多変数微分積分学

同義語:多変数微分積分多変数の微分積分学multivariable calculus

概要

多変数微分積分学(multivariable calculus)とは、$\mathbb{R}^n$ の開集合で定義された関数や写像について、微分と積分を調べる分野である。微分は各点で写像を最もよく近似する線形写像(Jacobi 行列)として定義され、連鎖律・Taylor の公式・逆関数定理・陰関数定理・極値の判定がその主な定理である。積分は重積分として定義され、累次積分(Fubini の定理)と Jacobi 行列式を使う変数変換公式で計算し、Green・Gauss・Stokes の積分定理が境界上の積分と内部の積分を結ぶ。有界閉区間上の積分では $f$ と $\partial f/\partial y$ が連続なら積分記号の下で微分できることなど、微分と積分の順序を入れ替える定理も基本的な道具であり、多様体論・微分幾何学・偏微分方程式の土台になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Riemann積分, 微分積分学の基本定理, 平均値の定理, 線形写像

多変数微分積分学(multivariable calculus)は、$\mathbb{R}^n$ の開集合で定義された関数や写像について、微分と積分を調べる分野である。1 変数の微分積分学では、微分は接線の傾き、積分は面積であり、両者は微分積分学の基本定理で結ばれていた。変数が増えると、微分は「各点で写像をいちばんよく近似する線形写像」になり、積分は直方体や一般の領域の上の重積分になる。両者を結ぶのは、Green・Gauss・Stokes の積分定理である。
1 変数の議論をそのまま延ばせない場面も多い。偏微分係数がすべてあっても関数が連続とは限らず、ベクトル値の写像には平均値の定理の等式の形が成り立たず、重積分の変数変換には Jacobi 行列式が現れる。多変数微分積分学の内容は、こうした違いを正確に扱いながら、線形代数を使って 1 変数の結果を延ばすことにある。
この記事は分野の入口として、基本的な概念と定理がどの記事にあるかを案内する。そのうえで、分野全体で繰り返し使われる「積分記号の下での微分」を Riemann 積分の範囲で証明する。これは多様体上の議論や偏微分方程式の解の構成で頻繁に使われる道具である。有界閉区間上の連続関数の Riemann 積分は Lebesgue 積分と一致し、偏導関数は有界閉集合の上で定数で抑えられるので、この形は 優収束定理 の定理「積分記号の下での微分」(Lebesgue 積分での形)の特別な場合でもある。ここでは Lebesgue 積分を使わず、有界閉集合上の一様連続性と平均値の定理だけで示す。

舞台:$\mathbb{R}^n$ の距離と開集合

$\mathbb{R}^n$ の点 $x=(x_1,\dots,x_n)$ の長さを $\lvert x\rvert:=\sqrt{x_1^2+\cdots+x_n^2}$ とし、距離 $\lvert x-y\rvert$ を入れる(Euclid空間)。関数や写像は、主に開集合 $U\subset\mathbb{R}^n$ の上で考える。開集合の各点のまわりには小さな球が含まれるので、どの方向にも少しずつ動いて差分をとれるからである。$\mathbb{R}^n$ の部分集合がコンパクトであることと有界閉集合であることは同値であり(コンパクト空間 の定理「有界閉集合とコンパクト性の一致」)、有界閉集合の上の連続関数は最大値・最小値をとり、一様連続である(一様連続 の定理「Heine–Cantorの定理」)。この 2 つの事実が、多変数の議論で 1 変数の閉区間の役割を果たす。

微分

写像 $f\colon U\to\mathbb{R}^m$ が点 $p\in U$ で微分可能(全微分可能)であるとは、線形写像 $A\colon\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^m$ で
$$ \lim_{h\to0}\frac{\lvert f(p+h)-f(p)-Ah\rvert}{\lvert h\rvert}=0 $$
を満たすものがあることをいう。$A$ はただ 1 つに決まり、$Df(p)$ と書く(全微分 の定義「全微分」と命題「全微分の一意性」)。$Df(p)$ を表す行列は、成分 $f_i$ の偏微分係数 $\partial f_i/\partial x_j(p)$ を並べた Jacobi行列 である(Jacobi行列 の命題「全微分の行列はJacobi行列」)。

