σ-代数

同義語:σ-加法族完全加法族σ-algebrasigma-algebra

概要

σ-代数(σ-algebra)とは、集合 $X$ の部分集合の族で、空集合を含み、補集合と可算個の和集合で閉じたものであり、測度や確率を割り当てる集合の範囲を定める。可算個の共通部分・差・上極限集合なども自動的にその元になり、任意の部分集合の族に対してそれを含む最小の σ-代数が存在して、開集合から生成される Borel σ-代数はその代表例であり、写像の可測性は逆像で定義されて生成系の元の逆像だけで判定できる。有限の σ-代数は $X$ の有限分割と一対一に対応して元の個数は $2^k$ であり、無限の σ-代数は非可算である。確率論では「判定できる事象の全体」として情報を表す。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 集合, 冪集合, 可算集合

長さ・面積・個数・確率のような「大きさ」を集合に割り当てるとき、どの集合に大きさを割り当てるかをまず決めておく必要がある。大きさを割り当てた集合については、その補集合(「起こらない」)や、可算個の和集合(「どれかが起こる」「いつかは起こる」)にも大きさが割り当てられていてほしい。一方で、実数直線のすべての部分集合に長さを矛盾なく割り当てることはできない(Lebesgue測度 の注意「外測度は加法的でない」)。そこで、大きさを割り当てる部分集合の族を、補集合と可算個の和集合で閉じた族に制限する。この族が σ-代数(σ-algebra)である。σ-代数は測度論と確率論の出発点であり、確率論では「起こったかどうかを問える事象の全体」、さらに「ある情報から判定できる事象の全体」を表す。

定義

σ-代数と可測空間

以下、集合 $X$ の冪集合(部分集合全体の集合)を $\mathcal{P}(X)$ と書き、$E\subset X$ の $X$ における補集合を $X\setminus E$ と書く。

σ-代数

集合 $X$ の部分集合の族 $\mathcal{S}\subset\mathcal{P}(X)$ が次の 3 条件を満たすとき、$\mathcal{S}$ を $X$ 上の σ-代数(σ-algebra)という。
(R1) $\emptyset\in\mathcal{S}$。
(R2) $E\in\mathcal{S}$ ならば $X\setminus E\in\mathcal{S}$。
(R3) $E_0,E_1,E_2,\ldots\in\mathcal{S}$ ならば $\bigcup_{n\in\mathbb{N}}E_n\in\mathcal{S}$。
集合 $X$ とその上の σ-代数 $\mathcal{S}$ の組 $(X,\mathcal{S})$ を可測空間(measurable space)といい、$\mathcal{S}$ の元を $\mathcal{S}$-可測集合、または単に可測集合という。

条件 (ii) を「補集合で閉じている」、条件 (iii) を「可算個の和集合で閉じている」という。σ-代数は σ-加法族、完全加法族とも呼ばれる。記号は $\mathcal{S}$ のほか $\mathcal{F}$、$\mathcal{A}$、$\mathcal{B}$、$\Sigma$ などが使われる(Axler20 2.23 は $\mathcal{S}$、Tao11 Definition 1.4.12 は $\mathcal{B}$)。接頭辞の σ は「可算個の和」を表す(Tao11 Remark 1.4.13)。

条件 (i) の別の形

条件 (i) の代わりに「$X\in\mathcal{S}$」を課す定義もある(確率空間 の記事の定義「事象の族の公理」はこの形である)。条件 (ii) のもとでは $\emptyset=X\setminus X$、$X=X\setminus\emptyset$ なので、2 つの定義は同値である。Lebesgue測度 の記事の定義「σ-代数と測度」は、ここと同じ条件 (i) を使い、記号 $\mathcal{F}$ で書いている。

条件 (i) をさらに弱めた形

条件 (i) を「$\mathcal{S}$ は空でない」に弱めても同値である。$E\in\mathcal{S}$ をとれば、(ii) から $X\setminus E\in\mathcal{S}$、(iii)($E_0=E$、$E_n=X\setminus E$($n\ge1$)とする)から $X=E\cup(X\setminus E)\in\mathcal{S}$、(ii) から $\emptyset\in\mathcal{S}$ となるからである。

有限個の和集合は、残りを空集合で埋めれば可算個の和集合とみなせる。したがって σ-代数は有限個の和集合でも閉じている。空集合を含み、補集合と有限個の和集合で閉じた部分集合の族を有限加法族(集合代数、集合の Boole 代数)という。σ-代数は有限加法族であるが、逆は成り立たない(ex-sigma-algebra-finite-cofinite)。

生成される σ-代数

与えられた部分集合の族を含む σ-代数のうち、最も小さいものがつねに存在する。

σ-代数の共通部分

$(\mathcal{S}_i)_{i\in I}$ を $X$ 上の σ-代数の族とし、$I\neq\emptyset$ とする。このとき共通部分 $\bigcap_{i\in I}\mathcal{S}_i=\{E\subset X\mid \text{すべての } i\in I \text{ について } E\in\mathcal{S}_i\}$ は $X$ 上の σ-代数である。添字集合 $I$ は非可算でもよい。

