Boole素イデアル定理(Boolean prime ideal theorem)とは、$0\neq1$ である任意の Boole 代数が素イデアル、すなわち準同型 $B\to\{0,1\}$ の核をもつという選択原理である。ZF 上で、任意の真のイデアルを素イデアルへ延長できること、集合上の任意のフィルターを超フィルターへ拡張できること(超フィルター定理)、任意個の変数についての命題論理のコンパクト性定理、一階論理のコンパクト性定理と同値である。選択公理から従うが選択公理より真に弱く、ZF だけでは証明できない。可算な Boole 代数では選択なしに素イデアルがとれる。
Boole 素イデアル定理(Boolean prime ideal theorem、略して $\mathsf{BPI}$)は、$0\neq1$ である任意の Boole代数が素イデアルをもつという主張である。選択公理から従うが、選択公理より真に弱い。それでいて、集合上のフィルターを超フィルターへ拡張すること、命題論理や一階論理のコンパクト性定理など、論理学と位相空間論でよく使う多くの主張と同値になる。「選択公理の全体は要らないが、何らかの選択原理は要る」議論の多くが、ちょうどこの原理で足りる。
以下、基礎の体系は選択公理を含まない集合論 $\mathsf{ZF}$ とする。
Boole 代数 $B=(B,\vee,\wedge,\neg,0,1)$ は、分配的で、各元 $a$ が補元 $\neg a$($a\vee\neg a=1$、$a\wedge\neg a=0$)をもつ束である(Boole代数)。順序は $a\le b\iff a\wedge b=a$ で定める。$0\neq1$ のとき $B$ は非自明であるという。二元の Boole 代数 $\{0,1\}$ を $\mathbf{2}$ と書く。
Boole 代数 $B$ の部分集合 $I$ が次を満たすとき、$I$ を $B$ のイデアルという。
$I\neq B$(すなわち $1\notin I$)のとき真のイデアルという。真のイデアル $P$ が、任意の $a,b\in B$ について
$$
a\wedge b\in P\ \Longrightarrow\ a\in P\ \text{または}\ b\in P
$$
を満たすとき、$P$ を素イデアルという。
双対的に、$1$ を含み $0$ を含まず、$\wedge$ と上方について閉じた部分集合をフィルターといい、包含について極大なフィルターを超フィルターという。$I\mapsto\{\neg a\mid a\in I\}$ は真のイデアルとフィルターを入れ替え、素イデアルは補集合 $B\setminus P$ が超フィルターになるイデアルである(下の命題の 2 から分かる)。$B$ が集合 $S$ の冪集合 $\mathcal{P}(S)$ のとき、これらは集合上のフィルター・超フィルターと一致する。
非自明な任意の Boole 代数は素イデアルをもつ。この主張を Boole 素イデアル定理といい、$\mathsf{BPI}$ と書く。
「定理」と呼ばれるが、$\mathsf{ZF}$ では証明できない選択原理である(下の反例の表)。$\mathsf{ZFC}$ では定理になる(thm-bpi-from-ac)。
素イデアルには、同値な言い換えがいくつもある。
Boole 代数 $B$ の真のイデアル $P$ について、次は同値である。
$a$ と $\neg a$ がともに $P$ に属すると $1=a\vee\neg a\in P$ となり真であることに反するので、「ちょうど一方」の「高々一方」は常に成り立つ。
(1 ⇒ 2)$a\wedge\neg a=0\in P$ なので、素であることから $a\in P$ または $\neg a\in P$ である。
(2 ⇒ 1)$a\wedge b\in P$、$a\notin P$ とする。2 より $\neg a\in P$ である。分配律から $b=(b\wedge a)\vee(b\wedge\neg a)$ で、$b\wedge a\in P$、$b\wedge\neg a\le\neg a\in P$ なので $b\in P$ である。
(2 ⇒ 3)$P\subsetneq J$ となるイデアル $J$ があれば、$a\in J\setminus P$ について $\neg a\in P\subset J$ なので $1=a\vee\neg a\in J$ となり、$J$ は真でない。
(3 ⇒ 2)$a\notin P$ かつ $\neg a\notin P$ とする。$J:=\{x\in B\mid \text{ある } p\in P \text{ で } x\le p\vee a\}$ は $P\cup\{a\}$ を含むイデアルで、$a\notin P$ より $P\subsetneq J$ である。極大性から $J=B$、よって $1\le p\vee a$ となる $p\in P$ がある。すると $\neg a=\neg a\wedge(p\vee a)=\neg a\wedge p\le p$ なので $\neg a\in P$ となり、矛盾する。
(2 ⇒ 4)$h(a):=0$($a\in P$)、$h(a):=1$($a\notin P$)と定める。$h(0)=0$、$h(1)=1$ で、2 より $h(\neg a)=1-h(a)$ である。$a\vee b\in P$ は、イデアルの条件 2・3 により $a,b\in P$ と同値なので $h(a\vee b)=\max\{h(a),h(b)\}$ である。$\wedge$ は $\vee$ と $\neg$ から De Morgan の法則で書けるので、$h$ は準同型である。
