Holditchの定理

同義語:Holditch's theorem

概要

Holditchの定理(Holditch's theorem)とは、凸な図形の周を反時計回りに 1 周する滑らかな閉曲線 $C$ の上を、長さ $L$ の弦が両端を $C$ に置いたまますべって 1 周するとき、弦を長さ $p$ と $q$($p+q=L$)に分ける点が描く閉曲線 $C'$ と $C$ の間の部分の面積が $\pi pq$ になるという定理である。弦の両端がそれぞれ $C$ を 1 周して弦の向きが単調に 1 回転し、$C'$ が自分と交わらず反時計回りであることを仮定する。面積は $C$ の形にも大きさにもよらず、円では $C'$ は半径 $\sqrt{R^2-pq}$ の円である。弦の上の点が描く曲線の符号つき面積が点の位置の 2 次式になり、両端の点ではもとの面積にもどることから従う。凹みのある曲線では成り立たない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Mamikonの定理, 媒介変数表示の曲線が囲む面積, 方べきの定理(高校数学)

高校での出発点:円の中で弦をすべらせる

円の周の上に長さ $L$ の棒の両端を置き、両端が周の上を離れないようにすべらせて 1 周させる。棒の上の 1 点は、どんな曲線を描くだろうか。

円の中で長さ 1.6 の弦をすべらせる

原点 $O$ を中心とする半径 $2$ の円に、長さ $1.6$ の弦 $XY$ を置く。弦の上で $XZ=0.6$、$ZY=1.0$ となる点 $Z$ をとる(弦を $0.6:1.0$ に分ける点)。
(1) 弦の中点を $M$ とすると、$OM\perp XY$ なので、三平方の定理により $OM^2=OX^2-XM^2=4-0.8^2=3.36$ である。$Z$ は $M$ から弦に沿って $0.8-0.6=0.2$ だけ離れているので
$$ OZ^2=OM^2+MZ^2=3.36+0.04=3.4 $$
である。この値は弦の位置によらないので、弦を 1 周すべらせると、$Z$ は半径 $\sqrt{3.4}$ の円を描く。
(2) 2 つの円の間の帯の面積は
$$ \pi\cdot2^2-\pi\cdot3.4=0.6\pi=\pi\cdot0.6\cdot1.0 $$
で、弦を分けた 2 つの長さの積に $\pi$ を掛けたものになった。
(3) 方べきの定理(方べきの定理(高校数学))を使うと、(1) は一度に分かる。円の内部の点 $Z$ を通る弦 $XY$ について $ZX\cdot ZY=R^2-OZ^2$ なので、$OZ^2=R^2-pq$($p=ZX$、$q=ZY$)である。帯の面積は $\pi R^2-\pi(R^2-pq)=\pi pq$ で、円の半径 $R$ によらない。

円の半径によらないのは、方べきの式で $R^2$ が打ち消し合うからである。円でない曲線ではどうなるか。

楕円の中で弦をすべらせる

楕円 $(3\cos t,\ 2\sin t)$ の周の上に、長さ $1.6$ の弦の両端を置いて 1 周すべらせ、弦を $0.6:1.0$ に分ける点の描く曲線 $C'$ を数値で求める。楕円の面積 $6\pi=18.8495\ldots$ から $C'$ の囲む面積を引くと $1.88495\ldots$ になる。これは $\pi\cdot0.6\cdot1.0=0.6\pi=1.88495\ldots$ と一致する。

半径 2 の円の中で長さ 1.6 の弦を何本か描いたもので、弦を 0.6 対 1.0 に分ける点は小さい同心円を描き、間の帯を色で塗ってある 半径 2 の円の中で長さ 1.6 の弦を何本か描いたもので、弦を 0.6 対 1.0 に分ける点は小さい同心円を描き、間の帯を色で塗ってある
楕円の中で長さ 1.6 の弦を何本か描いたもので、弦を 0.6 対 1.0 に分ける点の描く曲線と楕円の間の帯を色で塗ってある 楕円の中で長さ 1.6 の弦を何本か描いたもので、弦を 0.6 対 1.0 に分ける点の描く曲線と楕円の間の帯を色で塗ってある

円でも楕円でも、帯の面積は $\pi pq$ だった。この記事で答える問いは次の 3 つである。

  1. 滑らかな凸の閉曲線なら、形によらず帯の面積は $\pi pq$ か。→ thm-hol-main
  2. なぜ曲線の形が効かないのか。→ lem-hol-quadratic
  3. どんな場合に成り立たないか。→ ex-hol-cx-long、ex-hol-cx-nonconvex
    高校の計算この記事の言葉大学の言葉
    方べきの定理 $ZX\cdot ZY=R^2-OZ^2$帯の面積 $\pi pq$Holditch の定理
    $\frac12\int(xy'-yx')\,dt$ で面積を求める符号つき面積 $S[X]$線積分と Green の定理
    弦の上の点の位置 $s$$S[Z_s]$ は $s$ の 2 次式面積の 2 次の多項式性

