凸包(convex hull)とは、$\mathbb{R}^n$ の部分集合 $S$ を含む最小の凸集合のことで、$S$ の点の凸結合全体に等しく、Carathéodory の定理によりどの点も高々 $n+1$ 個の点の凸結合で書ける。コンパクト集合の凸包はコンパクトであり、閉凸包は $S$ を含む閉半空間すべての共通部分に等しい(点と閉凸集合の分離定理)。コンパクトな凸集合は端点全体の凸包に等しく(Minkowski の定理)、有限集合の凸包である凸多面体の頂点は元の集合の点で、ある点から最も遠い点はつねに頂点である。応用として、複素数係数の多項式の導関数の根は、元の多項式の根の凸包に含まれる(Gauss–Lucas の定理)。
平面に釘を何本か打ち、全体を輪ゴムで囲むと、輪ゴムは一番外側の釘に掛かって凸多角形を作る。この多角形(内部を含む)が釘の集合の 凸包 であり、輪ゴムが掛かる釘がその頂点である。凸包は、与えられた図形を含む最小の凸集合であり、「点の凸結合の全体」という内側からの記述と、「図形を含む半空間の共通部分」という外側からの記述の両方をもつ。
凸包の定義と、凸結合による記述・Carathéodory の定理は 凸集合 の記事にある。この記事では、凸包のもつ位相的な性質(コンパクト集合の凸包はコンパクト)、閉じた凸包を半空間で表す分離定理、コンパクトな凸集合が端点の凸包になるという Minkowski の定理、有限集合の凸包の頂点の見つけ方を証明し、応用として多項式の根と導関数の根の位置についての Gauss–Lucas の定理を示す。
以下、$\mathbb{R}^n$ は $n$ 次元 Euclid空間 で、内積を $a\cdot x$、長さを $\|x\|$ と書く。
$S\subset\mathbb{R}^n$ を含むすべての凸集合の共通部分を $S$ の 凸包(convex hull)といい、$\operatorname{conv}S$ と書く。$S$ を含むすべての閉凸集合の共通部分を $S$ の 閉凸包 といい、$\overline{\operatorname{conv}}\,S$ と書く。
凸包の定義は 凸集合 の記事の定義「凸包」と同じである。凸集合の共通部分は凸なので(同記事の命題「凸集合の共通部分」)、$\operatorname{conv}S$ は $S$ を含む最小の凸集合であり、同様に $\overline{\operatorname{conv}}\,S$ は $S$ を含む最小の閉凸集合である。凸集合の閉包は凸である(同記事の節「位相的な性質」)ので、$\overline{\operatorname{conv}}\,S$ は $\operatorname{conv}S$ の閉包に等しい。
凸包は内側から具体的に書ける。凸集合 の記事の定理「凸包と凸結合」により
$$
\operatorname{conv}S=\Bigl\{\sum_{i=1}^m\lambda_ix_i\Bigm|m\ge1,\ x_i\in S,\ \lambda_i\ge0,\ \sum_{i=1}^m\lambda_i=1\Bigr\}
$$
であり、同記事の定理「Carathéodoryの定理」により、ここで $m\le n+1$ に限ってよい。有限集合の凸包を 凸多面体(凸ポリトープ)という。
凸集合 $C$ の点 $x$ が、$C$ の 2 点を結ぶ線分の内部の点にならないとき、すなわち
$$
x=(1-t)y+tz,\quad y,z\in C,\quad 0< t< 1\ \Longrightarrow\ y=z=x
$$
が成り立つとき、$x$ を $C$ の 端点(extreme point)という。端点の全体を $\operatorname{ext}C$ と書く。凸多面体の端点を 頂点 という。
凸包を作る操作は、図形の「へこみ」を埋める操作である。三日月形の凸包は、2 つの角を結ぶ線分で弦の側を埋めた形になり、2 つの離れた円板の凸包は、2 本の共通外接線で両者をつないだ競技場のトラックの形になる。
凸包には 2 つの見方がある。内側から見れば、図形の点を重みつきで平均した点の全体である。外側から見れば、図形を片側に含む半平面(半空間)をすべて重ねた共通部分である。2 つの見方が一致すること(thm-ch-separation)が凸性の理論の中心にあり、線形計画法の双対性の源にもなっている。
端点は凸集合の「角」であり、凸集合を作るのに欠かせない点である。三角形の端点は 3 頂点、円板の端点は円周上のすべての点である。コンパクトな凸集合は端点だけから凸包として復元できる(thm-ch-minkowski)。
