位置ベクトルと内分点(position vectors and division points)とは、基準の点 $O$ を決めて点 $P$ を $\vec p=\overrightarrow{OP}$ で表し、点を計算で求める方法である。$\overrightarrow{AB}=\vec b-\vec a$ であり、線分 $AB$ を $m:n$ に内分する点は $\frac{n\vec a+m\vec b}{m+n}$、三角形の重心は $\frac{\vec a+\vec b+\vec c}{3}$ である。$A\ne B$ のとき、$P$ が直線 $AB$ 上にあることは $\vec p=s\vec a+t\vec b$($s+t=1$)と書けることと同値で、さらに $s,t\ge0$ なら線分上にある。係数の和が $1$ の式だけが基準の点によらず点を定める(アフィン結合)。
前提知識: ベクトル, 内分点・外分点の座標
座標平面で、2 点 $A(x_1,y_1)$、$B(x_2,y_2)$ を結ぶ線分 $AB$ を $m:n$ に内分する点の座標は
$$
\left(\frac{nx_1+mx_2}{m+n},\ \frac{ny_1+my_2}{m+n}\right)
$$
である(座標での証明は 内分点・外分点の座標 にある)。まず、この公式を使う計算を 2 つの例で見る。
$A(1,4)$、$B(7,1)$ とする。
$A(1,4)$、$B(7,1)$、$C(4,7)$ を頂点とする三角形の重心 $G$ は、3 つの頂点の座標の平均
$$
G\left(\frac{1+7+4}3,\ \frac{4+1+7}3\right)=G(4,4)
$$
である。
座標の式は $x$ 座標と $y$ 座標で同じ形をしている。そこで、2 つの座標をまとめて 1 つのベクトルとして扱うと、式が短くなる。この記事では、点を原点からのベクトルで表す「位置ベクトル」を使って、次の問いに答える。
| 高校の計算 | この記事での見方 | ボックス |
|---|---|---|
| $\overrightarrow{AB}=\vec b-\vec a$ | 「終点の位置ベクトル − 始点の位置ベクトル」 | lem-pvd-difference |
| 内分点 $\frac{n\vec a+m\vec b}{m+n}$ | 係数の和が $1$ の式 | thm-pvd-division |
| 重心 $\frac{\vec a+\vec b+\vec c}3$ | 3 本の中線を $2:1$ に分ける点 | cor-pvd-centroid |
| $\vec p=s\vec a+t\vec b$、$s+t=1$ | 直線 $AB$ 上にある条件 | thm-pvd-line |
| 係数の和が $1$ | 原点の取り方によらない | thm-pvd-origin |
| 係数比較で交点を求める | 平行でない 2 つのベクトルによる表し方はただ 1 通り | prop-pvd-decomp |
| 係数の和が $1$ の 1 次結合 | アフィン結合(大学数学) | rem-pvd-affine |
平面(または空間)に 1 つの点 $O$ を決めておく。点 $P$ に対し、ベクトル $\vec p=\overrightarrow{OP}$ を、$O$ を基準とする点 $P$ の 位置ベクトル という。$O$ を基準の点(原点)という。
点を大文字、その位置ベクトルを同じ文字の小文字で $A(\vec a)$、$B(\vec b)$ のように書く。$O$ を座標の原点にとれば、点 $P(x,y)$ の位置ベクトルは成分がちょうど $P$ の座標に等しいベクトル $\vec p=(x,y)$ である。
基準の点 $O$ を決めると、点 $P$ と位置ベクトル $\vec p$ は 1 対 1 に対応する。$\vec p$ が決まれば、$O$ から $\vec p$ だけ進んだ点として $P$ がただ 1 つ決まるからである。
$A(\vec a)$、$B(\vec b)$ に対し、$\overrightarrow{AB}=\vec b-\vec a$ である。
方針:$A$ から $B$ へ行くのに、いったん $O$ を経由する。
段 1(和に分ける)。ベクトルの和の定義(始点と終点をつなぐ)により、$\overrightarrow{AB}=\overrightarrow{AO}+\overrightarrow{OB}$ である。
段 2(向きを変える)。$\overrightarrow{AO}$ は $\overrightarrow{OA}$ と大きさが同じで向きが逆なので、$\overrightarrow{AO}=-\overrightarrow{OA}=-\vec a$ である。また $\overrightarrow{OB}=\vec b$ である。
