Schur–Zassenhausの定理

同義語:Schur-Zassenhausの定理Schur–Zassenhaus theorem

概要

Schur–Zassenhausの定理(Schur–Zassenhaus theorem)とは、有限群 $G$ の正規部分群 $N$ の位数と指数 $[G:N]$ が互いに素なら、$G=NH$、$N\cap H=\{e\}$ を満たす部分群 $H$(補群)が存在し、$G$ が半直積 $N\rtimes H$ になるという定理である。さらに $N$ か $G/N$ の一方が可解なら補群はすべて共役であり、Feit–Thompson の定理と合わせると可解性の仮定は要らない。$N$ が可換な場合は剰余類の代表系の差を数えて存在と共役性を同時に示せ、一般の場合の存在は Frattini の論法と帰納法でこの場合に帰着する。正規な Sylow 部分群をもつ群の分解などに使われ、位数と指数が互いに素でなければ補群は存在するとは限らない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 正規部分群, 半直積, Sylowの定理, 可解群

Schur–Zassenhausの定理(Schur–Zassenhaus theorem)とは、有限群 $G$ の正規部分群 $N$ について、位数 $\lvert N\rvert$ と指数 $[G:N]$ が互いに素なら $N$ は補群 $H$($G=NH$、$N\cap H=\{e\}$ を満たす部分群)をもち、したがって $G$ は半直積 $N\rtimes H$ に分解する、という定理である。さらに $N$ か $G/N$ の少なくとも一方が可解群なら、補群はすべて互いに共役である。
有限群 $G$ が正規部分群 $N$ と剰余群 $G/N$ から「組み立てられる」仕方は一般には複雑で、$G$ が $N$ と $G/N$ の半直積になるとは限らない(巡回群 $\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$ は部分群 $\{0,2\}$ と剰余群 $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ の半直積でない)。この定理は、位数が互いに素という数の条件だけで、組み立てが必ず半直積になることを保証する。たとえば Sylow 部分群 $P$ が正規なら、$G$ は $P$ と位数が $p$ と素な部分群の半直積になる。
この記事では、まず $N$ が可換な場合を、剰余類の代表系の「差」を数える方法で扱い、存在と共役性を同時に示す。次に一般の場合の存在を、Frattini の論法と中心による帰納法で $N$ が可換な場合に帰着させる。共役性は、$N$ が可解な場合と $G/N$ が可解な場合をそれぞれ帰納法で示す。最後に、仮定を外すと結論が崩れる例を挙げる。

結果内容仮定
thm-sz-abelian補群が存在し、すべて $A$ の元で共役$N=A$ は可換
thm-sz-main の 1補群が存在する$\lvert N\rvert$ と $[G:N]$ が互いに素
thm-sz-main の 2補群はすべて共役さらに $N$ か $G/N$ が可解
prop-sz-count補群の個数は $[A:C_A(H)]$$N=A$ は可換

補群と定理の主張

以下、群の単位元を $e$ と書く。群 $G$ の部分群 $N$ について、部分群 $H$ が
$$ G=NH,\qquad N\cap H=\{e\} $$
を満たすとき、$H$ を $N$ の $G$ における補群(complement)という(半直積 の定義「補群と内部半直積」)。$N$ が正規部分群で補群 $H$ をもつなら、$G$ は $N$ と $H$ の内部半直積であり、$H$ は $N$ への共役作用 $\varphi_h(n)=hnh^{-1}$ によって $G\cong N\rtimes_\varphi H$ を与える(半直積 の定理「内部半直積の判定」)。このとき $H\cong G/N$ である。$N$ が補群をもつことは、標準射影 $G\to G/N$ が準同型の切断をもつこと、すなわち拡大 $\{e\}\to N\to G\to G/N\to\{e\}$ が分裂することと同値である(半直積 の定理「分裂の判定」)。
部分群 $H$ と $g\in G$ について $gHg^{-1}:=\{ghg^{-1}\mid h\in H\}$ を $H$ の共役という。$H$ が $N$ の補群なら、$gHg^{-1}$ も $N$ の補群である($N$ は正規なので $G=gGg^{-1}=N\,gHg^{-1}$、$N\cap gHg^{-1}=g(N\cap H)g^{-1}=\{e\}$)。

