二項定理と組合せの恒等式

同義語:組合せの恒等式一般二項定理binomial identities

概要

二項定理と組合せの恒等式(binomial identities)とは、二項定理 $(a+b)^n=\sum_{k=0}^n\binom nka^kb^{n-k}$($ab=ba$、整数 $n\ge0$)と二項係数の恒等式である。恒等式の主な証明法は式変形・二重数え上げ・母関数で、使える条件が異なる。例は実数 $r,s$ と 0 以上の整数 $k$ での Vandermonde の恒等式 $\sum_j\binom rj\binom s{k-j}=\binom{r+s}k$ である。両辺が $r$ の多項式である恒等式は、0 以上の整数 $r$ で示せば実数 $r$ に広がる。実数 $\alpha$ と $|x|<1$ で $(1+x)^\alpha=\sum_k\binom\alpha kx^k$ が成り立ち、$\alpha$ が 0 以上の整数でなければ $|x|>1$ で発散する。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 二項係数, 数学的帰納法, 集合, 冪級数

高校での出発点:展開の係数とパスカルの三角形

$(a+b)^2=a^2+2ab+b^2$、$(a+b)^3=a^3+3a^2b+3ab^2+b^3$ の係数を並べると、次の パスカルの三角形(Pascal の三角形)ができる。各数はすぐ上の 2 つの数の和である。

$n$係数
$0$$1$
$1$$1\quad1$
$2$$1\quad2\quad1$
$3$$1\quad3\quad3\quad1$
$4$$1\quad4\quad6\quad4\quad1$
$5$$1\quad5\quad10\quad10\quad5\quad1$
$6$$1\quad6\quad15\quad20\quad15\quad6\quad1$

高校では、$n$ 行目の数が ${}_n\mathrm{C}_k=\binom nk$ であること(二項定理)
$$ (a+b)^n=\sum_{k=0}^n\binom nka^kb^{n-k} $$
を学び、$a=b=1$ を代入して $\sum_k\binom nk=2^n$、$a=-1,\ b=1$ を代入して $\sum_k(-1)^k\binom nk=0$($n\ge1$)を導く。さらに
$$ \sum_{k=0}^nk\binom nk=n\,2^{n-1} $$
のような式($n=5$ で $5+20+30+20+5=80=5\cdot2^4$)を、式変形や微分で示す練習をする。
この種の等式(組合せの恒等式)には、見た目の異なる証明が何通りもある。本記事では、恒等式の証明法を 代数的な計算・組合せ的な数え上げ・母関数 の 3 つに整理し、それぞれが「なぜ正しいのか」「どんな条件で使えるのか」「どこで失敗するのか」を、Vandermonde の恒等式とホッケースティック恒等式を例に調べる。最後に、指数が負や分数のときの 一般二項定理 と、その成り立つ範囲を扱う。

二項係数の 2 つの顔

二項係数

0 以上の整数 $n$ と整数 $k$ に対し、$n$ 個の元からなる集合の $k$ 個の元からなる部分集合の個数を $\binom nk$ と書く。$k<0$ または $k>n$ なら $\binom nk=0$ である。
実数 $r$ と整数 $k$ に対しては
$$ \binom rk:=\frac{r(r-1)\cdots(r-k+1)}{k!}\quad(k\ge1),\qquad \binom r0:=1,\qquad \binom rk:=0\quad(k<0) $$
と定める(一般化二項係数)。

2 つの定義が $r=n$(0 以上の整数)で一致することが、次の命題である。

二項係数の公式

0 以上の整数 $n$ と $0\le k\le n$ について
$$ \binom nk=\frac{n(n-1)\cdots(n-k+1)}{k!}=\frac{n!}{k!\,(n-k)!}. $$
また $k>n$ なら中央の式の分子は因子 $0$ を含むので $0$ であり、2 つの定義は $k\ge0$ のすべてで一致する。

証明

$n$ 個の元から、相異なる $k$ 個を 順番をつけて 並べる方法の数を 2 通りに数える。1 番目は $n$ 通り、2 番目は $n-1$ 通り、…と選ぶと $n(n-1)\cdots(n-k+1)$ 通りである。一方、まず $k$ 元の部分集合を $\binom nk$ 通り選び、次にその $k$ 個の並べ方を $k!$ 通り選んでも、各並べ方がちょうど 1 回ずつ得られる。よって $\binom nk\cdot k!=n(n-1)\cdots(n-k+1)$ である。$\square$

この証明は、後で見る 二重数え上げ の最初の例である。$\binom rk$ は $r$ についての $k$ 次の多項式であり、$r$ が負や分数でも意味をもつ。たとえば
$$ \binom{-1}k=\frac{(-1)(-2)\cdots(-k)}{k!}=(-1)^k,\qquad \binom{1/2}2=\frac{\frac12\cdot(-\frac12)}2=-\frac18 $$
である。

