三角形の内角の和(angle sum of a triangle)とは、平面の三角形の 3 つの内角の和が $180^\circ$ になるという定理である。頂点を通り向かいの辺に平行な直線を引き、錯角で残りの 2 角をその頂点に運ぶと一直線に並ぶ。複素数平面では、反時計回りの三角形について 3 つの比 $\frac{c-a}{b-a},\frac{a-b}{c-b},\frac{b-c}{a-c}$ の積が $-1$ になることからも示せる。ここから外角の定理や、凸 $n$ 角形の内角の和 $(n-2)\times180^\circ$ が出る。平行線の錯角の性質は平行線公準に依存し、球面上では 3 つの角が直角で和が $270^\circ$ の三角形がある。半径 $R$ の球面では、内角の和(ラジアン)と $\pi$ の差が面積の $\frac1{R^2}$ 倍である。
三角形の 3 つの内角を足すと $180^\circ$ になる。小学校では紙の三角形の 3 つの角を切り取って並べ、一直線になることを確かめる。中学校では、平行線を 1 本引いて証明する。高校では、この事実を毎日のように使う。二等辺三角形の底角、円周角の定理の証明、多角形の内角の和、三角比の $\sin(180^\circ-\theta)=\sin\theta$ を使う場面など、どれもこの事実が土台にある。
まず、座標で角を計算して、本当に $180^\circ$ になることを確かめておく。
$A=(0,0)$、$B=(4,0)$、$C=(1,3)$ を頂点とする三角形 $ABC$ を考える。角 $\angle BAC$ の余弦は、ベクトル $\overrightarrow{AB}=(4,0)$、$\overrightarrow{AC}=(1,3)$ の 内積 を使って
$$
\cos\angle BAC=\frac{\overrightarrow{AB}\cdot\overrightarrow{AC}}{|\overrightarrow{AB}|\,|\overrightarrow{AC}|}=\frac{4\cdot1+0\cdot3}{4\cdot\sqrt{10}}=\frac1{\sqrt{10}}
$$
と求まる。同じようにして、
この記事で答える問いは次の 4 つである。
| 高校の計算・定理 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| 平行線の錯角は等しい | 角を平行線で 1 か所に運ぶ | 平行線公準 |
| 内角の和は $180^\circ$ | 平面の三角形の性質 | 曲率 $0$ の幾何(Euclid幾何学) |
| 外角は隣り合わない 2 つの内角の和 | cor-tas-exterior | 平行線公準を使わない弱い形(外角はそれぞれの内角より大きい)は中立幾何で成り立つ |
| 複素数の偏角は掛け算で足される | thm-tas-complex | 平面の回転は順序によらず足し合わせられる |
| 球面の上の三角形 | 和が $180^\circ$ を超える | Gauss–Bonnetの定理、Gauss曲率 |
2 本の直線 $\ell$、$m$ に、3 本目の直線 $t$ が交わっているとする。$t$ と $\ell$ の交点を $P$、$t$ と $m$ の交点を $Q$ とする。$t$ を 横断線 とよぶ。
$P\ne Q$ とする。$\ell$ 上に $P$ 以外の点 $X$、$m$ 上に $Q$ 以外の点 $Y$ をとる。
同位角 $\angle YQQ'$ と、$Q$ での錯角 $\angle PQY''$($Y''$ は $m$ 上で $Q$ について $Y$ と反対側の点)は向かい合う角(対頂角)なので等しい。したがって「錯角が等しい」と「同位角が等しい」は同じことを言っている。以下では錯角で述べる。
$\ell$ を直線 $y=2$、$m$ を $x$ 軸($y=0$)、$t$ を原点 $Q=(0,0)$ と $P=(1,2)$ を通る直線とする。$\ell\parallel m$ である。$X=(-1,2)$($\ell$ 上、$t$ の左上の側)、$Y=(1,0)$($m$ 上、$t$ の右下の側)をとると、$X$ と $Y$ は $t$ について反対側にあるので、$\angle XPQ$ と $\angle PQY$ は錯角である。
