2次不等式

同義語:quadratic inequality

概要

2次不等式(quadratic inequality)とは、実数 $a\ne0,b,c$ による $ax^2+bx+c>0$ の形($\ge$、$<$、$\le$ も同様)の不等式である。$a>0$ のとき、判別式 $D=b^2-4ac$ が正なら、2 つの実数解 $\alpha<\beta$ について $ax^2+bx+c<0$ の解は $\alpha<x<\beta$、$>0$ の解は $x<\alpha$ または $\beta<x$ である。$D=0$ なら $>0$ の解は重解以外のすべての実数、$D<0$ ならすべての実数である。$a<0$ なら $-1$ を掛けて帰着する。すべての実数で $ax^2+bx+c>0$ となる条件は「$a>0$ かつ $D<0$」である。解と解の間で符号が一定であることは中間値の定理から従い、3 次以上の多項式の不等式にも使える。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 2次関数, 2次方程式, 因数分解, 判別式(高校数学)

高校での出発点:グラフと $x$ 軸で解く

$x^2-x-6<0$ のように、左辺が $x$ の 2 次式である不等式を 2 次不等式 という。高校では、グラフ $y=x^2-x-6$ をかき、グラフが $x$ 軸より下にある $x$ の範囲を読み取って解く。まず、この方法を 3 つの例で確かめる。

$x$ 軸と 2 点で交わるとき

$x^2-x-6<0$ と $x^2-x-6>0$ を解く。
左辺を因数分解すると $x^2-x-6=(x+2)(x-3)$ なので、放物線 $y=x^2-x-6$ は $x$ 軸と $x=-2$、$x=3$ の 2 点で交わる。$x^2$ の係数は $1>0$ なので、グラフは下に凸である。したがって、グラフは 2 つの交点の間で $x$ 軸より下、外側で $x$ 軸より上にある(図1 の左)。

  • $x^2-x-6<0$ の解は $-2< x<3$ である。
  • $x^2-x-6>0$ の解は $x<-2$ または $3< x$ である。
    いくつかの値で確かめる。$x=0$ では $0-0-6=-6<0$ で、$0$ は $-2< x<3$ に入る。$x=-3$ では $9+3-6=6>0$、$x=4$ では $16-4-6=6>0$ で、どちらも外側に入る。交点 $x=-2$、$x=3$ では値が $0$ なので、どちらの不等式も満たさない。
$x$ 軸に接するとき

$x^2-4x+4$ について、4 つの不等式を解く。$x^2-4x+4=(x-2)^2$ なので、放物線は $x$ 軸と点 $(2,0)$ で接し、それ以外ではつねに $x$ 軸より上にある(図1 の中央)。

不等式解
$(x-2)^2>0$$x\ne2$ のすべての実数
$(x-2)^2\ge0$すべての実数
$(x-2)^2<0$解なし
$(x-2)^2\le0$$x=2$

理由:実数 $u$ について $u^2\ge0$ であり、$u^2=0$ となるのは $u=0$ のときだけである。$u=x-2$ として使った。

$x$ 軸と交わらないとき

$x^2+2x+3>0$ と $x^2+2x+3<0$ を解く。平方完成すると
$$ x^2+2x+3=(x+1)^2+2 $$
である。$(x+1)^2\ge0$ なので、左辺はつねに $2$ 以上であり、特に正である(図1 の右)。

  • $x^2+2x+3>0$ の解は、すべての実数である。
  • $x^2+2x+3<0$ は解をもたない。
    判別式は $D=2^2-4\cdot1\cdot3=-8<0$ である。

3 つの放物線 !FORMULA[60][826836300][0](!FORMULA[61][35333650][0])、!FORMULA[62][-198453618][0](!FORMULA[63][35332689][0])、!FORMULA[64][-257558993][0](!FORMULA[65][35331728][0])と !FORMULA[66][38352][0] 軸。赤の太線は !FORMULA[67][36912573][0] となる !FORMULA[68][38352][0]、青の太線は !FORMULA[69][36910651][0] となる !FORMULA[70][38352][0] で、判別式の符号によって解の形が変わることを見る図。 3 つの放物線 $y=x^2-x-6$($D>0$)、$y=x^2-4x+4$($D=0$)、$y=x^2+2x+3$($D<0$)と $x$ 軸。赤の太線は $y>0$ となる $x$、青の太線は $y<0$ となる $x$ で、判別式の符号によって解の形が変わることを見る図。
3 つの例から、次の問いが出てくる。

