双対空間(線形代数)(dual space)とは、体 $K$ 上のベクトル空間 $V$ から $K$ への線形写像(線形汎関数)全体のなすベクトル空間 $V^*=\operatorname{Hom}_K(V,K)$ である。$V$ が有限次元なら、基底に対する双対基底が $V^*$ の基底になって $\dim V^*=\dim V$ であり、線形写像 $T$ の双対写像 $\psi\mapsto\psi\circ T$ の双対基底に関する表現行列は $T$ の表現行列の転置になる。有限次元では評価写像が基底によらない同型 $V\cong V^{**}$ を与えるが、基底から作る同型 $V\cong V^*$ は基底の選び方に依存し、無限次元では $V\to V^{**}$ は全射でない。無限次元のノルム空間では、連続な線形汎関数全体(連続双対)はこれより真に小さい。
平面 $\mathbb{R}^2$ のベクトル $(x,y)$ に数を 1 つ対応させる規則のうち、$(x,y)\mapsto x$(第 1 座標を読む)、$(x,y)\mapsto 3x-2y$ のように線形写像になっているものを線形汎関数という。線形汎関数の全体はそれ自身がベクトル空間になり、これを 双対空間 という。双対空間の元は、ベクトルに対する「測り方」や「座標の読み方」と考えるとよい。
具体例として、$\mathbb{R}^2$ の基底 $v_1=(1,1)$、$v_2=(1,-1)$ をとる。
$$
\varphi_1(x,y)=\frac{x+y}{2},\qquad \varphi_2(x,y)=\frac{x-y}{2}
$$
と定めると、$\varphi_1(v_1)=1$、$\varphi_1(v_2)=0$、$\varphi_2(v_1)=0$、$\varphi_2(v_2)=1$ である。この $\varphi_1,\varphi_2$ を $v_1,v_2$ の双対基底という。たとえば $(3,1)=2v_1+v_2$ であり、係数の $2,1$ はそのまま $\varphi_1(3,1)=2$、$\varphi_2(3,1)=1$ に現れる。双対基底は「基底に関する座標を読み取る線形汎関数」の組である。
本記事では、体 $K$ 上のベクトル空間 $V$ の(代数的な)双対空間 $V^*$ を扱い、主に $V$ が有限次元の場合について、双対基底と $\dim V^*=\dim V$、線形写像の双対写像とその表現行列が転置行列であること、零化空間の次元、双対写像の核と像、二重双対 $V^{**}$ への自然な同型を証明する。無限次元では $V$ と $V^{**}$ が同型にならないことも示す。ノルム空間の連続な線形汎関数全体(連続双対)はこれとは別の空間であり、rem-dual-normed で区別する。
以下、$K$ は任意の体、ベクトル空間はすべて $K$ 上のものとする。$\operatorname{Hom}_K(V,W)$ は $V$ から $W$ への線形写像全体のなすベクトル空間である(和とスカラー倍は値ごとに定める。線形写像 の記事の命題「線形写像のなすベクトル空間」)。
ベクトル空間 $V$ から $K$ への線形写像 $\varphi\colon V\to K$ を $V$ 上の 線形汎関数(linear functional)または 1 次形式 という。線形汎関数の全体
$$
V^*:=\operatorname{Hom}_K(V,K)
$$
に、$\varphi,\psi\in V^*$、$a\in K$ に対して
$$
(\varphi+\psi)(v):=\varphi(v)+\psi(v),\qquad (a\varphi)(v):=a\,\varphi(v)\qquad(v\in V)
$$
で和とスカラー倍を入れたベクトル空間を $V$ の 双対空間(dual space)または 双対ベクトル空間 という。$V^*$ の元を 余ベクトル(covector)ということもある。
記号は $V^*$ のほか $V^\vee$、$V'$ も使われる。$V^*$ の零元は、すべての $v$ を $0$ に送る線形汎関数である。
$V$ を $n$ 次元のベクトル空間($n\ge1$)、$v_1,\dots,v_n$ をその基底とする。$i=1,\dots,n$ に対し、$\varphi_i\in V^*$ を
$$
\varphi_i(v_j)=\delta_{ij}=\begin{cases}1&(i=j)\\0&(i\ne j)\end{cases}
$$
を満たす線形汎関数とする。$\varphi_1,\dots,\varphi_n$ を $v_1,\dots,v_n$ の 双対基底(dual basis)といい、$v_1^*,\dots,v_n^*$ とも書く。
