等角写像(conformal mapping)とは、平面の開集合の上の写像で、各点で微分が単射であり、交わる 2 本の曲線のなす角を大きさと向きを込めて保つもののことである。実の意味で全微分可能な写像が点 $a$ で等角であることは、$a$ で複素微分可能で $f'(a)\neq0$ であることと同値であり、等角写像は導関数が $0$ にならない正則関数にほかならない。単射な正則関数は像への等角同型であり、等角写像は調和関数を調和関数に写すので、境界値問題を単位円板や上半平面の上へ移して解くのに使われる。$\mathbb{C}$ と異なる単連結な領域は、Riemann の写像定理によりすべて単位円板と等角同値になる。
前提知識: 正則関数, Jacobi行列, 開写像定理(複素解析), 双正則写像
平面の写像 $w=f(z)$ で図形を写すと、一般には形がゆがむ。ところが $f(z)=1/z$ や $f(z)=e^z$ のような正則関数で写すと、2 本の曲線が交わる角の大きさとその向きが、像でもそのまま保たれる。十分小さな三角形は、回転と拡大を受けるだけで、ほぼ相似な三角形に写る。このように各点で角を保つ写像を 等角写像(conformal mapping)という。
この記事の中心は次の定理である:実の意味で微分できる写像が点 $a$ で向きを込めて角を保つことと、$a$ で複素微分可能で $f'(a)\neq0$ であることは同値である(thm-conf-main)。つまり等角性という幾何的な条件は、正則性という解析的な条件と一致する。この一致のおかげで、等角写像は調和関数を調和関数に写し(thm-conf-harmonic)、扱いにくい形の領域の上の問題を、単位円板や上半平面の上の問題に移して解くことができる。単連結な領域がいつ単位円板と等角に同値になるかに答えるのが Riemann の写像定理である。
複素数平面 $\mathbb{C}$ を $\mathbb{R}^2$ と同一視する。$0$ でない複素数 $v,w$ について、$v$ から $w$ へ反時計回りに測った角は $\arg(w/v)$($2\pi$ の整数倍を除いて定まる)である。実際、$v=|v|e^{i\theta}$、$w=|w|e^{i\varphi}$ なら $w/v=\frac{|w|}{|v|}e^{i(\varphi-\theta)}$ である。したがって 2 組のベクトル $(v,w)$ と $(v',w')$ が同じ向き付きの角をなすことは、$\dfrac{w'/v'}{w/v}$ が正の実数であることと同値である。
開集合 $U\subset\mathbb{C}$ 上の写像 $f\colon U\to\mathbb{C}$ が点 $a\in U$ で(実の意味で)全微分 可能であるとは、$\mathbb{R}$ 線形写像 $L\colon\mathbb{C}\to\mathbb{C}$ があって $f(a+h)-f(a)-L(h)=o(|h|)$($h\to0$)となることをいう。この $L$ を $df_a$ と書き、$a$ における微分という。$df_a$ の表現行列が Jacobi行列 である。
$U\subset\mathbb{C}$ を開集合、$f\colon U\to\mathbb{C}$ とする。
条件 1 は曲線の言葉で言い直せる。$\gamma_1,\gamma_2$ を $\gamma_k(0)=a$、$\gamma_k'(0)\neq0$ となる $C^1$ 級の曲線とすると、連鎖律により $(f\circ\gamma_k)'(0)=df_a(\gamma_k'(0))$ である。したがって $f$ が $a$ で等角であることは、$a$ で交わるどの 2 本の曲線についても、像の曲線が $f(a)$ で同じ大きさ・同じ向きの角で交わることを意味する。
文献によっては、全単射な等角写像(この記事の等角同型)だけを等角写像とよぶ(Leb26c Definition 2.2.7、p. 35)。この記事では、各点で角を保つ写像を等角写像とよび、全単射性は等角同型の条件として分けて述べる。
等角性は微分 $df_a$ だけで決まる条件なので、まず線形代数の問題として調べる。
$L\colon\mathbb{C}\to\mathbb{C}$ を $\mathbb{R}$ 線形写像とする。
要点:1 は $v=x+iy$ の $x,y$ を $v,\bar v$ で書き直せばよい。2 では $\lambda(\theta):=L(e^{i\theta})/e^{i\theta}=\alpha+\beta e^{-2i\theta}$ がすべて $L(1)$ の向きの半直線に乗ることになるが、$\beta\neq0$ ならこれは円周全体を動くので、半直線には収まらない。
