相似変換と相似の中心(similarity transformations and centers of similarity)とは、平面のすべての 2 点の距離を $k$ 倍にする写像(相似変換)と、その動かない点のことである。$k\ne1$ なら動かない点(相似の中心)はただ 1 つある。複素数平面で向きを保つ相似変換 $f(z)=az+b$($\lvert a\rvert=k$)の中心は $c=b/(1-a)$ で、$f(z)=c+a(z-c)$ は $c$ のまわりに角 $\arg a$ 回して $k$ 倍する回転相似である。向きを逆にする $f(z)=a\overline z+b$ の中心は $(a\overline b+b)/(1-k^2)$ で、$f$ は中心を通る直線に関する鏡映と中心からの相似拡大の合成である。$k<1$ なら、$f$ をくり返し当てた点は中心に近づく。
前提知識: 三角形の相似条件, 平面の合同変換の分類, 複素数の掛け算は回転と拡大
拡大図をかくとき、1 点を中心にして、そこから各点までの距離を一定の倍率で伸ばす。中心だけは動かない。では、拡大と回転と平行移動を好きなように組み合わせた動かし方でも、動かない点はあるだろうか。複素数平面で計算してみる。
$f(z)=(1+i)z+1-i$ とする。$z=x+yi$ とおくと
$$
f(z)=(1+i)(x+yi)+1-i=(x-y+1)+(x+y-1)i
$$
なので、座標では $(x,y)\mapsto(x-y+1,\ x+y-1)$ である。$1+i=\sqrt2\,e^{i\pi/4}$ なので、$f$ は「原点のまわりに $45^\circ$ 回して $\sqrt2$ 倍し、$1-i$ だけずらす」写像である(複素数の掛け算は回転と拡大)。
(1) 距離の倍率。$f(z)-f(w)=(1+i)(z-w)$ なので $\lvert f(z)-f(w)\rvert=\sqrt2\,\lvert z-w\rvert$ である。たとえば $0$、$2$、$2i$ は $f(0)=1-i$、$f(2)=3+i$、$f(2i)=-1+i$ に移り、辺の長さ $2$、$2$、$2\sqrt2$ は $2\sqrt2$、$2\sqrt2$、$4$ になる($\lvert(3+i)-(1-i)\rvert=\lvert2+2i\rvert=2\sqrt2$ など)。
(2) 動かない点。$f(z)=z$ を解くと $(1+i)z+1-i=z$、つまり $iz=-1+i$ で、$z=\dfrac{-1+i}{i}=1+i$ である。確かめると $f(1+i)=(1+i)^2+1-i=2i+1-i=1+i$ である。
$g(z)=2\overline z+3$、座標では $(x,y)\mapsto(2x+3,\ -2y)$ とする。$x$ 軸に関して折り返して $2$ 倍し、$3$ だけずらす写像で、$\lvert g(z)-g(w)\rvert=2\lvert\overline{z-w}\rvert=2\lvert z-w\rvert$ である。動かない点は、$x=2x+3$ かつ $y=-2y$ から $x=-3$、$y=0$ で、点 $-3$ ただ 1 つである。
どちらの例でも、距離を一定の倍率($\sqrt2$ と $2$)で変える写像に、動かない点がちょうど 1 つあった。この記事で答える問いは次の 4 つである。
| 高校の言葉 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| 拡大図・縮図の中心 | 相似拡大の中心(def-sim-homothety) | 相似拡大(homothety) |
| 回して拡大する | 回転相似(def-sim-spiral) | $z\mapsto c+a(z-c)$ |
| 形を変えずに大きさを変える | 相似変換(def-sim-similarity) | 相似変換の群 |
| 漸化式の特性方程式 $\alpha=p\alpha+q$ | 相似の中心を求める式(rem-sim-recurrence) | 不動点 |
| 縮小をくり返すと 1 点に集まる | 中心に近づく(prop-sim-iterate) | 縮小写像の不動点定理 |
正の数 $k$ と、平面の点を平面の点に移す写像 $f$ があり、平面のすべての 2 点 $P,Q$ について
$$
f(P)f(Q)=k\cdot PQ
$$
が成り立つとき、$f$ を比 $k$ の 相似変換 という。比 $1$ の相似変換は合同変換である。
