$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}}
\newcommand{N}[0]{\mathbb{N}}
\newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}}
\newcommand{R}[0]{\mathbb{R}}
\newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}}
$$
前提知識: 環, イデアル, 写像, 群
環準同型は、二つの環の間の写像のうち、加法・乗法・単位元という環の構造をすべて保つものである。環準同型を通して環どうしを比較し、一方の環で成り立つ計算をもう一方へ運ぶことができる。環準同型の核と像、および核による剰余環と像との関係を述べる準同型定理が、環論全体の基本的な道具である。
定義
本記事で環とは、環 の記事のとおり、加法についてアーベル群をなし、乗法について結合法則を満たして単位元 $1$ をもち、分配法則を満たす集合をいう。乗法の可換性は仮定しない。$1=0$ となる環は零環 $\{0\}$ だけである。
環準同型
$A$, $B$ を環とする。写像 $f\colon A\to B$ が 環準同型(ring homomorphism)であるとは、任意の $a,b\in A$ に対して次の三条件を満たすことをいう。
- $f(a+b)=f(a)+f(b)$(加法を保つ)。
- $f(ab)=f(a)f(b)$(乗法を保つ)。
- $f(1_A)=1_B$(単位元を保つ)。
環準同型 $f$ が単射のとき 単射準同型、全射のとき 全射準同型という。全単射な環準同型を 環同型(ring isomorphism)といい、$A$ から $B$ への環同型が存在するとき $A$ と $B$ は 同型であるといって $A\cong B$ と書く。$A$ から $A$ 自身への環準同型を $A$ の 自己準同型(endomorphism)、$A$ から $A$ 自身への環同型を $A$ の 自己同型(automorphism)という。
条件 3 は条件 1, 2 から従わない(ex-ring-homomorphism-nonunital)。環に単位元を要求しない流儀では条件 3 を課さないが、本記事では単位元をもつ環だけを扱うので、条件 3 を課す。この約束のもとで、環準同型は単元を単元へ送り(prop-ring-homomorphism-elementary)、体から零環でない環への環準同型は必ず単射になる(prop-ring-homomorphism-kernel-image)。
環準同型の核と像
環準同型 $f\colon A\to B$ に対し、
$$
\ker f:=\{a\in A\mid f(a)=0\}=f^{-1}(0),\qquad \operatorname{im} f:=f(A)=\{f(a)\mid a\in A\}
$$
をそれぞれ $f$ の 核(kernel)、像(image)という。像は写像としての像(像(写像))にほかならない。
直感
環準同型は、環の「計算規則」を壊さずに元を送る対応である。$f(a+b)=f(a)+f(b)$ と $f(ab)=f(a)f(b)$ は、$A$ で計算してから $f$ で送っても、$f$ で送ってから $B$ で計算しても同じ結果になることを意味する。したがって $A$ の元の間に成り立つ加法と乗法による等式は、そのまま $B$ の元の間の等式に移る。核は $f$ が $0$ に潰す部分を、像は $f$ が到達する部分を測り、準同型定理は「$A$ を核で割った剰余環は像と同じ環である」と述べる。すなわち、どんな環準同型も「剰余環への全射」と「部分環の包含」の合成に分解される。
基本性質
環準同型の初等的性質
$f\colon A\to B$ を環準同型とする。
- $f(0)=0$、$f(-a)=-f(a)$、$f(a-b)=f(a)-f(b)$ が成り立つ。
- 任意の整数 $n$ と $a\in A$ に対し $f(na)=nf(a)$ が成り立つ。特に $f(n\cdot1_A)=n\cdot1_B$ である。
- 任意の自然数 $n$ と $a\in A$ に対し $f(a^n)=f(a)^n$ が成り立つ。
- $u\in A$ が単元なら $f(u)$ は $B$ の単元であり、$f(u^{-1})=f(u)^{-1}$ が成り立つ。したがって $f$ は単元群の間の群準同型 $A^\times\to B^\times$ を引き起こす。
- $A$ が可換なら $\operatorname{im} f$ は可換である。
加法群の準同型としての性質と単位元の役割
- 条件 1 により $f$ は加法群 $(A,+)$ から $(B,+)$ への群準同型である。$f(0)=f(0+0)=f(0)+f(0)$ の両辺から $f(0)$ を引いて $f(0)=0$ を得る。次に $0=f(0)=f(a+(-a))=f(a)+f(-a)$ から $f(-a)=-f(a)$、さらに $f(a-b)=f(a+(-b))=f(a)-f(b)$ である。
- $n\ge0$ については $n$ に関する数学的帰納法で示す。$n=0$ は 1 による。$f((n+1)a)=f(na+a)=nf(a)+f(a)=(n+1)f(a)$。$n<0$ のときは $na=-(|n|a)$ なので、1 と $n\ge0$ の場合から $f(na)=-|n|f(a)=nf(a)$ である。
