quasi-Gorenstein環とは、ネーター局所環のうち、最高次局所コホモロジーが剰余体の入射包と同型になる環である。標準加群が存在すれば、その条件は標準加群が環自身と同型になることに等しい。Gorenstein環と違ってCohen–Macaulay性を定義に含めないため、次元3以上では下位局所コホモロジーが残るquasi-Gorenstein環が存在する。
前提知識:ネーター局所環、Krull次元、局所コホモロジー、入射包、Cohen–Macaulay環。後半では標準加群、Serreの条件、次数付き環を用いる。
$(R,\mathfrak m,k)$ を $d$ 次元ネーター局所環とし、$E_R(k)$ を剰余体 $k$ の入射包とする。
$R$ が quasi-Gorenstein環(quasi-Gorenstein ring、準Gorenstein環)であるとは、$R$-加群として
$$
H^d_{\mathfrak m}(R)\cong E_R(k)
$$
が成り立つことをいう。
$R$ が標準加群 $\omega_R$ をもつとき、局所双対性によりこの条件は
$$
\omega_R\cong R
$$
と同値である。つまり、標準加群が存在するだけでも、階数1であるだけでもなく、自由階数1であることを要求する。
定義の出典:最高次局所コホモロジーによる定義はHassanzadeh–Shirmohammadi–Zakeri( 論文・DOI )。標準加群による同値な記述と完備化を含む基礎はAoyama( 論文・DOI )およびTavanfar–Tousi( 論文・DOI )に基づく。
Gorenstein局所環では、二つの条件が同時に成り立つ。
| 環 | 標準加群・深さの情報 | 判定 |
|---|---|---|
| 正則局所環 | Gorenstein | quasi-Gorenstein |
| $k\llbracket u,v,w\rrbracket/(uv-w^2)$ | 超曲面なので $\omega_R\cong R$ | Gorenstein、従ってquasi-Gorenstein |
| $k\llbracket x,y\rrbracket/(x^2,xy)$ | $\dim R=1$, $\operatorname{depth}R=0$ | quasi-Gorensteinでない |
| 2つの3次Fermat曲線の斉次座標環のSegre積 | $\dim R=3$, $\operatorname{depth}R=2$, $\omega_R\cong R$ | quasi-GorensteinだがGorensteinでない |
$S=k\llbracket u,v,w\rrbracket$ と $f=uv-w^2$ に対し
$$
R=S/(f)
$$
とする。$S$ は正則局所環で $f$ は非零因子だから、$R$ は2次元超曲面局所環である。
自由分解
$$
0\longrightarrow S\xrightarrow{\,f\,}S\longrightarrow R\longrightarrow0
$$
に $\operatorname{Hom}_S(-,S)$ を適用すると
$$
\omega_R\cong\operatorname{Ext}^1_S(R,S)\cong S/(f)=R
$$
を得る。さらに超曲面はCohen–Macaulayなので、$R$ はGorensteinでありquasi-Gorensteinでもある。
$$
A=k\llbracket x,y\rrbracket/(x^2,xy)
$$
とする。$\sqrt{(x^2,xy)}=(x)$ なので $\dim A=1$ である。一方、$x\neq0$ かつ
$$
(x,y)x=0
$$
だから $\operatorname{depth}A=0$ であり、$A$ はSerreの条件 $S_1$、従って $S_2$ を満たさない。後述のとおりquasi-Gorenstein環は $S_2$ を満たすので、$A$ はquasi-Gorensteinでない。これは「正則局所環の任意の剰余環はquasi-Gorenstein」という誤った含意の反例である。
$k$ を標数 $3$ でない体とし、
$$
B=k[x,y,z]/(x^3+y^3+z^3),\qquad
C=k[a,b,c]/(a^3+b^3+c^3)
$$
のSegre積
$$
T=B\mathbin{\#}C=\bigoplus_{n\geq0}B_n\otimes_k C_n
$$
を考える。$T$ は3次元正規整域で、次数付き標準加群は $\omega_T\cong T$、一方で $\operatorname{depth}T=2$ である。従って斉次極大イデアルで局所化した $T_{T_+}$ はquasi-GorensteinだがCohen–Macaulayでなく、したがってGorensteinでない。
この例では各因子が $a$-不変量0のGorenstein次数付き環であり、Segre積の標準加群の公式から $\omega_T\cong T$ が従う。深さ2の計算は、積になっている2つの楕円曲線の中間コホモロジーに対応する。つまり最高次の双対性と下位コホモロジーの消滅は別々に動く。
非Cohen–Macaulay例の出典:Segre積の標準加群公式はGoto–Watanabe, Theorem 4.3.1( 論文・DOI )。上の3次Fermat環のSegre積が3次元・深さ2のquasi-Gorenstein正規整域であることはShimomoto–Taniguchi–Tavanfar, Example 5.1(1)( 論文・DOI )で明示されている。
$R$ をquasi-Gorenstein局所環とする。
1は標準加群が常に $S_2$ を満たし、$\omega_R\cong R$ であることから従う。2はquasi-Gorenstein環に対する標準加群の零化イデアルと随伴素イデアルの性質から従う。3について、零次元局所環はCohen–Macaulayであり、次元1または2では $S_2$ が極大イデアルで $\operatorname{depth}R=\dim R$ を与える。従って $R$ はCohen–Macaulayであり、quasi-Gorenstein性と合わせてGorensteinとなる。
特に、quasi-GorensteinだがGorensteinでない局所環は次元3以上でしか現れない。上のSegre積は次元3で実際に現れるため、この下限は鋭い。
