結晶コホモロジー(crystalline cohomology)とは、標数 $p>0$ の完全体 $k$ 上のスキーム $X$ に対する、Witt ベクトル環 $W=W(k)$ 係数の $p$ 進コホモロジーである。$X$ の開集合の無限小の厚みにイデアルの分割冪構造を添えた対象からなる結晶景の上で構造層のコホモロジーをとり、$W/p^{n+1}W$ 上の値の射影極限として定める。$X$ が $W$ 上の滑らかな持上げをもてばその de Rham コホモロジーに一致し、持上げがなくても定義できる。固有で滑らかな $X$ では有限生成 $W$ 加群で Frobenius が作用し、$W[1/p]$ 係数で $\ell$ 進と同じ Betti 数をもつ Weil コホモロジーになる。Grothendieck の 1966 年の構想を Berthelot が 1974 年に確立した。
前提知識: スキーム, Grothendieck位相, トポス, 層コホモロジー, Wittベクトル, 分割冪構造, de Rhamコホモロジー, 形式スキーム
結晶コホモロジーは、標数 $p>0$ の完全体 $k$ 上のスキーム $X$ に対して、Wittベクトル環 $W=W(k)$ を係数とする「$p$ 進コホモロジー」を、$X$ の $W$ 上への持上げを仮定せずに定義する理論である。ℓ進コホモロジー(エタールコホモロジー)が $\ell\ne p$ に対して Weilコホモロジーを与えるのに対し、$\ell=p$ の側を担う。以下、$k$ は標数 $p$ の完全体、$W=W(k)$、$K=W[1/p]$ とし、
$$
W_n:=W/p^{n+1}W\qquad(n\ge0,\ W_0=k)
$$
とおく(BO78 は $W_n=W/p^nW$ と番号を付ける。本記事は参考書 結晶コホモロジーの構想 と同じ番号付けを使う)。$W$ は $p$ を素元とする完備(完備化)な離散付値環で剰余体 $k$ をもち、$W_n$ は Artin 局所環(Artin環)である。
定義の要点は、$X$ の開集合 $U$ の無限小の「厚み」$U\hookrightarrow T$ のうち、はめ込みのイデアルに分割冪構造($x^m/m!$ の役をする写像 $\delta_m$)を添えたものを全部集めて景(site)を作り、その上で構造層のコホモロジーをとることにある。分割冪の定義を復習する(詳細と証明は 分割冪構造 の記事にある)。
可換環 $A$ とそのイデアル $I$ に対し、$I$ 上の分割冪構造(divided power structure、PD 構造)とは、写像の族 $\gamma_m\colon I\to A$($m\ge0$)で、$\gamma_0(x)=1$、$\gamma_1(x)=x$、$\gamma_m(x)\in I$($m\ge1$)、$\gamma_m(x+y)=\sum_{i+j=m}\gamma_i(x)\gamma_j(y)$、$\gamma_m(ax)=a^m\gamma_m(x)$、$\gamma_i(x)\gamma_j(x)=\binom{i+j}{i}\gamma_{i+j}(x)$、$\gamma_i(\gamma_j(x))=\frac{(ij)!}{i!\,(j!)^i}\gamma_{ij}(x)$ を満たすものをいう。とくに $m!\,\gamma_m(x)=x^m$ である。組 $(A,I,\gamma)$ を PD 環、$(I,\gamma)$ を PD イデアルという。環準同型 $f\colon A\to A'$ と PD イデアル $(I,\gamma)$、$(I',\gamma')$ について、$f(I)\subset I'$ かつ $f(\gamma_m(x))=\gamma'_m(f(x))$ のとき $f$ を PD 準同型という。
スキーム $S$ の準連接イデアル層(準連接層)$\mathcal{I}\subset\mathcal{O}_S$ 上の分割冪構造とは、各開集合 $V$ の $\Gamma(V,\mathcal{I})$ 上の分割冪構造で制限と両立するものをいい、組 $(S,\mathcal{I},\gamma)$ を PD スキームという。基本の例は $S=\operatorname{Spec}W_n$、$\mathcal{I}=pW_n$、$\gamma_m(px)=\frac{p^m}{m!}x^m$($p^m/m!\in p\mathbb{Z}_p$ は 分割冪構造 の記事で示す)と、$S=\operatorname{Spec}k$、$\mathcal{I}=0$ である。
$(S,\mathcal{I},\gamma)$ を PD スキーム、$T$ を $S$ スキーム、$\delta$ を $T$ のイデアル層 $\mathcal{J}$ 上の分割冪構造とし、$\mathcal{I}\mathcal{O}_T\subset\mathcal{J}$ とする。$\delta$ が $\gamma$ と両立するとは、$\mathcal{I}$ の局所切断 $x$ の $\mathcal{O}_T$ での像 $\bar{x}$ について $\delta_m(\bar{x})=\overline{\gamma_m(x)}$ が成り立つことをいう($S=\operatorname{Spec}W_n$ なら $\delta_m(p\cdot1)=\frac{p^m}{m!}\cdot1$、すなわち $W_n\to\Gamma(T,\mathcal{O}_T)$ が PD 準同型であることに他ならない)。$\mathcal{I}\mathcal{O}_T\subset\mathcal{J}$ を仮定しない一般の両立条件は BO78 §3 にあるが、本記事の場合はすべてこの仮定を満たす。
$(S,\mathcal{I},\gamma)$ を PD スキームで、$p$ が $S$ 上局所的に冪零(各アフィン開集合の上で $p^N=0$ となる $N$ がある)なものとし、$X$ を $S$ スキームで $\mathcal{I}\mathcal{O}_X=0$ なるものとする($S=\operatorname{Spec}W_n$、$X$ が $k$ 上のスキームなら $p\mathcal{O}_X=0$ なのでこれは自動的に成り立つ)。圏 $\operatorname{Cris}(X/S)$ を次で定める。
対象の $T$ は $S$ スキームであれば何でもよく、$X$ から作られる必要はない。$(U,U,0)$($\mathcal{J}=0$ に自明な分割冪)はつねに対象である。次の補題は、PD 厚みが自動的に「無限小」であること、すなわち $T$ と $U$ が同じ点集合をもつことを示す。