(4 ⇒ 2)$h(\neg a)=1-h(a)$ なので、$h(a)$ と $h(\neg a)$ のちょうど一方が $0$ である。$\square$
素イデアルは、$B$ の各元を「$0$ 側」と「$1$ 側」に振り分け、しかも演算と矛盾しない振り分け、すなわち準同型 $B\to\mathbf{2}$ である。$B$ を命題の Boole 代数と見れば、素イデアルは各命題に真偽を割り当てる付値にあたる。有限個の元についてだけ矛盾なく真偽を決めることはいつでもできる(下の lem-bpi-finite)。$\mathsf{BPI}$ は、有限個ずつなら決められる振り分けが全体でも一度に決められるという、一種のコンパクト性の原理である。
以下の例ではどれも、素イデアルが選択原理なしに具体的に書ける。
集合 $S$ の元 $s$ を一つ固定すると、$P_s:=\{A\subset S\mid s\notin A\}$ は $\mathcal{P}(S)$ の素イデアルである。各 $A$ について $s\notin A$ と $s\notin S\setminus A$ のちょうど一方が成り立つので、prop-bpi-prime-characterization の 2 を満たす。対応する準同型は $A\mapsto[s\in A]$($s\in A$ なら $1$)である。$S\neq\emptyset$ なら $\mathcal{P}(S)$ は非自明で、素イデアルは $\mathsf{ZF}$ でとれる。
$A$ を非自明な有限 Boole 代数とする。$0$ でない元で、それより真に小さい $0$ でない元をもたないものを原子という。原子 $u$ に対し $P_u:=\{x\in A\mid u\not\le x\}$ は素イデアルであり(lem-bpi-finite の証明)、$A$ の素イデアルはこの形のものに限る。実際、準同型 $h\colon A\to\mathbf{2}$ があると、$1$ は原子全体の結びなので(Boole代数 の記事の補題「有限 Boole 代数の元は原子の結び」) $h(u)=1$ となる原子 $u$ がある。$u\le x$ なら $h(x)\ge h(u)=1$、$u\not\le x$ なら $u\wedge x=0$($u\wedge x$ は $u$ 以下で $u$ でない)なので $h(x)=h(u)\wedge h(x)=0$ となり、$h^{-1}(0)=P_u$ である。たとえば $\mathcal{P}(\{1,2,3\})$ の素イデアルは原子 $\{1\},\{2\},\{3\}$ に対応する $3$ 個である。
$\mathbb{N}$ の部分集合で、有限集合または補集合が有限の集合(補有限集合)の全体 $\mathrm{FC}$ は、集合演算で Boole 代数になる。有限集合の全体 $I_{\mathrm{fin}}$ は $\mathrm{FC}$ の素イデアルである:各元は有限か補有限のちょうど一方なので prop-bpi-prime-characterization の 2 を満たす。
$\mathrm{FC}$ の素イデアルは $I_{\mathrm{fin}}$ と、各 $n\in\mathbb{N}$ についての $P_n:=\{A\in\mathrm{FC}\mid n\notin A\}$ で尽きる。素イデアル $P$ がすべての一点集合を含めば、すべての有限集合を含み、補有限集合は補集合が $P$ に入るので含まないから、$P=I_{\mathrm{fin}}$ である。ある $\{n\}\notin P$ なら $\mathbb{N}\setminus\{n\}\in P$ となり、$n\notin A$ なら $A\subset\mathbb{N}\setminus\{n\}$ より $A\in P$、$n\in A$ なら $\{n\}\subset A$ より $A\notin P$ なので $P=P_n$ である。
非自明な Boole 代数 $B$ が可算なら、$\mathsf{ZF}$ で素イデアルがとれる。全射 $e\colon\mathbb{N}\to B$ を一つ固定し、$b_n:=e(n)$ とおく。イデアル $I$ と元 $b$ に対し $\langle I,b\rangle:=\{x\mid \text{ある } i\in I \text{ で } x\le i\vee b\}$ は $I\cup\{b\}$ を含む最小のイデアルである。$I_0:=\{0\}$ とし、
$$
I_{n+1}:=\begin{cases}\langle I_n,b_n\rangle & (\langle I_n,b_n\rangle \text{ が真のとき}),\\ \langle I_n,\neg b_n\rangle & (\text{それ以外})\end{cases}
$$
と再帰で定める。$I_n$ が真なら $I_{n+1}$ も真である:両方が真でなければ $1\le i\vee b_n$、$1\le i'\vee\neg b_n$($i,i'\in I_n$)となり、分配律から $1=(i\vee i'\vee b_n)\wedge(i\vee i'\vee\neg b_n)=i\vee i'\in I_n$ となるからである。$P:=\bigcup_nI_n$ は真のイデアルで、各 $b_n$ について $b_n$ か $\neg b_n$ を含むので素イデアルである。どの段でも規則で一つに決まるので、選択は使っていない。したがって $\mathsf{BPI}$ が意味をもつのは非可算な Boole 代数についてである。