  1. 「2 つの交点の間で負、外側で正」は、グラフをかかなくても式で示せるか。→ prop-qin-sign-of-product
  2. 解の形は何で決まるか。どの場合も漏れなく扱うにはどう分ければよいか。→ thm-qin-main
  3. 「すべての実数 $x$ で成り立つ」のはどんなときか。→ thm-qin-always、ex-qin-param-leading
  4. 3 次以上の不等式でも同じ考え方が使えるか。それはなぜか。→ thm-qin-constant-sign、ex-qin-cubic
    高校の計算この記事での見方大学の言葉ボックス
    交点の間で負、外で正1 次式の積の符号符号の表prop-qin-sign-of-product
    $D$ の符号で場合分け平方完成と因数分解の使い分け実数解の個数と符号thm-qin-main
    $a>0$ かつ $D<0$ ならつねに正平方完成で最小値が正正定値な 2 次形式thm-qin-always、prop-qin-definite
    解と解の間では符号が一定連続関数は $0$ を通らずに符号を変えない中間値の定理thm-qin-constant-sign

積の符号:交点の間と外側

グラフを使わずに解くための道具は、「2 つの数の積の符号」である。

2 次不等式とその解

$a,b,c$ を実数、$a\ne0$ とする。次の 4 つの形の不等式を、$x$ についての 2 次不等式 という。
$$ ax^2+bx+c>0,\qquad ax^2+bx+c\ge0,\qquad ax^2+bx+c<0,\qquad ax^2+bx+c\le0 $$
不等式を満たす実数 $x$ 全体を、その不等式の 解 という。解を求めることを「不等式を解く」という。解がひとつもないとき「解なし」という。

2 つの数の積の符号

実数 $u,v$ について、次が成り立つ。

  1. $uv>0$ となるのは、$u,v$ がともに正か、ともに負のときであり、そのときに限る。
  2. $uv<0$ となるのは、$u,v$ の一方が正で他方が負のときであり、そのときに限る。
  3. $uv=0$ となるのは、$u=0$ または $v=0$ のときであり、そのときに限る。
符号の組み合わせを調べる

方針:$u$ と $v$ のそれぞれについて「正・負・$0$」の 3 通りがあるので、全部で 9 通りの組を調べ、積の符号を表にする。
段 1(正と正、負と負)。$u>0$、$v>0$ なら、正の数どうしの積は正なので $uv>0$ である。$u<0$、$v<0$ なら、$uv=(-u)(-v)$ であり、$-u>0$、$-v>0$ なので $uv>0$ である。
段 2(正と負)。$u>0$、$v<0$ なら $uv=-\bigl(u\cdot(-v)\bigr)$ で、$u\cdot(-v)>0$ なので $uv<0$ である。$u<0$、$v>0$ も同じで $uv<0$ である。
段 3($0$ を含む)。$u=0$ または $v=0$ なら $uv=0$ である。
段 4(まとめ)。9 通りの組は、段 1 の 2 通り、段 2 の 2 通り、段 3 の 5 通りに漏れなく分かれ、積の符号はそれぞれ正・負・$0$ である。積が正になるのは段 1 の組だけなので 1 が成り立つ。同じように、積が負になるのは段 2 の組だけ、積が $0$ になるのは段 3 の組だけなので、2 と 3 が成り立つ。$\square$

1 次式の積の符号

$\alpha<\beta$ とする。実数 $x$ について、次が成り立つ。

  1. $(x-\alpha)(x-\beta)<0$ となるのは、$\alpha< x<\beta$ のときであり、そのときに限る。
  2. $(x-\alpha)(x-\beta)>0$ となるのは、$x<\alpha$ または $\beta< x$ のときであり、そのときに限る。
  3. $(x-\alpha)(x-\beta)=0$ となるのは、$x=\alpha$ または $x=\beta$ のときであり、そのときに限る。
数直線を 5 つの部分に分ける

方針:$x$ の位置を、$\alpha$ と $\beta$ で区切った 5 つの場合に分け、各場合で 2 つの因数 $x-\alpha$、$x-\beta$ の符号を決める。そのあと lem-qin-product を使う。
段 1($x<\alpha$)。$x-\alpha<0$ である。また $x<\alpha<\beta$ なので $x-\beta<0$ である。負と負の積なので、lem-qin-product の 1 より $(x-\alpha)(x-\beta)>0$ である。
段 2($x=\alpha$)。$x-\alpha=0$ なので積は $0$ である。
段 3($\alpha< x<\beta$)。$x-\alpha>0$、$x-\beta<0$ である。正と負の積なので、lem-qin-product の 2 より積は負である。
段 4($x=\beta$)。$x-\beta=0$ なので積は $0$ である。
段 5($\beta< x$)。$x-\beta>0$ であり、$\alpha<\beta< x$ なので $x-\alpha>0$ である。正と正の積なので積は正である。
段 6(まとめ)。すべての実数 $x$ は、段 1〜5 のどれか 1 つだけに入る。積が負になるのは段 3 だけなので 1 が成り立つ。積が正になるのは段 1 と段 5 だけなので 2 が成り立つ。積が $0$ になるのは段 2 と段 4 だけなので 3 が成り立つ。$\square$