基底上の値を指定すれば線形写像はただ 1 つに定まる(prop-dual-values-on-basis)ので、$\varphi_i$ は確かに存在して一意である。具体的には、$v=\sum_jc_jv_j$ と書いたとき $\varphi_i(v)=c_i$、すなわち $\varphi_i$ は「$v_i$ に関する座標」を読み取る線形汎関数である。$\varphi_1,\dots,\varphi_n$ が $V^*$ の基底であることは prop-dual-basis で示す。
$T\colon V\to W$ を線形写像とする。$\psi\in W^*$ に対し $\psi\circ T\colon V\to K$ は線形汎関数である。写像
$$
T^*\colon W^*\to V^*,\qquad T^*(\psi):=\psi\circ T
$$
を $T$ の 双対写像(dual map)または 転置写像(transpose)という。
$T^*$ は向きが逆($W^*$ から $V^*$ へ)であることに注意する。$T^*$ が線形であることは、$(\psi+\psi')\circ T=\psi\circ T+\psi'\circ T$、$(a\psi)\circ T=a(\psi\circ T)$ から従う。内積空間では $T^*$ という記号を随伴作用素(内積に関する随伴)に使うことが多く、双対写像とは別物なので、文脈で区別する。また、実ノルム空間の元 $x$ に、ノルムが $\|x\|$ で $x$ での値が $\|x\|^2$ である連続線形汎関数の集合を対応させる写像も双対写像と呼ばれる(双対写像(Banach空間))。これは線形写像から作るものではなく、ここでの双対写像とは別の概念である。
$V$ の部分集合 $S$ に対し
$$
S^0:=\{\varphi\in V^*: \text{すべての } s\in S \text{ で } \varphi(s)=0\}
$$
を $S$ の 零化空間(annihilator)という。
$S^0$ は $V^*$ の部分空間である($\varphi,\psi\in S^0$ なら $(\varphi+a\psi)(s)=0$)。$V$ の部分空間 $U$ の零化空間 $U^0$ は、$U$ 上で消える測り方の全体である。ノルム空間で連続な線形汎関数だけを使う零化空間(2 回たどると閉包が戻ることなど)は 零化空間 で扱う。
$V^*$ の双対空間 $V^{**}:=(V^*)^*$ を $V$ の 二重双対(double dual)または第 2 双対空間という。$v\in V$ に対し
$$
\iota_V(v)\colon V^*\to K,\qquad \iota_V(v)(\varphi):=\varphi(v)
$$
と定めると $\iota_V(v)\in V^{**}$ であり、$\iota_V\colon V\to V^{**}$ は線形写像である。$\iota_V$ を 評価写像(evaluation map)という。
$\iota_V(v)$ は「$v$ で値をとる」操作であり、$\iota_V(v)$ の線形性は $V^*$ の和とスカラー倍の定義から、$\iota_V$ の線形性は各 $\varphi$ の線形性から従う。$\iota_V$ の定義には基底を使っていない。
有限次元の $K^n$ のベクトルを縦ベクトル(列ベクトル)と思うと、$K^n$ 上の線形汎関数はちょうど横ベクトル(行ベクトル)$a=(a_1,\dots,a_n)$ を左から掛ける写像 $x\mapsto ax=a_1x_1+\dots+a_nx_n$ である(ex-dual-kn)。双対空間は「列ベクトルに対する行ベクトルの空間」を、基底や座標を使わずに定義したものである。線形写像 $T$ が行列 $A$ で表されるとき、行ベクトル $a$ は $aA$ に移る。これを列ベクトルの言葉に直すと $A^{\top}a^{\top}$ であり、双対写像の行列が転置行列になる理由はここにある(thm-dual-map-transpose)。
有限次元なら $V$ と $V^*$ は同じ次元をもち同型だが、その同型は基底を選ばないと作れず、選び方によって変わる。これに対し $V$ と $V^{**}$ の間には基底によらない同型 $\iota_V$ がある。この違いは、多様体の接空間とその双対の余接空間、ベクトルと微分形式、テンソル(テンソル解析)の上付き添字と下付き添字の区別として幾何学のいたるところに現れる。
$V=K^n$ の標準基底 $e_1,\dots,e_n$ の双対基底は、座標関数 $\varepsilon_i(x_1,\dots,x_n)=x_i$ である。任意の $\varphi\in(K^n)^*$ は、$a_i:=\varphi(e_i)$ とおくと
$$
\varphi(x)=\varphi\Bigl(\sum_ix_ie_i\Bigr)=\sum_ia_ix_i
$$
