超コホモロジー

同義語:hypercohomology超コホモロジー群

概要

超コホモロジー(hypercohomology)とは、位相空間(あるいは景)上の層の複体 $K^\bullet$ に対して定まるコホモロジー群 $\mathbf H^n(X,K^\bullet)$ のことで、入射層の複体への擬同型 $K^\bullet\to I^\bullet$ をとり、大域切断の複体 $\Gamma(X,I^\bullet)$ のコホモロジーとして定義される。単独の層では通常の層コホモロジーに戻り、擬同型で不変で、$E_1^{p,q}=H^q(X,K^p)$ と $E_2^{p,q}=H^p(X,\mathcal H^q(K^\bullet))$ から出発する 2 つのスペクトル系列が収束する。de Rham 複体の超コホモロジーが多様体の定数層のコホモロジーや代数的 de Rham コホモロジーを与え、射影直線の例が示すように大域切断の複体だけでは計算できない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: アーベル圏, 複体とホモロジー, , 層コホモロジー, 導来関手, スペクトル系列

定義

超コホモロジーは、位相空間 $X$ 上の 1 つの $\mathcal F$ に対して定まる層コホモロジー $H^n(X,\mathcal F)$ を、層の複体 $K^\bullet$多様体の de Rham 複体 $\Omega^\bullet_X$ など)に対して定まるものへ広げたものである。
以下、$\mathrm{Ab}(X)$$X$ 上のアーベル群の層のなすアーベル圏とする(環付き空間上の加群の層や景(site)上の層でも同じ議論が通用する)。$\mathrm{Ab}(X)$ は十分多くの入射対象(入射対象・射影対象)をもつ(God58 II.7.1、Har77 III.2.2)。層の複体 $K^\bullet=(K^p,d^p)_{p\in\mathbb{Z}}$下に有界であるとは、ある $p_0$ について $p< p_0$ ならば $K^p=0$ であることをいう。複体の射 $f\colon K^\bullet\to L^\bullet$擬同型であるとは、コホモロジー層 $\mathcal H^n(K^\bullet)=\ker d^n/\operatorname{im}d^{n-1}$ に誘導する写像がすべての $n$ で同型であることをいう。

複体の入射分解

下に有界な層の複体 $K^\bullet$入射分解(injective resolution)とは、下に有界な入射層の複体 $I^\bullet$ と擬同型 $\varepsilon\colon K^\bullet\to I^\bullet$ の組のことである。層 $\mathcal F$ を次数 $0$ に置いた複体 $\mathcal F[0]$ の入射分解は、通常の意味の $\mathcal F$入射分解 $0\to\mathcal F\to I^0\to I^1\to\cdots$ にほかならない。

複体の超コホモロジー

$K^\bullet$$X$ 上の下に有界な層の複体とし、$\varepsilon\colon K^\bullet\to I^\bullet$ をその入射分解とする。$K^\bullet$$n$ 次の超コホモロジー(hypercohomology)とは、大域切断の複体 $\Gamma(X,I^\bullet)$$n$ 次コホモロジー
$$ \mathbf H^n(X,K^\bullet):=H^n\bigl(\Gamma(X,I^\bullet)\bigr)=\frac{\ker\bigl(\Gamma(X,I^n)\to\Gamma(X,I^{n+1})\bigr)}{\operatorname{im}\bigl(\Gamma(X,I^{n-1})\to\Gamma(X,I^n)\bigr)} $$
のことである。これはアーベル群であり、入射分解の取り方によらず同型を除いて定まる(prop-hyper-well-defined)。$\mathbb H^n(X,K^\bullet)$$H^n(X,K^\bullet)$$R^n\Gamma(X,K^\bullet)$ とも書く。

