曲げ折り法

同義語:曲げ折りbend-and-breakbend and break森の曲げ折り法

概要

曲げ折り法(bend-and-break)とは、代数多様体の曲線の点を固定したまま曲線を動かすと族が退化して有理曲線が折れて分かれることを使い、有理曲線を作る方法で、森重文が導入した。射影多様体への曲線の族が点を固定して像を動かすなら固定点を通る有理曲線があり、有理曲線の 2 点を固定して動かすと、その類は 2 個以上の有理曲線の和と数値的に同値になる。滑らかな射影多様体で標準因子との交点数が負の曲線には、正標数の Frobenius 写像を合成してそのような族を作れる。こうして Fano 多様体 $X$ のすべての点を $-K_X$ 次数 $\dim X+1$ 以下の有理曲線が通る。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 有理曲線, 豊富な可逆層, ブローアップ, Hodge指数定理, Frobenius写像

曲げ折り法(bend-and-break)は、代数多様体の上に有理曲線を作る方法である。曲線の 1 点を固定したまま曲線を動かす(曲げる)と、族はどこかで退化し、有理曲線が折れて分かれる。森重文(Shigefumi Mori)が接束の豊富な多様体を分類する 1979 年の論文で導入し(森の定理(Hartshorne予想))、のちに極小モデル理論の出発点である 錐定理 を生んだ。
方法は 2 つの部分からなる。「折る」部分は、固定点をもつ曲線の族が有理曲線を生むという交点数の議論で、標数によらず、滑らかさも使わない。「曲げる」部分は、標準因子との交点数が負の曲線は動かせるという変形の次元の評価で、ここに正標数の Frobenius 写像が効く。この記事では、折る部分の 2 つの定理(thm-bb-fixed、thm-bb-two)を証明し、そこから Fano 多様体のすべての点を有理曲線が通ること(cor-bb-fano)を導く。

記号

$k$ を代数閉体とする。多様体 は $k$ 上の整で分離的な有限型スキームのことで、曲線 は 1 次元の多様体のことである。$X$ を射影多様体とする。
滑らかな射影曲線 $C$ と定値でない射 $f\colon C\to X$ について、$f_*[C]:=\deg(C\to f(C))\,[f(C)]$ と書く。$X$ の 1 サイクルは、すべての Cartier 因子との交点数が等しいとき 数値的に同値 といい、$\equiv$ と書く(数値的同値)。Cartier 因子 $H$ について $H\cdot f_*[C]=\deg f^*H$ である。

曲線の族と固定点

$C$ を滑らかな射影曲線、$T$ を滑らかな連結曲線とする。射 $F\colon C\times T\to X$ を $C$ から $X$ への射の族 といい、$f_t:=F(\cdot,t)$ と書く。$p\in C$ について $F(\{p\}\times T)$ が 1 点であるとき、$p$ をこの族の 固定点 という。$F$ の像の閉包が 2 次元であるとき、この族は 曲がる という。

族が曲がるとは、$f_t$ の像そのものが動くことである。$f_t$ が同じ曲線の上で媒介変数を取り替えているだけなら、族は曲がらない。

解消と交点数

折る部分の証明はすべて同じ舞台で行う。$F\colon C\times T\to X$ を曲がる族、$\overline T$ を $T$ の滑らかな射影完備化、$S:=C\times\overline T$ とし、$F$ が定める有理写像 $S\dashrightarrow X$ を考える。そのグラフの閉包の特異点解消(曲面の特異点解消は、標数 $0$ で Zariski、正の標数で Abhyankar による。Har77 V §3, p. 391。この記事では証明しない)を $S'$ とすると、$\varepsilon\colon S'\to S$ は滑らかな射影曲面の間の双有理射で、$G\colon S'\to X$ が射になる。$\varepsilon$ は点の爆発の有限回の合成である(Har77 V 系 5.4, p. 411)。$H$ を $X$ の豊富な因子とし、$D:=G^*H$ とおく。

つぶれる類の自己交点数
  1. $D$ はネフで $D^2>0$ である。
  2. $D\cdot\alpha=0$ となる $S'$ の因子類 $\alpha$ で、数値的に $0$ でないものは $\alpha^2<0$ をみたす。
像が 2 次元であること