1:$v=x+iy$($x,y\in\mathbb{R}$)なら $\mathbb{R}$ 線形性により $L(v)=xL(1)+yL(i)$ である。$x=\frac{v+\bar v}{2}$、$y=\frac{v-\bar v}{2i}$ を代入すると$$L(v)=\frac{L(1)-iL(i)}{2}\,v+\frac{L(1)+iL(i)}{2}\,\bar v$$となる。逆に $L(v)=\alpha v+\beta\bar v$ と書けたとすると、$v=1$、$v=i$ を代入して $\alpha+\beta=L(1)$、$i(\alpha-\beta)=L(i)$ となり、$\alpha,\beta$ はこの連立方程式から一意に決まる。
2:$\beta=0$、$\alpha\neq0$ なら $L$ は単射で、$\dfrac{L(w)/L(v)}{w/v}=\dfrac{\alpha w/(\alpha v)}{w/v}=1>0$ である。
逆に $L$ が条件を満たすとする。$L$ は単射だから $L(1)\neq0$ である。$\theta\in\mathbb{R}$ について $v=1$、$w=e^{i\theta}$ とおくと、条件は $\lambda(\theta):=L(e^{i\theta})/e^{i\theta}$ が $L(1)$ の正の実数倍であることを意味する。つまり、すべての $\lambda(\theta)$ は原点から $L(1)$ の方向へ出る半直線 $\{tL(1)\mid t>0\}$ の上にある。一方、1 により$$\lambda(\theta)=\alpha+\beta e^{-2i\theta}$$であり、$\theta$ が $[0,\pi)$ を動くと、$\lambda(\theta)$ は中心 $\alpha$、半径 $|\beta|$ の円周全体を動く。$\beta\neq0$ なら、この円周の相異なる 3 点が 1 本の半直線の上にあることになるが、直線と円周の共有点は 2 個以下なので矛盾する。よって $\beta=0$ であり、$L(v)=\alpha v$ が単射だから $\alpha\neq0$ である。
$\alpha=a+ib$($a,b\in\mathbb{R}$)を掛ける写像の表現行列は $\begin{pmatrix}a&-b\\ b&a\end{pmatrix}$ で、行列式は $a^2+b^2=|\alpha|^2>0$ である。これは $|\alpha|$ 倍の拡大と角 $\arg\alpha$ の回転の合成である。一方 $v\mapsto\bar v$ は実軸に関する折り返しで、角の大きさは保つが向きを逆にする(ex-conf-counterexamples の 2)。
$U\subset\mathbb{C}$ を開集合、$f\colon U\to\mathbb{C}$、$a\in U$ とする。$f$ が $a$ で全微分可能であるとき、次は同値である。
$f$ が $a$ で複素微分可能で微分係数が $c$ であることは、$h\to0$ のとき $\frac{f(a+h)-f(a)}{h}\to c$ となること、すなわち $\frac{f(a+h)-f(a)-ch}{h}\to0$ となることである。これは $f(a+h)-f(a)-ch=o(|h|)$ と同じことだから、「$f$ が $a$ で複素微分可能で $f'(a)=c$」は「$f$ が $a$ で全微分可能で $df_a(h)=ch$」と同値である(これは 正則関数 の記事の定理「Cauchy–Riemann の方程式」の証明の前半と同じ内容である)。
1 ⇒ 2:$f$ は $a$ で等角だから、lem-conf-linear の 2 を $L=df_a$ に使うと、$0$ でない $\alpha$ があって $df_a(h)=\alpha h$ である。上の言い換えにより $f$ は $a$ で複素微分可能で、$f'(a)=\alpha\neq0$ である。
2 ⇒ 1:上の言い換えにより $df_a(h)=f'(a)h$ であり、$f'(a)\neq0$ だから lem-conf-linear の 2 により $df_a$ は単射で、向き付きの角を保つ。
最後の主張は、$df_a$ が $f'(a)=|f'(a)|e^{i\arg f'(a)}$ を掛ける写像であることと、曲線 $\gamma$ について $(f\circ\gamma)'(0)=df_a(\gamma'(0))=f'(a)\gamma'(0)$ であることから従う。