入射分解の存在は、次の Cartan–Eilenberg 分解から従う。

Cartan–Eilenberg分解

下に有界な層の複体 $K^\bullet$Cartan–Eilenberg 分解とは、入射層からなる二重複体 $I^{\bullet,\bullet}$$q<0$$I^{p,q}=0$)と複体の射 $\varepsilon\colon K^\bullet\to I^{\bullet,0}$ であって、各 $p$ について 4 つの列
$$ 0\to K^p\to I^{p,0}\to I^{p,1}\to\cdots,\qquad 0\to B^p(K^\bullet)\to B^p_{\mathrm{I}}(I^{\bullet,0})\to B^p_{\mathrm{I}}(I^{\bullet,1})\to\cdots, $$
$$ 0\to Z^p(K^\bullet)\to Z^p_{\mathrm{I}}(I^{\bullet,0})\to Z^p_{\mathrm{I}}(I^{\bullet,1})\to\cdots,\qquad 0\to\mathcal H^p(K^\bullet)\to H^p_{\mathrm{I}}(I^{\bullet,0})\to H^p_{\mathrm{I}}(I^{\bullet,1})\to\cdots $$
がすべて入射分解であるもののことである。ここで $B^p_{\mathrm I}$$Z^p_{\mathrm I}$$H^p_{\mathrm I}$ は横方向の微分 $d_{\mathrm I}\colon I^{p,q}\to I^{p+1,q}$ についての境界・輪体・コホモロジーであり、縦方向の微分 $d_{\mathrm{II}}\colon I^{p,q}\to I^{p,q+1}$ で結んで複体にしている。

Cartan–Eilenberg分解の存在

十分多くの入射対象をもつアーベル圏の下に有界な任意の複体 $K^\bullet$ は Cartan–Eilenberg 分解 $K^\bullet\to I^{\bullet,\bullet}$ をもつ。その全複体 $\operatorname{Tot}(I^{\bullet,\bullet})$ は下に有界な入射対象の複体で、$\varepsilon$ の誘導する $K^\bullet\to\operatorname{Tot}(I^{\bullet,\bullet})$ は擬同型である。したがって $K^\bullet$ は入射分解をもつ。

存在定理の出典

前半は Wei94 5.7.2 による。$B^p$$\mathcal H^p$ の入射分解を選び、短完全列 $0\to B^p\to Z^p\to\mathcal H^p\to0$$0\to Z^p\to K^p\to B^{p+1}\to0$馬蹄補題Wei94 2.2.8)を 2 度使う。後半は lem-hyper-exact-columns から出る(rem-hyper-tot-is-resolution)。$\operatorname{Tot}^n=\bigoplus_{p+q=n}I^{p,q}$$p\ge p_0$$q\ge0$ より有限個の入射対象の直和であり、入射対象である。

二重複体の 2 つの微分は $d_{\mathrm I}\colon C^{p,q}\to C^{p+1,q}$$d_{\mathrm{II}}\colon C^{p,q}\to C^{p,q+1}$ と書き、反可換 $d_{\mathrm I}d_{\mathrm{II}}+d_{\mathrm{II}}d_{\mathrm I}=0$ の約束を採る。全複体は $\operatorname{Tot}^n=\bigoplus_{p+q=n}C^{p,q}$、微分は $D=d_{\mathrm I}+d_{\mathrm{II}}$ である。

列が完全な二重複体の全複体は非輪状

アーベル圏の二重複体 $C^{\bullet,\bullet}$ が、ある $p_0,q_0$ について $p< p_0$ または $q< q_0$ ならば $C^{p,q}=0$ を満たし、各列 $C^{p,\bullet}$$d_{\mathrm{II}}$ についての複体)がすべての次数で完全列をなすとする。このとき $\operatorname{Tot}(C^{\bullet,\bullet})$ はすべての次数でコホモロジーが $0$ である。