要点:像が 2 次元なので $D$ は正の自己交点数をもち、その直交補空間は負定値である。

証明を開く

1:$H$ は豊富なので、曲線 $A$ について $D\cdot A=H\cdot G_*[A]\ge0$ である。$G$ の像は曲面 $Y$ で、$D^2=\deg(S'\to Y)\,(H|_Y)^2>0$ である。

2:交点形式は $S'$ の Néron–Severi 空間の上で符号 $(1,\rho-1)$ をもつ(Har77 V 定理 1.9 と注意 1.9.1, p. 364)。$D^2>0$ なので $D$ の直交補空間は負定値である。$\square$

1 点を固定して曲げる

次の定理が曲げ折り法の核心である。$b=1$ の場合が「固定点をもつ曲がる族は有理曲線を生む」という形で、固定点が増えると有理曲線の次数が下がる。

固定点をもつ族は有理曲線を生む

$X$ を射影多様体、$H$ を豊富な因子、$C$ を滑らかな射影曲線、$F\colon C\times T\to X$ を曲がる族とする。$p_1,\dots,p_b\in C$ を相異なる固定点($b\ge1$)とし、$x_i:=F(p_i,t)$、$e:=H\cdot(f_t)_*[C]$ とおく。このとき、ある $i$ について $x_i$ を通る有理曲線 $\Gamma$ で
$$ H\cdot\Gamma<\frac{2e}{b} $$
をみたすものがある。

$F$ が $C\times\overline T$ 全体の射なら、切断 $\{p\}\times\overline T$ は自己交点数が $0$ なのに点につぶれ、lem-bb-negative の 2 に反する。したがって $F$ は不確定点をもち、不確定点の爆発で現れる $\mathbb{P}^1$ が $G$ でつぶれずに有理曲線になる。これが「折れる」ということである。証明は、この議論を交点数で測ったものである。

爆発の重複度を数える

要点:各切断の上の爆発の重複度 $m_j$ の和はどの切断でも同じ値 $w$ で、$\sum m_j^2<2ew$ なので、ある切断の上に小さい $m_j$ がある。

証明を開く

記号.$\varepsilon$ の $j$ 回目の爆発の例外曲線の、$S'$ での全変換を $E_j$ とする。$E_j^2=-1$、$E_j\cdot E_l=0$($j\ne l$)で、$\overline D:=\varepsilon_*D$、$m_j:=D\cdot E_j\ge0$ とおくと $D\equiv\varepsilon^*\overline D-\sum_jm_jE_j$ である。$\Sigma_i:=\{p_i\}\times\overline T$ の $S'$ での固有変換を $\Sigma_i'$ とすると、$\Sigma_i$ は滑らかなので $\Sigma_i'\equiv\varepsilon^*\Sigma_i-\sum_{j\in J_i}E_j$ である。ここで $J_i$ は、中心が $\Sigma_i$ の固有変換の上にある爆発の番号の集合である。$\Sigma_i$ たちは互いに交わらないので、$J_i$ たちも互いに交わらない。

$w$ の定義.$\Sigma_i'$ は $G$ で点 $x_i$ につぶれるので $D\cdot\Sigma_i'=0$、すなわち $\overline D\cdot\Sigma_i=\sum_{j\in J_i}m_j$ である。$\Sigma_i$ はすべて同じ数値的同値類 $\tau$ に属するので、この値は $i$ によらない。これを $w$ とおく。

$\sum m_j^2$ の評価.$\varphi$ を $C\times\{t\}$ の類とする。$\varphi^2=\tau^2=0$、$\varphi\cdot\tau=1$ で、$\overline D\cdot\varphi=e$ である(一般の $t$ の $C\times\{t\}$ は爆発の中心を通らない)。Hodge 指数定理により $\varphi,\tau$ の張る平面の直交補空間は負定値なので、$\overline D\equiv w\varphi+e\tau+u$($u$ は直交補空間の元)と書くと $\overline D^2=2ew+u^2\le2ew$ である。lem-bb-negative の 1 により $0 < D^2=\overline D^2-\sum_jm_j^2\le2ew-\sum_jm_j^2$ である。$e > 0$ なので、ここから $w > 0$ も従う($w=0$ なら右辺が $0$ 以下である)。

