同境(cobordism)とは、2 つの $n$ 次元の閉多様体 $M_0$、$M_1$ に対し、$(n+1)$ 次元のコンパクトな境界付き多様体 $W$ で $\partial W=M_0\sqcup M_1$ となるものがあるという関係である。境界に沿った貼り合わせにより同値関係になり、同値類の全体は非交和を和とする群 $\mathfrak{N}_n$ をなし、$M\sqcup M=\partial(M\times[0,1])$ より各元の 2 倍は $0$ である。境界になる閉多様体の Euler 標数は偶数なので、$\mathbb{RP}^{2k}$ は境界にならず、$\mathfrak{N}_0\cong\mathbb{Z}/2$ である。境界になるかどうかは Stiefel–Whitney 数で判定される(Pontryagin・Thom)。向きを考えると符号数が不変量になる。
前提知識: 境界付き多様体, 境界に沿った貼り合わせと連結和, 多様体の二重化, Euler標数
円周を 2 つ並べると、それは円環 $S^1\times[0,1]$ の境界になる。球面 $S^2$ は球体 $D^3$ の境界で、トーラス $S^1\times S^1$ は中身の詰まったトーラス $S^1\times D^2$ の境界である。このように、2 つの閉多様体 $M_0$、$M_1$ が 1 つ次元の高いコンパクトな多様体 $W$ の境界として $\partial W=M_0\sqcup M_1$ と一緒に現れるとき、$M_0$ と $M_1$ は同境(cobordism、コボルディズム)であるという。$S^2$ と $S^1\times S^1$ はどちらも何かの境界なので、互いに同境である。同境は微分同相よりずっと粗い関係であり、そのかわり扱いやすい。
同境は同値関係で、同値類の全体は非交和を和として群になる。どの閉多様体が境界になるかは、Pontryagin と Thom により Stiefel–Whitney 数で完全に判定される。この記事では、同境が同値関係であること、同境類が $\mathbb{Z}/2$ 上のベクトル空間をなすこと、境界になる閉多様体の Euler 標数は偶数であること(したがって偶数次元の実射影空間は境界にならないこと)、0 次元の同境群が $\mathbb{Z}/2$ であることを証明する。同境を細かくした h 同境の理論は h同境定理 で扱う。
この記事では、多様体・境界付き多様体は Hausdorff かつ第 2 可算で、「滑らか」は $C^\infty$ 級を指す。閉多様体はコンパクトで境界のない多様体のことで、連結とは限らない。空集合 $\emptyset$ も各次元の閉多様体とみる。
$n\ge0$ とし、$M_0$、$M_1$ を $n$ 次元の閉多様体とする。$M_0$ から $M_1$ への同境とは、$(n+1)$ 次元のコンパクトな境界付き多様体 $W$、$\partial W$ の開かつ閉な部分集合 $\partial_0W$、$\partial_1W$ で $\partial W=\partial_0W\sqcup\partial_1W$ となるもの、および微分同相写像 $\partial_0W\to M_0$、$\partial_1W\to M_1$ の組のことである。以下ではこの微分同相写像で $\partial_iW$ と $M_i$ を同一視し、同境を $(W;M_0,M_1)$ と書く。
$\partial_0W$、$\partial_1W$ は境界のいくつかの連結成分の和で、空でも連結でなくてもよい。$W$ 自身も連結とは限らない。
閉多様体 $M$ について、$(M\times[0,1];M\times\{0\},M\times\{1\})$ を積の同境という。同境 $(W;M_0,M_1)$ について、微分同相写像 $W\to M_0\times[0,1]$ で $M_0$ を $M_0\times\{0\}$ の上へ、$M_1$ を $M_0\times\{1\}$ の上へ写すものがあるとき、$W$ は積である(自明である)という。
$M$ には境界がないので、$M\times[0,1]$ は角をもたない境界付き多様体で、その境界は $M\times\{0,1\}$ である。
$n$ 次元の閉多様体のあいだの「同境である」という関係は同値関係である。さらに、同境 $(W;M_0,M_1)$ と $(W';M_1,M_2)$ を $M_1$ に沿って貼り合わせた多様体は、$M_0$ から $M_2$ への同境である。
反射律.積の同境 $M\times[0,1]$ は $M$ から $M$ への同境である。
対称律.$(W;M_0,M_1)$ の $\partial_0W$ と $\partial_1W$ の役割を入れ替えれば、$M_1$ から $M_0$ への同境になる。
