最高位の数字とBenfordの法則

同義語:leading digits and Benford's lawBenfordの法則Benford's lawベンフォードの法則

概要

最高位の数字とBenfordの法則(leading digits and Benford's law)とは、数の最高位の数字が $d$ になる割合が $\log_{10}\bigl(1+\frac1d\bigr)$($1$ なら約 $30\%$、$9$ なら約 $5\%$)に近いという Benford の法則と、それが成り立つ条件のことである。法則は常用対数の小数部分が $[0,1)$ に一様に散らばることと同じで、$a^n$ の列については、$\log_{10}a$ が無理数であることが法則に従うための必要十分条件になる。その証明の中心は、無理数 $\alpha$ の倍数の小数部分が一様に分布するという定理である。現実のデータについては経験則であり、成り立たないデータもある。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 常用対数と桁数, 数列の極限, 鳩の巣原理

高校での出発点:$1$ で始まる数はなぜ多いか

$2$ の累乗 $2,4,8,16,32,64,128,256,512,1024,\dots$ の最高位の数字(いちばん上の位の数字)を並べると、$2,4,8,1,3,6,1,2,5,1,\dots$ となり、$1$ がよく現れる。常用対数と桁数 では、$\log_{10}2^n$ の小数部分を見ると最高位の数字が分かることを示し、$2^n$ で最高位が $d$ になる割合が $\log_{10}\bigl(1+\frac1d\bigr)$ に近づくことを、一様分布の定理を引用して導いた。

$2^n$ の最高位の数字を数える

$n=1,2,\dots,100$ の $2^n$ の最高位の数字の個数は、次のとおりである。下の行は $100\log_{10}\bigl(1+\frac1d\bigr)$ である。

$d$123456789
個数3017131077655
$100\log_{10}(1+1/d)$30.117.612.59.77.96.75.85.14.6

$1$ で始まるものが約 $30\%$、$9$ は約 $5\%$ で、9 つの数字が同じ割合(約 $11\%$)で現れるのとは違う。

統計のデータの最高位の数字

同じ偏りは、統計の表の数にも見られることがある。Dur19 Example 6.2.7 の表によると、3259 の郡の人口では、最高位が $1,2,3,4,5$ のものの割合(%)はそれぞれ $33.9,\ 20.4,\ 14.2,\ 8.1,\ 7.2$、335 の川の面積では $31.0,\ 16.4,\ 10.7,\ 11.3,\ 7.2$ である。$100\log_{10}\bigl(1+\frac1d\bigr)$ の値 $30.1,\ 17.6,\ 12.5,\ 9.7,\ 7.9$ と、ぴったりではないが形がよく似ている。

最高位が $d$ になる割合が $\log_{10}\bigl(1+\frac1d\bigr)$ に近いという現象を Benford の法則 という。名前は Benford(1938 年)によるが、それより前に天文学者 Newcomb(1881 年)が気づいていた(Dur19 p. 339、GS06 p. 196)。
ここには 2 種類の主張が混ざっている。ex-bfl-powers-of-two のような数列については、Benford の法則は 定理 として証明できる。一方、ex-bfl-data のような現実のデータについては、法則は 経験則 であり、成り立たないデータもいくらでもある。この記事では、この 2 つを分けて、次の問いに答える。

  1. 「数列が Benford の法則に従う」とは、正確にはどういうことか。→ def-bfl-benford
  2. $\{n\alpha\}$ が $[0,1)$ に一様に散らばること(一様分布の定理)は、どう証明するか。→ thm-bfl-weyl
  3. $a^n$ が Benford の法則に従うのは、どんな $a$ のときか。→ thm-bfl-powers
  4. 単位を変えても(すべてを $c$ 倍しても)法則が保たれるのはなぜか。→ thm-bfl-scale
  5. 現実のデータについて、何が言えて何が言えないか。→ rem-bfl-empirical、ex-bfl-narrow
    高校の計算この記事のボックス大学の言葉
    $\log_{10}N$ の小数部分で最高位が決まるlem-bfl-mantissa仮数、円周 $\mathbb{R}/\mathbb{Z}$
    $2^{10}=1024\approx10^3$ で小数部分が少しずつずれるprf-thm-bfl-weyl無理数回転、Weyl の一様分布定理
    単位を cm から m に変えるthm-bfl-scale平行移動で不変な分布(Haar 測度)