Schur–Zassenhausの定理

$G$ を有限群、$N$ を $G$ の正規部分群とし、$\lvert N\rvert$ と $[G:N]$ が互いに素であるとする。

  1. $N$ は $G$ において補群をもつ。したがって $G\cong N\rtimes(G/N)$ である。
  2. $N$ と $G/N$ の少なくとも一方が可解群なら、$N$ の補群はすべて $G$ の中で互いに共役である。
証明の所在と仮定

1 は節「補群の存在」、2 は節「補群の共役性」で証明する。どちらも $N$ が可換な場合(節「正規部分群が可換な場合」)に帰着させる。2 の可解性の仮定は、実際には不要である(節「可解性の仮定と Feit–Thompson の定理」)。

準備

次の 2 つの補題を何度も使う。

Dedekind の法則

群 $G$ の部分群 $A$、$B$、$C$ が $A\subset C$ を満たすとする。このとき $C\cap AB=A(C\cap B)$ である。

証明を開く

$A\subset C$、$C\cap B\subset C$ なので $A(C\cap B)\subset C$ であり、$A(C\cap B)\subset AB$ でもある。逆に $x=ab\in C$($a\in A$、$b\in B$)なら、$b=a^{-1}x\in C$ なので $b\in C\cap B$ であり、$x\in A(C\cap B)$ である。$\square$

ここで $AB$ は部分群とは限らない集合 $\{ab\mid a\in A,\ b\in B\}$ であり、補題は集合としての等式である。

位数による補群の判定

$G$ を有限群、$N$ を正規部分群とし、$\lvert N\rvert$ と $[G:N]$ が互いに素であるとする。$G$ の部分群 $H$ について、次は同値である。

  1. $H$ は $N$ の補群である。
  2. $\lvert H\rvert=[G:N]$ である。
証明を開く

$N$ は正規なので $NH$ は部分群で、$\lvert NH\rvert=\lvert N\rvert\lvert H\rvert/\lvert N\cap H\rvert$ である(準同型定理 の定理「第2同型定理」と Lagrangeの定理)。

1 ⇒ 2:$\lvert G\rvert=\lvert NH\rvert=\lvert N\rvert\lvert H\rvert$ なので $\lvert H\rvert=\lvert G\rvert/\lvert N\rvert=[G:N]$ である。

2 ⇒ 1:$\lvert N\cap H\rvert$ は $\lvert N\rvert$ と $\lvert H\rvert=[G:N]$ をともに割るので $1$ であり、$N\cap H=\{e\}$ である。すると $\lvert NH\rvert=\lvert N\rvert\,[G:N]=\lvert G\rvert$ なので $NH=G$ である。$\square$

この補題により、定理の 1 は「位数 $[G:N]$ の部分群が存在する」ことと同じである。互いに素という仮定がなければ、位数が $[G:N]$ でも補群とは限らない($\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$ の $N=\{0,2\}$ と $H=N$)。

正規部分群が可換な場合

この節では、$G$ を有限群、$A$ を $G$ の可換な正規部分群とし、$a:=\lvert A\rvert$ と $m:=[G:A]$ が互いに素であるとする。$A$ の演算は乗法で書く。$Q:=G/A$ を剰余類の集合とする($A$ は正規なので左剰余類と右剰余類は一致する)。

代表系とその差

$G$ の部分集合 $T$ で、各剰余類 $q\in Q$ とちょうど 1 点で交わるものを代表系(transversal)という。その全体を $\mathcal{T}$ と書き、$T\in\mathcal{T}$ と $q\in Q$ について $T\cap q$ のただ一つの元を $t_q$ と書く。
$S,T\in\mathcal{T}$ と $q\in Q$ について、$s_q$ と $t_q$ は同じ剰余類 $q=At_q$ に入るので $s_qt_q^{-1}\in A$ である。$A$ は可換なので、積の順序によらずに
$$ \delta(S,T):=\prod_{q\in Q}s_qt_q^{-1}\in A $$
が定まる。これを $S$ と $T$ の差と呼ぶ。