Pascal の関係

実数 $r$ と整数 $k$ について
$$ \binom rk=\binom{r-1}k+\binom{r-1}{k-1}. $$

証明

$k<0$ なら両辺とも $0$、$k=0$ なら両辺とも $1$ である。$k\ge1$ とし、$P:=(r-1)(r-2)\cdots(r-k+1)$($k-1$ 個の因子、$k=1$ なら $P=1$)とおくと、$\binom{r-1}k=\frac{P\,(r-k)}{k!}$、$\binom{r-1}{k-1}=\frac{P}{(k-1)!}=\frac{P\,k}{k!}$ なので、和は $\frac{P\,(r-k+k)}{k!}=\frac{rP}{k!}=\binom rk$ である。$\square$

$r=n$ が 0 以上の整数のときは、数え上げによる証明もある。$\{1,\dots,n\}$ の $k$ 元部分集合は、$n$ を含まないもの($\{1,\dots,n-1\}$ から $k$ 個:$\binom{n-1}k$ 通り)と、$n$ を含むもの(残り $k-1$ 個:$\binom{n-1}{k-1}$ 通り)に分かれる。これがパスカルの三角形の「上の 2 つの和」の規則である。

二項定理とその 2 つの証明

二項定理

実数(あるいは複素数)$a,b$ と 0 以上の整数 $n$ について
$$ (a+b)^n=\sum_{k=0}^n\binom nka^kb^{n-k}. $$

組合せ的な証明

$(a+b)^n=(a+b)(a+b)\cdots(a+b)$ を分配法則で展開すると、$n$ 個の因子のそれぞれから $a$ か $b$ を 1 つずつ選んで掛けた $2^n$ 個の積の和になる。$a$ を選ぶ因子の集合を $S\subset\{1,\dots,n\}$ とすると、その積は(掛ける順序を並べ替えて)$a^{|S|}b^{n-|S|}$ に等しい。$|S|=k$ となる $S$ は $\binom nk$ 個あるので、$a^kb^{n-k}$ の係数は $\binom nk$ である。$\square$

帰納法による証明

$n=0$ では両辺とも $1$ である。$n$ で成り立つとすると
$$ (a+b)^{n+1}=(a+b)\sum_k\binom nka^kb^{n-k}=\sum_k\binom nka^{k+1}b^{n-k}+\sum_k\binom nka^kb^{n+1-k} $$
であり、第 1 の和で $k$ を $k-1$ に置きかえると $a^kb^{n+1-k}$ の係数は $\binom n{k-1}+\binom nk=\binom{n+1}k$(prop-bti-pascal)となる。$\square$

2 つの証明は同じ事実の表裏である。組合せ的な証明は「なぜ二項係数が現れるか」を直接説明し、帰納法の証明はパスカルの三角形の作り方(上の 2 つの和)そのものである。どちらの証明も、$a^{|S|}b^{n-|S|}$ への並べ替え、あるいは $b\,a^k=a^kb$ の形で $ab=ba$(可換性) を使っている。可換性が崩れると二項定理は成り立たない(後の ex-bti-noncommutative)。
二項定理で $(1+\frac1n)^n$ を展開して $e$ が定まることを示す使い方は (1+1/n)^nの極限 で扱う。

恒等式の 3 つの証明法

同じ恒等式 $\sum_{k=0}^nk\binom nk=n\,2^{n-1}$($n\ge1$)を、3 つの方法で証明してみる。
方法 1:代数的な計算 $k\ge1$ で
$$ k\binom nk=k\cdot\frac{n!}{k!\,(n-k)!}=n\cdot\frac{(n-1)!}{(k-1)!\,(n-k)!}=n\binom{n-1}{k-1} $$
(吸収の恒等式)なので、$\sum_kk\binom nk=n\sum_{k\ge1}\binom{n-1}{k-1}=n\,2^{n-1}$ である。あるいは、$(1+x)^n=\sum_k\binom nkx^k$ を $x$ で微分して $n(1+x)^{n-1}=\sum_kk\binom nkx^{k-1}$ とし、$x=1$ を代入してもよい。
方法 2:組合せ的な数え上げ(二重数え上げ) $n$ 人から「委員会」と「その中の委員長 1 人」を選ぶ方法の数を 2 通りに数える。先に委員会($k$ 人)を選んでから委員長を選ぶと $\sum_kk\binom nk$ 通り。先に委員長($n$ 通り)を選び、残り $n-1$ 人の各人を委員会に入れるかどうか決めると $n\,2^{n-1}$ 通り。同じものを数えているので等しい。
方法 3:母関数 数列 $c_0,c_1,\dots$ を多項式(あるいは冪級数)$\sum_kc_kx^k$ の係数として扱い、多項式どうしの等式から係数の等式を読み取る。上の微分による計算はこの方法の一種であるが、この方法が本領を発揮するのは、和が $\sum_ja_jb_{k-j}$(畳み込み)の形をしているときである。$\bigl(\sum_ja_jx^j\bigr)\bigl(\sum_lb_lx^l\bigr)$ の $x^k$ の係数がちょうど $\sum_ja_jb_{k-j}$ だからである。次節の Vandermonde の恒等式がその典型である。
3 つの方法の性格を表にまとめる(組合せ的な証明の例は KT17 §2.4、恒等式の一覧は GKP94 §5.1 に多い)。