主題中心となる主張記事と見出し
偏微分と方向微分偏微分係数・方向微分・勾配の定義偏微分
全微分1 次近似としての微分、積の微分法全微分
微分可能性の判定偏導関数が連続なら全微分可能偏微分 の定理「偏導関数が連続なら全微分可能」
合成$D(g\circ f)(p)=Dg(f(p))\,Df(p)$連鎖律 の定理「多変数の連鎖律」
平均値の不等式凸開集合上で $\lvert f(x)-f(y)\rvert\le M\lvert x-y\rvert$($M$ は $Df$ の作用素ノルムの上界)逆関数定理 の補題「凸開集合上の平均値の不等式」
定数写像連結な開集合上で $Df=0$ なら定数全微分 の定理「微分が 0 の写像は定数」

条件の強さは、「$C^1$ 級(偏導関数がすべて存在して連続)」⇒「全微分可能」⇒「連続かつ偏微分可能」の順であり、どの逆も成り立たない。連続で偏微分係数(さらにすべての方向微分)があっても全微分可能でない関数は 全微分 の例「表の 2 行目の確かめ」に、偏微分係数がすべてあっても連続でない関数は 偏微分 の例「反例:偏微分係数があっても連続でない関数」に、全微分可能だが偏導関数が連続でない関数は同じ記事の例「反例:全微分可能だが偏導関数が連続でない関数」にある。1 変数と違い、偏微分可能性は関数の振る舞いを座標軸の方向でしか見ていないので、微分可能性の定義としては弱すぎる。
ベクトル値の写像には、平均値の定理の等式の形は成り立たない。$f(t)=(\cos t,\sin t)$ は $f(2\pi)-f(0)=0$ を満たすが、$f'(t)=(-\sin t,\cos t)$ はどの $t$ でも長さ $1$ なので、$f(2\pi)-f(0)=2\pi f'(c)$ となる $c$ はない。多変数では、等式の代わりに上の表の平均値の不等式を使うか、成分ごとに 1 変数の平均値の定理を使う。

高階の微分と極値

偏微分を繰り返すと高階の偏導関数が得られる。$C^2$ 級の関数では偏微分の順序を入れ替えてよく(偏微分 の定理「偏微分の順序交換」)、2 階の偏導関数を並べた Hesse行列 は対称である(Hesse行列 の定理「Hesse 行列の対称性」)。多重指数 $\alpha$ を使うと、$C^{k+1}$ 級の関数の Taylor の公式は 1 変数と同じ形に書ける(多重指数 の定理「多変数の Taylor の公式」)。
極値の判定では、内部の極値点で勾配が $0$ になること(極値 の定理「極値点での勾配(Fermat の定理)」)と、Hesse 行列の符号による 2 階の判定(同じ記事の定理「2 階の十分条件」)が基本である。等式の条件のもとでの極値は Lagrangeの未定乗数法 で扱う。

逆写像と陰関数

$C^1$ 級の写像 $f$ の微分 $Df(p)$ が正則なら、$f$ は $p$ の近くで $C^1$ 級の逆写像をもつ(逆関数定理 の定理「逆関数定理」)。方程式 $F(x,y)=0$ を $y$ について解けるかどうかは、$y$ に関する Jacobi 行列の正則性で決まる(陰関数定理 の定理「陰関数定理」)。どちらも「微分が線形写像として良ければ、写像そのものも局所的に良い」という原理の表れであり、多様体の理論の出発点になる。

