モチーフ的Galois群

同義語:モチーフ的ガロア群

概要

モチーフ的Galois群(motivic Galois group)とは、モチーフのTannakian圏とファイバー関手に対するテンソル自己同型の群スキームである。ファイバー関手への依存、非中立な場合のgerbe、絶対Hodge cycleのモチーフ、通常のGalois群との完全列を条件とともに説明する。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: テンソル圏, アーベル圏, 群スキーム, モチーフ, 実現関手(モチーフ)

モチーフ的Galois群とは

モチーフ的Galois群(モチーフ的ガロア群)は、モチーフの圏を線形代数へ写す実現関手の、テンソル構造を保つ自己対称性を集めた群スキームである。体 $k$ だけから一意に決まる群ではなく、モチーフの圏、係数体、同値関係、ファイバー関手の選択を明記して初めて定まる。
この群は、通常のGalois群をそのまま別名で呼んだものではない。通常のGalois群が代数方程式の根や有限エタール対象の対称性を測るのに対し、モチーフ的Galois群は、コホモロジー実現に現れるテンソル関係を一斉に保つ変換を測る。

中立Tannakian圏

$K$ を体とする。$K$-線形な剛体アーベルテンソル圏(剛体圏を参照)$\mathcal C$ が $\operatorname{End}(\mathbf 1)=K$ を満たし、有限次元ベクトル空間への完全かつ忠実な $K$-線形テンソル関手
$$ \omega:\mathcal C\longrightarrow\operatorname{Vec}_K $$
を持つとき、$(\mathcal C,\omega)$ をファイバー関手を備えた中立Tannakian圏という。

剛体という条件により各対象は双対対象を持つ。完全性と忠実性は、短完全列と射の区別を線形実現が失わないことを保証する。

テンソル自己同型群

可換 $K$-代数 $R$ に対して $\omega_R(X)=\omega(X)\otimes_KR$ とおく。関手
$$ G_\omega(R)=\operatorname{Aut}^{\otimes}(\omega_R) $$
を、$\omega_R$ のテンソル自然自己同型全体の群と定める。この群関手を表現するアフィン群スキーム $G_\omega$ を、$(\mathcal C,\omega)$ のTannakian群と呼ぶ。モチーフのTannakian圏に適用したものがモチーフ的Galois群である。

テンソル自己同型は群関手をなす

$R\mapsto\operatorname{Aut}^{\otimes}(\omega_R)$ は、可換 $K$-代数上の群値関手である。

証明

二つのテンソル自然自己同型 $g,h$ の対象 $X$ における成分を合成して $(gh)_X=g_Xh_X$ とおく。自然性は合成で保たれ、
$$ (gh)_{X\otimes Y}=g_{X\otimes Y}h_{X\otimes Y} =(g_X\otimes g_Y)(h_X\otimes h_Y) =(g_Xh_X)\otimes(g_Yh_Y) $$
なのでテンソル整合性も保たれる。恒等自然変換と成分ごとの逆もテンソル整合的である。$R\to R'$ による基底拡大は合成、恒等、逆と可換するから、これは群値関手になる。
この議論は群関手であることだけを示す。アフィン群スキームによる表現可能性はTannakian再構成定理を用いる。

再構成定理

Deligne–MilneのTannakian再構成定理は、上の群関手がアフィン群スキームで表現され、ファイバー関手がテンソル同値
$$ \mathcal C\simeq\operatorname{Rep}_K(G_\omega) $$
を誘導することを述べる。従って、圏の対象と射を保つだけでなく、直和、テンソル積、双対、単位対象を同時に見ることによって群スキームが回収される。DM22 Theorem 2.11。
群スキーム全体と $K$-有理点の群 $G_\omega(K)$ は区別する。$K$-点だけでは、任意の $K$-代数 $R$ 上の変換や無限小方向を捉えられないことがある。

ファイバー関手を変える

同じTannakian圏でも、Betti、de Rham、ℓ進など異なる実現を選べば、係数体とファイバー関手が変わる。二つのファイバー関手の間のテンソル同型は、それぞれの群を比較する。