成分を1つずつ消す

元をとって議論するが、アーベル圏では Freyd–Mitchellの埋め込み定理により正当化される(Wei94 1.6.1)。$z\in\operatorname{Tot}^n$$Dz=0$ なる元とし、$z=\sum_pz^{p,n-p}$ と成分に分ける。$p_0\le p\le n-q_0$ なので成分は有限個である。$z\ne0$ のとき、$z^{p,n-p}\ne0$ なる最小の $p$$p_1$ とおく。$Dz$$(p_1,n-p_1+1)$ 成分は $d_{\mathrm{II}}z^{p_1,n-p_1}+d_{\mathrm I}z^{p_1-1,n-p_1+1}=d_{\mathrm{II}}z^{p_1,n-p_1}$(最小性から第 2 項は $0$)であり、これが $0$ である。列 $C^{p_1,\bullet}$ が完全だから $y\in C^{p_1,n-p_1-1}$$d_{\mathrm{II}}y=z^{p_1,n-p_1}$ なるものがある。ただし $n-p_1-1< q_0$ なら $C^{p_1,n-p_1-1}=0$ で、次数 $q_0$ での完全性は $d_{\mathrm{II}}\colon C^{p_1,q_0}\to C^{p_1,q_0+1}$ の単射性を意味するので $z^{p_1,n-p_1}=0$ となり最小性に反する。よってこの場合は起こらない。$z':=z-Dy$ とおくと $Dz'=0$ であり、$Dy=d_{\mathrm I}y+d_{\mathrm{II}}y$ の成分は $(p_1+1,n-p_1-1)$$(p_1,n-p_1)$ にしかないので、$z'$$p< p_1$ の成分は $0$ のまま、$p=p_1$ の成分は $z^{p_1,n-p_1}-d_{\mathrm{II}}y=0$ である。$z'$$z$ と同じ類を代表し、非零成分の最小添字が大きくなった。添字の範囲は有限なので、繰り返せば高々 $n-q_0-p_0+1$ 回で $0$ に到達する。よって $z$$D$ の像に属する。$\square$

全複体が入射分解であること

$K^\bullet\to I^{\bullet,\bullet}$ を各 $K^p\to I^{p,\bullet}$ が(入射でなくてもよい)分解であるような二重複体の増大射とする。$q=-1$ の行に $K^\bullet$ を置き、$d_{\mathrm{II}}$ を増大射、行 $-1$$d_{\mathrm I}$$-d_K$ として拡張した二重複体 $\widehat C^{\bullet,\bullet}$ は反可換の約束を満たし、各列 $0\to K^p\to I^{p,0}\to I^{p,1}\to\cdots$ が完全である。lem-hyper-exact-columns により $\operatorname{Tot}(\widehat C)$ は非輪状である。一方 $\operatorname{Tot}(\widehat C)$$\varepsilon\colon K^\bullet\to\operatorname{Tot}(I^{\bullet,\bullet})$写像錐と(符号を除いて)一致し、写像錐が非輪状であることと射が擬同型であることは同値である(Wei94 1.5.4)。よって $\varepsilon$ は擬同型である。$I^{\bullet,\bullet}$ が Cartan–Eilenberg 分解なら、これは入射分解である。

超コホモロジーが入射分解の取り方によらないことの鍵は、入射複体への射が擬同型を通して一意に持ち上がるという事実である。

入射複体への射の持ち上げ

$f\colon A^\bullet\to B^\bullet$ を擬同型、$I^\bullet$ を下に有界な入射対象の複体とする。$f$ との合成は、複体のホモトピー圏での射の集合の間の全単射 $f^*\colon\operatorname{Hom}_{\mathcal K}(B^\bullet,I^\bullet)\to\operatorname{Hom}_{\mathcal K}(A^\bullet,I^\bullet)$ を与える。

持ち上げ補題の出典

証明は Wei94 10.4.7(あるいは Har66 I.4.5)にある。要点は $\operatorname{Hom}_{\mathcal K}(\operatorname{cone}(f),I^\bullet)=0$ を示すことで、$\operatorname{cone}(f)$ の非輪状性と各 $I^n$ の入射性から、射を次数の低い方から順にホモトピー $0$ へ変形できる。

超コホモロジーは入射分解によらない

$\varepsilon\colon K^\bullet\to I^\bullet$$\varepsilon'\colon K^\bullet\to J^\bullet$ を下に有界な複体 $K^\bullet$ の 2 つの入射分解とする。複体の射 $u\colon I^\bullet\to J^\bullet$$u\circ\varepsilon\simeq\varepsilon'$(ホモトピック)なるものがホモトピーを除いて一意に存在し、$u$鎖ホモトピー同値である。とくに $u$ の誘導する $H^n(\Gamma(X,I^\bullet))\to H^n(\Gamma(X,J^\bullet))$$u$ の取り方によらない同型である。

