Zariskiの主定理(Zariski's main theorem)とは、ファイバーが有限な射は局所的に有限射と開埋め込みでできている、という一群の定理である。Grothendieck の形では、準コンパクトかつ準分離的なスキームの上の分離的な準有限射は、開埋め込みのあとに有限射を続けた合成に分解する。ここから固有な準有限射は有限射であることが従う。Zariski のもとの形では、正規な整スキームへの双有理射はファイバーの孤立点の近くで開埋め込みであり、全単射な双有理射は同型になり、双有理な固有射は有限ファイバーの上で同型、ほかの点の上では正の次元の連結なファイバーをもつ。
Zariski の主定理(Zariski's main theorem)は、「ファイバーが有限である射は、局所的には有限射と開埋め込みでできている」という一群の定理の名前である。Zariski はもともと、正規多様体への双有理射について、ファイバーの孤立点の近くでは射が同型になることを示した。Grothendieck はこれを、分離的な準有限射が開埋め込みのあとに有限射を続けた合成に分解するという形に一般化した。
準有限射は「各点の上に有限個の点しかない」射であり、有限射より弱い。たとえば開集合の包含は準有限だが有限射ではない。Zariski の主定理は、準有限射と有限射の差がちょうどこの開埋め込みで尽きることを主張する。この記事では、代数的な形と Grothendieck の形を述べ、そこから次の帰結を記事の中で証明する。
スキームの射 $f\colon X\to S$ が点 $x\in X$ で準有限であるとは、$f$ が $x$ の近くで局所有限型であり、$x$ がファイバー $f^{-1}(f(x))$ の孤立点であることをいう(準有限射)。環準同型 $A\to B$ が有限型で、$B$ の素イデアル $\mathfrak{q}$ が $\mathfrak{p}:=A\cap\mathfrak{q}$ 上のファイバー $\operatorname{Spec}(B\otimes_A\kappa(\mathfrak{p}))$ の孤立点であるとき、$A\to B$ は $\mathfrak{q}$ で準有限であるという。$B$ の元のうち $A$ 上整なもの全体 $A'$ を、$B$ における $A$ の整閉包という。$A'$ は $B$ の部分環である。
整スキーム $X$、$Y$ の間の射 $f\colon X\to Y$ が双有理射であるとは、$f$ が $X$ の生成点を $Y$ の生成点に写し(優越的であり)、関数体の同型 $K(Y)\cong K(X)$ を引き起こすことをいう(双有理射)。スキームが正規であるとは、すべての局所環が整閉整域であることをいう(正規スキーム)。整スキーム $Y$ が正規なら、$Y$ の空でないアフィン開集合 $\operatorname{Spec}A$ について $A$ は整閉整域である(局所化がすべて整閉なら整閉。AM69 Proposition 5.13)。
$A\to B$ を有限型の環準同型、$A'$ を $B$ における $A$ の整閉包、$\mathfrak{q}$ を $B$ の素イデアルとする。$A\to B$ が $\mathfrak{q}$ で準有限なら、$g\notin\mathfrak{q}$ を満たす $g\in A'$ があって、包含が引き起こす $A'_g\to B_g$ は同型である。
この記事ではこの定理を証明しない。Stacks Tag 00Q9(Algebra の章 Theorem 10.123.12)にあり、$B$ を $A$ 上有限にする生成元の個数に関する帰納法で証明されている。
$S$ を準コンパクトかつ準分離的なスキーム、$f\colon X\to S$ を分離的な準有限射とする。このとき $f$ は
$$
X\xrightarrow{\ j\ }T\xrightarrow{\ \pi\ }S
$$
と分解する。ここで $j$ は準コンパクトな開埋め込み、$\pi$ は有限射である。
代数的な形は、$\mathfrak{q}$ の近くで $\operatorname{Spec}B$ が $\operatorname{Spec}A'$ の開集合 $D(g)$ と一致することを言っている。$A'$ は $A$ 上整なので、$A$ 上の有限型の部分代数をとれば有限射が得られる。Grothendieck の形は、これを射全体について貼り合わせたものと思ってよい。
$k$ を代数閉体とする。
2 の $f$ は全単射で双有理だが同型でない。これは $Y$ が正規でないためであり、下の cor-zmt-bijective と対比される。
スキームの射 $f\colon X\to S$ が固有かつ準有限なら、$f$ は有限射である。
この主張は 準有限射 の定理「固有かつ準有限なら有限」と 固有射 の定理「Stein 分解と準有限な固有射」の 2 にあり、そこでは証明が他に譲られている。ここで Grothendieck の形から導く。