同じ主張は Leb26c Proposition 2.2.9(p. 38)と Corollary 2.2.10(p. 39)にあり、そこでは直交する 2 組のベクトルの像を計算して行列の形を決めている。複素微分可能なら全微分可能だから、2 から 1 を導くときには全微分可能性の仮定は要らない。主定理を領域全体に当てはめると次を得る。
$U\subset\mathbb{C}$ を開集合、$f\colon U\to\mathbb{C}$ とする。
要点:1 は主定理を各点に使えばよい。2・3 では、単射な正則関数の導関数が $0$ にならず逆写像が正則になること(開写像定理(複素解析) の系「単射な正則写像の逆写像」)と、逆写像の連鎖律 $(f^{-1})'(f(z))\,f'(z)=1$ を使う。
1 は thm-conf-main を各点に使えばよい。
2:$U$ の各連結成分は領域であり、$f$ はその上で単射な正則関数である。開写像定理(複素解析) の系「単射な正則写像の逆写像」により、各連結成分 $U_0$ の上で $f'\neq0$ であり、$f(U_0)$ は開集合で、逆写像 $f(U_0)\to U_0$ は正則である。$f(U)$ は開集合 $f(U_0)$ の和集合だから開集合である。1 により $f$ は等角写像であり、$f\colon U\to f(U)$ は全単射だから等角同型である。
3:$f$ が等角同型なら、$f$ は単射な正則関数だから、2 の議論により逆写像 $f^{-1}\colon V\to U$ は各連結成分の像の上で正則であり、$f$ は双正則写像である。逆に $f$ が双正則なら、$f^{-1}(f(z))=z$ を連鎖律で微分して $(f^{-1})'(f(z))\,f'(z)=1$ となるので $f'(z)\neq0$ であり、1 により $f$ は等角写像、全単射だから等角同型である。
1 変数では、単射な正則関数の導関数は自動的に $0$ にならない。実数では $x\mapsto x^3$ のように単射でも導関数が $0$ になる点がありうるので、2 は正則性に特有の現象である。また 3 により、等角同値は 双正則写像 の記事の「双正則同値」と同じ関係である。
$ad-bc\neq0$ のとき、Möbius変換 $T(z)=\dfrac{az+b}{cz+d}$ は $cz+d\neq0$ となる点で正則で、$T'(z)=\dfrac{ad-bc}{(cz+d)^2}\neq0$ である。$T$ は単射なので、cor-conf-holomorphic の 2 により、$\mathbb{C}$ から極 $-d/c$($c\neq0$ のとき)を除いた集合から像への等角同型である。たとえば Cayley 変換 $C(z)=\dfrac{z-i}{z+i}$ は上半平面 $H:=\{\operatorname{Im}z>0\}$ から単位円板 $\mathbb{D}:=\{|z|<1\}$ への等角同型である(双正則写像 の例「上半平面と単位円板」)。$\mathbb{D}$ から $\mathbb{D}$ への等角同型($\mathbb{D}$ の自己同型)はすべて $z\mapsto e^{i\theta}\dfrac{z-a}{1-\bar az}$($|a|<1$、$\theta\in\mathbb{R}$)の形の Möbius 変換である(双正則写像 の定理「単位円板の自己同型群」)。
$n\ge2$ とし $p(z)=z^n$ とする。$p'(z)=nz^{n-1}$ は $z\neq0$ で $0$ でないので、$p$ は $\mathbb{C}\setminus\{0\}$ 上の等角写像である。一方 $dp_0=0$ は単射でないので、$p$ は $0$ で等角でない。実際、原点から出る 2 本の半直線 $\{te^{i\theta_1}\}$、$\{te^{i\theta_2}\}$($t\ge0$)は、$p$ によって半直線 $\{se^{in\theta_1}\}$、$\{se^{in\theta_2}\}$ に写り、原点での角は $n$ 倍になる。
この性質を使うと角領域を半平面に開ける。$0<\alpha\le\pi$ とし、角領域 $S_\alpha:=\{re^{i\theta}\mid r>0,\ 0<\theta<\alpha\}$ を考える。$S_\alpha$ は $\mathbb{C}\setminus(-\infty,0]$ に含まれるので、対数関数 の対数の主値 $\operatorname{Log}$ を使って
