データを合わせたときの平均と分散(combined mean and variance)とは、データを $k$ 個の群に分け、群 $j$ の個数・平均・分散を $n_j,\ \bar x_j,\ s_j^2$、全体を $n,\ \bar x,\ s^2$ とするとき(分散は偏差の 2 乗の平均)、全体の値を群ごとの値から求める公式である。$\bar x=\frac1n\sum_jn_j\bar x_j$ であり、全体の分散は群内の分散 $\frac1n\sum_jn_js_j^2$ と群間の分散 $\frac1n\sum_jn_j(\bar x_j-\bar x)^2$ の和になる。2 群では群間の分散が $\frac{n_1n_2}{n^2}(\bar x_1-\bar x_2)^2$ になる。全体の分散が群の分散の加重平均に等しいのは、群の平均がすべて等しいときに限る。
同じテストを A 組と B 組で行い、組ごとに平均と分散を計算した。学年全体(2 つの組を合わせた全員)の平均と分散を知りたいが、手元には組ごとの人数・平均・分散しか残っていない。それだけで全体の値が求まるだろうか。
この記事では、データの分散を高校の教科書と同じく「偏差の 2 乗の平均」で定める。データ $x_1,\dots,x_n$ の平均を $\bar x$ とすると、分散は $s^2=\dfrac1n\sum_{i=1}^n(x_i-\bar x)^2$、標準偏差はその正の平方根 $s$ である。
A 組は 20 人で平均 60 点、分散 100、B 組は 30 人で平均 70 点、分散 64 だった。
(1) 全体の平均。A 組の得点の合計は $20\times60=1200$ 点、B 組の合計は $30\times70=2100$ 点である。全体は $50$ 人で合計 $3300$ 点だから、平均は
$$
\frac{1200+2100}{50}=\frac{3300}{50}=66
$$
点である。2 つの平均の単純な平均 $\dfrac{60+70}2=65$ ではない。人数の多い B 組の平均に近い側へずれる。
(2) 全体の分散を、分散どうしの単純な平均 $\dfrac{100+64}2=82$ とするのは正しくない。人数で重みをつけた平均 $\dfrac{20\times100+30\times64}{50}=\dfrac{2000+1920}{50}=78.4$ でも、まだ足りない。この記事の thm-pmv-two で示すように、正しい値は
$$
78.4+\frac{20\times30}{50^2}\times(70-60)^2=78.4+24=102.4
$$
である。足りなかった $24$ は、「2 つの組の平均どうしが離れている」ことから生まれるばらつきである。
A のデータを $1,3,5$、B のデータを $6,10$ とする。
この記事では次の問いに答える。
| 高校の計算 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| 合計を足して人数で割る | 群の平均の加重平均 | 重み付きの平均 |
| 組の中のばらつき | 群内の分散 | 群内平方和を $n$ で割ったもの |
| 組の平均どうしのばらつき | 群間の分散 | 群間平方和を $n$ で割ったもの |
| 偏差を 2 つに分けて 2 乗する | 分散の分解 | 直交分解と三平方の定理 |
データ全体を、互いに重ならない $k$ 個の 群 に分ける。群 $j$($j=1,\dots,k$)に入るデータの個数を $n_j$($n_j\ge1$)、その平均を $\bar x_j$、分散を $s_j^2$ とする。全体の個数を $n=n_1+\cdots+n_k$、全体の平均を $\bar x$、全体の分散を $s^2$ とする。次の 2 つの量を定める。
(R1) 群内の分散:$s_W^2=\dfrac{n_1s_1^2+n_2s_2^2+\cdots+n_ks_k^2}{n}$。各群の分散を、個数で重みをつけて平均したものである。
(R2) 群間の分散:$s_B^2=\dfrac{n_1(\bar x_1-\bar x)^2+\cdots+n_k(\bar x_k-\bar x)^2}{n}$。各データをその群の平均に置き換えたデータ($\bar x_j$ が $n_j$ 個ずつ並んだデータ)の、全体の平均のまわりの散らばりである。
記号の W は「群の中」(within)、B は「群の間」(between)の頭文字である。群 $j$ に入るデータを $x_{j1},x_{j2},\dots,x_{jn_j}$ と 2 つの添字で書くと、