$A$ を $p^N=0$ となる可換環、$(J,\delta)$ を $A$ の PD イデアルとする。任意の $x\in J$ について $x^{p^N}=0$ である。したがって $\operatorname{Cris}(X/S)$ の各対象 $(U,T,\delta)$ について $\mathcal{J}_T$ の局所切断はすべて冪零であり、閉埋め込み $U\hookrightarrow T$ は台の位相空間の同相を与える。
$\operatorname{Cris}(X/S)$ 上の層の圏を $X$ の $S$ 上の結晶トポスといい $(X/S)_{\mathrm{cris}}$ と書く。対象 $(U,T,\delta)$ に環 $\Gamma(T,\mathcal{O}_T)$ を対応させる前層は、被覆族が $T$ の Zariski 開被覆であることから層になる。これを構造層 $\mathcal{O}_{X/S}$ という。同様に $(U,T,\delta)\mapsto\Gamma(T,\mathcal{J}_T)$ は $\mathcal{O}_{X/S}$ のイデアル層で、$\mathcal{J}_{X/S}$ と書く。
$(X/S)_{\mathrm{cris}}$ 上のアーベル群の層の圏は入射的対象(入射対象・射影対象)を十分にもつので、大域切断関手の右導来関手として層コホモロジー $H^i((X/S)_{\mathrm{cris}},F)$ が定まる。$X$ の $S$ 上の結晶コホモロジーとは
$$
H^i_{\mathrm{cris}}(X/S):=H^i\bigl((X/S)_{\mathrm{cris}},\mathcal{O}_{X/S}\bigr)
$$
である。$k$ 上のスキーム $X$ に対し、底 $(\operatorname{Spec}W_n,pW_n,\gamma)$ に関するものを $H^i_{\mathrm{cris}}(X/W_n)$ と書く。$W_n$ スキームは $W_{n+1}$ スキームでもあり両立条件は $n$ によらないので、$\operatorname{Cris}(X/W_n)$ は $\operatorname{Cris}(X/W_{n+1})$ の充満部分圏($T$ 上で $p^{n+1}=0$ となる対象の全体)であり、層の制限が射影系(射影極限)$\cdots\to H^i_{\mathrm{cris}}(X/W_{n+1})\to H^i_{\mathrm{cris}}(X/W_n)\to\cdots\to H^i_{\mathrm{cris}}(X/k)$ を与える。$X$ の $W$ 上の結晶コホモロジーとは、その射影極限
$$
H^i_{\mathrm{cris}}(X/W):=\varprojlim_nH^i_{\mathrm{cris}}(X/W_n)
$$
である。これは $W$ 加群で、$H^i_{\mathrm{cris}}(X/W)\otimes_WK$ を $K$ 係数の結晶コホモロジーという。
被覆族が $T$ の Zariski 開被覆だけなので、$\operatorname{Cris}(X/S)$ 上の層 $F$ は、各対象 $(U,T,\delta)$ の上の Zariski 層 $F_T$($F_T(V):=F(U\cap V,V,\delta|_V)$)と、各射 $u\colon(U,T,\delta)\to(U',T',\delta')$ に対する遷移射 $\rho_u\colon u^{-1}F_{T'}\to F_T$ で恒等射と合成に両立するものの系と同じである。$\mathcal{O}_{X/S}$ は系 $(\mathcal{O}_T)_T$ に対応し、$\mathcal{O}_{X/S}$ 加群とは各 $F_T$ が $\mathcal{O}_T$ 加群で $\rho_u$ が $u^{-1}\mathcal{O}_{T'}$ 線型であるものである。
$\mathcal{O}_{X/S}$ 加群 $F$ が $\mathcal{O}_{X/S}$ 加群の結晶(crystal)であるとは、$\operatorname{Cris}(X/S)$ の任意の射 $u\colon(U,T,\delta)\to(U',T',\delta')$ について、遷移射から誘導される $\mathcal{O}_T$ 線型写像
$$
u^*F_{T'}=\mathcal{O}_T\otimes_{u^{-1}\mathcal{O}_{T'}}u^{-1}F_{T'}\longrightarrow F_T
$$
が同型であることをいう。各 $F_T$ が準連接(連接)なら準連接(連接)な結晶という。
$\mathcal{O}_{X/S}$ は結晶である($u^*\mathcal{O}_{T'}=\mathcal{O}_T$)。一方 $\mathcal{J}_{X/S}$ は一般に結晶でない。実際、閉埋め込み $i\colon U\hookrightarrow T$ を射 $(U,U,0)\to(U,T,\delta)$ とみると $i^*\mathcal{J}_T=\mathcal{J}_T/\mathcal{J}_T^2\to\mathcal{J}_U=0$ は、$\mathcal{J}_T\ne\mathcal{J}_T^2$(たとえば $T=\operatorname{Spec}k[\xi]/(\xi^2)$、$U=\operatorname{Spec}k$)のとき同型でない。「結晶」の名は Grothendieck によるもので、遷移射が同型であるという剛性と、すべての厚みの上に定義されているという成長性になぞらえたものである。$S_0:=V(\mathcal{I})$ とし、$X$ が $S$ 上滑らか(滑らかな射)な $Y$ に $X=Y\times_SS_0$ の形で持ち上がれば($S=S_0$、$Y=X$ の場合を含む)、準連接な $\mathcal{O}_{X/S}$ 加群の結晶の圏は、$Y$ 上の準連接 $\mathcal{O}_Y$ 加群に可積分で準冪零な接続 $\nabla$($Y/S$ の Kähler微分の層 $\Omega^1_{Y/S}$ に値をとり、局所座標 $y_1,\dots,y_d$ について、各局所切断 $s$ と各 $i$ に対し $\nabla_{\partial_i}^Ns=0$ となる $N$ があるもの)を添えたものの圏と同値である(BO78 §6、Theorem 6.6 と PD 厚みに沿った結晶トポスの不変性。本記事では言明だけを引く)。この同値のもとで $\mathcal{O}_{X/S}$ は $(\mathcal{O}_Y,d)$ に対応する。