ファイバー関手の同型は共役同型を誘導する

$a:\omega\xrightarrow{\sim}\eta$ を $K$ 値ファイバー関手のテンソル自然同型とする。このとき各 $K$-代数 $R$ に対し
$$ c_a:G_\omega(R)\longrightarrow G_\eta(R),\qquad g\longmapsto a_Rg a_R^{-1} $$
は群同型であり、$R$ に関して自然である。

証明

$a_R$、$g$、$a_R^{-1}$ はいずれもテンソル自然同型なので、その合成もテンソル自然同型である。合成について
$$ c_a(gh)=a_Rgh a_R^{-1}=(a_Rga_R^{-1})(a_Rha_R^{-1}) $$
が成り立つ。$a_R^{-1}$ による共役が逆写像であり、基底拡大は三つの自然変換の合成と可換する。
ただし $a$ 自体の選択は一般に標準的でない。別の同型を選ぶと得られる群同型は内共役だけ変わりうる。

Deligne–Milneの定理3.2は、$\operatorname{Isom}^{\otimes}(\omega,\eta)$ が $G_\omega$-torsorであり、ファイバー関手がこのtorsorによって分類されることを述べる。二つの実現の比較には、群の同型だけでなく、その同型を与える比較点が存在するかという問題が含まれる。DM22 Theorem 3.2。

非中立の場合とgerbe

$K$ 上ではファイバー関手を選べず、ある非零 $K$-代数へ係数拡大した後にだけ選べるTannakian圏がある。この場合、一つの $K$-群スキームを基点なしに選ぶ代わりに、ファイバー関手全体を使う。
各 $K$-代数 $R$ に、$R$ 値ファイバー関手を対象、テンソル自然同型を射とする亜群を対応させる。これらをfpqc降下(忠実平坦降下)でまとめた $\operatorname{FIB}(\mathcal C)$ はgerbeになる。gerbeであるとは、局所的に対象が存在し、任意の二対象が局所的に同型になる亜群のスタックである。
Deligne–Milneの一般Tannakian再構成定理は、$\operatorname{FIB}(\mathcal C)$ がアフィンgerbeであり、
$$ \mathcal C\simeq\operatorname{Rep}_K(\operatorname{FIB}(\mathcal C)) $$
となることを述べる。gerbeが $K$ 上の対象を持つとき、その対象を基点に選んで中立化し、自己同型群スキームへ戻れる。DM22 Definition 3.7, Theorem 3.9。

テンソル部分圏と商に見える情報

モチーフの種類を制限すると、Tannakian圏の側ではテンソル部分圏を取る。自己同型は小さい圏へ制限できる。

テンソル部分圏への制限

$\mathcal D\subset\mathcal C$ を充満な剛体テンソル部分圏とし、$\omega|_{\mathcal D}$ を制限ファイバー関手とする。このとき
$$ \rho:G_\omega\longrightarrow G_{\omega|_{\mathcal D}} $$
という群関手の準同型が自然に定まる。

証明

$g\in G_\omega(R)$ に対し、各 $X\in\mathcal D$ の成分 $g_X$ だけを残す。自然性、テンソル積、単位対象、双対との整合性は $\mathcal C$ で成立しているため、制限後も成立する。合成と逆も対象ごとの制限と可換するので群準同型になる。基底拡大とも可換するため群関手の射である。
圏の包含 $\mathcal D\subset\mathcal C$ と群の射の向きを取り違えてはならない。さらに、$\rho$ が忠実平坦か、核が何を表すかには追加のTannakian双対の仮定が要る。