符号の表で確かめる

$(x+2)(x-3)$($\alpha=-2$、$\beta=3$)の符号を、prf-prop-qin-sign-of-product の 5 つの場合ごとに表にする。

$x$ の範囲$x<-2$$x=-2$$-2< x<3$$x=3$$3< x$
$x+2$ の符号$-$$0$$+$$+$$+$
$x-3$ の符号$-$$-$$-$$0$$+$
積の符号$+$$0$$-$$0$$+$

表の最下行は ex-qin-two-roots の結果と一致する。代表の値でも確かめると、$x=-5$ で $(-3)\cdot(-8)=24>0$、$x=1$ で $3\cdot(-2)=-6<0$、$x=10$ で $12\cdot7=84>0$ である。

係数が 1 でない場合

$2x^2-3x-2\le0$ を解く。$2x^2-3x-2=(2x+1)(x-2)=2\Bigl(x+\dfrac12\Bigr)(x-2)$ である。$2>0$ で両辺を割っても不等号の向きは変わらないので、不等式は
$$ \Bigl(x+\frac12\Bigr)(x-2)\le0 $$
と同じである。prop-qin-sign-of-product を $\alpha=-\dfrac12$、$\beta=2$ で使うと、積が負になるのは $-\dfrac12< x<2$、$0$ になるのは $x=-\dfrac12,\ 2$ である。合わせて、解は $-\dfrac12\le x\le2$ である。
端で確かめる:$x=2$ では $8-6-2=0$、$x=-\dfrac12$ では $\dfrac12+\dfrac32-2=0$ である。内部の $x=0$ では $-2<0$ である。

主定理:判別式による場合分け

prop-qin-sign-of-product は異なる 2 つの数 $\alpha<\beta$ を仮定しているので、使えるのは 2 次式が異なる 2 つの 1 次式の積に因数分解できるとき、つまり判別式 $D=b^2-4ac$ が正のときである。$D=0$ のときは平方完成した形 $a\Bigl(x+\dfrac b{2a}\Bigr)^2$ から直接読み、$D<0$ のときも平方完成を使う。判別式の符号で場合を分けると、2 次不等式のすべての場合を漏れなく扱える。

2 次の係数が正の 2 次不等式の解

$a>0$ とし、$f(x)=ax^2+bx+c$、$D=b^2-4ac$ とする。

  1. $D>0$ のとき、$f(x)=0$ の 2 つの実数解を $\alpha<\beta$ とすると
    • $f(x)>0$ の解は $x<\alpha$ または $\beta< x$、
    • $f(x)\ge0$ の解は $x\le\alpha$ または $\beta\le x$、
    • $f(x)<0$ の解は $\alpha< x<\beta$、
    • $f(x)\le0$ の解は $\alpha\le x\le\beta$。
  2. $D=0$ のとき、$p=-\dfrac b{2a}$ とすると
    • $f(x)>0$ の解は $x\ne p$ のすべての実数、
    • $f(x)\ge0$ の解はすべての実数、
    • $f(x)<0$ は解なし、
    • $f(x)\le0$ の解は $x=p$ だけ。
  3. $D<0$ のとき
    • $f(x)>0$ と $f(x)\ge0$ の解は、どちらもすべての実数、
    • $f(x)<0$ と $f(x)\le0$ は、どちらも解なし。
平方完成した形から出発する