$$
q(z):=\exp\Bigl(\frac{\pi}{\alpha}\operatorname{Log}z\Bigr)=r^{\pi/\alpha}e^{i\pi\theta/\alpha}\qquad(z=re^{i\theta}\in S_\alpha)
$$
とおくと、$q$ は正則関数の合成として正則である。$r\mapsto r^{\pi/\alpha}$ は $(0,\infty)$ の全単射、$\theta\mapsto\pi\theta/\alpha$ は $(0,\alpha)$ から $(0,\pi)$ への全単射なので、極形式の一意性により $q$ は $S_\alpha$ から $H$ への全単射である。したがって $q$ は等角同型である(cor-conf-holomorphic の 2)。$S_\alpha$ の境界の角 $\alpha$ が、$H$ の境界の角 $\pi$ に開かれている。$\alpha<\pi$ のとき、角の大きさが変わるのは境界の点 $0$ においてであり、$S_\alpha$ の内部の各点では角は保たれている。
帯 $B:=\{z\mid0<\operatorname{Im}z<\pi\}$ の上で $\exp$ を考える。$z=x+iy$ なら $e^z=e^xe^{iy}$ であり、$x\mapsto e^x$ は $\mathbb{R}$ から $(0,\infty)$ への全単射、$y$ は $(0,\pi)$ を動くので、極形式の一意性により $\exp$ は $B$ から $H$ への全単射である。$\exp'=\exp\neq0$ なので、$\exp\colon B\to H$ は等角同型である。Cayley 変換と合成すると $B$ から $\mathbb{D}$ への等角同型 $z\mapsto\dfrac{e^z-i}{e^z+i}$ が得られる。帯の中の横線 $\operatorname{Im}z=c$ は半直線 $\arg w=c$ に、縦線 $\operatorname{Re}z=c$ は半円 $|w|=e^c$ に写り、横線と縦線の直交は、半直線と半円の直交として保たれる。
$J(z):=\dfrac12\Bigl(z+\dfrac1z\Bigr)$ は、円板の外部 $E:=\{|z|>1\}$ から、線分を除いた平面 $\mathbb{C}\setminus[-1,1]$ への等角同型である。$r>1$ のとき、円 $|z|=r$ は焦点 $\pm1$、長半径 $\frac12(r+\frac1r)$、短半径 $\frac12(r-\frac1r)$ の楕円に写る。
$J'(z)=\frac12(1-z^{-2})$ が $0$ になるのは $z=\pm1$ だけなので、$J$ は $E$ 上の等角写像である。$w\in\mathbb{C}$ を固定すると、$J(z)=w$ は $z^2-2wz+1=0$ と同値で、この 2 次方程式の 2 根 $z_1,z_2$(重複を込めて)は $z_1z_2=1$ を満たす。
$w\notin[-1,1]$ とする。もし $|z_1|=1$ なら $z_2=1/z_1=\bar z_1$ で $w=\frac12(z_1+\bar z_1)=\operatorname{Re}z_1\in[-1,1]$ となり矛盾するので、$|z_1|\neq1$ である。$|z_1||z_2|=1$ だから、2 根のうちちょうど 1 つが $E$ に属する(2 根が等しいのは $z_1=z_2=\pm1$ のときで、このとき $w=\pm1$ となるので起こらない)。$w\in[-1,1]$ なら $w=\cos t$ と書けて、2 根は $e^{\pm it}$ で、どちらも $E$ に属さない。よって $J$ は $E$ から $\mathbb{C}\setminus[-1,1]$ への全単射であり、cor-conf-holomorphic の 2 により等角同型である。
$z=re^{it}$ なら $J(z)=\frac12(r+\frac1r)\cos t+\frac i2(r-\frac1r)\sin t$ なので、円 $|z|=r$ の像は楕円 $\frac{X^2}{A^2}+\frac{Y^2}{B^2}=1$($A=\frac12(r+\frac1r)$、$B=\frac12(r-\frac1r)$)であり、$A^2-B^2=1$ より焦点は $\pm1$ である。
