有理点

同義語:rational point

概要

有理点(rational point)とは、体 $k$ 上のスキーム $X$ の点で剰余体が $k$ そのものであるもの、言い換えると $k$ 射 $\operatorname{Spec}k\to X$ のことであり、その全体を $X(k)$ と書く。方程式系で定まる $X$ では、$X(k)$ は係数と同じ体 $k$ の中の解の全体である。拡大体 $L$ に値をもつ点の集合 $X(L)$ を考えると、$X(\mathbb{Q})\subset X(\mathbb{R})$ や $X(\mathbb{Q})\subset X(\mathbb{Q}_p)$ から有理点の存在の局所的な障害が得られ、$L/k$ が Galois 拡大なら $X(k)$ は Galois 群の作用で動かない $L$ 値点の全体に一致する。有理点は閉点だが、閉点は有理点とは限らない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: スキーム, 体の拡大, Galois拡大

方程式 $x^2+y^2=1$ の有理数解 $(3/5,4/5)$、$x^2+y^2=3$ に有理数解がないこと、$y^2=x^3+1$ の有理数解が $(-1,0)$、$(0,\pm1)$、$(2,\pm3)$ だけであること。このような「係数と同じ体の中で連立方程式を解く」問題を、方程式の形によらずに扱うための言葉が有理点である。体 $k$ 上のスキーム $X$ の $k$ 有理点とは、剰余体が $k$ そのものである点、言い換えると $k$ 射 $\operatorname{Spec}k\to X$ のことであり、その全体を $X(k)$ と書く。
有理点の考え方の要点は、$k$ の拡大体 $L$ ごとに「$L$ に値をもつ点」の集合 $X(L)$ を考え、$L$ を動かして比べることにある。$\mathbb{Q}\subset\mathbb{R}$、$\mathbb{Q}\subset\mathbb{Q}_p$ から $X(\mathbb{Q})\subset X(\mathbb{R})$、$X(\mathbb{Q})\subset X(\mathbb{Q}_p)$ が得られ、実数や $p$ 進数で解けなければ有理数でも解けない。$L/k$ が Galois拡大なら、Galois 群が $X(L)$ に作用し、その固定点がちょうど $X(k)$ になる。有限体の上では、有理点の個数が合同ゼータ関数を定める。

定義

以下、$k$ は体、$X$ は $k$ 上のスキーム(構造射 $X\to\operatorname{Spec}k$ をもつスキーム)とする。点 $x\in X$ の剰余体を $\kappa(x)$ と書く。構造射から体の準同型 $k\to\kappa(x)$ が定まり、$\kappa(x)$ は $k$ の拡大体とみなせる。

有理点と値をもつ点
  1. 点 $x\in X$ が $k$ 有理点($k$-rational point)であるとは、$k\to\kappa(x)$ が同型であること、すなわち $\kappa(x)=k$ であることをいう。
  2. $k$ の拡大体 $K$ について、$k$ 射 $\operatorname{Spec}K\to X$ を $X$ の $K$ 値点($K$-valued point)といい、その全体を
    $$ X(K):=\operatorname{Hom}_k(\operatorname{Spec}K,X) $$
    と書く。$K=k$ のとき $X(k)$ を $X$ の有理点の集合という。

この定義は Vak25 7.3.10 の「体に値をもつ点」と同じである。「有理点」は基礎体 $k$ に対する言葉で、$\mathbb{Q}$ 上とは限らない。紛れを避けるために「$k$ 値点」「$k$ 点」ともいう(同所の注意)。
この 2 つの定義は、スキーム の命題「体からの射と点」によって結びつく。その命題によれば、射 $g\colon\operatorname{Spec}K\to X$ は、像の点 $x=g(\ast)$ と、茎の写像から誘導される体の準同型 $\iota\colon\kappa(x)\to K$ の組 $(x,\iota)$ と 1 対 1 に対応する(一般の局所環からの射についての同様の記述は Vak25 Exercise 7.3.M)。$k$ 射であることは $\iota$ が $k$ 準同型であることにあたるので、
$$ X(K)\;\cong\;\{(x,\iota)\mid x\in X,\ \iota\colon\kappa(x)\to K\text{ は }k\text{ 上の体の準同型}\} $$
である。とくに $K=k$ のとき、$k$ 準同型 $\kappa(x)\to k$ があるのは $\kappa(x)=k$ のときだけで、そのとき $\iota$ はただ 1 つなので、$X(k)$ は $k$ 有理点の全体と 1 対 1 に対応する(同命題の最後の主張)。この記事では両者を同一視する。
$K$ 値点は $K$ について関手的である。$k$ 上の体の準同型 $\alpha\colon K\to K'$ は射 $\operatorname{Spec}\alpha\colon\operatorname{Spec}K'\to\operatorname{Spec}K$ を定め、$g\mapsto g\circ\operatorname{Spec}\alpha$ により写像 $X(K)\to X(K')$ が得られる。組の言葉では $(x,\iota)\mapsto(x,\alpha\circ\iota)$ であり、$\alpha$ が単射なのでこの写像は単射である。また $k$ 射 $f\colon X\to Y$ は $g\mapsto f\circ g$ により写像 $X(K)\to Y(K)$ を定める。このように $X(K)$ は、$X$ の点関手(スキーム の定義「スキームの点関手」)を体に制限したものである。

