Whiteheadの問題(Whitehead problem)とは、整数群による拡張がすべて分裂するアーベル群が必ず自由アーベル群かを問う問題である。有限生成の場合は肯定的だが、一般の場合はZFCから独立であり、構成可能宇宙では肯定、Martinの公理と連続体仮説の否定を満たすモデルでは反例が存在する。
前提知識: アーベル群, 自由アーベル群, 完全列, 環上の加群のホモロジー代数, 連続体仮説
Whiteheadの問題は、アーベル群の拡張がすべてほどけるという条件から、その群が自由アーベル群であると結論できるかを問う問題である。有限生成の場合には答えは肯定的である。しかし、任意の濃度の群を許すと、この命題は通常の集合論の公理系ZFCからは決定できない。
この問題の特徴は、問いそのものはアーベル群と完全列だけで述べられるのに、一般の場合の答えが採用する集合論的宇宙に依存する点にある。
アーベル群 $A$ がホワイトヘッド群(Whitehead group)であるとは、任意の短完全列
$$
0\longrightarrow \mathbb Z\xrightarrow{\,i\,}E\xrightarrow{\,p\,}A\longrightarrow 0
$$
が分裂すること、すなわち準同型 $s:A\to E$ で
$$
p\circ s=\operatorname{id}_A
$$
を満たすものが存在することをいう。
同値な言い方では
$$
\operatorname{Ext}_{\mathbb Z}^{1}(A,\mathbb Z)=0
$$
である。ここで $\operatorname{Ext}_{\mathbb Z}^{1}(A,\mathbb Z)$ は、$A$ を $\mathbb Z$ で拡張した短完全列の同値類からなる群であり、零元は分裂拡張に対応する。
Whiteheadの問題(Whitehead problem)は、次の命題が成り立つかを問う。
すべてのホワイトヘッド群は自由アーベル群である。
したがって問題は、$\operatorname{Ext}_{\mathbb Z}^{1}(A,\mathbb Z)$ の消滅が $A$ の自由性を特徴づけるか、という形にも書ける。
短完全列
$$
0\longrightarrow \mathbb Z\longrightarrow E\longrightarrow A\longrightarrow 0
$$
は、$E$ の中で $A$ と $\mathbb Z$ がどのように組み合わされているかを表す。分裂する場合は
$$
E\cong \mathbb Z\oplus A
$$
となり、組み合わせに捩れはない。ホワイトヘッド群とは、$\mathbb Z$ を核にもつどの拡張にもこの捩れが生じない群である。
自由アーベル群から準同型を作るには、基底の像を一つずつ選べばよい。この持ち上げの自由さが、自由アーベル群の拡張を必ず分裂させる。
任意の自由アーベル群 $F$ に対して
$$
\operatorname{Ext}_{\mathbb Z}^{1}(F,\mathbb Z)=0
$$
が成り立つ。
$F$ の基底を $(e_j)_{j\in J}$ とし、短完全列
$$
0\longrightarrow \mathbb Z\xrightarrow{\,i\,}E\xrightarrow{\,p\,}F\longrightarrow 0
$$
をとる。$p$ は全射なので、各 $j\in J$ に対して $p(x_j)=e_j$ となる $x_j\in E$ を選べる。自由アーベル群の普遍性により、$e_j\mapsto x_j$ はただ一つの準同型
$$
s:F\longrightarrow E
$$
へ延長される。各基底元について
$$
(p\circ s)(e_j)=p(x_j)=e_j
$$
であるから、$p\circ s=\operatorname{id}_F$ である。したがって短完全列は分裂する。任意の拡張が分裂するので、$F$ はホワイトヘッド群である。$\square$
この命題により、Whiteheadの問題で難しいのは逆向きだけである。
有限生成の場合の逆向きを理解するには、有限巡回群の計算が基本になる。
$n\geq 2$ に対して
$$
\operatorname{Ext}_{\mathbb Z}^{1}(\mathbb Z/n\mathbb Z,\mathbb Z)
\cong \mathbb Z/n\mathbb Z
$$
が成り立つ。特に $\mathbb Z/n\mathbb Z$ はホワイトヘッド群ではない。
$\mathbb Z/n\mathbb Z$ の自由分解
$$
0\longrightarrow \mathbb Z\xrightarrow{\,\times n\,}\mathbb Z
\longrightarrow \mathbb Z/n\mathbb Z\longrightarrow 0
$$
をとる。反変関手 $\operatorname{Hom}_{\mathbb Z}(-,\mathbb Z)$ を適用すると、Ext群を計算する余鎖複体は
$$
0\longrightarrow \operatorname{Hom}_{\mathbb Z}(\mathbb Z,\mathbb Z)
\xrightarrow{\,(\times n)^*\,}
\operatorname{Hom}_{\mathbb Z}(\mathbb Z,\mathbb Z)
\longrightarrow 0
$$
となる。各Hom群を、準同型の $1$ での値によって $\mathbb Z$ と同一視すると、$(\times n)^*$ は整数の $n$ 倍写像である。したがって第1コホモロジーは
$$
\operatorname{coker}(\mathbb Z\xrightarrow{\,\times n\,}\mathbb Z)