段 3(まとめる)。段 1 に代入して $\overrightarrow{AB}=-\vec a+\vec b=\vec b-\vec a$ である。$\square$
$m$、$n$ を正の数とし、$A\ne B$ とする。
$A(\vec a)$、$B(\vec b)$、$A\ne B$ とし、$m$、$n$ を正の数とする。
これは、内分点・外分点の座標 で $x$ 座標と $y$ 座標ごとに示した公式を、2 つの成分をまとめて 1 つの式に書いたものである。ここでは成分を使わずに、ベクトルの図形的な意味から示す。
方針:$P$ は直線 $AB$ 上にあるので、$\overrightarrow{AP}$ は $\overrightarrow{AB}$ の実数倍である。その倍率を比 $m:n$ から求め、lem-pvd-difference で位置ベクトルに直す。
段 1(内分の倍率)。内分点 $P$ は線分 $AB$ 上にあり、$AP:PB=m:n$ なので、$AP=\frac{m}{m+n}AB$ である。$\overrightarrow{AP}$ と $\overrightarrow{AB}$ は同じ向きなので、$\overrightarrow{AP}=\frac{m}{m+n}\overrightarrow{AB}$ である。
段 2(内分点の位置ベクトル)。$\vec p=\vec a+\overrightarrow{AP}$ と lem-pvd-difference により
$$
\vec p=\vec a+\frac{m}{m+n}(\vec b-\vec a)=\frac{(m+n)\vec a-m\vec a+m\vec b}{m+n}=\frac{n\vec a+m\vec b}{m+n}
$$
である。
段 3(外分で $m>n$ の場合)。def-pvd-division の 2 の後で見たとおり、$m>n$ なら $P$ は $B$ の先にあるので、$AP=AB+BP$ である。$AP:PB=m:n$ から $BP=\frac nm AP$ なので、$AP-\frac nm AP=AB$、すなわち $AP=\frac{m}{m-n}AB$ である。$\overrightarrow{AP}$ は $\overrightarrow{AB}$ と同じ向きなので $\overrightarrow{AP}=\frac{m}{m-n}\overrightarrow{AB}$ である。
段 4(外分で $m< n$ の場合)。同じく def-pvd-division により、$m< n$ なら $P$ は $A$ の手前にあるので、$PB=PA+AB$ である。$PB=\frac nm AP$ なので $\frac nm AP-AP=AB$、すなわち $AP=\frac{m}{n-m}AB$ である。$\overrightarrow{AP}$ は $\overrightarrow{AB}$ と逆向きなので $\overrightarrow{AP}=-\frac{m}{n-m}\overrightarrow{AB}=\frac{m}{m-n}\overrightarrow{AB}$ である。段 3 と同じ式になった。
段 5(外分点の位置ベクトル)。段 3・段 4 のどちらでも $\overrightarrow{AP}=\frac{m}{m-n}\overrightarrow{AB}$ なので
$$
\vec p=\vec a+\frac{m}{m-n}(\vec b-\vec a)=\frac{(m-n)\vec a-m\vec a+m\vec b}{m-n}=\frac{-n\vec a+m\vec b}{m-n}
$$
である。$\square$
外分の公式は、内分の公式の $n$ を $-n$ に置き換えたものである。
$A(1,4)$、$B(7,1)$、原点 $O$ を基準にする(図1)。
線分 $AB$ を $2:1$ に内分する点 $P$ と外分する点 $Q$。位置ベクトル $\vec p$、$\vec q$ が $\vec a$、$\vec b$ の係数つきの和で書けることを見る図。
内分の公式を 2 回使うと、三角形の重心が求まる。三角形の頂点と、向かい合う辺の中点を結ぶ線分を 中線 という。
三角形 $ABC$ の頂点を $A(\vec a)$、$B(\vec b)$、$C(\vec c)$ とする。3 本の中線は 1 点で交わり、その点 $G$ は各中線を頂点の側から $2:1$ に内分する。$G$ の位置ベクトルは