方程式の解としての値をもつ点

$f_1,\dots,f_m\in k[x_1,\dots,x_n]$ とし、$X:=\operatorname{Spec}k[x_1,\dots,x_n]/(f_1,\dots,f_m)$ とする。$k$ の拡大体 $K$ について、$k$ 射 $g\colon\operatorname{Spec}K\to X$ に、$x_i$ の像の組 $(g^\sharp(x_1),\dots,g^\sharp(x_n))\in K^n$ を対応させる写像は全単射
$$ X(K)\xrightarrow{\ \sim\ }\{a\in K^n\mid f_1(a)=\dots=f_m(a)=0\} $$
である。$k$ 上の体の準同型 $\alpha\colon K\to K'$ が定める $X(K)\to X(K')$ は、右辺では座標ごとに $\alpha$ を施す写像 $a\mapsto(\alpha(a_1),\dots,\alpha(a_n))$ になる。

$A:=k[x_1,\dots,x_n]/(f_1,\dots,f_m)$ とおく。アフィンスキームへの射は大域切断の間の環準同型と 1 対 1 に対応し(スキーム の命題「アフィンスキームへの射と大域切断」)、$k$ 射には $k$ 代数の準同型が対応するので、$X(K)=\operatorname{Hom}_{k\text{-alg}}(A,K)$ である。多項式環の普遍性により、$k$ 代数の準同型 $k[x_1,\dots,x_n]\to K$ は $x_i$ の行き先 $a_i\in K$ を任意に指定してただ 1 つ定まり、$f\mapsto f(a)$ である。これが $A$ を経由する、すなわち $(f_1,\dots,f_m)$ を $0$ に送るのは、$f_1(a)=\dots=f_m(a)=0$ のとき、かつそのときに限る。以上で全単射が得られた。$\alpha$ との合成は $f(a)\mapsto\alpha(f(a))$、とくに $a_i\mapsto\alpha(a_i)$ である。$\square$

たとえば $X=\operatorname{Spec}\mathbb{Q}[x,y]/(x^2+y^2-1)$ なら、$X(\mathbb{Q})$ は単位円の有理点の全体、$X(\mathbb{R})$ は実数の点の全体、$X(\mathbb{C})$ は複素数の解の全体であり、包含 $X(\mathbb{Q})\subset X(\mathbb{R})\subset X(\mathbb{C})$ は解をそのまま大きい体の解とみる写像である。

有理点と閉点

有理点は点の一種だが、どの閉点も有理点というわけではない。

有理点は閉点である
  1. $k$ 上の任意のスキーム $X$ について、$k$ 有理点は閉点である。
  2. $X$ が $k$ 上局所有限型なら、点 $x\in X$ が閉点であるための必要十分条件は、$\kappa(x)$ が $k$ の有限次拡大であることである。とくに $k$ が代数閉体なら、閉点と $k$ 有理点は同じものである。

1.$x$ を $k$ 有理点とする。$x$ を含むアフィン開集合 $U\cong\operatorname{Spec}A$($A$ は $k$ 代数)をとり、$x$ に対応する素イデアルを $\mathfrak{p}$ とする。$k\to A/\mathfrak{p}\subset\kappa(x)=k$ の合成は恒等写像なので $A/\mathfrak{p}=k$ は体であり、$\mathfrak{p}$ は極大イデアル、すなわち $x$ は $U$ の閉点である。$x$ を含まないアフィン開集合 $U'$ については、$\overline{\{x\}}\cap U'$ に点 $y$ があれば、$y$ の開近傍 $U'$ は $x$ を含むはずなので矛盾し、$\overline{\{x\}}\cap U'=\emptyset$ である。アフィン開集合は $X$ を覆うので $\overline{\{x\}}=\{x\}$ である。
2.前半は 有限型射 の命題「体上局所有限型のスキームの閉点」の 1((a) と (c) の同値)である。$k$ が代数閉体なら、$k$ の有限次拡大は $k$ 自身だけなので、閉点の剰余体は $k$ であり、閉点は $k$ 有理点である。逆は 1 による。$\square$