小さい $m_j$.$\sum_i\sum_{j\in J_i}m_j^2 < 2ew$ なので、ある $i$ について $\sum_{j\in J_i}m_j^2 < 2ew/b$ である。$J_i$ の中の $m_j$ の正の値の最小値を $m$ とすると、$mw\le\sum_{j\in J_i}m_j^2$ なので $m < 2e/b$ である。$m_j=m$ となる $j\in J_i$ を 1 つとり、$j_0$ とする。

$x_i$ を通る有理曲線.$j_0$ の中心は $\Sigma_i$ の固有変換の上にあるので、$\Sigma_i'$ は $E_{j_0}$ と交わる。$E_{j_0}$ は連結で $\mathbb{P}^1$ の和であり、$D\cdot E_{j_0}=m > 0$ なので $G$ でつぶれない成分をもつ。$\Sigma_i'$ と、$E_{j_0}$ の成分のうち $G$ でつぶれるものを $\Sigma_i'$ から順につないだ連結な集合を $W$ とすると、$G(W)=x_i$ で、つぶれない成分 $A$ で $W$ と交わるものがある。$\Gamma:=G(A)$ は $x_i$ を通り、$\mathbb{P}^1$ の像なので有理曲線である(有理曲線 の系「有理曲線の像と単有理な曲線」)。$H\cdot\Gamma\le D\cdot A\le D\cdot E_{j_0}=m < 2e/b$ である。$\square$

$\mathbb{P}^n$ の $d$ 次の曲線の場合を見ると、この評価の意味がわかる。$\mathbb{P}^1\to\mathbb{P}^n$ の $d$ 次の射の空間の次元は $(n+1)d+n$ で、$b$ 点を固定すると $nb$ だけ減るので、$b$ は $(n+1)d/n$ ほどまでとれる。すると $d$ が大きいとき上界 $2e/b$ は $2n/(n+1)<2$ に近づき、thm-bb-fixed は直線を与える。

楕円曲線のグラフの族

$E$ を楕円曲線、$g\colon E\to\mathbb{P}^1$ を次数 $2$ の射で $g(p)=0$ となるものとし、$p,p'$ を $g$ の零点(重複を含めて 2 個)とする。$X=E\times\mathbb{P}^1$ の上で $f_t(z):=(z,\,t\,g(z))$($t\in\mathbb{G}_m$)とおくと、$p$ は $x=(p,0)$ に写る固定点で、族は曲がる。$t\to\infty$ のとき、$f_t$ の像は $E\times\{\infty\}$ と 2 つのファイバー $\{p\}\times\mathbb{P}^1$、$\{p'\}\times\mathbb{P}^1$ の和に退化する($g$ の零点の近く以外では $tg\to\infty$ である)。$x$ を通る有理曲線 $\{p\}\times\mathbb{P}^1$ が折れて分かれた。

2 点を固定して曲げる

有理曲線の 2 点を固定して曲げると、より強く、曲線そのものが有理曲線の和に分かれる。

ファイバーの中の $(-1)$ 曲線

$S'$ を滑らかな射影曲面、$\pi\colon S'\to B$ を滑らかな曲線への射で、一般のファイバーが $\mathbb{P}^1$ であるものとする。可約なファイバーを $\sum_im_iC_i$ と書くと、$(-1)$ 曲線である成分の重複度 $m_i$ の和は $2$ 以上である。とくに、重複度 $1$ の成分 $E$ があれば、$E$ と異なる $(-1)$ 曲線の成分がある。

標準因子との交点数

要点:$K\cdot(\text{ファイバー})=-2$ で、$K$ との交点数が負の成分は $(-1)$ 曲線だけである。

証明を開く

ファイバーの類は一定なので、一般のファイバーについての随伴公式から $\sum_im_iK_{S'}\cdot C_i=-2$ である。可約なファイバーの成分は $C_i^2 < 0$ をみたす。随伴公式 $2p_a(C_i)-2=C_i^2+K_{S'}\cdot C_i$ により、$K_{S'}\cdot C_i < 0$ なら $C_i^2 > 2p_a(C_i)-2\ge-2$ なので $C_i^2=-1$、$p_a(C_i)=0$ である。このとき $K_{S'}\cdot C_i=-1$ である。ほかの成分では $K_{S'}\cdot C_i\ge0$ なので、$-2\ge-\sum_{(-1)\text{ 曲線}}m_i$ を得る。後半は、$E$ だけが $(-1)$ 曲線なら和が $1$ になることから従う。$\square$