- $n$ に関する帰納法で示す。$n=0$ は $a^0=1_A$ と条件 3 による。$f(a^{n+1})=f(a^na)=f(a^n)f(a)=f(a)^nf(a)=f(a)^{n+1}$。
- $uu^{-1}=u^{-1}u=1_A$ に $f$ を施し、条件 2, 3 を使うと $f(u)f(u^{-1})=f(u^{-1})f(u)=f(1_A)=1_B$ である。よって $f(u)$ は単元で、その逆元は $f(u^{-1})$ である。$f$ が $A^\times$ を $B^\times$ に写し積を保つので、制限 $A^\times\to B^\times$ は群準同型である。
- $a,b\in A$ に対し $f(a)f(b)=f(ab)=f(ba)=f(b)f(a)$ である。
4 では条件 3 を本質的に使っている。単位元を保たない写像は、条件 1, 2 を満たしても単元を単元へ送るとは限らない(ex-ring-homomorphism-nonunital)。
核と像の基本性質
$f\colon A\to B$ を環準同型とする。
- $\ker f$ は $A$ の両側イデアルである。
- $\operatorname{im} f$ は $B$ の部分環($1_B$ を含む)である。
- $f$ が単射であることと $\ker f=\{0\}$ であることは同値である。
- $\ker f=A$ であることと $B$ が零環であることは同値である。
- $A$ が体(または斜体)で $B$ が零環でなければ、$f$ は単射である。
核がイデアルであることと単射性の判定
- $f(0)=0$ より $0\in\ker f$ である。$a,b\in\ker f$ なら $f(a-b)=f(a)-f(b)=0$ なので $a-b\in\ker f$ であり、$\ker f$ は加法群 $A$ の部分群である。$a\in\ker f$、$r\in A$ に対し $f(ra)=f(r)f(a)=f(r)\cdot0=0$、$f(ar)=f(a)f(r)=0\cdot f(r)=0$ なので $ra,ar\in\ker f$ である。よって $\ker f$ は両側イデアルである。
- $1_B=f(1_A)\in\operatorname{im} f$ である。$f(a),f(b)\in\operatorname{im} f$ に対し $f(a)-f(b)=f(a-b)$、$f(a)f(b)=f(ab)$ はともに $\operatorname{im} f$ に属する。よって $\operatorname{im} f$ は加法について部分群、乗法について閉じ、$1_B$ を含むので $B$ の部分環である。
- $f$ が単射なら、$f(a)=0=f(0)$ から $a=0$ なので $\ker f=\{0\}$ である。逆に $\ker f=\{0\}$ とし、$f(a)=f(b)$ とすると $f(a-b)=f(a)-f(b)=0$ より $a-b\in\ker f=\{0\}$、すなわち $a=b$ である。
- $\ker f=A$ なら $1_B=f(1_A)=0_B$ であり、任意の $y\in B$ に対し $y=y\cdot1_B=y\cdot0_B=0_B$ となるので $B$ は零環である。逆に $B$ が零環なら $f(a)=0$ がすべての $a$ で成り立つ。
- $B$ が零環でないから $1_B\ne0_B$ であり、$f(1_A)=1_B\ne0$ なので $1_A\notin\ker f$ である。もし $0\ne x\in\ker f$ が存在すれば、$A$ が体(斜体)なので $x$ は単元であり、1 により $1_A=x^{-1}x\in\ker f$ となって矛盾する。よって $\ker f=\{0\}$ であり、3 により $f$ は単射である。
5 の証明は、体(斜体)のイデアルが $\{0\}$ と全体しかないことを示している。
合成と逆写像
- 任意の環 $A$ に対し恒等写像 $\mathrm{id}_A\colon A\to A$ は環準同型である。
- $f\colon A\to B$、$g\colon B\to C$ が環準同型なら、写像の合成 $g\circ f\colon A\to C$ も環準同型である。
- $f\colon A\to B$ が全単射な環準同型なら、逆写像 $f^{-1}\colon B\to A$ も環準同型である。したがって環同型の逆写像は環同型であり、環の間の関係 $A\cong B$ は同値関係である。
逆写像が演算を保つこと
1 は明らかである。2 は $g(f(a+b))=g(f(a)+f(b))=g(f(a))+g(f(b))$、$g(f(ab))=g(f(a)f(b))=g(f(a))g(f(b))$、$g(f(1_A))=g(1_B)=1_C$ による。
3 を示す。$x,y\in B$ をとり、$a:=f^{-1}(x)$、$b:=f^{-1}(y)$ とおく。$f(a+b)=f(a)+f(b)=x+y$ なので $f^{-1}(x+y)=a+b=f^{-1}(x)+f^{-1}(y)$ である。同様に $f(ab)=f(a)f(b)=xy$ から $f^{-1}(xy)=ab=f^{-1}(x)f^{-1}(y)$ であり、$f(1_A)=1_B$ から $f^{-1}(1_B)=1_A$ である。よって $f^{-1}$ は環準同型である。