方針:どの場合も平方完成した形
$$ f(x)=a\Bigl(x+\frac b{2a}\Bigr)^2-\frac{D}{4a} $$
から出発する(右辺を展開すると左辺に戻ることは、2次関数の最大・最小 の命題「平方完成の公式」で確かめてある)。$D>0$ なら右辺を 1 次式の積に直して prop-qin-sign-of-product を使い、$D=0$ なら $f(x)=a(x-p)^2$ の形から直接読み、$D<0$ なら右辺が正であることを直接示す。$p=-\dfrac b{2a}$ とおく。
段 1($D>0$:因数分解する)。$\delta=\dfrac{\sqrt D}{2a}$ とおく。$a>0$、$D>0$ なので $\delta>0$ である。$\delta^2=\dfrac{D}{4a^2}$ だから $\dfrac D{4a}=a\delta^2$ であり
$$ f(x)=a(x-p)^2-a\delta^2=a\bigl((x-p)^2-\delta^2\bigr)=a(x-p+\delta)(x-p-\delta) $$
となる。最後の等号は $s^2-t^2=(s-t)(s+t)$ を $s=x-p$、$t=\delta$ で使った。$\alpha=p-\delta$、$\beta=p+\delta$ とおくと $f(x)=a(x-\alpha)(x-\beta)$ で、$\delta>0$ から $\alpha<\beta$ である。この $\alpha,\beta$ は解の公式の 2 つの解 $\dfrac{-b\mp\sqrt D}{2a}$ である。
段 2($D>0$:符号を読む)。$a>0$ なので、$f(x)$ の符号は $(x-\alpha)(x-\beta)$ の符号と同じである(正の数を掛けても符号は変わらない)。prop-qin-sign-of-product より、$f(x)>0\iff x<\alpha$ または $\beta< x$、$f(x)<0\iff\alpha< x<\beta$、$f(x)=0\iff x=\alpha$ または $x=\beta$ である。$f(x)\ge0$ は「$f(x)>0$ または $f(x)=0$」なので、解は $x<\alpha$、$\beta< x$、$x=\alpha$、$x=\beta$ を合わせた $x\le\alpha$ または $\beta\le x$ である。$f(x)\le0$ も同じように $\alpha\le x\le\beta$ となる。これで 1 が示された。
段 3($D=0$)。$\dfrac D{4a}=0$ なので $f(x)=a(x-p)^2$ である。$x\ne p$ なら $(x-p)^2>0$ で、$a>0$ との積は正である。$x=p$ なら $f(p)=0$ である。したがって、$f(x)>0$ の解は $x\ne p$、$f(x)\ge0$ の解はすべての実数、$f(x)<0$ は解なし、$f(x)\le0$ の解は $x=p$ だけである。これで 2 が示された。
段 4($D<0$)。$a>0$、$D<0$ なので $-\dfrac D{4a}>0$ である。$a(x-p)^2\ge0$ だから
$$ f(x)=a(x-p)^2-\frac D{4a}\ge-\frac D{4a}>0 $$
がすべての実数 $x$ で成り立つ。よって $f(x)>0$ と $f(x)\ge0$ はすべての実数で成り立ち、$f(x)<0$ と $f(x)\le0$ はどの実数でも成り立たない。これで 3 が示された。$\square$

定理を当てはめる

thm-qin-main の 3 つの場合を 1 つずつ使う。

  1. $x^2-6x+7<0$。$D=36-28=8>0$ で、解の公式から $\alpha=3-\sqrt2$、$\beta=3+\sqrt2$ である。1 の場合なので、解は $3-\sqrt2< x<3+\sqrt2$ である。確かめ:$x=3$ で $9-18+7=-2<0$。
  2. $4x^2+4x+1>0$。$D=16-16=0$、$p=-\dfrac4{8}=-\dfrac12$ である。2 の場合なので、解は $x\ne-\dfrac12$ のすべての実数である。実際 $4x^2+4x+1=(2x+1)^2$ である。
  3. $3x^2-2x+1\le0$。$D=4-12=-8<0$ なので、3 の場合で、解なしである。平方完成すると $3x^2-2x+1=3\Bigl(x-\dfrac13\Bigr)^2+\dfrac23$ で、つねに $\dfrac23$ 以上である。

$x^2$ の係数が負のときは、両辺に $-1$ を掛けて係数を正にしてから thm-qin-main を使う。$-1$ を掛けると不等号の向きが逆になることに注意する。

2 次の係数が負の場合

$a<0$ のとき、不等式 $ax^2+bx+c>0$ は $(-a)x^2+(-b)x+(-c)<0$ と同じ解をもつ($\ge,<,\le$ についても、不等号の向きを逆にしたものと同じ解をもつ)。後者は 2 次の係数 $-a$ が正で、判別式は $(-b)^2-4(-a)(-c)=b^2-4ac=D$ と変わらないので、thm-qin-main が使える。

不等式の両辺に負の数を掛ける

実数 $u$ について、$u>0$ と $-u<0$ は同じ条件である($u>0$ の両辺に $-1$ を掛けると向きが逆になり $-u<0$、逆に $-u<0$ の両辺に $-1$ を掛けると $u>0$)。$u=ax^2+bx+c$ とすると、$-u=(-a)x^2+(-b)x+(-c)$ なので、2 つの不等式を満たす $x$ は同じである。$\ge,<,\le$ も同じ理由による。判別式は、上に書いた計算のとおり $D$ のままである。$\square$

係数が負の 2 次不等式

$-x^2+x+6>0$ を解く。両辺に $-1$ を掛けると $x^2-x-6<0$ になる。これは ex-qin-two-roots と同じ不等式で、解は $-2< x<3$ である。
確かめ:$x=0$ で $-0+0+6=6>0$、$x=4$ で $-16+4+6=-6<0$ である。$-x^2+x+6$ のグラフは上に凸で、$x=-2$ と $x=3$ の間で $x$ 軸より上にある。