$S_2$と非混合性の出典:Aoyamaの標準加群の基本性質、およびTavanfar–TousiのReminder 2.1( arXiv版 )。低次元の結論は $S_2$ と定義から上のように導出した。
最高次局所コホモロジーによる定義は、標準加群とSerre条件の双対関係を通じて、下位局所コホモロジーの消滅条件にもつながる。
$R$ を $d$ 次元quasi-Gorenstein局所環で、Gorenstein局所環の剰余環とする。$2\leq r\leq d$ に対し、次は同値である。
この同値では $S_2$ が既に自動的に成り立っているため、局所コホモロジーのうち最高次のすぐ下から順に消えることが、より強いSerre条件を測る。$r=d$ とすれば、$S_2$ から得られる低次数の消滅と合わせて、Cohen–Macaulay性、従ってGorenstein性が回復する。
もう一つの特徴づけとして、この設定では
$$
\mathrm{quasi\text{-}Gorenstein}
\quad\Longleftrightarrow\quad
\operatorname{id}_R H^d_{\mathfrak m}(R)<\infty
$$
が成り立つ。定義の場合は右辺の加群が $E_R(k)$ なので入射次元0である。逆向きは最高次局所コホモロジーの有限入射次元に関するAoyamaの定理を用いる。
ホモロジー的特徴づけの出典:標準加群のSerre条件と下位局所コホモロジーの消滅の対応はSchenzel, Corollary 1.15( 講義録PDF )。最高次局所コホモロジーの有限入射次元による特徴づけはAoyama, Theorem 3( 論文・DOI )に基づく。
$R$ がquasi-Gorensteinであることと、$\mathfrak m$-進完備化 $\widehat R$ がquasi-Gorensteinであることは同値である。
これは最高次局所コホモロジーとMatlis双対が完備化に適合することから従う。従って、完備化して標準加群を計算してからquasi-Gorenstein性を判定してよい。
正則元で割る操作は、Gorenstein環の場合より繊細である。
$R$ をquasi-Gorenstein局所環、$x\in\mathfrak m$ を $R$-正則元とする。このとき
$$
R/xR\ \mathrm{is\ quasi\text{-}Gorenstein}
\quad\Longleftrightarrow\quad
R/xR\ \mathrm{satisfies}\ S_2.
$$
$R/xR$ が標準加群をもつなら、その $S_2$-化は常にquasi-Gorensteinである。
したがって「quasi-Gorenstein環を正則元で割れば自動的にquasi-Gorenstein」という主張は成り立たず、障害は商の $S_2$ 性にある。逆方向の変形も無条件ではない。すなわち、$R/xR$ がquasi-Gorensteinでも $R$ がquasi-Gorensteinでない例が存在する。各冪 $R/x^nR$ が無限に多くの $n$ でquasi-Gorensteinである、などの追加仮定の下では持ち上げが成立する。
正則元と変形の出典:商の $S_2$ 条件との同値と $S_2$-化はTavanfar–Tousi, Corollary 3.4( arXiv版 )。逆方向の無条件な変形に対する反例と、成立する追加条件はShimomoto–Taniguchi–Tavanfar( 論文・DOI )。
標準次数付き $k$-代数 $R=\bigoplus_{n\geq0}R_n$ では、次数を忘れず
$$
\omega_R\cong R(a)
$$
となる整数 $a$ が存在することを 次数付きquasi-Gorenstein性という。局所環の場合の $\omega_R\cong R$ と違い、次数シフト $R(a)$ を許す。上のSegre積では $a=0$ である。
非局所ネーター環については、各素イデアルでの局所化がquasi-Gorensteinであることを課す。この条件は、標準加群が存在する場合には $\omega_R$ が階数1の射影加群であることに対応する。局所環では階数1の射影加群は自由なので、局所定義へ戻る。
正規整域で標準因子 $K_R$ を考えられる場合、局所quasi-Gorenstein性は $K_R$ がCartier、すなわち局所環の因子類群で標準加群の類が零であることに対応する。一方、$\mathbf Q$-Gorenstein性はある正整数 $n$ に対して $nK_R$ がCartierであることしか要求しない。従って
$$
\mathrm{quasi\text{-}Gorenstein}\Longrightarrow\mathbf Q\text{-Gorenstein}
$$
だが、逆向きは一般には成り立たない。
| 名称 | 主な対象 | 標準加群に課す条件 | Cohen–Macaulay性 |
|---|---|---|---|
| Gorenstein | ネーター局所環 | $\omega_R\cong R$ | 必須 |
| quasi-Gorenstein | ネーター局所環 | $\omega_R\cong R$ | 定義には含めない |
| $\mathbf Q$-Gorenstein | 主に正規環・正規多様体 | 標準因子の正の倍がCartier | 別条件 |
| nearly Gorenstein | 標準加群をもつCohen–Macaulay局所環 | $\operatorname{tr}(\omega_R)\supseteq\mathfrak m$ | 通常は仮定する |
| almost Gorenstein | 標準加群をもつCohen–Macaulay局所環 | $R\to\omega_R$ の余核を小さく制御 | 通常は仮定する |
quasi-Gorensteinの “quasi”、$\mathbf Q$-Gorensteinの $\mathbf Q$、quasi-Frobenius環の “quasi” は互いに別の意味である。名称だけで包含関係を作ってはいけない。
超曲面の例と一次元の反例は本文中で計算した。低次元でGorensteinとなることは $S_2$ から導出した。Segre積の標準加群と深さ、Serre条件と下位局所コホモロジーの同値、最高次局所コホモロジーの有限入射次元、正則元による商と変形には外部定理を用いる。