方法なぜ正しいか使える条件苦手なもの
代数的な計算等式の変形・代入・微分特になし何を変形すればよいかの見通しが立ちにくい
組合せ的な数え上げ同じ有限集合の要素の個数は、数え方によらない両辺が 0 以上の整数の「個数」として読めること(添字が 0 以上の整数)負・分数の添字、符号つきの和
母関数等しい多項式(冪級数)は係数も等しい和が積(畳み込み)の係数として書けること。無限和なら収束の確認か形式的冪級数の枠組み積の形に書けない和

組合せ的な方法の「苦手」は、次の補題でかなり補える。$\binom rk$ は $r$ の多項式なので、0 以上の整数で成り立つ等式は、実数全体に自動的に広がる。

多項式の論法

$p(r)$、$q(r)$ を実数係数の多項式とする。無限に多くの実数 $r$(たとえば 0 以上の整数すべて)で $p(r)=q(r)$ ならば、すべての実数 $r$ で $p(r)=q(r)$ である。

証明

$p-q$ が $0$ でない多項式なら、その次数を $d$ として、根は高々 $d$ 個である(因数定理により、根 $c$ ごとに $(r-c)$ が因数として 1 つずつくくり出せ、次数が 1 ずつ下がる)。無限に多くの根をもつので $p-q=0$ である。$\square$

母関数による証明の土台になる形式的冪級数の計算規則は 形式的冪級数の積と逆数 で扱う。

代表的な恒等式

Vandermonde の恒等式

Vandermonde の恒等式

実数 $r,s$ と 0 以上の整数 $k$ について
$$ \sum_{j=0}^k\binom rj\binom s{k-j}=\binom{r+s}k. $$

証明

0 以上の整数の場合(組合せ的) $r=m$、$s=n$ を 0 以上の整数とする。男子 $m$ 人・女子 $n$ 人の計 $m+n$ 人から $k$ 人を選ぶ方法は $\binom{m+n}k$ 通りである。選ばれる男子の人数 $j$ で分類すると、男子 $j$ 人・女子 $k-j$ 人の選び方は $\binom mj\binom n{k-j}$ 通りなので、左辺に等しい。
0 以上の整数の場合(母関数) $(1+x)^m(1+x)^n=(1+x)^{m+n}$ の両辺を thm-bti-binomial で展開すると、左辺の $x^k$ の係数は $\sum_j\binom mj\binom n{k-j}$、右辺は $\binom{m+n}k$ である。等しい多項式の係数は等しい。
実数の場合 $k$ を固定し、$s$ を 0 以上の整数 $n$ に固定すると、両辺は $r$ の多項式で、0 以上の整数 $r=m$ すべてで一致するから、lem-bti-polynomial によりすべての実数 $r$ で一致する。次に実数 $r$ を固定すると、両辺は $s$ の多項式で、0 以上の整数 $s$ すべてで一致するので、同じ補題によりすべての実数 $s$ で一致する。$\square$

例 $r=s=n$(0 以上の整数)、$k=n$ とすると、$\binom n{n-j}=\binom nj$ より
$$ \sum_{j=0}^n\binom nj^2=\binom{2n}n $$
である。$n=3$ で $1+9+9+1=20=\binom63$ である。
例 $r=s=-1$ とすると、$\binom{-1}j=(-1)^j$ なので左辺は $\sum_{j=0}^k(-1)^j(-1)^{k-j}=(k+1)(-1)^k$、右辺は $\binom{-2}k=\frac{(-2)(-3)\cdots(-k-1)}{k!}=(-1)^k(k+1)$ で一致する。この場合は「人を選ぶ」という読み方ができないが、多項式の論法により等式は成り立っている。
両辺に $k!$ を掛けると、下降階乗冪 $r^{\underline k}:=r(r-1)\cdots(r-k+1)$ について
$$ (r+s)^{\underline k}=\sum_{j=0}^k\binom kjr^{\underline j}s^{\underline{k-j}} $$
となる。これは $(r+s)^k$ の二項定理と同じ形であり、下降階乗冪が差分の計算で「べき」の役割を果たすことの 1 つの表れである(下降階乗冪)。