$\mathcal{S}:=\bigcap_{i}\mathcal{S}_i$ とおく。どの $\mathcal{S}_i$ も $\emptyset$ を含むので $\emptyset\in\mathcal{S}$ である。$E\in\mathcal{S}$ なら、すべての $i$ について $E\in\mathcal{S}_i$ であり、$\mathcal{S}_i$ は補集合で閉じているので $X\setminus E\in\mathcal{S}_i$ である。これがすべての $i$ について成り立つので $X\setminus E\in\mathcal{S}$ である。可算個の和集合についても同様に、$E_n\in\mathcal{S}$($n\in\mathbb{N}$)なら各 $i$ について $\bigcup_nE_n\in\mathcal{S}_i$ であり、$\bigcup_nE_n\in\mathcal{S}$ である。$\square$

生成される σ-代数

$\mathcal{A}\subset\mathcal{P}(X)$ を部分集合の族とする。$\mathcal{A}$ を含む $X$ 上の σ-代数すべての共通部分を $\sigma(\mathcal{A})$ と書き、$\mathcal{A}$ が生成する σ-代数という。$\mathcal{A}$ をその生成系という。

$\mathcal{A}$ を含む σ-代数は少なくとも 1 つある($\mathcal{P}(X)$ がそうである)ので、prop-sigma-algebra-intersection により $\sigma(\mathcal{A})$ は σ-代数であり、$\mathcal{A}\subset\sigma(\mathcal{A})$ である。さらに、$\mathcal{A}$ を含む σ-代数 $\mathcal{S}$ はどれも共通部分をとる対象の 1 つなので $\sigma(\mathcal{A})\subset\mathcal{S}$ である。すなわち $\sigma(\mathcal{A})$ は $\mathcal{A}$ を含む最小の σ-代数である(Axler20 2.27、Tao11 Definition 1.4.14)。この最小性から次がすぐに従う。

  • $\mathcal{A}\subset\mathcal{A}'$ ならば $\sigma(\mathcal{A})\subset\sigma(\mathcal{A}')$。
  • $\mathcal{A}\subset\mathcal{S}$ で $\mathcal{S}$ が σ-代数なら $\sigma(\mathcal{A})\subset\mathcal{S}$。特に、$\mathcal{S}$ が σ-代数なら $\sigma(\mathcal{S})=\mathcal{S}$。
  • 2 つの族 $\mathcal{A},\mathcal{A}'$ が同じ σ-代数を生成することを示すには、$\mathcal{A}\subset\sigma(\mathcal{A}')$ と $\mathcal{A}'\subset\sigma(\mathcal{A})$ を確かめればよい。
    $\sigma(\mathcal{A})$ を「$\mathcal{A}$ の元から補集合と可算個の和集合を有限回くり返して作れる集合の全体」と考えるのは正しくない。一般には、この操作を順序数で番号づけて超限回くり返してはじめて $\sigma(\mathcal{A})$ が得られる(Tao11 Exercise 1.4.15)。$\mathbb{R}$ の開集合全体から始めた場合、有限回の段階では尽きないことが Axler20 2.30 の後で説明されている。$\sigma(\mathcal{A})$ の元について何かを示すときは、下の thm-sigma-algebra-generator のように「性質を満たす集合全体が σ-代数をなし、$\mathcal{A}$ を含む」ことを確かめる。

可測写像

可測写像

$(X,\mathcal{S})$、$(Y,\mathcal{T})$ を可測空間とする。写像 $f\colon X\to Y$ が $(\mathcal{S},\mathcal{T})$-可測(可測)であるとは、すべての $E\in\mathcal{T}$ について逆像 $f^{-1}(E)=\{x\in X\mid f(x)\in E\}$ が $\mathcal{S}$ に属することをいう。

位相空間の間の連続写像が「開集合の逆像が開集合」で定義されるのと同じ形である。可測写像 $f\colon(X,\mathcal{S})\to(Y,\mathcal{T})$、$g\colon(Y,\mathcal{T})\to(Z,\mathcal{U})$ の合成 $g\circ f$ は、$(g\circ f)^{-1}(E)=f^{-1}(g^{-1}(E))$ なので可測である。確率論では、確率空間 $(\Omega,\mathcal{F},P)$ から実数全体 $\mathbb{R}$ への可測写像が確率変数である。ここで $\mathbb{R}$ の側には、半直線 $(-\infty,a]$($a\in\mathbb{R}$)全体が生成する σ-代数を置く(これは $\mathbb{R}$ の開集合全体が生成する σ-代数、すなわち Borel集合の族に等しい。Axler20 2.39 の証明)。下の thm-sigma-algebra-generator により、この意味の可測性は「すべての $a\in\mathbb{R}$ について $\{\omega\mid X(\omega)\le a\}\in\mathcal{F}$」と同値であり、確率変数 の記事の定義「確率変数」の条件と一致する。

例

最小と最大の σ-代数

どんな集合 $X$ についても、$\{\emptyset,X\}$ と $\mathcal{P}(X)$ は $X$ 上の σ-代数であり、$X$ 上のどの σ-代数 $\mathcal{S}$ についても $\{\emptyset,X\}\subset\mathcal{S}\subset\mathcal{P}(X)$ である。$\{\emptyset,X\}$ に関して可測な実数値関数は定数関数だけであり、$\mathcal{P}(X)$ に関してはすべての関数が可測である(Axler20 2.24・2.36)。