2 点を固定した有理曲線は折れる

$X$ を射影多様体、$F\colon\mathbb{P}^1\times T\to X$ を曲がる族とし、相異なる $2$ 点 $0,\infty\in\mathbb{P}^1$ が固定点であるとする。$x:=F(0,t)$、$y:=F(\infty,t)$ とおく($x=y$ でもよい)。このとき、有理曲線 $\Gamma_1,\dots,\Gamma_r$ と正の整数 $a_1,\dots,a_r$ で
$$ (f_t)_*[\mathbb{P}^1]\equiv\sum_{i=1}^ra_i\Gamma_i,\qquad\sum_{i=1}^ra_i\ge2 $$
をみたすものがあり、$\Gamma_1\cup\dots\cup\Gamma_r$ は連結で $x$ と $y$ を含む。

折れないと $\mathbb{P}^1$ 束の上で矛盾する

要点:どのファイバーでも $G$ でつぶれない成分が重複度 $1$ で 1 つだけなら、ほかの成分を縮約して $\mathbb{P}^1$ 束に戻せる。その上で 2 本の切断がつぶれることは lem-bb-negative に反する。

証明を開く

解消の節の記号で $C=\mathbb{P}^1$ とし、$\pi\colon S'\to\overline T$ を射影とする。$\pi$ のファイバーはすべて $S'$ の中で同じ数値的同値類をもつ。ファイバー $\Phi=\sum_im_iC_i$ について、Cartier 因子 $L$ に対し $L\cdot G_*\Phi=G^*L\cdot\Phi$ は $\Phi$ によらないので、$G_*\Phi\equiv(f_t)_*[\mathbb{P}^1]$ である。$\Phi$ の成分は $\mathbb{P}^1$ の爆発の例外曲線と元のファイバーの固有変換で、どれも有理曲線なので、$G$ でつぶれない成分の像は有理曲線である。

次を示す:$G$ でつぶれない成分が 2 つ以上あるか、つぶれない成分の重複度が 2 以上であるようなファイバーが存在する。そのファイバー $\Phi$ について、つぶれない成分 $C_i$ の像 $\Gamma_i$ と $a_i:=m_i\deg(C_i\to\Gamma_i)$ をとる(像が同じ成分はまとめる)と $\sum a_i\ge2$ である。$\Phi$ は連結で、$0$ と $\infty$ の切断と交わるので、$G(\Phi)=\bigcup\Gamma_i$ は連結で $x,y$ を含む。

主張を否定する。どのファイバーも、$G$ でつぶれない成分をちょうど 1 つ($D\cdot\Phi > 0$ なので少なくとも 1 つある)、重複度 $1$ でもつ。lem-bb-fibre により、可約なファイバーには $G$ でつぶれる $(-1)$ 曲線があり、これを縮約しても $\pi$ と $G$ は縮約後の曲面を経由する。これを繰り返すと、滑らかな射影曲面 $\overline S$、既約なファイバーをもつ射 $\overline\pi\colon\overline S\to\overline T$、射 $\overline G\colon\overline S\to X$ を得る。ファイバー $\overline\Phi$ は $\overline\Phi^2=0$、$K\cdot\overline\Phi=-2$ なので $\mathbb{P}^1$ であり、$\overline\pi$ は $\mathbb{P}^1$ 束である。