推移律.$A:=\partial_1W$ は $\partial W$ の、$B:=\partial_0W'$ は $\partial W'$ の連結成分の和である。$M_1$ との同一視を合成した微分同相写像 $h\colon B\to A$ をとり、境界に沿った貼り合わせと連結和 の定義「境界に沿った貼り合わせ」により $X:=W\cup_hW'$ を作る。同記事の定理「貼り合わせの滑らかな構造」の (R2) により、$X$ は $(n+1)$ 次元の滑らかな境界付き多様体で、その境界は
$$
\partial X=j_W(\partial W\setminus A)\cup j_{W'}(\partial W'\setminus B)=j_W(\partial_0W)\cup j_{W'}(\partial_1W')
$$
である。$X=j_W(W)\cup j_{W'}(W')$ はコンパクト集合 2 つの和なのでコンパクトである。同じ定理の (R3) により $j_W(W)\cap j_{W'}(W')=j_W(A)$ なので、$j_W(\partial_0W)$ と $j_{W'}(\partial_1W')$ は交わらない。どちらもコンパクト集合の像で $\partial X$ の閉集合なので、互いの補集合として開集合でもある。(R3) により $j_W$ は $W\setminus A$ の上で開集合への微分同相写像なので、$\partial_0W$ を $j_W(\partial_0W)$ の上へ微分同相に写す。$j_{W'}$ も同様である。よって $(X;j_W(\partial_0W),j_{W'}(\partial_1W'))$ は $M_0$ から $M_2$ への同境である。$\square$
貼り合わせた多様体の滑らかな構造はカラーの選び方によるが、微分同相を除いて一意である(同記事の注意「構造の一意性」)。
$n$ 次元の閉多様体の同境類の集合を $\mathfrak{N}_n$ と書き、$M$ の類を $[M]$ と書く。
1.$W$ が $M$ から $M'$ への、$V$ が $N$ から $N'$ への同境なら、非交和 $W\sqcup V$ は $M\sqcup N$ から $M'\sqcup N'$ への同境なので、和は代表のとり方によらない。$M\sqcup M'$ と $M'\sqcup M$、$(M\sqcup M')\sqcup M''$ と $M\sqcup(M'\sqcup M'')$ は微分同相で、微分同相な閉多様体は同境である(微分同相写像で積の同境の一方の端を取り替えればよい)ので、和は可換かつ結合的である。$M\sqcup\emptyset=M$ なので $[\emptyset]$ は零元であり、$[M]=[\emptyset]$ は定義から $M$ が零同境であることと同じである。逆元の存在は 2 から従う。
2.ex-cob-basic の 2 により $M\sqcup M$ は零同境なので、$[M]+[M]=[M\sqcup M]=0$ である。$\square$
積 $[M]\cdot[N]:=[M\times N]$ も代表のとり方によらない。$M=\partial W$ なら $M\times N=\partial(W\times N)$ であり($N$ は閉多様体)、和について分配的だからである。こうして $\mathfrak{N}_*=\bigoplus_n\mathfrak{N}_n$ は $\mathbb{Z}/2$ 上の次数付き環になり、同境環(非有向同境環)と呼ばれる。
コンパクトな多様体は有限単体複体のレトラクトとして埋め込めるので、そのホモロジーは有限生成であり(Hat02 Corollary A.8・A.9、p. 527)、Euler 標数 $\chi(M)=\sum_k(-1)^k\operatorname{rank}H_k(M;\mathbb{Z})$ が定まる。
閉多様体 $M$ が零同境なら、$\chi(M)$ は偶数である。
$M_0$ と $M_1$ が同境なら $\chi(M_0)\equiv\chi(M_1)\pmod2$ である。$[M]\mapsto\chi(M)\bmod2$ は群の準同型 $\mathfrak{N}_n\to\mathbb{Z}/2$ である。
特異単体の像は連結なので、非交和 $X\sqcup Y$ の特異鎖複体は $X$ と $Y$ の特異鎖複体の直和であり、$H_k(X\sqcup Y)\cong H_k(X)\oplus H_k(Y)$、したがって $\chi(X\sqcup Y)=\chi(X)+\chi(Y)$ である。$M_0$ から $M_1$ への同境 $W$ は $\partial W=M_0\sqcup M_1$ をみたすので、thm-cob-euler により $\chi(M_0)+\chi(M_1)$ は偶数、すなわち $\chi(M_0)\equiv\chi(M_1)\pmod2$ である。よって写像 $[M]\mapsto\chi(M)\bmod2$ は well-defined で、上の加法性から準同型である。$\square$