可算集合と補集合が可算な集合

集合 $X$ に対し、$E$ 自身か補集合 $X\setminus E$ が可算集合(有限を含む)であるような $E\subset X$ の全体を $\mathcal{C}$ とする。$\mathcal{C}$ は σ-代数である。条件 (i)・(ii) は定義から明らかである。$E_n\in\mathcal{C}$($n\in\mathbb{N}$)とし、$E:=\bigcup_nE_n$ とおく。ある $E_m$ の補集合が可算なら、$X\setminus E\subset X\setminus E_m$ も可算である。すべての $E_n$ が可算なら、$E$ は可算個の可算集合の和集合なので可算である(可算集合 の記事の定理「可算個の可算集合の和集合」。ここで可算選択公理を使う)。
$\mathcal{C}$ は 1 点集合全体 $\{\{x\}\mid x\in X\}$ が生成する σ-代数に等しい(Axler20 2.24・2.28)。

詳細

$\mathcal{C}$ は 1 点集合を含む σ-代数なので $\sigma(\{\{x\}\})\subset\mathcal{C}$ であり、逆に可算集合は 1 点集合の可算個の和集合、補集合が可算な集合はその補集合なので $\mathcal{C}\subset\sigma(\{\{x\}\})$ である。


$X=\mathbb{R}$ なら $\mathbb{Q}\in\mathcal{C}$ だが、$(0,\infty)$ は $\mathcal{C}$ に属さない。$X$ が可算なら $\mathcal{C}=\mathcal{P}(X)$ である。

分割から生成される σ-代数

$X$ が互いに交わらない空でない集合 $P_1,\dots,P_k$ の和集合に分かれているとする($X$ の分割)。このとき、いくつかの $P_j$ の和集合として書ける集合全体
$$ \mathcal{S}=\Bigl\{\bigcup_{j\in J}P_j\ \Big|\ J\subset\{1,\dots,k\}\Bigr\} $$
は σ-代数であり、$\{P_1,\dots,P_k\}$ が生成する σ-代数に等しい。補集合は $J$ を $\{1,\dots,k\}\setminus J$ に替えたもの、可算個の和集合は $J$ たちの和集合に対応するからである。$J\mapsto\bigcup_{j\in J}P_j$ は単射なので、$\mathcal{S}$ の元の個数は $2^k$ である。$X=\{1,2,3\}$ の分割は 5 通りあり、下の thm-sigma-algebra-finite により $\{1,2,3\}$ 上の σ-代数はちょうど 5 個である。

5 個の σ-代数を開く

分割 $\{1,2,3\}$ からは $\{\emptyset,X\}$(2 元)、分割 $\{1\}\cup\{2,3\}$ からは $\{\emptyset,\{1\},\{2,3\},X\}$(4 元)、同様に $\{2\}\cup\{1,3\}$、$\{3\}\cup\{1,2\}$ から 4 元の σ-代数、分割 $\{1\}\cup\{2\}\cup\{3\}$ からは $\mathcal{P}(X)$(8 元)が得られる。


可算個の空でない集合への分割 $X=\bigcup_{j\in\mathbb{N}}P_j$ でも、$J\subset\mathbb{N}$ にわたる和集合の全体は同じ理由で σ-代数になる。

事象の族と情報

硬貨を 2 回投げる試行を $\Omega=\{\mathrm{HH},\mathrm{HT},\mathrm{TH},\mathrm{TT}\}$(H は表、T は裏)で表す。すべての部分集合を事象とすれば $\mathcal{F}=\mathcal{P}(\Omega)$ で、元の個数は $16$ である。1 回目の結果だけを見て判定できる事象は
$$ \mathcal{F}_1=\bigl\{\emptyset,\ \{\mathrm{HH},\mathrm{HT}\},\ \{\mathrm{TH},\mathrm{TT}\},\ \Omega\bigr\} $$
であり、これは分割 $\{\mathrm{HH},\mathrm{HT}\}\cup\{\mathrm{TH},\mathrm{TT}\}$ から生成される σ-代数である。「2 回目が表」$=\{\mathrm{HH},\mathrm{TH}\}$ は $\mathcal{F}_1$ に属さない。1 回目の結果を知っても、この事象が起こったかどうかは判定できないからである。このように、確率論では小さい σ-代数が「少ない情報」を表す。

写像で引き戻した σ-代数

写像 $f\colon X\to Y$ と $Y$ 上の σ-代数 $\mathcal{T}$ に対し、$f^{-1}(\mathcal{T}):=\{f^{-1}(E)\mid E\in\mathcal{T}\}$ は $X$ 上の σ-代数である(thm-sigma-algebra-generator の 1)。これは $f$ を $(\mathcal{S},\mathcal{T})$-可測にする最小の σ-代数 $\mathcal{S}$ であり、$f$ が生成する σ-代数とも呼ぶ。ex-sigma-algebra-information の $\mathcal{F}_1$ は、1 回目の結果を返す写像 $f\colon\Omega\to\{\mathrm{H},\mathrm{T}\}$ で $\mathcal{P}(\{\mathrm{H},\mathrm{T}\})$ を引き戻したものである。一般に $Y$ が有限集合で $\mathcal{T}=\mathcal{P}(Y)$ のとき、$f^{-1}(\mathcal{T})$ は $X$ を $f$ のファイバー $f^{-1}(\{y\})$(空でないもの)に分割した分割から生成される σ-代数である。

反例

σ-代数の条件のうち 1 つを弱めたもの、または σ-代数から素朴に作った族は、σ-代数とは限らない。

期待しがちな含意反例成り立たなくなること
補集合と有限個の和集合で閉じていれば σ-代数$\mathbb{N}$ の有限集合と補有限集合の全体可算個の和集合で閉じない
補集合と互いに交わらない和集合で閉じていれば σ-代数$\{1,2,3,4\}$ 上の 6 元の族 $\mathcal{D}$交わる 2 つの集合の和集合で閉じない
2 つの σ-代数の和集合は σ-代数$\{1,2,3\}$ 上の $\mathcal{S}_1\cup\mathcal{S}_2$和集合で閉じない
σ-代数の像は σ-代数$\{1,2,3\}\to\{a,b\}$ による像補集合で閉じない

