Sawayamaの補題

同義語:Sawayama's lemma

概要

Sawayamaの補題(Sawayama's lemma)とは、三角形 $ABC$ の辺 $BC$ の上の点 $D$($D\ne B$)について、線分 $DA$、$DB$ に接し外接円に内側から接する円を考えると、その円と線分 $DA$、$DB$ の接点 $E$、$F$ を結ぶ直線が内心 $I$ を通る、という定理である。接点までの長さは $DE=DF=\frac{a\cdot AD+b\cdot DB-c\cdot DC}{a+b+c}$($a,b,c$ は辺 $BC,CA,AB$ の長さ)で、外接円の上の点から円に引いた接線の長さが接点までの距離に比例することと、Ptolemy の定理から導かれる。$D=C$ の場合は、混線内接円の接点を結ぶ線分の中点が内心であるという定理になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 混線内接円, Ptolemyの定理, 三角形の内心と傍心, 方べきの定理(高校数学), 2円の位置関係と共通接線

高校での出発点:辺の上の点から引いた線分と外接円に接する円

混線内接円 では、三角形の 2 辺 $AB$、$AC$ に接し、外接円に内側から接する円を考えた。その円と 2 辺の接点を結ぶ線分の中点は、内心だった。
今度は頂点 $A$ から辺 $BC$ の上の点 $D$ へ線分 $AD$ を引き、2 本の線分 $DA$、$DB$ と外接円に接する円を考える。線分 $AD$ は三角形を 2 つに分けるので、2 辺のなす角 $\angle A$ の代わりに、$D$ での角 $\angle ADB$ に円がはさまる。この円と 2 本の線分の接点を結ぶ直線は、どこを通るだろうか。

直角三角形と垂線の足で円を求める

$B(0,0)$、$C(5,0)$、$A\left(\dfrac95,\dfrac{12}5\right)$ とする。$AB=\sqrt{\dfrac{81}{25}+\dfrac{144}{25}}=3$、$AC=\sqrt{\dfrac{256}{25}+\dfrac{144}{25}}=4$、$BC=5$ で、$\angle A=90^\circ$ の直角三角形である。$D$ は $A$ から辺 $BC$ に下ろした垂線の足 $D\left(\dfrac95,0\right)$ とする。
(1) 外接円と内心。$\angle A=90^\circ$ なので、外接円は $BC$ を直径とする円で、中心 $O\left(\dfrac52,0\right)$、半径 $R=\dfrac52$ である。内心は、重み $a=BC=5$、$b=CA=4$、$c=AB=3$ の重み付きの平均(三角形の内心と傍心)
$$ I=\frac{5A+4B+3C}{12}=\frac{(9,12)+(0,0)+(15,0)}{12}=(2,1) $$
である。
(2) 円を求める。線分 $DA$ は直線 $x=\dfrac95$ の一部、線分 $DB$ は $x$ 軸の一部で、$\angle ADB=90^\circ$ である。この角の内側で 2 本に接する円は、中心 $\left(\dfrac95-t,\ t\right)$、半径 $t$ の円である($t>0$)。外接円に内側から接する条件は、中心どうしの距離が半径の差に等しいこと
$$ \sqrt{\left(\frac95-t-\frac52\right)^2+t^2}=\frac52-t $$
である(2円の位置関係と共通接線)。左辺の中は $\left(t+\dfrac7{10}\right)^2+t^2$ なので、両辺を 2 乗して
$$ t^2+\frac75t+\frac{49}{100}+t^2=\frac{25}4-5t+t^2 $$
で、整理すると $t^2+\dfrac{32}5t-\dfrac{144}{25}=0$、つまり $25t^2+160t-144=0$ である。解の公式から
$$ t=\frac{-160\pm\sqrt{160^2+4\cdot25\cdot144}}{50}=\frac{-160\pm200}{50} $$
で、$t>0$ なので $t=\dfrac45$ である。
(3) 接点。円の中心は $P\left(1,\dfrac45\right)$、半径は $\rho=\dfrac45$ である。線分 $DA$ との接点は $E\left(\dfrac95,\dfrac45\right)$、線分 $DB$ との接点は $F(1,0)$ である。
(4) 直線 $EF$。傾きは $\dfrac{\frac45-0}{\frac95-1}=1$ なので、直線 $EF$ は $y=x-1$ である。内心 $I(2,1)$ を代入すると $1=2-1$ で成り立つ。直線 $EF$ は内心を通る。ただし $I$ は線分 $EF$ の上ではなく、$F$ から見て $E$ の先にある。

ex-saw-start の円は、辺 $BC$ に接していないので混線内接円ではない。それでも、接点を結ぶ直線は内心を通った。この記事で答える問いは次の 3 つである。