Euler 標数そのものは同境で保たれない。$S^2=\partial D^3$ は $\emptyset$ と同境だが、$\chi(S^2)=2$、$\chi(\emptyset)=0$ である。保たれるのは $2$ を法とした値だけである。
$\chi(\mathbb{RP}^{2k})=1$ である(ハンドル分解 の例「Morse 関数から得られるハンドル分解」の 3)。thm-cob-euler により $\mathbb{RP}^{2k}$ は零同境でなく、$[\mathbb{RP}^{2k}]\ne0$、とくに $\mathfrak{N}_{2k}\ne0$ である。たとえば $\mathbb{RP}^2$ は、どんなコンパクトな 3 次元の境界付き多様体の境界とも微分同相でない。一方、奇数次元の $\mathbb{RP}^{2k-1}$ は零同境であるが(MS74 p. 51 がそのすべての Stiefel–Whitney 数が $0$ であることを示し、p. 53 が下の thm-cob-thom の 2 の例として挙げている)、奇数次元では Euler 標数はいつも $0$ なので、thm-cob-euler からはこの区別は見えない。$\mathbb{RP}^1=S^1$ は $D^2$ の境界である。
$[M]\mapsto(M\text{ の点の個数})\bmod2$ は同型 $\mathfrak{N}_0\cong\mathbb{Z}/2$ を与える。
0 次元の閉多様体は離散かつコンパクトなので有限集合で、$H_0(M)\cong\mathbb{Z}^{\#M}$、ほかの次数は $0$ なので $\chi(M)=\#M$ である。したがって写像は cor-cob-euler-mod2 の準同型そのもので、1 点の類を $1$ に写すので全射である。$\#M=2m$ が偶数なら、点を 2 つずつ組にして $M$ を $m$ 本の区間 $[0,1]$ の非交和の境界として表せるので $[M]=0$ である。よって核は $0$ で、同型である。$\square$
1 次元では $\mathfrak{N}_1=0$ である。コンパクトな連結な 1 次元の多様体は円周か閉区間と微分同相なので(Mil97 付録の定理、p. 55)、1 次元の閉多様体は有限個の円周の非交和であり、各円周は $D^2$ の境界だからである。
thm-cob-euler は、次の定理の最も簡単な場合である。$n$ 次元の閉多様体 $M$ の接束の Stiefel–Whitney 類 $w_i\in H^i(M;\mathbb{Z}/2)$ と $\mathbb{Z}/2$ 係数の基本類 $\mu_M\in H_n(M;\mathbb{Z}/2)$ について、$r_1+2r_2+\dots+nr_n=n$ となる非負整数の組ごとに
$$
w_1^{r_1}\cdots w_n^{r_n}[M]:=\bigl\langle w_1^{r_1}\cdots w_n^{r_n},\mu_M\bigr\rangle\in\mathbb{Z}/2
$$
を $M$ の Stiefel–Whitney 数という(MS74 §4、p. 51)。
この定理はこの記事では証明しない。1 は MS74 Theorem 4.9(p. 52)、2 は Theorem 4.10(p. 53、証明は Stong の本に委ねられている)、3 は Corollary 4.11(p. 53)である。最高次の数 $w_n[M]$ は $\chi(M)$ を $2$ で割った余りに等しいので(MS74 Corollary 11.12、p. 130)、thm-cob-euler は 1 の単項式 $w_n$ の場合にあたる。
向きを考えると、より細かい関係が得られる。向き付けられた多様体 $M$ の向きを逆にしたものを $-M$ と書く。
$M_0$、$M_1$ を向き付けられた $n$ 次元の閉多様体とする。向き付けられたコンパクトな境界付き多様体 $W$ で、境界 $\partial W$(外向きの法線を先頭に置く規約で向きを入れる)が $M_0\sqcup(-M_1)$ と向きを保って微分同相になるものがあるとき、$M_0$ と $M_1$ は向き付けられた同境である(oriented cobordant)という。
これも同値関係であり(MS74 Lemma 17.2、p. 201。$M\sqcup(-M)$ は $[0,1]\times M$ の境界と向きを保って微分同相である)、同値類の全体は非交和でアーベル群 $\Omega_n$ をなす。$\Omega_n$ では $[M]$ の逆元は $[-M]$ であり、$[M]+[M]$ は $0$ とは限らない。
MS74 p. 203 は次の値を挙げている(この記事では証明しない)。$\Omega_0\cong\mathbb{Z}$(向き付けられた 0 次元の閉多様体は符号付きの点の集まりで、符号の和が完全な不変量)、$\Omega_1=\Omega_2=0$、$\Omega_3=0$(Rohlin)、$\Omega_4\cong\mathbb{Z}$ で複素射影平面 $\mathbb{CP}^2$ の類が生成する。$\Omega_4$ を検出するのは符号数 $\sigma$ である。$\sigma$ は非交和について加法的で、向き付けられた境界の符号数は $0$ であり(MS74 Lemma 19.3、p. 224)、$\sigma(\mathbb{CP}^2)=1$ である(同 p. 225)。