各行の確認は次の例にある。

有限集合と補有限集合の族

無限集合 $X$ の部分集合 $E$ で、$E$ 自身か $X\setminus E$ が有限であるもの全体を $\mathcal{A}$ とする。$\mathcal{A}$ は有限加法族である(満たす性質)が、$X=\mathbb{N}$ のときは σ-代数でない(条件 (iii) を満たさない)。

確かめる

$\mathcal{A}$ は $\emptyset$ を含み、補集合で閉じている。2 つの元の和集合は、両方が有限なら有限、一方の補集合が有限なら和集合の補集合も有限なので、$\mathcal{A}$ は有限個の和集合で閉じている。しかし $X=\mathbb{N}$ のとき、偶数全体 $2\mathbb{N}=\bigcup_{n\in\mathbb{N}}\{2n\}$ は $\mathcal{A}$ の元の可算個の和集合だが、$2\mathbb{N}$ も補集合(奇数全体)も無限なので $2\mathbb{N}\notin\mathcal{A}$ である。$X$ が $\mathbb{N}$ と対等な部分集合を含む場合(たとえば $X=\mathbb{R}$)も、その部分集合の中の「偶数番目の元の全体」が同じ役割をする。


$X=\mathbb{N}$ のとき、この族は Boole代数 の記事の例「有限集合と補有限集合」の Boole 代数である。

互いに交わらない和だけで閉じた族

$X=\{1,2,3,4\}$ 上の族 $\mathcal{D}=\bigl\{\emptyset,\ X,\ \{1,2\},\ \{3,4\},\ \{1,3\},\ \{2,4\}\bigr\}$ を考える。$\mathcal{D}$ は $\emptyset$ を含み、補集合と互いに交わらない元の和集合で閉じている(満たす性質)が、$\{1,2\}\cup\{1,3\}=\{1,2,3\}\notin\mathcal{D}$ なので σ-代数でない(条件 (iii) を満たさない)。

確かめる

$\{1,2\}$ と $\{3,4\}$、$\{1,3\}$ と $\{2,4\}$ が互いの補集合であり、$\emptyset$ と $X$ も互いの補集合である。空でない元どうしで交わらないのは互いに補集合の組だけで、その和集合は $X\in\mathcal{D}$ である。空集合を加えても和集合は変わらない。


測度の定義(Lebesgue測度 の記事の定義「σ-代数と測度」)が要求する可算加法性は互いに交わらない和集合についての条件だが、定義域の族には交わる集合の和集合で閉じていることも要求している。

σ-代数の和集合

$X=\{1,2,3\}$ 上の $\mathcal{S}_1=\{\emptyset,\{1\},\{2,3\},X\}$ と $\mathcal{S}_2=\{\emptyset,\{2\},\{1,3\},X\}$ はどちらも σ-代数(分割 $\{1\}\cup\{2,3\}$ と $\{2\}\cup\{1,3\}$ から生成されるもの)だが、和集合 $\mathcal{S}_1\cup\mathcal{S}_2$ は $\{1\}$ と $\{2\}$ を含み $\{1,2\}$ を含まないので、σ-代数でない(条件 (iii) を満たさない)。σ-代数の共通部分はつねに σ-代数である(prop-sigma-algebra-intersection)のと対照的である。2 つの σ-代数の両方を含む最小の σ-代数は $\sigma(\mathcal{S}_1\cup\mathcal{S}_2)$ であり、この例では $\mathcal{P}(X)$ になる($\{1\},\{2\}$ と $\{3\}=X\setminus\{1,2\}$ を含むため)。

像は σ-代数を保たない

$f\colon\{1,2,3\}\to\{a,b\}$ を $f(1)=f(2)=a$、$f(3)=b$ で定める(全射である)。$\{1,2,3\}$ 上の σ-代数 $\mathcal{S}'=\{\emptyset,\{1\},\{2,3\},\{1,2,3\}\}$ の元の像を並べると $\{\emptyset,\{a\},\{a,b\}\}$ であり、$\{a\}$ の補集合 $\{b\}$ を含まないので σ-代数でない(条件 (ii) を満たさない)。σ-代数 $\{\emptyset,\{1,2\},\{3\},\{1,2,3\}\}$ の像は $\{\emptyset,\{a\},\{b\},\{a,b\}\}$ で σ-代数になるので、像が σ-代数になるかどうかは σ-代数と写像の組み合わせによる。像 $f(E)$ は補集合を保たない(逆像 の記事の注意「反例:像は共通部分と差集合を保たない」)ことが原因である。逆像は補集合・和集合・共通部分をすべて保つので、σ-代数は逆像の向きに引き戻せる(ex-sigma-algebra-pullback)。

性質

以下、$(X,\mathcal{S})$ を可測空間とする。

集合演算で閉じていること

集合の列 $(E_n)_{n\in\mathbb{N}}$ に対し、
$$ \limsup_{n\to\infty}E_n:=\bigcap_{m\in\mathbb{N}}\bigcup_{n\ge m}E_n,\qquad \liminf_{n\to\infty}E_n:=\bigcup_{m\in\mathbb{N}}\bigcap_{n\ge m}E_n $$
を上極限集合・下極限集合という。$x\in\limsup_nE_n$ は「$x$ が無限個の $n$ について $E_n$ に属する」こと、$x\in\liminf_nE_n$ は「有限個を除くすべての $n$ について $x\in E_n$」ことを意味する(特性関数(集合) の記事の命題「集合列の極限と特性関数」)。また $E\triangle F:=(E\setminus F)\cup(F\setminus E)$ を対称差という。