  1. 接点を結ぶ直線は、いつも内心を通るか。→ thm-saw-main
  2. 接点の位置 $DF$ を、三角形の辺の長さで書けるか。→ thm-saw-main の (1)
  3. 混線内接円 の定理とどうつながるか。→ rem-saw-mix
    高校の計算この記事での使い方ボックス
    2 円が内側から接する:中心の距離 $=$ 半径の差外接円の点から引いた接線の長さlem-saw-tangent
    方べきの定理同上lem-saw-tangent
    Ptolemy の定理接点の位置 $DF$ を辺の長さで書くthm-saw-main
    内心の位置ベクトル $\dfrac{a\vec a+b\vec b+c\vec c}{a+b+c}$内心が直線 $EF$ の上にあるthm-saw-main
    直角三角形 ABC と垂線の足 D。線分 DA、DB と外接円に接する円の接点 E、F を結ぶ直線は、内心 I を通る 直角三角形 ABC と垂線の足 D。線分 DA、DB と外接円に接する円の接点 E、F を結ぶ直線は、内心 I を通る

言葉の準備

以下、三角形 $ABC$ の辺の長さを $a=BC$、$b=CA$、$c=AB$ とし、外接円を $\Gamma$、その中心を $O$、半径を $R$、内心を $I$ とする。

線分 $DA$、$DB$ と外接円に接する円

三角形 $ABC$ の辺 $BC$ の上に、$B$ と異なる点 $D$ をとる。線分 $DA$、$DB$ に接し、外接円 $\Gamma$ に内側から接する円を $\omega$ とし、中心を $P$、半径を $\rho$ とする。$\omega$ と線分 $DA$、$DB$ の接点を $E$、$F$、$\omega$ と $\Gamma$ の接点を $T$ とする。

「線分 $DA$ に接する」とは、直線 $DA$ に接し、接点が線分 $DA$ の上にあることをいう。「内側から接する」とは、$OP=R-\rho$($\rho< R$)となることで、$\omega$ は $T$ 以外では $\Gamma$ の内部にある(2円の位置関係と共通接線 の定理「2 円の位置関係」の 4)。
$D=C$ のときは、線分 $DA$、$DB$ は辺 $CA$、$CB$ で、$\omega$ は頂点 $C$ の混線内接円である(混線内接円)。
このような円 $\omega$ が、どの $D$ についてもただ 1 つあることは、主定理の後の prop-saw-exist で示す。$\omega$ は $\angle ADB$ の 2 辺に接するので、中心 $P$ は $\angle ADB$ の二等分線の上にあり、$DE=DF$ である(混線内接円 の補題「中心は角の二等分線の上」と同じ理由。円の外の点 $D$ から引いた 2 本の接線の長さは等しい)。

道具:外接円の点から引いた接線の長さ

証明の鍵は、外接円 $\Gamma$ の上の点から $\omega$ に引いた接線の長さが、その点と接点 $T$ の距離に比例することである。

外接円の点からの接線の長さ

円 $\omega$(中心 $P$、半径 $\rho$)が円 $\Gamma$(中心 $O$、半径 $R$)に点 $T$ で内側から接しているとする。$\Gamma$ の上の $T$ 以外の点 $X$ について、$X$ での $\omega$ の方べきは
$$ PX^2-\rho^2=\left(1-\frac\rho R\right)XT^2 $$
である。とくに、$X$ を通る直線が $\omega$ に点 $Z$ で接するとき、$XZ=\sqrt{1-\dfrac\rho R}\;XT$ である。