同じ式で $t$ を止めて $r>1$ を動かすと、$t$ が $\pi/2$ の整数倍でないとき、半直線 $\arg z=t$ の $E$ の部分は双曲線 $\frac{X^2}{\cos^2t}-\frac{Y^2}{\sin^2t}=1$(焦点 $\pm1$)の枝の一部に写る($(r+\frac1r)^2-(r-\frac1r)^2=4$ による)。楕円の族と双曲線の族が直交することは、$E$ で円と半直線が直交することを等角性で写したものである。
等角写像が応用で役に立つ大きな理由は、調和関数を調和関数に写すことにある。$\mathbb{R}^2$ の開集合上の $C^2$ 級の実数値関数 $u$ が $\Delta u:=u_{xx}+u_{yy}=0$ を満たすとき、$u$ を 調和関数 という。
複素数値の $C^1$ 級関数 $g$ について
$$
\partial g:=\frac12(g_x-ig_y),\qquad\bar\partial g:=\frac12(g_x+ig_y)
$$
とおく。定義から $\overline{\partial g}=\bar\partial\bar g$ であり、$g$ が正則であることは $\bar\partial g=0$ と同値で、このとき $\partial g=g'$ である(正則関数 の記事の定理「Cauchy–Riemann の方程式」)。$C^2$ 級の $u$ については、混合偏導関数が等しいので $4\partial\bar\partial u=\Delta u$ である。
$U,V\subset\mathbb{C}$ を開集合、$f\colon U\to V$ を正則関数、$u\colon V\to\mathbb{R}$ を $C^2$ 級の関数とする。このとき $u\circ f$ は $C^2$ 級で
$$
\Delta(u\circ f)(z)=|f'(z)|^2\,(\Delta u)(f(z))\qquad(z\in U)
$$
が成り立つ。特に $u$ が調和関数なら $u\circ f$ も調和関数である。$f$ が等角同型なら、$u$ が $V$ 上で調和であることと $u\circ f$ が $U$ 上で調和であることは同値である。
要点:$\Delta=4\partial\bar\partial$ と書き、$f$ が正則であることから $\bar\partial(u\circ f)=(\bar\partial u)\circ f\cdot\overline{f'}$、さらに $\partial\bar\partial(u\circ f)=(\partial\bar\partial u)\circ f\cdot|f'|^2$ となることを、$\partial,\bar\partial$ で書いた連鎖律から確かめる。
正則関数は $C^\infty$ 級である(正則関数 の記事の定理「正則関数の冪級数展開」により各点の近くで冪級数で表され、冪級数は何回でも項別に微分できる)。したがって $u\circ f$ は $C^2$ 級である。
まず連鎖律を $\partial,\bar\partial$ で書き直す。$C^1$ 級の関数 $h$ について $dh=h_xdx+h_ydy$ であり、$dz=dx+i\,dy$、$d\bar z=dx-i\,dy$ を使うと $dh=\partial h\,dz+\bar\partial h\,d\bar z$ と書ける。実の連鎖律 $d(g\circ f)=(dg)_{f}\circ df$ に $dg=\partial g\,dw+\bar\partial g\,d\bar w$、$dw=d f=\partial f\,dz+\bar\partial f\,d\bar z$、$d\bar w=d\bar f=\partial\bar f\,dz+\bar\partial\bar f\,d\bar z$ を代入して $d\bar z$ の係数を比べると、$V$ 上の $C^1$ 級関数 $g$ について$$\bar\partial(g\circ f)=(\partial g)\circ f\cdot\bar\partial f+(\bar\partial g)\circ f\cdot\bar\partial\bar f,\qquad\partial(g\circ f)=(\partial g)\circ f\cdot\partial f+(\bar\partial g)\circ f\cdot\partial\bar f$$を得る。$f$ は正則なので $\bar\partial f=0$、$\partial f=f'$、$\partial\bar f=\overline{\bar\partial f}=0$、$\bar\partial\bar f=\overline{\partial f}=\overline{f'}$ である。