σ-代数で閉じている演算

$E,F,E_0,E_1,\ldots\in\mathcal{S}$ とする。次の集合はすべて $\mathcal{S}$ に属する。

  1. $X$、および有限個の和集合 $E_0\cup\cdots\cup E_n$ と共通部分 $E_0\cap\cdots\cap E_n$。
  2. 可算個の共通部分 $\bigcap_{n\in\mathbb{N}}E_n$。
  3. 差 $E\setminus F$ と対称差 $E\triangle F$。
  4. 上極限集合 $\limsup_nE_n$ と下極限集合 $\liminf_nE_n$。

要点:De Morganの法則 $\bigcap_nE_n=X\setminus\bigcup_n(X\setminus E_n)$ により、共通部分は補集合と和集合で書ける。残りはこれと、有限個を空集合(または $X$)で埋めて可算個とみなすことから従う。

詳しい証明を開く

1. $X=X\setminus\emptyset$ である。有限個の和集合は、$k>n$ で $E_k:=\emptyset$ とおいた可算個の和集合である。有限個の共通部分は 2 の特別な場合($k>n$ で $E_k:=X$ とおく)である。

2. De Morgan の法則の右辺は補集合と可算個の和集合だけで作られている。

3. $E\setminus F=E\cap(X\setminus F)$ は 1 により $\mathcal{S}$ に属し、$E\triangle F$ はそのような 2 つの集合の和集合である。

4. 各 $m$ について $\bigcup_{n\ge m}E_n$ は可算個の和集合なので $\mathcal{S}$ に属し、それらの可算個の共通部分は 2 により $\mathcal{S}$ に属する。下極限集合も同様である。$\square$

4 は確率論でよく使われる。事象の列 $(E_n)$ について「無限回起こる」という事象 $\limsup_nE_n$ がふたたび事象になるので、その確率を問うことができる(Borel–Cantelli の補題)。
有限加法族が σ-代数であるかどうかは、増加列の和集合だけを見ればわかる。

有限加法族が σ-代数になる条件

$\mathcal{A}$ を $X$ 上の有限加法族($\emptyset$ を含み、補集合と有限個の和集合で閉じた族)とする。増加列 $E_0\subset E_1\subset\cdots$ で各 $E_n\in\mathcal{A}$ のものについてつねに $\bigcup_nE_n\in\mathcal{A}$ ならば、$\mathcal{A}$ は σ-代数である。

$E_0,E_1,\ldots\in\mathcal{A}$ を任意にとり、$F_n:=E_0\cup\cdots\cup E_n$ とおく。$\mathcal{A}$ は有限個の和集合で閉じているので $F_n\in\mathcal{A}$ であり、$(F_n)$ は増加列で $\bigcup_nF_n=\bigcup_nE_n$ である。仮定から $\bigcup_nE_n\in\mathcal{A}$ となり、条件 (iii) が成り立つ。条件 (i)・(ii) は有限加法族の定義に含まれている。$\square$

ex-sigma-algebra-finite-cofinite の族は、有限集合の増加列 $\{0\}\subset\{0,2\}\subset\{0,2,4\}\subset\cdots$ の和集合 $2\mathbb{N}$ を含まないので、この命題の仮定を満たさない。

生成系による判定

σ-代数 $\sigma(\mathcal{A})$ のすべての元がある性質をもつことを示すとき、$\sigma(\mathcal{A})$ の元を具体的に書き下すことはできない。代わりに、「その性質をもつ集合全体が σ-代数であり、$\mathcal{A}$ を含む」ことを示せば、最小性から $\sigma(\mathcal{A})$ の元はすべてその性質をもつ(Tao11 Remark 1.4.15)。この論法を写像の可測性に当てはめたのが次の定理である。

逆像と生成系

$f\colon X\to Y$ を写像とし、$\mathcal{S}$ を $X$ 上の σ-代数、$\mathcal{T}$ を $Y$ 上の σ-代数、$\mathcal{A}\subset\mathcal{P}(Y)$ を部分集合の族とする。

  1. $f^{-1}(\mathcal{T})=\{f^{-1}(E)\mid E\in\mathcal{T}\}$ は $X$ 上の σ-代数である。
  2. $f_*\mathcal{S}:=\{E\subset Y\mid f^{-1}(E)\in\mathcal{S}\}$ は $Y$ 上の σ-代数である。
  3. すべての $E\in\mathcal{A}$ について $f^{-1}(E)\in\mathcal{S}$ ならば、すべての $E\in\sigma(\mathcal{A})$ について $f^{-1}(E)\in\mathcal{S}$ である。すなわち、$f$ が $(\mathcal{S},\sigma(\mathcal{A}))$-可測であることを確かめるには、生成系 $\mathcal{A}$ の元の逆像だけを調べればよい。
  4. $f^{-1}(\sigma(\mathcal{A}))=\sigma(f^{-1}(\mathcal{A}))$ である。