仮数と Benford の法則の定義

仮数と最高位の数字

正の実数 $x$ を $x=m\times10^k$($1\le m<10$、$k$ は整数)と書いたときの $m$ を、$x$ の 仮数 といい $S(x)$ と書く。$S(x)$ の整数部分 $\lfloor S(x)\rfloor\in\{1,2,\dots,9\}$ を $x$ の 最高位の数字 という。

たとえば $S(2^{10})=S(1024)=1.024$ で、最高位の数字は $1$ である。$S(0.0372)=3.72$ で、最高位の数字は $3$ である。$x$ が正の整数なら、最高位の数字は 10 進法のいちばん上の位の数字と一致する(常用対数と桁数 の定理「最高位の数字」)。$y$ の小数部分を $\{y\}=y-\lfloor y\rfloor$ と書く。

仮数は常用対数の小数部分で決まる

正の実数 $x$ について $S(x)=10^{\{\log_{10}x\}}$ である。したがって $1\le s< t\le10$ のとき
$$ s\le S(x)< t\iff\log_{10}s\le\{\log_{10}x\}<\log_{10}t $$
である。

指数表示をつくる

$y=\log_{10}x$、$k=\lfloor y\rfloor$、$m=10^{\{y\}}$ とおく。$y=k+\{y\}$ なので $x=10^y=m\times10^k$ である。$0\le\{y\}<1$ と $10^u$ が増加関数であることから $1\le m<10$ なので、これは def-bfl-mantissa の書き方であり、$S(x)=m$ である($m\times10^k=m'\times10^{k'}$、$1\le m,m'<10$ なら、桁を比べて $k=k'$、$m=m'$ となる)。後半は、$s\le10^{\{y\}}< t$ の各辺の常用対数をとればよい($\log_{10}$ は増加関数である)。$\square$

Benford の法則に従う数列

正の実数の列 $x_1,x_2,x_3,\dots$ が Benford の法則に従う とは、$1\le s< t\le10$ を満たすすべての $s,t$ について
$$ \lim_{N\to\infty}\frac{\#\{\,n\ :\ 1\le n\le N,\ s\le S(x_n)< t\,\}}N=\log_{10}t-\log_{10}s $$
が成り立つことをいう。ここで $\#$ は個数を表す。とくに $s=d$、$t=d+1$ とすると、最高位の数字が $d$ になる割合は $\log_{10}(d+1)-\log_{10}d=\log_{10}\bigl(1+\frac1d\bigr)$ に近づく。

9 つの割合 $\log_{10}\bigl(1+\frac1d\bigr)$ の和は $\log_{10}10=1$ である。lem-bfl-mantissa により、def-bfl-benford の条件は「$\{\log_{10}x_n\}$ が区間 $[\log_{10}s,\log_{10}t)$ に入る割合が、その区間の長さに近づく」と言いかえられる。つまり Benford の法則とは、常用対数の小数部分が $[0,1)$ に一様に散らばること である。

一様分布の定理

$x_n=a^n$ なら $\log_{10}x_n=n\log_{10}a$ である。そこで、無理数 $\alpha$ の倍数の小数部分 $\{\alpha\},\{2\alpha\},\{3\alpha\},\dots$ が $[0,1)$ にどう散らばるかを調べる。

一様分布の定理

$\alpha$ を無理数とし、$0\le\xi<\eta\le1$ とする。$A_N=\#\{\,n\ :\ 1\le n\le N,\ \xi\le\{n\alpha\}<\eta\,\}$ とおくと
$$ \lim_{N\to\infty}\frac{A_N}N=\eta-\xi $$
である。

定理の名前と証明の道具

この定理は Weyl の一様分布定理と呼ばれる(Dur19 Example 6.2.5 と Theorem 6.2.6)。ここでは鳩の巣原理と数列の極限だけを使って証明する(prf-thm-bfl-weyl)。考え方は図 1 で見られる。一般の数列の一様分布は 一様分布(mod 1) で扱う。

n = 1, …, 100 について n log₁₀2 の小数部分を横軸、n を縦軸にとった図。n を 10 で割った余りごとに色を分けると、同じ色の点は n が 10 増えるごとに 0.0103… ずつ右へ進む n = 1, …, 100 について n log₁₀2 の小数部分を横軸、n を縦軸にとった図。n を 10 で割った余りごとに色を分けると、同じ色の点は n が 10 増えるごとに 0.0103… ずつ右へ進む