$\cong$ が同値関係であることは、反射律が 1、対称律が 3、推移律が 2(環同型の合成は全単射な環準同型)から従う。
環と環準同型は圏をなす(環の圏)。その圏における同型、すなわち両側の逆射をもつ射は、3 により全単射な環準同型にほかならない。
例と反例
包含写像と標準的な全射
- 部分環 $S\subset A$ の包含写像 $S\hookrightarrow A$ は単射準同型である。たとえば $\mathbb{Z}\hookrightarrow\mathbb{Q}\hookrightarrow\mathbb{R}\hookrightarrow\mathbb{C}$ はいずれも単射準同型である。
- $I$ を $A$ の両側イデアルとする。剰余環 $A/I$ は剰余類 $a+I$ の全体に $(a+I)+(b+I):=(a+b)+I$、$(a+I)(b+I):=ab+I$ で演算を定めた環である(演算が代表元のとり方によらないことは 環 の記事の命題「剰余環の乗法の well-definedness」で示されている)。標準射影 $\pi\colon A\to A/I$、$a\mapsto a+I$ は演算の定め方からただちに全射準同型であり、$a+I=0+I$ と $a\in I$ が同値なので $\ker\pi=I$ である。したがって $A$ の両側イデアルは、すべてある環準同型の核として現れる。たとえば $\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$、$a\mapsto a+n\mathbb{Z}$ は核 $n\mathbb{Z}$ の全射準同型である。
代入準同型
$A$, $B$ を可換環、$\varphi\colon A\to B$ を環準同型、$b\in B$ とする。多項式環 $A[X]$ から $B$ への写像
$$
\operatorname{ev}_b\colon A[X]\to B,\qquad \sum_i a_iX^i\longmapsto\sum_i\varphi(a_i)b^i
$$
は環準同型である(代入準同型または評価準同型)。実際、加法を保つことは係数ごとの加法から明らかで、$\operatorname{ev}_b(1)=\varphi(1)=1$ である。乗法については、$\bigl(\sum_ia_iX^i\bigr)\bigl(\sum_jc_jX^j\bigr)=\sum_k\bigl(\sum_{i+j=k}a_ic_j\bigr)X^k$ の像が
$$
\sum_k\sum_{i+j=k}\varphi(a_i)\varphi(c_j)b^{i+j}=\Bigl(\sum_i\varphi(a_i)b^i\Bigr)\Bigl(\sum_j\varphi(c_j)b^j\Bigr)
$$
に等しい。最後の等号で $B$ の可換性($\varphi(c_j)b^i=b^i\varphi(c_j)$)を使った。
たとえば $\varphi$ を包含 $\mathbb{R}\hookrightarrow\mathbb{C}$、$b=i$ とすると $\operatorname{ev}_i\colon\mathbb{R}[X]\to\mathbb{C}$、$p(X)\mapsto p(i)$ は全射準同型である($a+bi=\operatorname{ev}_i(a+bX)$)。その核が $X^2+1$ の生成するイデアルであることは ex-ring-homomorphism-quotient-examples で示す。また $\mathbb{Z}[X]\to\mathbb{Z}$、$p\mapsto p(0)$ は定数項をとる全射準同型で、核は $X$ の生成するイデアル $(X)$ である。
整数環からの環準同型
- 任意の環 $A$ に対し、環準同型 $\mathbb{Z}\to A$ はただ一つ存在し、$n\mapsto n\cdot1_A$ で与えられる。特に $\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}$ の環準同型は恒等写像だけである。
- $m,n\ge1$ とする。環準同型 $\mathbb{Z}/m\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ が存在することと $n\mid m$ は同値であり、存在すれば $a+m\mathbb{Z}\mapsto a+n\mathbb{Z}$ の一つだけである。
- $n\ge2$ のとき環準同型 $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}$ は存在しない。また環準同型 $\mathbb{Q}\to\mathbb{Z}$ も存在しない。
単位元の像が全体を決めること