$k$ が代数閉体でないと、有理点でない閉点がある。$\mathbb{A}^1_{\mathbb{R}}=\operatorname{Spec}\mathbb{R}[x]$ の点 $(x^2+1)$ は、極大イデアルなので閉点だが、剰余体は $\mathbb{R}[x]/(x^2+1)\cong\mathbb{C}$ で $\mathbb{R}$ 有理点ではない(スキーム の例「実数体上のアフィン直線の点」)。この点は $\mathbb{R}$ 上の方程式 $x^2+1=0$ の「解の組 $\{i,-i\}$」を 1 点にまとめたものとみられる(ex-rpt-galois-line)。また、値をもつ点の像は閉点とは限らない。$\mathbb{A}^1_k=\operatorname{Spec}k[x]$ の生成点 $(0)$ は閉点でなく、剰余体は $k(x)$ なので、包含 $k[x]\subset k(x)$ が定める $k(x)$ 値点の像になる。命題の 1 の証明は $K$ が $k$ の代数拡大のときも同じように通り($A/\mathfrak{p}$ が $k$ 上代数的な整域なので体になる)、そのとき $K$ 値点の像は閉点である。この例のように $K$ が $k$ 上超越的な元を含むと、像は閉点とは限らない。

直感

$k$ 上の方程式の「解」は、どの体の中で探すかによって姿を変える。$x^2+1=0$ は $\mathbb{R}$ に解をもたないが $\mathbb{C}$ には 2 つの解 $\pm i$ をもち、この 2 つは複素共役で入れかわる。スキーム $\operatorname{Spec}\mathbb{R}[x]/(x^2+1)$ は、この入れかわる 2 つの解をまとめて 1 点として記録している。体上有限型のスキームの閉点は、代数閉包の中の「解の Galois 共役類」と見ることができる。$k$ が完全体なら、$k$ 有理点は「共役がそれ自身だけの解」、すなわち $k$ の中にある解である。一般の体では、後述の Galois 不変点による判定には分離閉包上の点を使う。
有理点を調べる基本的な方法は 2 つある。1 つは体を大きくすることで、$X(k)$ を $X(\bar k)$ や $X(\mathbb{R})$、$X(\mathbb{Q}_p)$ の中で調べる。後者は「局所的な」制約を与え、たとえば $X(\mathbb{R})$ や $X(\mathbb{Q}_p)$ が空なら $X(\mathbb{Q})$ も空である。もう 1 つは Galois 群の作用で、$X(k)$ は、$k$ の Galois 拡大 $L$($k$ が完全体なら代数閉包 $\bar k$、一般には分離閉包)について、$X(L)$ の中の Galois 不変な点として特徴づけられる(thm-rpt-galois)。

例と反例

単位円の有理点

$k$ を標数が $2$ でない体、$X:=\operatorname{Spec}k[x,y]/(x^2+y^2-1)$ とする。$t\in k$ で $1+t^2\neq0$ のものに
$$ P(t):=\Bigl(\frac{1-t^2}{1+t^2},\ \frac{2t}{1+t^2}\Bigr) $$
を対応させる写像は、$\{t\in k\mid1+t^2\neq0\}$ から $X(k)\setminus\{(-1,0)\}$ への全単射で、逆写像は $(x,y)\mapsto y/(x+1)$(点 $(-1,0)$ を通る直線の傾き)である。$k=\mathbb{Q}$ の場合が ピタゴラス数と円の有理点 の定理「単位円の有理点の媒介変数表示」であり、その証明は体の四則演算と $x+1=2/(1+t^2)\neq0$ しか使わないので、そのまま一般の $k$ で通用する(スキームの言葉での同じ議論は Vak25 7.5 の円の例)。たとえば $t=1/2$ から $(3/5,4/5)$、$t=2/3$ から $(5/13,12/13)$ が得られる。
$k=\mathbb{F}_p$($p$ は奇素数)では、$1+t^2=0$ となる $t$ は $-1$ が $p$ を法とする平方剰余のとき 2 個、そうでないとき 0 個なので、平方剰余 の系「−1 が平方剰余となる素数」により
$$ \#X(\mathbb{F}_p)=\begin{cases}p-1&(p\equiv1\pmod4),\\p+1&(p\equiv3\pmod4)\end{cases} $$
である(点 $(-1,0)$ を 1 個加えた)。$p=3,5,7$ で $4,4,8$ 個であり、直接数えた個数と一致する。同じ円でも、有理点の個数は体によって変わる。