差の性質

$S,T,U\in\mathcal{T}$、$g\in G$、$b\in A$ とする。

  1. $\delta(S,T)\,\delta(T,U)=\delta(S,U)$、$\delta(S,S)=e$、$\delta(T,S)=\delta(S,T)^{-1}$ である。
  2. $gT:=\{gt\mid t\in T\}$ は代表系であり、$\delta(gS,gT)=g\,\delta(S,T)\,g^{-1}$ である。
  3. $\delta(bT,T)=b^{m}$ である。
証明を開く

1:$A$ は可換なので、積を並べ替えて $\prod_q s_qt_q^{-1}\cdot\prod_q t_qu_q^{-1}=\prod_q s_qu_q^{-1}$ である。残りの 2 つは $U=S$ や $S$ と $T$ の入れ替えから従う。

2:左から $g$ を掛ける写像は剰余類の集合 $Q$ の全単射 $q\mapsto gq$ を引き起こし、$gT$ は剰余類 $gq$ とちょうど 1 点 $gt_q$ で交わる。よって $gT$ は代表系で $(gT)_{gq}=gt_q$ であり、

$$\delta(gS,gT)=\prod_{q\in Q}(gs_q)(gt_q)^{-1}=\prod_{q\in Q}g\,s_qt_q^{-1}\,g^{-1}=g\,\delta(S,T)\,g^{-1}$$

である(共役 $x\mapsto gxg^{-1}$ は $A$ の自己同型なので積と交換する)。

3:$b\in A$ なので $bq=q$ であり、$(bT)_q=bt_q$ である。よって $\delta(bT,T)=\prod_q bt_qt_q^{-1}=b^{\lvert Q\rvert}=b^m$ である。$\square$

$\delta(S,T)=e$ のとき $S\approx T$ と書く。lem-sz-difference の 1 により $\approx$ は $\mathcal{T}$ 上の同値関係であり、その同値類の集合を $\Omega$、$T$ の類を $[T]$ と書く。2 により $S\approx T$ なら $gS\approx gT$ なので、$G$ は $g[T]:=[gT]$ によって $\Omega$ に作用する(群作用)。

可換な正規部分群は単純推移的に作用する

$A$ は $\Omega$ に単純推移的に作用する。すなわち、任意の $\omega,\omega'\in\Omega$ について $b\,\omega=\omega'$ となる $b\in A$ がただ一つある。とくに $\lvert\Omega\rvert=a$ である。

要点:$\gcd(a,m)=1$ なので $b\mapsto b^m$ は $A$ の全単射であり、$bT\approx S$ は $b^m=\delta(S,T)$ と同値になる。

証明を開く

写像 $A\to A$、$b\mapsto b^m$ は準同型である($A$ は可換)。$b^m=e$ なら $b$ の位数は $m$ と(Lagrangeの定理 により)$a$ をともに割るので $1$ であり、$b=e$ である。よってこの写像は単射で、$A$ は有限なので全単射である。

$\omega=[T]$、$\omega'=[S]$ とする。lem-sz-difference の 1 と 3 により

$$\delta(bT,S)=\delta(bT,T)\,\delta(T,S)=b^m\,\delta(S,T)^{-1}$$

である。したがって $bT\approx S$ は $b^m=\delta(S,T)$ と同値であり、そのような $b$ はちょうど一つある。$\square$

補群の存在と共役性

可換な正規部分群の補群

$G$ を有限群、$A$ を可換な正規部分群とし、$\lvert A\rvert$ と $[G:A]$ が互いに素であるとする。

  1. $\omega\in\Omega$ の安定化群 $G_\omega$ は $A$ の補群である。
  2. $A$ の補群は、ある $\omega\in\Omega$ の安定化群 $G_\omega$ に一致する。
  3. $A$ の補群は、すべて $A$ の元で互いに共役である。