$T$ を中心とする相似拡大をベクトルで書く

方針:$T$ を中心として $\Gamma$ を $\dfrac\rho R$ 倍に縮めると $\omega$ に重なる。$X$ が移る点 $Y$ は $\omega$ の上にあり、直線 $XT$ の上にある。そこで方べきの定理を使う。
段 1(接点と中心)。2 円は $T$ で内側から接しているので、$T$ は直線 $OP$ の上にあり(2円の位置関係と共通接線 の系「接する 2 円の接点」)、$OT=R$、$PT=\rho$、$P$ は線分 $OT$ の上にある。よって
$$ \overrightarrow{TP}=\frac\rho R\,\overrightarrow{TO} $$
である。
段 2($Y$ は $\omega$ の上)。$\overrightarrow{TY}=\dfrac\rho R\,\overrightarrow{TX}$ となる点 $Y$ をとる。段 1 と合わせて
$$ \overrightarrow{PY}=\overrightarrow{TY}-\overrightarrow{TP}=\frac\rho R\left(\overrightarrow{TX}-\overrightarrow{TO}\right)=\frac\rho R\,\overrightarrow{OX} $$
で、$OX=R$ なので $PY=\rho$ である。つまり $Y$ は $\omega$ の上にある。$X\ne T$ なので $Y\ne T$ で、直線 $XT$ は $\omega$ と 2 点 $T$、$Y$ で交わる。
段 3(方べき)。方べきの定理(高校数学) の定理「方べきの定理(符号つきの形)」により、$X$ での $\omega$ の方べきは $\overrightarrow{XY}\cdot\overrightarrow{XT}$ に等しい。
$$ \overrightarrow{XY}=\overrightarrow{XT}+\overrightarrow{TY}=\overrightarrow{XT}-\frac\rho R\,\overrightarrow{XT}=\left(1-\frac\rho R\right)\overrightarrow{XT} $$
なので、
$$ PX^2-\rho^2=\overrightarrow{XY}\cdot\overrightarrow{XT}=\left(1-\frac\rho R\right)XT^2 $$
である。
段 4(接線の長さ)。$X$ を通る直線が $\omega$ に $Z$ で接するとき、$PZ\perp XZ$ なので、三平方の定理から $XZ^2=PX^2-\rho^2$ である。段 3 と合わせて $XZ^2=\left(1-\dfrac\rho R\right)XT^2$ で、両辺の正の平方根をとればよい。$\square$

内側から接する 2 円。接点 T を中心に外側の円を縮めると内側の円に重なり、外側の円の点 X は直線 XT の上の点 Y に移る。X から内側の円に引いた接線の長さは XT に比例する 内側から接する 2 円。接点 T を中心に外側の円を縮めると内側の円に重なり、外側の円の点 X は直線 XT の上の点 Y に移る。X から内側の円に引いた接線の長さは XT に比例する

接線の長さの比を確かめる

ex-saw-start の円で確かめる。$\rho=\dfrac45$、$R=\dfrac52$ なので $1-\dfrac\rho R=1-\dfrac8{25}=\dfrac{17}{25}$ である。
(1) 接点 $T$。$\overrightarrow{OP}=\left(1-\dfrac52,\dfrac45\right)=\left(-\dfrac32,\dfrac45\right)$ で、$OP=\sqrt{\dfrac94+\dfrac{16}{25}}=\sqrt{\dfrac{289}{100}}=\dfrac{17}{10}$ である($R-\rho=\dfrac52-\dfrac45=\dfrac{17}{10}$ と一致する)。$T$ は $O$ から $\overrightarrow{OP}$ の向きに $R$ 進んだ点で
$$ T=O+\frac{R}{OP}\overrightarrow{OP}=\left(\frac52,0\right)+\frac{25}{17}\left(-\frac32,\frac45\right)=\left(\frac5{17},\frac{20}{17}\right) $$
である。
(2) $X=A$。$\overrightarrow{TA}=\left(\dfrac95-\dfrac5{17},\dfrac{12}5-\dfrac{20}{17}\right)=\dfrac1{85}(128,104)$ なので
$$ AT^2=\frac{128^2+104^2}{85^2}=\frac{16384+10816}{7225}=\frac{27200}{7225}=\frac{64}{17} $$
である。$A$ から $\omega$ への接線は直線 $DA$ で、接点は $E$ なので、接線の長さは $AE=\dfrac{12}5-\dfrac45=\dfrac85$ である。lem-saw-tangent の式では
$$ AE^2=\frac{17}{25}\cdot\frac{64}{17}=\frac{64}{25},\qquad AE=\frac85 $$
で一致する。

道具:接点と $T$ の位置

主定理の証明では、接点 $E$、$F$、$T$ がどこにあるかを使う。図 1 で見たことを補題にしておく。

接点の位置

def-saw-circle の円 $\omega$ について、次が成り立つ。
(1) $E$ は線分 $DA$ の上の $A$ 以外の点、$F$ は線分 $DB$ の上の $B$ 以外の点である。
(2) $T$ は、$\Gamma$ の $C$ を含まない弧 $AB$ の上の、$A$、$B$ 以外の点である。したがって、$\Gamma$ の上に $A$、$T$、$B$、$C$ がこの順に並ぶ。

円のある場所から決める

要点:$\omega$ は $\Gamma$ の周と内部にあり、$\angle ADB$ の内側にある。直線 $DA$ のうち $\Gamma$ の周と内部にある部分は線分であり、$T$ は「$\angle ADB$ の内側にある $\Gamma$ の弧」、つまり $C$ を含まない弧 $AB$ の上にある。接点が $A$ や $B$ に重なると、直線 $DA$ や $BC$ が $\Gamma$ に接することになり、矛盾する。