と書ける。逆に任意の $(a_1,\dots,a_n)\in K^n$ に対し $x\mapsto\sum_ia_ix_i$ は線形汎関数である。したがって $(K^n)^*$ の元と長さ $n$ の横ベクトルは 1 対 1 に対応し、$\varphi=\sum_ia_i\varepsilon_i$ である。
$V$ を次数 $2$ 以下の実数係数の多項式全体($3$ 次元)とし、$\operatorname{ev}_a(p):=p(a)$($a\in\mathbb{R}$)とおく。$\operatorname{ev}_a$ は $V$ 上の線形汎関数である。
$$
L_0(t)=\tfrac12(t-1)(t-2),\qquad L_1(t)=-t(t-2),\qquad L_2(t)=\tfrac12t(t-1)
$$
は $L_i(j)=\delta_{ij}$($i,j\in\{0,1,2\}$)を満たす(Lagrange補間の基本多項式)。$L_0,L_1,L_2$ は線形独立($\sum_ic_iL_i=0$ に $t=j$ を代入すると $c_j=0$)なので $V$ の基底であり、$\operatorname{ev}_0,\operatorname{ev}_1,\operatorname{ev}_2$ はその双対基底である。したがって任意の $p\in V$ は $p=p(0)L_0+p(1)L_1+p(2)L_2$ と書ける(prop-dual-basis の 2)。たとえば $p(t)=3t^2-t+5$ は $p(0)=5$、$p(1)=7$、$p(2)=15$ で、$5L_0+7L_1+15L_2$ を展開すると確かに $3t^2-t+5$ になる。
他の線形汎関数の例として、$p\mapsto p'(0)$、$p\mapsto\int_0^1p(t)\,dt$ がある。基底 $1,t,t^2$ の双対基底は「$t^k$ の係数を取り出す」線形汎関数 $c_k$($k=0,1,2$)であり、$c_k(p)=p^{(k)}(0)/k!$ とも書ける。
$n$ 次正方行列の空間 $M_n(K)$ 上で、跡 $\operatorname{tr}(X)=\sum_ix_{ii}$ は線形汎関数である。より一般に、$A\in M_n(K)$ に対し $\tau_A(X):=\operatorname{tr}(AX)$ は線形汎関数であり、$M_n(K)^*$ の元はすべてこの形にただ一通りに書ける。
実際、$E_{ij}$ を $(i,j)$ 成分だけが $1$ で他が $0$ の行列単位とすると $\operatorname{tr}(AE_{ij})=a_{ji}$ である。したがって線形写像 $A\mapsto\tau_A$ は、$\tau_A=0$ なら $a_{ji}=\tau_A(E_{ij})=0$(すべての $i,j$)となって単射である。$\dim M_n(K)=n^2=\dim M_n(K)^*$(prop-dual-basis の 1)なので、線形代数学 の記事の定理「次元定理」により $A\mapsto\tau_A$ は全射でもある。
有限次元なら $\dim V^*=\dim V$ なので $V\cong V^*$ である。しかし基底 $v_1,\dots,v_n$ から作る同型 $v_i\mapsto v_i^*$ は基底の選び方で変わる。$V=\mathbb{R}^2$ で、標準基底 $e_1,e_2$ からは $e_1\mapsto\varepsilon_1$、すなわち $(1,0)\mapsto[(x,y)\mapsto x]$ となる。基底 $u_1=(1,0)$、$u_2=(1,1)$ の双対基底は $u_1^*(x,y)=x-y$、$u_2^*(x,y)=y$ であり($u_1^*(u_1)=1$、$u_1^*(u_2)=0$、$u_2^*(u_1)=0$、$u_2^*(u_2)=1$ を確かめればよい)、こちらからは $(1,0)=u_1\mapsto[(x,y)\mapsto x-y]$ となる。同じベクトル $(1,0)$ の行き先が違うので、2 つの同型は異なる。
この例は「$V$ と $V^*$ は同型である」を満たすが「基底の選び方によらない同型がある」を満たさない場合があることを示す。どの基底を選んでも同じになる同型、正確には関手の間の自然変換として $V\cong V^*$ を与える方法が存在しないことは、実数体上の有限次元ベクトル空間について、自然変換 の記事の注意「反例:同型の選択は自然とは限らない」と 米田の補題 の記事の注意「反例:対象ごとの全単射だけでは足りない」で示されている。これと対照的に、$V\to V^{**}$ の同型 $\iota_V$ は基底によらない(thm-dual-double-dual)。