- まず $\chi(n):=n\cdot1_A$ が環準同型であることを示す。加法群 $(A,+)$ における整数倍の性質から $\chi(m+n)=(m+n)\cdot1_A=m\cdot1_A+n\cdot1_A$ である。乗法については、$m,n\ge0$ のとき分配法則を繰り返して $(m\cdot1_A)(n\cdot1_A)=\sum_{i=1}^m\sum_{j=1}^n1_A\cdot1_A=mn\cdot1_A$ であり、負の場合は $(-x)y=x(-y)=-(xy)$ により符号を処理すれば $(m\cdot1_A)(n\cdot1_A)=mn\cdot1_A$ が任意の整数 $m,n$ で成り立つ。$\chi(1)=1_A$ である。一意性を示す。$f\colon\mathbb{Z}\to A$ を環準同型とすると、$f(1)=1_A$ であり、prop-ring-homomorphism-elementary の 2 により $f(n)=f(n\cdot1)=n\cdot f(1)=n\cdot1_A=\chi(n)$ である。$A=\mathbb{Z}$ のとき $\chi$ は恒等写像である。
- $f\colon\mathbb{Z}/m\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ が環準同型なら、$\bar1:=1+m\mathbb{Z}$ は $m\cdot\bar1=0$ を満たすので、prop-ring-homomorphism-elementary の 2 により $0=f(m\cdot\bar1)=m\cdot f(\bar1)=m\cdot(1+n\mathbb{Z})=m+n\mathbb{Z}$ である。よって $n\mid m$ である。逆に $n\mid m$ なら $m\mathbb{Z}\subset n\mathbb{Z}$ なので、$a+m\mathbb{Z}\mapsto a+n\mathbb{Z}$ は代表元のとり方によらず定まり($a-a'\in m\mathbb{Z}\subset n\mathbb{Z}$)、演算と単位元を保つ。一意性は、$\mathbb{Z}/m\mathbb{Z}$ の元がすべて $a\cdot\bar1$ の形であることと $f(a\cdot\bar1)=a\cdot f(\bar1)=a\cdot(1+n\mathbb{Z})$ による。
- $f\colon\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}$ が環準同型なら、2 と同じ計算で $0=f(n\cdot\bar1)=n\cdot1=n$ となり $n\ge2$ に反する。$g\colon\mathbb{Q}\to\mathbb{Z}$ が環準同型なら、$2\cdot g(1/2)=g(2)\,g(1/2)=g(1)=1$ となる整数 $g(1/2)$ が存在することになり矛盾する。
1 は $\mathbb{Z}$ が環の圏の始対象であることを述べている。$\chi$ の核は $\mathbb{Z}$ のイデアルなので $k\mathbb{Z}$($k\ge0$)の形であり、この $k$ が $A$ の標数である。
実数体と複素数体の自己同型
- 環準同型 $\mathbb{R}\to\mathbb{R}$ は恒等写像だけである。特に $\mathbb{R}$ の自己同型は恒等写像のみである。
- 複素共役 $z\mapsto\bar z$ は $\mathbb{C}$ の自己同型である。$\mathbb{C}$ の自己同型で $\mathbb{R}$ の各元を固定するものは、恒等写像と複素共役の 2 つだけである。
- $\mathbb{C}$ の連続写像である自己同型は、恒等写像と複素共役の 2 つだけである。
有理数の固定と順序の保存
- $f\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$ を環準同型とする。prop-ring-homomorphism-from-integers の 1 により $f$ は $\mathbb{Z}$ 上で恒等であり、有理数 $q=m/n$($n\ge1$)に対しては $n\,f(q)=f(nq)=f(m)=m$ から $f(q)=q$ である。$\mathbb{R}$ は体なので、prop-ring-homomorphism-kernel-image の 5 により $f$ は単射である。$x>0$ なら $y:=\sqrt{x}\ne0$ について $x=y^2$ であり、$f(x)=f(y)^2$ かつ単射性から $f(y)\ne0$ なので $f(x)>0$ である。したがって $x< y$ のとき $f(y)-f(x)=f(y-x)>0$、すなわち $f$ は順序を保つ。いま $f(x)\ne x$ となる $x$ があったとする。$f(x)< x$ なら有理数の稠密性により $f(x)< q< x$ となる有理数 $q$ がとれ、$q< x$ から $q=f(q)< f(x)$ となって矛盾する。$x< f(x)$ なら $x< q< f(x)$ となる有理数 $q$ をとれば $f(x)< f(q)=q$ となって矛盾する。よって $f$ は恒等写像である。
- 複素共役は $\overline{z+w}=\bar z+\bar w$、$\overline{zw}=\bar z\,\bar w$、$\bar1=1$ を満たし、$\bar{\bar z}=z$ より全単射なので自己同型である。次に $f$ を $\mathbb{C}$ の自己同型で $\mathbb{R}$ の各元を固定するものとする。$f(i)^2=f(i^2)=f(-1)=-1$ なので $f(i)$ は $z^2+1=(z-i)(z+i)=0$ の解であり、$\mathbb{C}$ が体(整域)であることから $f(i)\in\{i,-i\}$ である。任意の $a,b\in\mathbb{R}$ に対し $f(a+bi)=f(a)+f(b)f(i)=a+b\,f(i)$ なので、$f(i)=i$ なら $f$ は恒等写像、$f(i)=-i$ なら $f$ は複素共役である。