詳しい証明を開く

段 1($\omega$ のある場所)。$\omega$ の点 $X$ はどれも $OX\le OP+PX=(R-\rho)+\rho=R$ を満たすので、$\omega$ は $\Gamma$ の周と内部にある。また $\omega$ は直線 $DA$、$DB$ に接し、中心 $P$ は $\angle ADB$ の二等分線の上にあるので、$\omega$ は直線 $BC$ について $A$ と同じ側(直線の上を含む)、直線 $AD$ について $B$ と同じ側(直線の上を含む)にある。

段 2($E$ と $F$)。$E$ は $P$ から直線 $DA$ に下ろした垂線の足で、$\angle PDE=\dfrac12\angle ADB<90^\circ$ なので半直線 $DA$ の上にある。$D$ は $\Gamma$ の周か内部にあり、半直線 $DA$ のうち $\Gamma$ の周と内部にある部分は線分 $DA$ である。段 1 より $E$ は $\Gamma$ の周か内部にあるので、$E$ は線分 $DA$ の上にある。もし $E=A$ なら、$A$ は $\omega$ と $\Gamma$ の共有点なので $A=T$ で、直線 $DA$ は $T$ での $\omega$ の接線、つまり $T$ での $\Gamma$ の接線になる(2円の位置関係と共通接線 の系「接する 2 円の接点」)。ところが直線 $DA$ は $\Gamma$ と $A$ 以外の点でも交わる($D$ が $\Gamma$ の内部にあればその先で、$D=C$ なら $C$ で)ので、接線ではない。よって $E\ne A$ である。$F$ についても同じで、$F$ は線分 $DB$ の上の $B$ 以外の点である。

段 3($T\ne A,B,C$)。$T=A$ なら、$A$ は $\omega$ の上にあり、直線 $DA$ は $\omega$ に接するので、$A$ は接点 $E$ に等しく、段 2 に反する。$T=B$ も同じく $B=F$ となり段 2 に反する。$T=C$ なら、直線 $BC$ は $F$ で $\omega$ に接するので $C=F$ となるが、$F$ は線分 $DB$ の上にあるので $D=C=F$ となり、角の頂点 $D$ が円の上にあることになる($DP$ は直角三角形 $DEP$ の斜辺で $DP>\rho$ なので、$D$ は $\omega$ の外部にある)。これは矛盾である。

段 4($T$ の弧)。段 1 より $T$ は直線 $BC$ について $A$ と同じ側にあるので、$A$ を含む弧 $BC$ の上にある。この弧は、$A$ で「$C$ を含まない弧 $AB$」と「$B$ を含まない弧 $AC$」に分かれる。$D\ne C$ のとき、$B$ と $C$ は直線 $AD$ について反対側にあり、弧 $AC$ の $A$ 以外の点は直線 $AD$ について $C$ と同じ側にある(弧 $AC$ は直線 $AD$ と $A$ でしか交わらない)。段 1 より $T$ は直線 $AD$ について $B$ と同じ側(直線の上を含む)にあり、段 3 より $T\ne A,C$ なので、$T$ は弧 $AC$ の上にない。$D=C$ のときは直線 $AD$ は直線 $AC$ で、弧 $AC$ の $A$、$C$ 以外の点は直線 $AC$ について $B$ と反対側にあるので、同じく $T$ は弧 $AC$ の上にない。よって $T$ は $C$ を含まない弧 $AB$ の上の、$A$、$B$ 以外の点である。$\square$

主定理:接点を結ぶ直線は内心を通る

Sawayama の補題

三角形 $ABC$ の辺 $BC$ の上の点 $D$($D\ne B$)について、線分 $DA$、$DB$ に接し外接円に内側から接する円 $\omega$ と、線分 $DA$、$DB$ の接点を $E$、$F$ とする。
(1) $DE=DF=\dfrac{a\cdot AD+b\cdot DB-c\cdot DC}{a+b+c}$ である。
(2) 直線 $EF$ は内心 $I$ を通る。

証明を読む前に、ex-saw-start の数で (1) を確かめる。$a=5$、$b=4$、$c=3$、$AD=\dfrac{12}5$、$DB=\dfrac95$、$DC=\dfrac{16}5$ なので
$$ \frac{5\cdot\frac{12}5+4\cdot\frac95-3\cdot\frac{16}5}{12}=\frac{12+\frac{36}5-\frac{48}5}{12}=\frac{\frac{48}5}{12}=\frac45 $$
で、ex-saw-start の $DF=\dfrac95-1=\dfrac45$ と一致する。