$0$、$\infty$ の切断の像を $\Sigma_0,\Sigma_\infty$ とする。これらは $\overline\pi$ の相異なる切断で、$\overline G$ で点につぶれる。$\overline D:=\overline G^*H$ について、lem-bb-negative の 1、2 の証明は $\overline S$ でも同じに成り立つ($\overline D^2 > 0$ で、その直交補空間は負定値である)。$\mathbb{P}^1$ 束の Picard 群は 1 つの切断とファイバーの引き戻しで生成される(Har77 V 命題 2.3, p. 370)ので、$\Sigma_0\cdot\overline\Phi=\Sigma_\infty\cdot\overline\Phi=1$ から $\Sigma_0-\Sigma_\infty\equiv a\overline\Phi$($a\in\mathbb{Z}$)である。$(\Sigma_0-\Sigma_\infty)^2=0$ かつ $\overline D\cdot(\Sigma_0-\Sigma_\infty)=0$ なので、負定値性から $\Sigma_0\equiv\Sigma_\infty$ である。すると $\Sigma_0^2=\Sigma_0\cdot\Sigma_\infty\ge0$ となるが、$\Sigma_0$ は $\overline D$ と直交し数値的に $0$ でないので $\Sigma_0^2 < 0$ であり、矛盾する。$\square$

出典

thm-bb-fixed の $b=1$ の場合の有理曲線の存在と thm-bb-two は森の結果で、Deb97 命題 2(p. 200)に、$X$ が滑らかな場合の形で述べられている(原論文は Mor79)。

平面の 2 次曲線が 2 本の直線に折れる

$X=\mathbb{P}^2$ で、$t\in\mathbb{G}_m$ について
$$ f_t([s:u]):=[s^2:u^2:t\,su] $$
とおく。$f_t$ の像は 2 次曲線 $t^2xy=z^2$ で、$[1:0]$ と $[0:1]$ はそれぞれ固定点 $[1:0:0]$、$[0:1:0]$ に写る。$t\to\infty$ のとき、像は $xy=0$、すなわち $[0:0:1]$ で交わる 2 本の直線に退化し、$(f_t)_*[\mathbb{P}^1]\equiv\ell_1+\ell_2$ である。一方 $t\to0$ のときの極限 $[s^2:u^2:0]$ は直線 $z=0$ への次数 $2$ の被覆で、族の射としてそのまま延びる。このファイバーも $2\ell$ の形で $\sum a_i\ge2$ を与えるが、曲線が 2 本に折れるのは $t=\infty$ のファイバーである。

曲げる:変形の次元

折る定理を使うには、固定点をもつ曲がる族を作らなければならない。ここで $X$ の滑らかさと標準因子が現れる。$X$ を滑らかな射影多様体、$n:=\dim X$ とし、$C$ を種数 $g$ の滑らかな射影曲線、$B\subset C$ を $b$ 点の集合とする。射 $f\colon C\to X$ で $B$ の上の値が与えられたものの全体は、スキーム $\operatorname{Hom}(C,X;f|_B)$ をなす。

変形の空間の次元

$f\colon C\to X$ の点で、$\operatorname{Hom}(C,X;f|_B)$ の接空間は $H^0(C,f^*T_X(-B))$ であり、$[f]$ を通るどの既約成分の次元も
$$ \chi\bigl(C,f^*T_X(-B)\bigr)=-K_X\cdot f_*[C]+n(1-g-b) $$
以上である。$H^1(C,f^*T_X(-B))=0$ なら、$\operatorname{Hom}(C,X;f|_B)$ は $[f]$ で滑らかで、次元は上の値に等しい。

出典

接空間の同定と次元の下界は Grothendieck による。Deb97 命題 1(p. 200)にあり、$B=\emptyset$ の場合の説明は AK03 定理 5(p. 6)と第 3 節(p. 7)にある。この記事では証明しない。右辺の等式は Riemann–Roch の定理である。最後の滑らかさは、$H^1=0$ なら下界 $\chi$ が接空間の次元 $h^0$ に等しいことから従う。

$-K_X\cdot f_*[C]$ が大きいほど曲線はよく動く。次の系が、有理曲線の次数を $n+1$ まで下げる手順である。

次数が大きい有理曲線は折れる

$X$ を滑らかな射影多様体、$\nu\colon\mathbb{P}^1\to X$ を有理曲線 $\Gamma$ の正規化とし、$-K_X\cdot\Gamma\ge n+2$ とする。このとき、$\mathbb{P}^1$ の相異なる 2 点 $0,\infty$ を任意に選ぶと、$\nu(0)$ と $\nu(\infty)$ を含む連結な有理曲線の和 $\bigcup\Gamma_i$ と正の整数 $a_i$ で、$\Gamma\equiv\sum a_i\Gamma_i$、$\sum a_i\ge2$ をみたすものがある。