$g=u$ とすると $\bar\partial(u\circ f)=(\bar\partial u)\circ f\cdot\overline{f'}$ である。これに $\partial$ を施す。$f'$ は正則なので $\partial\overline{f'}=\overline{\bar\partial f'}=0$ であり、$g=\bar\partial u$($C^1$ 級)に上の 2 番目の式を使うと $\partial\bigl((\bar\partial u)\circ f\bigr)=(\partial\bar\partial u)\circ f\cdot f'$ である。積の微分により$$\partial\bar\partial(u\circ f)=(\partial\bar\partial u)\circ f\cdot f'\,\overline{f'}=|f'|^2\,(\partial\bar\partial u)\circ f$$となり、両辺を 4 倍すれば主張の式を得る。最後の主張は、$f$ が等角同型なら $f^{-1}\colon V\to U$ も正則(cor-conf-holomorphic の 3)なので、同じ式を $f^{-1}$ と $u\circ f$ に使えば $u=(u\circ f)\circ f^{-1}$ が調和になることから従う。
この定理により、領域 $V$ の上の調和関数を求める問題(たとえば境界値を与えた Dirichlet問題)は、等角同型 $f\colon\mathbb{D}\to V$ があれば、単位円板の上の問題に移せる。円板の上では解が Poisson 積分で書ける(Dirichlet問題 の定理「Poisson積分による球のDirichlet問題の解」)ので、等角同型を具体的に見つけることが、2 次元の静電場や流体の計算で中心的な作業になる。ただし境界値を移すには、$f$ が境界まで連続に延びるかどうかを別に調べる必要がある。
どの領域とどの領域が等角同値になるかは、等角写像の理論の中心的な問題である。$\mathbb{C}$ と $\mathbb{D}$ は同相だが等角同値でない。$\mathbb{C}$ から $\mathbb{D}$ への正則関数は有界な整関数なので、Liouvilleの定理(複素解析) により定数になるからである(双正則写像 の命題「平面と単位円板」)。これを除けば、単連結な領域はすべて円板と等角同値になる。
$\Omega\subsetneq\mathbb{C}$ を単連結(単連結空間)な領域、$a\in\Omega$ とする。このとき等角同型 $\varphi\colon\Omega\to\mathbb{D}$ で $\varphi(a)=0$、$\varphi'(a)>0$ を満たすものがただ 1 つある。
存在の部分はこの記事では証明しない(Leb26c Theorem 6.3.1、p. 156 に、$|\varphi'(a)|$ を最大にする単射な正則関数を正規族の議論で見つける証明がある)。一意性の部分は易しい。$\varphi_1,\varphi_2$ が条件を満たせば、$\psi:=\varphi_2\circ\varphi_1^{-1}$ は $\psi(0)=0$ となる $\mathbb{D}$ の自己同型なので、双正則写像 の定理「単位円板の自己同型群」により $\psi(z)=e^{i\theta}z$ と書け、$\psi'(0)=\varphi_2'(a)/\varphi_1'(a)>0$ から $e^{i\theta}=1$ となる。
この定理と前段落の事実を合わせると、$\mathbb{C}$ の単連結な領域は、等角同値を除いて $\mathbb{C}$ と $\mathbb{D}$ の 2 つしかない。単連結の仮定は外せない(下の反例の表の 5 行目)。
Riemann 多様体の間の写像が共形写像であるとは、各点で微分が内積を正の数倍だけ変える(倍率は点ごとに変わってよい)ことをいう(微分同相であるものを共形変換という)。平面の Euclid 内積 $\langle v,w\rangle=\operatorname{Re}(v\bar w)$ について、この条件と等角性の関係は次のとおりである。
$L\colon\mathbb{C}\to\mathbb{C}$ を $\mathbb{R}$ 線形写像とする。次は同値である。
要点:$p:=L(1)$、$q:=L(i)$ は長さが等しく直交するので $q=\pm ip$ であり、行列式の符号から $q=ip$ が選ばれて $L(v)=pv$ となる。