$\alpha=\log_{10}2$ で $10$ 個ずつ飛ぶ

$10\log_{10}2=3.0103\ldots$ なので、$10\alpha$ は整数 $3$ に近く、差は $\delta=0.0103\ldots$ である。すると $(n+10)\alpha=n\alpha+3+\delta$ から $\{(n+10)\alpha\}$ は $\{n\alpha\}$ を $\delta$ だけ右へずらしたもの($1$ を超えたら $1$ を引く)になる。図 1 で同じ色の点が少しずつ右へ進むのはこのためである。$n$ を $10$ で割った余りで 10 本の列に分けると、各列は $[0,1)$ の上を幅 $\delta$ の小さな歩幅で進み、どの区間にも「長さ ÷ 歩幅」くらいの個数ずつ落ちる。

小さな歩幅で進む列に分けて数える

方針:段 1 で、$q\alpha$ が整数にとても近くなる $q$ を鳩の巣原理で見つける。段 2 で、歩幅 $\delta$ で進む $L$ 個の数のうち区間に入るものの個数を上下から評価する。段 3 で、$1,\dots,N$ を $q$ で割った余りごとに分けて段 2 を使い、段 4 で極限をとる。$\lambda=\eta-\xi$ とおく。
段 1($q\alpha$ が整数に近い $q$)。$M\ge4$ を整数とする。$M+1$ 個の数 $\{0\alpha\},\{1\alpha\},\dots,\{M\alpha\}$ は $[0,1)$ に入る。$[0,1)$ を長さ $\frac1M$ の $M$ 個の区間 $\bigl[\frac hM,\frac{h+1}M\bigr)$($h=0,1,\dots,M-1$)に分けると、鳩の巣原理 により、ある 2 つ $\{i_1\alpha\}$、$\{i_2\alpha\}$($i_1< i_2$)が同じ区間に入る。$q=i_2-i_1$($1\le q\le M$)とおくと $q\alpha=(\lfloor i_2\alpha\rfloor-\lfloor i_1\alpha\rfloor)+(\{i_2\alpha\}-\{i_1\alpha\})$ で、後ろのかっこの絶対値は $\frac1M$ より小さい。よって整数 $p$ と符号 $\sigma\in\{1,-1\}$ と $0\le\delta<\frac1M$ を使って $q\alpha=p+\sigma\delta$ と書ける。$\alpha$ は無理数なので $q\alpha$ は整数でなく、$\delta>0$ である。$L=\bigl\lfloor\frac1\delta\bigr\rfloor$ とおくと、$\frac1\delta-1< L\le\frac1\delta$、つまり $1-\delta< L\delta\le1$ である。
段 2(歩幅 $\delta$ の $L$ 個の数)。実数 $w$ と $0<\mu\le1$ に対し、$U(w,\mu)$ を区間 $[w+m,\ w+m+\mu)$($m$ はすべての整数)を全部合わせた集合とする。$\{y\}\in[\xi,\eta)$ は $y\in U(\xi,\lambda)$ と同値で、$\{y\}\notin[\xi,\eta)$ は $y\in U(\eta,1-\lambda)$ と同値である($[\eta,1)$ と $[1,1+\xi)$ をつなげた区間を $1$ ずつずらしたもの)。実数 $x$ に対して $y_j=x+j\sigma\delta$($j=0,1,\dots,L-1$)とおく。このとき
(*)$y_j\in U(w,\mu)$ となる $j$ の個数は $\dfrac\mu\delta+2$ 以下
が成り立つ。$y_0,\dots,y_{L-1}$ は間隔 $\delta$ で並ぶ長さ $1$ 未満の範囲にあり、$U(w,\mu)$ のうちその範囲にかかる部分は長さの和が $\mu$ 以下の高々 2 つの区間になるからである。

詳しい確かめを開く

$y_0,\dots,y_{L-1}$ は間隔 $\delta$ で並び、長さ $(L-1)\delta<1$ の閉区間 $I$ に入る。$U(w,\mu)$ の区間どうしは始まりが $1$ ずつ離れているので、$I$ と交わるのは高々 2 つで、2 つのときは隣どうし $[w+m,w+m+\mu)$ と $[w+m+1,w+m+1+\mu)$ である。$I=[u,v]$ とすると、前者との共通部分の長さは $w+m+\mu-u$ 以下、後者との共通部分の長さは $v-(w+m+1)$ 以下で、和は $\mu+(v-u)-1<\mu$ である。交わるのが 1 つなら共通部分の長さは $\mu$ 以下である。どちらの場合も、$y_j$ の入る部分は高々 2 つの区間で、長さの和は $\mu$ 以下である。間隔 $\delta$ で並ぶ数は、長さ $\ell$ の区間に高々 $\frac\ell\delta+1$ 個しか入らないので、(*)が成り立つ。