$$
\vec g=\frac{\vec a+\vec b+\vec c}{3}
$$
である。この点 $G$ を三角形 $ABC$ の 重心 という。
方針:内分点・外分点の座標 の重心の証明と同じ筋道(中線を $2:1$ に内分する点を計算し、3 本とも同じ点になることを見る)を、ベクトルで書く。
段 1($A$ からの中線)。辺 $BC$ の中点を $L$ とすると、thm-pvd-division の 1($m=n=1$)で $\vec l=\frac{\vec b+\vec c}2$ である。中線 $AL$ を $2:1$ に内分する点の位置ベクトルは、同じく thm-pvd-division の 1($m=2$、$n=1$)で
$$
\frac{1\cdot\vec a+2\,\vec l}{3}=\frac{\vec a+\vec b+\vec c}{3}
$$
である。
段 2(残りの 2 本とまとめ)。この式は $\vec a$、$\vec b$、$\vec c$ を入れかえても変わらないので、$B$ からの中線、$C$ からの中線を $2:1$ に内分する点も同じ式になる。位置ベクトルが同じ点は同じ点なので、3 本の中線はこの 1 点で交わる。$\square$
座標での証明では $x$ 座標と $y$ 座標で同じ計算を 2 回したが、ベクトルで書くと 1 回で済む。しかも成分を使っていないので、同じ証明が空間の三角形(成分が 3 つ)でもそのまま成り立つ。
三角形の重心の性質(中線の長さの比、面積を 3 等分することなど)は 三角形の重心(高校数学) で、3 本の線が 1 点で交わる条件の一般形は Cevaの定理(高校数学) で扱う。
内分点の公式 $\frac{n\vec a+m\vec b}{m+n}=\frac{n}{m+n}\vec a+\frac{m}{m+n}\vec b$ では、$\vec a$ と $\vec b$ の係数の和が $\frac{n}{m+n}+\frac{m}{m+n}=1$ である。外分点の公式でも $\frac{-n}{m-n}+\frac{m}{m-n}=1$、重心でも $\frac13+\frac13+\frac13=1$ である。この「係数の和が $1$」が何を意味するかを、2 つの定理で見る。
$A(\vec a)$、$B(\vec b)$、$A\ne B$ とする。
方針:「$P$ が直線 $AB$ 上にある」を「$\overrightarrow{AP}$ が $\overrightarrow{AB}$ の実数倍」と言い換え、lem-pvd-difference で位置ベクトルの式に直す。
段 1(言い換え)。$P$ が直線 $AB$ 上にあることは、$\overrightarrow{AP}=\vec 0$($P=A$)であるか、$\overrightarrow{AP}$ が $\overrightarrow{AB}$ と平行であることと同じである。どちらの場合も、ある実数 $t$ で $\overrightarrow{AP}=t\,\overrightarrow{AB}$ と書ける($P=A$ なら $t=0$)。逆に $\overrightarrow{AP}=t\,\overrightarrow{AB}$ なら、$P$ は $A$ から直線 $AB$ の方向に進んだ点なので、直線 $AB$ 上にある。
段 2(位置ベクトルに直す)。lem-pvd-difference により、$\overrightarrow{AP}=t\,\overrightarrow{AB}$ は $\vec p-\vec a=t(\vec b-\vec a)$、すなわち
$$
\vec p=(1-t)\vec a+t\vec b
$$
と同じである。$s=1-t$ とおけば $\vec p=s\vec a+t\vec b$、$s+t=1$ である。逆に $s+t=1$ で $\vec p=s\vec a+t\vec b$ なら、$s=1-t$ を代入して $\vec p-\vec a=t(\vec b-\vec a)$ となり、段 1 により $P$ は直線 $AB$ 上にある。これで 1 の前半が示せた。
段 3(ただ 1 通り)。$\vec p=(1-t)\vec a+t\vec b=(1-t')\vec a+t'\vec b$ とすると、移項して $(t-t')(\vec b-\vec a)=\vec 0$ である。$A\ne B$ なので $\vec b-\vec a\ne\vec 0$ であり、$t-t'=0$ である。よって $t$ が、したがって $s=1-t$ もただ 1 通りに決まる。