$\overrightarrow{PX}=(-2,0)$、$\overrightarrow{PQ}=(-1,-2)$ なので $\cos\angle XPQ=\dfrac{2}{2\sqrt5}=\dfrac1{\sqrt5}$ である。$\overrightarrow{QP}=(1,2)$、$\overrightarrow{QY}=(1,0)$ なので $\cos\angle PQY=\dfrac{1}{\sqrt5}$ である。2 つの錯角は等しい(どちらも約 $63.435^\circ$)。$\ell$ を傾けて直線 $y=2+\dfrac12(x-1)$ にすると、$\ell$ と $m$ は $x=-3$ で交わる。このとき $X=(-1,1)$ をとると $\overrightarrow{PX}=(-2,-1)$、$\cos\angle XPQ=\dfrac{2+2}{\sqrt5\cdot\sqrt5}=\dfrac45$ となり、錯角は等しくない(約 $36.870^\circ$ と約 $63.435^\circ$)。
中学校で習う平行線の性質は、次のようにまとめられる。
2 直線 $\ell$、$m$ と横断線 $t$($t$ は $\ell$ と $m$ に別々の点で交わる)について、次が成り立つ。
この記事では thm-tas-parallel を中学校の事実として使い、証明は 平行線公準(高校数学) で与える。そこで示すように、1 は平行線公準を使わずに示せる(Euclid『原論』第 I 巻 命題 27、Hea56 p. 307)が、2 は平行線公準を使わなければ示せない(同 命題 29、Hea56 p. 311)。内角の和が $180^\circ$ であることは 2 を使って示すので、平行線公準に頼っている。このことが、後の節で見る球面の上の三角形との違いを生む。
三角形 $ABC$ の頂点 $A,B,C$ における内角を、それぞれ $\alpha=\angle BAC$、$\beta=\angle ABC$、$\gamma=\angle ACB$ と書く。
平面の三角形 $ABC$ について
$$
\alpha+\beta+\gamma=180^\circ
$$
が成り立つ。
方針:頂点 $A$ を通り辺 $BC$ に平行な直線を引き、$\beta$ と $\gamma$ を錯角として $A$ に運ぶ。3 つの角が $A$ で一直線に並ぶことを示す(図1)。途中で、平面の図形についての次の基本的な事実を使う(この記事では証明しない)。
頂点 A を通り BC に平行な直線 DE を引くと、B の角 β と C の角 γ が錯角として A に運ばれ、α と合わせて一直線(180°)に並ぶ
段 1 で平行線を「作る」ときには thm-tas-parallel の 1 しか使っていない。段 4 で、作った平行線と $AC$ のなす角が $\gamma$ に等しいと言うときに、2 を使っている($\angle DAB=\beta$ は段 1 の作り方からも分かる)。2 は「$A$ を通って $BC$ に平行な直線は 1 本しかない」ことと同じ内容であり、ここに平行線公準が入っている。平行線が 1 本しかないことから 2 が導かれることは 平行線公準(高校数学) で示す。逆に 2 を認めると、$A$ を通って $BC$ に平行な直線 $\ell'$ の上に、直線 $AB$ について $C$ と反対側の点 $X'$ をとれば、2 により $\angle X'AB=\beta=\angle XAB$ となる。直線 $AB$ の同じ側に、半直線 $AB$ と同じ角をなす半直線は 1 本しかないので、半直線 $AX'$ は $AX$ と一致し、$\ell'=\ell$ である。
三角形 $ABC$ の辺 $BC$ を $C$ の先へ延ばし、その延長上に点 $D$ をとる。$\angle ACD$ を、頂点 $C$ における 外角 という。$\angle ACD=180^\circ-\gamma$ である($B,C,D$ は一直線上にあり、$C$ は $B$ と $D$ の間にある)。
三角形の外角は、それと隣り合わない 2 つの内角の和に等しい。記号で書くと $\angle ACD=\alpha+\beta$ である。