(*)を $U(\xi,\lambda)$ に使うと、$\{y_j\}\in[\xi,\eta)$ となる $j$ の個数 $K_x$ は $K_x\le\frac\lambda\delta+2$ である。$\lambda<1$ なら、$U(\eta,1-\lambda)$ に使うと、入らない $j$ の個数は $\frac{1-\lambda}\delta+2$ 以下なので、$K_x\ge L-\frac{1-\lambda}\delta-2>\frac\lambda\delta-3$ である($L>\frac1\delta-1$ を使った)。$\lambda=1$ なら $K_x=L>\frac1\delta-1>\frac\lambda\delta-3$ である。
段 3(余りで分ける)。$n\ge1$ を $n=r+kq$($1\le r\le q$、$k\ge0$)と書く。$n\alpha=r\alpha+k(p+\sigma\delta)$ で $kp$ は整数なので、$\{n\alpha\}=\{r\alpha+k\sigma\delta\}$ である。$r$ を固定すると、$k=0,1,2,\dots$ に対するこれらの数は、$k$ を $L$ 個ずつ $\{0,\dots,L-1\}$、$\{L,\dots,2L-1\}$、… と区切れば、どの組も段 2 の $y_0,\dots,y_{L-1}$($x=r\alpha+iL\sigma\delta$)の形になる。$1\le n\le N$ の $n$ を、$r$ ごとに $L$ 個ずつの組に区切る。組にならずに余る $n$ は各 $r$ について $L$ 個未満なので、全部で $qL$ 個未満である。組の数を $B$ とすると $N-qL< BL\le N$ である。段 2 から
$$ B\Bigl(\frac\lambda\delta-3\Bigr)\le A_N\le B\Bigl(\frac\lambda\delta+2\Bigr)+qL $$
である。
段 4(極限)。上からの評価:$BL\le N$ と $L\delta>1-\delta$ から
$$ \frac{A_N}N\le\frac{1}{L}\Bigl(\frac\lambda\delta+2\Bigr)+\frac{qL}N=\frac{\lambda+2\delta}{L\delta}+\frac{qL}N<\frac{\lambda+2\delta}{1-\delta}+\frac{qL}N\le\lambda+5\delta+\frac{qL}N $$
である。
最後の不等号の確かめを開く

最後の不等号は、$\delta<\frac14$(段 1 の $M\ge4$ による)のとき $\frac1{1-\delta}\le1+2\delta$ と $\lambda\le1$ から $(\lambda+2\delta)(1+2\delta)=\lambda+2\delta+2\lambda\delta+4\delta^2\le\lambda+5\delta$ となることによる。

下からの評価($N>qL$ とする):$\frac\lambda\delta-3\ge0$ なら、$B>\frac{N-qL}L$ と $L\delta\le1$ から
$$ \frac{A_N}N\ge\Bigl(1-\frac{qL}N\Bigr)\frac{\lambda-3\delta}{L\delta}\ge\Bigl(1-\frac{qL}N\Bigr)(\lambda-3\delta)\ge\lambda-3\delta-\frac{qL}N $$
である。最後の不等号は $0\le\lambda-3\delta\le1$ による。$\frac\lambda\delta-3<0$ なら $\lambda-3\delta<0\le\frac{A_N}N$ なので、同じ不等式 $\frac{A_N}N\ge\lambda-3\delta-\frac{qL}N$ が成り立つ。
正の数 $\varepsilon$($\varepsilon\le1$ としてよい)を任意にとる。$\frac1M<\frac\varepsilon{10}$ となる $M\ge4$ を選ぶと、段 1 の $\delta$ は $\delta<\frac\varepsilon{10}$ を満たす。$q$ と $L$ は $M$ で決まり、$N$ によらない。$N>\frac{2qL}\varepsilon$ ならば $N>qL$ かつ $\frac{qL}N<\frac\varepsilon2$ なので、上の 2 つの評価から
$$ \Bigl|\frac{A_N}N-\lambda\Bigr|<5\delta+\frac{qL}N<\frac\varepsilon2+\frac\varepsilon2=\varepsilon $$
である。$\varepsilon$ は任意なので $\dfrac{A_N}N\to\lambda=\eta-\xi$ である(数列の極限)。$\square$