段 4(線分)。$P$ が線分 $AB$ 上にあることは、$\overrightarrow{AP}=t\,\overrightarrow{AB}$ の $t$ が $0\le t\le1$ を満たすことと同じである($t=0$ で $A$、$t=1$ で $B$、その間で線分の途中の点)。$0\le t\le1$ は、$t\ge0$ かつ $s=1-t\ge0$ と同じである。これで 2 が示せた。$\square$
$\vec p=(1-t)\vec a+t\vec b$ で $0< t<1$ のとき、$P$ は線分 $AB$ を $t:(1-t)$ に内分する点である(thm-pvd-division の 1 で $m=t$、$n=1-t$ とおくと $m+n=1$ になる)。
$A(1,4)$、$B(7,1)$ とし、$\vec p=(1-t)\vec a+t\vec b$ とする。
同じ $A(1,4)$、$B(7,1)$ で、点 $R(4,3)$ が直線 $AB$ 上にあるかを調べる。$(4,3)=(1-t)(1,4)+t(7,1)=(1+6t,\ 4-3t)$ となる $t$ があるかを見る。$x$ 成分から $1+6t=4$、$t=\frac12$ である。このとき $y$ 成分は $4-\frac32=\frac52\ne3$ なので、両方を満たす $t$ はない。よって $R$ は直線 $AB$ 上にない。一方 $\left(4,\frac52\right)$ は $t=\frac12$ で直線上にあり、ex-pvd-start-division の中点である。
次の定理は、係数の和が $1$ の式が「原点の選び方によらない」ことを述べる。位置ベクトルは基準の点 $O$ を決めて初めて定まるので、$O$ を替えたときに同じ点を表すかどうかは、計算してみないと分からない。
点 $A_1,\dots,A_k$ と実数 $s_1,\dots,s_k$ をとる。基準の点 $O$ を 1 つ決め、
$$
\overrightarrow{OP}=s_1\overrightarrow{OA_1}+s_2\overrightarrow{OA_2}+\dots+s_k\overrightarrow{OA_k}
$$
で点 $P$ を定める。この点 $P$ が基準の点 $O$ の選び方によらないための必要十分条件は、$s_1+s_2+\dots+s_k=1$ である。
方針:基準を $O$ から別の点 $O'$ に替えて同じ式で点 $P'$ を定め、$\overrightarrow{O'P'}$ と $\overrightarrow{O'P}$ の差を計算する。差が $\vec 0$ になるのがどんなときかを見る。
段 1($O'$ で定めた点)。$O'$ を基準にすると、同じ式で定まる点 $P'$ は $\overrightarrow{O'P'}=\sum_{i=1}^k s_i\overrightarrow{O'A_i}$ を満たす。ベクトルの和で $\overrightarrow{O'A_i}=\overrightarrow{O'O}+\overrightarrow{OA_i}$ なので
$$
\overrightarrow{O'P'}=\sum_{i=1}^k s_i\bigl(\overrightarrow{O'O}+\overrightarrow{OA_i}\bigr)=\Bigl(\sum_{i=1}^k s_i\Bigr)\overrightarrow{O'O}+\sum_{i=1}^k s_i\overrightarrow{OA_i}
$$
である。最後の和は $P$ の定義により $\overrightarrow{OP}$ に等しい。
段 2($O$ で定めた点を $O'$ から見る)。一方 $\overrightarrow{O'P}=\overrightarrow{O'O}+\overrightarrow{OP}$ である。
段 3(差)。段 1 から段 2 を引くと、$\sigma=s_1+\dots+s_k$ とおいて
$$
\overrightarrow{O'P'}-\overrightarrow{O'P}=(\sigma-1)\,\overrightarrow{O'O}
$$
である。$\overrightarrow{O'P'}-\overrightarrow{O'P}=\overrightarrow{PP'}$ なので、$P'=P$ となるのは右辺が $\vec 0$ のときに限る。
段 4(十分性)。$\sigma=1$ なら、どの $O'$ でも右辺は $\vec 0$ で、$P'=P$ である。