$$
\bar x_j=\frac1{n_j}\sum_{i=1}^{n_j}x_{ji},\qquad s_j^2=\frac1{n_j}\sum_{i=1}^{n_j}(x_{ji}-\bar x_j)^2
$$
である。
どちらの例でも $s^2=s_W^2+s_B^2$ が成り立っている。これが一般に成り立つことを次の節で示す。図 1 は ex-pmv-small のデータで、データ $10$ の全体の平均からの偏差 $10-5=5$ が、「群の平均からの偏差」$10-8=2$ と「群の平均と全体の平均の差」$8-5=3$ に分かれる様子を描いている。
データ 1, 3, 5(丸)と 6, 10(四角)。データ 10 の全体の平均 5 からの偏差 5 は、B の平均 8 からの偏差 2 と、B の平均と全体の平均の差 3 に分かれる
証明では、平均値と二乗誤差 の定理「平均値は二乗誤差の和を最小にする」の等式を使う。データ $y_1,\dots,y_m$ の平均を $\bar y$ とすると、すべての実数 $a$ について
$$
\sum_{i=1}^m(y_i-a)^2=\sum_{i=1}^m(y_i-\bar y)^2+m(\bar y-a)^2
$$
が成り立つ。以下、この等式を $(*)$ と呼ぶ(証明はその記事にある。$y_i-a=(y_i-\bar y)+(\bar y-a)$ と分けて 2 乗し、偏差の和が $0$ であることで真ん中の項を消す)。
def-pmv-groups の記号で、次が成り立つ。
(R1) 全体の平均は、群の平均を個数で重みをつけて平均したものである:
$$
\bar x=\frac{n_1\bar x_1+n_2\bar x_2+\cdots+n_k\bar x_k}{n}.
$$
(R2) 全体の分散は、群内の分散と群間の分散の和である:
$$
s^2=s_W^2+s_B^2=\frac{\sum_{j=1}^kn_js_j^2}{n}+\frac{\sum_{j=1}^kn_j(\bar x_j-\bar x)^2}{n}.
$$
方針:(i) は合計を群ごとに分けて足すだけである。(ii) は、全体の偏差の 2 乗の和を群ごとの和に分け、各群に $(*)$ を $a=\bar x$ として使う。
段 1((i) の証明)。群 $j$ のデータの合計は、平均の定義から $\sum_{i=1}^{n_j}x_{ji}=n_j\bar x_j$ である。全体の合計は各群の合計を足したものなので
$$
n\bar x=\sum_{j=1}^k\sum_{i=1}^{n_j}x_{ji}=\sum_{j=1}^kn_j\bar x_j
$$
であり、両辺を $n$ で割ると (i) を得る。
段 2(全体の和を群ごとに分ける)。分散の定義から $ns^2$ は全体の偏差の 2 乗の和である。データを群ごとにまとめて足すと
$$
ns^2=\sum_{j=1}^k\Bigl(\sum_{i=1}^{n_j}(x_{ji}-\bar x)^2\Bigr)
$$
である。かっこの中は「群 $j$ のデータの、全体の平均 $\bar x$ からのずれの 2 乗の和」である。ここで $\bar x$ は群 $j$ の平均ではないことに注意する。
段 3(各群に $(*)$ を使う)。群 $j$ のデータ $x_{j1},\dots,x_{jn_j}$(平均 $\bar x_j$)に、$(*)$ を $a=\bar x$ として使うと
$$
\sum_{i=1}^{n_j}(x_{ji}-\bar x)^2=\underbrace{\sum_{i=1}^{n_j}(x_{ji}-\bar x_j)^2}_{=\,n_js_j^2}+\,n_j(\bar x_j-\bar x)^2
$$
である。第 1 項は群 $j$ の分散の定義から $n_js_j^2$ に等しい。
段 4(足し合わせる)。段 3 の式を $j=1,\dots,k$ について足し、段 2 に代入すると
$$
ns^2=\sum_{j=1}^kn_js_j^2+\sum_{j=1}^kn_j(\bar x_j-\bar x)^2
$$
である。両辺を $n$ で割ると、def-pmv-groups の定義により $s^2=s_W^2+s_B^2$ である。$\square$
段 3 で使ったのは、「ずれを測る基準の点 $a$ を、群の平均 $\bar x_j$ から全体の平均 $\bar x$ に動かすと、ずれの 2 乗の和は $n_j(\bar x_j-\bar x)^2$ だけ増える」ということである。全体の平均は、どの群にとっても自分の平均ではないので、各群からこの増分が出る。その増分を集めたものが群間の分散である。