持ち上げ補題の適用

thm-hyper-lifting を擬同型 $\varepsilon$ と入射複体 $J^\bullet$ に適用すると $\varepsilon^*\colon\operatorname{Hom}_{\mathcal K}(I^\bullet,J^\bullet)\to\operatorname{Hom}_{\mathcal K}(K^\bullet,J^\bullet)$ は全単射だから、$\varepsilon'$ の類の逆像として $u$ の類が一意に定まり $u\circ\varepsilon\simeq\varepsilon'$ である。同様に $v\colon J^\bullet\to I^\bullet$$v\circ\varepsilon'\simeq\varepsilon$ なるものが一意に定まる。$v\circ u\circ\varepsilon\simeq v\circ\varepsilon'\simeq\varepsilon$ と、thm-hyper-lifting$\varepsilon$$I^\bullet$ に適用したときの単射性から $v\circ u\simeq\mathrm{id}_{I^\bullet}$、同じく $u\circ v\simeq\mathrm{id}_{J^\bullet}$ である。加法的関手 $\Gamma(X,-)$ はホモトピーを保つので $\Gamma(X,u)$ はホモトピー同値であり、コホモロジーに同型を誘導する。ホモトピックな射はコホモロジーに同じ写像を誘導するので、同型は $u$ の類だけで決まる。$\square$

導来圏による定義

導来圏の言葉では、$\mathbf H^n(X,K^\bullet)$ は右導来関手 $\mathbf R\Gamma(X,-)\colon D^+(\mathrm{Ab}(X))\to D^+(\mathrm{Ab})$ の値の $n$ 次コホモロジーであり、$\operatorname{Hom}_{D(\mathrm{Ab}(X))}(\mathbb{Z}_X,K^\bullet[n])$ とも書ける($\mathbb{Z}_X$定数層)。擬同型を最初から同一視するので、prop-hyper-quasi-iso は定義から直ちに出る。

直感

層の複体 $K^\bullet$ には、複体自身の微分 $d$ による「複体としてのコホモロジー」と、各項 $K^p$ の「層としてのコホモロジー」の 2 種類の情報があり、超コホモロジーはこの 2 つを同時に取り込んだ 1 つの不変量である。thm-hyper-two-spectral-sequences の 2 つのスペクトル系列は、それを 2 通りの順序で近似することに当たる。大域切断の複体 $\Gamma(X,K^\bullet)$ のコホモロジーは前者だけを見ており、各 $K^p$ に高次コホモロジーがあると情報が落ちる(ex-hyper-projective-line)。逆に $K^\bullet$ が単独の層の分解なら、超コホモロジーはその層のコホモロジーに一致する(cor-hyper-single-cohomology-sheaf)。de Rham 複体はまさにこの状況にある(ex-hyper-de-rham)。

例と反例

単独の層とそのずらし

$\mathcal F$ を次数 $m$ に置いた複体 $\mathcal F[-m]$ を考える。$\mathcal F$ の入射分解 $I^\bullet$$m$ だけずらした $I^\bullet[-m]$$\mathcal F[-m]$ の入射分解なので $\mathbf H^n(X,\mathcal F[-m])=H^{n-m}(\Gamma(X,I^\bullet))=H^{n-m}(X,\mathcal F)$ である。とくに $\mathbf H^n(X,\mathcal F[0])=H^n(X,\mathcal F)$ で、超コホモロジーは層コホモロジーの拡張になっている。

de Rham複体と de Rham の定理

$M$可微分多様体$\Omega^\bullet_M$$C^\infty$微分形式の層の de Rham 複体とする。増大射 $\mathbb{R}_M[0]\to\Omega^\bullet_M$ が擬同型であることが Poincaréの補題の内容であり(BT82 §4)、各 $\Omega^p_M$1の分割をもつ細層なので $\Gamma(M,-)$ について非輪状である(God58 II.3.7)。よって prop-hyper-acyclic-termsprop-hyper-quasi-iso により
$$ H^n(M,\mathbb{R})=\mathbf H^n(M,\mathbb{R}_M[0])=\mathbf H^n(M,\Omega^\bullet_M)=H^n\bigl(\Gamma(M,\Omega^\bullet_M)\bigr)=H^n_{dR}(M) $$
である。これが層の言葉で述べた de Rham の定理である(de Rhamコホモロジー)。複素多様体 $M$ の正則微分形式の複体 $\Omega^\bullet_{M,\mathrm{hol}}$ についても正則版の Poincaré の補題により $\mathbf H^n(M,\Omega^\bullet_{M,\mathrm{hol}})=H^n(M,\mathbb{C})$ である(Voi02 第 8 章)が、$\Omega^p_{M,\mathrm{hol}}$ は一般に非輪状でないので、大域正則形式の複体のコホモロジーがこれに一致するのは、Stein空間のように各 $\Omega^p_{M,\mathrm{hol}}$ が非輪状になる場合である。 $k$ 上の滑らか(滑らかな射)なスキーム $X$ の代数的 de Rham コホモロジー $H^n_{dR}(X/k):=\mathbf H^n(X,\Omega^\bullet_{X/k})$ も超コホモロジーとして定義され(Gro66)、その理由が次の反例に現れる。