相似変換で三角形を移すと、3 辺がすべて $k$ 倍になるので、三角形の相似条件 の 3 辺の比の条件により、もとの三角形と相似な三角形になる。定義と、相似変換が「相似拡大と合同変換の合成」であることは 三角形の相似条件 の節「大学数学で見る:相似変換」でも扱っている。
点 $c$ と $0$ でない実数 $k$ を決める。点 $z$ を
$$
h(z)=c+k(z-c)
$$
に移す写像を、$c$ を 中心 とする比 $k$ の 相似拡大 という。$k>0$ なら $z$ は半直線 $cz$ の上の、$c$ からの距離が $k$ 倍の点に移り、$k<0$ なら $c$ の反対側に移る。$h$ は比 $\lvert k\rvert$ の相似変換である。
比が正の相似拡大は 三角形の相似条件、負の比も含めた相似拡大の性質(直線を平行な直線に移すことなど)は Euler線 で扱っている。2 つの円は、中心を結ぶ直線の上の点を中心とする相似拡大で互いに移り、その中心を 2 円の相似の中心という(2円の位置関係と共通接線、Mongeの定理)。この記事では、相似拡大に回転が加わった場合と、裏返しが加わった場合を扱う。
点 $c$、正の数 $k$、角 $\theta$ を決める。点 $z$ を
$$
f(z)=c+ke^{i\theta}(z-c)
$$
に移す写像を、$c$ を中心とする角 $\theta$、比 $k$ の 回転相似 という。$c$ を中心とする角 $\theta$ の回転と、$c$ を中心とする比 $k$ の相似拡大を続けて行ったものである(どちらを先にしても同じ)。
比 $k$ の相似変換は、$\lvert a\rvert=k$ の複素数 $a$ と複素数 $b$ を使って
$$
\text{(I)}\ \ f(z)=az+b\qquad\text{または}\qquad\text{(II)}\ \ f(z)=a\overline z+b
$$
のどちらか一方の形に書ける。逆に、この形の写像は比 $\lvert a\rvert$ の相似変換である。(I) の形を 向きを保つ 相似変換、(II) の形を 向きを逆にする 相似変換という。
要点:$f$ の後に $\dfrac1k$ 倍すると合同変換になるので、平面の合同変換の分類 の定理「合同変換の式」が使える。
段 1.$g(z):=\dfrac1k f(z)$ とおくと、$\lvert g(z)-g(w)\rvert=\dfrac1k\lvert f(z)-f(w)\rvert=\lvert z-w\rvert$ なので、$g$ は合同変換である。
段 2.合同変換の式により、$\lvert a'\rvert=1$ の $a'$ と $b'$ で $g(z)=a'z+b'$ か $g(z)=a'\overline z+b'$ のどちらか一方の形に書ける。$f(z)=kg(z)$ なので、$a:=ka'$、$b:=kb'$ とおけば $f$ は (I) か (II) の形で、$\lvert a\rvert=k$ である。$f$ が両方の形になると $g$ も両方の形になるので、どちらか一方である。
段 3(逆).(I) では $\lvert f(z)-f(w)\rvert=\lvert a\rvert\,\lvert z-w\rvert$、(II) では $\lvert f(z)-f(w)\rvert=\lvert a\rvert\,\bigl\lvert\overline{z-w}\bigr\rvert=\lvert a\rvert\,\lvert z-w\rvert$ である。$\square$
$f$ を比 $k\ne1$ の相似変換とする。$f(c)=c$ となる点 $c$ がただ 1 つある。これを $f$ の 相似の中心 という。
方針:動かない点が 2 つあれば距離が $k$ 倍にならないことから、ただ 1 つであることを先に示す。次に、(I)・(II) のそれぞれで $f(c)=c$ を解き、$c$ を使って式を書き直す。prop-sim-complex により、$\lvert a\rvert=k$ である。
段 1(多くても 1 つ)。$f(P)=P$、$f(Q)=Q$ とすると、$PQ=f(P)f(Q)=k\cdot PQ$ なので $(1-k)PQ=0$ である。$k\ne1$ なので $PQ=0$、つまり $P=Q$ である。
段 2(向きを保つ場合)。$\lvert a\rvert=k\ne1$ なので $a\ne1$ である。$c=ac+b$ は $c(1-a)=b$ と同じなので、$c=\dfrac b{1-a}$ は動かない。$b=c-ac$ を代入すると
$$
f(z)=az+c-ac=c+a(z-c)
$$