すべての実数で成り立つ条件

すべての実数 $x$ について成り立つ不等式を、高校では 絶対不等式 と呼ぶことがある。2 次式がつねに正になる条件は、thm-qin-main からすぐ読み取れる。ここでは $x^2$ の係数が $0$ になる場合も含めて述べる。係数に文字を含む問題では、この場合を落としやすいからである。

すべての実数で正になる条件

$a,b,c$ を実数とし、$D=b^2-4ac$ とする。すべての実数 $x$ について $ax^2+bx+c>0$ が成り立つための必要十分条件は、次のどちらかが成り立つことである。

  1. $a>0$ かつ $D<0$。
  2. $a=b=0$ かつ $c>0$。
    特に $a\ne0$ と分かっているときは、条件は「$a>0$ かつ $D<0$」である。
2 次の係数の符号で 3 つに分ける

方針:$a>0$、$a<0$、$a=0$ の 3 つの場合に分け、それぞれで「すべての $x$ で正」となる条件を求める。$f(x)=ax^2+bx+c$ とおく。
段 1($a>0$ のとき)。thm-qin-main より、$D<0$ なら $f(x)>0$ の解はすべての実数である。$D\ge0$ なら、$D>0$ のときは $f(\alpha)=0$、$D=0$ のときは $f(p)=0$ となる実数があるので、すべての実数で正ではない。よって、この場合の条件は $D<0$ である。
段 2($a<0$ のとき)。$p=-\dfrac b{2a}$ として、平方完成した形 $f(x)=a(x-p)^2-\dfrac D{4a}$ を使う。$x=p+t$($t$ は実数)を代入すると $f(p+t)=at^2-\dfrac{D}{4a}$ である。$a<0$ なので、$t$ を大きくすると $at^2$ はいくらでも小さくなる。具体的には、$t^2>\dfrac{D}{4a^2}$ を満たす $t$ をとると $at^2<\dfrac{D}{4a}$(両辺に負の数 $a$ を掛けて向きが逆になる)となり、$f(p+t)<0$ である。$t^2$ はいくらでも大きくとれるので、そのような $t$ は必ずある。よって、$a<0$ のときはすべての実数で正にはならない。
段 3($a=0$ のとき)。$f(x)=bx+c$ である。$b\ne0$ なら、$x=\dfrac{-c-1}{b}$ で $f(x)=-c-1+c=-1<0$ となるので、すべての実数で正にはならない。$b=0$ なら $f(x)=c$ は定数なので、すべての実数で正となるのは $c>0$ のときだけである。
段 4(まとめ)。3 つの場合は $a$ のすべての値を漏れなく分けている。「すべての実数で正」となるのは、段 1 の「$a>0$ かつ $D<0$」か、段 3 の「$a=b=0$ かつ $c>0$」のときだけである。$\square$

同じ内容を「判別式が負 ⇔ 放物線が $x$ 軸と交わらない」として述べたものは、2次方程式の判別式の正体 の系「すべての実数で正になる 2 次式」にある。$\ge0$ の場合(条件は $a>0$ かつ $D\le0$、または $a=b=0$ かつ $c\ge0$)を不等式の証明に使う方法は 判別式で示す不等式 で扱う。

文字を含む 2 次式がつねに正である条件

すべての実数 $x$ について $x^2+kx+k+3>0$ となる定数 $k$ の範囲を求める。$x^2$ の係数は $1>0$ なので、thm-qin-always の 1 より、条件は $D<0$ である。
$$ D=k^2-4(k+3)=k^2-4k-12=(k-6)(k+2) $$
なので、$D<0$ は prop-qin-sign-of-product の 1 により $-2< k<6$ である。
境目で確かめる。$k=6$ では $x^2+6x+9=(x+3)^2$ で、$x=-3$ のとき $0$ になり、正ではない。$k=-2$ では $x^2-2x+1=(x-1)^2$ で、$x=1$ のとき $0$ になる。内部の $k=0$ では $x^2+3\ge3>0$ である。

$x^2$ の係数が文字のとき

すべての実数 $x$ について $kx^2+2x+k>0$ となる定数 $k$ の範囲を求める。$x^2$ の係数 $k$ が $0$ になりうるので、thm-qin-always の 1 と 2 の両方を調べる。
段 1($k\ne0$ の場合)。条件は $k>0$ かつ $D<0$ である。$D=4-4k^2=-4(k-1)(k+1)$ なので、$D<0\iff(k-1)(k+1)>0\iff k<-1$ または $1< k$ である。$k>0$ と合わせて $k>1$ となる。
段 2($k=0$ の場合)。式は $2x$ で、thm-qin-always の 2 の条件(1 次の係数も $0$)を満たさない。実際、$x=-1$ で $-2<0$ である。
答:$k>1$。
段 1 で $k<-1$ の側を捨てた理由を確かめる。$k=-2$ では $D=4-16=-12<0$ だが、式は $-2x^2+2x-2$ で、$x=0$ で $-2<0$ である。$D<0$ でも $x^2$ の係数が負なら、つねに負になる(prf-thm-qin-always の段 2 の状況)。