結晶景と結晶コホモロジーの着想は、Grothendieck が 1966 年 11〜12 月に IHÉS で行った講演(記録は 1968 年刊、Gro68c)にある。そこでは、標数 $0$ の底の上で滑らかなスキームの無限小コホモロジー(分割冪を添えない厚み全体の景のコホモロジー)が代数的 de Rhamコホモロジーに一致するという定理を示したのち、標数 $p$ では無限小景が失敗すること(ex-crystalline-cohomology-infinitesimal)を指摘し、失われているのは「$x^m/m!$」であると診断して、PD 冪零な分割冪を添えた厚みからなる景を「crystalline site」と名づけた。そのうえで、a) 冪零はめ込みに沿った不変性と、b) 滑らかな $X/S$ について $H^*_{\mathrm{cris}}(X/S)\cong H^*_{\mathrm{dR}}(X/S)$ が任意の底で成り立つことを見込みとして述べ、これらから固有で滑らかな $X_0/k$ とその固有で滑らかな持上げ $X/W$ について $H^*_{\mathrm{cris}}(X_0/W)\cong H^*_{\mathrm{dR}}(X/W)$ が従うこと(crucial test)を導いた。証明は与えられておらず、a) は述べたままでは正しくないことが後注で告げられている。
この構想を定理にしたのは Berthelot の学位論文(1974 年刊、Ber74)で、定義を底の PD 構造と両立する分割冪付き厚みに改め(rem-crystalline-cohomology-conventions)、thm-crystalline-cohomology-comparison と thm-crystalline-cohomology-weil の 1・3・4 を証明した。教科書的な整理は Berthelot–Ogus BO78 にある。1966 年の講演録の内容(無限小景・stratification・基本定理・crucial test の導出・非固有の場合の困難と Monsky–Washnitzer の景の構想)は参考書 結晶コホモロジーの構想 が主題ごとに解説している。
標数 $0$ では、滑らかな多様体のコホモロジーは de Rham 複体で計算でき、その要は Poincaré 補題、すなわち $\sum a_m\xi^m\,d\xi$ を項ごとに積分して $\sum\frac{a_m}{m+1}\xi^{m+1}$ を作れることである。標数 $p$ の体や $W$ の上ではこの割り算ができず、$\xi^{p-1}\,d\xi$ は完全でない。結晶コホモロジーは、「無限小の厚み」を対象とする景のコホモロジーをとることで持上げに依らない定義を得ると同時に、厚みのイデアルに分割冪 $\xi^{[m]}$($m!\,\xi^{[m]}=\xi^m$)を最初から添えておくことで、$\xi^{[m]}\,d\xi=d\xi^{[m+1]}$ という形で積分を回復する。滑らかな持上げがあれば結晶コホモロジーはその de Rham コホモロジーに一致し(thm-crystalline-cohomology-comparison)、持上げがなくても定義され、固有で滑らかな多様体では $\ell$ 進コホモロジーと同じ Betti 数と Frobenius の特性多項式を与える(thm-crystalline-cohomology-weil)。
以下の例では、次の節で述べる thm-crystalline-cohomology-comparison(滑らかな持上げがあれば結晶コホモロジーは持上げの de Rham コホモロジーに一致する)を使う。
$X=\operatorname{Spec}k$ とする。$H^0_{\mathrm{cris}}(\operatorname{Spec}k/W_n)=W_n$、$H^i_{\mathrm{cris}}(\operatorname{Spec}k/W_n)=0$($i\ge1$)であり、したがって $H^0_{\mathrm{cris}}(\operatorname{Spec}k/W)=W$、$H^i_{\mathrm{cris}}(\operatorname{Spec}k/W)=0$($i\ge1$)である。
$H^0$ は定義から直接わかる。対象 $e:=(\operatorname{Spec}k\hookrightarrow\operatorname{Spec}W_n,\gamma)$ をとる。任意の対象 $(U,T,\delta)$ について、$T$ の構造射 $T\to\operatorname{Spec}W_n$ はただ 1 つで、両立条件は $W_n\to\Gamma(T,\mathcal{O}_T)$ が PD 準同型であることそのものだったから、これが $\operatorname{Cris}(\operatorname{Spec}k/W_n)$ の唯一の射 $(U,T,\delta)\to e$ である。すなわち $e$ は終対象で、$\Gamma((\operatorname{Spec}k/W_n)_{\mathrm{cris}},\mathcal{O})=\mathcal{O}(e)=W_n$ である。高次の消滅は、$\operatorname{Spec}W_n$ が滑らかな持上げでその de Rham 複体が次数 $0$ の $W_n$ だけからなることと thm-crystalline-cohomology-comparison による。
$X=\mathbb{P}^n_k$(射影空間)とする。
$$
H^i_{\mathrm{cris}}(\mathbb{P}^n_k/W)\cong\begin{cases}W&(i=0,2,\dots,2n)\\0&(\text{その他})\end{cases}
$$
であり、$H^i_{\mathrm{cris}}(\mathbb{P}^n_k/W)\otimes_WK$ の次元は複素射影空間 $\mathbb{CP}^n$ の Betti 数に一致する。
