Galoisコホモロジー(Galois cohomology)とは、体 $k$ の絶対 Galois 群 $G_k = \operatorname{Gal}(k^{\mathrm{s}}/k)$ が連続に作用する離散加群 $M$ について、連続コチェインを用いて定める群コホモロジー $H^n(k, M) = H^n(G_k, M)$ のことである。正の次数では捩れ群になる。Hilbert の定理 90 により $H^1(k, \mathbb{G}_m) = 0$ であり、$n$ が標数で割り切れなければ $H^1(k, \mu_n) \cong k^\times/(k^\times)^n$ となる(Kummer 理論)。$H^2(k, \mathbb{G}_m)$ は体の Brauer 群であり、非可換な $H^1$ は代数的対象の捻れた形を分類する。
前提知識: 射有限群, Galois理論, 群コホモロジー, アーベル群
レベル: 学部上級〜大学院
$G$ を射有限群とする。$G$ 加群 $M$($G$ が群準同型として作用するアーベル群)が離散 $G$ 加群であるとは、各 $m \in M$ の固定部分群 $\{\, g \in G \mid gm = m \,\}$ が $G$ の開部分群であることをいう。これは、$M$ に離散位相を入れたとき作用 $G \times M \to M$ が連続であることと同値であり、また $M = \bigcup_U M^U$($U$ は開正規部分群を動く)とも同値である。
$n \ge 0$ について、連続写像 $G^n \to M$ の全体を $C^n(G, M)$ とする($G^0$ は 1 点、$M$ は離散位相)。$d \colon C^n(G, M) \to C^{n+1}(G, M)$ を
$$
\begin{aligned}
(df)(g_1, \ldots, g_{n+1}) = {} & g_1 f(g_2, \ldots, g_{n+1}) \\
& + \sum_{i=1}^{n} (-1)^i f(g_1, \ldots, g_i g_{i+1}, \ldots, g_{n+1}) + (-1)^{n+1} f(g_1, \ldots, g_n)
\end{aligned}
$$
で定めると $d \circ d = 0$ であり、そのコホモロジー
$$
H^n(G, M) := \ker\bigl(d \colon C^n \to C^{n+1}\bigr) / \operatorname{im}\bigl(d \colon C^{n-1} \to C^n\bigr)
$$
を $G$ の $M$ 係数の(連続)コホモロジーという。
低い次数では次のように具体的に書ける。
$k$ を体、$k^{\mathrm{s}}$ をその分離閉包、$G_k := \operatorname{Gal}(k^{\mathrm{s}}/k)$ を絶対 Galois 群(射有限群)とする。離散 $G_k$ 加群 $M$ について
$$
H^n(k, M) := H^n(G_k, M)
$$
を $k$ の $M$ 係数の Galois コホモロジー(Galois cohomology)という。$k$ 上の可換な代数群 $A$(たとえば $\mathbb{G}_m$、$\mu_n$、アーベル多様体)については、$A(k^{\mathrm{s}})$ が離散 $G_k$ 加群であり、$H^n(k, A) := H^n(G_k, A(k^{\mathrm{s}}))$ と書く。
分離閉包の取り替えは $G_k$ の内部自己同型の違いしか生まず、内部自己同型はコホモロジーに自明に作用するので、$H^n(k, M)$ は分離閉包の選び方によらず標準的に定まる(Ser97 第 I 章)。
$A$ を、$G$ が群の自己同型として連続に作用する離散群(可換とは限らない)とする。$a_{gh} = a_g \cdot g(a_h)$ をみたす連続写像 $g \mapsto a_g$ を 1 コサイクルといい、2 つの 1 コサイクル $a, a'$ は、ある $b \in A$ で $a'_g = b^{-1} a_g\, g(b)$ となるとき同値であるという。同値類の集合を $H^1(G, A)$ と書く。これは自明なコサイクルの類を基点とする点付き集合であり、一般には群ではない。$A$ が可換なら上の $H^1$ と一致する。
Galois コホモロジーは、「$k^{\mathrm{s}}$ の上では見えるが $k$ の上では見えないもの」を測る道具である。$H^0$ は $k$ 上で定義された元、$H^1$ は $k^{\mathrm{s}}$ の上では自明になるが $k$ の上では自明とは限らない捻れた形やトーサー、$H^2$ はその次の段階の障害(たとえば中心単純環の類)を表す。
たとえば、$k$ 上の対象 $Y$ と、$k^{\mathrm{s}}$ の上で $Y$ と同型になる $k$ 上の対象($Y$ の形)の同型類は、非可換コホモロジー $H^1(k, \operatorname{Aut}(Y))$ と対応する。この原理から、中心単純環 や Severi–Brauer多様体 は $H^1(k, \mathrm{PGL}_n)$ で分類される(Ser97 第 III 章)。