$V=K[t]$(多項式環、基底 $1,t,t^2,\dots$)とし、$c_k\in V^*$ を「$t^k$ の係数」を取り出す線形汎関数とする。$c_k(t^j)=\delta_{kj}$ なので $c_0,c_1,\dots$ は有限次元の双対基底と同じ条件を満たし、線形独立である。しかし $V^*$ を生成しない。実際、$\sigma(p):=p(1)$(係数の和)は線形汎関数だが、有限個の $c_k$ の線形結合 $\sum_{k\le N}a_kc_k$ はどれも $t^{N+1}$ で $0$ になるのに $\sigma(t^{N+1})=1$ である。
この例は「$v_i^*(v_j)=\delta_{ij}$ を満たす」を満たすが「$V^*$ の基底である」を満たさない場合を示し、prop-dual-basis の有限次元の仮定が落とせないことを示す。$V^*$ 自体は、線形汎関数を基底 $t^k$ 上の値の列 $(\varphi(1),\varphi(t),\varphi(t^2),\dots)$ に対応させることで、$K$ の元の数列全体 $K^{\mathbb{N}}$ と同型である(prop-dual-values-on-basis)。
条件を 1 つ外した反例を表にまとめる。最後の行の確認は rem-dual-normed にあり、ほかの行の確認は上の反例の箱と thm-dual-double-dual の証明にある。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $V$ が有限次元 | $V=K[t]$ と係数を取り出す $c_0,c_1,\dots$(ex-dual-infinite) | 双対基底にあたる族が $V^*$ を生成すること(prop-dual-basis の 1) |
| $V$ が有限次元 | 有限次元でない任意の $V$(thm-dual-double-dual の 4) | 評価写像 $\iota_V$ が全射であること |
| 同型を基底を使わずに定めること | $\mathbb{R}^2$ の基底 $e_1,e_2$ と $u_1=(1,0)$、$u_2=(1,1)$(ex-dual-not-natural) | 基底から作る同型 $V\cong V^*$ が基底によらないこと |
| ノルム空間 $X$ が有限次元 | 無限次元ノルム空間で $\varphi(e_k)=k$ とした線形汎関数(rem-dual-normed) | 線形汎関数が自動的に連続であること |
次の命題は無限次元でも成り立つ形で述べる。$I$ を集合とし、$K^I$ で $I$ から $K$ への写像全体(成分ごとの和とスカラー倍でベクトル空間になる)を表す。
$(v_i)_{i\in I}$ をベクトル空間 $V$ の基底とする。任意の $(c_i)_{i\in I}\in K^I$ に対し、すべての $i$ で $\varphi(v_i)=c_i$ を満たす $\varphi\in V^*$ がただ 1 つ存在する。したがって
$$
\Phi\colon V^*\to K^I,\qquad \Phi(\varphi):=(\varphi(v_i))_{i\in I}
$$
は線形同型である。
$V$ の各元 $v$ は、有限個を除いて $0$ である係数 $(a_i)_{i\in I}$ によって $v=\sum_ia_iv_i$ とただ一通りに書ける(基底の定義)。
一意性:$\varphi,\varphi'\in V^*$ がすべての $i$ で $\varphi(v_i)=\varphi'(v_i)$ を満たせば、線形性により $\varphi(v)=\sum_ia_i\varphi(v_i)=\sum_ia_i\varphi'(v_i)=\varphi'(v)$ である(和は有限和)。
存在:$v=\sum_ia_iv_i$ に対し $\varphi(v):=\sum_ia_ic_i$ と定める。係数 $a_i$ は $v$ から一意に定まり有限個を除いて $0$ なので、これは $K$ の元として定まる。$v=\sum_ia_iv_i$、$w=\sum_ib_iv_i$、$a\in K$ なら $v+aw=\sum_i(a_i+ab_i)v_i$ なので $\varphi(v+aw)=\sum_i(a_i+ab_i)c_i=\varphi(v)+a\varphi(w)$ となり、$\varphi$ は線形である。$v_j$ の係数は $a_i=\delta_{ij}$ なので $\varphi(v_j)=c_j$ である。
$\Phi$ が線形であることは $V^*$ の演算の定義から従い、上の一意性は $\Phi$ が単射であること、存在は全射であることを意味する。
$V$ を $n$ 次元のベクトル空間($n\ge1$)、$v_1,\dots,v_n$ をその基底、$\varphi_1,\dots,\varphi_n$ を双対基底とする。
2:$v=\sum_jc_jv_j$ と書くと、$\varphi_i(v)=\sum_jc_j\varphi_i(v_j)=\sum_jc_j\delta_{ij}=c_i$ である。