射影空間の値をもつ点

$k$ の拡大体 $K$ について、$\mathbb{P}^n_k(K)$ は $(K^{n+1}\setminus\{0\})/K^\times$、すなわち斉次座標 $[a_0:\cdots:a_n]$ の全体と 1 対 1 に対応する。$K=\mathbb{F}_q$ なら
$$ \#\mathbb{P}^n(\mathbb{F}_q)=\frac{q^{n+1}-1}{q-1}=1+q+\cdots+q^n $$
であり、$n=1,2$、$q=2,3$ で $3,4$ と $7,13$ である(合同ゼータ関数 の例「アフィン空間と射影空間」)。

対応の確かめ

$K$ 値点 $g\colon\operatorname{Spec}K\to\mathbb{P}^n_k$ の像はある $D_+(x_i)=\operatorname{Spec}k[x_0/x_i,\dots,x_n/x_i]$ に入り、prop-rpt-affine により $g$ は $a_j:=g^\sharp(x_j/x_i)\in K$($a_i=1$)で定まる。これに $[a_0:\cdots:a_n]$ を対応させる。像が $D_+(x_i)\cap D_+(x_l)$ にも入るなら $a_l\neq0$ で、$D_+(x_l)$ の座標では $g^\sharp(x_j/x_l)=a_j/a_l$ となり、同じ斉次座標を与える。逆に $[a_0:\cdots:a_n]$ の $a_i\neq0$ となる $i$ を選び、$a_j/a_i$ で $D_+(x_i)$ への $K$ 値点を作れば、これは $i$ の選び方によらない $K$ 値点を与え、2 つの対応は互いに逆である。

有限体上の楕円曲線の点の個数

$E\colon y^2=x^3-x$ に無限遠の点を 1 つ加えた射影曲線の $\mathbb{F}_p$ 有理点の個数は、$p=5,7,11,13$ でそれぞれ $8,8,12,8$ である($p=5$ の数え方は 楕円曲線 の例「有限体上の点の個数」)。どれも 楕円曲線 の定理「Hasse の定理」の評価 $\lvert\#E(\mathbb{F}_p)-p-1\rvert\le2\sqrt p$ をみたす($p=13$ では差が $6$、$2\sqrt{13}\approx7.21$)。拡大体 $\mathbb{F}_{p^m}$ での個数を並べた母関数が合同ゼータ関数であり、その性質が Weil予想 の主題である。

楕円曲線の有理点

$y^2=x^3+1$ の $\mathbb{Q}$ 有理点は、無限遠の点のほかに $(-1,0)$、$(0,\pm1)$、$(2,\pm3)$ の 5 個で、無限遠の点を単位元とする楕円曲線の群として位数 $6$ の巡回群をなす(楕円曲線 の例「曲線 $y^2=x^3+1$ と位数 $6$ の点」)。一般に、代数体($\mathbb{Q}$ の有限次拡大体)$K$ 上の楕円曲線の $K$ 有理点の群は有限生成アーベル群である(楕円曲線 の定理「Mordell–Weil の定理」)。有理点の集合が単なる集合ではなく群になる、という構造が、楕円曲線の数論の出発点である。

有理点をもつかどうかについて、成り立ちそうで成り立たない含意を並べる。確かめは表の下にある。

満たす性質反例成り立たない含意
空でない(閉点をもつ)$\mathbb{Q}$ 上の $x^2+y^2=-1$空でないスキームは有理点をもつ
$\mathbb{R}$ 値点をもつ$\mathbb{Q}$ 上の $x^2+y^2=3$$\mathbb{R}$ 値点をもてば $\mathbb{Q}$ 有理点をもつ
$\mathbb{R}$ とすべての $\mathbb{Q}_p$ に値をもつ点があるSelmer の曲線 $3x^3+4y^3+5z^3=0$局所的に点をもてば $\mathbb{Q}$ 有理点をもつ(Hasse 原理)
閉点である$\mathbb{A}^1_{\mathbb{R}}$ の点 $(x^2+1)$閉点は有理点である
反例:実数の点がない曲線