反例:射影直線と大域切断の複体

破れるのは prop-hyper-acyclic-terms の「各 $K^p$ が非輪状」という仮定で、破れる結論は「超コホモロジーが大域切断の複体で計算できる」ことである。$k$ を任意の体、$X=\mathbb{P}^1_k$射影直線$K^\bullet=\Omega^\bullet_{X/k}=[\mathcal O_X\xrightarrow{d}\Omega^1_{X/k}]$ をその de Rham 複体とし、affine な開集合アフィンスキーム$U_0=\operatorname{Spec}k[t]$$U_1=\operatorname{Spec}k[s]$$s=t^{-1}$)で覆う。$U_0\cap U_1=\operatorname{Spec}k[t,t^{-1}]$ 上で $ds=-t^{-2}dt$ である。
大域切断は $\Gamma(X,\mathcal O_X)=k[t]\cap k[t^{-1}]=k$$\Gamma(X,\Omega^1_{X/k})=0$ である。後者は、$f(t)\,dt$$f\in k[t]$)が $U_1$ まで延びるには $f(t)\,dt=-f(t)t^2\,ds$ の係数 $-f(t)t^2$$k[t^{-1}]$ に入らねばならず、$f=0$ に限るからである。よって大域切断の複体は $k\to0$ で、$H^0=k$$H^1=H^2=0$ である。
一方、$X$ は分離的(分離射)で、affine スキーム上の準連接層の高次コホモロジーは消える(Har77 III.3.5)ので、prop-hyper-cech により $\mathbf H^n(X,\Omega^\bullet_{X/k})$ は Čech 二重複体の全複体
$$ k[t]\oplus k[s]\ \xrightarrow{\ D\ }\ \bigl(k[t]\,dt\oplus k[s]\,ds\bigr)\oplus k[t,t^{-1}]\ \xrightarrow{\ D\ }\ k[t,t^{-1}]\,dt $$
のコホモロジーである。微分は $D(f_0,f_1)=\bigl((df_0,df_1),\,f_1-f_0\bigr)$$D\bigl((\omega_0,\omega_1),g\bigr)=\omega_1-\omega_0-dg$ である。
次数 $2$:像は $k[t]\,dt$$t^m\,dt$$m\ge0$)、$k[s]\,ds$$s^m\,ds=-t^{-m-2}\,dt$、すなわち $t^{-j}\,dt$$j\ge2$)、$d(k[t,t^{-1}])$$d(t^m)=mt^{m-1}\,dt$)で張られる。前 2 者で $t^{-1}\,dt$ 以外のすべての単項式を含み、$d(t^m)$$m\ne0$ のとき $t^{m-1}\,dt$$m-1\ne-1$)の定数倍だから、$t^{-1}\,dt$ はどの標数でも像に入らない。よって
$$ \mathbf H^2(\mathbb{P}^1_k,\Omega^\bullet_{X/k})=k\cdot\Bigl[\frac{dt}{t}\Bigr]\cong k\ne0. $$
次数 $1$:輪体 $\bigl((\omega_0,\omega_1),g\bigr)$$\omega_1-\omega_0=dg$ を満たす。$g=g_++a_0+g_-$$g_+\in t\,k[t]$$a_0\in k$$g_-\in t^{-1}k[t^{-1}]$)と分けると $dg_+\in k[t]\,dt$$dg_-\in k[s]\,ds$ であり、$k[t,t^{-1}]\,dt$ の中で $k[t]\,dt\cap k[s]\,ds=0$ だから $\omega_0=-dg_+$$\omega_1=dg_-$ である。よって $(f_0,f_1):=(-g_+-a_0,\,g_-)$$D(f_0,f_1)=\bigl((\omega_0,\omega_1),g\bigr)$ を満たし、$\mathbf H^1=0$ である。次数 $0$$f_0=f_1\in k[t]\cap k[t^{-1}]=k$ より $\mathbf H^0=k$ である。
したがって標準写像 $H^n(\Gamma(X,K^\bullet))\to\mathbf H^n(X,K^\bullet)$$n=2$$0\to k$ となり同型でない。thm-hyper-two-spectral-sequences の第 1 スペクトル系列で見れば $E_1^{1,1}=H^1(\mathbb{P}^1_k,\Omega^1_{X/k})\cong k$$\mathbf H^2$ に寄与しており、大域切断の複体はこの項を見ていない。$k=\mathbb{C}$ では $H^2(\mathbb{P}^1(\mathbb{C}),\mathbb{C})=\mathbb{C}$ なので、超コホモロジーによる定義が位相的に正しい答えを与える。