である。$a=ke^{i\theta}$($\theta=\arg a$)と書けば、def-sim-spiral の回転相似である。
段 3(向きを逆にする場合:中心を見つける)。$c=a\overline c+b$ となる $c$ を探す。この式の両辺の共役をとると $\overline c=\overline a c+\overline b$ で、これを右辺の $\overline c$ に代入すると
$$
c=a(\overline a c+\overline b)+b=\lvert a\rvert^2c+a\overline b+b=k^2c+a\overline b+b
$$
である。$k^2\ne1$ なので、$c=\dfrac{a\overline b+b}{1-k^2}$ でなければならない。逆にこの $c$ が動かないことを確かめる。$\overline c=\dfrac{\overline a b+\overline b}{1-k^2}$ なので
$$
a\overline c+b=\frac{a\overline a b+a\overline b}{1-k^2}+b=\frac{k^2b+a\overline b+(1-k^2)b}{1-k^2}=\frac{a\overline b+b}{1-k^2}=c
$$
である。
段 4(向きを逆にする場合:式の書き直し)。段 3 の $b=c-a\overline c$ を代入すると
$$
f(z)=a\overline z+c-a\overline c=c+a\,\overline{(z-c)}
$$
である。$a=ke^{2i\varphi}$ とし、$\sigma(z):=c+e^{2i\varphi}\,\overline{(z-c)}$($c$ を通り向き $e^{i\varphi}$ の直線に関する鏡映。平面の合同変換の分類 の補題「鏡映の式」)、$h(w):=c+k(w-c)$(相似拡大)とおくと
$$
h(\sigma(z))=c+k e^{2i\varphi}\,\overline{(z-c)}=f(z),\qquad \sigma(h(z))=c+e^{2i\varphi}\,\overline{k(z-c)}=c+ke^{2i\varphi}\,\overline{(z-c)}=f(z)
$$
である($k$ は実数なので $\overline{k(z-c)}=k\,\overline{(z-c)}$)。$\square$
向きを保つ相似変換 f(z) = (1 + i)z + 1 − i。三角形 PQR は、中心 O = 1 + i のまわりに 45° 回して √2 倍した三角形に移る
向きを逆にする相似変換 g(z) = 2i z̄ + 1。中心 c を通る軸で折り返し(破線の三角形)、c を中心に 2 倍すると、三角形 PQR の行き先になる
図 1 は thm-sim-center の 1、図 2 は 2 の場合である。図 1 では、中心 $O$ から見て $P$ と $f(P)$ の向きが $45^\circ$ ずれ、距離が $\sqrt2$ 倍になっている。図 2 では、軸の上の点は、折り返しでは動かず、相似拡大で中心 $c$ から $2$ 倍の距離に移る。$z\mapsto az+b$ の形の写像(Hitchman の教科書では general linear transformation と呼ぶ)が $a\ne1$ のときただ 1 つの不動点をもち、$z=az+b$ を解けば求まることは、Hit18 §3.1(p. 30 の一覧と p. 35 の Definition 3.1.13 の後)にもある。
数列の漸化式 $a_{n+1}=pa_n+q$($p\ne1$)を解くとき、高校では $\alpha=p\alpha+q$ を満たす $\alpha=\dfrac q{1-p}$ を求め、$a_{n+1}-\alpha=p(a_n-\alpha)$ と変形する。これは、実数直線の上の写像 $x\mapsto px+q$ の動かない点 $\alpha$ を求め、thm-sim-center の 1 と同じく $x\mapsto\alpha+p(x-\alpha)$ と書き直したことにあたる。実数直線の上では、回転にあたるのは $p<0$ のときの向きの反転($180^\circ$ の回転)だけだが、平面では $a$ の偏角だけ回る。