積分

主題中心となる主張記事と見出し
重積分直方体上の Riemann 積分、Jordan 可測集合重積分
累次積分重積分を 1 変数の積分の繰り返しで計算する重積分 の定理「累次積分の定理(Riemann 積分の Fubini の定理)」
変数変換$\int_Sf(g(x))\lvert\det J_g(x)\rvert\,dx=\int_{g(S)}f(u)\,du$Jacobi行列 の定理「重積分の変数変換公式」
Lebesgue 積分積測度、Tonelli・Fubini の定理Lebesgue積分, Fubiniの定理
線積分勾配の線積分は端点の値の差線積分 の定理「線積分の基本定理」
積分定理境界上の積分と内部の積分の関係Greenの定理, Gaussの発散定理, Stokesの定理
微分形式積分定理の統一と閉形式・完全形式微分形式, Poincaréの補題

重積分は、直方体を小さな直方体に分けて上限和と下限和を比べることで定義される。積分できる範囲を一般の集合に広げるには、境界の「体積が $0$」であることが要る(Jordan 可測性)。変数変換公式の $\lvert\det J_g\rvert$ は、写像 $g$ が小さな直方体の体積を何倍にするかを表しており、極座標では $r$、球座標では $r^2\sin\theta$ になる。
積分定理は 1 変数の微分積分学の基本定理を高次元に延ばしたものである。たとえば Green の定理は、区分的に滑らかな境界をもつ平面の有界領域 $D$ と、$D$ の閉包を含む開集合で $C^1$ 級の関数 $P,Q$ について、境界 $\partial D$ を正の向きにまわる線積分と $D$ 上の重積分を
$$ \int_{\partial D}(P\,dx+Q\,dy)=\iint_D\Bigl(\frac{\partial Q}{\partial x}-\frac{\partial P}{\partial y}\Bigr)dx\,dy $$
で結ぶ(Greenの定理 の定理「Green の定理」)。微分形式の言葉を使うと、これらの積分定理は $\int_{\partial M}\omega=\int_Md\omega$ という 1 つの形の式として述べられる(Stokesの定理)。

積分記号の下での微分

微分と積分を組み合わせる場面では、パラメータ $y$ を含む積分 $F(y)=\int_a^bf(t,y)\,dt$ を $y$ で微分したくなることが多い。「積分してから微分する」ことと「微分してから積分する」ことが一致するための、Riemann 積分の範囲での基本的な十分条件を述べる。
以下、$U\subset\mathbb{R}^n$ を開集合、$a< b$ とし、$[a,b]\times U$ 上の関数 $f(t,y)$($t\in[a,b]$、$y\in U$)を考える。$f$ が連続なら、各 $y$ について $t\mapsto f(t,y)$ は $[a,b]$ 上連続なので Riemann 積分できる(Riemann積分 の定理「連続関数の可積分性」)。$\partial f/\partial y_j$ は、$t$ を止めて $y$ の第 $j$ 座標について偏微分したものを表す。

パラメータを含む積分の連続性

$f\colon[a,b]\times U\to\mathbb{R}$ が連続ならば、$F(y):=\int_a^bf(t,y)\,dt$ は $U$ 上で連続である。

$y_0\in U$ と $\varepsilon>0$ をとる。$U$ は開集合なので、閉球 $\overline B:=\{y\mid\lvert y-y_0\rvert\le r\}$ が $U$ に含まれる $r>0$ がある。$K:=[a,b]\times\overline B$ は $\mathbb{R}^{1+n}$ の有界閉集合なのでコンパクトであり、$f$ は $K$ 上で一様連続である(一様連続 の定理「Heine–Cantorの定理」)。よって $0<\delta\le r$ を、$K$ の 2 点の距離が $\delta$ 未満なら $f$ の値の差が $\varepsilon$ 未満になるようにとれる。$\lvert y-y_0\rvert<\delta$ なら、各 $t$ で $(t,y)$ と $(t,y_0)$ は $K$ の距離 $\delta$ 未満の 2 点なので
$$ \lvert F(y)-F(y_0)\rvert\le\int_a^b\lvert f(t,y)-f(t,y_0)\rvert\,dt\le(b-a)\varepsilon $$
である。$\square$