性質

擬同型による不変性

$f\colon K^\bullet\to L^\bullet$ が下に有界な複体の擬同型なら、$f$ の誘導する $\mathbf H^n(X,K^\bullet)\to\mathbf H^n(X,L^\bullet)$ はすべての $n$ で同型である。

分解の共有

$\varepsilon\colon L^\bullet\to I^\bullet$$L^\bullet$ の入射分解とする。擬同型の合成 $\varepsilon\circ f\colon K^\bullet\to I^\bullet$ は擬同型だから、$I^\bullet$$K^\bullet$ の入射分解でもある。prop-hyper-well-defined により $\mathbf H^n(X,K^\bullet)$$\mathbf H^n(X,L^\bullet)$$H^n(\Gamma(X,I^\bullet))$ と標準的に同型で、$f$ の誘導する写像はこの同型を通して恒等写像になる。$\square$

複体の短完全列と長完全列

下に有界な層の複体の短完全列 $0\to K'^\bullet\to K^\bullet\to K''^\bullet\to0$ に対し、長完全列
$$ \cdots\to\mathbf H^n(X,K'^\bullet)\to\mathbf H^n(X,K^\bullet)\to\mathbf H^n(X,K''^\bullet)\xrightarrow{\ \delta\ }\mathbf H^{n+1}(X,K'^\bullet)\to\cdots $$
が存在する。

長完全列の出典

証明は Wei94 10.4.9 または Har66 I §5 に譲る。要点は、短完全列が導来圏の完全三角形 $K'^\bullet\to K^\bullet\to K''^\bullet\to K'^\bullet[1]$ を与え、$\mathbf R\Gamma$ が完全三角形を保つことである。

非輪状な項をもつ複体

$K^\bullet$ を下に有界な複体とし、各 $K^p$$\Gamma(X,-)$ について非輪状、すなわち $H^q(X,K^p)=0$$q\ge1$)とする。このとき標準写像 $H^n(\Gamma(X,K^\bullet))\to\mathbf H^n(X,K^\bullet)$ はすべての $n$ で同型である。とくに脆弱層(flasque 層)や入射層だけからなる複体では、超コホモロジーは大域切断の複体のコホモロジーである。

列の完全性への帰着

$K^\bullet\to I^{\bullet,\bullet}$ を Cartan–Eilenberg 分解とすると、rem-hyper-tot-is-resolution により $\mathbf H^n(X,K^\bullet)=H^n(\Gamma(X,\operatorname{Tot}I^{\bullet,\bullet}))=H^n(\operatorname{Tot}\Gamma(X,I^{\bullet,\bullet}))$ である。$q=-1$ の行に $\Gamma(X,K^\bullet)$ を置いた増大二重複体 $\Gamma(X,\widehat C^{\bullet,\bullet})$ の第 $p$ 列は $0\to\Gamma(X,K^p)\to\Gamma(X,I^{p,0})\to\Gamma(X,I^{p,1})\to\cdots$ であり、$I^{p,\bullet}$$K^p$ の入射分解だから、この列のコホモロジーは、次数 $-1$$0$ では $\Gamma$ の左完全性(左完全関手)により $0$、次数 $q\ge1$ では $H^q(X,K^p)$ であり、仮定により $0$ である。よって各列は完全である。lem-hyper-exact-columns により $\operatorname{Tot}\Gamma(X,\widehat C)$ は非輪状であり、それは rem-hyper-tot-is-resolution と同様に $\Gamma(X,K^\bullet)\to\operatorname{Tot}\Gamma(X,I^{\bullet,\bullet})$ の写像錐だから、この射は擬同型である。$\square$