$a_1=0$、$a_{n+1}=\dfrac12a_n+3$ とする。$\alpha=\dfrac12\alpha+3$ から $\alpha=6$ で、$a_{n+1}-6=\dfrac12(a_n-6)$ である。$a_1-6=-6$ なので $a_n-6=-6\cdot\left(\dfrac12\right)^{n-1}$、つまり $a_n=6-\dfrac{6}{2^{n-1}}$ である。実際、$a_2=3$、$a_3=\dfrac92$、$a_4=\dfrac{21}4$ で、$6$ との差は $-6,\ -3,\ -\dfrac32,\ -\dfrac34$ と半分ずつになる。
$f$ を比 $k<1$ の相似変換、$c$ をその中心とする。どの点 $z_0$ から始めても、$z_{n+1}:=f(z_n)$ で決まる点の列は
$$
\lvert z_n-c\rvert=k^n\,\lvert z_0-c\rvert
$$
を満たし、$n\to\infty$ のとき $c$ に近づく。
$f(c)=c$ なので、どの $n$ でも $\lvert z_{n+1}-c\rvert=\lvert f(z_n)-f(c)\rvert=k\,\lvert z_n-c\rvert$ である。これをくり返すと $\lvert z_n-c\rvert=k^n\lvert z_0-c\rvert$ である($n$ についての帰納法)。$0< k<1$ なので $k^n\to0$ であり、$\lvert z_n-c\rvert\to0$ である。$\square$
c = 1 + i を中心とする角 45°、比 1/√2 の回転相似をくり返すと、z0 = 5 + i から始めた点が渦を巻きながら中心に近づく
$c=1+i$、$a=\dfrac{1+i}2$($\lvert a\rvert=\dfrac1{\sqrt2}$、$\arg a=45^\circ$)として $f(z)=c+a(z-c)$ とし、$z_0=5+i$ から始める(図 3)。
$$
z_1=1+i+\frac{1+i}2\cdot4=3+3i,\qquad z_2=1+i+\frac{1+i}2(2+2i)=1+3i,\qquad z_3=1+i+\frac{1+i}2\cdot2i=2i
$$
で、中心からの距離は $4,\ 2\sqrt2,\ 2,\ \sqrt2,\ 1,\ \dfrac1{\sqrt2},\ \dfrac12,\dots$ と $\dfrac1{\sqrt2}$ 倍ずつになる。点は $45^\circ$ ずつ向きを変えながら $c$ に近づく。
prop-sim-iterate は、中心の式を知らなくても、写像をくり返すことで中心に近づけることを示している。同じ考え方で方程式の解を近似する方法は 縮小写像と漸化式 で扱う。
平面に 2 本の線分 $AB$、$CD$ があるとき、$A$ を $C$ に、$B$ を $D$ に移す向きを保つ相似変換を考える。
$A\ne B$、$C\ne D$ で、$\overrightarrow{AB}\ne\overrightarrow{CD}$ とする。点を表す複素数を同じ文字で書く。
方針:$aA+b=C$、$aB+b=D$ を $a$、$b$ について解き、thm-sim-center の中心の式に代入する。
段 1(係数)。2 式を引くと $a(B-A)=D-C$ で、$B\ne A$ なので $a=\dfrac{D-C}{B-A}$、$b=C-aA$ とただ 1 通りに決まる。$D\ne C$ なので $a\ne0$ で、$f$ は比 $\lvert a\rvert$ の相似変換である。$\overrightarrow{AB}\ne\overrightarrow{CD}$ は $B-A\ne D-C$ ということなので、$a\ne1$ である。
段 2(中心)。$a\ne1$ なので $f$ は平行移動でなく、$\lvert a\rvert\ne1$ なら thm-sim-center の 1 により、$\lvert a\rvert=1$ なら回転なので(平面の合同変換の分類)、中心 $O=\dfrac b{1-a}$ がある。分子と分母に $B-A$ を掛けると
$$
O=\frac{(C-aA)(B-A)}{(1-a)(B-A)}=\frac{C(B-A)-(D-C)A}{(B-A)-(D-C)}=\frac{BC-AD}{(B-A)-(D-C)}
$$
である。
段 3(相似な三角形)。$f(z)=O+a(z-O)$ なので $C-O=a(A-O)$、$D-O=a(B-O)$ である。$O$ が 4 点と異なるとき、割り算をして
$$
\frac{D-O}{C-O}=\frac{B-O}{A-O},\qquad \frac{C-O}{A-O}=\frac{D-O}{B-O}=a
$$