$\mathbb{R}^2$ の閉集合 $S=\{(x,0)\mid x\in\mathbb{R}\}\cup\{(0,1)\}$ の凸包は
$$
\operatorname{conv}S=\{(x,y)\mid 0\le y< 1\}\cup\{(0,1)\}
$$
であり、閉集合でない。実際、$0\le y< 1$ なら $(x,y)=y\,(0,1)+(1-y)\bigl(\frac{x}{1-y},0\bigr)$ は $S$ の 2 点の凸結合である。逆に $S$ の点の凸結合の第 2 座標は $(0,1)$ の係数 $\lambda$ に等しく、$\lambda=1$ なら点は $(0,1)$ そのものである。$(1,1)$ は凸包に属さないが、凸包の点 $(1,1-\frac1k)$ の極限である。この例は、thm-ch-compact の仮定「$S$ はコンパクト」を「$S$ は閉」に弱めると結論が成り立たなくなることを示している。$S$ が有界でないことが原因である。
$S\subset\mathbb{R}^n$ がコンパクトなら、$\operatorname{conv}S$ もコンパクトである。とくに $\operatorname{conv}S=\overline{\operatorname{conv}}\,S$ である。
$\Delta:=\{\lambda\in\mathbb{R}^{n+1}\mid\lambda_i\ge0,\ \sum_i\lambda_i=1\}$ は $\mathbb{R}^{n+1}$ の有界閉集合なのでコンパクトである(コンパクト空間 の記事の定理「有界閉集合とコンパクト性の一致」)。写像
$$
\Phi\colon S^{n+1}\times\Delta\to\mathbb{R}^n,\qquad\bigl((x_1,\dots,x_{n+1}),\lambda\bigr)\mapsto\sum_{i=1}^{n+1}\lambda_ix_i
$$
は連続であり、定義域はコンパクト集合の有限個の直積なのでコンパクトである。凸集合 の記事の定理「Carathéodoryの定理」により、$\operatorname{conv}S$ の点は $S$ の高々 $n+1$ 個の点の凸結合で書け、点を重複させて(または係数 $0$ の項を加えて)ちょうど $n+1$ 個の項の凸結合と思ってよいので、$\operatorname{conv}S=\Phi(S^{n+1}\times\Delta)$ である。コンパクト集合の連続写像による像はコンパクトなので、$\operatorname{conv}S$ はコンパクトであり、とくに閉集合である。閉凸集合 $\operatorname{conv}S$ は $S$ を含むので $\overline{\operatorname{conv}}\,S\subset\operatorname{conv}S$ で、逆の包含は定義から明らかである。$\square$
有界な $S$ については、閉包 $\overline S$ がコンパクトなので、$\overline{\operatorname{conv}}\,S=\operatorname{conv}\overline S$ が成り立つ。実際、$\operatorname{conv}\overline S$ は $S$ を含むコンパクトな凸集合なので $\overline{\operatorname{conv}}\,S$ を含み、逆に $\overline{\operatorname{conv}}\,S$ は $\overline S$ を含む閉凸集合なので $\operatorname{conv}\overline S$ を含む。開集合の凸包は開集合である。$x=\sum_i\lambda_ix_i$($x_i\in S$、$\lambda_1>0$)で、$x_1$ を中心とする半径 $r$ の開球が $S$ に含まれれば、$\|v\|< \lambda_1r$ のとき $x+v=\lambda_1\bigl(x_1+v/\lambda_1\bigr)+\sum_{i\ge2}\lambda_ix_i\in\operatorname{conv}S$ となるからである。
1 と 2 は BV04 §2.5.1 の Example 2.20 とその直後(p. 49)で述べられている。2 は、閉凸包が「$S$ を片側に含む超平面」だけで決まることを述べている。コンパクトな $S$ では thm-ch-compact と合わせて、凸包そのものが半空間の共通部分になる。