逆像について $f^{-1}(\emptyset)=\emptyset$、$f^{-1}(Y\setminus E)=X\setminus f^{-1}(E)$、$f^{-1}\bigl(\bigcup_nE_n\bigr)=\bigcup_nf^{-1}(E_n)$ が成り立つ(逆像 の記事の命題「逆像と集合の演算」「逆像は任意の和と共通部分を保存する」)。これを使う。
(2 の証明)$f^{-1}(\emptyset)=\emptyset\in\mathcal{S}$ なので $\emptyset\in f_*\mathcal{S}$ である。$E\in f_*\mathcal{S}$ なら $f^{-1}(Y\setminus E)=X\setminus f^{-1}(E)\in\mathcal{S}$ なので $Y\setminus E\in f_*\mathcal{S}$ である。$E_n\in f_*\mathcal{S}$ なら $f^{-1}\bigl(\bigcup_nE_n\bigr)=\bigcup_nf^{-1}(E_n)\in\mathcal{S}$ なので $\bigcup_nE_n\in f_*\mathcal{S}$ である。
(3 の証明)仮定は $\mathcal{A}\subset f_*\mathcal{S}$ ということである。2 により $f_*\mathcal{S}$ は σ-代数なので、$\sigma(\mathcal{A})$ の最小性から $\sigma(\mathcal{A})\subset f_*\mathcal{S}$ であり、これが結論である。
(1 の証明)$f^{-1}(\mathcal{T})$ が補集合と可算個の和集合で閉じていることは、逆像がこれらの演算と入れ替わることから従う。

詳細

$\emptyset=f^{-1}(\emptyset)$ かつ $X\setminus f^{-1}(E)=f^{-1}(Y\setminus E)$ なので、条件 (i)・(ii) が成り立つ。$F_n\in f^{-1}(\mathcal{T})$($n\in\mathbb{N}$)とすると、各 $n$ について $f^{-1}(E_n)=F_n$ となる $E_n\in\mathcal{T}$ がある。そのような $E_n$ を各 $n$ について選べば(ここで可算選択公理を使う)、$\bigcup_nF_n=f^{-1}\bigl(\bigcup_nE_n\bigr)$ で $\bigcup_nE_n\in\mathcal{T}$ なので、条件 (iii) が成り立つ。


(4 の証明)1 により $f^{-1}(\sigma(\mathcal{A}))$ は σ-代数で、$f^{-1}(\mathcal{A})$ を含むので、最小性から $\sigma(f^{-1}(\mathcal{A}))\subset f^{-1}(\sigma(\mathcal{A}))$ である。逆向きは、3 を $\mathcal{S}:=\sigma(f^{-1}(\mathcal{A}))$ として使えばよい(仮定 $f^{-1}(\mathcal{A})\subset\mathcal{S}$ は明らかに満たされる)。$\square$

3 の証明は選択公理を使わない。Axler20 2.39 は 3 と同じ論法で、実数値関数の可測性を半直線 $(a,\infty)$ の逆像だけで判定している。2 の $f_*\mathcal{S}$ は、$f$ を $(\mathcal{S},\mathcal{T})$-可測にする最大の σ-代数 $\mathcal{T}$ であり、1 の $f^{-1}(\mathcal{T})$ は、$f$ を可測にする最小の σ-代数 $\mathcal{S}$ である。

部分集合への制限

$Y\subset X$ とする。$\mathcal{S}|_Y:=\{E\cap Y\mid E\in\mathcal{S}\}$ は $Y$ 上の σ-代数である。$Y\in\mathcal{S}$ ならば $\mathcal{S}|_Y=\{E\in\mathcal{S}\mid E\subset Y\}$ である。また、$\mathcal{A}\subset\mathcal{P}(X)$ について $\sigma(\mathcal{A})|_Y=\sigma(\{A\cap Y\mid A\in\mathcal{A}\})$(右辺は $Y$ 上で生成する σ-代数)である。

包含写像 $\iota\colon Y\to X$ について $\iota^{-1}(E)=E\cap Y$ なので、$\mathcal{S}|_Y=\iota^{-1}(\mathcal{S})$ であり、thm-sigma-algebra-generator の 1 により σ-代数である。$Y\in\mathcal{S}$ なら、$E\in\mathcal{S}$ について $E\cap Y\in\mathcal{S}$ かつ $E\cap Y\subset Y$ であり、逆に $E\in\mathcal{S}$、$E\subset Y$ なら $E=E\cap Y$ である。最後の等式は thm-sigma-algebra-generator の 4 を $\iota$ に使ったものである。$\square$

$\mathcal{S}|_Y$ を $\mathcal{S}$ の $Y$ への制限(トレース)という(Tao11 Exercise 1.4.2・1.4.12)。$Y$ が可測でないときも $\mathcal{S}|_Y$ は $Y$ 上の σ-代数だが、その元は一般に $X$ の可測集合ではない。

有限の σ-代数と分割

有限の σ-代数はすべて ex-sigma-algebra-partition の形をしている。

有限のσ-代数の構造

$\mathcal{S}$ を $X$ 上の有限個の元からなる σ-代数とする。このとき、$X$ の互いに交わらない空でない集合 $P_1,\dots,P_k\in\mathcal{S}$ で $X=P_1\cup\cdots\cup P_k$ を満たし、
$$ \mathcal{S}=\Bigl\{\bigcup_{j\in J}P_j\ \Big|\ J\subset\{1,\dots,k\}\Bigr\} $$
となるものがある。$\{P_1,\dots,P_k\}$ は(並べ方を除いて)$\mathcal{S}$ から一意に定まり、$\mathcal{S}$ の元の個数は $2^k$ である。したがって、$X$ 上の有限の σ-代数と、$X$ の空でない集合への有限個の分割とは一対一に対応する。