$\mathbb{P}^n_{W_m}$ は $W_m$ 上滑らかで $\mathbb{P}^n_{W_m}\times_{W_m}k=\mathbb{P}^n_k$ なので、thm-crystalline-cohomology-comparison により $H^i_{\mathrm{cris}}(\mathbb{P}^n_k/W_m)\cong H^i_{\mathrm{dR}}(\mathbb{P}^n_{W_m}/W_m)=\mathbf{H}^i(\mathbb{P}^n_{W_m},\Omega^{\bullet}_{\mathbb{P}^n_{W_m}/W_m})$ である(右辺は de Rham 複体の超コホモロジー)。de Rham 複体の次数による切り捨てフィルトレーションから Hodge–de Rham スペクトル系列
$$
E_1^{a,b}=H^b(\mathbb{P}^n_{W_m},\Omega^a_{\mathbb{P}^n_{W_m}/W_m})\Longrightarrow H^{a+b}_{\mathrm{dR}}(\mathbb{P}^n_{W_m}/W_m)
$$
が得られる。ここで次の事実を引く:任意の可換環 $R$ について $H^b(\mathbb{P}^n_R,\Omega^a_{\mathbb{P}^n_R/R})$ は $a=b\le n$ なら階数 $1$ の自由 $R$ 加群、それ以外なら $0$ で、この同型は底の取り替え $R\to R'$ と両立する(体上の証明は Har77 III 演習 7.3。Euler 完全列と $\mathcal{O}(d)$ のコホモロジーによる同じ議論が任意の $R$ で通る)。よって $E_1^{a,b}$ は $a=b$ のときだけ $0$ でない。微分 $d_r\colon E_r^{a,b}\to E_r^{a+r,b-r+1}$ の始域と終域がともに $0$ でなければ $a=b$ かつ $a+r=b-r+1$、すなわち $2r=1$ となって矛盾するから、すべての $d_r$($r\ge1$)は $0$ で $E_1=E_\infty$ である。$H^i_{\mathrm{dR}}$ の有限フィルトレーションの次数商は $E_\infty^{a,i-a}$($a=0,\dots,i$)だから、$i=2a$($0\le a\le n$)なら $0$ でない次数商は $E_\infty^{a,a}=W_m$ ただ 1 つで $H^{2a}_{\mathrm{dR}}(\mathbb{P}^n_{W_m}/W_m)\cong W_m$、$i$ が奇数か $i>2n$ なら $H^i_{\mathrm{dR}}=0$ である。同型 $H^{2a}_{\mathrm{dR}}(\mathbb{P}^n_{W_m}/W_m)\cong H^a(\mathbb{P}^n_{W_m},\Omega^a)\cong W_m$ は底の取り替えと両立するので、$m$ についての遷移写像は還元 $W_{m+1}\to W_m$ である。したがって $H^{2a}_{\mathrm{cris}}(\mathbb{P}^n_k/W)=\varprojlim_mW_m=W$、その他の次数では $0$ で、$\otimes_WK$ の次元は $\mathbb{CP}^n$ の Betti 数に一致する。
$E$ を $k$ 上の楕円曲線とする。prop-crystalline-cohomology-h0-h1 により $H^1_{\mathrm{cris}}(E/W)$ は階数 $2$ の自由 $W$ 加群で、$H^1_{\mathrm{cris}}(E/W)\otimes_Wk\cong H^1_{\mathrm{dR}}(E/k)$ である。以下は言明である。$H^1_{\mathrm{cris}}(E/W)$ に rem-crystalline-cohomology-frobenius の Frobenius $\Phi$ を添えたものは、$E$ の $p$ 可除群 $E[p^\infty]$ の(反変)Dieudonné 加群(Dieudonné加群とp可除群)に同型であり(Berthelot–Breen–Messing BBM82。$k$ 係数の版 $H^1_{\mathrm{dR}}(E/k)\cong D(E[p])$ は Oda Oda69)、$\Phi$ の $H^1_{\mathrm{dR}}(E/k)$ への還元は $H^0(E,\Omega^1_E)$ を消して $H^1(E,\mathcal{O}_E)$ に Hasse不変量倍で作用する。したがって $E$ が超特異楕円曲線であることと $\Phi$ の傾き(rem-crystalline-cohomology-frobenius)が $\frac12,\frac12$ であることは同値で、通常楕円曲線(通常楕円曲線)なら傾きは $0,1$ である。$E$ が $\mathbb{F}_q$ 上定義されていれば $\det(1-\Phi^aT\mid H^1_{\mathrm{cris}}(E/W)\otimes K)=1-a_qT+qT^2$($q=p^a$、$\#E(\mathbb{F}_q)=1+q-a_q$)である。
$X=\mathbb{A}^1_k=\operatorname{Spec}k[t]$ とする。$H^0_{\mathrm{cris}}(\mathbb{A}^1_k/W)=W$ である一方、$H^1_{\mathrm{cris}}(\mathbb{A}^1_k/W)$ は有限生成 $W$ 加群でなく、$H^1_{\mathrm{cris}}(\mathbb{A}^1_k/W)\otimes_WK$ は $K$ 上無限次元である。固有でないスキームの結晶コホモロジーは、$K$ 係数でも「正しい Betti 数」($\mathbb{A}^1$ なら $b_0=1$、$b_1=0$)を与えない。
$\mathbb{A}^1_{W_n}=\operatorname{Spec}W_n[t]$ は $\mathbb{A}^1_k$ の $W_n$ 上の滑らかな持上げなので、thm-crystalline-cohomology-comparison により $H^i_{\mathrm{cris}}(\mathbb{A}^1_k/W_n)\cong H^i_{\mathrm{dR}}(\mathbb{A}^1_{W_n}/W_n)$ であり、アフィンスキームの de Rham コホモロジーは大域切断の複体
$$
C_n\colon\ W_n[t]\xrightarrow{\ d\ }W_n[t]\,dt,\qquad d\Bigl(\sum_ia_it^i\Bigr)=\sum_{i\ge1}ia_it^{i-1}\,dt
$$
のコホモロジーである。遷移写像は還元 $W_{n+1}[t]\to W_n[t]$ が誘導するものである。