$\angle ACD=180^\circ-\gamma$ である。thm-tas-main から $180^\circ-\gamma=\alpha+\beta$ なので、$\angle ACD=\alpha+\beta$ である。
Euclid『原論』第 I 巻 命題 32 は、外角の定理と内角の和の定理を 1 つの命題として述べ、$C$ を通り $AB$ に平行な直線 $CE$ を引いて外角 $\angle ACD$ を $\angle ACE$($\alpha$ の錯角)と $\angle ECD$($\beta$ の同位角)に分ける(Hea56 pp. 316–317、図2)。これは prf-tas-main と同じ考え方で、角を運ぶ先を $C$ にしたものである。
C を通り AB に平行な直線 CE を引くと、外角 ∠ACD は α(錯角)と β(同位角)に分かれる
prf-tas-main は平行線を引いて角を運んだ。ここでは、平面の点を複素数で表し、角を 偏角 として計算する。平行線を引かずに、1 行の恒等式から内角の和が出る。複素数の積の偏角が偏角の和になること(複素数の掛け算は回転と拡大)を使う。
点 $A,B,C$ を表す複素数を $a,b,c$ と書く。$0$ でない複素数 $w$ を $w=|w|(\cos\theta+i\sin\theta)$($-180^\circ<\theta\le180^\circ$)と書いたときの $\theta$ を $\operatorname{Arg}w$ と書く。
一直線上にない 3 点 $A,B,C$ について、$\dfrac{c-a}{b-a}$ の虚部が正のとき、三角形 $ABC$ は 反時計回り であるという。
どの三角形も、頂点の名前の付け方を 1 か所入れ替えれば反時計回りになる($B$ と $C$ を入れ替えると、$\dfrac{c-a}{b-a}$ は逆数 $\dfrac{b-a}{c-a}$ になり、虚部の符号が変わる)。
三角形 $ABC$ が反時計回りなら、
$$
\angle BAC=\operatorname{Arg}\frac{c-a}{b-a},\qquad \angle ABC=\operatorname{Arg}\frac{a-b}{c-b},\qquad \angle ACB=\operatorname{Arg}\frac{b-c}{a-c}
$$
であり、3 つの偏角はどれも $0^\circ$ と $180^\circ$ の間にある。
方針:分母の共役を分子と分母に掛けて、実部が内積、虚部が「外積」になることを見る。
段 1($A$ の角)。$b-a=p+qi$、$c-a=r+si$($p,q,r,s$ は実数)とおく。
$$
\frac{c-a}{b-a}=\frac{\overline{(b-a)}\,(c-a)}{|b-a|^2}=\frac{(p-qi)(r+si)}{|b-a|^2}=\frac{(pr+qs)+(ps-qr)i}{|b-a|^2}
$$
である。実部の分子 $pr+qs$ は内積 $\overrightarrow{AB}\cdot\overrightarrow{AC}$ である。この複素数を $w$、その偏角を $\theta$ とすると、$|w|=\dfrac{|c-a|}{|b-a|}$ なので
$$
\cos\theta=\frac{\operatorname{Re}w}{|w|}=\frac{pr+qs}{|b-a|^2}\cdot\frac{|b-a|}{|c-a|}=\frac{\overrightarrow{AB}\cdot\overrightarrow{AC}}{|\overrightarrow{AB}|\,|\overrightarrow{AC}|}=\cos\angle BAC
$$
である。反時計回りなので $\operatorname{Im}w>0$、つまり $\sin\theta>0$ で、$0^\circ<\theta<180^\circ$ である。$\angle BAC$ も $0^\circ$ と $180^\circ$ の間にあり、この範囲では余弦の値から角がただ 1 つに決まるので、$\theta=\angle BAC$ である。