ホッケースティック恒等式

ホッケースティック恒等式

0 以上の整数 $r,n$ について($n< r$ なら左辺は空和で $0$ とする)
$$ \sum_{j=r}^n\binom jr=\binom{n+1}{r+1}. $$

冒頭の表($\binom nk$ を $n$ 行目の左から $k$ 番目に置いた左詰めの表)では、$\binom rr$ から真下へ $\binom rr,\binom{r+1}r,\dots,\binom nr$ と同じ列の数を足すと、最後の数 $\binom nr$ の右下(1 行下・1 つ右)にある $\binom{n+1}{r+1}$ になる。三角形を中央寄せに並べると、足す数の列が斜めの「柄」、最後に折れ曲がった先の $\binom{n+1}{r+1}$ が「刃」に見えるので、この名がある。たとえば $r=2$、$n=6$ で $1+3+6+10+15=35=\binom73$ である。

3 通りの証明

$n< r$ なら左辺は空和で $0$、右辺も $n+1< r+1$ なので $\binom{n+1}{r+1}=0$ である。以下 $r\le n$ とする。
代数的 prop-bti-pascal を $\binom jr=\binom{j+1}{r+1}-\binom j{r+1}$ と読むと、和は隣どうしが打ち消し合い、$\binom{n+1}{r+1}-\binom r{r+1}=\binom{n+1}{r+1}$ が残る。
組合せ的 $\{1,2,\dots,n+1\}$ の $r+1$ 元部分集合を、その最大の元 $j+1$ で分類する($r\le j\le n$)。最大の元が $j+1$ のものは、残り $r$ 個を $\{1,\dots,j\}$ から選ぶので $\binom jr$ 個ある。足し合わせると全体の個数 $\binom{n+1}{r+1}$ になる。
母関数 等比数列の和の公式から $\sum_{j=0}^n(1+x)^j=\frac{(1+x)^{n+1}-1}x$ である。左辺の $x^r$ の係数は $\sum_{j=0}^n\binom jr=\sum_{j=r}^n\binom jr$、右辺の $x^r$ の係数は $(1+x)^{n+1}$ の $x^{r+1}$ の係数 $\binom{n+1}{r+1}$ である。$\square$

代数的な証明は、「$\binom x{r+1}$ の差分が $\binom xr$ である」ことを使って和を打ち消し合わせている。これは和と差分の基本定理の特別な場合で、べき和の公式 $\sum_{j=1}^nj=\binom{n+1}2$、$\sum_{j=1}^nj(j-1)=2\binom{n+1}3$ などは、$j^m$ を $\binom j0,\binom j1,\dots,\binom jm$ の 1 次結合で書き直せば、すべてこの恒等式から出る(数列の和と差分)。

交代和と符号を反転する対合

$\sum_{k=0}^n(-1)^k\binom nk=0$($n\ge1$)は、組合せ的には「偶数個の元をもつ部分集合と、奇数個の元をもつ部分集合は同数」ということである。証明には次の 符号を反転する対合 を使う:$\{1,\dots,n\}$ の部分集合 $S$ に対し、$1\in S$ なら $1$ を取り除き、$1\notin S$ なら $1$ を加える。この操作を 2 回行うと元に戻り(対合)、元の個数の偶奇が必ず入れかわるので、偶数個の部分集合と奇数個の部分集合が 1 対 1 に対応する。符号つきの和を数え上げで扱うときの標準的な技法である。
途中で止めた交代和には、きれいな閉じた形がある。

交代和の部分和

実数 $r$ と 0 以上の整数 $m$ について
$$ \sum_{k=0}^m(-1)^k\binom rk=(-1)^m\binom{r-1}m. $$

証明

$u_k:=(-1)^k\binom{r-1}k$($u_{-1}=0$)とおくと、prop-bti-pascal により $(-1)^k\binom rk=(-1)^k\binom{r-1}k+(-1)^k\binom{r-1}{k-1}=u_k-u_{k-1}$ である。$k=0,\dots,m$ で足すと打ち消し合って $u_m-u_{-1}=u_m$ が残る。$\square$

$r=n$($n\ge1$ の整数)、$m=n$ とすると右辺は $(-1)^n\binom{n-1}n=0$ となり、全体の交代和が $0$ であることに戻る。この命題は、後で一般二項定理の $x=-1$ での振る舞いを調べるときに使う。