積分記号の下での微分

$f\colon[a,b]\times U\to\mathbb{R}$ を連続とし、$1\le j\le n$ とする。偏導関数 $\partial f/\partial y_j$ が $[a,b]\times U$ の各点で存在して連続ならば、$F(y):=\int_a^bf(t,y)\,dt$ は $U$ の各点で $y_j$ について偏微分可能であり、
$$ \frac{\partial F}{\partial y_j}(y)=\int_a^b\frac{\partial f}{\partial y_j}(t,y)\,dt $$
が成り立つ。これがすべての $j=1,\dots,n$ について成り立てば、$F$ は $U$ 上で $C^1$ 級である。

証明の要点は、差分商を平均値の定理で偏導関数の値に置き換え、その偏導関数の一様連続性によって、差分商が $t$ について一様に極限に近づくことを示すことである。

$g:=\partial f/\partial y_j$ とおき、$e_j$ を第 $j$ 座標の単位ベクトルとする。$y_0\in U$ と $\varepsilon>0$ をとり、prf-mvc-continuity と同じく $r$ と $K=[a,b]\times\overline B$ をとる。$g$ は $K$ 上で一様連続なので、$0<\delta\le r$ を、$K$ の 2 点の距離が $\delta$ 未満なら $g$ の値の差が $\varepsilon$ 未満になるようにとれる。
$0<\lvert s\rvert<\delta$ とする。各 $t\in[a,b]$ について、$\sigma\mapsto f(t,y_0+\sigma e_j)$ は $\sigma$ の 0 と $s$ を端点とする閉区間で微分可能で、導関数は $g(t,y_0+\sigma e_j)$ である。平均値の定理 により、$0$ と $s$ の間の $\sigma_t$ で
$$ \frac{f(t,y_0+se_j)-f(t,y_0)}s=g(t,y_0+\sigma_te_j) $$
となるものがある。$(t,y_0+\sigma_te_j)$ と $(t,y_0)$ は $K$ の距離 $\lvert\sigma_t\rvert<\delta$ の 2 点なので、
$$ \Bigl\lvert\frac{f(t,y_0+se_j)-f(t,y_0)}s-g(t,y_0)\Bigr\rvert<\varepsilon\qquad(t\in[a,b]) $$
である。左辺の中の差分商は $t$ の連続関数なので積分でき、積分の線形性と単調性から
$$ \Bigl\lvert\frac{F(y_0+se_j)-F(y_0)}s-\int_a^bg(t,y_0)\,dt\Bigr\rvert\le(b-a)\varepsilon $$
を得る。$\varepsilon$ は任意なので、$\partial F/\partial y_j(y_0)$ が存在して $\int_a^bg(t,y_0)\,dt$ に等しい。
すべての $j$ でこれが成り立てば、$\partial F/\partial y_j(y)=\int_a^b\partial f/\partial y_j(t,y)\,dt$ は連続関数 $\partial f/\partial y_j$ に thm-mvc-continuity を当てたものなので $U$ 上で連続であり、$F$ は $C^1$ 級である。このとき $F$ は全微分可能でもある(偏微分 の定理「偏導関数が連続なら全微分可能」)。$\square$

同じ定理を繰り返し当てると、$f$ の $y$ についての $k$ 階までの偏導関数がすべて $[a,b]\times U$ 上で連続なら、$F$ は $C^k$ 級で、偏微分と積分を何回でも入れ替えてよいことが分かる。$f$ が複素数値なら、実部と虚部に分けて同じ結論が得られる。
積分の端点もパラメータに依存する場合は、上の定理と微分積分学の基本定理・連鎖律を組み合わせる。

端点も動く場合

$I\subset\mathbb{R}$ を開区間とし、$f\colon[a,b]\times I\to\mathbb{R}$ と $\partial f/\partial y$ が連続であるとする。$C^1$ 級の関数 $\alpha,\beta\colon I\to(a,b)$ について、$G(y):=\int_{\alpha(y)}^{\beta(y)}f(t,y)\,dt$ は $I$ 上で $C^1$ 級であり、
$$ G'(y)=f(\beta(y),y)\,\beta'(y)-f(\alpha(y),y)\,\alpha'(y)+\int_{\alpha(y)}^{\beta(y)}\frac{\partial f}{\partial y}(t,y)\,dt $$
が成り立つ。