段 5(必要性)。$\sigma\ne1$ なら、$O'\ne O$ となる $O'$ をとると $\overrightarrow{O'O}\ne\vec 0$ なので、右辺は $\vec 0$ でなく、$P'\ne P$ である。つまり基準の点によって $P$ が変わる。$\square$
$A(2,0)$、$B(0,2)$ とし、2 つの基準の点 $O(0,0)$ と $O'(3,1)$ で比べる(図2)。$O'$ から見ると $\overrightarrow{O'A}=(-1,-1)$、$\overrightarrow{O'B}=(-3,1)$ である。
基準の点を $O$ から $O'$ に替えたとき。係数の和が $1$ の式 $\frac12\vec a+\frac12\vec b$ は同じ点 $M$ を表し、係数の和が $2$ の式 $\vec a+\vec b$ は、$O$ からは $R$、$O'$ からは別の点 $R'$ を表すことを見る図。
thm-pvd-origin により、係数の和が $1$ の式は基準の点をいちいち断らなくても意味をもつ。そこで、点と位置ベクトルを同じ文字で表して
$$
P=\frac{nA+mB}{m+n},\qquad G=\frac{A+B+C}{3}
$$
のように「点の式」として書くことがある(Cevaの定理(高校数学) の後半はこの書き方を使う)。係数の和が $1$ でない式、たとえば $A+B$ は、点の式としては意味をもたない(ex-pvd-origin の 2)。
2 直線の交点を求めるには、同じ点を 2 通りに表して係数を比べる。その根拠になるのが次の命題である。
平面上の $\vec 0$ でない 2 つのベクトル $\vec a$、$\vec b$ が平行でないとする。このとき、平面上のどのベクトル $\vec p$ も
$$
\vec p=s\vec a+t\vec b\qquad(s,\ t\ \text{は実数})
$$
の形に、ただ 1 通りに表せる。特に、$s\vec a+t\vec b=s'\vec a+t'\vec b$ ならば $s=s'$ かつ $t=t'$ である(係数比較)。
方針:存在は、$\vec b$ に平行な直線を引いて $\vec p$ を 2 つの向きに分けて示す。一意性は、2 通りの表し方の差をとり、$\vec a$、$\vec b$ が平行でないことを使う。
段 1(点をとる)。点 $O$ をとり、$\vec a=\overrightarrow{OA}$、$\vec b=\overrightarrow{OB}$、$\vec p=\overrightarrow{OP}$ となる点 $A$、$B$、$P$ を定める。
段 2(存在)。$P$ を通り直線 $OB$ に平行な直線 $\ell$ を引く。直線 $OA$ と直線 $OB$ は平行でないので、$\ell$ と直線 $OA$ も平行でなく、ただ 1 点 $Q$ で交わる。$Q$ は直線 $OA$ 上にあるので、ある実数 $s$ で $\overrightarrow{OQ}=s\vec a$ と書ける。$\overrightarrow{QP}$ は $\vec 0$ であるか $\ell$ の向き、つまり $\vec b$ に平行なので、ある実数 $t$ で $\overrightarrow{QP}=t\vec b$ と書ける。よって $\vec p=\overrightarrow{OQ}+\overrightarrow{QP}=s\vec a+t\vec b$ である。
段 3(一意性)。$s\vec a+t\vec b=s'\vec a+t'\vec b$ とする。移項すると $(s-s')\vec a=(t'-t)\vec b$ である。もし $s\ne s'$ なら、両辺を $s-s'$ で割って $\vec a=\frac{t'-t}{s-s'}\vec b$ となる。$\vec a\ne\vec 0$ なので $\frac{t'-t}{s-s'}\ne0$ であり、$\vec a$ は $\vec b$ の $0$ でない実数倍、つまり $\vec b$ に平行である。これは仮定に反する。よって $s=s'$ である。すると $(t'-t)\vec b=\vec 0$ で、$\vec b\ne\vec 0$ なので $t=t'$ である。$\square$
$\vec a=(2,1)$、$\vec b=(1,3)$ とする。$2\cdot3-1\cdot1=5\ne0$ なので、この 2 つは平行でない(成分が比例しない)。