定理から、組ごとの 人数・平均・分散の 3 つ が分かれば、もとのデータがなくても全体の平均と分散が求まる。問い 1 の答えは「求まる」である。
データ $1,1,3,3\ \mid\ 3,4,6,7\ \mid\ 10,12$ を 3 つの群に分ける。
| 群 | データ | 個数 $n_j$ | 平均 $\bar x_j$ | 偏差 | 分散 $s_j^2$ |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | $1,1,3,3$ | $4$ | $2$ | $-1,-1,1,1$ | $\frac44=1$ |
| 2 | $3,4,6,7$ | $4$ | $5$ | $-2,-1,1,2$ | $\frac{10}4=\frac52$ |
| 3 | $10,12$ | $2$ | $11$ | $-1,1$ | $\frac22=1$ |
群が 2 つのときは、群間の分散が 2 つの平均の差だけで書ける。全体の平均を計算しなくても、群間の分散が求まる。
def-pmv-groups の記号で $k=2$ とする。$n=n_1+n_2$ として
$$
s^2=\frac{n_1s_1^2+n_2s_2^2}{n}+\frac{n_1n_2}{n^2}(\bar x_1-\bar x_2)^2
$$
が成り立つ。
方針:thm-pmv-main の (ii) の群間の分散 $s_B^2$ に、(i) から求めた $\bar x_1-\bar x$、$\bar x_2-\bar x$ を代入する。
段 1(平均との差を求める)。thm-pmv-main の (i) より $\bar x=\dfrac{n_1\bar x_1+n_2\bar x_2}{n}$ である。$n=n_1+n_2$ なので $\bar x_1=\dfrac{(n_1+n_2)\bar x_1}{n}$ と書けて
$$
\bar x_1-\bar x=\frac{(n_1+n_2)\bar x_1-n_1\bar x_1-n_2\bar x_2}{n}=\frac{n_2(\bar x_1-\bar x_2)}{n}
$$
である。同じように $\bar x_2-\bar x=\dfrac{n_1(\bar x_2-\bar x_1)}{n}$ である。
段 2(群間の分散に代入する)。$d=\bar x_1-\bar x_2$ とおく。段 1 より $(\bar x_1-\bar x)^2=\dfrac{n_2^2d^2}{n^2}$、$(\bar x_2-\bar x)^2=\dfrac{n_1^2d^2}{n^2}$ なので
$$
s_B^2=\frac1n\Bigl(n_1\cdot\frac{n_2^2d^2}{n^2}+n_2\cdot\frac{n_1^2d^2}{n^2}\Bigr)=\frac{n_1n_2(n_2+n_1)\,d^2}{n^3}=\frac{n_1n_2\,d^2}{n^2}
$$
である(最後に $n_1+n_2=n$ で約分した)。
段 3(まとめる)。thm-pmv-main の (ii) $s^2=s_W^2+s_B^2$ に $s_W^2=\dfrac{n_1s_1^2+n_2s_2^2}{n}$ と段 2 を代入すると、主張の式になる。$\square$
群間の項 $\dfrac{n_1n_2}{n^2}(\bar x_1-\bar x_2)^2$ は、2 つの割合 $\dfrac{n_1}n$ と $\dfrac{n_2}n$ の積に、平均の差の 2 乗を掛けたものである。2 つの割合の和は $1$ なので、積 $\dfrac{n_1}n\cdot\dfrac{n_2}n$ は $\dfrac14$ 以下で、人数が半々のとき最大の $\dfrac14$ になる(相加平均と相乗平均の関係)。
図 2 は、ex-pmv-classes の人数・平均・分散をもつデータを 1 つ作って、2 つの組のヒストグラムを積み上げたものである(A 組の得点は $43,44,45,47,55,56,57,57,59,59,61,61,63,63,64,65,73,75,76,77$、B 組の得点は 30 個で、どちらも平均と分散が ex-pmv-classes のとおりになるように作った)。A 組は左に、B 組は右に寄っていて、全体の平均 $66$ は 2 つの組の平均の間にある。組の中の散らばりに、組どうしのずれが上乗せされて、全体の散らばりが大きくなる。