段 1 だけを取り出すと、「$\alpha$ が無理数なら、$q\alpha$ との差が $\frac1M$ より小さい整数がある($1\le q\le M$)」という Dirichlet の近似定理になる(ディオファントス近似)。$\alpha$ が有理数 $\frac pq$ なら $q\alpha$ は整数で $\delta=0$ となり、段 1 以降は使えない。実際、そのときは $\{n\alpha\}$ は $q$ 個以下の値しかとらないので、一様には散らばらない。

主定理:$a^n$ が Benford の法則に従う条件

累乗の列と Benford の法則

$a$ を正の実数とする。数列 $a,a^2,a^3,\dots$ が Benford の法則に従うための必要十分条件は、$\log_{10}a$ が無理数であることである。

十分性は一様分布、必要性は割合の有理性

方針:十分性(無理数 ⇒ 従う)は lem-bfl-mantissa で区間の条件に直して thm-bfl-weyl を使う。必要性(従う ⇒ 無理数)は、$\log_{10}a$ が有理数なら仮数がくり返すので、最高位が $1$ になる割合が有理数になり、$\log_{10}2$ が無理数であることに反することを示す。
段 1(十分性)。$\alpha=\log_{10}a$ が無理数とする。$1\le s< t\le10$ をとり、$\xi=\log_{10}s$、$\eta=\log_{10}t$ とおくと $0\le\xi<\eta\le1$ である。$\log_{10}a^n=n\alpha$ なので、lem-bfl-mantissa により $s\le S(a^n)< t$ は $\xi\le\{n\alpha\}<\eta$ と同値である。thm-bfl-weyl により、この条件を満たす $n\le N$ の割合は $\eta-\xi=\log_{10}t-\log_{10}s$ に近づく。これは def-bfl-benford の条件そのものである。
段 2(必要性)。$\log_{10}a=\frac pq$($p,q$ は整数、$q\ge1$)と仮定する。$n$ を $q$ だけ増やすと $n\cdot\frac pq$ は整数 $p$ だけ増えるので、$\{n\cdot\frac pq\}$ は $n$ を $q$ で割った余りだけで決まる。したがって $1\le n\le q$ のうち最高位が $1$ になる($0\le\{n\frac pq\}<\log_{10}2$ となる)ものの個数を $C$ とすると、$N=mq$($m$ は正の整数)のとき、$n\le N$ のうち最高位が $1$ のものはちょうど $mC$ 個である。その割合は $\frac{mC}{mq}=\frac Cq$ で、$m$ によらない有理数である。もし数列が Benford の法則に従うなら、$N=mq$ で $m\to\infty$ としたときの割合は $\log_{10}2$ に近づくはずなので、$\frac Cq=\log_{10}2$ となる。ところが $\log_{10}2$ は無理数である(常用対数と桁数 の命題「$\log_{10}2$ は無理数」)。この矛盾から、$\log_{10}a$ は無理数である。$\square$

$3^n$ と $7^n$

$\log_{10}3$ と $\log_{10}7$ は無理数である($10^p=3^q$ や $10^p=7^q$ は、左辺だけが $2$ で割り切れるので $p,q\ge1$ では成り立たない)。thm-bfl-powers により $3^n$ も $7^n$ も Benford の法則に従う。$n=1,\dots,1000$ で数えると次のとおりである。

$d$123456789
$3^n$300177123987966595246
$7^n$302176126967867595046
$1000\log_{10}(1+1/d)$301.0176.1124.996.979.266.958.051.245.8
$\sqrt{10}$ の累乗は従わない

$a=\sqrt{10}$ では $\log_{10}a=\frac12$ は有理数である。$(\sqrt{10})^n$ の最高位の数字は、$n$ が偶数なら $1$、奇数なら $3$ になる(常用対数と桁数 の例「反例:常用対数が有理数のとき」)。最高位が $1$ の割合は $\frac12$ に近づき、$\log_{10}2=0.301\ldots$ にならない。prf-thm-bfl-powers の段 2 で $p=1$、$q=2$、$C=1$ の場合である。