1:lem-sz-regular により $A$ は $\Omega$ に推移的に作用するので、$g\in G$ について $g\,\omega=b\,\omega$ となる $b\in A$ がある。$b^{-1}g\in G_\omega$ なので $g\in A\,G_\omega$ であり、$G=A\,G_\omega$ である(Frattiniの論法 の命題「推移的な部分群による分解」と同じ議論)。$b\in A\cap G_\omega$ なら $b\,\omega=\omega=e\,\omega$ なので、一意性から $b=e$ である。よって $G_\omega$ は補群である。
2:$K$ を $A$ の補群とする。$k,k'\in K$ が同じ剰余類に入るなら $k^{-1}k'\in A\cap K=\{e\}$ なので、$K$ の元は相異なる剰余類に入る。$\lvert K\rvert=[G:A]$(lem-sz-order)なので、$K$ は代表系である。$k\in K$ について $kK=K$ なので $k[K]=[K]$ であり、$K\subset G_{[K]}$ である。一方、1 により $G_{[K]}$ も補群なので $\lvert G_{[K]}\rvert=[G:A]=\lvert K\rvert$ であり、$K=G_{[K]}$ である。
3:$K$、$L$ を補群とする。2 により $K=G_{[K]}$、$L=G_{[L]}$ である。lem-sz-regular により $[L]=b\,[K]$ となる $b\in A$ があり、安定化群は $G_{b\omega}=bG_\omega b^{-1}$ を満たすので、$L=bKb^{-1}$ である。$\square$

補群の共役性は、$G$ の元による共役と $N$ の元による共役で違いがない。実際、$H$ が補群で $g\in G$ なら $g=nh$($n\in N$、$h\in H$)と書けて $gHg^{-1}=nHn^{-1}$ である。thm-sz-abelian の証明は、共役に使う $A$ の元を、差 $\delta$ についての方程式 $b^m=\delta(S,T)$ の解として与えている。

補群の個数

thm-sz-abelian の仮定のもとで、$H$ を $A$ の補群とし、$C_A(H):=\{b\in A\mid bh=hb\ (h\in H)\}$ とする。このとき $A$ の補群の個数は $[A:C_A(H)]$ である。

証明を開く

thm-sz-abelian の 3 により、補群の全体は $\{bHb^{-1}\mid b\in A\}$ である。$b,b'\in A$ について $bHb^{-1}=b'Hb'^{-1}$ は、$c:=b^{-1}b'$ が $cHc^{-1}=H$ を満たすことと同値である。$c\in A$ が $H$ を正規化するとき、$h\in H$ について $chc^{-1}h^{-1}$ は $(chc^{-1})h^{-1}\in H$ であり、$c\,(hc^{-1}h^{-1})\in A$($A$ は正規)でもあるので、$H\cap A=\{e\}$ に入り、$ch=hc$ である。逆に $c\in C_A(H)$ なら $cHc^{-1}=H$ である。よって補群は剰余類 $bC_A(H)$ と 1 対 1 に対応し、その個数は $[A:C_A(H)]$ である。$\square$

補群の存在

中心による帰納法

$\lvert G\rvert$ についての帰納法で示す。$N=\{e\}$ なら $G$ 自身が補群である。$N\neq\{e\}$ とし、$\lvert N\rvert$ を割る素数 $p$ と、$N$ の Sylow $p$ 部分群 $P$ をとる。Frattiniの論法 の定理「Frattiniの論法」により、$L:=N_G(P)$ について $G=NL$ である。
$L\neq G$ の場合. $N_0:=N\cap L$ は $L$ の正規部分群である。準同型定理 の定理「第2同型定理」により $L/N_0\cong NL/N=G/N$ なので $[L:N_0]=[G:N]$ であり、$\lvert N_0\rvert$ は $\lvert N\rvert$ を割るので、$\lvert N_0\rvert$ と $[L:N_0]$ は互いに素である。$\lvert L\rvert<\lvert G\rvert$ なので、帰納法の仮定により $N_0$ は $L$ において補群 $K$ をもつ。$\lvert K\rvert=[L:N_0]=[G:N]$ なので、lem-sz-order により $K$ は $N$ の $G$ における補群である。
$L=G$ の場合. $P$ は $G$ の正規部分群である。$Z:=Z(P)$ を $P$ の中心とすると、$P\neq\{e\}$ は $p$ 群なので $Z\neq\{e\}$ である(群の中心 の定理「有限 $p$-群の中心は自明でない」)。$Z$ は $P$ の特性部分群で(特性部分群 の命題「中心は特性部分群」)、$P$ は $G$ の正規部分群なので、$Z$ は $G$ の正規部分群である(同じ記事の命題「特性性の推移性」の 2)。
$Z=N$ なら $N$ は可換であり、thm-sz-abelian の 1 により補群がある。$Z\neq N$ とする。$\bar G:=G/Z$、$\bar N:=N/Z$ とおくと、$\bar N$ は $\bar G$ の正規部分群で、$[\bar G:\bar N]=[G:N]$、$\lvert\bar N\rvert$ は $\lvert N\rvert$ を割る。$\lvert\bar G\rvert<\lvert G\rvert$ なので、帰納法の仮定により $\bar N$ は補群をもつ。準同型定理 の定理「対応定理」により、それは $Z$ を含む部分群 $K$ によって $K/Z$ と書ける。$\lvert K\rvert=[G:N]\,\lvert Z\rvert$ であり、$\lvert Z\rvert<\lvert N\rvert$ なので $\lvert K\rvert<\lvert G\rvert$ である。$Z$ は $K$ の正規部分群で、$\lvert Z\rvert$ は $\lvert N\rvert$ を割るので $[K:Z]=[G:N]$ と互いに素である。帰納法の仮定により $Z$ は $K$ において補群 $H$ をもち、$\lvert H\rvert=[K:Z]=[G:N]$ である。lem-sz-order により $H$ は $N$ の $G$ における補群である。$\square$