$H^0$:$H^0(C_n)=\{\sum_ia_it^i\mid ia_i=0\ (i\ge1)\}$ である。$\varprojlim_nH^0(C_n)$ の元は、係数の列 $a_i\in\varprojlim_nW_n=W$ で $ia_i=0$ を満たすものからなり、$W$ は整域なので $i\ge1$ なら $a_i=0$ で、$H^0_{\mathrm{cris}}(\mathbb{A}^1_k/W)=W$ である。
$H^1$:$W_n[t]\,dt=\bigoplus_{i\ge0}W_nt^i\,dt$ と $d(W_n[t])=\bigoplus_{i\ge0}(i+1)W_nt^i\,dt$ から
$$
H^1(C_n)=\bigoplus_{i\ge0}W_n/(i+1)W_n=\bigoplus_{i\ge0}W/p^{\min(n+1,\,v_i)}W,\qquad v_i:=v_p(i+1)
$$
で、遷移写像は各成分の還元である。各 $i$ について $\varprojlim_nW/p^{\min(n+1,v_i)}W=W/p^{v_i}W$ だから、$\varprojlim_nH^1(C_n)$ は $\prod_{i\ge0}W/p^{v_i}W$ の部分加群で、その元 $(x_i)_i$ は「各 $n$ について $x_i\not\equiv0\pmod{p^{n+1}}$ となる $i$ が有限個」、すなわち $x_i\ne0$ なる $i$ に沿って $v_p(x_i)\to\infty$ という条件で特徴づけられる(逆にこの条件を満たす $(x_i)$ は各 $H^1(C_n)$ に有限個の成分だけをもつ両立する像を定める)。よって
$$
H^1_{\mathrm{cris}}(\mathbb{A}^1_k/W)\cong\Bigl\{(x_i)_{i\ge0}\ \Big|\ x_i\in W/p^{v_p(i+1)}W,\ v_p(x_i)\to\infty\Bigr\}
$$
である。
無限次元性:$\mathbb{N}_{\ge1}$ の互いに交わらない無限部分集合 $S_1,S_2,\dots$ をとる(たとえば $S_j=\{2^j(2r+1)\mid r\ge0\}$)。各 $j$ について元 $y^{(j)}=(x_i)$ を、$m\in S_j$ に対し $i=p^{2m}-1$($v_i=2m$)の成分を $x_i=p^m\bmod p^{2m}$、それ以外を $0$ とおいて定める。$v_p(x_i)=m\to\infty$ なので $y^{(j)}\in M:=H^1_{\mathrm{cris}}(\mathbb{A}^1_k/W)$ である。$\sum_j\lambda_jy^{(j)}=0$($\lambda_j\in K$)が $M[1/p]=M\otimes_WK$ で成り立つとする。分母を払って $\lambda_j\in W$ としてよく、ある $N$ について $p^N\sum_j\lambda_jy^{(j)}=0$ が $M$ で成り立つ。$i=p^{2m}-1$、$m\in S_j$ の成分を見ると($S_j$ は互いに交わらないので他の $y^{(j')}$ は寄与しない)、$p^N\lambda_jp^m\equiv0\pmod{p^{2m}}$、すなわち $N+v_p(\lambda_j)\ge m$ が無限個の $m\in S_j$ について成り立つから $\lambda_j=0$ である。よって $y^{(1)},y^{(2)},\dots$ は $K$ 上一次独立で、$H^1_{\mathrm{cris}}(\mathbb{A}^1_k/W)\otimes K$ は無限次元、とくに $H^1_{\mathrm{cris}}(\mathbb{A}^1_k/W)$ は有限生成でない。
系 $(H^0(C_n))_n$ は Mittag-Leffler 条件を満たさない($t^{p^{m+1}}\in H^0(C_m)$ の $H^0(C_n)$ での像は $H^0(C_{m+1})$ の像に入らない)ので、rem-crystalline-cohomology-conventions の導来射影極限版は $\varprojlim^1_nH^0(C_n)$ の分だけ上の $H^1$ と違いうる。導来版は形式的持上げ $\operatorname{Spf}W\{t\}$(形式スキーム、$W\{t\}$ は $W[t]$ の $p$ 進完備化)の de Rham 複体のコホモロジーに一致し、こちらも $\otimes K$ で無限次元である($\sum_{m\in S_j}p^mt^{p^m-1}\,dt$ の原始関数 $\sum_{m\in S_j}t^{p^m}$ は $W\{t\}[1/p]$ に入らない)。この困難を過収束級数環 $W\{t\}^\dagger$(過収束級数)で解決するのが Monsky–Washnitzerコホモロジーと rigid コホモロジーである(rem-crystalline-cohomology-later)。
分割冪を課さない厚みからなる景を考える。$S$ をスキーム、$X$ を $S$ スキームとし、無限小景 $\operatorname{Inf}(X/S)$ を、対象が組 $(U,T)$($U$ は $X$ の開集合、$U\hookrightarrow T$ は $S$ スキームの閉埋め込みでイデアル層が局所的に冪零)、射と被覆族は $\operatorname{Cris}$ と同じ(分割冪の条件を除く)で定め、構造層 $(U,T)\mapsto\Gamma(T,\mathcal{O}_T)$ のコホモロジーを $H^i_{\inf}(X/S)$ と書く。$S$ が $\mathbb{Q}$ 上のスキームなら、イデアル上の分割冪構造は $x^m/m!$ に限るので、$\operatorname{Inf}(X/S)$ の対象に分割冪を添えた景($p$ の冪零性を課さずに def-crystalline-cohomology-site と同じ形で作る結晶景)は $\operatorname{Inf}(X/S)$ と一致し、$X/S$ が滑らかなら $H^i_{\inf}(X/S)\cong H^i_{\mathrm{dR}}(X/S)$ である(Grothendieck Gro68c Theorem 4.1)。
外す条件は「$S$ が $\mathbb{Q}$ 上」である。破れる含意は「滑らかな $X/S$ について無限小コホモロジーは de Rham コホモロジーに一致する」である。$S=\operatorname{Spec}k$(分割冪は自明)、$X=\mathbb{A}^1_k=\operatorname{Spec}k[t]$ のとき、