媒介変数の取り替えより大きい次元

prop-bb-dimension により、$\operatorname{Hom}(\mathbb{P}^1,X;\nu|_{\{0,\infty\}})$ の $[\nu]$ を通る既約成分の次元は $-K_X\cdot\Gamma-n\ge2$ 以上である。$\mathbb{P}^1$ の $0,\infty$ を固定する自己同型の群は 1 次元なので、$[\nu]$ を通る既約曲線で、$\nu\circ\phi$ の形の射だけからなるのではないものがある。その正規化の開集合で $[\nu]$ の上の点 $t_0$ を含むものを $T$ とし、族 $F$ を得る。
$F$ が曲がらないとすると、すべての $f_t$ の像は $\Gamma$ で、豊富な因子との交点数が一定なので $f_t$ は $\Gamma$ の上に次数 $1$ である。よって $f_t=\nu\circ\phi_t$($\phi_t\in\operatorname{Aut}\mathbb{P}^1$)と書ける。$\phi_t(0)$ は有限集合 $\nu^{-1}(\nu(0))$ の中を動くので、$t_0$ での値 $0$ に等しい。$\infty$ も同様なので、$\phi_t$ は $0,\infty$ を固定し、$T$ の取り方に反する。よって $F$ は曲がり、thm-bb-two が使える。$\square$

有理曲線の存在

森の発見は、標準因子が負の曲線に対して prop-bb-dimension の右辺を、種数を変えずに大きくできることである。標数 $p>0$ では、$C$ の Frobenius 写像 $C_q\to C$(次数 $q=p^m$、$C_q$ は $C$ と同じ種数の曲線)を合成すると、$-K_X$ との交点数が $q$ 倍になる。

標準因子が負の曲線と有理曲線

$X$ を滑らかな射影多様体、$n:=\dim X$、$H$ を豊富な因子とする。$C\subset X$ を $K_X\cdot C<0$ をみたす曲線とし、$x\in C$ とする。このとき、$x$ を通る有理曲線 $\Gamma$ で
$$ H\cdot\Gamma\le2n\,\frac{H\cdot C}{-K_X\cdot C} $$
をみたすものがある。

出典と範囲

JLR25 §1(p. 1)によれば、この形は宮岡洋一(Yoichi Miyaoka)と森重文の 1986 年の定理である。$C$ の正規化の種数が $1$ 以上の場合を下で証明する。$C$ が有理曲線の場合も含む一般の場合の次数の評価は、この記事では証明しない(有理曲線の存在だけなら $C$ 自身でよい)。JLR25 Theorem 1.1 は定数 $2n$ を $n+1$ に改良している。

Frobenius で曲げて折る

要点:正標数では Frobenius を合成して thm-bb-fixed を多くの固定点で使い、標数 $0$ へは射の空間の像が構成可能であることで戻す。

証明を開く

$\nu\colon\tilde C\to C$ を正規化、$g\ge1$ をその種数とし、$d:=-K_X\cdot C$、$e_0:=H\cdot C$、$\delta:=\lfloor2ne_0/d\rfloor$ とおく。$H$ 次数が $\delta$ 以下の有理曲線の和集合を $R_\delta\subset X$ とする。$H$ 次数が $\delta$ 以下の定値でない射 $\mathbb{P}^1\to X$ の空間は有限型なので $R_\delta$ は構成可能集合で、有理曲線の族の極限は有理曲線の和なので(thm-bb-two の証明と同じ解消による)、$R_\delta$ は閉集合である。

標数 $p > 0$.$x\notin R_\delta$ と仮定する。$C\not\subset R_\delta$ なので $C\cap R_\delta$ は有限集合である。$q=p^m$ について $f_q:=\nu\circ\phi_q\colon C_q\to X$($\phi_q\colon C_q\to\tilde C$ は次数 $q$ の Frobenius 写像、$C_q$ の種数は $g$)とおくと、$-K_X\cdot(f_q)_*[C_q]=qd$、$H\cdot(f_q)_*[C_q]=qe_0$ である。$b:=\lfloor(qd+n(1-g)-1)/n\rfloor$ とおき、$q$ を $b\ge1$ となるほど大きくとる。$f_q(B)\cap R_\delta=\emptyset$ となる $b$ 点の集合 $B\subset C_q$ をとる。prop-bb-dimension により、$\operatorname{Hom}(C_q,X;f_q|_B)$ は $[f_q]$ で次元 $1$ 以上である。$[f_q]$ を通る曲線の正規化の開集合を $T$ とし、族 $F$ を得る。