この帰納法の筋は DF04 §17.4 Theorem 39(p. 829)の証明による。同書は $N$ が可換な場合を $H^2(G/N,N)=0$ から導いている(節「補足」)。ここではそれを thm-sz-abelian で置き換えた。

補群の共役性

$N$ が可解な場合

交換子部分群による帰納法

$\lvert G\rvert$ についての帰納法で示す。$H$、$K$ を $N$ の補群とする。$N$ が可換なら thm-sz-abelian の 3 による。$N$ が可換でないとし、$N':=[N,N]$ を $N$ の交換子部分群とする(交換子部分群)。$N$ は可換でないので $N'\neq\{e\}$ であり、$N$ は可解なので $N'\neq N$ である(可解群 の定義「交換子部分群と導来列」)。$N'$ は $N$ の特性部分群なので(特性部分群 の命題「交換子部分群は特性部分群」)、同じ記事の命題「特性性の推移性」の 2 により $G$ の正規部分群である。
$\bar G:=G/N'$ で考える。$\bar N:=N/N'$ は可換な正規部分群で、$\lvert\bar N\rvert$ は $\lvert N\rvert$ を割り、$[\bar G:\bar N]=[G:N]$ である。$HN'/N'$ は位数 $\lvert H\rvert/\lvert H\cap N'\rvert=\lvert H\rvert=[\bar G:\bar N]$ の部分群なので、lem-sz-order により $\bar N$ の補群である。$KN'/N'$ も同じである。thm-sz-abelian の 3 により $\bar g\,(KN'/N')\,\bar g^{-1}=HN'/N'$ となる $\bar g=gN'$ があり、対応定理により $(gKg^{-1})N'=HN'$ である。
$M:=HN'$ とおく。$N'$ は $M$ の正規部分群で、$H$ と $gKg^{-1}$ はどちらも $M$ に含まれる位数 $\lvert H\rvert=[M:N']$ の部分群である。$\lvert N'\rvert$ は $\lvert N\rvert$ を割るので $[M:N']=[G:N]$ と互いに素であり、lem-sz-order により $H$ と $gKg^{-1}$ は $N'$ の $M$ における補群である。$N'$ は可解群の部分群なので可解であり(可解群 の命題「部分群と剰余群への遺伝」)、$\lvert M\rvert=\lvert H\rvert\lvert N'\rvert<\lvert H\rvert\lvert N\rvert=\lvert G\rvert$ である。帰納法の仮定により、$H$ と $gKg^{-1}$ は $M$ の中で共役であり、したがって $H$ と $K$ は $G$ の中で共役である。$\square$