$$
H^0_{\inf}(\mathbb{A}^1_k/k)=k,\qquad H^0_{\mathrm{cris}}(\mathbb{A}^1_k/k)=k[t^p]=H^0_{\mathrm{dR}}(\mathbb{A}^1_k/k)
$$
である。すなわち無限小景は $H^0$ の時点で de Rham コホモロジーと食い違い、結晶景は一致する(thm-crystalline-cohomology-comparison を底 $(\operatorname{Spec}k,0)$ に適用した結果と整合する)。
多項式 $f=\sum_ia_it^i\in k[t]$ に対し、Hasse 微分(Hasse微分)を $f^{[m]}:=\sum_i\binom{i}{m}a_it^{i-m}$ で定める。$\mathbb{Z}[t,\xi]$ の恒等式 $(t+\xi)^i=\sum_m\binom{i}{m}t^{i-m}\xi^m$、$\binom{i}{m}m!=i(i-1)\cdots(i-m+1)$ を落として、Taylor 展開 $f(t+\xi)=\sum_{m\ge0}f^{[m]}(t)\xi^m$(有限和)と $m!\,f^{[m]}=f^{(m)}$($m$ 階導関数)が任意の可換 $k$ 代数で成り立つ。また $\ker(d\colon k[t]\to k[t]\,dt)=\{f\mid ia_i=0\ (i\ge1)\}=k[t^p]$ である。
無限小景の $H^0$:$T_N:=\operatorname{Spec}k[t,\xi]/(\xi^{N+1})$ に $\xi\mapsto0$ で $\mathbb{A}^1_k$ を埋め込むと $(\mathbb{A}^1_k,T_N)$ は $\operatorname{Inf}(\mathbb{A}^1_k/k)$ の対象で、$t\mapsto t$ および $t\mapsto t+\xi$ はどちらも $\mathbb{A}^1_k$ 上恒等になるので射 $p_0,p_1\colon(\mathbb{A}^1_k,T_N)\to(\mathbb{A}^1_k,\mathbb{A}^1_k)$ を定める。大域切断 $s$ の $(\mathbb{A}^1_k,\mathbb{A}^1_k)$ での値を $f\in k[t]$ とすると、$s_{T_N}=p_0^*f=p_1^*f$ から $f(t)\equiv f(t+\xi)\pmod{\xi^{N+1}}$、すなわち $f^{[m]}=0$($1\le m\le N$)である。$N$ は任意なので、$f\ne0$ の次数を $e$ とすれば $f^{[e]}=a_e\ne0$ より $e=0$、$f\in k$ である。逆に定数は大域切断なので $H^0_{\inf}(\mathbb{A}^1_k/k)=k$ である。
結晶景の $H^0$:$k[t]$ 上の分割冪多項式環 $k[t]\langle\xi\rangle=\bigoplus_{m\ge0}k[t]\xi^{[m]}$($\xi^{[i]}\xi^{[j]}=\binom{i+j}{i}\xi^{[i+j]}$、$\xi^m=m!\,\xi^{[m]}$。イデアル $J_+=\bigoplus_{m\ge1}k[t]\xi^{[m]}$ は $\delta_m(\xi)=\xi^{[m]}$ なる分割冪構造をもつ。分割冪構造)をとり、$T_\infty:=\operatorname{Spec}k[t]\langle\xi\rangle$ に $J_+\mapsto0$ で $\mathbb{A}^1_k$ を埋め込むと、$(\mathbb{A}^1_k,T_\infty,\delta)$ は $\operatorname{Cris}(\mathbb{A}^1_k/k)$ の対象で(底の分割冪が自明なので両立条件は空)、$t\mapsto t$、$t\mapsto t+\xi$ は射 $p_0,p_1\colon(\mathbb{A}^1_k,T_\infty,\delta)\to(\mathbb{A}^1_k,\mathbb{A}^1_k,0)$ である(終域のイデアルが $0$ なので PD 準同型の条件は空)。大域切断 $s$ の値 $f$ は $f(t)=f(t+\xi)$ を $k[t]\langle\xi\rangle$ で満たす。ここで
$$
f(t+\xi)=\sum_mf^{[m]}(t)\xi^m=\sum_mf^{[m]}(t)\,m!\,\xi^{[m]}=\sum_mf^{(m)}(t)\xi^{[m]}
$$
であり、$\xi^{[m]}$ は $k[t]$ 上の基底だから $f^{(m)}=0$($m\ge1$)、とくに $f'=0$ で $f\in k[t^p]$ である。逆に $f'=0$ なる $f$ が大域切断を定めることを示す。対象 $(U,T,\delta)$ と $T$ のアフィン開集合 $V=\operatorname{Spec}B$($U\cap V=\operatorname{Spec}B/J$)をとり、$t$ の $B/J$ での像の持上げ $b\in B$ を選んで $s_V:=f(b)$ とおく。別の持上げは $b+h$($h\in J$)で、
$$
f(b+h)=\sum_mf^{[m]}(b)h^m=\sum_mf^{[m]}(b)\,m!\,\delta_m(h)=\sum_mf^{(m)}(b)\delta_m(h)=f(b)
$$
だから $s_V$ は持上げの選び方によらない。よって $s_V$ は貼り合って $s_T\in\Gamma(T,\mathcal{O}_T)$ を定め、射 $u\colon(U,T,\delta)\to(U',T',\delta')$ について $T'$ 上の持上げの $u^{\#}$ による像は $T$ 上の持上げなので $u^*s_{T'}=s_T$ である。したがって $(s_T)_T$ は大域切断で、$H^0_{\mathrm{cris}}(\mathbb{A}^1_k/k)=k[t^p]$ である。
無限小景の失敗は $H^0$ に限らない。Grothendieck Gro68c 7.1 は、$W$ 上の無限小コホモロジー $H^i_{\inf}(X_0/W)$ が、形式群がトーラスになるアーベル多様体 $X_0$ について $i>\dim X_0$ で消え、固有で滑らかな多様体に要求される $H^{2\dim X_0}\ne0$ を満たさないことを(証明なしに)指摘した。Ogus Ogu75 は標数 $p$ の無限小コホモロジーを $p$ 捩れ係数のエタールコホモロジーで記述したが、後者は固有で滑らかな多様体の Betti 数を与えない。分割冪を添えた結晶景がこれらの困難を解消することは次の節の定理が示す。