3:$\psi:=\sum_i\varphi(v_i)\varphi_i$ とおくと、$\psi(v_j)=\sum_i\varphi(v_i)\delta_{ij}=\varphi(v_j)$ がすべての $j$ で成り立つ。prop-dual-values-on-basis の一意性により $\psi=\varphi$ である。
1:3 により $\varphi_1,\dots,\varphi_n$ は $V^*$ を生成する。$\sum_ia_i\varphi_i=0$ なら、両辺を $v_j$ で評価して $a_j=0$ を得るので線形独立である。よって基底であり、$\dim V^*=n$ である。
$V=\{0\}$ のときは $V^*=\{0\}$ であり、$\dim V^*=\dim V=0$ も成り立つ。有限次元の仮定は 1 に必要である(ex-dual-infinite)。
$U,V,W$ をベクトル空間とする。
1:$\psi\in W^*$ について $(S\circ T)^*(\psi)=\psi\circ S\circ T=T^*(\psi\circ S)=T^*(S^*(\psi))$ である。$(\mathrm{id}_V)^*(\psi)=\psi\circ\mathrm{id}_V=\psi$ である。$(S+aS')^*(\psi)=\psi\circ(S+aS')=\psi\circ S+a\,\psi\circ S'$ は $\psi$ の線形性による。
2:prop-dual-basis の 3 により $T^*(w_i^*)=\sum_j\bigl(T^*(w_i^*)\bigr)(v_j)\,v_j^*$ であり、係数は
$$
\bigl(T^*(w_i^*)\bigr)(v_j)=w_i^*(Tv_j)=w_i^*\Bigl(\sum_{k=1}^ma_{kj}w_k\Bigr)=\sum_ka_{kj}\delta_{ik}=a_{ij}
$$
である。よって $T^*(w_i^*)=\sum_ja_{ij}v_j^*$ となり、$T^*$ の表現行列の $(j,i)$ 成分は $a_{ij}$、すなわち表現行列は $A^{\top}$ である。
1 の最初の式で順序が入れ替わることが、双対をとる操作が向きを逆にする(反変関手である)ことの表れである。2 によって、行列の転置 $(AB)^{\top}=B^{\top}A^{\top}$ は 1 の $(S\circ T)^*=T^*\circ S^*$ の座標による表現になる。
たとえば $T\colon\mathbb{R}^3\to\mathbb{R}^2$、$T(x,y,z)=(x+2y+3z,\ 4x+5y+6z)$ の標準基底に関する行列は $A=\begin{pmatrix}1&2&3\\4&5&6\end{pmatrix}$ である。座標関数 $\varepsilon_1,\varepsilon_2\in(\mathbb{R}^2)^*$ について $T^*(\varepsilon_1)(x,y,z)=x+2y+3z$、$T^*(\varepsilon_2)(x,y,z)=4x+5y+6z$ であり、$(\mathbb{R}^3)^*$ の座標関数で表した係数 $(1,2,3)$、$(4,5,6)$ は $A^{\top}$ の列である。
$V$ を有限次元のベクトル空間、$U$ をその部分空間とする。
$n:=\dim V$、$k:=\dim U$ とする($U$ は有限次元で $k\le n$。線形代数学 の記事の補題「部分空間の基底と基底の延長」の 1)。$U$ の基底 $u_1,\dots,u_k$ をとり、同じ補題の 2 によって $V$ の基底 $u_1,\dots,u_k,u_{k+1},\dots,u_n$ に延長する($k=0$ なら $V$ の任意の基底、$k=n$ なら延長しない)。その双対基底を $\varphi_1,\dots,\varphi_n$ とする。
まず $U^0=\operatorname{span}(\varphi_{k+1},\dots,\varphi_n)$ を示す。$j>k$ なら $\varphi_j(u_i)=0$($i\le k$)なので、$\varphi_j$ は $U$ の基底の上で $0$、したがって $U$ 上で $0$ であり $\varphi_j\in U^0$ である。逆に $\varphi\in U^0$ なら、prop-dual-basis の 3 により $\varphi=\sum_{i=1}^n\varphi(u_i)\varphi_i=\sum_{i>k}\varphi(u_i)\varphi_i$ である。$\varphi_{k+1},\dots,\varphi_n$ は線形独立なので、$\dim U^0=n-k$ となり 2 が従う。