単位を変えても崩れない

人口・面積・金額などのデータは、単位を変えるとすべての値が同じ数 $c$ 倍になる。Benford の法則に従う数列は、この操作で法則が崩れない。

定数倍しても Benford の法則は保たれる

正の実数の列 $x_1,x_2,\dots$ が Benford の法則に従うならば、どんな正の数 $c$ についても、列 $cx_1,cx_2,\dots$ も Benford の法則に従う。

小数部分をずらすと区間が高々 2 つに分かれる

方針:lem-bfl-mantissa で常用対数の小数部分の言葉に直す。$c$ 倍は小数部分を一定の量だけずらす操作になり、区間はずらしても、高々 2 つの区間に分かれるだけで長さの和は変わらない。
段 1(言いかえ)。$u_n=\{\log_{10}x_n\}$ とおく。lem-bfl-mantissa で $s=10^{\xi }$、$t=10^{\eta }$ とすると、「$x_n$ が Benford の法則に従う」は「$0\le \xi <\eta \le1$ を満たすすべての $\xi ,\eta$ について、$\xi \le u_n<\eta$ となる $n\le N$ の割合が $\eta -\xi$ に近づく」と同値である。
段 2(ずれ)。$\gamma=\{\log_{10}c\}$ とおく。$\log_{10}(cx_n)=\log_{10}c+\log_{10}x_n$ と、整数を足しても小数部分は変わらないことから、$\{\log_{10}(cx_n)\}=\{\gamma+u_n\}$ である。$0\le\gamma+u_n<2$ なので、$\gamma+u_n<1$ なら $\{\gamma+u_n\}=\gamma+u_n$、$\gamma+u_n\ge1$ なら $\{\gamma+u_n\}=\gamma+u_n-1$ である。
段 3(区間の分かれ方)。$0\le \xi <\eta \le1$ とする。段 2 から、$\xi \le\{\gamma+u_n\}<\eta$ は「$\xi -\gamma\le u_n<\eta -\gamma$ または $\xi -\gamma+1\le u_n<\eta -\gamma+1$」と同値である(前者のとき $u_n<\eta -\gamma\le1-\gamma$ で $\gamma+u_n<1$、後者のとき $u_n\ge \xi -\gamma+1\ge1-\gamma$ で $\gamma+u_n\ge1$ になっている)。$u_n$ は $[0,1)$ に入るので、次の 3 通りになる。

  • $\xi \ge\gamma$ のとき:条件は $\xi -\gamma\le u_n<\eta -\gamma$ だけで、区間の長さは $\eta -\xi$ である。
  • $\eta \le\gamma$ のとき:条件は $\xi -\gamma+1\le u_n<\eta -\gamma+1$ だけで、区間の長さは $\eta -\xi$ である。
  • $\xi <\gamma<\eta$ のとき:条件は $0\le u_n<\eta -\gamma$ または $\xi -\gamma+1\le u_n<1$ で、2 つの区間の長さの和は $(\eta -\gamma)+(\gamma-\xi )=\eta -\xi$ である。
    段 4(結論)。どの場合も、$u_n$ が $[0,1)$ の中の高々 2 つの区間(重ならない)のどちらかに入るという条件で、長さの和は $\eta -\xi$ である。段 1 により、$u_n$ がそれぞれの区間に入る割合はその長さに近づくので、割合の和は $\eta -\xi$ に近づく。段 1 の言いかえを $cx_n$ に使えば、$cx_n$ は Benford の法則に従う。$\square$
$2^n$ を $3$ 倍する

GS06 §5.1 の Exercise 45 は、(a) $2^n$ の最初の 100 個の最高位の数字を数えて Benford の分布と比べ、(b) それらを $3$ 倍して同じことをせよ、という問題である。(a) は ex-bfl-powers-of-two の表である。(b) の $3\cdot2^n$($n=1,\dots,100$)では
$$ (30,\ 18,\ 12,\ 10,\ 8,\ 7,\ 5,\ 5,\ 5) $$
となり($d=1,\dots,9$ の順)、やはり $100\log_{10}\bigl(1+\frac1d\bigr)$ に近い。thm-bfl-scale により、$N\to\infty$ の割合はどちらも $\log_{10}\bigl(1+\frac1d\bigr)$ に近づく。