1 と 2 の証明は BO78 §7(Theorem 7.1 とその系。原論文は Ber74)に譲る。3 の前半は 1 と定義から直ちに従い、固有な場合の $\varprojlim_nH^i_{\mathrm{dR}}(X_n/W_n)\cong H^i_{\mathrm{dR}}(\mathfrak{X}/W)$ は、各 $H^i_{\mathrm{dR}}(X_n/W_n)$ が有限長で Mittag-Leffler条件を満たすことと、$\mathfrak{X}$ の有限アフィン開被覆による Čech 複体が $W$ 上平坦な有界複体でその $W_n$ への還元が $X_n$ の Čech 複体になることから従う(この極限移行の証明は参考書 結晶コホモロジーの構想 にある)。Grothendieck の crucial test(rem-crystalline-cohomology-history)はこうして定理になった。線形化を使わず Čech–Alexander 複体で 1・2 を証明する現代的な扱いは Bhatt–de Jong BdJ11 にある。
証明の要は、分割冪を添えた「形式 Poincaré 補題」である。1 変数の場合を完全に示す。
$A$ を可換環、$A\langle\xi\rangle=\bigoplus_{m\ge0}A\xi^{[m]}$ を $A$ 上の分割冪多項式環($\xi^{[i]}\xi^{[j]}=\binom{i+j}{i}\xi^{[i+j]}$、$\xi^{[0]}=1$)とし、$A$ 線型写像 $d\colon A\langle\xi\rangle\to A\langle\xi\rangle\,d\xi$ を
$$
d\Bigl(\sum_{m\ge0}a_m\xi^{[m]}\Bigr):=\sum_{m\ge1}a_m\xi^{[m-1]}\,d\xi
$$
で定める。このとき $d$ は Leibniz 則 $d(fg)=f\,dg+g\,df$ を満たし、$\ker d=A$、$d$ は全射である。すなわち複体 $A\langle\xi\rangle\to A\langle\xi\rangle\,d\xi$ のコホモロジーは次数 $0$ で $A$、次数 $1$ で $0$ である。一方、$A=k$ または $A=W_n$ のとき、$A[\xi]$ と $A[\![\xi]\!]$ の通常の de Rham 複体では $\xi^{p-1}\,d\xi$ は完全でない。
Leibniz 則は $A$ 双線型なので基底の元 $f=\xi^{[i]}$、$g=\xi^{[j]}$($i,j\ge1$。一方が $0$ なら自明)について確かめれば十分である。$d(\xi^{[i]}\xi^{[j]})=\binom{i+j}{i}\xi^{[i+j-1]}\,d\xi$ であり、
$$
\xi^{[i]}\,d\xi^{[j]}+\xi^{[j]}\,d\xi^{[i]}=\bigl(\xi^{[i]}\xi^{[j-1]}+\xi^{[j]}\xi^{[i-1]}\bigr)d\xi=\Bigl(\tbinom{i+j-1}{i}+\tbinom{i+j-1}{i-1}\Bigr)\xi^{[i+j-1]}\,d\xi=\tbinom{i+j}{i}\xi^{[i+j-1]}\,d\xi
$$
(Pascal の関係式)だから両辺は等しい。$\sum_{m\ge1}a_m\xi^{[m-1]}=0$ は $a_m=0$($m\ge1$)と同値なので $\ker d=A$ であり、$\sum_mb_m\xi^{[m]}\,d\xi=d\bigl(\sum_mb_m\xi^{[m+1]}\bigr)$ だから $d$ は全射である。最後に $A=k$ または $W_n$ とし、$A[\![\xi]\!]$(または $A[\xi]$)で $\xi^{p-1}\,d\xi=d\bigl(\sum_mc_m\xi^m\bigr)=\sum_{m\ge1}mc_m\xi^{m-1}\,d\xi$ が成り立ったとすると、係数を比べて $pc_p=1$ となるが、$p$ は $k$ では $0$、$W_n$ では極大イデアルの元で単元でないから矛盾する。
thm-crystalline-cohomology-comparison の 1 の証明(BO78 §6–7)は次の段からなる。$Y/S$ は滑らかなので局所的にエタール座標 $y_1,\dots,y_d$ をもつ。$u\colon(X/S)_{\mathrm{cris}}\to X_{\mathrm{zar}}$ を、Zariski 層 $G$ に $(U,T,\delta)\mapsto G(U)$ を対応させる $u^{-1}$ とその右随伴 $u_*$($(u_*F)(U)=\Gamma((U/S)_{\mathrm{cris}},F)$)で定まるトポスの射とすると $H^i_{\mathrm{cris}}(X/S)=H^i(X_{\mathrm{zar}},\mathbf{R}u_*\mathcal{O}_{X/S})$ なので、$\mathbf{R}u_*\mathcal{O}_{X/S}\cong\Omega^{\bullet}_{Y/S}$ を示せばよい。
$X$ を完全体 $k$ 上の固有(固有射)で滑らかなスキーム、$d:=\dim X$ とする。
1・3・4 は Berthelot Ber74(1974 年。有限生成性は固有射に対する結晶コホモロジーの高次順像の連接性、双対性と Künneth は $K$ 係数で示される。概説は Ill94)、2 は BO78 §7 の普遍係数定理、5 のサイクル類写像の一般の構成と Riemann–Roch は Gillet–Messing GM87(1987 年)、6 の跡公式は Ber74 と KM74、$\ell$ 進の特性多項式との一致と有限体上の Betti 数の一致は Katz–Messing KM74(1974 年。Deligne の Weil予想の証明を使う)による。一般の完全体での Betti 数の一致は、底変換で有限体上に定義された場合に帰着させる議論により KM74 から従うとされる(Ill94)。したがって「結晶コホモロジーが Weil コホモロジーである」という言明は、Betti 数については 1974 年、任意のサイクルに対するサイクル類まで含めれば 1987 年に確立した。本記事はいずれも言明だけを引く。3 で「幾何的に連結」を仮定するのは、$H^{2d}$ の階数が $X_{\bar{k}}$ の連結成分の個数になるためである。
