$$
\det A=\sum_{j=1}^{n}a_{ij}\det A^{(i,j)}
$$
である。ここで $A^{(i,j)}$ は $A$ の第 $i$ 行を $e_j$ で置き換えた行列である。$\det A^{(i,j)}=(-1)^{i+j}\det M_{ij}$ を示せば第 $i$ 行に関する展開を得る。
$A^{(i,j)}$ の第 $i$ 行を、すぐ上の行と入れ替える操作を $i-1$ 回行って第 1 行に移す。他の行の相対的な順序は変わらず、thm-determinant-multilinearの 3 により行列式は $(-1)^{i-1}$ 倍になる。次に第 $j$ 列を、すぐ左の列と入れ替える操作を $j-1$ 回行って第 1 列に移す。prop-determinant-transposeにより列の入れ替えでも行列式は $-1$ 倍になるので、行列式は $(-1)^{j-1}$ 倍になる。得られた行列 $A'$ の第 1 行は $e_j$ の第 $j$ 成分を先頭に移したもの、すなわち $(1,0,\ldots,0)$ であり、第 1 行と第 1 列を除いた部分は、$A$ から第 $i$ 行と第 $j$ 列を除き、残りの行と列を元の順序で並べたもの、すなわち $M_{ij}$ である。したがって $A'$ は $1\times1$ ブロック $(1)$ と $M_{ij}$ を対角にもつ区分下三角行列であり、prop-determinant-triangularの 2 により $\det A'=1\cdot\det M_{ij}$ である。よって
$$
\det A^{(i,j)}=(-1)^{i-1}(-1)^{j-1}\det A'=(-1)^{i+j}\det M_{ij}
$$
である。
第 $j$ 列に関する展開は、$A^{\top}$ の第 $j$ 行に関する展開である。$A^{\top}$ の $(j,i)$ 小行列式は $M_{ij}$ の転置の行列式、すなわち $\det M_{ij}$ であるから、$A^{\top}$ の $(j,i)$ 余因子は $(-1)^{i+j}\det M_{ij}=C_{ij}$ であり、prop-determinant-transposeにより $\det A=\det A^{\top}=\sum_ia_{ij}C_{ij}$ である。$\square$
$A\in M_n(K)$($n\ge2$)について次が成り立つ。
1 を示す。$A\operatorname{adj}A$ の $(i,k)$ 成分は、$\operatorname{adj}A$ の $(j,k)$ 成分が $C_{kj}$ であることから
$$
\sum_{j=1}^{n}a_{ij}C_{kj}
$$
である。$i=k$ のとき、これは第 $i$ 行に関する余因子展開(thm-determinant-cofactor-expansion)そのものであり $\det A$ に等しい。$i\ne k$ のとき、$A$ の第 $k$ 行を第 $i$ 行 $r_i$ で置き換えた行列を $A'$ とする。$A'$ の $(k,j)$ 小行列式は第 $k$ 行を除いて作るので $A$ の $(k,j)$ 小行列式と一致し、余因子も $C_{kj}$ のままである。したがって上の和は $A'$ の第 $k$ 行に関する余因子展開 $\sum_ja'_{kj}C_{kj}=\det A'$ に等しい。$A'$ は第 $i$ 行と第 $k$ 行が等しいので、thm-determinant-multilinearの 2 により $\det A'=0$ である。よって $A\operatorname{adj}A=(\det A)I_n$ である。$\operatorname{adj}A\,A$ の $(i,k)$ 成分 $\sum_jC_{ji}a_{jk}$ についても、第 $i$ 列に関する余因子展開と、$A$ の第 $i$ 列を第 $k$ 列で置き換えた行列($i\ne k$ のとき 2 つの列が等しく行列式は $0$)を使って同様に示される。
2 は 1 の両辺に $(\det A)^{-1}$ を掛ければよい。$B:=(\det A)^{-1}\operatorname{adj}A$ が $AB=BA=I_n$ を満たす。
3 を示す。$A$ は正則であるから、$Ax=b$ なら $x=A^{-1}Ax=A^{-1}b$ であり、逆に $x:=A^{-1}b$ は $Ax=b$ を満たす。よって解はただ 1 つで、2 により $x=(\det A)^{-1}\operatorname{adj}A\,b$、すなわち
$$
x_j=\frac{1}{\det A}\sum_{i=1}^{n}C_{ij}b_i
$$
である。一方、$A_j(b)$ の第 $j$ 列に関する余因子展開を考えると、第 $j$ 列を除いて作る小行列式は $A$ のものと同じであるから $A_j(b)$ の $(i,j)$ 余因子は $C_{ij}$ であり、$\det A_j(b)=\sum_ib_iC_{ij}$ である。これを代入すれば公式を得る。$\square$