連立不等式と文字を含む不等式

連立 2 次不等式

連立不等式
$$ x^2-x-6<0,\qquad x^2-3x+2>0 $$
を解く。1 つ目の解は ex-qin-two-roots より $-2< x<3$ である。2 つ目は $x^2-3x+2=(x-1)(x-2)$ なので、prop-qin-sign-of-product の 2 より解は $x<1$ または $2< x$ である。
両方を満たす $x$ は、2 つの解の共通部分である。数直線に重ねると(図2)、$-2< x<1$ または $2< x<3$ となる。
確かめ:$x=0$ では $-6<0$、$2>0$ で両方を満たす。$x=1.5$ では $2.25-1.5-6=-5.25<0$ だが $2.25-4.5+2=-0.25<0$ で、2 つ目を満たさない。$x=2.5$ では $6.25-2.5-6=-2.25<0$、$6.25-7.5+2=0.75>0$ で両方を満たす。

連立不等式 !FORMULA[486][1233336692][0]、!FORMULA[487][607263489][0] のそれぞれの解と、その共通部分を数直線に重ねた図。白丸は端点を含まないことを表す。 連立不等式 $x^2-x-6<0$、$x^2-3x+2>0$ のそれぞれの解と、その共通部分を数直線に重ねた図。白丸は端点を含まないことを表す。

解の大小が文字で変わる不等式

$a$ を実数の定数とし、$x^2-(a+1)x+a<0$ を解く。左辺は $(x-1)(x-a)$ と因数分解できる(展開すると $x^2-ax-x+a$)。2 つの解 $1$ と $a$ の大小で場合を分ける。

  • $a>1$ のとき、prop-qin-sign-of-product の 1($\alpha=1$、$\beta=a$)より、解は $1< x< a$。
  • $a=1$ のとき、左辺は $(x-1)^2\ge0$ なので、解なし。
  • $a<1$ のとき、$\alpha=a$、$\beta=1$ として、解は $a< x<1$。
    数値で確かめる。$a=3$ なら $x^2-4x+3<0$ で解は $1< x<3$。$a=-2$ なら $x^2+x-2<0$ で解は $-2< x<1$。$a=1$ なら $x^2-2x+1<0$ で解なし。

区間の中の $x$ だけについて「つねに正」を求める問題(たとえば $0\le x\le2$ のすべての $x$ で成り立つ条件)は、区間での最小値が正であることと同じなので、2次関数の最大・最小 の場合分けで解ける。解が区間のどこにあるかを係数で決める問題は 解の配置 で扱う。

例と反例

thm-qin-main・thm-qin-always の仮定と、解き方の各段の仮定を 1 つずつ外すと、結論が崩れる。

外した仮定崩れる主張ボックス
$a>0$(2 次の係数が正)$D<0$ ならつねに正ex-qin-counter-negative
$x$ が実数全体を動くつねに正なら $D<0$ex-qin-counter-domain
不等号が $>$(等号なし)つねに成り立つ条件が $D<0$ex-qin-counter-nonstrict
割る数の符号が分かっている両辺を割っても解は同じex-qin-counter-divide
反例:2 次の係数が負

$-x^2+2x-3$ の判別式は $D=4-12=-8<0$ である。しかし $-x^2+2x-3=-(x-1)^2-2\le-2$ なので、この式はつねに負で、$-x^2+2x-3>0$ は解なしである。
満たす性質:$D<0$。満たさない性質:$a>0$。破る主張:「$D<0$ ならすべての実数で正」。$D<0$ が表すのは「$x$ 軸と交わらない」ことだけで、グラフが $x$ 軸の上にあるか下にあるかは $a$ の符号が決める。

反例:$x$ の範囲が限られているとき

$x\ge3$ を満たすすべての $x$ について、$x^2-3x+2>0$ が成り立つ。実際、$x^2-3x+2=(x-1)(x-2)$ で、$x\ge3$ なら $x-1\ge2>0$、$x-2\ge1>0$ なので積は正である。ところが判別式は $D=9-8=1>0$ である。
満たす性質:考える範囲 $x\ge3$ のすべての $x$ で正。満たさない性質:$x$ が実数全体を動くこと。破る主張:thm-qin-always の「必要」の向き(つねに正なら $D<0$)。範囲を限ると、解 $x=1,2$ が範囲の外にあれば $D>0$ でもかまわない。