$G/N$ が可解な場合

素数冪位数の正規部分群による帰納法

$\lvert G\rvert$ についての帰納法で示す。$H$、$K$ を $N$ の補群とする。$G=N$ なら $H=K=\{e\}$ である。$G\neq N$ とする。
素数冪位数の正規部分群をとる. $G/N$ は可解で $\{e\}$ でないので、その導来列の最後の $\{e\}$ でない項 $D$ は可換で、$G/N$ の特性部分群である(特性部分群 の命題「交換子部分群は特性部分群」と「特性性の推移性」の 1)。$\lvert D\rvert$ を割る素数 $q$ をとり、$D_q$ を可換群 $D$ の位数が $q$ の冪である元の全体とする。$D_q$ は $D$ の唯一の Sylow $q$ 部分群であり(Sylowの定理 の例「アーベル群の場合」)、位数が同じ部分群がほかにないので $D$ の特性部分群である(特性部分群 の補題「位数が同じ部分群がほかにない部分群」)。「特性性の推移性」の 1 により $D_q$ は $G/N$ の特性部分群であり、とくに正規部分群である(同じ記事の命題「特性部分群は正規部分群」)。対応定理により $D_q=M/N$ となる $G$ の正規部分群 $M\supset N$ があり、$[M:N]=q^k$($k\ge1$)である。$q$ は $[G:N]$ を割るので、$\lvert N\rvert$ を割らない。
$M$ の Sylow 部分群に合わせる. lem-sz-dedekind により $M=M\cap NH=N(M\cap H)$ であり、$N\cap(M\cap H)=\{e\}$ なので $\lvert M\cap H\rvert=[M:N]=q^k$ である。$\lvert M\rvert=\lvert N\rvert q^k$ で $q\nmid\lvert N\rvert$ なので、$M\cap H$ は $M$ の Sylow $q$ 部分群である。$M\cap K$ も同じである。Sylowの定理 の定理「Sylowの定理の主張」の 3 により $x(M\cap K)x^{-1}=M\cap H$ となる $x\in M$ がある。$K_1:=xKx^{-1}$ とおくと、$K_1$ は補群で、$M$ は正規なので $M\cap K_1=x(M\cap K)x^{-1}=M\cap H$ である。この群を $R$ とおく。$M$ は正規なので、$R$ は $H$ と $K_1$ の正規部分群であり、$H,K_1\subset L:=N_G(R)$ である。
$L\neq G$ の場合. $N\cap L$ は $L$ の正規部分群で、lem-sz-dedekind により $L=L\cap NH=(L\cap N)H$ である。$[L:N\cap L]=\lvert H\rvert=[G:N]$、$\lvert N\cap L\rvert$ は $\lvert N\rvert$ を割り、$L/(N\cap L)\cong H\cong G/N$ は可解である。$H$ と $K_1$ はどちらも位数 $[L:N\cap L]$ の部分群なので、lem-sz-order により $N\cap L$ の $L$ における補群である。帰納法の仮定により $H$ と $K_1$ は $L$ の中で共役であり、$H$ と $K$ は $G$ の中で共役である。
$L=G$ の場合. $R$ は $G$ の正規部分群で、$\lvert R\rvert=q^k>1$ である。$\bar G:=G/R$ で考える。$N\cap R\subset N\cap H=\{e\}$ なので $\bar N:=NR/R\cong N$ であり、$[\bar G:\bar N]=[G:NR]$ は $[G:N]$ を割るので $\lvert\bar N\rvert$ と互いに素である。$\bar G/\bar N\cong G/NR$ は $G/N$ の剰余群なので可解である。$H/R$ と $K_1/R$ は位数 $\lvert H\rvert/q^k=[G:N]/q^k=[\bar G:\bar N]$ の部分群なので、lem-sz-order により $\bar N$ の補群である。$\lvert\bar G\rvert<\lvert G\rvert$ なので、帰納法の仮定により $\bar g\,(K_1/R)\,\bar g^{-1}=H/R$ となる $\bar g=gR$ があり、$H$ と $K_1$ はどちらも $R$ を含むので、対応定理により $gK_1g^{-1}=H$ である。よって $H$ と $K$ は共役である。$\square$

可解性の仮定と Feit–Thompson の定理

$\lvert N\rvert$ と $[G:N]$ が互いに素なら、両方が偶数になることはないので、どちらかは奇数である。位数が奇数の有限群はすべて可解である(Feit–Thompsonの定理)から、$N$ と $G/N$ の一方は必ず可解であり、thm-sz-main の 2 の仮定は自動的に満たされる。こうして補群は可解性の仮定なしに共役になる(Feit–Thompsonの定理 の系「可解性の仮定のない共役性」)。Feit–Thompson の定理はこの記事では証明しない。Sol01 p. 320 によれば、仮定のない共役性はこの定理によって初めて得られ、2001 年の時点で初等的な証明は知られていなかった。