次の 3 つは標準的であり、本記事では証明しない(Ser97 第 I 章 §2)。
$G$ を射有限群とする。
$n \ge 1$ について、$H^n(G, M)$ は捩れ群である。
有限群 $H$ と $H$ 加群 $N$ について、$n \ge 1$ なら $H^n(H, N)$ は $|H|$ 倍で $0$ になる。これは、自明な部分群への制限とコア制限の合成が $|H|$ 倍写像であり、自明な群の正の次数のコホモロジーが $0$ であることによる(Ser97 第 I 章。本記事では証明しない)。
$H^n(G, M)$ の元は、基本事項
一般論の基本事項
の 1 により、ある開正規部分群 $U$ について $H^n(G/U, M^U)$ の元から来る。$G/U$ は有限群なので、その元は $|G/U|$ 倍で $0$ であり、したがって $H^n(G, M)$ の元も $|G/U|$ 倍で $0$ である。$\square$
体 $k$ の場合、$\operatorname{Spec} k$ のエタール位相の層は離散 $G_k$ 加群と同じものであり(層 $F$ に $F(k^{\mathrm{s}}) := \varinjlim_L F(\operatorname{Spec} L)$ を対応させる)、この対応のもとで
$$
H^n(\operatorname{Spec} k_{\mathrm{\acute{e}t}}, F) \cong H^n(k, F(k^{\mathrm{s}}))
$$
が成り立つ(Mil80 第 II 章・第 III 章。本記事では証明しない)。この意味で、Galois コホモロジーは エタールコホモロジー の 1 点の場合である。
任意の体 $k$ について $H^1(k, \mathbb{G}_m) = 0$ である。より精密に、有限次 Galois 拡大 $L/k$ について $H^1(\operatorname{Gal}(L/k), L^\times) = 0$ である。
この定理を Hilbert の定理 90 という。
$\Gamma := \operatorname{Gal}(L/k)$ とし、$(x_\sigma)_{\sigma \in \Gamma}$ を 1 コサイクル、すなわち $x_{\sigma\tau} = x_\sigma\, \sigma(x_\tau)$($x_\sigma \in L^\times$)とする。$\Gamma$ の元は相異なる準同型 $L^\times \to L^\times$ なので、Dedekind の補題(相異なる指標は $L$ 上一次独立)により、写像 $c \mapsto \sum_{\tau \in \Gamma} x_\tau\, \tau(c)$ は $L$ 上で恒等的に $0$ ではない。そこで
$$
b := \sum_{\tau \in \Gamma} x_\tau\, \tau(c) \ne 0
$$
となる $c \in L$ を取る。$\sigma \in \Gamma$ について
$$
\sigma(b) = \sum_{\tau} \sigma(x_\tau)\, \sigma\tau(c) = \sum_{\tau} x_\sigma^{-1} x_{\sigma\tau}\, \sigma\tau(c) = x_\sigma^{-1}\, b
$$
である($\tau$ が $\Gamma$ を動くとき $\sigma\tau$ も $\Gamma$ を動く)。よって $x_\sigma = b / \sigma(b)$ であり、これは主交叉準同型(乗法的に書いたもの。$b^{-1}$ に対する $\sigma(b^{-1})/b^{-1}$)である。したがって $H^1(\Gamma, L^\times) = 0$ である。
$H^1(k, \mathbb{G}_m) = H^1(G_k, (k^{\mathrm{s}})^\times)$ の元は、基本事項
一般論の基本事項
の 1 により、ある有限次 Galois 拡大 $L$ について $H^1(\operatorname{Gal}(L/k), L^\times)$ の元から来るので、$0$ である。$\square$
同じ議論を行列に広げると、$H^1(k, \mathrm{GL}_n) = 1$ が成り立つ(Ser97 第 III 章。本記事では証明しない)。また、正規底定理により、加法群について $n \ge 1$ で $H^n(k, \mathbb{G}_a) = H^n(G_k, k^{\mathrm{s}}) = 0$ である(Ser79 第 X 章。本記事では証明しない)。
$n \ge 1$ が体 $k$ の標数で割り切れないとし、$\mu_n := \{\, \zeta \in k^{\mathrm{s}} \mid \zeta^n = 1 \,\}$ とする。このとき次の同型がある。
$$
H^1(k, \mu_n) \cong k^\times / (k^\times)^n, \qquad H^2(k, \mu_n) \cong H^2(k, \mathbb{G}_m)[n].