$X:=\operatorname{Spec}\mathbb{Q}[x,y]/(x^2+y^2+1)$ は空でない(たとえば $\mathbb{C}$ 値点 $(i,0)$ の像がある)が、$X(\mathbb{Q})=\emptyset$ である。実際、包含 $\mathbb{Q}\subset\mathbb{R}$ から単射 $X(\mathbb{Q})\to X(\mathbb{R})$ があり、$a^2+b^2+1>0$ なので $X(\mathbb{R})=\emptyset$ である(prop-rpt-affine)。

反例:実数の点はあるが 3 進数の点がない曲線

$X:=\operatorname{Spec}\mathbb{Q}[x,y]/(x^2+y^2-3)$ とする。$(\sqrt3,0)\in X(\mathbb{R})$ だが、$X(\mathbb{Q}_3)=\emptyset$($\mathbb{Q}_3$ は p進数体)であり、したがって単射 $X(\mathbb{Q})\to X(\mathbb{Q}_3)$ により $X(\mathbb{Q})=\emptyset$ である。
$X(\mathbb{Q}_3)=\emptyset$ を示す。$(a,b)\in\mathbb{Q}_3^2$ が $a^2+b^2=3$ をみたすとすると、$(a,b,1)$ は $a^2+b^2=3c^2$ の $0$ でない解である。$0$ でない解 $(a,b,c)$ に $3$ の冪を掛けて、$a,b,c\in\mathbb{Z}_3$ でどれかは $3$ で割り切れないようにできる。$\mathbb{Z}_3$ から $\mathbb{Z}_3/3\mathbb{Z}_3=\mathbb{F}_3$ への還元で $a^2+b^2\equiv0$ となるが、$\mathbb{F}_3$ の平方は $0,1$ だけなので $a\equiv b\equiv0$ である。すると $9\mid a^2+b^2=3c^2$ から $3\mid c^2$、$\mathbb{Z}_3$ は $3$ を素元とする離散付値環なので $3\mid c$ となり、どれかは $3$ で割り切れないことに反する。$\square$
$\mathbb{Q}$ 有理点がないことの初等的な証明(平方を 3 で割った余りによる)は ピタゴラス数と円の有理点 の例「反例:円 $x^2+y^2=3$ には有理点がない」にある。上の証明は同じ計算を $\mathbb{Q}_3$ の中で行ったもので、「$3$ 進数の中ですでに解けない」という局所的な理由を取り出している。

反例:局所的には点をもつが有理点をもたない曲線

Selmer の 3 次曲線 $3x^3+4y^3+5z^3=0\subset\mathbb{P}^2_{\mathbb{Q}}$ は、$\mathbb{R}$ とすべての素数 $p$ の $\mathbb{Q}_p$ に値をもつ点をもつが、$\mathbb{Q}$ 有理点をもたない(楕円曲線 の例「反例:有理点をもたない種数 $1$ の曲線」とその出典)。すべての局所体で点をもてば大域的にも点をもつという主張を Hasse 原理といい、この曲線はそれが成り立たない例である。$\lvert x\rvert,\lvert y\rvert,\lvert z\rvert\le20$ の整数を調べても $(0,0,0)$ 以外の解はない(反例の証明ではなく、数値による確認)。

性質

Galois 群の作用

$L/k$ を Galois拡大、$G:=\operatorname{Gal}(L/k)$ とする。$\sigma\in G$ は $k$ 上の体の自己同型 $\sigma\colon L\to L$ なので、上で述べた関手性により全単射 $X(L)\to X(L)$、組の言葉では $(x,\iota)\mapsto(x,\sigma\circ\iota)$ を定める。これを $\sigma\cdot(x,\iota):=(x,\sigma\circ\iota)$ と書くと、$\tau\cdot(\sigma\cdot(x,\iota))=(x,\tau\sigma\circ\iota)=(\tau\sigma)\cdot(x,\iota)$ なので、$G$ の $X(L)$ への作用である。アフィンの場合(prop-rpt-affine)には、解 $a\in L^n$ の座標ごとに $\sigma$ を施す作用 $a\mapsto(\sigma(a_1),\dots,\sigma(a_n))$ にほかならない。