例

4 次交代群と位数 3 の部分群

$G=A_4$(交代群)と、その正規部分群 $V:=\{e,(1\,2)(3\,4),(1\,3)(2\,4),(1\,4)(2\,3)\}$(Klein四元群)を考える。$\lvert V\rvert=4$ と $[A_4:V]=3$ は互いに素で、$V$ は可換である。lem-sz-order により補群は位数 $3$ の部分群
$$ \langle(1\,2\,3)\rangle,\quad\langle(1\,2\,4)\rangle,\quad\langle(1\,3\,4)\rangle,\quad\langle(2\,3\,4)\rangle $$
であり、$A_4\cong V\rtimes\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}$ である。
thm-sz-abelian の 3 のとおり、これらは $V$ の元で共役である。たとえば $g=(1\,2)(3\,4)$ について $g(1\,2\,3)g^{-1}=(g(1)\,g(2)\,g(3))=(2\,1\,4)$ なので、$g\langle(1\,2\,3)\rangle g^{-1}=\langle(1\,2\,4)\rangle$ である。$(1\,2\,3)$ は $V$ の単位元以外のどの元とも可換でない(たとえば $(1\,2\,3)(1\,2)(3\,4)(1\,2\,3)^{-1}=(2\,3)(1\,4)$)ので $C_V(\langle(1\,2\,3)\rangle)=\{e\}$ であり、prop-sz-count の個数 $[V:\{e\}]=4$ は上の 4 個と一致する。

正規な Sylow 部分群

有限群 $G$ の Sylow $p$ 部分群 $P$ が正規なら、$\lvert P\rvert$ は $p$ の冪で $[G:P]$ は $p$ と素なので、$P$ は補群 $H$ をもち、$G\cong P\rtimes H$、$\lvert H\rvert=[G:P]$ である。$P$ は各商の位数が $p$ の正規部分群の列をもつので可解であり(p群 の定理「中心的な正規部分群の鎖」)、このような $H$ はすべて共役である。
たとえば $\mathbb{Z}/7\mathbb{Z}$ への作用 $x\mapsto2x$ は位数 $3$ の自己同型($2^3=8\equiv1\pmod7$)なので、半直積 $G=\mathbb{Z}/7\mathbb{Z}\rtimes\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}$ は位数 $21$ の可換でない群である。Sylow $7$ 部分群 $A=\mathbb{Z}/7\mathbb{Z}$ は正規で、補群は Sylow $3$ 部分群である。作用は自明でないので、$\mathbb{Z}/7\mathbb{Z}$ の元で生成元 $h$ と可換なのは $0$ だけであり($2x=x$ なら $x=0$)、$C_A(H)=\{0\}$ である。prop-sz-count により補群は $7$ 個あり、これは Sylow $3$ 部分群の個数 $n_3=7$ に一致する。
一方 $\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$ の部分群 $A=\{0,2,4\}$ では、補群 $\{0,3\}$ は $A$ と可換なので $C_A(H)=A$ であり、補群は $\{0,3\}$ ただ一つである。

反例:仮定を外すと崩れること

外す条件反例成り立たなくなること
$\lvert N\rvert$ と $[G:N]$ が互いに素(thm-sz-main の 1)$G=\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$、$N=\{0,2\}$補群が存在しない
$\lvert N\rvert$ と $[G:N]$ が互いに素(thm-sz-main の 2)$G=\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$、$N=\{(0,0),(1,0)\}$補群は存在するが、共役でない補群がある
$N$ が正規(thm-sz-main の 1)$G=A_5$、$N=\langle(1\,2\,3)\rangle$$G=NH$、$N\cap H=\{e\}$ を満たす部分群 $H$ がない
反例の確かめ
各行の確かめを開く