$C\subset\mathbb{R}^n$ を閉凸集合、$x_0$ を $C$ の境界の点($x_0\in C$ で、$x_0$ のどの近傍も $C$ の外の点を含む)とする。このとき $a\ne0$ で、すべての $x\in C$ について $a\cdot x\le a\cdot x_0$ となるものがある。
$C$ の外の点の列 $y_k\to x_0$ をとる。thm-ch-separation の 1 により $a_k\ne0$ で、すべての $x\in C$ について $a_k\cdot x< a_k\cdot y_k$ となるものがある。$a_k$ を $\|a_k\|$ で割って $\|a_k\|=1$ としてよい。単位球面はコンパクトなので、部分列をとって $a_k\to a$、$\|a\|=1$ としてよい。$x\in C$ を固定して $k\to\infty$ とすると $a\cdot x\le a\cdot x_0$ である。$\square$
超平面 $\{x\mid a\cdot x=a\cdot x_0\}$ を $x_0$ における $C$ の 支持超平面 という(BV04 §2.5.2、pp. 50–51)。
$K\subset\mathbb{R}^n$ をコンパクトな凸集合とする。このとき $K=\operatorname{conv}(\operatorname{ext}K)$ である。とくに $K$ が空でなければ端点をもつ。
$\operatorname{conv}(\operatorname{ext}K)\subset K$ は $K$ が凸であることから明らかなので、$K\subset\operatorname{conv}(\operatorname{ext}K)$ を $n$ についての帰納法で示す。$K=\emptyset$ なら明らかなので $K\ne\emptyset$ とする。$n=0$ なら $K$ は 1 点で、その点は端点である。
$n\ge1$ とし、$n-1$ 以下では正しいとする。$K$ が 1 点なら明らかなので、$K$ は 2 点以上を含むとする。$x\in K$ をとり、$x$ と $K$ の別の点を通る直線 $\ell$ を考える。$K\cap\ell$ は $\ell$ の上のコンパクトな凸集合で 2 点以上を含むので、端点 $y\ne z$ をもつ線分 $[y,z]$ であり、$x\in[y,z]$ である。$y\in\operatorname{conv}(\operatorname{ext}K)$ を示す($z$ も同様)。そうすれば $x\in\operatorname{conv}(\operatorname{ext}K)$ である。
段 1(支持超平面)。$\ell$ の上で $y$ を越えた点 $y+s(y-z)$($s>0$)は $K$ に属さず、$s\to0$ で $y$ に近づくので、$y$ は $K$ の境界の点である。lem-ch-support により $a\ne0$ で、すべての $w\in K$ について $a\cdot w\le a\cdot y$ となるものがある。$H:=\{w\mid a\cdot w=a\cdot y\}$、$F:=K\cap H$ とおく。
段 2(面の端点は $K$ の端点)。$e\in\operatorname{ext}F$ が $e=(1-t)u+tv$($u,v\in K$、$0< t< 1$)と書けたとする。$a\cdot u\le a\cdot y$、$a\cdot v\le a\cdot y$ で、$(1-t)a\cdot u+t\,a\cdot v=a\cdot e=a\cdot y$ なので、どちらも等号であり $u,v\in F$ である。$e$ は $F$ の端点なので $u=v=e$ である。よって $\operatorname{ext}F\subset\operatorname{ext}K$ である。