である。三角形の相似条件 の命題「複素数による相似の判定」($\dfrac{\gamma-\alpha}{\beta-\alpha}$ が等しい 2 つの三角形は同じ向きに相似)を、頂点 $O$ から見た比に使うと、1 つ目の式から三角形 $OAB$ と三角形 $OCD$ が、2 つ目の式から三角形 $OAC$ と三角形 $OBD$ が、同じ向きに相似である($O,A,B$ が一直線上にあると三角形にならないが、そのときは比が実数で、$O,C,D$ も一直線上にある)。$\square$
線分 AB(A = 0、B = 2)を線分 CD(C = 3 − i、D = 3 + 3i)に移す回転相似の中心 O = 1 + i。直線 AC と BD の交点 X を通る 2 つの円(破線)の、X でないほうの交点が O になる
$A=0$、$B=2$、$C=3-i$、$D=3+3i$ とする(図 4)。$a=\dfrac{D-C}{B-A}=\dfrac{4i}2=2i$ で、回転の角は $90^\circ$、比は $2$ である。中心は
$$
O=\frac{BC-AD}{(B-A)-(D-C)}=\frac{2(3-i)-0}{2-4i}=\frac{(6-2i)(2+4i)}{(2-4i)(2+4i)}=\frac{12+24i-4i+8}{20}=1+i
$$
である。確かめると $O+a(A-O)=1+i+2i(-1-i)=1+i-2i+2=3-i=C$、$O+a(B-O)=1+i+2i(1-i)=3+3i=D$ である。
三角形の相似も確かめる。$\dfrac{B-O}{A-O}=\dfrac{1-i}{-1-i}=i$、$\dfrac{D-O}{C-O}=\dfrac{2+2i}{2-2i}=i$ で等しい。三角形 $OAB$ と三角形 $OCD$ は、どちらも $O$ を直角の頂点とする直角二等辺三角形である。
直線 $AB$ と直線 $CD$ が平行でなく($a$ が実数でない)、直線 $AC$ と直線 $BD$ が $A,B,C,D$ のどれとも異なる点 $X$ で交わるとき、中心 $O$ は、3 点 $A,B,X$ を通る円と 3 点 $C,D,X$ を通る円の、$X$ でないほうの交点になることが知られている(円周角の定理を向きのついた角で使って示す。この記事では証明しない)。$a$ が実数のとき($AB\parallel CD$)は、$f$ は相似拡大で、直線 $AC$ と直線 $BD$ は中心 $O$ で交わり、2 つの円は $O$ で接するので、この作図は使えない。ex-sim-segment で確かめる。直線 $AC$ は $t(3-i)$、直線 $BD$ は $2+s(1+3i)$ で、交点は $t=\dfrac35$、$s=-\dfrac15$ の $X=\dfrac{9-3i}5$ である。3 点 $0$、$2$、$X$ を通る円は中心 $1$、半径 $1$ の円で($\left\lvert X-1\right\rvert^2=\dfrac{16}{25}+\dfrac{9}{25}=1$)、3 点 $3-i$、$3+3i$、$X$ を通る円は中心 $3+i$、半径 $2$ の円である($\lvert X-(3+i)\rvert^2=\dfrac{36}{25}+\dfrac{64}{25}=4$)。$O=1+i$ は $\lvert O-1\rvert=1$、$\lvert O-(3+i)\rvert=2$ で、確かに両方の円の上にある(図 4)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 比 $k\ne1$($k=1$ にする) | 平行移動 $z\mapsto z+1$、鏡映 $z\mapsto\overline z$(ex-sim-cx-ratio-one) | 動かない点がただ 1 つある |
| 向きを保つ(向きを逆にする場合に同じ式を使う) | $f(z)=2\overline z+3i$ に $\dfrac b{1-a}$ を使う(ex-sim-cx-formula) | 中心は $\dfrac b{1-a}$ |
| $\overrightarrow{AB}\ne\overrightarrow{CD}$ | $A=0$、$B=1$、$C=i$、$D=1+i$(ex-sim-cx-parallel) | 線分を線分に移す回転相似がある |
$f(z)=2\overline z+3i$ は向きを逆にする比 $2$ の相似変換である。向きを保つ場合の式を当てはめて $\dfrac b{1-a}=\dfrac{3i}{1-2}=-3i$ とすると、$f(-3i)=2\cdot3i+3i=9i\ne-3i$ で、動かない点にならない。正しい式では