言葉の準備:外積と符号つき面積

Mamikonの定理 と同じ道具を使う。平面のベクトル $\vec u=(u_1,u_2)$、$\vec v=(v_1,v_2)$ の 外積 を $\vec u\times\vec v=u_1v_2-u_2v_1$ と書く。成分で計算すると、$\vec v\times\vec u=-\vec u\times\vec v$(特に $\vec u\times\vec u=0$)、和と定数倍について分配法則が成り立ち、積の微分 $(\vec u\times\vec v)'=\vec u\,'\times\vec v+\vec u\times\vec v\,'$ が成り立つ(Mamikonの定理 の命題「外積の性質」)。
閉曲線 $X(t)$($\alpha\le t\le\beta$、$X(\beta)=X(\alpha)$)の 符号つき面積 を
$$ S[X]=\frac12\int_\alpha^\beta X(t)\times X'(t)\,dt=\frac12\int_\alpha^\beta\bigl(x\,y'-y\,x'\bigr)\,dt $$
と書く(折れ曲がる点があれば区間を分けて足す)。凸な図形の周を反時計回りに 1 周する閉曲線では、$S[X]$ はその図形の面積である(媒介変数表示の曲線が囲む面積 の定理「閉曲線が囲む面積」。たどり始めの点を左端にとり、縦の線分を含む図形では座標軸を少し回してから当てはめる。どちらでも $S[X]$ は変わらない)。自分と交わらない一般の閉曲線では、反時計回りなら $S[X]$、時計回りなら $-S[X]$ が囲む部分の面積である(Green の定理の特別な場合。この記事では証明しない。Mamikonの定理 の注意「一般の閉曲線の面積(この記事では証明しない)」)。

弦がすべる曲線と Holditch の曲線

$C\colon P(\sigma)$($0\le\sigma\le2\pi$)を、凸な図形 $D$ の周を反時計回りに 1 周する滑らかな閉曲線とする($P$ は $2\pi$ ごとにくり返すようにのばしておく)。$L>0$ とし、次の 3 つを仮定する。
(R1) 区間 $[\alpha,\beta]$ 上の、連続で単調に増加し $\sigma_1(\beta)=\sigma_1(\alpha)+2\pi$、$\sigma_2(\beta)=\sigma_2(\alpha)+2\pi$ を満たす関数 $\sigma_1(t)$、$\sigma_2(t)$ があって、$X(t)=P(\sigma_1(t))$、$Y(t)=P(\sigma_2(t))$ とおくと、いつも $XY=L$ である。$\sigma_1$、$\sigma_2$ は有限個に分けた各部分で微分可能で、導関数は連続とする。
(R2) 弦の向きの単位ベクトル $\vec u(t)=\dfrac{Y(t)-X(t)}L$ を $\vec u=(\cos\varphi,\sin\varphi)$ と書くとき、角 $\varphi(t)$ を連続にとれて、$\varphi$ は単調に増加し、$\varphi(\beta)=\varphi(\alpha)+2\pi$ である。
(R3) $p\ge0$、$q\ge0$、$p+q=L$ とし、弦を $p:q$ に分ける点 $Z(t)=X(t)+p\,\vec u(t)$ が描く閉曲線を $C'$ とする。
条件 (i) は「弦の両端 $X$、$Y$ がどちらも $C$ を反時計回りにちょうど 1 周する」こと、条件 (ii) は「その間に弦の向きがちょうど 1 回転する」ことを表す。$C'$ を Holditch の曲線 と呼ぶ。

$X$ も $Y$ も $C$ を反時計回りに 1 周するので、置換積分 $\sigma=\sigma_1(t)$ により $S[X]=S[C]$、同じく $S[Y]=S[C]$ で、どちらも $D$ の面積である。また、$D$ は凸なので弦 $XY$ は $D$ に含まれ、$C'$ の点はすべて $D$ の中にある。