接線の長さと Ptolemy の定理

方針:lem-saw-tangent で $A$、$B$、$C$ から $\omega$ への接線の長さを $AT$、$BT$、$CT$ で書き、Ptolemyの定理 を 4 点 $A$、$T$、$B$、$C$ に使って (1) を出す。次に内心の位置ベクトルを $D$ から見た 2 つの向きで書き、(1) を使って (2) を示す。$t=DE=DF$、$k=\sqrt{1-\dfrac\rho R}$ とおく($\rho< R$ なので $k>0$)。
段 1(3 本の接線の長さ)。直線 $DA$ は $\omega$ に $E$ で接し、$A$ はその上にあるので、$A$ から $\omega$ への接線の長さは $AE$ である。lem-saw-tangent を $X=A$ に使うと(lem-saw-position の (2) より $A\ne T$)、$AE=k\cdot AT$ である。同じく、直線 $BC$ は $\omega$ に $F$ で接し、$B$、$C$ はその上にあるので、$BF=k\cdot BT$、$CF=k\cdot CT$ である。
段 2(Ptolemy の定理)。lem-saw-position の (2) より、$\Gamma$ の上に $A$、$T$、$B$、$C$ がこの順に並ぶ。四角形 $ATBC$ は $\Gamma$ に内接するので、Ptolemyの定理 により、対角線の積は向かい合う辺の積の和に等しく
$$ AB\cdot TC=AT\cdot BC+TB\cdot CA $$
である。両辺に $k$ を掛けて段 1 を使うと、$AB=c$、$BC=a$、$CA=b$ から
$$ c\cdot CF=a\cdot AE+b\cdot BF $$
となる。
段 3(長さを $t$ で書く)。lem-saw-position の (1) より、$E$ は線分 $DA$ の上にあるので $AE=AD-t$、$F$ は線分 $DB$ の上にあるので $BF=DB-t$ である。$C$ は $D$ から見て $F$ と反対の向きにある(または $D=C$)ので $CF=DC+t$ である。段 2 の式に入れると
$$ c\,(DC+t)=a\,(AD-t)+b\,(DB-t) $$
で、$t$ について整理すると $(a+b+c)\,t=a\cdot AD+b\cdot DB-c\cdot DC$ となり、(1) が成り立つ。
段 4(内心を $D$ から見る)。$\vec u=\dfrac{\overrightarrow{DA}}{AD}$、$\vec v=\dfrac{\overrightarrow{DB}}{DB}$ を、$D$ から $A$、$B$ に向かう長さ $1$ のベクトルとする。$E$ は線分 $DA$ の上で $DE=t$、$F$ は線分 $DB$ の上で $DF=t$ なので
$$ \overrightarrow{DE}=t\,\vec u,\qquad \overrightarrow{DF}=t\,\vec v $$
である。内心は $\overrightarrow{DI}=\dfrac{a\,\overrightarrow{DA}+b\,\overrightarrow{DB}+c\,\overrightarrow{DC}}{a+b+c}$ と書ける(三角形の内心と傍心。位置ベクトルの始点を $D$ にとった)。$C$ は $D$ から見て $B$ と反対の向きにあるので $\overrightarrow{DC}=-DC\,\vec v$($D=C$ なら両辺とも $\vec 0$)である。よって
$$ \overrightarrow{DI}=\underbrace{\frac{a\cdot AD}{a+b+c}}_{x}\,\vec u+\underbrace{\frac{b\cdot DB-c\cdot DC}{a+b+c}}_{y}\,\vec v $$
である。
段 5(直線 $EF$ の上にある)。直線 $EF$ の点は $\overrightarrow{DE}+s\left(\overrightarrow{DF}-\overrightarrow{DE}\right)=(1-s)\,t\,\vec u+s\,t\,\vec v$($s$ は実数)と書ける。$\vec u$ と $\vec v$ の係数の和はいつも $t$ である。逆に、係数の和が $t$ の点 $x\vec u+y\vec v$($x+y=t$)は、$s=\dfrac yt$ とおけば直線 $EF$ の点である。段 4 の $x$、$y$ について、(1) から
$$ x+y=\frac{a\cdot AD+b\cdot DB-c\cdot DC}{a+b+c}=t $$
なので、$I$ は直線 $EF$ の上にある。$\square$

prf-saw-main の段 4 の $y$ の符号で、$I$ が線分 $EF$ の上にあるかどうかが分かる。$y\ge0$ なら $I$ は線分 $EF$ の上($x>0$ はいつも成り立つ)、$y<0$ なら $I$ は $F$ から見て $E$ の先にある。ex-saw-start では $y=\dfrac{4\cdot\frac95-3\cdot\frac{16}5}{12}=-\dfrac15<0$ で、$I$ は $E$ の先にあった。