1:$r$ は線形で、核が $U^0$ であることは定義そのものである。$\psi\in U^*$ に対し、prop-dual-values-on-basis により $\varphi(u_i)=\psi(u_i)$($i\le k$)、$\varphi(u_i)=0$($i>k$)を満たす $\varphi\in V^*$ がとれる。$\varphi|_U$ と $\psi$ は $U$ の基底上で一致するので $r(\varphi)=\psi$ である。
3:右辺を $U'$ とおく。$U\subset U'$ は $U^0$ の定義から明らかである。$v=\sum_ia_iu_i\in U'$ なら、$j>k$ について $\varphi_j\in U^0$ だから $a_j=\varphi_j(v)=0$ となり、$v=\sum_{i\le k}a_iu_i\in U$ である。
4:基底と次元 の記事の命題「有限次元空間における独立系と生成系」の 3(有限次元の空間の部分空間は、次元が等しいときに限り全体と一致する)を使う。$U^0=\{0\}$ は $\dim U^0=0$ と同値であり、2 によりこれは $\dim U=n$、すなわち $U=V$ と同値である。$\dim V^*=n$(prop-dual-basis の 1)なので、$U^0=V^*$ は $\dim U^0=n$ と同値であり、2 によりこれは $\dim U=0$、すなわち $U=\{0\}$ と同値である。
たとえば $\mathbb{R}^3$ の直線 $U=\operatorname{span}\{(1,1,1)\}$ の零化空間は $\{ax+by+cz\ \text{の形の汎関数}:\ a+b+c=0\}$ であり、$\dim U^0=2=3-1$ である。3 は「部分空間は、それを含む超平面たち $\ker\varphi$($\varphi\in U^0$)の共通部分である」と言い換えられる。
以下、$\ker T$、$\operatorname{im}T$ で線形写像 $T$ の核と像を、$\operatorname{rank}T:=\dim\operatorname{im}T$ でその階数(階数(線形代数))を表す。
$V,W$ を有限次元のベクトル空間、$T\colon V\to W$ を線形写像とする。
1:$\psi\in W^*$ について、$T^*(\psi)=\psi\circ T=0$ は「すべての $v$ で $\psi(Tv)=0$」、すなわち $\psi$ が $\operatorname{im}T$ 上で $0$ であることと同値である。
2:$T^*\colon W^*\to V^*$ に線形代数学 の記事の定理「次元定理」を適用し、1、thm-dual-annihilator の 2、prop-dual-basis の 1 を使うと
$$
\operatorname{rank}T^*=\dim W^*-\dim\ker T^*=\dim W-\dim(\operatorname{im}T)^0=\dim W-(\dim W-\operatorname{rank}T)=\operatorname{rank}T
$$
である。
3:$\varphi=T^*(\psi)\in\operatorname{im}T^*$ なら、$v\in\ker T$ について $\varphi(v)=\psi(Tv)=\psi(0)=0$ なので $\operatorname{im}T^*\subset(\ker T)^0$ である。次元を比べると、thm-dual-annihilator の 2、次元定理、2 により
$$
\dim(\ker T)^0=\dim V-\dim\ker T=\operatorname{rank}T=\operatorname{rank}T^*
$$
なので、両者は等しい(基底と次元 の記事の命題「有限次元空間における独立系と生成系」の 3)。
4:$T$ が全射 $\iff\operatorname{im}T=W\iff(\operatorname{im}T)^0=\{0\}$(thm-dual-annihilator の 4)$\iff\ker T^*=\{0\}$(1)$\iff T^*$ が単射、である。同様に $T$ が単射 $\iff\ker T=\{0\}\iff(\ker T)^0=V^*$(thm-dual-annihilator の 4)$\iff\operatorname{im}T^*=V^*$(3)$\iff T^*$ が全射、である。
1 の証明は有限次元を使っていない。2 から、行列の列ランクと行ランクが等しいことが従う。行列 $A$ の 列ランク(列階数)は列ベクトルの張る部分空間の次元、行ランク(行階数)は行ベクトルの張る部分空間の次元である。
$A\in M_{m,n}(K)$ の列ランクと行ランクは等しい。
$T_A\colon K^n\to K^m$、$T_A(x):=Ax$ とする。$T_A$ の像は $A$ の列ベクトル $a_1,\dots,a_n$ の張る部分空間 $\operatorname{span}(a_1,\dots,a_n)$ である($Ax=\sum_jx_ja_j$)から、$\operatorname{rank}T_A$ は $A$ の列ランクに等しい。