円と楕円での弦
  1. ex-hol-start の円では、$X(t)=(2\cos t,2\sin t)$ とし、中心角 $2\gamma$($\sin\gamma=\dfrac{0.8}2=0.4$)だけ先の点を $Y(t)$ とすればよい。$\sigma_1(t)=t$、$\sigma_2(t)=t+2\gamma$ で、弦の向きの角は $\varphi(t)=t+\gamma+\dfrac\pi2$、$\varphi'=1$ である。
  2. ex-hol-ellipse-start の楕円では、$X$ を楕円の上の点とし、$X$ から反時計回りに進んで初めて距離 $1.6$ になる点を $Y$ とした。楕円の点を 4001 個とって数値で調べると、$\varphi$ は単調に増加し、1 周で $2\pi$ 増える。

補題:弦の上の点の面積は位置の 2 次式

弦の上の点を 1 つに決めず、$X$ からの距離 $s$ の点 $Z_s(t)=X(t)+s\,\vec u(t)$ をまとめて考える。$s=0$ なら $Z_0=X$、$s=L$ なら $Z_L=Y$、$s=p$ なら $Z_p=Z$ である。

弦の上の点が描く曲線の符号つき面積

def-hol-setting の条件 (i)(ii) のもとで、実数 $s$ について
$$ S[Z_s]=S[C]+sK+\pi s^2,\qquad K=\int_\alpha^\beta\vec u\times X'\,dt $$
である。$K$ は $s$ によらない定数である。

外積を展開して積分する

方針:Mamikonの定理 の主定理の証明と同じく、$Z_s\times Z_s'$ を展開して項ごとに積分する。
段 1(展開)。$Z_s'=X'+s\,\vec u\,'$ なので、外積の分配法則により
$$ Z_s\times Z_s'=\bigl(X+s\vec u\bigr)\times\bigl(X'+s\vec u\,'\bigr)=X\times X'+s\bigl(X\times\vec u\,'+\vec u\times X'\bigr)+s^2\,\vec u\times\vec u\,' $$
である。
段 2(最後の項)。$\vec u=(\cos\varphi,\sin\varphi)$ を微分すると $\vec u\,'=\varphi'(-\sin\varphi,\cos\varphi)$ なので、$\vec u\times\vec u\,'=\varphi'(\cos^2\varphi+\sin^2\varphi)=\varphi'$ である。
段 3(真ん中の項)。積の微分により $(X\times\vec u)'=X'\times\vec u+X\times\vec u\,'$ なので
$$ X\times\vec u\,'=(X\times\vec u)'-X'\times\vec u=(X\times\vec u)'+\vec u\times X' $$
である。$X$ と $\vec u$ は $t=\alpha$ と $t=\beta$ で同じ値をとるので($X$、$Y$ が 1 周して元にもどるから)、$\displaystyle\int_\alpha^\beta(X\times\vec u)'\,dt=\Bigl[X\times\vec u\Bigr]_\alpha^\beta=0$ である。よって
$$ \int_\alpha^\beta\bigl(X\times\vec u\,'+\vec u\times X'\bigr)\,dt=2\int_\alpha^\beta\vec u\times X'\,dt=2K $$
である。
段 4(積分する)。段 1〜3 を積分して $\dfrac12$ を掛けると、条件 (ii) により $\displaystyle\int_\alpha^\beta\varphi'\,dt=\varphi(\beta)-\varphi(\alpha)=2\pi$ なので
$$ S[Z_s]=S[X]+\frac s2\cdot2K+\frac{s^2}2\cdot2\pi=S[C]+sK+\pi s^2 $$
である($S[X]=S[C]$ を使った)。$\square$

補題の $K$ は曲線の形によって決まる数で、直接計算するのは難しい。ところが、$s=L$ の点 $Z_L$ は $Y$ で、$Y$ も $C$ を 1 周するので $S[Z_L]=S[C]$ である。これで $K$ が決まってしまう。

主定理:帯の面積は $\pi pq$

Holditch の定理

def-hol-setting の仮定のもとで、次が成り立つ。
(1) $S[C']=S[C]-\pi pq$ である。
(2) $C'$ が自分と交わらず、反時計回りに 1 周する閉曲線ならば、$C$ と $C'$ の間の部分の面積は $\pi pq$ である。これは $C$ の形にも大きさにもよらず、弦の長さを分けた 2 つの長さ $p$、$q$ だけで決まる。