$$
ここで右辺の $[n]$ は $n$ 倍で消える元の部分群を表す。
$a \in (k^{\mathrm{s}})^\times$ について、多項式 $T^n - a$ の微分 $n T^{n-1}$ は根で $0$ にならない($n$ は可逆で、根は $0$ でない)ので、$T^n - a$ は分離多項式であり、その根は $k^{\mathrm{s}}$ に属する。したがって $n$ 乗写像は $(k^{\mathrm{s}})^\times$ の上で全射であり、その核は $\mu_n$ である。離散 $G_k$ 加群の短完全列
$$
1 \to \mu_n \to (k^{\mathrm{s}})^\times \xrightarrow{\ n\ } (k^{\mathrm{s}})^\times \to 1
$$
の長完全列の一部
$$
k^\times \xrightarrow{\ n\ } k^\times \to H^1(k, \mu_n) \to H^1(k, \mathbb{G}_m) \to H^1(k, \mathbb{G}_m) \to H^2(k, \mu_n) \to H^2(k, \mathbb{G}_m) \xrightarrow{\ n\ } H^2(k, \mathbb{G}_m)
$$
に定理
乗法群の1次コホモロジーの消滅
を代入すると、2 つの同型を得る。$\square$
とくに $\mu_n \subset k$ なら $\mu_n \cong \mathbb{Z}/n$(自明な作用)であり、$H^1(k, \mathbb{Z}/n) = \operatorname{Hom}_{\mathrm{cont}}(G_k, \mathbb{Z}/n)$ と合わせて、$k$ の巡回拡大が $n$ 乗根の添加で得られるという古典的な Kummer 理論が得られる。スキームの上の対応物は Kummer完全列 である。
体の Brauer群 について、自然な同型
$$
\mathrm{Br}(k) \cong H^2(k, \mathbb{G}_m) = H^2(G_k, (k^{\mathrm{s}})^\times)
$$
がある(GS06 第 4 章、Ser79 第 X 章。本記事では証明しない)。これと命題
1のn乗根の係数のコホモロジー
から、$n$ が可逆なら $H^2(k, \mu_n) \cong \mathrm{Br}(k)[n]$ である。
素数 $p$ について、射有限群 $G$ の $p$ コホモロジー次元 $\operatorname{cd}_p(G)$ とは、すべての $p$ 準素な捩れ離散 $G$ 加群 $M$ と $q > n$ について $H^q(G, M) = 0$ となる最小の $n$(なければ $\infty$)のことである。体 $k$ については $\operatorname{cd}_p(k) := \operatorname{cd}_p(G_k)$ と書く。次の事実が知られている(Ser97 第 II 章。本記事では証明しない)。
$G$ が $M$ に自明に作用するとき、交叉準同型の条件は $f(gh) = f(g) + f(h)$ となり、主交叉準同型は $gm - m = 0$ だけである。よって
$$
H^1(G, M) = \operatorname{Hom}_{\mathrm{cont}}(G, M)
$$
である。とくに $H^1(k, \mathbb{Z}/n)$ は $G_k$ から $\mathbb{Z}/n$ への連続準同型の群であり、その全射なものは $k$ の $\mathbb{Z}/n$ 巡回拡大(と生成元の選び方)に対応する。
$k = \mathbb{F}_q$ とすると、$G_k \cong \hat{\mathbb{Z}}$ であり、Frobenius 写像 $F$ が位相的な生成元である。有限な離散 $G_k$ 加群 $M$ について
$$
H^1(\mathbb{F}_q, M) \cong M / (F - 1) M
$$
が成り立つ。
実際、連続な交叉準同型 $f$ は $f(F)$ で決まるので、$f \mapsto f(F)$ は $Z^1 \to M$ の単射であり、主交叉準同型の像は $(F - 1)M$ である。全射性を見る。$M$ への作用は有限商 $\mathbb{Z}/n_0$ を経由する。$n$ を $n_0 |M|$ の倍数とし、$N_n := 1 + F + \cdots + F^{n-1}$ とおくと、$F^{n_0} = 1$ から $N_n = (n / n_0) N_{n_0}$ であり、$|M|$ が $n / n_0$ を割るので $N_n$ は $M$ 上で $0$ である。巡回群 $\mathbb{Z}/n$ の交叉準同型は、$N_n m = 0$ をみたす $m$ を $F$ の値として一意に定まるので($f(F^i) := (1 + F + \cdots + F^{i-1}) m$)、任意の $m \in M$ について $f(F) = m$ となる交叉準同型が $\mathbb{Z}/n$ の上に、したがって $\hat{\mathbb{Z}}$ の上に存在する。