有理点は Galois 不変な点

$X$ を $k$ 上のスキーム、$L/k$ を Galois 拡大、$G=\operatorname{Gal}(L/k)$ とする。

  1. 単射 $X(k)\to X(L)$ の像は、$G$ の作用の固定点の全体 $X(L)^G$ に一致する。すなわち $X(k)=X(L)^G$ である。
  2. $X(L)$ の $G$ 軌道は、$\kappa(x)$ から $L$ への $k$ 準同型が少なくとも 1 つ存在するような点 $x\in X$ と 1 対 1 に対応する。対応は $(x,\iota)$ の軌道に $x$ を対応させるものである。

1.$X(k)\to X(L)$ は、$k$ 有理点 $x$($\kappa(x)=k$)を組 $(x,\ k=\kappa(x)\subset L)$ に送る。包含 $\iota_0\colon k\subset L$ は $\sigma\circ\iota_0=\iota_0$($\sigma$ は $k$ の元を動かさない)をみたすので、像は固定点である。逆に $(x,\iota)$ が固定点、すなわちすべての $\sigma\in G$ で $\sigma\circ\iota=\iota$ とすると、$\iota(\kappa(x))$ の元は $G$ で動かないので $\iota(\kappa(x))\subset L^G$ である。Galois 拡大では $L^G=k$ である(有限次なら Galois拡大 の定理「有限次Galois拡大の特徴づけ」の条件 3、一般には Mil22 Proposition 7.9)。$\iota$ は $k$ 準同型なので $k\subset\kappa(x)$ を $k\subset L$ に写し、$\iota(\kappa(x))=k$ となる。$\iota$ は単射なので $\kappa(x)=k$、すなわち $x$ は $k$ 有理点で、$(x,\iota)$ はその像である。
2.作用は組の第 1 成分 $x$ を変えないので、軌道から $x$ への写像が定まり、その像は $\kappa(x)\to L$ の $k$ 準同型が存在する点の全体である。単射であることを示す。同じ $x$ をもつ 2 つの組 $(x,\iota_1)$、$(x,\iota_2)$ をとる。$E:=\iota_1(\kappa(x))\subset L$ は $k$ を含む部分体で、$\iota_2\circ\iota_1^{-1}\colon E\to L$ は $k$ 準同型である。Galois 拡大 $L/k$ では、中間体 $E$ からの $k$ 準同型 $E\to L$ は $L$ の $k$ 自己同型に延びる(Mil22 Proposition 7.4)。その延長を $\sigma\in G$ とすると $\sigma\circ\iota_1=\iota_2$ であり、2 つの組は同じ軌道にある。$\square$

2 の対応で、$x$ の上にある軌道の元の個数は、$\kappa(x)$ から $L$ への $k$ 準同型の個数である。$\kappa(x)/k$ が有限次分離拡大なら、それは拡大次数 $[\kappa(x):k]$ に等しい($L/k$ は正規なので、$L$ への埋め込みが 1 つあれば、$\kappa(x)$ の $k$ 上の埋め込みはすべて $L$ に入る)。

実数体上のアフィン直線と複素共役

$X=\mathbb{A}^1_{\mathbb{R}}=\operatorname{Spec}\mathbb{R}[x]$、$L=\mathbb{C}$、$G=\{1,c\}$($c$ は複素共役)とする。prop-rpt-affine により $X(\mathbb{C})=\mathbb{C}$ で、$c$ は $z\mapsto\bar z$ として作用する。固定点は $\mathbb{R}=X(\mathbb{R})$ であり(定理の 1)、$G$ 軌道は $\{a\}$($a\in\mathbb{R}$)と $\{z,\bar z\}$($z\notin\mathbb{R}$)である。前者は $\mathbb{R}$ 有理点 $(x-a)$ に、後者は閉点 $(x^2-2\operatorname{Re}(z)\,x+\lvert z\rvert^2)$(剰余体は $\mathbb{C}$、次数 $2$)に対応する(定理の 2)。たとえば $\{i,-i\}$ は点 $(x^2+1)$ に対応する。生成点 $(0)$ の剰余体 $\mathbb{R}(x)$ から $\mathbb{C}$ への $\mathbb{R}$ 準同型はないので、生成点はどの軌道にも対応しない。