したがって $\mathbb{CP}^2\sqcup\mathbb{CP}^2$(同じ向きを 2 つ)は $\sigma=2$ なので向き付けられた境界ではない。一方、向きを忘れると、ex-cob-basic の 2 により $\partial(\mathbb{CP}^2\times[0,1])$ と微分同相で、零同境である。向きを課すと、零同境であることの条件は真に強くなる。
同境は Morse 関数で細かく分解できる。すべての同境 $(W;M_0,M_1)$ に、$f^{-1}(0)=M_0$、$f^{-1}(1)=M_1$ で、臨界点がすべて内部にあって非退化な関数 $f\colon W\to[0,1]$ が存在する(Mil65 Definition 2.3、p. 8 と Theorem 2.5、p. 9)。臨界点がなければ $W$ は積であり(Mil65 Theorem 3.4、p. 21。ハンドル分解 の定理「臨界点のない区間」の境界付きの版)、臨界値のあいだの正則値で切れば、$W$ は臨界点を 1 つだけもつ同境(初等的な同境)の貼り合わせになる。指数 $\lambda$ の初等的な同境は $M_0\times[0,1]$ に $\lambda$ ハンドルを 1 つ付けたもので(Mil65 Theorem 3.13、p. 31)、上の端 $M_1$ は、$M_0$ に埋め込まれた $S^{\lambda-1}\times D^{n+1-\lambda}$ を取り除いて $D^\lambda\times S^{n-\lambda}$ を貼り直した多様体と微分同相である。この操作を手術という(Mil65 Definition 3.11、p. 29、Theorem 3.12、p. 30)。よって、同境な閉多様体は手術を有限回くり返して互いに移り合う。この段落の主張はこの記事では証明しない。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $W$ がコンパクト | $\mathbb{RP}^2$ と $W=\mathbb{RP}^2\times[0,\infty)$ | 境界になる閉多様体の Euler 標数は偶数 |
| Euler 標数を $2$ を法として見る | $S^2$ と $\emptyset$ | 同境なら Euler 標数が等しい |
| $W$ が向き付けられている(境界の向きと両立する) | $\mathbb{CP}^2\sqcup\mathbb{CP}^2$ | 境界になれば、向き付けられた境界にもなる |
| 両端の包含がホモトピー同値(h 同境) | $S^2$ と $S^1\times S^1$ | 同境な閉多様体はホモトピー同値 |
1 行目:$\mathbb{RP}^2\times[0,\infty)$ は境界 $\mathbb{RP}^2\times\{0\}$ をもつ 3 次元の境界付き多様体だが、コンパクトでない。コンパクト性を外すと、どの閉多様体 $M$ も $M\times[0,\infty)$ の境界になり、同境の概念は意味を失う。$\chi(\mathbb{RP}^2)=1$ は奇数なので、thm-cob-euler の結論が破れる。
2 行目:cor-cob-euler-mod2 の直後の段落のとおり。満たす性質は「同境である」、破る含意は「同境なら $\chi$ が等しい」である。
3 行目:ex-cob-oriented-groups の直後の段落のとおり。$\mathbb{CP}^2\times[0,1]$ は向き付け可能だが、その境界の向きは $\mathbb{CP}^2\sqcup(-\mathbb{CP}^2)$ であり、$\mathbb{CP}^2\sqcup\mathbb{CP}^2$ とは向きが合わない。
4 行目:$S^2=\partial D^3$、$S^1\times S^1=\partial(S^1\times D^2)$ なので、$D^3\sqcup(S^1\times D^2)$ は $S^2$ から $S^1\times S^1$ への同境である。しかし $H_1(S^2)=0$、$H_1(S^1\times S^1)\cong\mathbb{Z}^2$ なので、2 つはホモトピー同値でない(ホモトピー同値 の命題「基本群・ホモロジーへの帰結」)。同境の両端の包含写像がどちらもホモトピー同値であるという条件を課したものが h 同境で、単連結で次元が $6$ 以上なら、h 同境の両端は微分同相になる(h同境定理)。
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