有限射であることは $S$ について局所的な性質であり、固有性と準有限性は $S$ の開集合への制限で保たれる。よって $S$ はアフィン、とくに準コンパクトかつ準分離的としてよい。固有射は分離的なので、thm-zmt-grothendieck により $f=\pi\circ j$($j\colon X\to T$ は開埋め込み、$\pi\colon T\to S$ は有限射)と分解する。
有限射は分離的である(固有射 の命題「有限射の固有性」)。$\pi\circ j=f$ が固有で $\pi$ が分離的なので、$j$ は固有である(固有射 の定理「合成・底変換・積で閉じること」の 4)。固有射は閉写像なので、$U:=j(X)$ は $T$ の閉集合であり、$j$ が開埋め込みなので開集合でもある。
$U$ が開かつ閉なので、$T$ はスキームとして開部分スキーム $U$ と $T\setminus U$ の直和である。とくに、$\mathcal{O}_T$ のイデアル層で $U$ 上 $0$、$T\setminus U$ 上 $\mathcal{O}_T$ に一致するものが定める閉部分スキームは $U$ であり、$U\hookrightarrow T$ は閉埋め込みである。$j$ は $X$ から開部分スキーム $U$ への同型なので、$f$ は同型 $X\cong U$、閉埋め込み $U\hookrightarrow T$、有限射 $\pi$ の合成である。閉埋め込みは有限射であり(アフィン開集合 $\operatorname{Spec}C$ の上で $C\to C/I$)、有限射の合成は有限射なので、$f$ は有限射である。
この証明で固有性が使われたのは、$f$ が分離的であること(thm-zmt-grothendieck を当てるため)と、開埋め込み $j$ の像が閉じていることを言う所である。固有性を外すと、開埋め込み $D(t)\hookrightarrow\mathbb{A}^1$ のように、準有限だが有限でない射が現れる(準有限射 の反例の表)。
Zariski がもともと「主定理」と呼んだのは、正規多様体への双有理射についての次の主張である(EGA4 20.4.4 の後の注意も参照)。ここでは代数的な形から導く。
$X$、$Y$ を整スキーム、$Y$ を正規とし、$f\colon X\to Y$ を局所有限型の双有理射とする。$f$ が点 $x\in X$ で準有限なら、$x$ の開近傍 $U$ で、$f|_U\colon U\to Y$ が開埋め込みになるものがある。
$f(x)$ を含むアフィン開集合 $\operatorname{Spec}A\subset Y$ と、$x$ を含むアフィン開集合 $\operatorname{Spec}B\subset f^{-1}(\operatorname{Spec}A)$ をとる。$f$ の制限は有限型の環準同型 $\varphi\colon A\to B$ に対応し、$x$ に対応する素イデアル $\mathfrak{q}\subset B$ で $\varphi$ は準有限である。$Y$ が正規な整スキームなので $A$ は整閉整域であり、$X$ が整スキームなので $B$ は整域である。
$\varphi$ は単射である。実際、$\operatorname{Spec}B$ の生成点 $(0)$ は $X$ の生成点で、$f$ は優越的だからその像 $\varphi^{-1}(0)$ は $Y$ の生成点、すなわち $(0)$ である。よって $\ker\varphi=0$ であり、$\varphi$ を包含 $A\subset B$ とみなせる。$\varphi$ は分数体の写像 $K(Y)=\operatorname{Frac}A\to\operatorname{Frac}B=K(X)$ を引き起こし、$f$ が双有理なのでこれは同型である。こうして
$$
A\subset B\subset\operatorname{Frac}A
$$
とみなせる。
$B$ における $A$ の整閉包 $A'$ を求める。$b\in B$ が $A$ 上整なら、$b$ は $\operatorname{Frac}A$ の元で $A$ 上整であり、$A$ は整閉なので $b\in A$ である。よって $A'=A$ である。thm-zmt-algebraic により、$g\notin\mathfrak{q}$ を満たす $g\in A'=A$ があって $A_g\to B_g$ は同型である。これは、$\operatorname{Spec}B$ の開集合 $U:=D(g)$ が $f$ により $\operatorname{Spec}A$ の開集合 $D(g)$ と同型に写ることを意味する。$g\notin\mathfrak{q}$ なので $x\in U$ であり、$D(g)$ は $Y$ の開集合だから、$f|_U$ は開埋め込みである。