平均 60・分散 100 の A 組 20 人と、平均 70・分散 64 の B 組 30 人の得点のヒストグラム(積み上げ)。点線は各組の平均、破線は全体の平均 66
群の平均がすべて等しければ群間の分散は $0$ になる。逆も成り立つ。
def-pmv-groups の記号で、つねに $s^2\ge s_W^2$ である。等号 $s^2=s_W^2$ が成り立つのは、群の平均 $\bar x_1,\dots,\bar x_k$ がすべて等しいときに限る。
段 1。thm-pmv-main の (ii) より $s^2-s_W^2=s_B^2$ である。$s_B^2$ は $0$ 以上の数 $n_j(\bar x_j-\bar x)^2$ の和を $n$ で割ったものなので $0$ 以上であり、$s^2\ge s_W^2$ を得る。
段 2(等号の条件)。$s_B^2=0$ とすると、$0$ 以上の数の和が $0$ なので、各項 $n_j(\bar x_j-\bar x)^2$ が $0$ である。$n_j\ge1$ なので $\bar x_j=\bar x$ がすべての $j$ で成り立ち、群の平均はすべて $\bar x$ に等しい。
段 3(逆)。群の平均がすべて同じ値 $c$ に等しいとする。thm-pmv-main の (i) より $\bar x=\dfrac{n_1c+\cdots+n_kc}{n}=c$ なので、$\bar x_j-\bar x=0$ がすべての $j$ で成り立ち、$s_B^2=0$ すなわち $s^2=s_W^2$ である。$\square$
データ $1,5$(平均 $3$、分散 $\dfrac{4+4}2=4$)と $2,3,4$(平均 $3$、分散 $\dfrac{1+0+1}3=\dfrac23$)を合わせる。群の平均が等しいので、系より全体の分散は
$$
s^2=s_W^2=\frac{2\cdot4+3\cdot\frac23}{5}=\frac{8+2}5=2
$$
である。直接計算しても、$1,2,3,4,5$ の平均は $3$、偏差の 2 乗の和は $4+1+0+1+4=10$ で、分散は $\dfrac{10}5=2$ になる。
もう 1 つ、群の大きさが $1$ の場合を見ておく。データが 1 個だけの群は、平均がその値で、分散は $0$ である。したがって thm-pmv-two は「データを 1 個追加したとき、分散がどう変わるか」も教えてくれる。
ex-pmv-classes の A 組(20 人、平均 60、分散 100)に、後から受けた 1 人の得点 90 を加える。thm-pmv-two で $n_1=20$、$\bar x_1=60$、$s_1^2=100$、$n_2=1$、$\bar x_2=90$、$s_2^2=0$、$n=21$ とする。
(1) 平均は $\dfrac{20\cdot60+90}{21}=\dfrac{1290}{21}=\dfrac{430}7=61.43\ldots$ である。
(2) 分散は
$$
\frac{20\cdot100+1\cdot0}{21}+\frac{20\cdot1}{21^2}(60-90)^2=\frac{2000}{21}+\frac{20\cdot900}{441}=\frac{42000+18000}{441}=\frac{60000}{441}=\frac{20000}{147}=136.05\ldots
$$
である。1 人加わるだけで、分散は $100$ から約 $136$ に増える。平均から $30$ 点離れた値の影響は、人数で割っても小さくならない。
組ごとに「2 乗の平均」を使って計算する方法もある。平均値と二乗誤差 の系「分散の公式」$s^2=\overline{x^2}-\bar x^2$ を各群に使うと、群 $j$ の 2 乗の平均は $s_j^2+\bar x_j^2$ である。
ex-pmv-classes で、A 組の 2 乗の平均は $100+60^2=3700$、B 組は $64+70^2=4964$ である。全体の 2 乗の平均は、thm-pmv-main の (i) と同じく個数で重みをつけた平均で
$$
\frac{20\cdot3700+30\cdot4964}{50}=\frac{74000+148920}{50}=\frac{222920}{50}=4458.4
$$
となる。分散の公式から、全体の分散は $4458.4-66^2=4458.4-4356=102.4$ で、ex-pmv-two-check と一致する。
この計算は、thm-pmv-main の (ii) の別の証明にもなっている。