段 2(虚部の符号は 3 つの頂点で同じ)。複素数 $u=u_1+u_2i$、$v=v_1+v_2i$ に対して $[u,v]:=\operatorname{Im}(\bar uv)=u_1v_2-u_2v_1$ とおく。$[u,v]$ は $u,v$ のそれぞれについて 1 次式で、$[u,u]=0$、$[v,u]=-[u,v]$ である。段 1 の計算から、$\dfrac{c-a}{b-a}$ の虚部の符号は $[b-a,c-a]$ の符号と同じである。これを展開すると
$$
[b-a,c-a]=[b,c]-[b,a]-[a,c]+[a,a]=[a,b]+[b,c]+[c,a]
$$
である。同じように、$B$ の角に現れる $\dfrac{a-b}{c-b}$ の虚部の符号は
$$
[c-b,a-b]=[c,a]-[c,b]-[b,a]+[b,b]=[a,b]+[b,c]+[c,a]
$$
の符号と同じで、$C$ の角に現れる $\dfrac{b-c}{a-c}$ の虚部の符号は $[a-c,b-c]=[a,b]+[b,c]+[c,a]$ の符号と同じである。3 つとも同じ式なので、反時計回りなら 3 つの虚部はどれも正である。
段 3($B$ と $C$ の角)。段 1 の計算を、頂点 $A$ を $B$ に($b,c$ を $c,a$ に)置き換えて行うと $\angle ABC=\operatorname{Arg}\dfrac{a-b}{c-b}$、$C$ に置き換えて行うと $\angle ACB=\operatorname{Arg}\dfrac{b-c}{a-c}$ が得られる。段 2 から、どちらの偏角も $0^\circ$ と $180^\circ$ の間にある。
反時計回りの三角形 $ABC$ について
$$
\frac{c-a}{b-a}\cdot\frac{a-b}{c-b}\cdot\frac{b-c}{a-c}=-1
$$
が成り立ち、ここから $\alpha+\beta+\gamma=180^\circ$ が従う。
方針:3 つの比の積を計算し、偏角の和と比べる。
段 1(積の計算)。分母の積は
$$
(b-a)(c-b)(a-c)=\bigl(-(a-b)\bigr)\bigl(-(b-c)\bigr)\bigl(-(c-a)\bigr)=-(a-b)(b-c)(c-a)
$$
で、分子の積 $(c-a)(a-b)(b-c)$ と比べると符号だけが違う。よって 3 つの比の積は $-1$ である。
段 2(偏角の和)。積の偏角は偏角の和に $360^\circ$ の整数倍の差を除いて等しい。lem-tas-arg により 3 つの比の偏角は $\alpha,\beta,\gamma$ なので、
$$
\alpha+\beta+\gamma=\operatorname{Arg}(-1)+360^\circ\times k=180^\circ+360^\circ\times k
$$
となる整数 $k$ がある。
段 3($k$ を決める)。$\alpha,\beta,\gamma$ はどれも $0^\circ$ と $180^\circ$ の間にあるので $0^\circ<\alpha+\beta+\gamma<540^\circ$ である。$180^\circ+360^\circ\times k$ がこの範囲に入るのは $k=0$ のときだけなので、$\alpha+\beta+\gamma=180^\circ$ である。
ex-tas-start-coords の三角形 $a=0$、$b=4$、$c=1+3i$ で計算する。$\dfrac{c-a}{b-a}=\dfrac{1+3i}4$ の虚部は正なので、この三角形は反時計回りである。
$$
\frac{c-a}{b-a}=\frac{1+3i}4,\qquad \frac{a-b}{c-b}=\frac{-4}{-3+3i}=\frac{-4(-3-3i)}{18}=\frac{2+2i}3,\qquad \frac{b-c}{a-c}=\frac{3-3i}{-1-3i}=\frac{(3-3i)(-1+3i)}{10}=\frac{3+6i}5
$$
である。偏角は、正接がそれぞれ $3$、$1$、$2$ の角なので、ex-tas-start-coords で求めた約 $71.565^\circ$、$45^\circ$、約 $63.435^\circ$ と一致する。積は
$$
\frac{(1+3i)(2+2i)(3+6i)}{4\cdot3\cdot5}=\frac{(-4+8i)(3+6i)}{60}=\frac{-12-24i+24i+48i^2}{60}=\frac{-60}{60}=-1