両端の点で 2 次式を決める

方針:lem-hol-quadratic の 2 次式に $s=L$ を代入して $K$ を求め、$s=p$ を代入する。
段 1($K$ を求める)。$Z_L=X+L\vec u=Y$ で、$S[Y]=S[C]$ である。lem-hol-quadratic で $s=L$ とすると
$$ S[C]=S[C]+LK+\pi L^2 $$
なので、$LK=-\pi L^2$、つまり $K=-\pi L$ である。
段 2($s=p$ を代入する)。$Z_p=Z$ なので $S[C']=S[Z_p]$ である。lem-hol-quadratic と段 1 により
$$ S[C']=S[C]-\pi Lp+\pi p^2=S[C]-\pi p(L-p)=S[C]-\pi pq $$
である。これが (1) である。
段 3(面積)。$C'$ は自分と交わらず反時計回りなので、$C'$ が囲む部分の面積は $S[C']$ である(Mamikonの定理 の注意「一般の閉曲線の面積(この記事では証明しない)」)。$C'$ の点はすべて凸な図形 $D$ の中にあるので、$C'$ が囲む部分も $D$ に含まれる。したがって間の部分の面積は
$$ S[C]-S[C']=\pi pq $$
である。$\square$

$C$ の形はすべて $K$ に閉じ込められ、$K$ は「$Y$ も同じ曲線を 1 周する」という 1 つの条件だけで $-\pi L$ と決まった。これが、帯の面積が形によらない理由である。ex-hol-start の円では、方べきの定理がこの役割を果たしていた。

楕円で分ける点を変える

ex-hol-ellipse-start の楕円で $L=1.6$ とし、分ける点 $p$ を変えて、楕円の面積と $C'$ の面積の差を数値で求めると次のようになる。どの場合も $C'$ は自分と交わらず、反時計回りで、楕円の内側にある。

$p$$q$$\pi pq$数値で求めた面積の差
$0.3$$1.3$$1.225221$$1.225221$
$0.6$$1.0$$1.884956$$1.884955$
$0.8$$0.8$$2.010619$$2.010619$
$1.2$$0.4$$1.507964$$1.507964$

$p=0.6$ の差の最後の桁のずれは、楕円を 4000 本の辺の多角形で近似したことによる。帯がいちばん太くなるのは、弦の中点($p=q=0.8$)のときで、面積は $\pi\cdot0.8^2=\dfrac{\pi L^2}4$ である($pq=p(L-p)$ は $p=\dfrac L2$ で最大)。

楕円の右端の部分を拡大したもので、長さ 1.6 の弦を分ける点の位置 p を変えると描く曲線が変わり、中点 p=0.8 のとき楕円からいちばん離れる 楕円の右端の部分を拡大したもので、長さ 1.6 の弦を分ける点の位置 p を変えると描く曲線が変わり、中点 p=0.8 のとき楕円からいちばん離れる
弦がもっと長くても、仮定を満たすかぎり同じである。同じ楕円で $L=3.9$ とすると、弦は 1 周の間に単調に 1 回転し、$p=1.0$ で面積の差は $9.11062$、$\pi\cdot1.0\cdot2.9=9.11062$ である。

例と反例

外す条件反例成り立たなくなること
弦を置いたまま 1 回転できる(条件 (i)(ii))楕円 $(3\cos t,2\sin t)$ で $L=5$弦をすべらせて 1 周させることそのもの
$C$ が凸凹みのある曲線 $r=1+0.3\cos2\varphi+0.1\sin3\varphi$、$L=1.2$、$p=0.6$$C'$ が $C$ の内側にあり、間の部分の面積が $\pi pq$
端の場合:分ける点が弦の端

$p=0$ なら $Z=X$ で、$C'$ は $C$ そのものである。thm-hol-main (1) は $S[C']=S[C]-0$ となり、間の部分の面積は $0$ で合っている。$p=L$($q=0$)でも $Z=Y$ で同じである。帯の面積 $\pi p(L-p)$ は $p=0$ と $p=L$ で $0$、真ん中 $p=\dfrac L2$ で最大の $\dfrac{\pi L^2}4$ になる。

反例:弦が長すぎる

楕円 $(3\cos t,2\sin t)$ で、中心を通る弦の長さは向きによって $4$(縦)から $6$(横)まで変わる。ある向きの弦のうちいちばん長いのは中心を通る弦である(楕円の中心に関して対称な弦を平行にずらすと短くなる。この記事では証明しない)。したがって長さ $5$ の弦は、縦向きになることができない。
弦の両端を楕円の上に置いたまますべらせても、弦の向き $\varphi$ は縦の向き($\dfrac\pi2$)を越えられず、条件 (ii) の「1 周で $2\pi$ 増える」が満たされない(図 4)。実際、頂点 $(0,2)$ から楕円の点 $(3\cos t,2\sin t)$ までの距離の 2 乗は、$u=\sin t$ として $9(1-u^2)+4(u-1)^2=13-8u-5u^2$ で、$u=-\dfrac45$ のとき最大の $16.2$ になる。距離は最大でも $\sqrt{16.2}=4.02\ldots<5$ なので、頂点 $(0,2)$ を端とする長さ $5$ の弦はない。弦を 1 周させることそのものができず、thm-hol-main は当てはめられない。一方、$L=1.6$、$3.0$、$3.9$ では、弦を 1 周させられることを数値で確かめた。