段 3(帰納法)。$H$ は方向が $(n-1)$ 次元の部分空間 $\{h\mid a\cdot h=0\}$ のアフィン部分空間である。その基底 $h_1,\dots,h_{n-1}$ をとり、$\phi(t):=y+\sum_it_ih_i$ とおくと、$\phi\colon\mathbb{R}^{n-1}\to H$ はアフィン写像で全単射であり、逆写像もアフィン写像である。$\phi$ と $\phi^{-1}$ は凸結合を保つので、$\phi^{-1}(F)$ は $\mathbb{R}^{n-1}$ のコンパクトな凸集合で、その端点は $\phi$ によって $\operatorname{ext}F$ の点にちょうど対応する。帰納法の仮定により $\phi^{-1}(F)=\operatorname{conv}\operatorname{ext}\phi^{-1}(F)$ であり、$\phi$ で移して $F=\operatorname{conv}(\operatorname{ext}F)$ を得る。$y\in F$ なので、段 2 により $y\in\operatorname{conv}(\operatorname{ext}F)\subset\operatorname{conv}(\operatorname{ext}K)$ である。$\square$
仮定を外すと結論が崩れる。各行は 1 つの条件だけを破る。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 有界 | 閉半平面 $\{(x,y)\mid y\ge0\}$ | 端点がない(どの点も水平な線分の内部の点)ので $\operatorname{conv}(\operatorname{ext}K)=\emptyset\ne K$ |
| 閉 | 開円板 $\{(x,y)\mid x^2+y^2< 1\}$ | 端点がない(どの点 $x$ も、$x$ を通る直径の上で両側に少しずつ動かせる)ので $\operatorname{conv}(\operatorname{ext}K)=\emptyset$ |
$S\subset\mathbb{R}^n$ を空でない有限集合とする。
2 から、空でない有限集合の凸包はつねに頂点をもち、頂点 $v$ を通る直線($n=2$ のとき)で、$S$ の他の点がすべてその一方の開いた側にあるものがとれる。平面の点の配置について「凸包の頂点をとると、他の点はすべて頂点を中心とする $180^\circ$ 未満の扇形に入る」という議論(ペニーグラフ など)は、これによって正当化される。実際、他の点は $a\cdot s< a\cdot v$ を満たす有限個の点なので、$v$ を頂点とし $180^\circ$ より小さい角の扇形にすべて収まる。
複素数平面 $\mathbb{C}$ を $\mathbb{R}^2$ と同一視すると、凸包は複素数の集合にも使える。
$p$ を次数 $1$ 以上の複素数係数の多項式とする。導関数 $p'$ の根はすべて、$p$ の根の全体の凸包に属する。
代数学の基本定理 により $p(z)=c\prod_{i=1}^d(z-a_i)$($c\ne0$、$a_i$ は重複を込めた根)と書ける。$p'(w)=0$ とする。$p(w)=0$ なら $w$ は $p$ の根なので凸包に属する。$p(w)\ne0$ なら、積の微分により
$$
0=\frac{p'(w)}{p(w)}=\sum_{i=1}^d\frac1{w-a_i}=\sum_{i=1}^d\frac{\overline{w}-\overline{a_i}}{|w-a_i|^2}
$$
である。複素共役をとり、$m_i:=|w-a_i|^{-2}>0$ とおくと $\sum_im_i(w-a_i)=0$、すなわち
$$
w=\sum_{i=1}^d\frac{m_i}{m_1+\cdots+m_d}\,a_i
$$
であり、係数は正で和が $1$ なので、$w$ は $p$ の根の凸結合である。$\square$
たとえば $p(z)=z^3-1$ の根は正三角形の頂点 $1,\omega,\omega^2$ であり、$p'(z)=3z^2$ の根 $0$ はその重心である。$p(z)=z^3-z$ の根 $-1,0,1$ の凸包は線分 $[-1,1]$ であり、$p'(z)=3z^2-1$ の根 $\pm1/\sqrt3$ はその中にある。実数係数で根がすべて実数の多項式では、凸包は最小の根と最大の根を結ぶ区間であり、定理は Rolle の定理からも分かる。
凸包を凸結合の全体として定義し、それが元の集合を含む最小の凸集合であることは BV04 §2.1.4(p. 24)、点と閉凸集合の分離と、閉凸集合が閉半空間の共通部分であることは同 §2.5.1 Example 2.20(p. 49)、支持超平面の定理は同 §2.5.2(pp. 50–51)にある。
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