$k = \mathbb{R}$ では $G_k = \operatorname{Gal}(\mathbb{C}/\mathbb{R}) = \{1, c\}$($c$ は複素共役)である。位数 $2$ の巡回群 $\Gamma$ と $\Gamma$ 加群 $M$ については、$n \ge 1$ で
$$
H^{2n}(\Gamma, M) \cong M^\Gamma / (1 + c) M, \qquad H^{2n-1}(\Gamma, M) \cong \ker(1 + c) / (c - 1) M
$$
が成り立つ(巡回群のコホモロジーの周期性。Ser79 第 VIII 章。本記事では証明しない)。$M = \mathbb{C}^\times$ では $(1 + c)$ はノルム $z \mapsto z \bar z = |z|^2$ であり、
$$
H^2(\mathbb{R}, \mathbb{G}_m) \cong \mathbb{R}^\times / \mathbb{R}_{>0} \cong \mathbb{Z}/2, \qquad H^1(\mathbb{R}, \mathbb{G}_m) = 0
$$
となる。前者は $\mathrm{Br}(\mathbb{R}) \cong \mathbb{Z}/2$ に、後者は Hilbert の定理 90 に対応する。
命題 1のn乗根の係数のコホモロジー を $k = \mathbb{Q}$、$n = 2$ に適用すると、$H^1(\mathbb{Q}, \mu_2) \cong \mathbb{Q}^\times / (\mathbb{Q}^\times)^2$ である。右辺は $-1$ とすべての素数の類で生成される $\mathbb{F}_2$ 上の無限次元ベクトル空間であり(素因数分解による)、各類 $a$ は 2 次拡大 $\mathbb{Q}(\sqrt a)$($a$ が平方でないとき)に対応する。
$G = \hat{\mathbb{Z}}$ に $M = \mathbb{Q}$ を自明な作用で作用させる。$\mathbb{Q}$ は離散 $G$ 加群であり、例
自明な作用の1次コホモロジー
により $H^1(G, \mathbb{Q}) = \operatorname{Hom}_{\mathrm{cont}}(\hat{\mathbb{Z}}, \mathbb{Q})$ である。連続準同型の核は開部分群で、$\hat{\mathbb{Z}}$ の開部分群は有限指数なので像は有限群であり、$\mathbb{Q}$ の有限部分群は $0$ だけである。よって $H^1(G, \mathbb{Q}) = 0$ である。
一方、コチェインの連続性を課さずに抽象群として計算すると、$H^1$ は抽象的な準同型の群 $\operatorname{Hom}(\hat{\mathbb{Z}}, \mathbb{Q})$ になる。包含 $\mathbb{Z} \to \hat{\mathbb{Z}}$ に沿って、準同型 $\mathbb{Z} \to \mathbb{Q}$、$1 \mapsto 1$ は、$\mathbb{Q}$ が入射的アーベル群(可除群)であることから $\hat{\mathbb{Z}}$ 全体へ延びる(選択公理を使う)。したがって抽象群のコホモロジーは $0$ でない。定義
連続コチェインによるコホモロジー
の連続性を外すと、有限商による記述(基本事項の 1)が成り立たなくなる。
$k = \mathbb{F}_p(t)$、$n = p$ とする。$k^{\mathrm{s}}$ の中で $\zeta^p = 1$ なら $(\zeta - 1)^p = 0$ なので $\zeta = 1$ であり、$\mu_p(k^{\mathrm{s}}) = \{1\}$ である。よって $H^1(k, \mu_p) = 0$ である。一方 $t$ は $k$ の中で $p$ 乗でない($t = (f/g)^p$ とすると次数を比べて矛盾する)ので、$k^\times / (k^\times)^p \ne 0$ である。
したがって命題
1のn乗根の係数のコホモロジー
の同型 $H^1(k, \mu_n) \cong k^\times/(k^\times)^n$ は、$n$ が標数で割り切れないという仮定を外すと成り立たない。証明のどこが壊れるかというと、$T^p - t$ は分離多項式でなく、その根は $k^{\mathrm{s}}$ に入らないので、$p$ 乗写像は $(k^{\mathrm{s}})^\times$ 上で全射でない。この場合の正しい扱いは、$\mu_p$ を群スキームとして fppf位相 のコホモロジーで考えることである。
定理 乗法群の1次コホモロジーの消滅 は次数 $1$ についての主張であり、次数 $2$ では同じ形の消滅は成り立たない。実際、例 実数体 により $H^2(\mathbb{R}, \mathbb{G}_m) \cong \mathbb{Z}/2 \ne 0$ である。この $0$ でない群が Brauer 群であり、Hamilton の四元数の類がその生成元である。
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