証明で正規性が使われたのは、整閉包 $A'$ が $A$ 自身に戻る所である。ex-zmt-factorization の 2 では $Y$ が節点で正規でなく、$A'$ が $A$ より大きくなるため、$t=-1$ は節点の上のファイバーの孤立点なのに、その近くで $f$ は開埋め込みにならない(ex-zmt-counterexamples)。
$X$、$Y$ を整スキーム、$Y$ を正規とし、$f\colon X\to Y$ を局所有限型の双有理射とする。$f$ が点の集合の写像として単射なら、$f$ は開埋め込みである。さらに全射なら、$f$ は同型である。
$f$ が単射なので、各ファイバーは高々 1 点であり、すべての点 $x\in X$ はそのファイバーの孤立点である。$f$ は局所有限型なので、すべての点で準有限である。thm-zmt-birational により、各 $x$ は $f$ の制限が開埋め込みになる開近傍 $U_x$ をもつ。よって $f$ は開写像で、局所的に同相かつ構造層の同型を引き起こす。$f$ は単射でもあるので、$X$ から開集合 $f(X)$ への同相であり、層の写像 $\mathcal{O}_{f(X)}\to f_*\mathcal{O}_X$ は各 $f(U_x)$ の上で同型だから同型である。すなわち $f$ は開埋め込みである。全射なら $f(X)=Y$ で、$f$ は同型である。
$Y$ を正規な Noether 整スキーム、$X$ を整スキーム、$f\colon X\to Y$ を双有理な固有射とし、
$$
Y^\circ:=\{y\in Y\mid f^{-1}(y)\text{ は有限集合}\}
$$
とおく。このとき $Y^\circ$ は $Y$ の開集合で、$f^{-1}(Y^\circ)\to Y^\circ$ は同型である。$y\notin Y^\circ$ なら、ファイバー $f^{-1}(y)$ は連結で、次元は $1$ 以上である。
形式関数の定理 の系「双有理な固有射に対する Zariski の主定理」により、すべての $y\in Y$ についてファイバー $f^{-1}(y)$ は空でなく連結である。
$y\in Y^\circ$ とする。$f^{-1}(y)$ は $\kappa(y)$ 上有限型のスキームで、点が有限個なので離散である(準有限射 の命題「局所準有限性と準コンパクト性」の証明と同じく、有限型の体上のスキームでは有限個の点はすべて閉点である)。空でなく連結で離散なので、$f^{-1}(y)$ はただ 1 点 $x$ からなり、$x$ はファイバーの孤立点、すなわち $f$ は $x$ で準有限である。thm-zmt-birational により、$x$ の開近傍 $U$ で $f|_U$ が開埋め込みになるものがある。$Z:=X\setminus U$ は閉集合で、$f$ は固有なので $f(Z)$ は閉集合である。$f^{-1}(y)=\{x\}\subset U$ なので $y\notin f(Z)$ であり、$V:=Y\setminus f(Z)$ は $y$ の開近傍で $f^{-1}(V)\subset U$ を満たす。したがって $f^{-1}(V)\to V$ は開埋め込みである。また $f$ は固有で優越的なので像は閉かつ稠密、すなわち $f$ は全射であり、$f^{-1}(V)\to V$ も全射である。よって $f^{-1}(V)\to V$ は同型で、とくに $V\subset Y^\circ$ である。以上で $Y^\circ$ が開集合であることと、$f^{-1}(Y^\circ)\to Y^\circ$ が局所的に、したがって大域的に同型であることが示された。
$y\notin Y^\circ$ なら、$f^{-1}(y)$ は無限個の点をもつ $\kappa(y)$ 上有限型のスキームである。次元 $0$ の体上有限型のスキームは有限個のアフィン開集合で覆われ、それぞれが Artin 環のスペクトルなので有限個の点しかもたない。よって $f^{-1}(y)$ の次元は $1$ 以上である。
この系は、正規な $Y$ への双有理な固有射の「つぶれる場所」を記述している。Har77 V 定理 5.2(p. 410)は、これを射影多様体の間の双有理変換に言い換え、正規な $X$ の基本点の全変換が次元 $1$ 以上の連結集合であることを導いている。