一般二項定理:負・分数の指数

指数が 0 以上の整数でないとき、$(1+x)^\alpha$ の展開は無限に続く級数になる(Newton の二項定理とも呼ばれる。KT17 §8.3)。

一般二項定理

実数 $\alpha$ と $|x|<1$ を満たす実数 $x$ について、級数 $\sum_{k=0}^\infty\binom\alpha kx^k$ は絶対収束し、
$$ (1+x)^\alpha=\sum_{k=0}^\infty\binom\alpha kx^k $$
が成り立つ。$\alpha$ が 0 以上の整数なら $k>\alpha$ の項は $0$ で、thm-bti-binomial に戻る。

証明

$\alpha$ は 0 以上の整数でないとする。$c_k:=\binom\alpha k$ はすべて $0$ でなく、$c_{k+1}=c_k\cdot\frac{\alpha-k}{k+1}$ なので $\bigl|c_{k+1}x^{k+1}\bigr|/\bigl|c_kx^k\bigr|=|x|\frac{|\alpha-k|}{k+1}\to|x|$ である。比による判定法(Rud76 Theorem 3.34)により、$|x|<1$ で級数は絶対収束する。$f(x):=\sum_kc_kx^k$ とおくと、冪級数は収束区間の内部で項別に微分できる(Rud76 Theorem 8.1。本記事では証明しない)ので、$f'(x)=\sum_k(k+1)c_{k+1}x^k$ である。$(k+1)c_{k+1}=(\alpha-k)c_k$ から
$$ (1+x)f'(x)=\sum_k\bigl((k+1)c_{k+1}+kc_k\bigr)x^k=\alpha\sum_kc_kx^k=\alpha f(x) $$
となる。$g(x):=f(x)(1+x)^{-\alpha}$ とおくと $g'(x)=(1+x)^{-\alpha-1}\bigl((1+x)f'(x)-\alpha f(x)\bigr)=0$ なので $g$ は定数で、$g(0)=f(0)=1$ である。よって $f(x)=(1+x)^\alpha$ である。$\square$

負の整数の指数 $\alpha=-n$($n\ge1$ の整数)では
$$ \binom{-n}k=\frac{(-n)(-n-1)\cdots(-n-k+1)}{k!}=(-1)^k\frac{n(n+1)\cdots(n+k-1)}{k!}=(-1)^k\binom{n+k-1}k $$
(上の添字の反転)なので、$x$ を $-x$ に置きかえて
$$ \frac1{(1-x)^n}=\sum_{k=0}^\infty\binom{n+k-1}kx^k\qquad(|x|<1) $$
となる。係数 $\binom{n+k-1}k$ は、高校で習う 重複組合せ ${}_n\mathrm{H}_k$($n$ 種類のものから重複を許して $k$ 個選ぶ方法の数)である。実際 $\frac1{(1-x)^n}=(1+x+x^2+\cdots)^n$ の $x^k$ の係数は、$e_1+\cdots+e_n=k$ を満たす 0 以上の整数の組 $(e_1,\dots,e_n)$ の個数、すなわち種類 $i$ を $e_i$ 個選ぶ方法の数である。$n=1$ では等比級数 $\frac1{1-x}=1+x+x^2+\cdots$ になる。
分数の指数 $\alpha=\frac12$ では $\binom{1/2}k=1,\ \frac12,\ -\frac18,\ \frac1{16},\ -\frac5{128},\dots$ なので
$$ \sqrt{1+x}=1+\frac x2-\frac{x^2}8+\frac{x^3}{16}-\frac{5x^4}{128}+\cdots\qquad(|x|<1) $$
である。$x=0.21$ で $x^5$ の項まで足すと $1.1000015\ldots$ となり、$\sqrt{1.21}=1.1$ に近い。また $\alpha=-\frac12$ で $x$ を $-4x$ に置きかえると、$\binom{-1/2}k(-4)^k=\binom{2k}k$ が確かめられるので
$$ \frac1{\sqrt{1-4x}}=\sum_{k=0}^\infty\binom{2k}kx^k=1+2x+6x^2+20x^3+70x^4+\cdots\qquad\Bigl(|x|<\frac14\Bigr) $$
となる(中央の二項係数の母関数)。

収束する範囲

thm-bti-general は $|x|<1$ だけを主張している。$|x|>1$ では、$\alpha$ が 0 以上の整数でない限り、項の比が $|x|>1$ に近づくので項が $0$ に近づかず、級数は発散する。境界 $|x|=1$ では $\alpha$ によって振る舞いが変わる。