反例:等号つきの不等式

$x^2-4x+4\ge0$ はすべての実数 $x$ で成り立つ(ex-qin-double-root)。しかし判別式は $D=0$ で、$D<0$ ではない。
満たす性質:すべての実数で $\ge0$。満たさない性質:不等号が等号なしの $>$ であること。破る主張:「つねに成り立つなら $D<0$」。等号つき $ax^2+bx+c\ge0$($a\ne0$)がつねに成り立つ条件は、$a>0$ かつ $D\le0$ である。$a>0$ の場合は thm-qin-main の 1〜3 から読み取れる:2 と 3 から $D\le0$ なら解はすべての実数であり、1 から $D>0$ なら $\alpha< x<\beta$ で負になる。$a<0$ の場合は、cor-qin-negative で $-1$ を掛けて $(-a)x^2-bx-c\le0$ に直してから thm-qin-main を使うと、解は 1 では $\alpha\le x\le\beta$、2 では $x=p$ だけ、3 では解なしで、どの場合も実数全体にならない。

反例:文字で両辺を割る

$x^2>x$ を解くのに、両辺を $x$ で割って $x>1$ とすると誤りである。正しくは、$x^2-x=x(x-1)>0$ なので、prop-qin-sign-of-product の 2($\alpha=0$、$\beta=1$)より、解は $x<0$ または $1< x$ である。たとえば $x=-1$ は $(-1)^2=1>-1$ を満たすが、$x>1$ には入らない。
満たさない性質:割る数 $x$ が正であること。破る主張:「両辺を同じ数で割っても不等式の解は変わらない」。負の数で割ると向きが逆になり、$0$ では割れない。移項して因数分解すれば、割る数の符号を気にせずに済む。

大学数学で見る:符号が変わるのは解のところだけ

prop-qin-sign-of-product の証明は、「1 次式 $x-\alpha$ の符号は $x=\alpha$ でだけ変わる」ことを使っていた。この考え方は、3 次以上の多項式にも、さらに一般の連続関数にも広がる。

3 次不等式を符号の表で解く

$(x+1)(x-1)(x-2)>0$ を解く。3 つの因数の符号を、解 $-1,1,2$ で区切った範囲ごとに表にする。

$x$ の範囲$x<-1$$-1< x<1$$1< x<2$$2< x$
$x+1$$-$$+$$+$$+$
$x-1$$-$$-$$+$$+$
$x-2$$-$$-$$-$$+$
積$-$$+$$-$$+$

積の符号は lem-qin-product を 2 回使って決めた(たとえば $-1< x<1$ では、$(+)\cdot(-)=(-)$、$(-)\cdot(-)=(+)$)。解は $-1< x<1$ または $2< x$ である(図3)。代表の値で確かめると、$x=-2$ で $(-1)(-3)(-4)=-12$、$x=0$ で $1\cdot(-1)\cdot(-2)=2$、$x=\dfrac32$ で $\dfrac52\cdot\dfrac12\cdot\Bigl(-\dfrac12\Bigr)=-\dfrac58$、$x=3$ で $4\cdot2\cdot1=8$ である。

!FORMULA[621][-1175701830][0] のグラフ。符号(+と−)は解 !FORMULA[622][1034452620][0] を通るたびに入れ替わり、解と解の間では一定であることを見る図。 $y=(x+1)(x-1)(x-2)$ のグラフ。符号(+と−)は解 $x=-1,1,2$ を通るたびに入れ替わり、解と解の間では一定であることを見る図。
グラフが $x$ 軸を横切らずに上から下へ移ることはない、という直観を定理にしたのが、次の 中間値の定理 である。

中間値の定理(符号の形)

$f$ が閉区間 $[s,t]$ で連続な関数で、$f(s)$ と $f(t)$ の符号が異なる($f(s)f(t)<0$)ならば、$f(c)=0$ となる $c$ が $s< c< t$ の範囲に少なくとも 1 つある。

証明について

この定理は実数に「すき間がない」こと(実数の連続性)を使って証明される。本記事では証明しない(Leb26 Theorem 3.3.8)。多項式は実数全体で連続である(これも本記事では証明しない)。証明の考え方と、この定理を使って解を追い込む二分法は 解の配置 で扱う。

解と解の間では符号が一定

$f$ を区間 $I$ で連続な関数とし、$I$ のどの点でも $f(x)\ne0$ とする。このとき、$I$ のすべての点で $f(x)>0$ であるか、$I$ のすべての点で $f(x)<0$ であるかのどちらかである。