三角形 $OAB$ で $\overrightarrow{OA}=\vec a$、$\overrightarrow{OB}=\vec b$ とする。辺 $OA$ を $2:1$ に内分する点を $P$、辺 $OB$ の中点を $Q$ とし、線分 $AQ$ と線分 $BP$ の交点を $X$ とする。$\overrightarrow{OX}$ を $\vec a$、$\vec b$ で表す(図3)。
三角形 $OAB$ で、$AQ$ と $BP$ の交点 $X$ を求める。$X$ を 2 本の直線のそれぞれで表し、係数を比べることを見る図。
平行四辺形 $OACB$ で $\overrightarrow{OA}=\vec a$、$\overrightarrow{OB}=\vec b$ とすると、$\overrightarrow{AC}=\overrightarrow{OB}$ なので $\overrightarrow{OC}=\vec a+\vec b$ である。
この記事の定理には、どれも仮定が付いている。仮定を 1 つ外すと何が崩れるかを、次の表にまとめる。
| 外した仮定 | 崩れる主張 | ボックス |
|---|---|---|
| $\vec a$、$\vec b$ が平行でない | ただ 1 通りに表せる・係数比較(prop-pvd-decomp) | ex-pvd-parallel |
| $A\ne B$ | $s$、$t$ がただ 1 通りに決まる(thm-pvd-line の 1) | ex-pvd-same-point |
| 係数の和が $1$ | 原点の取り方によらない(thm-pvd-origin) | ex-pvd-origin の 2 |
| $s\ge0$、$t\ge0$ | 線分 $AB$ 上にある(thm-pvd-line の 2) | ex-pvd-line の 2・3 |
| 外分で $m\ne n$ | 外分点がある(thm-pvd-division の 2) | ex-pvd-equal-ratio |
$\vec a=(1,2)$、$\vec b=(2,4)$ とする。どちらも $\vec 0$ でないが、$\vec b=2\vec a$ なので平行である。成分で見ると $1\cdot4-2\cdot2=0$ である。
$A=B$ とし、その点の位置ベクトルを $\vec a=\vec b=(1,4)$ とする。$s+t=1$ なら
$$
s\vec a+t\vec b=(s+t)\vec a=\vec a
$$
なので、$(s,t)=(1,0)$ でも $(0,1)$ でも $(3,-2)$ でも同じ点 $A$ を表す。thm-pvd-line の「$s$、$t$ はただ 1 通りに決まる」が崩れる。prf-pvd-line の段 3 では $\vec b-\vec a\ne\vec 0$ を使って $t-t'=0$ を導いていたが、$A=B$ では $\vec b-\vec a=\vec 0$ なので、この議論ができない。そもそも $A=B$ では「直線 $AB$」が 1 本に決まらない。
$m=n$ のとき、thm-pvd-division の 2 の式 $\frac{-n\vec a+m\vec b}{m-n}$ は分母が $0$ で、意味をもたない。図形で見ても、$AP=PB$ となる点 $P$ は直線 $AB$ 上で線分の外にはない。$P$ が $B$ の先にあれば $AP=AB+BP>BP$ であり、$P$ が $A$ の手前にあれば $PB=PA+AB>PA$ だからである。
比を $1:1$ に近づけると、外分点は遠くへ離れていく。$A(1,4)$、$B(7,1)$ で計算すると次のとおりである。
ここまでは、基準の点 $O$ を 1 つ決めて、点を位置ベクトルで表して計算してきた。これが高校数学での解き方である。大学数学では、はじめから基準の点を決めずに「点」と「ベクトル」を別のものとして扱う。点と点の差はベクトルであり($\overrightarrow{AB}$)、点にベクトルを足すと点になる($A$ から $\overrightarrow{AB}$ だけ進むと $B$)。このように考えた点の集まりを アフィン空間 という。
| 高校数学で解く | 大学数学で見る | |
|---|---|---|
| 点の表し方 | 基準の点 $O$ を決めて位置ベクトル $\vec p$ | 基準の点を決めない |
| $\overrightarrow{AB}$ | $\vec b-\vec a$(lem-pvd-difference) | 点 $B$ と点 $A$ の差 |
| 内分点・重心 | 位置ベクトルの公式(thm-pvd-division、cor-pvd-centroid) | 係数の和が $1$ の結合(def-pvd-affine) |
| 係数の和が $1$ | 計算で確かめる性質(thm-pvd-origin) | 点どうしの結合が意味をもつための条件 |