$k$ を代数閉体とし、$f\colon X=\mathrm{Bl}_0\mathbb{A}^2\to Y=\mathbb{A}^2$ を原点のブローアップ(ブローアップ)とする。$f$ は双有理な固有射で、$Y$ は正規である。原点以外の点の上のファイバーは 1 点で、原点の上のファイバーは例外曲線 $E\cong\mathbb{P}^1$ である。cor-zmt-proper-birational の $Y^\circ$ は $\mathbb{A}^2\setminus\{0\}$ であり、その上で $f$ は同型、原点の上のファイバー $E$ は連結で次元 $1$ である。$E$ の点 $x$ はファイバーの孤立点でないので、thm-zmt-birational は $x$ について何も主張せず、実際 $f$ は $x$ のどの近傍でも単射でない。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 分離性(thm-zmt-grothendieck) | 原点を 2 重にした直線 $X\to\mathbb{A}^1$ | 開埋め込みと有限射への分解 |
| 準有限性(同) | $\mathbb{A}^1_k\to\operatorname{Spec}k$ | 開埋め込みと有限射への分解 |
| $Y$ の正規性(thm-zmt-birational) | ex-zmt-factorization の 2 の $f\colon\mathbb{A}^1\setminus\{1\}\to Y$、点 $t=-1$ | 孤立点の近くで開埋め込み |
| 孤立点であること(同) | ex-zmt-blow-up の例外曲線の点 | 孤立点の近くで開埋め込み |
| 双有理性(cor-zmt-bijective) | 標数 $p>0$ の代数閉体上の Frobenius 射 $\mathbb{A}^1\to\mathbb{A}^1$、$t\mapsto t^p$ | 全単射なら同型 |
| 固有性(cor-zmt-proper-birational) | 開埋め込み $\mathbb{A}^1\setminus\{0\}\hookrightarrow\mathbb{A}^1$ | 有限なファイバーの上で同型 |
要点:各行の射が外した条件以外の仮定を満たし、結論が成り立たないことを確かめる。
1. 分離性:$X$ は $\mathbb{A}^1$ の 2 つの写しを $\mathbb{A}^1\setminus\{0\}$ に沿って貼り合わせたもので、$X\to\mathbb{A}^1$ は有限型でファイバーは高々 2 点なので準有限である。もし開埋め込み $X\to T$ と有限射 $T\to\mathbb{A}^1$ に分解すれば、有限射は分離的、開埋め込みも分離的なので、合成 $X\to\mathbb{A}^1$ は分離的になる。しかし原点の 2 つの写しは $\mathbb{A}^1$ の上で分離されないので矛盾する。
2. 準有限性:$\mathbb{A}^1_k\to\operatorname{Spec}k$ は分離的で有限型だが、ファイバーは無限集合である。$\mathbb{A}^1_k$ が $k$ 上有限な $T$ の開集合なら、$T$ は有限次元 $k$ 代数のスペクトルで有限個の点しかもたないので矛盾する。
3. 正規性:$X$、$Y$ は整スキームで、$f$ は有限型の双有理射である(正規化は双有理で、開集合への制限も双有理)。節点の上のファイバーは $\{-1\}$ だけなので $t=-1$ は孤立点である。$t=-1$ の開近傍 $U$ で $f|_U$ が開埋め込みなら、節点の局所環は $X$ の $t=-1$ での局所環、すなわち離散付値環に同型になるが、節点の局所環は正則でないので矛盾する。
4. 孤立点:$Y=\mathbb{A}^2$ は正規、$f$ は双有理だが、$x\in E$ はファイバー $E$ の孤立点でない。$x$ のどの開近傍 $U$ も $E$ の無限個の点を含み、それらは原点に写るので $f|_U$ は単射でなく、開埋め込みでない。
5. 双有理性:Frobenius 射は $k[t]\to k[t]$、$t\mapsto t^p$ に対応する有限射で、閉点の上では $a\mapsto a^p$ が代数閉体の全単射、生成点は生成点に写るので全単射である。$Y=\mathbb{A}^1$ は正規である。しかし関数体の拡大 $k(t)/k(t^p)$ は $p$ 次なので双有理でなく、$k[t^p]\ne k[t]$ だから同型でない。
6. 固有性:$f\colon\mathbb{A}^1\setminus\{0\}\hookrightarrow\mathbb{A}^1$ は双有理で、$Y$ は正規である。原点の上のファイバーは空、すなわち有限であり、他の点の上は 1 点である。しかし原点のどの開近傍 $V$ の上でも $f^{-1}(V)\to V$ は全射でないので同型でない。固有性は prf-zmt-proper-birational で $f(Z)$ が閉じていることと、$f$ が全射であることに使われている。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する