超コホモロジーの2つのスペクトル系列

$K^\bullet$ を下に有界な層の複体とする。$\mathbf H^{p+q}(X,K^\bullet)$ に収束する 2 つのスペクトル系列(項は $p\ge p_0$$q\ge0$ の範囲にある)
$$ {}'E_1^{p,q}=H^q(X,K^p)\ \Rightarrow\ \mathbf H^{p+q}(X,K^\bullet),\qquad {}''E_2^{p,q}=H^p\bigl(X,\mathcal H^q(K^\bullet)\bigr)\ \Rightarrow\ \mathbf H^{p+q}(X,K^\bullet) $$
がある。第 1 の系列の $d_1$$K^\bullet$ の微分が層コホモロジーに誘導する写像 $H^q(X,K^p)\to H^q(X,K^{p+1})$ であり、その到達項のフィルトレーションは $K^\bullet$ の次数によるフィルトレーション $\sigma_{\ge p}K^\bullet$ から来る。第 2 の系列の到達項のフィルトレーションは標準フィルトレーション $\tau_{\le q}K^\bullet$ から来る。

スペクトル系列の証明の筋

証明は Wei94 5.7.9 または God58 第 I 章 §4 に譲る。Cartan–Eilenberg 分解 $I^{\bullet,\bullet}$$\Gamma(X,-)$ を施した二重複体には、列によるフィルトレーションと行によるフィルトレーションから 2 つのスペクトル系列があり、どちらも全複体のコホモロジー $\mathbf H^{p+q}(X,K^\bullet)$ に収束する(スペクトル系列)。列によるものは $E_1^{p,q}=H^q(\Gamma(X,I^{p,\bullet}))=H^q(X,K^p)$ を与える。行によるものは、各行の $B_{\mathrm I}$$Z_{\mathrm I}$$H_{\mathrm I}$ が入射的なので $\Gamma$ と可換になり、$\Gamma(X,H^p_{\mathrm I}(I^{\bullet,\bullet}))$$\mathcal H^p(K^\bullet)$ の入射分解の大域切断であることから、二重複体の位置 $(p,q)$$E_2$$H^q(X,\mathcal H^p(K^\bullet))$ を与える(定理の記法 ${}''E_2^{p,q}$ では添字 $p,q$ を入れ替えて読む)。$K^\bullet=\Omega^\bullet_{X/k}$ のとき第 1 の系列が Hodge–de Rhamスペクトル系列である(de RhamコホモロジーGro66)。

コホモロジー層が1つだけの複体

下に有界な複体 $K^\bullet$$\mathcal H^q(K^\bullet)=0$$q\ne0$)を満たすなら、$\mathbf H^n(X,K^\bullet)\cong H^n(X,\mathcal H^0(K^\bullet))$ である。

切り詰めによる証明

標準切り詰め $\tau_{\le0}K^\bullet$ を、次数 $p<0$$K^p$、次数 $0$$Z^0(K^\bullet)=\ker d^0$、次数 $p>0$$0$ とする複体とすると、包含 $\tau_{\le0}K^\bullet\to K^\bullet$ は次数 $\le0$ でコホモロジー層の同型を誘導し、次数 $>0$ では $\mathcal H^q(K^\bullet)=0$ により擬同型である。また $Z^0(K^\bullet)\to\mathcal H^0(K^\bullet)$ は複体の射 $\tau_{\le0}K^\bullet\to\mathcal H^0(K^\bullet)[0]$ を与え、次数 $0$ で同型、次数 $<0$ では $\mathcal H^q(K^\bullet)=0$ により擬同型である。prop-hyper-quasi-iso を 2 度使い、ex-hyper-single-sheaf を合わせればよい。$\square$