3 辺 13, 14, 15 の三角形と垂線の足

$A(5,12)$、$B(0,0)$、$C(14,0)$ で、$a=14$、$b=15$、$c=13$、内心は $I(6,4)$、外接円は中心 $O\left(7,\dfrac{33}8\right)$、半径 $R=\dfrac{65}8$ である。$D$ を垂線の足 $(5,0)$ にとると、$AD=12$、$DB=5$、$DC=9$ である。
(1) 公式から
$$ DF=\frac{14\cdot12+15\cdot5-13\cdot9}{42}=\frac{168+75-117}{42}=\frac{126}{42}=3 $$
である。$\angle ADB=90^\circ$ なので、$E=(5,3)$、$F=(2,0)$、中心 $P=(2,3)$、半径 $\rho=3$ である。
(2) 本当に外接円に内側から接しているかを確かめる。$\overrightarrow{OP}=\left(-5,3-\dfrac{33}8\right)=\left(-5,-\dfrac98\right)$ で
$$ OP^2=25+\frac{81}{64}=\frac{1681}{64},\qquad OP=\frac{41}8=\frac{65}8-3=R-\rho $$
である。
(3) 直線 $EF$ は傾き $\dfrac{3-0}{5-2}=1$ で $y=x-2$ である。$I(6,4)$ を代入すると $4=6-2$ で成り立つ。

$\angle ADB$ が直角でない配置や、$\angle B$ が鈍角の配置でも、thm-saw-main はそのまま成り立つ。証明は角の大きさや点の並び方で場合を分けていないからである(使った配置の事実は lem-saw-position の 2 つだけ)。次の例で、$B(0,0)$、$C(5,0)$ を共通にした 3 つの三角形を数値で確かめる。

3 つの配置で数値を確かめる

下の表の「円から求めた $DF$」は、$\angle ADB$ の二等分線の上に中心をとり、外接円に内側から接する条件を数値的に解いて求めた値である。「公式の $DF$」は thm-saw-main の (1) の値である。どの配置でも 2 つは一致し、$E$、$F$、$I$ は一直線上にある($\overrightarrow{EF}$ と $\overrightarrow{EI}$ の成分で作る $x_1y_2-x_2y_1$ が $10^{-13}$ 以下)。

3 つの配置の表を開く
$A$$D$$\angle B$$\angle ADB$公式の $DF$円から求めた $DF$内心 $I$
$(1,3)$$(2,0)$$71.57^\circ$$71.57^\circ$$1.240253$$1.240253$$(1.5811,1.1396)$
$(3.5,2)$$(1.5,0)$$29.74^\circ$$135^\circ$$0.328084$$0.328084$$(3.2656,0.8672)$
$(-1,1.5)$$(3,0)$$123.69^\circ$$20.56^\circ$$2.795659$$2.795659$$(0.3091,0.5775)$

1 行目では $b=5$、$c=\sqrt{10}$、$AD=\sqrt{10}$、$DB=2$、$DC=3$ で、公式は $\dfrac{5\sqrt{10}+10-3\sqrt{10}}{5+5+\sqrt{10}}=\dfrac{10+2\sqrt{10}}{10+\sqrt{10}}$ である。分母と分子に $10-\sqrt{10}$ を掛けると $\dfrac{80+10\sqrt{10}}{90}=\dfrac{8+\sqrt{10}}9\approx1.240253$ となる。3 行目は $\angle B$ が鈍角の三角形で、$y=\dfrac{b\cdot DB-c\cdot DC}{a+b+c}>0$ なので $I$ は線分 $EF$ の上にある。2 行目は $y<0$ で、$I$ は $E$ の先にある。

A(1,3)、B(0,0)、C(5,0)、D(2,0) の場合。線分 DA、DB と外接円に接する円の接点 E、F を結ぶ直線が内心 I を通る A(1,3)、B(0,0)、C(5,0)、D(2,0) の場合。線分 DA、DB と外接円に接する円の接点 E、F を結ぶ直線が内心 I を通る
角 B が鈍角の三角形 A(-1,1.5)、B(0,0)、C(5,0) と D(3,0) の場合。円は小さく細長い角にはさまるが、直線 EF はやはり内心 I を通る 角 B が鈍角の三角形 A(-1,1.5)、B(0,0)、C(5,0) と D(3,0) の場合。円は小さく細長い角にはさまるが、直線 EF はやはり内心 I を通る