| 直線 $AB$ | $\vec p=s\vec a+t\vec b$、$s+t=1$(thm-pvd-line) | 2 点の結合の全体 |
thm-pvd-origin は、点どうしに係数を掛けて足す式のうち、基準の点によらずに点を 1 つ決めるのは係数の和が $1$ のものだけだ、と言っている。そこで、次のように定める。
点 $A_1,\dots,A_k$ と、和が $1$ の実数 $s_1,\dots,s_k$($s_1+\dots+s_k=1$)をとる。基準の点 $O$ を 1 つ決めて
$$
\overrightarrow{OP}=s_1\overrightarrow{OA_1}+\dots+s_k\overrightarrow{OA_k}
$$
で定まる点 $P$ は、thm-pvd-origin により $O$ の選び方によらない。この点 $P$ を、点 $A_1,\dots,A_k$ の係数 $s_1,\dots,s_k$ による アフィン結合 といい、
$$
P=s_1A_1+\dots+s_kA_k
$$
と書く。この名前と定義は BV04 の §2.1.2(p. 21)にある。
$A(1,4)$、$B(7,1)$、$C(4,7)$ とする。
係数の和が $1$ でない結合は点を表さない(ex-pvd-origin の 2)。ただし、係数の和が $0$ の結合は、点ではなくベクトルを表す。
点 $A_1,\dots,A_k$ と実数 $s_1,\dots,s_k$ が $s_1+\dots+s_k=0$ を満たすとする。このとき、ベクトル $s_1\overrightarrow{OA_1}+\dots+s_k\overrightarrow{OA_k}$ は基準の点 $O$ の選び方によらない。
方針:prf-pvd-origin の段 1 と同じ計算をする。
段 1(書き直す)。別の基準の点 $O'$ をとる。$\overrightarrow{O'A_i}=\overrightarrow{O'O}+\overrightarrow{OA_i}$ なので
$$
\sum_{i=1}^k s_i\overrightarrow{O'A_i}=\Bigl(\sum_{i=1}^k s_i\Bigr)\overrightarrow{O'O}+\sum_{i=1}^k s_i\overrightarrow{OA_i}
$$
である。
段 2(和が $0$ を使う)。仮定より $\sum s_i=0$ なので、右辺の第 1 項は $0\cdot\overrightarrow{O'O}=\vec 0$ である。よって $\sum s_i\overrightarrow{O'A_i}=\sum s_i\overrightarrow{OA_i}$ である。$\square$
$A(1,4)$、$B(7,1)$、$C(4,7)$ とし、基準の点を $O(0,0)$ と $O'(2,5)$ で比べる。
$A$、$B$、$C$ が一直線上にないとき、$\overrightarrow{AB}$ と $\overrightarrow{AC}$ は平行でない。prop-pvd-decomp により、平面上のどの点 $P$ についても $\overrightarrow{AP}=\beta\,\overrightarrow{AB}+\gamma\,\overrightarrow{AC}$ となる実数 $\beta$、$\gamma$ がただ 1 通りに決まる。$\alpha=1-\beta-\gamma$ とおくと、これは $P=\alpha A+\beta B+\gamma C$($\alpha+\beta+\gamma=1$)というアフィン結合の形である。この $(\alpha,\beta,\gamma)$ を三角形 $ABC$ に関する $P$ の 重心座標 という。重心 $G$ の重心座標は $\left(\frac13,\frac13,\frac13\right)$ である。
ex-pvd-intersection の点 $X$ は $\overrightarrow{OX}=\frac12\vec a+\frac14\vec b$ だったので、三角形 $OAB$ に関する重心座標は $\left(\frac14,\frac12,\frac14\right)$、つまり $X=\frac14O+\frac12A+\frac14B$ である。重心座標が面積の比で表せることと、3 本の線が 1 点で交わる条件への応用は Cevaの定理(高校数学) で扱う。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する