端点での収束

$\alpha$ は 0 以上の整数でない実数とする。

  1. $x=-1$ では、級数 $\sum_k\binom\alpha k(-1)^k$ は $\alpha>0$ のとき収束して和は $0$ であり、$\alpha<0$ のとき発散する。
  2. $x=1$ では、$\alpha\le-1$ のとき級数 $\sum_k\binom\alpha k$ は発散する。
証明
  1. prop-bti-partial-alt により、部分和は
    $$ \sum_{k=0}^N(-1)^k\binom\alpha k=(-1)^N\binom{\alpha-1}N=\frac{(1-\alpha)(2-\alpha)\cdots(N-\alpha)}{N!}=\prod_{k=1}^N\Bigl(1-\frac\alpha k\Bigr) $$
    である。$\alpha<0$ なら各因子は $1+\frac{|\alpha|}k>1$ で、展開すると積は $1+|\alpha|\bigl(1+\frac12+\cdots+\frac1N\bigr)$ 以上であり、調和級数は発散するので部分和は $+\infty$ に発散する。$\alpha>0$ なら、$k_0$ を $\alpha$ より大きい整数とすると $k\ge k_0$ の因子は $0<1-\frac\alpha k<1$ であり、$1-t\le e^{-t}$ から
    $$ \Bigl|\prod_{k=1}^N\Bigl(1-\frac\alpha k\Bigr)\Bigr|\le C\exp\Bigl(-\alpha\sum_{k=k_0}^N\frac1k\Bigr)\to0\qquad(N\to\infty) $$
    である($C$ は $k< k_0$ の因子の積の絶対値)。よって和は $0=(1-1)^\alpha$ である。
  2. $\alpha\le-1$ なら $|\alpha-j|=j-\alpha\ge j+1$ なので $\bigl|\binom\alpha k\bigr|=\prod_{j=0}^{k-1}\frac{|\alpha-j|}{j+1}\ge1$ であり、項が $0$ に近づかないから発散する。$\square$

$x=1$ で $\alpha>-1$ の場合は、項の符号がある番号から先で交互に変わり、絶対値が単調に $0$ に減るので、交代級数の判定法により収束する。その和が $2^\alpha$ に等しいことは、Abel の定理(収束する冪級数は収束区間の端で連続、Rud76 Theorem 8.2)から従う。本記事ではこの 2 点を 証明しない。たとえば $\alpha=\frac12$、$x=1$ では、部分和が $10$ 項で $1.4192\ldots$、$1000$ 項で $1.41421\ldots$ となり、ゆっくり $\sqrt2=1.41421\ldots$ に近づく。
まとめると、$\alpha$ が 0 以上の整数でないとき、級数 $\sum_k\binom\alpha kx^k$ は $|x|<1$ で収束し、$|x|>1$ で発散し、$x=-1$ では $\alpha>0$ のときに限り収束し、$x=1$ では $\alpha>-1$ のときに限り収束する($x=1$、$\alpha>-1$ の収束は上で述べたとおり引用)。

誤用の反例

反例:可換でないと二項定理は崩れる

行列 $A=\begin{pmatrix}1&1\\ 0&1\end{pmatrix}$、$B=\begin{pmatrix}1&0\\ 1&1\end{pmatrix}$ では $AB=\begin{pmatrix}2&1\\ 1&1\end{pmatrix}$、$BA=\begin{pmatrix}1&1\\ 1&2\end{pmatrix}$ で $AB\ne BA$ である。このとき
$$ (A+B)^2=\begin{pmatrix}5&4\\ 4&5\end{pmatrix},\qquad A^2+2AB+B^2=\begin{pmatrix}6&4\\ 4&4\end{pmatrix} $$
であり、二項定理の $n=2$ の場合が成り立たない。正しくは $(A+B)^2=A^2+AB+BA+B^2$ である。thm-bti-binomial の証明で使った可換性 $ab=ba$ が、この例では満たされていない。

反例:収束する範囲の外で級数を使う

$\alpha=-1$、$x=2$ とすると、左辺は $(1+2)^{-1}=\frac13$ であるが、右辺は $1-2+4-8+16-\cdots$ で、項が $0$ に近づかないので発散する。$\alpha=\frac12$、$x=3$ でも、左辺は $\sqrt4=2$ であるが、項の比 $\bigl|\binom{1/2}{k+1}3^{k+1}\bigr|/\bigl|\binom{1/2}k3^k\bigr|=3\cdot\frac{|k-1/2|}{k+1}$ が $3$ に近づくので右辺は発散する。どちらも「$\alpha$ は実数」を満たすが「$|x|<1$」を満たさず、thm-bti-general の等式が意味をもたない。