絶対Hodge cycleのモチーフ

$k$ を $\mathbb C$ に埋め込める体、$\sigma:k\hookrightarrow\mathbb C$ を埋込みとする。Deligne–Milneは、絶対Hodgeサイクル(絶対Hodge cycle)を射として用いるモチーフの圏 $M_k$ と、そのBetti型ファイバー関手 $H_\sigma$ に対して
$$ G(\sigma)=\operatorname{Aut}^{\otimes}(H_\sigma) $$
を定める。これは $\mathbb Q$ 上のアフィン群スキームで、$M_k\simeq\operatorname{Rep}_{\mathbb Q}(G(\sigma))$ となる。原典はこの $G(\sigma)$ をモチーフ的Galois群と呼ぶ。DM22 §6, “The motivic Galois group”。
$G(\sigma)$ はpro-reductive群であるが、一般には連結とは限らない。$k$ が代数閉で、関係するHodge cycleがすべて絶対Hodgeであるとき連結になる。後半の仮定は原版では欠落しており、2022年訂正版で補われたので省略できない。DM22 Proposition 6.22。

通常のGalois群との完全列

$k$ が代数閉でないとき、モチーフには幾何的な情報と基礎体の算術的な情報が同時に入る。絶対Hodge cycleの例では、代数閉包上へ移したモチーフのTannakian群を $G_{\mathrm{geom}}(\sigma)$、$k$ 上の群を $G(\sigma)$ と書くと、Artinモチーフが与える通常の絶対Galois群のpro-algebraicな像 $\Gamma_k^{\mathrm{alg}}$ を使って
$$ 1\longrightarrow G_{\mathrm{geom}}(\sigma) \longrightarrow G(\sigma) \longrightarrow\Gamma_k^{\mathrm{alg}} \longrightarrow1 $$
という完全列が得られる。これは通常のGalois群がモチーフ的Galois群の内部に同一物として座るという意味ではなく、Artin部分を見た商に算術的対称性が現れるという意味である。DM22 Proposition 6.23。
完全列の一般化には降下条件が要る。Kahnの定理では、標数0の係数体上の剛体アーベルテンソル圏、擬アーベル性(擬アーベル圏を参照)、Galois被覆に沿うCartesianな引戻しとtrace structure、係数で群の位数を割れることなどを用いる。これらの条件の下で、有限Galois群 $\Gamma$ に対して
$$ 1\longrightarrow H\longrightarrow G\longrightarrow\Gamma\longrightarrow1 $$
が完全になる。profiniteな場合も各有限Galois被覆で同じ降下仮定を要する。K25 Theorem 2.17, Theorem 5.7, Theorem 5.10。
$\mathbb Q$-線形な一定範囲のモチーフ理論では、Kahnの定理7.1がétale topologyに関するstack性を与える。しかし体上の結果を一般のbase scheme上の相対モチーフへ無条件に移すことはできない。相対cycleのpresheafがZariski sheafにならない例が障害になる。K25 Theorem 7.1 and Introduction。

モチーフ的ホモトピー型との違い

Tannakian群は、線形なテンソル実現で見える対称性を圧縮して表す。これに対してモチーフ的ホモトピー型は、高次ホモトピー群や非線形な情報まで含みうる。基本群に相当する部分だけを見て全ホモトピー型を復元したことにはならない。
遠アーベル幾何も基本群を使うが、中心となるのは双曲的多様体などをエタール基本群から復元する問題である。Tannakian双対によるモチーフ的Galois群とは、入力する圏も復元する対象も異なる。

Grothendieckの構想と現在の位置

複数のコホモロジー理論を一つのモチーフの影として理解する構想では、実現関手の間に共通するテンソル対称性を知ることが重要になる。モチーフ的Galois群は、その共通対称性を群スキームとして記述する枠組みである。
一方、どのモチーフ圏を採用すべきか、標準予想が必要な純粋モチーフと混合モチーフをどこまで統合できるか、すべての実現を比較する普遍的な圏がどこまで構成できるかは別の問題である。既に構成されたTannakian圏ごとの群を区別することが、未完成部分を正確に見る出発点になる。

関連項目

参考文献

[1]
Pierre Deligne, James S. Milne, Tannakian Categories, Hodge Cycles, Motives, and Shimura Varieties, Lecture Notes in Mathematics 900 (revised version, author's website), 2022, Theorems 2.11, 3.2 and 3.9; Propositions 6.22 and 6.23
[2]
Bruno Kahn, Galois descent for motivic theories, Theory and Applications of Categories, 2025, Theorems 2.17, 5.7, 5.10 and 7.1

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