要点:$x\in X$ に対し、$x$ を含む $\mathcal{S}$ の元すべての共通部分を $A(x)$ とおく。$\mathcal{S}$ は有限なので、これは有限個の共通部分であり、$A(x)$ は $x$ を含む $\mathcal{S}$ の元のうちで最小のものである。異なる $A(x)$ たちは互いに交わらず、これが求める分割になる。

詳しい証明を開く

($A(x)$ たちは互いに等しいか交わらない)まず $y\in A(x)$ ならば $x\in A(y)$ であることを示す。$x\notin A(y)$ なら $X\setminus A(y)$ は $x$ を含む $\mathcal{S}$ の元なので $A(x)\subset X\setminus A(y)$ であり、$y\in A(y)$ より $y\notin A(x)$ となるからである。したがって $y\in A(x)$ なら、$A(x)$ は $y$ を含む $\mathcal{S}$ の元なので $A(y)\subset A(x)$、同様に $x\in A(y)$ から $A(x)\subset A(y)$ となり、$A(x)=A(y)$ である。$z\in A(x)\cap A(y)$ なら $A(x)=A(z)=A(y)$ である。

(分割と表示)$A(x)$($x\in X$)の異なるものを $P_1,\dots,P_k$ とする。これらは $\mathcal{S}$ の元なので有限個であり、上で示したことから互いに交わらず、空でなく、和集合は $X$ である。$E\in\mathcal{S}$ なら、$x\in E$ について $A(x)\subset E$ なので $E=\bigcup_{x\in E}A(x)$ は $E$ と交わる $P_j$ の和集合である。逆に $P_j$ の和集合は有限個の和集合なので $\mathcal{S}$ に属する。$P_j$ は互いに交わらず空でないので、$J\mapsto\bigcup_{j\in J}P_j$ は単射であり、$\mathcal{S}$ の元の個数は $2^k$ である。

(一意性)$\mathcal{S}$ が別の分割 $\{Q_1,\dots,Q_l\}$ の和集合の全体でもあるとする。$x\in Q_i$ なら、$Q_i$ は $x$ を含む $\mathcal{S}$ の元なので $A(x)\subset Q_i$ であり、$A(x)$ はいくつかの $Q$ の和集合で $x\in Q_i$ を含むから $Q_i\subset A(x)$ である。よって $Q_i=A(x)$ であり、2 つの分割は一致する。逆に、$X$ の有限個の空でない集合への分割からは ex-sigma-algebra-partition により有限の σ-代数が得られ、その $A(x)$ は $x$ を含む分割の成分である。以上で一対一の対応が示された。$\square$

$X=\emptyset$ のときは $\mathcal{S}=\{\emptyset\}$、$k=0$ で、$2^0=1$ である。$n$ 元集合 $X$ 上の σ-代数の個数は $X$ の分割の個数(Bell 数)に等しく、$n=1,2,3,4$ で $1,2,5,15$ である。$P_j$ は $\mathcal{S}$ の原子と呼ばれる。この定理は、有限 Boole 代数が原子の集合の冪集合と同型であるという Boole代数 の記事の定理「有限Boole代数の構造」の、集合の族の場合である(Tao11 Exercise 1.4.3・1.4.4)。

無限の σ-代数は非可算である

有限加法族には可算無限個の元からなるものがある(ex-sigma-algebra-finite-cofinite の族で $X=\mathbb{N}$ とすれば可算無限である。Boole代数 の記事の例「有限集合と補有限集合」)。σ-代数ではそれが起こらない。

無限のσ-代数の濃度

$\mathcal{S}$ が無限個の元をもつ σ-代数ならば、互いに交わらない空でない集合の列 $D_0,D_1,D_2,\ldots\in\mathcal{S}$ があり、写像
$$ \{0,1\}^{\mathbb{N}}\to\mathcal{S},\qquad \varepsilon=(\varepsilon_n)_{n\in\mathbb{N}}\mapsto\bigcup_{n:\ \varepsilon_n=1}D_n $$
は単射である。特に $\mathcal{S}$ は非可算であり、その濃度は $2^{\aleph_0}$ 以上である。

要点:$\mathcal{S}$ の元 $E$ で全体を 2 つに切ると、少なくとも一方の側にはまだ無限個の可測集合が残る。残らない側を $D_n$ として切り取り、無限個が残る側でくり返す。

詳しい証明を開く

$E\in\mathcal{S}$ に対し $\mathcal{S}_E:=\{F\in\mathcal{S}\mid F\subset E\}$ とおく(cor-sigma-algebra-trace により $E$ 上の σ-代数である)。$F\mapsto(F\cap E,\ F\setminus E)$ は $\mathcal{S}$ から $\mathcal{S}_E\times\mathcal{S}_{X\setminus E}$ への全単射である(逆写像は $(G,H)\mapsto G\cup H$)。したがって $\mathcal{S}_E$ と $\mathcal{S}_{X\setminus E}$ の少なくとも一方は無限である。$X$ を $Y\in\mathcal{S}$ に替えても同じことが $\mathcal{S}_Y$ について言える。