反例:数え上げの読み方が効かない添字

「$\binom rk$ は $r$ 個から $k$ 個を選ぶ方法の数」という読み方は、$r$ が 0 以上の整数のときにしか使えない。$\binom{-2}3=\frac{(-2)(-3)(-4)}{6}=-4$ は負であり、何かの個数ではない。同じ理由で、0 以上の整数についての恒等式のうち、次の 2 つは実数の上の添字に広がらない。

  • 対称性 $\binom nk=\binom n{n-k}$:$n=-1$、$k=0$ とすると $\binom{-1}0=1$ だが $\binom{-1}{-1}=0$ である。$n-k$ という添字自体が「$n$ が 0 以上の整数」を前提にしている。
  • $\sum_k\binom nk=2^n$:$n=-1$ とすると左辺は $\sum_k(-1)^k$ で発散し、$2^{-1}=\frac12$ にならない。$n$ が 0 以上の整数でないと和が無限和になり、$x=1$ での一般二項定理の問題(prop-bti-endpoint の 2)になるからである。
    一方、thm-bti-vandermonde や prop-bti-partial-alt は、$k$ を固定すると両辺が $r$ の多項式になる 有限和 の等式なので、lem-bti-polynomial により実数へ広がる。多項式の論法が使えるかどうかは「上の添字について多項式である有限和か」で判定できる。

数学オリンピックの問題から

最小の元の平均(国際数学オリンピック(1981 年)第 2 問)

Let $1\le r\le n$ and consider all subsets of $r$ elements of the set $\{1,2,\dots,n\}$. Each of these subsets has a smallest member. Let $F(n,r)$ denote the arithmetic mean of these smallest numbers; prove that $F(n,r)=\dfrac{n+1}{r+1}$.

— 第 22 回国際数学オリンピック(1981 年)第 2 問(原文、Oly81)
和訳:$1\le r\le n$ とし、集合 $\{1,2,\dots,n\}$ の $r$ 元部分集合をすべて考える。それぞれの最小の元の相加平均を $F(n,r)$ とするとき、$F(n,r)=\frac{n+1}{r+1}$ を示せ。(たとえば $n=5$、$r=2$ では、10 個の部分集合の最小の元の和は $4\cdot1+3\cdot2+2\cdot3+1\cdot4=20$ で、平均 $2=\frac63$ である。)
高校数学で解く 最小の元が $k$ である $r$ 元部分集合は、残り $r-1$ 個を $\{k+1,\dots,n\}$ から選ぶので $\binom{n-k}{r-1}$ 個ある。よって最小の元の総和は $\sum_{k=1}^nk\binom{n-k}{r-1}$ である。$k=\sum_{i=1}^k1$ と書いて和の順序を入れかえ、ホッケースティック恒等式(thm-bti-hockey)を 2 回使うと
$$ \sum_{k=1}^nk\binom{n-k}{r-1}=\sum_{i=1}^n\sum_{k=i}^n\binom{n-k}{r-1}=\sum_{i=1}^n\binom{n-i+1}r=\sum_{t=r}^{n}\binom tr=\binom{n+1}{r+1} $$
となる(2 つ目の等号は $t=n-k$ として、thm-bti-hockey の $r$、$n$ を $r-1$、$n-i$ として使ったもの:$\sum_{t=r-1}^{n-i}\binom t{r-1}=\binom{n-i+1}r$。$n-i< r-1$ のときは両辺とも $0$ である。3 つ目の等号は $t=n-i+1$ とおき、$t< r$ の項が $0$ であることを使った。4 つ目の等号も同じ恒等式)。部分集合の個数 $\binom nr$ で割ると $F(n,r)=\binom{n+1}{r+1}\big/\binom nr=\frac{n+1}{r+1}$ である。
大学数学で見ると 最後の等式 $\sum_A\min A=\binom{n+1}{r+1}$($A$ は $\{1,\dots,n\}$ の $r$ 元部分集合全体を動く)は、1 回の二重数え上げで直接示せる。$\{0,1,\dots,n\}$ の $r+1$ 元部分集合 $B$ に、組 $(A,b):=(B\setminus\{\min B\},\ \min B)$ を対応させる。$A$ は $\{1,\dots,n\}$ の $r$ 元部分集合で、$b$ は $0\le b<\min A$ を満たす。逆に、そのような組 $(A,b)$ からは $B=A\cup\{b\}$ が戻るので、この対応は全単射である。$A$ を固定すると $b$ の選び方は $\min A$ 通りなので、組の総数は $\sum_A\min A$ であり、これが $B$ の個数 $\binom{n+1}{r+1}$ に等しい。
高校の解き方で 2 回使ったホッケースティック恒等式も、組合せ的には「最大の元で分類する」数え上げであった。大学の見方は、2 段の計算を「集合に 1 つ元を付け加える」という 1 つの全単射にまとめたものである。$\min A$ の平均を「無作為に選んだ $r$ 元部分集合の最小の元の期待値」と読めば、これは期待値の計算でもある(期待値の線形性)。

奇数番目の二項係数の和(国際数学オリンピック(1974 年)第 3 問)

Prove that the number $\sum_{k=0}^{n}\binom{2n+1}{2k+1}2^{3k}$ is not divisible by $5$ for any integer $n\ge0$.