$$
c=\frac{a\overline b+b}{1-k^2}=\frac{2\cdot(-3i)+3i}{1-4}=\frac{-3i}{-3}=i
$$
で、$f(i)=2\cdot(-i)+3i=i$ である。向きを逆にする場合は、共役をとる分だけ式が変わる。
$A=0$、$B=1$、$C=i$、$D=1+i$ では $\overrightarrow{AB}=\overrightarrow{CD}=1$ である。$f(A)=C$、$f(B)=D$ となる向きを保つ相似変換は $a=\dfrac{D-C}{B-A}=1$、$b=i$ の $f(z)=z+i$ だけで、平行移動なので中心がない。prop-sim-segment の中心の式は分母が $(B-A)-(D-C)=0$ になり、使えない。なお $\overrightarrow{CD}=-\overrightarrow{AB}$(たとえば $C=i$、$D=-1+i$)なら $a=-1$ で、中心 $\dfrac{BC-AD}{2(B-A)}$ のまわりの $180^\circ$ の回転(点対称移動)になる。
相似変換の全体は、合成について群をなす。比 $k$ と比 $l$ の相似変換の合成は比 $kl$ の相似変換で、$f(z)=az+b$($a\ne0$)の逆写像 $z\mapsto\dfrac{z-b}{a}$ も、$f(z)=a\overline z+b$ の逆写像 $z\mapsto\overline{\left(\dfrac{z-b}{a}\right)}$ も相似変換である。この群の中で、合同変換の全体は比が $1$ のものの集まりである。
向きを保つ 2 つの相似変換 $f_1(z)=a_1z+b_1$、$f_2(z)=a_2z+b_2$ を続けて行うと
$$
\xymatrix{
\mathbb{C} \ar[r]^{f_1} \ar[dr]_{f_2\circ f_1} & \mathbb{C} \ar[d]^{f_2} \\
& \mathbb{C}
}
$$
$f_2(f_1(z))=a_2a_1z+(a_2b_1+b_2)$ となる。回転の角は足し算、比は掛け算になり($\arg(a_2a_1)=\arg a_2+\arg a_1$、$\lvert a_2a_1\rvert=\lvert a_2\rvert\,\lvert a_1\rvert$)、$a_1a_2\ne1$ なら中心は $\dfrac{a_2b_1+b_2}{1-a_1a_2}$ である。
特に相似拡大($a_1=k_1$、$a_2=k_2$ が実数)では、中心 $c_1$、$c_2$ に対して $b_1=(1-k_1)c_1$、$b_2=(1-k_2)c_2$ なので、合成の中心は
$$
c_3=\frac{k_2(1-k_1)\,c_1+(1-k_2)\,c_2}{1-k_1k_2}
$$
である。係数の和は $\dfrac{k_2-k_1k_2+1-k_2}{1-k_1k_2}=1$ なので、$c_3$ は直線 $c_1c_2$ の上にある。たとえば中心 $0$、比 $2$ の後に中心 $3$、比 $-\dfrac12$ を行うと、$z\mapsto-z+\dfrac92$ となり、中心 $\dfrac94$、比 $-1$ の相似拡大(点対称移動)である。3 つの円の相似の中心が一直線上に並ぶ Mongeの定理 や、Euler線 の相似拡大の合成は、この事実の使い方である。
座標で書くと、相似変換は $\vec x\mapsto A\vec x+\vec b$($A$ は 2 次の行列)の形の写像(アフィン変換)の特別な場合である。不動点の方程式 $\vec x=A\vec x+\vec b$ は $(E-A)\vec x=\vec b$ で、$E-A$ の行列式が $0$ でなければ、ただ 1 つの解をもつ。$A$ が $k$ 倍の回転行列なら、$\det(E-A)=1-2k\cos\theta+k^2=\lvert1-ke^{i\theta}\rvert^2$ で、$0$ になるのは $k=1$、$\theta=0$ のとき(平行移動)だけである。prop-sim-iterate の考え方は、平面(一般には完備な距離空間)の上で、距離を $k$ 倍以下($0\le k<1$)に縮める写像はただ 1 つの不動点をもつという Banachの不動点定理 に一般化される(この記事では証明しない)。
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