- $f$ を連続な自己同型とする。1 の前半と同じ議論で $f$ は $\mathbb{Q}$ 上恒等であり、$\mathbb{Q}$ は $\mathbb{R}$ で稠密(稠密集合)、$f$ と恒等写像はともに連続なので、$f$ は $\mathbb{R}$ 上恒等である。よって 2 に帰着する。
3 の連続性の仮定は落とせない。選択公理のもとで、$\mathbb{C}$ には $\mathbb{R}$ を保たない不連続な自己同型が非可算個存在することが知られている(Yal66)。この事実は本記事では証明しない。
反例:単位元を保たない写像
次の写像は加法と乗法を保つが、単位元を保たないので環準同型ではない。破る含意は「加法と乗法を保つ写像は環準同型である」である。
- $\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}$、$a\mapsto(a,0)$。加法と乗法は成分ごとに定まるので保たれるが、$1\mapsto(1,0)\ne(1,1)$ である。しかも $(1,0)$ は $\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}$ の単元ではない($(1,0)(x,y)=(x,0)\ne(1,1)$)ので、prop-ring-homomorphism-elementary の 4 も成り立たない。
- 零環でない $B$ への零写像 $A\to B$、$a\mapsto0$。$1_A\mapsto0\ne1_B$ である。
- $\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$、$a\mapsto4a$。加法は保たれ、$16\equiv4\pmod6$ から $(4a)(4b)=16ab=4ab$ なので乗法も保たれるが、$1\mapsto4\ne1$ である。像 $\{0,2,4\}$ は $4$ を単位元とする環をなすが、$1$ を含まないので $\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$ の部分環ではない。
反例:片方の演算だけを保つ写像
- $\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}$、$a\mapsto2a$ は加法群の準同型だが、$2(1\cdot1)=2\ne4=(2\cdot1)(2\cdot1)$ なので乗法を保たない。満たす性質は「加法を保つ」、満たさない性質は「乗法を保つ」であり、破る含意は「加法群の準同型は環準同型である」である。
- $\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}$、$a\mapsto|a|$ は乗法と単位元を保つが、$|1+(-1)|=0\ne2=|1|+|-1|$ なので加法を保たない。破る含意は「乗法と単位元を保つ写像は環準同型である」である。
Frobenius準同型
$A$ を可換環、$p$ を素数とし、$p\cdot1_A=0$ とする($A$ が零環でなければ、これは $A$ の標数が $p$ であることと同値である)。このとき $F\colon A\to A$、$a\mapsto a^p$ は環準同型である。乗法と単位元を保つことは可換性から明らかで、加法を保つことは二項定理と、$0< k< p$ のとき二項係数 $\binom pk$ が $p$ で割り切れることから従う。この写像を Frobenius 写像といい、標数 $p$ の環の理論の中心にある。加法を保つことの証明は本記事では行わず、標数 の記事の命題「標数 $p$ の可換環の Frobenius 準同型」に譲る(教科書では Lan02 Chapter V §5)。
準同型定理
以下、$A$ の両側イデアル $I$ に対する剰余環 $A/I$ と標準射影 $\pi_I\colon A\to A/I$ は ex-ring-homomorphism-basic の 2 のとおりとする。準同型定理は、環準同型を核と像で記述する定理群であり、言明は 環 の記事にもあるが、証明は本記事に置く。
環の第1同型定理
$f\colon A\to B$ を環準同型とする。
- $J$ を $J\subset\ker f$ なる $A$ の両側イデアルとすると、$\bar f\colon A/J\to B$、$a+J\mapsto f(a)$ は代表元のとり方によらず定まる環準同型であり、$f=\bar f\circ\pi_J$ を満たす環準同型 $A/J\to B$ は $\bar f$ だけである。さらに $\ker\bar f=\{a+J\mid a\in\ker f\}$、$\operatorname{im}\bar f=\operatorname{im} f$ である。
- $\bar f\colon A/\ker f\to\operatorname{im} f$、$a+\ker f\mapsto f(a)$ は環同型である。すなわち
$$
A/\ker f\cong\operatorname{im} f.