$$
で、thm-tas-complex のとおりである。
prf-tas-complex には平行線が出てこない。しかし、複素数平面(座標平面)で距離と角を内積で測ることは、平面が平行線公準を満たす Euclid幾何学 の平面であることを最初から仮定している。座標平面では、点 $(x_0,y_0)$ を通り直線 $y=mx$ に平行な直線は $y-y_0=m(x-x_0)$ の 1 本だけである。
偏角が掛け算で足されることは、「$B$ を中心とする回転と $C$ を中心とする回転を続けて行うと、回転角が足された回転(または平行移動)になる」ことの表れでもある。球面の上では、違う軸のまわりの回転を続けて行うと回転角はこのように足されず、内角の和も $180^\circ$ にならない(ex-tas-sphere)。
内角の和と外角の定理を組み合わせると、図が複雑でも角の和が求まる。
凸五角形 $ABCDE$(頂点がこの順に並ぶ)の対角線 $AC$、$CE$、$EB$、$BD$、$DA$ でできる星形の 5 つの先端の角
$$
a=\angle CAD,\quad b=\angle EBD,\quad c=\angle ACE,\quad d=\angle BDA,\quad e=\angle CEB
$$
の和は $180^\circ$ である。
方針:先端 $A$ の角を含む三角形を 1 つ作り、その残りの 2 つの角を外角の定理で先端の角の和に書き換える(図3)。
段 1(点の位置)。対角線 $AC$ と $EB$ の交点を $M$、対角線 $AD$ と $EB$ の交点を $N$ とする。凸五角形では、頂点 $A$ から見て半直線 $AB,AC,AD,AE$ がこの順に並ぶので、線分 $BE$ を $B$ から $E$ へたどると、先に半直線 $AC$(点 $M$)、次に半直線 $AD$(点 $N$)と交わる。したがって線分 $BE$ の上に $B,M,N,E$ がこの順に並ぶ。また $M$ は線分 $AC$ の、$N$ は線分 $AD$ の途中の点である(凸な四角形 $ABCE$、$ABDE$ の対角線は互いの途中で交わる)。
段 2($M$ での角)。三角形 $MCE$ を考える。$M$ は線分 $AC$ 上にあるので、$\angle AME$ は三角形 $MCE$ の頂点 $M$ における外角である。外角の定理(cor-tas-exterior)から
$$
\angle AME=\angle MCE+\angle MEC=\angle ACE+\angle BEC=c+e
$$
である($M$ は線分 $CA$ 上、線分 $EB$ 上にあるので、$\angle MCE=\angle ACE$、$\angle MEC=\angle BEC$)。$N$ は線分 $ME$ 上にある(段 1)ので $\angle AMN=\angle AME=c+e$ である。
段 3($N$ での角)。同じように三角形 $NBD$ を考える。$N$ は線分 $AD$ 上にあるので、$\angle ANB$ は三角形 $NBD$ の頂点 $N$ における外角で、
$$
\angle ANB=\angle NBD+\angle NDB=\angle EBD+\angle ADB=b+d
$$
である。$M$ は線分 $NB$ 上にあるので $\angle ANM=\angle ANB=b+d$ である。
段 4(三角形 $AMN$)。$M$ は線分 $AC$ 上、$N$ は線分 $AD$ 上にあるので $\angle MAN=\angle CAD=a$ である。三角形 $AMN$ に thm-tas-main を使うと
$$
a+(c+e)+(b+d)=180^\circ
$$
となる。
星形五角形。三角形 AMN の M と N の角は、三角形 MCE と NBD の外角として、c + e と b + d に等しい
正五角形 $ABCDE$ の 1 つの内角は $108^\circ$ である(ex-tas-polygon)。三角形 $ABC$ は $AB=BC$ の二等辺三角形で頂角が $108^\circ$ なので、底角は $\dfrac{180^\circ-108^\circ}2=36^\circ$ である。同じく $\angle DAE=36^\circ$ なので、先端の角は $a=\angle CAD=108^\circ-36^\circ-36^\circ=36^\circ$ である。5 つの先端はどれも $36^\circ$ で、和は $5\times36^\circ=180^\circ$ となり、prop-tas-star と一致する。