有限体上の有理点と Frobenius

$k=\mathbb{F}_q$、$L=\mathbb{F}_{q^m}$ とすると、$G=\operatorname{Gal}(\mathbb{F}_{q^m}/\mathbb{F}_q)$ は $q$ 乗写像 $F\colon a\mapsto a^q$ で生成される位数 $m$ の巡回群であり、$X(\mathbb{F}_q)$ は $X(\mathbb{F}_{q^m})$ の中で $F$ の作用で動かない点の全体である。アフィンの場合、これは「座標をすべて $q$ 乗しても変わらない解」、すなわち座標が $\mathbb{F}_q$ に入る解のことである。

$\mathbb{F}_{q^m}/\mathbb{F}_q$ は Galois 拡大で、その Galois 群は $F$ で生成される位数 $m$ の巡回群である(有限体)。$G$ の固定点は生成元 $F$ の固定点と同じなので、thm-rpt-galois の 1 から従う。アフィンの場合の言い換えは、$a\in\mathbb{F}_{q^m}$ について $a^q=a$ と $a\in\mathbb{F}_q$ が同値であることによる。$\square$

合同ゼータ関数 の命題「Frobeniusの不動点としての有理点」は、この事実を代数閉包 $\bar{\mathbb{F}}_q$ の上で述べたものであり、有理点の個数を Frobenius の不動点の個数として数えることが、跡公式と Weil予想 への道である。

局所体と大域体

$\mathbb{Q}$ は $\mathbb{R}$ と各素数 $p$ の $\mathbb{Q}_p$ に埋め込まれるので、$\mathbb{Q}$ 上のスキーム $X$ について単射
$$ X(\mathbb{Q})\longrightarrow X(\mathbb{R})\times\prod_pX(\mathbb{Q}_p) $$
がある(各成分は関手性による単射)。右辺のどれかが空なら $X(\mathbb{Q})$ も空である(ex-rpt-no-real、ex-rpt-no-3-adic)。右辺がすべて空でないのに $X(\mathbb{Q})$ が空になりうるかが Hasse 原理の問題で、ex-rpt-selmer のように成り立たない場合がある。$\mathbb{R}$ や $\mathbb{Q}_p$ の点は、有限個の合同式や不等式で判定できることが多いので、局所的な障害は有理点をもたないことを示す実用的な道具である。

注意と他の概念との区別

有理点に関係する語を並べる。

語意味例($\mathbb{A}^1_{\mathbb{R}}=\operatorname{Spec}\mathbb{R}[x]$)
$k$ 有理点剰余体が $k$ の点、$k$ 射 $\operatorname{Spec}k\to X$$(x-a)$、$a\in\mathbb{R}$
閉点1 点集合が閉集合である点$(x-a)$ と $(x^2+bx+c)$($b^2<4c$)
$K$ 値点$k$ 射 $\operatorname{Spec}K\to X$。点と剰余体の埋め込みの組$\mathbb{C}$ 値点は $z\in\mathbb{C}$。$z$ と $\bar z$ は同じ点に写る
生成点1 点の閉包が既約成分全体になる点$(0)$、剰余体 $\mathbb{R}(x)$
  • $X(K)$ から $X$ への写像 $(x,\iota)\mapsto x$ は単射とは限らない。$K$ 値点は「点」よりも細かい情報(剰余体の埋め込み)をもつ。
  • 「有理点」という言葉は基礎体 $k$ に依存する。$\mathbb{A}^1_{\mathbb{R}}$ の閉点 $(x^2+1)$ は $\mathbb{R}$ 有理点でないが、$\mathbb{C}$ 上局所有限型のスキームの閉点はすべて $\mathbb{C}$ 有理点である(prop-rpt-closed の 2)。
  • 数論幾何学では、$k$ が代数体や局所体のときの $X(k)$ の構造(空か、有限か、群になるか、どれくらい多いか)が主要な問題である。たとえば代数体上の楕円曲線では $X(k)$ が有限生成アーベル群になる。

関連項目

参考文献

[1]
Ravi Vakil, The Rising Sea: Foundations of Algebraic Geometry, Princeton University Press, 2025, Exercise 7.3.M と 7.3.10 Definition(体に値をもつ点と点関手、「有理点」という語についての注意)、7.5 の円の有理点の例
[2]
J. S. Milne, Fields and Galois Theory, Kea Books, 2022, Chapter 7 Infinite Galois Extensions の Proposition 7.4(中間体からの準同型の自己同型への延長)と Proposition 7.9(Galois 群の固定体は基礎体)

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