逆に、9 つの数字が同じ割合で現れる分布は、定数倍で崩れる。たとえば最高位の数字が $5,6,7,8,9$ の数を $2$ 倍すると、どれも最高位が $1$ になる($5\times2=10$、$9.9\times2=19.8$)。もとの割合が $\frac19$ ずつなら、最高位が $5$ から $9$ の数は合わせて $\frac59$ あるので、$2$ 倍した後に最高位が $1$ の割合は少なくとも $\frac59$ になり、$\frac19$ ではなくなる。

経験則としての Benford の法則

現実のデータについて言えること
  • 現実のデータ(人口、川の面積、会計の記録など)は有限個の数で、def-bfl-benford のような極限はとれない。「データが Benford の法則に従う」とは、最高位の数字の割合が $\log_{10}\bigl(1+\frac1d\bigr)$ に近いという観察であり、証明される定理ではない。ex-bfl-data の表でも、ずれは数 % ある。
  • なぜ多くのデータで近くなるかについては、いくつかの説明がある。その 1 つは、自然に現れるデータの分布は単位の選び方によらないはずで、定数倍で変わらない最高位の分布は Benford の分布しかない、というものである(GS06 p. 195)。thm-bfl-scale はその一部(Benford の法則に従えば定数倍しても従う)を数列について示したものだが、逆向きの「定数倍で変わらない分布は Benford の分布に限る」はこの記事では証明しない。また、どんなデータが「単位によらない」のかは数学では決まらない。
  • 作られた数(でっちあげた帳簿の数など)は最高位がほぼ同じ割合になりやすいことから、会計記録の不正を見つける手がかりに使われることがある(GS06 p. 196、Dur19 p. 339)。これも経験にもとづく使い方で、合わないから不正、合うから正しい、とは言えない。
反例:範囲の狭いデータ

高校生の身長を cm で測ったデータで、値がすべて $140$ 以上 $200$ 未満だったとする。最高位の数字はすべて $1$ で、$2$ から $9$ は現れない。同じデータを m で測ると $1.40$ 以上 $2.00$ 未満で、やはり最高位は $1$ である。一方 inch($1$ inch $=2.54$ cm)で測ると、$140$ cm は約 $55.1$ inch、$200$ cm は約 $78.7$ inch なので、最高位は $5,6,7$ になる。単位で分布が変わるので、thm-bfl-scale のような性質ももたない。このデータは、値の範囲が 1 桁の中に収まっていることが原因で、Benford の法則に従わない。

例と反例

thm-bfl-powers と thm-bfl-weyl の仮定、経験則の前提を外すと何が崩れるかをまとめる。

外す条件反例成り立たなくなること
$\log_{10}a$ が無理数であることex-bfl-sqrt-ten$a^n$ が Benford の法則に従う
$\alpha$ が無理数であることex-bfl-rational-alpha$\{n\alpha\}$ が一様に散らばる
値が多くの桁にまたがること(経験則の前提)ex-bfl-narrow最高位が $d$ の割合が $\log_{10}\bigl(1+\frac1d\bigr)$ に近い
反例:$\alpha$ が有理数のとき

$\alpha=\frac25$ とすると、$\{n\alpha\}$ は $n=1,2,3,4,5$ で $0.4,\ 0.8,\ 0.2,\ 0.6,\ 0$ となり、その後はこの 5 つをくり返す。区間 $[0.05,0.15)$ には一度も入らないので、入る割合は $0$ のままで、区間の長さ $0.1$ に近づかない。prf-thm-bfl-weyl の段 1 では $q=5$ で $q\alpha=2$ がちょうど整数になり、$\delta=0$ となって歩幅がなくなる。この反例は、thm-bfl-weyl の仮定「$\alpha$ は無理数」を外すと結論が成り立たないことを示す。

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  • thm-bfl-weyl は、円周を無理数の角だけ回し続けると円周を一様に埋める、という主張である。大学では、エルゴード定理の例として扱う(Dur19 Example 6.2.5)。辺の比が $3:4:5$ の直角三角形の角は有理角でないので(特別な角の三角関数の値 の系「3:4:5 の角は有理角でない」)、点 $(1,0)$ をこの角ずつ回すと、単位円の上に一様に散らばる。
  • 最高位の数字だけでなく、上から 2 桁目以降の数字の分布も、def-bfl-benford の $s,t$ を細かくとれば同じ考え方で扱える。

関連項目

参考文献

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