1 ならば 2。$\det A\cdot\det B=\det(AB)=\det I_n=1$(thm-determinant-product)であるから $\det A\ne0$ である。
2 ならば 1。$n\ge2$ ならthm-determinant-adjugateの 2 による。$n=1$ なら $A=(a)$、$a\ne0$ で $B=(a^{-1})$ がとれる。
1 ならば 6。thm-determinant-adjugateの 3 の証明と同じく、$x=A^{-1}b$ が唯一の解である。
6 ならば 5。$b=0$ の場合である($x=0$ は解であるから、それが唯一の解である)。
5 と 3 の同値。列ベクトルを $a_1,\ldots,a_n$ とすると $Ax=x_1a_1+\cdots+x_na_n$ であるから、$Ax=0$ の解が $x=0$ に限ることは、$a_1,\ldots,a_n$ の線形関係が自明なものに限ること、すなわち線形独立性である(線形独立 の記事の定理「線形独立性の同値条件」の 4)。
3 ならば 1。線形写像 $T_A\colon K^n\to K^n$、$x\mapsto Ax$ は $\ker T_A=\{0\}$(5)により単射であり、$\dim K^n=\dim K^n$ であるから次元定理(線形代数学 の記事の定理「次元定理」)により全単射である。逆写像 $T_A^{-1}$ は線形であり(線形写像 の記事の命題「合成と逆写像」)、行列 の記事の定理「行列と線形写像の対応」により $T_A^{-1}=T_B$ となる $B\in M_n(K)$ が存在する。同定理の 2 により $T_{AB}=T_A\circ T_B=\mathrm{id}=T_{I_n}$、$T_{BA}=T_B\circ T_A=T_{I_n}$ であり、$A\mapsto T_A$ が単射であるから $AB=BA=I_n$ である。
4 と 1 の同値。$A$ が正則なら $(A^{-1})^{\top}A^{\top}=(AA^{-1})^{\top}=I_n$、$A^{\top}(A^{-1})^{\top}=I_n$ により $A^{\top}$ も正則であり、逆も同様である。したがって 1 と 3 の同値を $A^{\top}$ に適用すれば、$A$ が正則であることと $A^{\top}$ の列ベクトル、すなわち $A$ の行ベクトルが線形独立であることは同値である。$\square$
本記事の定義、prop-determinant-transpose、thm-determinant-multilinear、prop-determinant-triangular、thm-determinant-characterization、thm-determinant-product、thm-determinant-cofactor-expansion、thm-determinant-adjugateの 1 は、成分が可換環 $R$(たとえば多項式環 $K[x]$)であっても、体の性質(非零元の可逆性)を使っていないので同じ証明で成り立つ。ただし、thm-determinant-invertible の 2 は可換環上では「$\det A\ne0$」ではなく「$\det A$ が $R$ の可逆元である」と置き換える必要がある。実際、thm-determinant-adjugateの 1 から、$A\in M_n(R)$ が $R$ 上正則であることと $\det A$ が可逆元であることは同値である(rem-determinant-counterexamplesの整数行列の例を参照)。一方、列・行の線形独立性や方程式の解に関する 3〜6 は、体上のベクトル空間の次元論を使う現在の証明をそのまま可換環上へ移すことはできない。この形の判定は、多項式環上の行列や加群の理論で用いられる。Lan02 Chapter XIII §4 を参照。
行列式の理論の骨格は、Leibniz の公式(定義)、多重線形性と交代性(thm-determinant-multilinear)、それらによる特徴づけ(thm-determinant-characterization)、積の公式(thm-determinant-product)、余因子展開と逆行列の公式(thm-determinant-cofactor-expansion、thm-determinant-adjugate)、正則性の判定(thm-determinant-invertible)からなる。定義の仕方は文献により異なり、Lan02 は本記事と同じく置換による公式を出発点とし、Axl15 は固有値の積として定義して同値性を後から示す。数値計算では余因子展開でなく行基本変形(LU分解)を用いる。行列の言葉での詳しい扱いは HJ13 Chapter 0 を参照。
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