凸 $n$ 角形($n\ge3$)の 1 つの頂点から、隣でない $n-3$ 個の頂点へ対角線を引くと、$n-2$ 個の三角形に分かれる。三角形たちの角を全部集めると、ちょうど $n$ 角形の内角を全部集めたものになるので、内角の和は $(n-2)\times180^\circ$ である。
thm-tas-main は「平面の上の」「線分で囲まれた」三角形についての定理である。どちらかを外すと、内角の和は $180^\circ$ でなくなる。
| 外した仮定 | 崩れる主張 | ボックス |
|---|---|---|
| 平面の上で考える(平行線がただ 1 本引ける) | 内角の和が $180^\circ$ になる(球面では $270^\circ$ の例がある) | ex-tas-sphere |
| 3 辺が線分である | 内角の和が $180^\circ$ になる(円弧で囲むと $360^\circ$ の例がある) | ex-tas-reuleaux |
原点を中心とする半径 $1$ の球面 $x^2+y^2+z^2=1$ を考える。球面を原点を通る平面で切った切り口の円を 大円 という。球面の上の 2 点を結ぶ最短の道は大円の弧なので(この記事では証明しない)、球面の上では大円を「直線」、大円の弧を「線分」の代わりに使う。2 本の弧が 1 点で出会うとき、その点での角は、2 本の弧がその点から出ていく向き(接線の向き)のなす角で測る。
3 点 $X=(1,0,0)$、$Y=(0,1,0)$、$Z=(0,0,1)$ を大円の弧で結ぶ(図4)。弧 $XY$ は平面 $z=0$ の上にあり、$X$ から $(0,1,0)$ の向きに出ていく。弧 $XZ$ は平面 $y=0$ の上にあり、$X$ から $(0,0,1)$ の向きに出ていく。2 つの向きの内積は $0$ なので、$X$ での角は $90^\circ$ である。座標を $x\to y\to z\to x$ と入れ替えると $X\to Y\to Z\to X$ と移り、弧も角も移り合うので、$Y$ と $Z$ での角も $90^\circ$ である。内角の和は
$$
90^\circ+90^\circ+90^\circ=270^\circ
$$
で、$180^\circ$ より $90^\circ$ 大きい。
prf-tas-main のどこが使えないかを見る。平面の証明では、頂点 $Z$ を通り「辺 $XY$ を含む大円」(赤道 $z=0$)と交わらない大円が必要だった。しかし、$Z$ を通る大円を切り出す平面と、赤道を切り出す平面 $z=0$ は、どちらも原点を通るので原点を通る直線で交わる。この直線は球面と 2 点で交わり、その 2 点は両方の大円の上にある。つまり、球面の上では どの 2 つの大円も交わり、平行な「直線」がない。同じ三角形は 三平方の定理 の反例としても使われ(斜辺の 2 乗が脚の 2 乗の和にならない)、余弦定理(高校数学) でも平面との違いを見る例として出てくる。
半径 1 の球面上の三角形 XYZ(X = (1,0,0)、Y = (0,1,0)、Z = (0,0,1))。3 つの角はどれも 90° で、和は 270°
平面の上で、1 辺の長さ $1$ の正三角形 $ABC$ をとる。辺 $BC$ を $A$ を中心とする半径 $1$ の円弧に、辺 $CA$ を $B$ を中心とする円弧に、辺 $AB$ を $C$ を中心とする円弧に取り替えた図形(Reuleaux の三角形とよばれる)を考える。3 つの円弧は外側にふくらんでいる。
頂点 $A$ での角を求める。円弧 $AB$ は $C$ を中心とする円の一部なので、$A$ でのこの円弧の接線は半径 $CA$ に垂直である。直線 $AC$ から測ると、$A$ での接線の向きは $90^\circ$ の方向、弦 $AB$ の向きは $60^\circ$ の方向(正三角形の角)なので、接線は弦 $AB$ から外側へ $90^\circ-60^\circ=30^\circ$ 傾いている。同じく円弧 $AC$ の $A$ での接線は、弦 $AC$ から外側へ $30^\circ$ 傾いている。2 本の接線のなす角(図形の内側の角)は