— 第 16 回国際数学オリンピック(1974 年)第 3 問(原文、Oly74)
和訳:どの整数 $n\ge0$ についても、$\sum_{k=0}^n\binom{2n+1}{2k+1}2^{3k}$ は $5$ で割り切れないことを示せ。
高校数学で解く $2^{3k}=8^k=(\sqrt8)^{2k}$ に注目し、
$$ A_n:=\sum_{k=0}^n\binom{2n+1}{2k+1}8^k,\qquad B_n:=\sum_{k=0}^n\binom{2n+1}{2k}8^k $$
とおく($A_0,A_1,A_2,A_3=1,\ 11,\ 149,\ 2143$)。二項定理で $(1\pm\sqrt8)^{2n+1}$ を展開し、$\sqrt8$ の偶数乗の項と奇数乗の項に分けると
$$ (1+\sqrt8)^{2n+1}=B_n+A_n\sqrt8,\qquad(1-\sqrt8)^{2n+1}=B_n-A_n\sqrt8 $$
である。辺々掛けると
$$ B_n^2-8A_n^2=(1-8)^{2n+1}=-7^{2n+1} $$
となる。$5$ を法として $8\equiv3$、$7^{2n+1}=7\cdot49^n\equiv2\cdot(-1)^n$ なので、$B_n^2-3A_n^2\equiv-2(-1)^n\pmod5$ である。もし $5\mid A_n$ なら $B_n^2\equiv-2(-1)^n\equiv2$ または $3\pmod5$ となるが、整数の平方を $5$ で割った余りは $0,1,4$ のいずれかなので矛盾する。よって $A_n$ は $5$ で割り切れない。
大学数学で見ると 2 つの見方が重なっている。1 つは、$\pm\sqrt8$ を代入して偶数番目と奇数番目の項を分ける操作で、これは $\pm1$ による振り分け(1の冪根で数を振り分ける の $n=2$ の場合)である。もう 1 つは ノルム である。$a+b\sqrt8$($a,b$ は整数)全体の集合で $N(a+b\sqrt8):=a^2-8b^2=(a+b\sqrt8)(a-b\sqrt8)$ と定めると、$N$ は積を積に移す($N(\beta\gamma)=N(\beta)N(\gamma)$)。したがって $N\bigl((1+\sqrt8)^{2n+1}\bigr)=N(1+\sqrt8)^{2n+1}=(-7)^{2n+1}$ であり、上の等式はこの一行に集約される。さらに $5$ を法とすると $3$ は平方剰余でない($t^2\equiv3$ に解がない)ので、$\sqrt3$ を $\mathbb{Z}/5\mathbb{Z}$ に付け加えた 25 個の元からなる体ができる。$A_n\equiv0$ は「$(1+\sqrt3)^{2n+1}$ が $\mathbb{Z}/5\mathbb{Z}$ に入る」ことを意味し、その元のノルムは平方数 $B_n^2$ になるはずだが、ノルム $-2(-1)^n$ は平方でない、というのが上の矛盾の正体である。

さらに先へ

  • 多項定理:$(a_1+\cdots+a_m)^n$ の展開の係数は多項係数 $\frac{n!}{k_1!\cdots k_m!}$ で、組合せ的な証明がそのまま通る(多項係数)。
  • 超幾何級数:Vandermonde の恒等式(実数版は Chu–Vandermonde の恒等式ともいう)は、Gauss の超幾何級数の和公式の特別な場合である(GKP94 §5.5)。
  • 恒等式の機械的な証明:二項係数を含む和の恒等式の多くは、計算機で証明を自動的に見つけられる(WZ 法、PWZ96)。

関連項目

参考文献

[1]
Ronald L. Graham, Donald E. Knuth and Oren Patashnik, Concrete Mathematics: A Foundation for Computer Science, Addison-Wesley, 1994, §5.1(基本的な恒等式:Vandermonde の畳み込み、上の添字の和、上の添字の反転)、§5.5(超幾何級数)
[2]
Walter Rudin, Principles of Mathematical Analysis, McGraw-Hill, 1976, Theorem 3.34(比による判定法)、Theorem 8.1(冪級数の項別微分)、Theorem 8.2(Abel の定理)

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