符号の違う 2 点があるとして矛盾を導く

方針:背理法を使う。符号の違う 2 点があると仮定して、thm-qin-ivt から $0$ になる点を作り、仮定と矛盾させる。
段 1(仮定)。結論が成り立たないとする。$f$ は $I$ で $0$ にならないので、各点で正か負である。「すべて正」でも「すべて負」でもないので、$f(s)>0$ となる点 $s$ と $f(t)<0$ となる点 $t$ が $I$ の中にある。$s\ne t$ である。
段 2(区間を作る)。$s< t$ の場合を考える($t< s$ なら $s$ と $t$ の役割を入れ替えて同じ議論をする)。$I$ は区間なので、$s$ と $t$ の間の点はすべて $I$ に入る。したがって $f$ は閉区間 $[s,t]$ で連続である。
段 3(矛盾)。$f(s)f(t)<0$ なので、thm-qin-ivt により $f(c)=0$ となる $c$($s< c< t$)がある。$c$ は $I$ の点なので、「$I$ のどの点でも $f(x)\ne0$」に反する。よって、はじめの仮定が誤りで、結論が成り立つ。$\square$

thm-qin-constant-sign から、多項式の不等式の解き方が得られる。多項式 $f(x)$ の実数解を $x_1< x_2<\dots< x_m$ とすると、区間 $x< x_1$、$x_1< x< x_2$、…、$x_m< x$ のそれぞれで $f$ の符号は一定である。各区間から 1 つずつ代表の値を選んで符号を調べれば、不等式が解ける。ex-qin-cubic の代表の値 $-2,0,\dfrac32,3$ は、この方法そのものである。この方法は因数分解できなくても使える。ただし、実数解の位置が分からなければ区間を作れないので、解の個数と位置を係数から調べる方法(Sturmの定理)が大学で学ばれる。
最後に、thm-qin-always を 2 変数の式に広げる。$ax^2+bxy+cy^2$ の形の式を 2次形式 という。

2 変数の 2 次形式がつねに正になる条件

実数 $a,b,c$ について、次の 2 つは同値である。

  1. $(x,y)\ne(0,0)$ を満たすすべての実数の組 $(x,y)$ について、$ax^2+bxy+cy^2>0$。
  2. $a>0$ かつ $b^2-4ac<0$。
$y$ で割って 1 変数に直す

方針:$y\ne0$ のとき $y^2$ でくくると、$t=\dfrac xy$ の 2 次式になる。そこに thm-qin-always を使う。$q(x,y)=ax^2+bxy+cy^2$、$g(t)=at^2+bt+c$ とおく。$y\ne0$ のとき、$t=\dfrac xy$ として
$$ q(x,y)=y^2\Bigl(a\frac{x^2}{y^2}+b\frac xy+c\Bigr)=y^2\,g(t) $$
が成り立つ。
段 1(1 ⇒ 2)。1 を仮定する。$(x,y)=(1,0)$ とすると $q(1,0)=a>0$ である。次に、任意の実数 $t$ について $(x,y)=(t,1)$ とすると $q(t,1)=g(t)>0$ である。よって $g(t)$ はすべての実数 $t$ で正である。$a\ne0$ なので、thm-qin-always より $a>0$ かつ $b^2-4ac<0$ である。
段 2(2 ⇒ 1)。2 を仮定し、$(x,y)\ne(0,0)$ とする。$y=0$ なら $x\ne0$ で、$q(x,0)=ax^2>0$ である。$y\ne0$ なら、thm-qin-always より $g(t)>0$ がすべての $t$ で成り立ち、$y^2>0$ なので $q(x,y)=y^2g\bigl(\frac xy\bigr)>0$ である。$\square$

2 次形式の符号を調べる
  1. $x^2+xy+y^2$:$a=1>0$、$b^2-4ac=1-4=-3<0$ なので、$(0,0)$ 以外でつねに正である。たとえば $(1,-1)$ で $1-1+1=1>0$、$(2,-1)$ で $4-2+1=3>0$ である。
  2. $x^2+3xy+y^2$:$b^2-4ac=9-4=5>0$ なので、つねに正ではない。実際 $(1,-1)$ で $1-3+1=-1<0$ である。

1 変数の 2 次式 $ax^2$ が $x\ne0$ でつねに正であることは $a>0$ と同じであり、prop-qin-definite はその 2 変数版である。変数がさらに増えると、条件は対称行列の 正定値行列 として述べられる。2 変数の 2 次形式の判別式と 2 次曲線の関係は 2次形式と2次曲線の判別式 と 2次曲線と2次形式 で扱う。

さらに先へ

  • 多項式の不等式の解の全体は、有限個の区間と点の和集合になる。変数が 2 つ以上の多項式の不等式で表される集合は 半代数集合 と呼ばれ、実代数幾何学で調べられる。2 変数の 1 次不等式の場合は 不等式の表す領域と線形計画法 で扱う。
  • 区間の中にある実数解の個数を、解を求めずに数える方法に Sturmの定理 がある。
  • 3 次方程式の実数解の個数と判別式の関係は 3次方程式と多項式の判別式 で扱う。

関連項目

参考文献

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