thm-dual-map-transpose の 2 により、$T_A^*\colon(K^m)^*\to(K^n)^*$ の、座標関数からなる双対基底に関する表現行列は $A^{\top}$ である。基底に関する座標をとる写像 $(K^m)^*\to K^m$、$(K^n)^*\to K^n$ はどちらも線形同型であり(prop-dual-values-on-basis)、これらで $T_A^*$ を書き直した写像は $y\mapsto A^{\top}y$ である。線形同型は部分空間の次元を変えないので、$\operatorname{rank}T_A^*$ は $A^{\top}$ の列ランク、すなわち $A$ の行ランクに等しい。thm-dual-kernel-image の 2 により $\operatorname{rank}T_A^*=\operatorname{rank}T_A$ であるから、列ランクと行ランクは等しい。
この等式は 階数(線形代数) の記事の定理「列階数と行階数は等しい」であり、そこでは行列の分解 $A=CR$ による証明が与えられている。ここでは双対写像による別証を与えた。たとえば $A=\begin{pmatrix}1&2&3\\4&5&6\end{pmatrix}$ の列ランク・行ランクはどちらも $2$ である(2 つの行は比例せず、$\mathbb{R}^2$ の中の列ベクトル $(1,4)$、$(2,5)$ は線形独立)。
$V,W$ をベクトル空間とする。
1:$v\ne0$ とする。$\{v\}$ は線形独立なので、$v$ を含む $V$ の基底 $B$ がある(基底と次元 の記事の定理「一般のベクトル空間の基底の存在」)。prop-dual-values-on-basis により $\varphi(v)=1$、$\varphi(b)=0$($b\in B$、$b\ne v$)となる $\varphi\in V^*$ がとれ、$\iota_V(v)(\varphi)=\varphi(v)=1\ne0$ である。よって $\ker\iota_V=\{0\}$ であり、$\iota_V$ は単射である。
2:$v\in V$、$\psi\in W^*$ について
$$
\bigl(T^{**}(\iota_V(v))\bigr)(\psi)=\iota_V(v)\bigl(T^*(\psi)\bigr)=(\psi\circ T)(v)=\psi(Tv)=\iota_W(Tv)(\psi)
$$
である。
3:prop-dual-basis の 1 を 2 回使うと $\dim V^{**}=\dim V^*=\dim V$ である。単射な線形写像 $\iota_V$ の像は $\dim V$ 次元なので、$\iota_V$ は全射でもある(線形代数学 の記事の定理「次元定理」)。$V=\{0\}$ なら $V^{**}=\{0\}$ で明らかである。
4:$V$ の基底 $(v_i)_{i\in I}$ をとる(前掲の定理「一般のベクトル空間の基底の存在」)。$V$ は有限次元でないので $I$ は無限集合である。prop-dual-values-on-basis により、$\varphi_i(v_j)=\delta_{ij}$ を満たす $\varphi_i\in V^*$ と、すべての $j$ で $\sigma(v_j)=1$ を満たす $\sigma\in V^*$ がとれる。$\varphi_i$ たちは線形独立である(有限個の線形結合 $\sum_ia_i\varphi_i=0$ を $v_j$ で評価すると $a_j=0$)。また $\sigma$ は $\varphi_i$ たちの有限個の線形結合ではない。実際、有限集合 $F\subset I$ 上の和 $\sum_{i\in F}a_i\varphi_i$ は、$I$ が無限なのでとれる $j\notin F$ について $v_j$ で $0$ になるが、$\sigma(v_j)=1$ である。したがって $\{\varphi_i\}_{i\in I}\cup\{\sigma\}$ は $V^*$ の線形独立な部分集合であり、これを含む $V^*$ の基底 $B'$ がある(前掲の定理)。prop-dual-values-on-basis を $V^*$ とその基底 $B'$ に適用して、$\Phi(\sigma)=1$、$\Phi(\beta)=0$($\beta\in B'$、$\beta\ne\sigma$)を満たす $\Phi\in V^{**}$ をとる。とくにすべての $i$ で $\Phi(\varphi_i)=0$ である。