$$ - 任意の環準同型 $f$ は、全射準同型 $\pi_{\ker f}\colon A\to A/\ker f$、環同型 $\bar f\colon A/\ker f\to\operatorname{im} f$、単射準同型(包含)$\operatorname{im} f\hookrightarrow B$ の合成に分解される。
核による剰余環から像への同型
- $a+J=a'+J$ なら $a-a'\in J\subset\ker f$ なので $f(a)-f(a')=f(a-a')=0$、すなわち $f(a)=f(a')$ である。よって $\bar f(a+J):=f(a)$ は代表元によらず定まる。剰余環の演算の定義から
$$
\bar f((a+J)+(b+J))=\bar f((a+b)+J)=f(a+b)=f(a)+f(b)=\bar f(a+J)+\bar f(b+J),
$$
同様に $\bar f((a+J)(b+J))=f(ab)=f(a)f(b)$、$\bar f(1+J)=f(1)=1$ なので $\bar f$ は環準同型であり、定義から $\bar f(\pi_J(a))=f(a)$ である。$g\colon A/J\to B$ が $g\circ\pi_J=f$ を満たせば、$g(a+J)=g(\pi_J(a))=f(a)=\bar f(a+J)$ なので $g=\bar f$ である。$\bar f(a+J)=0$ と $f(a)=0$ は同値なので $\ker\bar f=\{a+J\mid a\in\ker f\}$ であり、$\bar f(A/J)=f(A)$ である。 - $J=\ker f$ として 1 を適用すると、$\bar f\colon A/\ker f\to B$ は環準同型で、像は $\operatorname{im} f$、核は $\{a+\ker f\mid a\in\ker f\}=\{0+\ker f\}$ である。よって prop-ring-homomorphism-kernel-image の 3 により $\bar f$ は単射であり、終域を $\operatorname{im} f$ に制限すれば全単射な環準同型、すなわち環同型である。
- $a\in A$ に対し、包含と $\bar f$ と $\pi_{\ker f}$ の合成は $a\mapsto a+\ker f\mapsto f(a)\mapsto f(a)$ であり、$f$ に一致する。
1 は、剰余環 $A/J$ の普遍性である。「$J$ を潰す環準同型」は「$A/J$ からの環準同型」と一対一に対応する。
第1同型定理による剰余環の計算
- $\mathbb{R}[X]/(X^2+1)\cong\mathbb{C}$ である。ex-ring-homomorphism-evaluation の全射準同型 $\operatorname{ev}_i\colon\mathbb{R}[X]\to\mathbb{C}$ の核を求める。$X^2+1\in\ker\operatorname{ev}_i$ なので $(X^2+1)\subset\ker\operatorname{ev}_i$ である。逆に $p\in\ker\operatorname{ev}_i$ とし、$X^2+1$ がモニック多項式であることから多項式の除法の原理で $p=(X^2+1)q+(aX+b)$($q\in\mathbb{R}[X]$、$a,b\in\mathbb{R}$)と書く。$X=i$ を代入すると $0=p(i)=ai+b$ であり、$a,b$ は実数なので $a=b=0$ である。よって $p\in(X^2+1)$ となり $\ker\operatorname{ev}_i=(X^2+1)$ である。thm-ring-homomorphism-first の 2 から $\mathbb{R}[X]/(X^2+1)\cong\mathbb{C}$ を得る。
- 同様に、$\mathbb{Z}[X]\to\mathbb{Z}$、$p\mapsto p(0)$ の核は $(X)$ なので $\mathbb{Z}[X]/(X)\cong\mathbb{Z}$ である。実際、$p(0)=0$ は定数項が $0$ であることと同値であり、それは $p$ が $X$ で割り切れることと同値である。
環の第2同型定理
$S$ を環 $A$ の部分環、$I$ を $A$ の両側イデアルとする。このとき $S+I:=\{s+x\mid s\in S,\ x\in I\}$ は $A$ の部分環、$I$ は $S+I$ の両側イデアル、$S\cap I$ は $S$ の両側イデアルであり、
$$
S/(S\cap I)\cong(S+I)/I
$$
が成り立つ。
標準射影の部分環への制限
$1=1+0\in S+I$ である。$s+x,t+y\in S+I$ に対し $(s+x)-(t+y)=(s-t)+(x-y)\in S+I$ であり、