Čech複体による計算

$\mathfrak U=(U_i)_{i\in I}$$X$開被覆$K^\bullet$ を下に有界な複体とし、各 $K^p$ と有限個の添字 $i_0,\dots,i_r$ について $H^q(U_{i_0}\cap\cdots\cap U_{i_r},K^p)=0$$q\ge1$)とする。このとき Čech 二重複体 $\check C^r(\mathfrak U,K^p)$Čechコホモロジー)の全複体のコホモロジーは $\mathbf H^n(X,K^\bullet)$ と標準的に同型である。

三重複体の2通りの縮約

$K^\bullet\to I^{\bullet,\bullet}$ を Cartan–Eilenberg 分解とし、三重複体 $T^{r,p,q}=\check C^r(\mathfrak U,I^{p,q})$ を考える。2 つの事実を使う。(a) 入射層の開集合への制限は入射層であり(制限関手は完全な左随伴関手 $j_!$ をもつ)、入射層は脆弱層である(God58 II.7.1.1、Har77 III.2.4)。(b) 脆弱層 $\mathcal F$ について $\check H^r(\mathfrak U,\mathcal F)=0$$r\ge1$)、$\check H^0(\mathfrak U,\mathcal F)=\Gamma(X,\mathcal F)$ である(God58 II.5.2.3、Har77 III.4.3)。$(p,q)$ を固定すると (a)(b) により $0\to\Gamma(X,I^{p,q})\to\check C^0(\mathfrak U,I^{p,q})\to\check C^1(\mathfrak U,I^{p,q})\to\cdots$ は完全だから、$r$ を縦の添字、$(p,q)$ をまとめて横の添字とした(符号を調整して反可換にした)増大二重複体に lem-hyper-exact-columns を使って、$\operatorname{Tot}\Gamma(X,I^{\bullet,\bullet})\to\operatorname{Tot}T$ は擬同型である。左辺のコホモロジーは $\mathbf H^n(X,K^\bullet)$ である。次に $(r,p)$ を固定すると、$\check C^r(\mathfrak U,I^{p,\bullet})=\prod\Gamma(U_{i_0\cdots i_r},I^{p,\bullet})$ は (a) により各 $U_{i_0\cdots i_r}$ 上の $K^p$ の入射分解の切断の複体で、そのコホモロジーは仮定により次数 $0$$\check C^r(\mathfrak U,K^p)$ だけである。よって $q$ を縦の添字とした増大二重複体も列が完全で、$\operatorname{Tot}\check C^\bullet(\mathfrak U,K^\bullet)\to\operatorname{Tot}T$ は擬同型である。2 つを合わせて主張を得る。$\square$

順像と景への拡張

$\Gamma(X,-)$ の代わりに連続写像 $f\colon X\to Y$順像 $f_*$ を用いれば、同じ構成で導来順像 $\mathbf R^nf_*K^\bullet=\mathcal H^n(f_*I^\bullet)$ と 2 つのスペクトル系列($E_1^{p,q}=R^qf_*K^p$ など)が得られる。景(site)上の層の複体、たとえばエタール位相の層の複体でも入射分解は存在し、エタールコホモロジーの超コホモロジーが同じ定義で得られる。

関連項目

参考文献

[1]
Charles A. Weibel, An Introduction to Homological Algebra, Cambridge University Press, 1994, 1.5.4(写像錐と擬同型)、1.6.1(Freyd–Mitchell)、2.2.8(馬蹄形補題)、§5.7(Cartan–Eilenberg 分解と超コホモロジーのスペクトル系列)、10.4.7・10.4.9(導来圏)
[2]
Roger Godement, Topologie algébrique et théorie des faisceaux, Hermann, 1958, 第 I 章 §4(二重複体のスペクトル系列)、第 II 章 §3.7(細層)、§5.2(脆弱層の Čech コホモロジー)、§7.1(入射層)
[3]
Robin Hartshorne, Algebraic Geometry, Springer, 1977, III.2.2(入射対象の存在)、III.2.4(入射層は脆弱層)、III.3.5(affine スキーム上の準連接層コホモロジーの消滅)、III.4.3(脆弱層の Čech コホモロジーの消滅)
[4]
Robin Hartshorne, Residues and Duality, Springer, 1966, 第 I 章 §4(入射複体への射の持ち上げ)、§5(完全三角と長完全列)
[5]

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について寄付する