$$
30^\circ+60^\circ+30^\circ=120^\circ
$$
である。3 つの頂点はどれも同じなので、角の和は $3\times120^\circ=360^\circ$ である。
この図形は平面の上にあるが、辺が線分でないので thm-tas-main の仮定を満たさない。辺を曲げてよいなら、内角の和は $180^\circ$ より大きくも小さくもできる(外側にふくらませれば大きく、内側にへこませれば小さくなる)。
prf-tas-main では平行線の性質 thm-tas-parallel の 2 を使った。逆に「どの三角形でも内角の和が $180^\circ$」を仮定すると、「直線外の 1 点を通る平行線はただ 1 本」が証明できる(Legendre による。Hea56 pp. 218–219)。つまり、Euclid の平面幾何のほかの公理のもとで、次の 3 つは互いに同値である。
ex-tas-sphere では内角の和が $180^\circ$ を $90^\circ$ だけ超えた。この超えた分には意味がある。
半径 $R$ の球面の上で、3 辺が大円の弧である三角形の内角を $\alpha,\beta,\gamma$(ラジアン)、面積を $S$ とすると
$$
\alpha+\beta+\gamma-\pi=\frac{S}{R^2}
$$
が成り立つ。特に $\alpha+\beta+\gamma>\pi$ である。
thm-tas-girard は Girard の定理とよばれ、月形(2 本の大円で挟まれた部分)の面積を足し合わせる、高校生が追える証明がある。この記事では証明せず、球面三角形の面積 で証明する。
半径 $R$ の球面の 曲率 を $k=\dfrac1{R^2}$ と定めると、thm-tas-girard は $kS=\alpha+\beta+\gamma-\pi$ と書ける。平面の曲率は $k=0$ で、この式は thm-tas-main(ラジアンで $\alpha+\beta+\gamma=\pi$)になる。曲率が負の一定値 $k<0$ の平面(双曲幾何学)でも同じ式 $kS=\alpha+\beta+\gamma-\pi$ が成り立ち、そこでは内角の和は $\pi$ より小さい(Hit18 定理 5.4.9(p. 103)、定理 7.4.3(p. 160)。この記事では証明しない)。
どの場合も、面積 $S$ が小さい三角形では内角の和は $\pi$ に近い。地球の表面は球面に近いが、校庭に描いた三角形の内角の和は $180^\circ$ と区別できない(数値は 球面三角形の面積 で計算する)。曲率が場所によって変わる曲面では、内角の和の $\pi$ からのずれは、三角形の上で曲率を積分した量になる。これが Gauss–Bonnetの定理 の最も簡単な場合で、Gauss曲率 を学ぶと意味が分かる(この記事では扱わない)。
平面の三角形の周を $A\to B\to C\to A$ と歩くと、各頂点で外角 $180^\circ-(\text{内角})$ だけ向きを変え、出発点に戻ったときに最初と同じ向きを向く。平面では「同じ向き」とは「平行」のことで、向きを変えた量の合計はちょうど $1$ 周 $360^\circ$ になる。これから $3\times180^\circ-(\alpha+\beta+\gamma)=360^\circ$、つまり $\alpha+\beta+\gamma=180^\circ$ が出る。ただし、離れた場所の向きを「平行」で比べる部分に、ここでも平行線公準が入っている。
ex-tas-sphere の三角形の周を、大円に沿ってまっすぐ歩くことにする。$X$ から $Y$ へ向かって歩き出し、$Y$、$Z$、$X$ でそれぞれ左へ $90^\circ$ ずつ曲がると、$X$ で最初と同じ向き($Y$ へ向かう向き)に戻る。曲がった量の合計は $270^\circ$ で、$1$ 周 $360^\circ$ に $90^\circ$ 足りない。この足りない $90^\circ=\dfrac\pi2$ が、三角形の面積 $\dfrac\pi2$ に等しい。
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