「2 乗の平均」も平均の一種なので、(i) と同じく群ごとの個数で重みをつけた平均になる。これと分散の公式を組み合わせると (ii) が出る。
段 1.全体の 2 乗の和は群ごとの 2 乗の和の合計で、群 $j$ の 2 乗の和は $n_j(s_j^2+\bar x_j^2)$ だから、全体の 2 乗の平均は $\overline{x^2}=\dfrac1n\sum_jn_j(s_j^2+\bar x_j^2)$ である。
段 2.分散の公式より $s^2=\overline{x^2}-\bar x^2=\dfrac1n\sum_jn_js_j^2+\Bigl(\dfrac1n\sum_jn_j\bar x_j^2-\bar x^2\Bigr)$ である。
段 3.かっこの中は、$\bar x_j$ が $n_j$ 個ずつ並んだデータ(平均は (i) より $\bar x$)の「2 乗の平均 − 平均の 2 乗」なので、分散の公式によりそのデータの分散 $\dfrac1n\sum_jn_j(\bar x_j-\bar x)^2=s_B^2$ に等しい。よって $s^2=s_W^2+s_B^2$ である。
簡単な「合わせ方」は、どれもある条件のもとでは正しい。その条件を外すと誤りになる。表の各行の「外す条件」は、その合わせ方が正しくなるための条件である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 群の個数がすべて等しい | ex-pmv-cx-simple-mean(20 人と 30 人) | 全体の平均は群の平均の単純な平均に等しい |
| 群の個数がすべて等しく、群の平均もすべて等しい(例では 2 つとも破れている) | ex-pmv-cx-simple-var | 全体の分散は群の分散の単純な平均に等しい |
| 群の平均がすべて等しい(cor-pmv-equal-means の条件) | ex-pmv-cx-weighted | 全体の分散は群内の分散 $s_W^2$ に等しい |
| 群の平均がすべて等しく、群の標準偏差もすべて等しい(例では標準偏差だけが破れている) | ex-pmv-cx-sd | 全体の標準偏差は群の標準偏差の加重平均に等しい |
図 3 は、ex-pmv-classes のデータで、表の 2〜4 行目の合わせ方が出す値と正しい値を比べたものである。どの誤った合わせ方も群間の分散 $24$ を含んでおらず、この例ではどれも正しい値 $102.4$ より小さい。
2 つの組の成績を合わせた分散。正しい値 102.4 は群内の分散 78.4 と群間の分散 24 の和で、分散の単純平均 82、分散の加重平均 78.4、標準偏差の加重平均の 2 乗 77.44 はどれも小さい
群の個数がすべて $m$ に等しければ、$n=km$ で、thm-pmv-main の (i) より $\bar x=\dfrac{m(\bar x_1+\cdots+\bar x_k)}{km}=\dfrac{\bar x_1+\cdots+\bar x_k}{k}$ となり、単純な平均で正しい。
ex-pmv-classes では個数が $20$ と $30$ で異なり、単純な平均 $\dfrac{60+70}2=65$ は正しい平均 $66$ と一致しない。正しい平均は人数の多い B 組の平均 $70$ の側へ寄る。
群の個数がすべて等しく、群の平均もすべて等しければ、cor-pmv-equal-means より $s^2=s_W^2$ で、個数が等しいので $s_W^2$ は群の分散の単純な平均になり、正しい。
ex-pmv-classes では、単純な平均 $\dfrac{100+64}2=82$ は正しい値 $102.4$ と一致しない。この例では、個数が等しいという条件と、平均が等しいという条件の両方が破れている。個数が等しくても平均が違えば誤りになる例として、ex-pmv-small の群 1 の代わりに $1,5$(平均 $3$、分散 $4$)を、群 2 に $6,10$(平均 $8$、分散 $4$)をとると、単純な平均は $4$ だが、全体 $1,5,6,10$ の分散は平均 $5.5$ のまわりで $\dfrac{20.25+0.25+0.25+20.25}4=\dfrac{41}4=10.25$ である(thm-pmv-two でも $4+\dfrac{2\cdot2}{16}\cdot25=4+6.25=10.25$)。
ex-pmv-classes では群の平均が $60$ と $70$ で異なる。群内の分散 $s_W^2=78.4$ だけを全体の分散とすると、群間の分散 $s_B^2=24$ を落とし、正しい値 $102.4$ より小さくなる。cor-pmv-equal-means が示すとおり、群の平均が 1 つでも異なれば $s_B^2>0$ で、$s_W^2$ は全体の分散より真に小さい。