2 ⇒ 1:$\langle\alpha v,\alpha w\rangle=\operatorname{Re}(\alpha v\,\overline{\alpha w})=|\alpha|^2\langle v,w\rangle$ であり、表現行列の行列式は $|\alpha|^2>0$ である。
1 ⇒ 2:$p:=L(1)$、$q:=L(i)$ とおくと、1 から $|p|^2=|q|^2=c$、$\langle p,q\rangle=\langle 1,i\rangle\,c=0$ である。$q/p$ は $|q/p|=1$ を満たし、$\operatorname{Re}(q\bar p)=0$ より $q/p=q\bar p/|p|^2$ は純虚数だから、$q=\pm ip$ である。$p=a+ib$ とすると、$q=ip$ のとき表現行列は $\begin{pmatrix}a&-b\\ b&a\end{pmatrix}$、$q=-ip$ のとき $\begin{pmatrix}a&b\\ b&-a\end{pmatrix}$ で、行列式はそれぞれ $a^2+b^2$、$-(a^2+b^2)$ である。$\det L>0$ より $q=ip$ であり、$L(x+iy)=xp+yip=(x+iy)p$ となる。$\alpha:=p\neq0$ とすればよい。
lem-conf-linear と合わせると、平面の開集合の間の $C^1$ 級の写像について、「Euclid 計量に関する向きを保つ共形写像」「等角写像」「導関数が $0$ にならない正則関数」の 3 つは同じものである。条件 1 から $\det L>0$ を外すと $L(v)=\alpha\bar v$ の形も許され、これは角の大きさを保って向きを逆にする写像である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $f'(a)\neq0$ | $z^2$($a=0$) | 正則なら $a$ で角を保つ |
| 複素微分可能(実の全微分可能だけ) | $\bar z$ | 単射な微分をもつなら向き付きの角を保つ |
| 単射 | $\exp\colon\mathbb{C}\to\mathbb{C}\setminus\{0\}$ | 正則関数 $U\to f(U)$ は等角同型 |
| $\Omega\neq\mathbb{C}$ | $\Omega=\mathbb{C}$ | 単連結な領域は $\mathbb{D}$ と等角同値 |
| 単連結 | $\mathbb{D}^*:=\mathbb{D}\setminus\{0\}$ | $\mathbb{C}$ と異なる領域は $\mathbb{D}$ と等角同値 |
等角同型 $\varphi\colon\mathbb{D}^*\to\mathbb{D}$ があったとする。$|\varphi|< 1$ なので、Riemannの拡張定理 により $\varphi$ は $\mathbb{D}$ 上の正則関数 $\tilde\varphi$ に延びる。$\tilde\varphi$ は定数でないので、開写像定理(複素解析) により $\tilde\varphi(\mathbb{D})$ は開集合で、$\tilde\varphi(\mathbb{D})\subset\overline{\mathbb{D}}$ だから $\tilde\varphi(\mathbb{D})\subset\mathbb{D}$ である。$\varphi$ は $\mathbb{D}$ への全射なので、$w:=\tilde\varphi(0)=\varphi(p)$ となる $p\in\mathbb{D}^*$ がある。$0$ と $p$ の互いに交わらない開近傍 $A,B\subset\mathbb{D}$($0\notin B$)をとる。開写像定理により $\tilde\varphi(A)\cap\tilde\varphi(B)$ は $w$ を含む開集合なので、$w$ と異なる点 $w'$ を含む。$\tilde\varphi(A\setminus\{0\})$ は $\tilde\varphi(A)\setminus\{w\}$ を含むから、$w'=\varphi(z_1)$($z_1\in A\setminus\{0\}$)、$w'=\varphi(z_2)$($z_2\in B$)と書けて、$z_1\neq z_2$ となる。これは $\varphi$ の単射性に反する。
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