\cong \mathbb Z/n\mathbb Z
$$
である。これが $\operatorname{Ext}_{\mathbb Z}^{1}(\mathbb Z/n\mathbb Z,\mathbb Z)$ を与える。$n\geq2$ なら零群ではないので、$\mathbb Z/n\mathbb Z$ はホワイトヘッド群ではない。$\square$
この計算で矢印の向きが反転するのは、$\operatorname{Hom}_{\mathbb Z}(-,\mathbb Z)$ が第1変数について反変だからである。
具体的には、短完全列
$$
0\longrightarrow \mathbb Z\xrightarrow{\,\times n\,}\mathbb Z
\xrightarrow{\,\bmod n\,}\mathbb Z/n\mathbb Z\longrightarrow 0
$$
は分裂しない。実際、分裂すれば $\mathbb Z/n\mathbb Z$ から $\mathbb Z$ への単射が得られるが、$\mathbb Z$ には非零の有限位数元がない。
有限生成アーベル群 $A$ がホワイトヘッド群であることと、$A$ が自由アーベル群であることは同値である。
自由アーベル群がホワイトヘッド群であることはすでに示した。逆に $A$ を有限生成ホワイトヘッド群とする。有限生成アーベル群の構造定理により
$$
A\cong \mathbb Z^r\oplus \mathbb Z/n_1\mathbb Z\oplus\cdots\oplus
\mathbb Z/n_t\mathbb Z,
\qquad n_j\geq2
$$
と書ける。
有限直和に対して $\operatorname{Ext}_{\mathbb Z}^{1}(-,\mathbb Z)$ は直和を保つ。これは各直和因子の自由分解を直和し、$\operatorname{Hom}_{\mathbb Z}(-,\mathbb Z)$ を適用すれば得られる。よって
$$
\operatorname{Ext}_{\mathbb Z}^{1}(A,\mathbb Z)
\cong
\bigoplus_{j=1}^{t}
\operatorname{Ext}_{\mathbb Z}^{1}(\mathbb Z/n_j\mathbb Z,\mathbb Z)
\cong
\bigoplus_{j=1}^{t}\mathbb Z/n_j\mathbb Z.
$$
$A$ はホワイトヘッド群なので左辺は零群であり、したがって $t=0$ である。ゆえに $A\cong\mathbb Z^r$ は自由アーベル群である。$\square$
この定理は、有限生成群ではWhiteheadの問題が通常の構造定理だけで解決することを示す。独立性が現れるのは、有限生成の範囲を大きく越えた無限アーベル群である。
Whiteheadの問題は、単に証明がまだ見つかっていない未解決問題ではない。標準的な集合論の公理系ZFCの中では決定不能である。
ZFCが無矛盾であると仮定する。このとき次が成り立つ。
この定理の集合論的証明は本記事では再現しない。Shelahの原論文 She74 は、$V=L$ のもとでの肯定結果と、Martinの公理および $2^{\aleph_0}>\aleph_1$ のもとで濃度 $\aleph_1$ の反例が存在することを示し、相対無矛盾性の形で独立性を確立した。
ここで $V=L$ は「すべての集合が構成可能である」という強い仮定であり、連続体仮説と同じ仮定ではない。また、Martinの公理と連続体仮説の否定を仮定した側では、具体的な有限表示から一つの反例群を作るという意味ではなく、その集合論的宇宙の中に自由でないホワイトヘッド群が存在する。
したがって正確な結論は次のようになる。
集合 $I$ に対する直和
$$
\mathbb Z^{(I)}=\bigoplus_{i\in I}\mathbb Z
$$
は自由アーベル群なので、$I$ が有限でも非可算でもホワイトヘッド群である。これは、ホワイトヘッド性が有限生成性に限られた概念ではないことを示す。
$n\geq2$ に対して $\mathbb Z/n\mathbb Z$ はホワイトヘッド群ではない。これは「すべてのアーベル群はホワイトヘッド群である」という誤った含意を破る反例である。非分裂拡張は
$$
0\longrightarrow \mathbb Z\xrightarrow{\,\times n\,}\mathbb Z
\longrightarrow \mathbb Z/n\mathbb Z\longrightarrow0
$$
で明示できる。
Martinの公理と連続体仮説の否定を満たすモデルでは、自由でないホワイトヘッド群が存在する。この例が破るのは
$$
\operatorname{Ext}_{\mathbb Z}^{1}(A,\mathbb Z)=0
\quad\Longrightarrow\quad
A\text{ は自由アーベル群}
$$
という含意である。一方、$V=L$ を満たすモデルではこの含意がすべてのアーベル群について成立するため、同じ存在命題をZFCだけで証明することはできない。
まず短完全列の分裂と自由加群の普遍性を理解すると、自由アーベル群がホワイトヘッド群になる証明を読める。次に射影分解から $\operatorname{Ext}^{1}$ を計算し、有限巡回群と有限生成群の場合を確認するとよい。
一般の場合へ進むには、構成可能宇宙、Martinの公理、連続体仮説、強制法などの集合論が必要になる。代数の計算と集合論的独立性の証明は、必要とする道具の層が大きく異なる。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する