分散の分解は、データをベクトルとみると三平方の定理である。全体の $n$ 個のデータを並べたベクトル $\boldsymbol x$ から、全員に全体の平均 $\bar x$ を並べたベクトルを引いた偏差ベクトルを考える。各データ $x_{ji}$ の偏差を
$$
x_{ji}-\bar x=\underbrace{(x_{ji}-\bar x_j)}_{\text{群の中のずれ}}+\underbrace{(\bar x_j-\bar x)}_{\text{群どうしのずれ}}
$$
と分けると、偏差ベクトルは「群の中のずれ」を並べたベクトル $\boldsymbol w$ と「群どうしのずれ」を並べたベクトル $\boldsymbol b$ の和になる。
$\boldsymbol w$ と $\boldsymbol b$ の内積(成分ごとの積の和)は、群ごとにまとめると $\sum_j(\bar x_j-\bar x)\sum_i(x_{ji}-\bar x_j)$ である。群 $j$ の偏差の和 $\sum_i(x_{ji}-\bar x_j)$ は $0$ なので(平均値と二乗誤差 の補題「偏差の和は 0」)、内積は $0$ で、2 つのベクトルは直交する。直交する 2 つのベクトルの和の長さの 2 乗は、それぞれの長さの 2 乗の和になる(三平方の定理)。長さの 2 乗は $\lvert\boldsymbol w\rvert^2=ns_W^2$、$\lvert\boldsymbol b\rvert^2=ns_B^2$、偏差ベクトルの長さの 2 乗は $ns^2$ なので、これは $s^2=s_W^2+s_B^2$ そのものである。$\boldsymbol b$ は、偏差ベクトルを「群ごとに一定の値をとるベクトル」全体の集まりへ正射影したものに当たる。正射影と最短距離の関係は 正射影と射影行列 で扱う。
確率変数でも同じ形の等式がある。試行の結果をいくつかの場合に分け、各場合での平均(条件つきの期待値)と分散を考えると、全体の分散は「各場合の分散の平均」と「各場合の平均の分散」の和になる。データを $1$ 個ずつ等しい確率で選ぶ場合には、これはこの記事の thm-pmv-main に一致する。この記事では確率変数の場合は証明しない。
1 組は 10 人で平均 50、分散 20、2 組は 15 人で平均 54、分散 30、3 組は 25 人で平均 60、分散 40 だった。3 つの組を合わせた 50 人の平均と分散を求めよ。
平均は $\dfrac{10\cdot50+15\cdot54+25\cdot60}{50}=\dfrac{500+810+1500}{50}=\dfrac{2810}{50}=56.2$。群内の分散は $\dfrac{10\cdot20+15\cdot30+25\cdot40}{50}=\dfrac{200+450+1000}{50}=33$。群間の分散は $\dfrac{10\cdot(-6.2)^2+15\cdot(-2.2)^2+25\cdot3.8^2}{50}=\dfrac{384.4+72.6+361}{50}=\dfrac{818}{50}=16.36$。よって全体の分散は $33+16.36=49.36$。2 乗の平均で計算すると、$\dfrac{10\cdot2520+15\cdot2946+25\cdot3640}{50}=\dfrac{25200+44190+91000}{50}=3207.8$、$3207.8-56.2^2=3207.8-3158.44=49.36$ で一致する。
2 つの群の分散がどちらも $\sigma^2$ に等しいとき、合わせた分散が $\sigma^2$ に等しくなるための必要十分条件を求めよ。
thm-pmv-two より $s^2=\dfrac{n_1\sigma^2+n_2\sigma^2}{n}+\dfrac{n_1n_2}{n^2}(\bar x_1-\bar x_2)^2=\sigma^2+\dfrac{n_1n_2}{n^2}(\bar x_1-\bar x_2)^2$ である。$n_1n_2>0$ なので、$s^2=\sigma^2$ となるのは $\bar x_1=\bar x_2$ のとき、かつそのときに限る。群の平均が違えば、分散が等しい群を合わせても分散は必ず増える。
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