図 3 は ex-saw-configs の表の 1 行目、図 4 は 3 行目の配置である。

混線内接円に戻る

$D=C$ のとき、$\omega$ は頂点 $C$ の混線内接円である(混線内接円)。thm-saw-main の (1) は $AD=CA=b$、$DB=CB=a$、$DC=0$ から
$$ DE=DF=\frac{ab+ba}{a+b+c}=\frac{2ab}{a+b+c} $$
となり、prf-saw-main の段 4 の係数は $x=y=\dfrac{ab}{a+b+c}$ で等しい。係数が等しいので、$I$ は線分 $EF$ の中点である。これは 混線内接円 の定理「接点の弦の中点」(接点を結ぶ線分の中点は内心)を頂点 $C$ で述べたものである。
長さも合っている。混線内接円 の記事の式では、頂点 $C$ から接点までの長さは $\dfrac{r}{\sin\frac C2\cos\frac C2}=\dfrac{2r}{\sin C}$ である。面積を $S$ とすると $r=\dfrac{2S}{a+b+c}$、$\sin C=\dfrac{2S}{ab}$ なので、$\dfrac{2r}{\sin C}=\dfrac{4S}{a+b+c}\cdot\dfrac{ab}{2S}=\dfrac{2ab}{a+b+c}$ で一致する。

最後に、def-saw-circle の円がいつもただ 1 つあることを示しておく。

円はただ 1 つある

辺 $BC$ の上のどの点 $D$($D\ne B$)についても、def-saw-circle の円 $\omega$ はただ 1 つある。

中間値の定理で円を大きくしていく

要点:一意性は thm-saw-main の (1) から出る($DF$ が決まれば中心と半径が決まる)。存在は、$\angle ADB$ の二等分線の上で中心を $D$ から遠ざけながら円を大きくし、「外接円からはみ出す量」が負から正に変わる所を中間値の定理(高校数学)で見つける。

詳しい証明を開く

段 1(一意性)。$\omega$ があれば、中心 $P$ は $\angle ADB$ の二等分線の上にあり、$DF$ は thm-saw-main の (1) の値に決まる。$\theta=\angle ADB$ とすると、$DP=\dfrac{DF}{\cos\frac\theta2}$、$\rho=DF\tan\dfrac\theta2$ なので、中心と半径もただ 1 通りに決まる。

段 2(存在、$D\ne C$ のとき)。$\angle ADB$ の二等分線の向きの長さ $1$ のベクトルを $\vec w$ とし、$s\ge0$ に対して $P_s=D+s\vec w$、$\rho_s=s\sin\dfrac\theta2$ とおく。中心 $P_s$、半径 $\rho_s$ の円は直線 $DA$、$DB$ に接する($P_s$ から 2 直線までの距離はどちらも $s\sin\dfrac\theta2$)。$g(s)=OP_s+\rho_s-R$ は $s$ の連続関数である。$D$ は弦 $BC$ の端点でない点なので $\Gamma$ の内部にあり、$g(0)=OD-R<0$ である。また三角形の不等式から $OP_s\ge DP_s-OD=s-OD$ なので、$g(s)\ge s-OD+s\sin\dfrac\theta2-R$ で、$s$ を大きくすると $g(s)>0$ になる。中間値の定理から $g(s_0)=0$ となる $s_0>0$ がある。このとき $OP_{s_0}=R-\rho_{s_0}\ge0$ である。$\rho_{s_0}=R$ なら $P_{s_0}=O$ で円は $\Gamma$ そのものになるが、$\Gamma$ は直線 $BC$ と 2 点で交わるので直線 $BC$ に接しない。よって $\rho_{s_0}< R$ で、この円は $\Gamma$ に内側から接する。接点が線分 $DA$、$DB$ の上にあることは、prf-saw-position の段 2 と同じ議論で分かる(そこでは円が $\Gamma$ の周と内部にあることと、中心が二等分線の上にあることしか使っていない)。

段 3($D=C$ のとき)。$\omega$ は頂点 $C$ の混線内接円で、混線内接円 の定理「混線内接円の半径」により、ただ 1 つある。$\square$

例と反例

thm-saw-main の条件を外すと、次のように崩れる。どちらも ex-saw-start の直角三角形と垂線の足 $D\left(\dfrac95,0\right)$ で確かめる。

外す条件反例成り立たなくなること
外接円に 内側から 接する(このとき接点が線分 $DA$、$DB$ の上にあることも外れる)直線 $DA$、$DB$ に接し、外接円に外側から接する円(接点は線分の延長の上。ex-saw-cx-outer)直線 $EF$ が内心を通る
外接円に接する直線 $DA$、$DB$ に接し、外接円に接しない円(ex-saw-cx-free)直線 $EF$ が内心を通る
反例:外接円に外側から接する円