$F$ は曲がる。曲がらないとすると、$F$ は $C_q\times T\to C$ で、$C_q\times T$ は正規なので $\tilde C$ を経由する。$\tilde C$ の種数は $1$ 以上なので、この射は $C_q\times\overline T$ の全体に延びる(爆発の例外曲線は有理曲線で、$\tilde C$ の上で定値だからである)。$B$ の 1 点の上で定値なので、剛性補題により $t$ によらず、$T$ の取り方に反する。

thm-bb-fixed により、$f_q(B)$ のある点を通る有理曲線 $\Gamma$ で $H\cdot\Gamma < 2qe_0/b$ となるものがある。$q\to\infty$ で $2qe_0/b\to2ne_0/d$ であり、$H\cdot\Gamma$ は整数なので、$q$ が大きければ $H\cdot\Gamma\le\delta$ である。すると $f_q(B)$ の点が $R_\delta$ に入り、$B$ の取り方に反する。よって $x\in R_\delta$ である。$R_\delta$ の定義により $x$ を通る $H$ 次数 $\delta$ 以下の有理曲線があり、これが求める $\Gamma$ である。

標数 $0$.$X,H,C,x$ を有限生成の $\mathbb{Z}$ 代数 $A$ の上の族に広げ、$A$ を局所化して、$H$ の豊富性、滑らかさ、$\nu$ と交点数が保たれるようにする。$A$ の極大イデアルの剰余体は有限体で、その代数閉包の上で上の結果から、$x$ を通る $H$ 次数 $\delta$ 以下の有理曲線がある。$0$ を $x$ に写し $H$ 次数が $\delta$ 以下の定値でない射 $\mathbb{P}^1\to X$ の空間は $A$ 上有限型なので、その像は $\operatorname{Spec}A$ の構成可能集合である。この像はすべての閉点を含むので全体に一致する(空でない構成可能集合は閉点を含むので、補集合は空である)。よって元の体の上でもこの空間は空でなく、$x$ を通る $H$ 次数 $\delta$ 以下の有理曲線がある。$\square$

Fano 多様体 とは、反標準因子 $-K_X$ が豊富な滑らかな射影多様体のことである。Fano 多様体では $-K_X$ 次数を測ることで、thm-bb-mori と cor-bb-break がきれいに組み合わさる。

Fano 多様体は有理曲線で覆われる

$X$ を次元 $n\ge1$ の Fano 多様体とする。$X$ のすべての点 $x$ に対し、$x$ を通る有理曲線 $\Gamma$ で $-K_X\cdot\Gamma\le n+1$ をみたすものがある。

最小次数の曲線をとる

$x$ を通る曲線 $C$ をとる。$-K_X$ は豊富なので $K_X\cdot C<0$ である。$C$ が有理曲線でなければ thm-bb-mori により $x$ を通る有理曲線がある。そこで、$x$ を通る有理曲線のうち $-K_X\cdot\Gamma$ が最小のものを $\Gamma$ とし、$\nu\colon\mathbb{P}^1\to\Gamma$ を正規化、$\nu(0)=x$ とする。
$-K_X\cdot\Gamma\ge n+2$ と仮定する。cor-bb-break により $\Gamma\equiv\sum a_i\Gamma_i$、$\sum a_i\ge2$ で、$x$ を通る $\Gamma_i$ がある。$-K_X$ は豊富なのですべての $j$ で $-K_X\cdot\Gamma_j>0$ であり、$-K_X\cdot\Gamma_i<-K_X\cdot\Gamma$ となる。これは最小性に反する。$\square$