楕円の縦の最長の弦は長さ 4 なので、長さ 5 の弦(赤)は縦向きになれず、1 回転できない 楕円の縦の最長の弦は長さ 4 なので、長さ 5 の弦(赤)は縦向きになれず、1 回転できない

反例:凹みのある曲線

Mamikonの定理 の反例と同じ凹みのある曲線 $r=1+0.3\cos2\varphi+0.1\sin3\varphi$ で、$L=1.2$ の弦をすべらせる($X$ から反時計回りに進んで初めて距離 $1.2$ になる点を $Y$ とする)。$X$ と $Y$ はどちらも曲線を 1 周し、弦の向きは 1 周で $2\pi$ 回るが、凹みの近くでは弦の向きが逆に回り、$\varphi$ は単調でない。lem-hol-quadratic と prf-hol-main の段 1・段 2 は $\varphi$ の単調性を使っていないので、$p=0.6$ で
$$ S[C]-S[C']=\pi\cdot0.6\cdot0.6=1.13097\ldots $$
はそのまま成り立つ(数値でも $1.130972$)。
しかし、凹みの部分では弦が曲線の外を通り、$C'$ の一部が $C$ の外にはみ出す(図 5。$C'$ の点 4001 個のうち 330 個が $C$ の外)。$C$ の内側で $C'$ の外側の部分の面積は $1.19413$、$C'$ のはみ出した部分の面積は $0.06316$ で、差がちょうど $1.13097$ になっている。「間の部分の面積が $\pi pq$」は成り立たない。

凹みのある曲線では、凹みを横切る弦が曲線の外を通り、弦を分ける点の描く曲線(破線)が曲線の外にはみ出す 凹みのある曲線では、凹みを横切る弦が曲線の外を通り、弦を分ける点の描く曲線(破線)が曲線の外にはみ出す

大学数学で見る:面積の 2 次式

弦の延長の上の点

lem-hol-quadratic と prf-hol-main の段 1 から、$K=-\pi L$ を代入して
$$ S[Z_s]=S[C]-\pi s(L-s) $$
がすべての実数 $s$ で成り立つ。$0< s< L$ なら $S[Z_s]< S[C]$ で、弦の上の点は内側の曲線を描く。$s<0$ や $s>L$ では、$Z_s$ は弦の延長の上の点で、$-\pi s(L-s)>0$ なので $S[Z_s]>S[C]$ となる。たとえば ex-hol-start の円($R=2$、$L=1.6$)で $s=-1$ とすると、$Z_s$ は半径 $\sqrt{4+1\cdot2.6}=\sqrt{6.6}$ の円を描き(方べきの定理で円の外の点)、$\pi\cdot6.6-4\pi=2.6\pi=\pi\cdot1\cdot2.6$ である。

Mamikon の定理との関係

Mamikonの定理 の主定理 1 は、弦の代わりに接線の線分を使った同じ形の定理である。接線の線分では $\vec u=\vec T$ が $X'$ と平行なので、lem-hol-quadratic の $K=\int\vec T\times X'\,dt$ がはじめから $0$ になり、$S[C_L]=S[C]+\pi L^2$ となる。弦では $K$ は $0$ でないが、もう一方の端 $Y$ も同じ曲線の上にあることから $K=-\pi L$ と決まった。

Wei26 は、滑らかな凸の閉曲線の上を一定の長さの弦がすべるとき、ある条件のもとで間の面積が $\pi pq$ になることを Holditch が 1858 年に示したと述べ、円の場合の半径 $\sqrt{R^2-pq}$ を挙げている。この記事の def-hol-setting は、その「ある条件」として、弦の両端がそれぞれ 1 周し弦の向きが単調に 1 回転すること、$C'$ が自分と交わらず反時計回りであることをとったものである。

さらに先へ

  • 閉曲線に沿って動かす線分の話題には、幅がどの向きでも一定の曲線を扱う 定幅図形 がある。定幅図形では、どの向きの 2 本の平行な接線の間の距離も等しい。
  • 帯の面積が形によらないという点で、Mamikonの定理(接線の線分)と 擬柱体の公式(断面)とは、同じ種類の「計算がほとんど要らない面積・体積の公式」である。
  • 閉曲線が囲む面積の最大については 等周不等式(高校数学) がある。

関連項目

参考文献

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