中心 $\left(\dfrac95-t,\ t\right)$、半径 $t$ の円が外接円に 外側から 接する条件は
$$ \sqrt{\left(t+\frac7{10}\right)^2+t^2}=\frac52+t $$
である。両辺を 2 乗して整理すると $t^2-\dfrac{18}5t-\dfrac{144}{25}=0$、つまり $25t^2-90t-144=0$ で、
$$ t=\frac{90\pm\sqrt{90^2+4\cdot25\cdot144}}{50}=\frac{90\pm150}{50} $$
から $t=\dfrac{24}5$ である。円の中心は $\left(-3,\dfrac{24}5\right)$、半径は $\dfrac{24}5$ で、直線 $DA$ との接点は $E'\left(\dfrac95,\dfrac{24}5\right)$、直線 $DB$ との接点は $F'(-3,0)$ である。$E'$ は線分 $DA$ を $A$ の先に延ばした部分に、$F'$ は線分 $DB$ を $B$ の先に延ばした部分にある。
直線 $E'F'$ は傾き $\dfrac{\frac{24}5}{\frac95+3}=1$ で、$y=x+3$ である。内心 $I(2,1)$ を代入すると、右辺は $5$ で左辺の $1$ と違う。直線 $E'F'$ は内心を通らない。

直角三角形と垂線の足 D。線分 DA、DB の延長と外接円に外側から接する円では、接点を結ぶ直線は内心 I を通らない 直角三角形と垂線の足 D。線分 DA、DB の延長と外接円に外側から接する円では、接点を結ぶ直線は内心 I を通らない

反例:外接円に接しない円

中心 $\left(\dfrac95-t,\ t\right)$、半径 $t$ の円は、どの $t>0$ でも直線 $DA$、$DB$ に $E_t\left(\dfrac95,t\right)$、$F_t\left(\dfrac95-t,0\right)$ で接する。直線 $E_tF_t$ の傾きは $\dfrac{t}{t}=1$ で、
$$ E_tF_t:\ y=x-\left(\frac95-t\right) $$
である。$I(2,1)$ を通る条件は $1=2-\dfrac95+t$、つまり $t=\dfrac45$ で、これは外接円に内側から接する ex-saw-start の円だけである。たとえば $t=\dfrac12$ の円では、直線は $y=x-\dfrac{13}{10}$ で、$x=2$ のとき $y=\dfrac7{10}\ne1$ となり、内心を通らない。

ex-saw-cx-free から分かるように、$\angle ADB$ に接する円の接点を結ぶ直線はどれも平行($\angle ADB$ の二等分線に垂直)で、その中で内心を通るのは 1 本だけである。「外接円に内側から接する」という条件が、その 1 本を選んでいる。

大学数学で見る:相似拡大と Casey の定理

証明で使った lem-saw-tangent は、接点 $T$ を中心とする相似拡大の言い換えだった。同じ見方から、ほかにもいくつかの事実が出る。

相似拡大と Casey の定理で見る話を開く

(1) 弧の中点を通る直線。$T$ を中心とし比 $\dfrac R\rho$ の相似拡大は $\omega$ を $\Gamma$ に移し、$F$ での接線 $BC$ を、$BC$ に平行な $\Gamma$ の接線に移す。$\omega$ は直線 $BC$ について $A$ の側にあるので、移った接線の接点は $A$ を含まない弧 $BC$ の中点 $M$ である。よって $T$、$F$、$M$ は一直線上にある。ex-saw-start では $M\left(\dfrac52,-\dfrac52\right)$、$T\left(\dfrac5{17},\dfrac{20}{17}\right)$、$F(1,0)$ で、$\overrightarrow{TF}=\dfrac1{17}(12,-20)$、$\overrightarrow{FM}=\left(\dfrac32,-\dfrac52\right)$ の傾きはどちらも $-\dfrac53$ である。

(2) 同じ円の上の 4 点。$A$、$E$、$I$、$T$ は同じ円の上にある。ex-saw-start、ex-saw-main、ex-saw-configs の 5 つの配置で、4 点を通る円の条件の行列式が $10^{-10}$ 以下になることを数値で確かめた。この記事では証明しない。

(3) Casey の定理。prf-saw-main の段 2 で得た $c\cdot CF=a\cdot AE+b\cdot BF$ は、$\Gamma$ に接する 4 つの「円」$A$、$\omega$、$B$、$C$($A$、$B$、$C$ は半径 $0$ の円とみなす)について、共通接線の長さの間の関係 $AE\cdot BC+BF\cdot CA=AB\cdot CF$ を述べている。これは Caseyの定理 の形で、lem-saw-tangent は同記事の補題「共通外接線の長さと弦の長さ」で一方の半径を $0$ にした式にあたる。

さらに先へ

  • 辺 $BC$ の上の同じ点 $D$ に対して、線分 $DA$、$DC$ と外接円に接する円も考えられる。こちらの接点を結ぶ直線も、thm-saw-main で $B$ と $C$ の役割を入れかえると内心を通る。2 つの円の中心と内心が一直線上に並ぶことが Sawayama–Thébaultの定理 である。
  • 外接円に接する円の接線の長さの関係は、Caseyの定理 で一般の形になる。

関連項目

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