$\Phi=\iota_V(v)$ となる $v$ があったとする。$v=\sum_ia_iv_i$(有限和)と書くと、$a_j=\varphi_j(v)=\iota_V(v)(\varphi_j)=\Phi(\varphi_j)=0$ がすべての $j$ で成り立つので $v=0$ となり、$\Phi=\iota_V(0)=0$ である。これは $\Phi(\sigma)=1$ に反する。よって $\Phi$ は $\iota_V$ の像に入らず、$\iota_V$ は全射でない。
2 は、$\iota=(\iota_V)_V$ がベクトル空間の圏の恒等関手から二重双対をとる関手への自然変換であることを意味する(自然変換 の記事の例「二重双対への評価」)。3 の同型は基底を使わずに定義されており、ex-dual-not-natural の $V\cong V^*$ と対照的である。1 と 4 の証明は、無限次元の場合に基底の存在(Zornの補題、したがって選択公理による)を使っている。有限次元の場合の 1 は、prop-dual-basis の 2 から直接従う($v\ne0$ ならある $\varphi_i(v)\ne0$)。
関数解析学では、実数体または複素数体上のノルム空間 $X$ に対し、$X$ 上の連続な(連続写像)線形汎関数全体を $X^*$ と書いて $X$ の双対空間と呼ぶ。線形汎関数が連続であることと有界であることは同値である。本記事の双対空間はすべての線形汎関数の空間であり、区別するときは前者を 連続双対(位相的双対)、後者を 代数的双対 という。連続双対の定義とノルム、連続性と有界性の同値は参考書位相線形空間と関数解析の基礎の頁「有界線形作用素、作用素ノルム」に、連続双対の二重双対への埋め込みは同じ参考書の弱位相を扱う頁にある。
$X$ が有限次元なら、線形汎関数は自動的に連続である(同じ参考書の頁「有限次元ノルム空間」の系「有限次元ノルム空間からノルム空間への線形作用素は自動的に有界」)ので、2 つの双対は一致する。$X$ が無限次元なら両者は異なる。実際、$\|e_k\|=1$ を満たす線形独立な列 $e_1,e_2,\dots$ をとり、それを含む基底をとって(基底と次元 の記事の定理「一般のベクトル空間の基底の存在」)、$\varphi(e_k)=k$、他の基底ベクトルで $0$ となる線形汎関数 $\varphi$ を作る(prop-dual-values-on-basis)と、$|\varphi(e_k)|/\|e_k\|=k$ は有界でないので $\varphi$ は連続でない。無限次元のノルム空間では、代数的双対の性質(たとえば thm-dual-double-dual の 4)をそのまま連続双対に当てはめることはできない。
双対空間を $V^*$、$V^\vee$、$V'$ のどれで書くか、双対写像を $T^*$、$T^{\top}$、${}^tT$、$T'$ のどれで書くかは文献によって異なる。内積空間の記事や行列の共役転置(随伴行列、転置行列)で使う $T^*$、$A^*$(随伴)は、内積を使って $V$ から $V$ への写像として定める別の概念である。実数上の有限次元内積空間では、内積により $V\cong V^*$($v\mapsto\langle\cdot,v\rangle$)が基底によらずに定まり、この同一視のもとで双対写像は随伴に対応する。これは内積という追加の構造を使った同型であり、ex-dual-not-natural と矛盾しない。
線形汎関数・双対空間・$\dim V^*=\dim V$ は Axl24 3.108・3.110・3.111(p. 105)、双対基底と座標は 3.112・3.114(p. 106)、双対基底が基底であることと双対写像の定義は 3.116・3.118(p. 107)、双対写像の代数的性質は 3.120(p. 108)、零化空間とその次元は 3.121・3.124・3.125(pp. 109–110)と 3.127(p. 111)、双対写像の核と像は 3.128(pp. 111–112)・3.129・3.130(pp. 112–113)・3.131(p. 113)、表現行列が転置行列になることは 3.132(pp. 113–114)、双対による列ランクと行ランクの一致の証明は 3.133(p. 114)にある。同書は係数体を $\mathbb{R}$ または $\mathbb{C}$ とし、双対空間を $V'$、双対写像を $T'$ と書く。本記事の証明は任意の体 $K$ で通用する形で書いた。二重双対 $V''$ と評価写像は同書の Exercises 3F の 32(p. 118)に演習問題として現れ、(b) は $T\colon V\to V$ の場合の自然性、(c) は有限次元での同型である(本記事の thm-dual-double-dual の 2・3 にあたる)。無限次元の場合(thm-dual-double-dual の 1・4、prop-dual-values-on-basis)は本記事で証明した。
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