1 行目:$\lvert N\rvert=2=[G:N]$ である。補群は位数 $2$ で $N$ と交わらない部分群でなければならないが、$\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$ の位数 $2$ の部分群は $N$ だけである。位数 $8$ の四元数群の中心 $\{\pm1\}$ も同じ理由で補群をもたない(位数 $2$ の元は $-1$ だけなので、位数 $4$ の部分群はすべて $-1$ を含む)。

2 行目:$\lvert N\rvert=2=[G:N]$ である。$\{(0,0),(0,1)\}$ と $\{(0,0),(1,1)\}$ はどちらも $N$ と $(0,0)$ だけで交わり、$N$ との積は $G$ 全体なので補群である。$G$ は可換なので共役は恒等写像であり、異なる 2 つの部分群は共役でない。

3 行目:$\lvert N\rvert=3$ と $[A_5:N]=20$ は互いに素である。$H$ が条件を満たすなら $\lvert NH\rvert=\lvert N\rvert\lvert H\rvert$ なので $\lvert H\rvert=20$ である。$H$ の左剰余類 $3$ 個への左からの作用は準同型 $A_5\to S_3$ を与え、その核は $H$ に含まれる正規部分群である。$A_5$ は単純なので(交代群 の定理「交代群の単純性」)核は $\{e\}$ であり、$A_5$ が $S_3$ に埋め込まれることになるが、$60>6$ なので矛盾する。よって $H$ はない。$N$ は正規でない($g=(1\,4)(2\,5)\in A_5$ について $g(1\,2\,3)g^{-1}=(4\,5\,3)\notin N$)。

$N$ と $G/N$ がともに可解でない場合に共役性が崩れる例はない(節「可解性の仮定と Feit–Thompson の定理」)。$\lvert N\rvert$ と $[G:N]$ が互いに素という仮定のもとで、可解性は証明の道具として使っただけである。

補足

群のコホモロジーとの関係. 可換群 $A$ を $G/A$ 加群とみると、$G/A$ の $A$ による拡大の同値類は $H^2(G/A,A)$ の元と対応し、分裂する拡大は $0$ に対応する(DF04 §17.4 Theorem 36、p. 828)。$\lvert A\rvert$ と $\lvert G/A\rvert$ が互いに素なら $H^2(G/A,A)=0$ であり、拡大はすべて分裂する(同 Corollary 38、p. 828。群のコホモロジー の命題「有限群のコホモロジーは位数で消える」により $\lvert G/A\rvert$ は $H^2(G/A,A)$ を零化し、$A$ の各元は $\lvert A\rvert$ 倍で $0$ になるのでコサイクルの群も $\lvert A\rvert$ で零化される。互いに素な 2 数がともに $H^2(G/A,A)$ を零化することによる)。thm-sz-abelian の 1 は、この事実をコホモロジーを使わずに示したものである。
名前. DF04 §17.4 Theorem 39(p. 829)は 1 を Schur の定理と呼び、位数と指数が互いに素な部分群を Hall 部分群と呼んでいる。存在と、$N$ か $G/N$ が可解な場合の共役性をあわせた形は、Zassenhaus の 1937 年の教科書に述べられている(Sol01 p. 319)。
有限群論での位置. この定理により、正規 Hall 部分群をもつ有限群は、より小さい 2 つの群の半直積として調べられる。たとえば正規な Sylow 部分群をもつ群(ex-sz-normal-sylow)や、位数が $p$ と素で指数が $p$ の冪である正規部分群 $K$(正規 $p$ 補群)をもつ群は、$p$ 群と位数が $p$ と素な群の半直積に分かれる。後者では、Sylow $p$ 部分群が $K$ の補群になる(lem-sz-order)。

関連項目

参考文献

[1]
David S. Dummit and Richard M. Foote, Abstract Algebra, 3rd ed., Wiley, 2004, §17.4 Theorem 36・Corollary 38(p. 828:拡大と H^2、互いに素な位数の可換群による拡大の分裂)、Theorem 39(p. 829:Schur の定理と証明)
[2]
Ronald Solomon, A brief history of the classification of the finite simple groups, Bulletin of the American Mathematical Society (N.S.) 38 (2001), no. 3, 315–352, 2001, p. 319(Zassenhaus の教科書と Schur–Zassenhaus の定理の主張)、p. 320(可解性の仮定のない共役性と Feit–Thompson の定理)

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する