$\mathbb{P}^n$ の直線は $-K\cdot\ell=n+1$ なので、$n+1$ は最良である。Deb97 命題 3(p. 201)は同じ主張を、同じ手順で述べている。森は 1982 年の論文で同じ考え方を曲線の錐に当て、滑らかな射影多様体の $K_X$ 負の端射線が $-K_X\cdot C\le n+1$ の有理曲線 $C$ を含むことを示した(JLR25 §1.1, p. 1)。これが 錐定理 の有理曲線である。錐定理 の記事の定理は、対 $(X,B)$(多様体 $X$ と因子 $B$ の組)についての定理を $B=0$ として読んだものなので上界が $2\dim X$ になっている。$n+1\le2n$ なので、ここでの上界 $n+1$ はこれと矛盾しない。

反例:条件を外すと

外す条件反例成り立たなくなること
thm-bb-fixed の固定点楕円曲線 $E$ の積 $E\times E$ と $f_t(z)=(z,t)$有理曲線が現れること
thm-bb-two の 2 点目の固定$\mathbb{P}^2$ の点 $x$ を通る直線の族$\sum a_i\ge2$ の和に分かれること
thm-bb-two の「曲がる」$\mathbb{P}^1$ の上の $f_t(z)=tz$$\sum a_i\ge2$ の和に分かれること
thm-bb-mori の $K_X\cdot C<0$$E\times E$ の曲線($K_X=0$)有理曲線が存在すること
表の反例の確かめ

1 行目:$C=T=E$ で、$F\colon E\times E\to E\times E$ は恒等写像である。族は曲がるが固定点をもたない。定値でない射 $\mathbb{P}^1\to E$ はない(有理曲線 の系「有理曲線の像と単有理な曲線」により $E$ が有理曲線になってしまう)ので、$\mathbb{P}^1\to E\times E$ は 2 つの射影がどちらも定値、すなわち定値である。よって $E\times E$ に有理曲線はない。
2 行目:$x=[0:0:1]$ とし、$f_t([s:u]):=[s:ts:u]$($t\in\mathbb{A}^1$)とおく。$[0:1]$ は $x$ に写る固定点で、族は曲がるが、ほかに固定点はない。直線 $\ell$ と超平面 $H$ について $H\cdot\ell=1$ なので、$\ell\equiv\sum a_i\Gamma_i$($\sum a_i\ge2$)とは書けない。
3 行目:$T=\mathbb{G}_m$ とする。$0,\infty$ は固定点だが、$F$ の像は $\mathbb{P}^1$ で 1 次元である。$H\cdot[\mathbb{P}^1]=1$ なので、2 行目と同じく 2 以上の和には分かれない。
4 行目:$E\times E$ の $K_X$ は $0$ である(錐定理 の例「アーベル曲面の丸い錐」)ので、どの曲線でも $K_X\cdot C=0$ であり、1 行目のとおり有理曲線はない。

関連項目

参考文献

[1]
Olivier Debarre, Variétés de Fano, Séminaire Bourbaki, exp. no 827, Astérisque, 1997, §2.1 命題 1(射の空間の接空間と次元の下界、p. 200)、§2.2 命題 2(Mori の曲げ折り、p. 200)、§2.3 命題 3(Fano 多様体の点を通る次数 dim X+1 以下の有理曲線、p. 201)
[2]
Carolina Araujo, János Kollár, Rational curves on varieties, Higher Dimensional Varieties and Rational Points, Bolyai Society Mathematical Studies, 2003, Theorem 5(射の空間の接空間と次元、p. 6)、§3(曲線の場合の Riemann–Roch による次元の下界、p. 7)。頁は arXiv:math/0203173v2 による
[3]
Eric Jovinelly, Brian Lehmann, Eric Riedl, Optimal bounds in Bend-and-Break, arXiv:2509.08065, 2025, §1(Theorem 1.1 と Miyaoka–Mori の定数 2 dim X、p. 1)、§1.1(端射線の有理曲線の長さ、p. 1)。arXiv:2509.08065v2
[4]
Shigefumi Mori, Projective manifolds with ample tangent bundles, Annals of Mathematics, 1979, pp. 593–606
[5]
Robin Hartshorne, Algebraic Geometry, Graduate Texts in Mathematics 52, Springer-Verlag, 1977, V 定理 1.9 と注意 1.9.1(Hodge 指数定理、p. 364)、V 命題 2.3(線織曲面の Picard 群、p. 370)、V §3(曲面の特異点解消の歴史、p. 391)、V 系 5.4(双有理射の分解、p. 411)

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する