$$
(s+x)(t+y)=st+(sy+xt+xy)
$$
で $st\in S$、$sy+xt+xy\in I$($I$ が両側イデアル)なので $(s+x)(t+y)\in S+I$ である。よって $S+I$ は部分環である。$I\subset S+I$($x=0+x$)であり、$I$ は $A$ の両側イデアルなので、$S+I$ の元との積についても閉じ、$S+I$ の両側イデアルである。$S\cap I$ は加法について $S$ の部分群であり、$s\in S$、$x\in S\cap I$ に対し $sx,xs$ は $S$ にも $I$ にも属するので、$S$ の両側イデアルである。
標準射影 $\pi_I\colon S+I\to(S+I)/I$ を $S$ に制限した写像 $\phi\colon S\to(S+I)/I$、$s\mapsto s+I$ を考える。制限は環準同型である。$\phi$ は全射である。実際、$(S+I)/I$ の任意の元 $(s+x)+I$($s\in S$、$x\in I$)は $x\in I$ より $s+I=\phi(s)$ に等しい。$\ker\phi=\{s\in S\mid s\in I\}=S\cap I$ である。thm-ring-homomorphism-first の 2 により $S/(S\cap I)\cong(S+I)/I$ である。
環の第3同型定理
$I\subset J$ を環 $A$ の両側イデアルとする。このとき $J/I:=\{a+I\mid a\in J\}$ は $A/I$ の両側イデアルであり、
$$
(A/I)/(J/I)\cong A/J
$$
が成り立つ。
剰余環の間の標準的な全射
写像 $\psi\colon A/I\to A/J$、$a+I\mapsto a+J$ を考える。$a+I=a'+I$ なら $a-a'\in I\subset J$ なので $a+J=a'+J$ であり、$\psi$ は代表元によらず定まる。剰余環の演算の定義から $\psi$ は加法・乗法・単位元を保つ。$\psi$ は明らかに全射である。$\psi(a+I)=0+J$ と $a\in J$ は同値なので $\ker\psi=\{a+I\mid a\in J\}=J/I$ であり、prop-ring-homomorphism-kernel-image の 1 により $J/I$ は $A/I$ の両側イデアルである。thm-ring-homomorphism-first の 2 により $(A/I)/(J/I)\cong A/J$ である。
イデアルの対応定理
$f\colon A\to B$ を全射準同型、$K:=\ker f$ とする。
- $J\mapsto f(J)$ は、$K$ を含む $A$ の両側イデアル全体から $B$ の両側イデアル全体への全単射であり、逆写像は $J'\mapsto f^{-1}(J')$ である。この対応は包含関係を保つ。
- 同じ対応により、$K$ を含む $A$ の部分環全体と $B$ の部分環全体も一対一に対応する。
- $K$ を含む両側イデアル $J$ に対し $A/J\cong B/f(J)$ である。
特に $f=\pi_I\colon A\to A/I$ にとると、$A/I$ の両側イデアルは $I$ を含む $A$ の両側イデアル $J$ を用いて $J/I$ と一意に書け、$(A/I)/(J/I)\cong A/J$ である。
逆像と像の計算
- $J'$ を $B$ の両側イデアルとする。$f(0)=0\in J'$ より $0\in f^{-1}(J')$、$a,b\in f^{-1}(J')$ なら $f(a-b)=f(a)-f(b)\in J'$、$r\in A$ なら $f(ra)=f(r)f(a)\in J'$、$f(ar)=f(a)f(r)\in J'$ なので、$f^{-1}(J')$ は $A$ の両側イデアルである。$K=f^{-1}(0)\subset f^{-1}(J')$ である。次に $J$ を $K$ を含む $A$ の両側イデアルとする。$f(a)-f(b)=f(a-b)\in f(J)$、また任意の $y\in B$ は全射性により $y=f(r)$ と書け、$y\,f(a)=f(ra)\in f(J)$、$f(a)\,y=f(ar)\in f(J)$ なので、$f(J)$ は $B$ の両側イデアルである。