$Y_0:=X$ とおく。$Y_n\in\mathcal{S}$ で $\mathcal{S}_{Y_n}$ が無限であるものが得られたとする。$\mathcal{S}_{Y_n}$ は 3 個以上の元をもつので、$\emptyset\ne E\ne Y_n$ となる $E\in\mathcal{S}_{Y_n}$ を 1 つ選ぶ。上の注意により $\mathcal{S}_E$ と $\mathcal{S}_{Y_n\setminus E}$ の少なくとも一方は無限である。$\mathcal{S}_{Y_n\setminus E}$ が無限なら $Y_{n+1}:=Y_n\setminus E$、$D_n:=E$ とし、そうでなければ $Y_{n+1}:=E$、$D_n:=Y_n\setminus E$ とする。どちらの場合も $D_n,Y_{n+1}\in\mathcal{S}$ は空でなく、$Y_n=D_n\cup Y_{n+1}$ は互いに交わらない和で、$\mathcal{S}_{Y_{n+1}}$ は無限である。

$m>n$ なら $D_m\subset Y_m\subset Y_{n+1}$ で $D_n\cap Y_{n+1}=\emptyset$ なので、$D_n$ たちは互いに交わらない。$\varepsilon\ne\varepsilon'$ とし、$\varepsilon_n=1$、$\varepsilon'_n=0$ となる $n$ があるとする(逆の場合も同様)。$D_n$ は左辺の和集合 $\bigcup_{\varepsilon_m=1}D_m$ に含まれ、右辺の和集合 $\bigcup_{\varepsilon'_m=1}D_m$ とは交わらず、空でないので、2 つの和集合は異なる。各和集合は可算個の和集合なので $\mathcal{S}$ に属する。$\{0,1\}^{\mathbb{N}}$ の濃度は $2^{\aleph_0}$ であり非可算である(可算集合 の記事の系「自然数の冪集合の非可算性」)。$\square$

この証明は各段で集合 $E$ を 1 つ選ぶので、選択公理の弱い形(前の選び方に依存して可算回選ぶ従属選択公理)を使っている。定理から、可算無限個の元をもつ σ-代数は存在しない。σ-代数の元の個数は、有限なら $2^k$、無限なら $2^{\aleph_0}$ 以上である。

補足

位相・有限加法族との比較

σ-代数は位相空間の開集合系とよく似た「部分集合の族の公理」だが、閉じている演算が異なる。

開集合系(位相)有限加法族σ-代数
$\emptyset$ と全体含む含む含む
補集合閉じるとは限らない閉じる閉じる
和集合任意個有限個可算個
共通部分有限個有限個可算個
構造を保つ写像連続写像(開集合の逆像が開)―可測写像(可測集合の逆像が可測)
生成部分集合族が生成する位相生成する有限加法族$\sigma(\mathcal{A})$
$\mathbb{R}$ 上の例開集合の全体有限集合と補有限集合可算集合と補可算集合、Borel 集合

位相空間 $X$ の開集合全体が生成する σ-代数を $X$ の Borel σ-代数といい、その元を Borel 集合という。$\mathbb{R}$ の場合は Lebesgue測度 の記事の定義「σ-代数と測度」の後で導入され、すべての Borel 集合が Lebesgue 可測であることが示されている(同記事の命題「区間とBorel集合の可測性・不変性」)。連続写像は Borel σ-代数に関して可測である。開集合の逆像が開集合なので、thm-sigma-algebra-generator の 3 を生成系「開集合全体」に使えばよい。

単調族定理

生成される σ-代数の元について何かを示すとき、次の定理も「性質を満たす集合全体」の論法とともによく使われる。部分集合の族 $\mathcal{M}$ が増加列の和集合と減少列の共通部分で閉じているとき、$\mathcal{M}$ を単調族という。σ-代数は単調族である。

単調族定理

$\mathcal{A}$ を $X$ 上の有限加法族とする。このとき、$\mathcal{A}$ を含む最小の σ-代数 $\sigma(\mathcal{A})$ は、$\mathcal{A}$ を含む最小の単調族に等しい(Axler20 5.17 Monotone Class Theorem。証明は割愛する)。

使い方を開く

これにより、ある性質が「有限加法族 $\mathcal{A}$ の元について成り立ち、増加列の和集合と減少列の共通部分で保たれる」ことを示せば、$\sigma(\mathcal{A})$ のすべての元について成り立つことがわかる。性質を満たす集合全体が補集合や一般の可算個の和集合で閉じていることを直接示しにくいときに使う。prop-sigma-algebra-increasing はこの定理の、$\mathcal{A}$ 自身が単調族である場合にあたる。

測度・確率との関係

可測空間 $(X,\mathcal{S})$ の上で、$\mathcal{S}$ の元に $[0,\infty]$ の値を、空集合には $0$ を与え、可算加法的に割り当てたものが測度であり、全体の値が $1$ の測度が確率である(確率空間 の記事の定義「確率空間」)。

σ-代数を小さくとる理由と、情報としての σ-代数を開く

σ-代数を $\mathcal{P}(X)$ より小さくとる理由は、$\mathbb{R}$ のすべての部分集合に「区間には長さを与え、平行移動で変わらず、可算加法的な」値を割り当てることができないことにある(Axler20 2.22)。Lebesgue測度 は、この性質をもつ値を Lebesgue 可測集合の σ-代数の上で与える。確率論では、ex-sigma-algebra-information のように、σ-代数の包含 $\mathcal{F}_1\subset\mathcal{F}$ が情報の多少を表し、確率変数 $X$ が生成する σ-代数 $X^{-1}(\mathcal{B})$($\mathcal{B}$ は $\mathbb{R}$ の Borel 集合の族)は「$X$ の値を知れば判定できる事象の全体」を表す。

関連項目

参考文献

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