$F_X\colon X\to X$ を $X$ の絶対 Frobenius(Frobenius写像。位相空間上は恒等、構造層上は $a\mapsto a^p$)、$\sigma\colon W\to W$ を Witt ベクトル環の Frobenius($k$ の $x\mapsto x^p$ の持上げとなる環自己同型)とする。$\sigma$ は $pW_n$ 上の標準的な分割冪を保つので、$(F_X,\operatorname{Spec}\sigma)$ は $\operatorname{Cris}(X/W_n)$ から自分自身への PD 両立な射であり、関手性により $\sigma$ 半線型な自己準同型
$$
\Phi\colon H^i_{\mathrm{cris}}(X/W_n)\to H^i_{\mathrm{cris}}(X/W_n),\qquad\Phi(ax)=\sigma(a)\Phi(x)\quad(a\in W_n)
$$
を誘導し、極限で $H^i_{\mathrm{cris}}(X/W)$ に作用する。$k=\mathbb{F}_q$($q=p^a$)なら $\sigma^a=\mathrm{id}$ で、$\Phi^a$ は $W$ 線型である。以下は言明である(BO78 §8、Ill94)。$X$ が固有で滑らかなら、$H:=H^i_{\mathrm{cris}}(X/W)/(\text{捩れ})$ と $\Phi$ の組は F 結晶($F$-crystal)、すなわち有限生成自由 $W$ 加群と $\sigma$ 半線型な単射で $\Phi\otimes K$ が全単射になるものである。$k$ が代数閉なら Dieudonné–Manin の分類により $H\otimes K$ は傾き $\lambda\in\mathbb{Q}$ の単純 $F$ 同型結晶の直和に分解し、傾きは $[0,i]$ に入る。傾きの Newton 多角形は $\dim_kH^b(X,\Omega^a_{X/k})$ から作る Hodge 多角形の上にある(Mazur の定理。$F_X^*$ が $\Omega^1_{X/k}$ を $0$ に送るため $\Phi$ の $H^i_{\mathrm{dR}}(X/k)$ への還元が Hodge フィルトレーション $F^1$ を消すことが理由である)。$X$ が $\mathbb{F}_q$ 上にあれば $\Phi^a$ の特性多項式は $\mathbb{Z}$ 係数で、その根は重み $i$ の Weil $q$ 数である。
$X$ を完全体 $k$ 上の固有で滑らかな幾何的に連結なスキームとする。このとき $H^0_{\mathrm{cris}}(X/W)=W$ であり、$H^1_{\mathrm{cris}}(X/W)$ は階数 $b_1$ の自由 $W$ 加群で、$H^1_{\mathrm{cris}}(X/W)\otimes_Wk\to H^1_{\mathrm{dR}}(X/k)$ は単射、その余核は $H^2_{\mathrm{cris}}(X/W)[p]$ である。$X=E$ が楕円曲線なら $H^1_{\mathrm{cris}}(E/W)$ は階数 $2$ で、$H^1_{\mathrm{cris}}(E/W)\otimes_Wk\cong H^1_{\mathrm{dR}}(E/k)$ かつ $H^2_{\mathrm{cris}}(E/W)[p]=0$ である。
$X$ は固有で幾何的に整(幾何的に連結かつ滑らか)なので $H^0(X,\mathcal{O}_X)=k$ であり、$H^0_{\mathrm{dR}}(X/k)=\ker\bigl(d\colon H^0(X,\mathcal{O}_X)\to H^0(X,\Omega^1_{X/k})\bigr)$ は定数 $k$ を含むから $H^0_{\mathrm{dR}}(X/k)=k$ である。thm-crystalline-cohomology-weil の 2 を $i=0$ に適用すると
$$
0\to H^0_{\mathrm{cris}}(X/W)\otimes_Wk\to k\to H^1_{\mathrm{cris}}(X/W)[p]\to0
$$
が完全である。$H^0_{\mathrm{cris}}(X/W)$ の元 $1$(各 $\mathcal{O}_{X/W_n}$ の単位切断の族)は $H^0_{\mathrm{cris}}(X/k)=H^0_{\mathrm{dR}}(X/k)=k$ の $1\ne0$ に写るので左の項は $0$ でなく、$k$ 上 $1$ 次元以下だから $k$ に等しい。よって $H^1_{\mathrm{cris}}(X/W)[p]=0$ であり、有限生成 $W$ 加群(thm-crystalline-cohomology-weil の 1)で $p$ 捩れがないものは自由だから $H^1_{\mathrm{cris}}(X/W)$ は自由で、階数は thm-crystalline-cohomology-weil の 6 により $b_1$ である。$H^0_{\mathrm{cris}}(X/W)$ は有限生成で $H^0\otimes_Wk$ が $1$ 次元だから中山の補題により巡回加群 $W$ または $W/p^rW$ であり、階数が $b_0=1$($X_{\bar{k}}$ は連結)なので $H^0_{\mathrm{cris}}(X/W)=W$ である。$i=1$ の完全列 $0\to H^1_{\mathrm{cris}}(X/W)\otimes k\to H^1_{\mathrm{dR}}(X/k)\to H^2_{\mathrm{cris}}(X/W)[p]\to0$ が単射性と余核の記述を与える。楕円曲線では $b_1=2$ かつ $\dim_kH^1_{\mathrm{dR}}(E/k)=2$(Oda69)なので、次元を比べて $H^1_{\mathrm{cris}}(E/W)\otimes k\cong H^1_{\mathrm{dR}}(E/k)$、$H^2_{\mathrm{cris}}(E/W)[p]=0$ である。
時点を明記して、後代の理論との関係を言明だけ挙げる。
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