要点:$\Phi(u,v,y):=\int_u^vf(t,y)\,dt$ を $(a,b)\times(a,b)\times I$ 上の 3 変数の関数と見て、その偏導関数が連続であることを確かめ、$G(y)=\Phi(\alpha(y),\beta(y),y)$ に連鎖律を使う。

詳細

微分積分学の基本定理(定理「積分の上端についての微分」)により $\partial\Phi/\partial v=f(v,y)$、$\partial\Phi/\partial u=-f(u,y)$ であり、これらは連続である。$\Phi(u,v,y)=\int_a^vf(t,y)\,dt-\int_a^uf(t,y)\,dt$ と書いて各項に thm-mvc-leibniz を当てると(区間 $[a,v]$、$[a,u]$ の上で。$u,v\in(a,b)$ なので $a< u$、$a< v$ である)、$\partial\Phi/\partial y=\int_u^v\partial f/\partial y(t,y)\,dt$ を得る。$h:=\partial f/\partial y$ とおき、$\lvert h\rvert\le M$ を $[a,b]\times J$($J$ は $y_0$ を内部に含む $I$ の有界閉区間)で満たす $M$ をとると、$y\in J$ で

$$\Bigl\lvert\int_u^vh(t,y)\,dt-\int_{u_0}^{v_0}h(t,y_0)\,dt\Bigr\rvert\le(b-a)\sup_{t}\lvert h(t,y)-h(t,y_0)\rvert+M(\lvert u-u_0\rvert+\lvert v-v_0\rvert)$$

であり、$h$ の $[a,b]\times J$ 上の一様連続性から右辺は $(u,v,y)\to(u_0,v_0,y_0)$ で $0$ に近づく。よって $\Phi$ の偏導関数はすべて連続で、$\Phi$ は全微分可能である(偏微分 の定理「偏導関数が連続なら全微分可能」)。連鎖律 の定理「多変数の連鎖律」により $G'(y)=\partial_u\Phi\cdot\alpha'+\partial_v\Phi\cdot\beta'+\partial_y\Phi$ であり、これが求める式である。右辺は $y$ について連続なので $G$ は $C^1$ 級である。$\square$

パラメータを入れて積分を求める

$b>0$ について $F(b):=\int_0^1\frac{x^b-1}{\log x}\,dx$ を求める。被積分関数を $f(x,b)$ とし、$x=0$ では $0$、$x=1$ では $b$ と定めると、$f$ は $[0,1]\times(0,\infty)$ 上で連続になる。$x=e^{-s}$($s>0$)と書くと $f=\frac{1-e^{-bs}}s=b\int_0^1e^{-bs\tau}\,d\tau$ であり、右辺は $s=0$ まで込めて $(s,b)$ について連続だからである($x\to0$ のときは $0< x^b< 1$ から $\lvert f\rvert\le1/\lvert\log x\rvert\to0$ が $b$ について一様に成り立つ)。また $\partial f/\partial b=x^b$($x=0$ では $0$、$x=1$ では $1$)も連続である。
thm-mvc-leibniz により $F'(b)=\int_0^1x^b\,dx=\frac1{b+1}$ であり、$F(b)=\log(1+b)+C$ となる。$1-e^{-u}\le u$($u\ge0$)から $\lvert f(x,b)\rvert\le b$ なので $\lvert F(b)\rvert\le b\to0$($b\to0$)であり、$C=0$ である。よって $F(b)=\log(1+b)$ で、たとえば $\int_0^1\frac{x-1}{\log x}\,dx=\log2$ である。

thm-mvc-leibniz は積分区間が有界閉区間の場合の定理である。積分区間が無限区間の場合や、被積分関数が有界でない場合には、偏導関数を $y$ によらない可積分関数で抑えるという条件のもとで、Lebesgue 積分の優収束定理を使って同じ結論が得られる(優収束定理 の定理「積分記号の下での微分」)。