二つの対応が互いに逆であることを示す。$f$ が全射なので $f(f^{-1}(J'))=J'$ である。$f^{-1}(f(J))\supset J$ は明らかである。逆に $a\in f^{-1}(f(J))$ なら $f(a)=f(j)$ となる $j\in J$ があり、$a-j\in\ker f=K\subset J$ なので $a=j+(a-j)\in J$ である。よって $f^{-1}(f(J))=J$ である。$J_1\subset J_2$ なら $f(J_1)\subset f(J_2)$、$J_1'\subset J_2'$ なら $f^{-1}(J_1')\subset f^{-1}(J_2')$ は写像の一般的性質である。 - 部分環についても同じ議論が通る。$S'$ が $B$ の部分環なら $f^{-1}(S')$ は $1_A$ を含み($f(1_A)=1_B\in S'$)、差と積について閉じ、$K$ を含む。$S$ が $K$ を含む $A$ の部分環なら $f(S)$ は $1_B$ を含み差と積について閉じる。$f(f^{-1}(S'))=S'$ と $f^{-1}(f(S))=S$ は 1 と同じ計算による(後者で $K\subset S$ を使う)。
- 合成 $A\xrightarrow{f}B\xrightarrow{\pi_{f(J)}}B/f(J)$ は全射準同型の合成なので全射準同型であり、その核は $f^{-1}(f(J))=J$ である。thm-ring-homomorphism-first の 2 により $A/J\cong B/f(J)$ である。
最後の主張は、$f=\pi_I$、$K=I$ の場合であり、$\pi_I(J)=J/I$ である。
たとえば $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$($n\ge1$)の両側イデアルは、$n\mathbb{Z}$ を含む $\mathbb{Z}$ のイデアル $d\mathbb{Z}$、すなわち $n$ の正の約数 $d$ に対する $d\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ で尽くされ、$(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})/(d\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}/d\mathbb{Z}$ である。
補足
単位元を課さない流儀との違い
環に単位元を要求しない流儀(rng)では、環準同型は加法と乗法を保つ写像と定義され、ex-ring-homomorphism-nonunital の写像もすべて準同型になる。その流儀ではイデアルは部分環の一種であるが、本記事の流儀では $1$ を含まない真のイデアルは部分環ではない。文献を読むときは、単位元と単位元を保つ条件がどちらの流儀で扱われているかを確認する必要がある(DF04 §7.1・§7.3 は環に単位元を要求せず、環準同型にも $f(1)=1$ を課さない。単位元をもつ環は追加の条件として扱われる)。可換環論の教科書 AM69 Chapter 1 では、環は単位元をもち、環準同型は単位元を保つと約束されている。
環の圏における単射・全射とモノ射・エピ射
環の圏では、環準同型がモノ射であることと単射であることは同値である。単射準同型が左簡約可能であることは明らかである。逆に $f\colon A\to B$ が単射でなければ、$a\ne b$ かつ $f(a)=f(b)$ なる $a,b\in A$ がとれる。$\alpha,\beta\colon\mathbb{Z}[X]\to A$ を $X\mapsto a$、$X\mapsto b$ で定まる代入準同型とすると($\mathbb{Z}\to A$ の像 $\{n\cdot1_A\}$ は $A$ の中心に含まれ、$a$ の冪どうし、$b$ の冪どうしは可換なので、$A$ が非可換でも ex-ring-homomorphism-evaluation の計算がそのまま通る)、$\alpha\ne\beta$ だが $f\circ\alpha=f\circ\beta$ であり、$f$ はモノ射でない。
一方、エピ射と全射準同型は一致しない。包含 $\iota\colon\mathbb{Z}\hookrightarrow\mathbb{Q}$ は全射でないがエピ射である。実際、$g,h\colon\mathbb{Q}\to C$ を $g\circ\iota=h\circ\iota$ なる環準同型とすると、$n\ge1$ に対し $n$ は $\mathbb{Q}$ の単元なので prop-ring-homomorphism-elementary の 4 により $g(1/n)=g(n)^{-1}=h(n)^{-1}=h(1/n)$ であり、$g(m/n)=g(m)g(1/n)=h(m)h(1/n)=h(m/n)$ となって $g=h$ である。破る含意は「エピ射ならば全射」であり、満たす性質は「エピ射」、満たさない性質は「全射」である。
関連項目
- 前提: 環, イデアル, 写像, 群
- 比較: 準同型, 線形写像, 群準同型
- 直後に読む: 剰余環, 同型, 可換環, 部分環
- 発展: 標数, 局所化, 加群, 圏, Galois拡大