仮定の役割:反例

外す条件反例成り立たなくなること
thm-mvc-continuity の積分区間が有界閉区間$[0,\infty)\times\mathbb{R}$ 上の $f(t,y)=y\,e^{-\lvert y\rvert t}$$F$ が連続である
thm-mvc-leibniz の $\partial f/\partial y$ の連続性$[0,1]\times\mathbb{R}$ 上の $f(t,y)=2t\,e^{-t^2/\lvert y\rvert}\operatorname{sgn}y$($y\ne0$)、$f(t,0)=0$$F'(0)=\int_0^1\frac{\partial f}{\partial y}(t,0)\,dt$
平均値の定理 の値が実数(ベクトル値にする)$f(t)=(\cos t,\sin t)$ を $[0,2\pi]$ で考える$f(2\pi)-f(0)=2\pi f'(c)$ となる $c$ がある
反例の確かめ

1 行目:$\lvert f(t,y)\rvert\le\lvert y\rvert$ なので $f$ は連続である。$y\ne0$ なら $F(y)=\int_0^\infty ye^{-\lvert y\rvert t}\,dt=y/\lvert y\rvert$、$F(0)=0$ なので、$F$ は $0$ で連続でない。
2 行目:$y\ne0$ のとき $0\le t\,e^{-t^2/\lvert y\rvert}\le\sqrt{\lvert y\rvert/2}\,e^{-1/2}$(左辺の $t$ についての最大値)なので、$f$ は $(t,0)$ でも連続である。$t>0$ なら $f(t,y)/y=2te^{-t^2/\lvert y\rvert}/\lvert y\rvert\to0$($y\to0$)、$t=0$ なら $f(0,y)=0$ なので、$\frac{\partial f}{\partial y}(t,0)=0$ であり、$y\ne0$ では $\frac{\partial f}{\partial y}$ は普通に計算できる。一方 $y>0$ で $F(y)=\bigl[-ye^{-t^2/y}\bigr]_0^1=y(1-e^{-1/y})$、$y<0$ でも $F(y)=y(1-e^{-1/\lvert y\rvert})$ なので、$F'(0)=\lim_{y\to0}(1-e^{-1/\lvert y\rvert})=1\ne0$ である。$\frac{\partial f}{\partial y}$ は $t=\sqrt y$($y>0$)に沿って $\frac{\partial f}{\partial y}=2t\cdot\frac{t^2}{y^2}e^{-t^2/y}=\frac{2}{e\sqrt y}$ となり、$(0,0)$ の近くで有界でもない。
3 行目:本文の「微分」の節で確かめた。$\lvert f'(t)\rvert=1$ なので $2\pi f'(c)\ne0=f(2\pi)-f(0)$ である。

さらに先へ

多変数微分積分学の上に、いくつもの分野が建てられている。座標を張り合わせて曲がった空間の上で微分積分を行うのが多様体の理論であり、その上で長さや曲率を調べるのが微分幾何学である。関数の滑らかさを数量的に測る Hölder空間の基本事項 や Sobolev空間、曲面の面積や余面積の公式を測度論で扱う Hausdorff測度と面積・余面積公式 は、偏微分方程式や幾何学的測度論の基礎になる。

文献

Leb26b は第 8 章で多変数の微分(全微分・連鎖律・逆関数定理と陰関数定理・高階の微分)、第 9 章で線積分、第 10 章で重積分(Fubini の定理・Green の定理・変数変換)を扱う。thm-mvc-leibniz は Leb26b Theorem 9.1.1(pp. 65–66)と同じ内容で、そこでは $y$ が 1 変数の閉区間の場合を一様収束の議論で示している。thm-mvc-continuity の 1 変数の閉区間の場合は Leb26a Proposition 7.5.12(p. 292)にある。ex-mvc-feynman は Leb26b Example 9.1.3(p. 67)と同じ積分である。

関連項目

参考文献

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