$\mathsf{BPI}$ の同値な形を証明するための補題を二つ用意する。
($\mathsf{ZF}$)Boole 代数 $B$ の有限部分集合 $E$ に対し、次が成り立つ。
$E=\{a_1,\dots,a_n\}$ とし、$\varepsilon\in\{0,1\}^n$ ごとに $m_\varepsilon:=a_1^{\varepsilon_1}\wedge\cdots\wedge a_n^{\varepsilon_n}$($a^1:=a$、$a^0:=\neg a$)とおく。$A$ を、$\{0,1\}^n$ の部分集合 $F$ についての結び $\bigvee_{\varepsilon\in F}m_\varepsilon$(空の結びは $0$)全体とすると、$A$ は高々 $2^{2^n}$ 個の元からなり、$E$ を含む部分 Boole 代数である。
$\varepsilon\neq\delta$ なら、ある $i$ で $m_\varepsilon\le a_i$、$m_\delta\le\neg a_i$(または逆)なので $m_\varepsilon\wedge m_\delta=0$ である。分配律で $\bigwedge_i(a_i\vee\neg a_i)=1$ を展開すると $\bigvee_\varepsilon m_\varepsilon=1$ となる。よって $a_i=a_i\wedge1=\bigvee_{\varepsilon_i=1}m_\varepsilon\in A$ である。$A$ は結びで閉じ、$x=\bigvee_{F}m_\varepsilon$ に対し $y=\bigvee_{\varepsilon\notin F}m_\varepsilon$ は $x\vee y=1$、$x\wedge y=0$ を満たすので、補元の一意性から $\neg x=y\in A$ である。交わりは De Morgan の法則で結びと補元から書ける。
$J$ は有限で $0$ を含むので、その全元の結び $j$ は $J$ に属し、$J$ が真なので $j\neq1$、すなわち $\neg j\neq0$ である。$\neg j$ 以下の $0$ でない元のうち極小なもの $u$(有限集合なので存在する)をとると、$u$ は原子である。$h(x):=1\iff u\le x$ と定める。$u\le x\wedge y$ は $u\le x$ かつ $u\le y$ と同値である。また $u=(u\wedge x)\vee(u\wedge\neg x)$ で、$u\wedge x$ と $u\wedge\neg x$ は $u$ 以下なのでそれぞれ $0$ か $u$ であり、両方 $u$ だと $u\le x\wedge\neg x=0$、両方 $0$ だと $u=0$ となる。よって $u\le x$ と $u\le\neg x$ のちょうど一方が成り立ち、$h(\neg x)=1-h(x)$ である。$h(0)=0$、$h(1)=1$ なので $h$ は準同型である。$x\in J$ なら $x\le j$ なので、$u\le x$ だと $u\le j\wedge\neg j=0$ となり不可能で、$h(x)=0$ である。$\square$
1 から、有限個の元についての Boole 代数の等式・不等式は、それらが生成する有限部分代数で確かめればよいことが分かる。有限 Boole 代数は原子の集合の冪集合と同型なので(Boole代数 の記事の定理「有限Boole代数の構造」)、集合の等式・不等式として確かめればよい。
($\mathsf{ZF}$)$I$ を Boole 代数 $B$ のイデアルとし、$a\triangle b:=(a\wedge\neg b)\vee(b\wedge\neg a)$ とおく。$a\sim b\iff a\triangle b\in I$ は同値関係で、演算 $\vee,\wedge,\neg$ と両立する。商集合 $B/I$ は Boole 代数になり、射影 $\pi\colon B\to B/I$ は準同型で、$\pi(a)=\pi(0)\iff a\in I$ を満たす。$I$ が真なら $B/I$ は非自明である。
反射律は $a\triangle a=0\in I$、対称律は $\triangle$ の対称性による。推移律と両立性は、不等式
$$
a\triangle c\le(a\triangle b)\vee(b\triangle c),\qquad (a\vee c)\triangle(b\vee c)\le a\triangle b,\qquad (\neg a)\triangle(\neg b)=a\triangle b
$$
とイデアルの条件 2・3 から従う。これらは有限個の元についての不等式なので、lem-bpi-finite の後の注意により集合の対称差の性質として確かめればよい($\wedge$ についての両立性は De Morgan の法則で $\vee$ と $\neg$ に帰着する)。よって $[a]\vee[b]:=[a\vee b]$ などで $B/I$ に演算が定まり、$B$ で成り立つ Boole 代数の公理(等式)は $\pi$ で移って $B/I$ でも成り立つ。$a\triangle0=a$ なので $\pi(a)=\pi(0)\iff a\in I$ であり、$I$ が真なら $1\notin I$ より $\pi(1)\neq\pi(0)$ である。$\square$
以下、命題論理のコンパクト性定理とは次の主張をいう:命題変数の集合 $\mathrm{Var}$(濃度は任意)上の論理式の集合 $\Sigma$ について、$\Sigma$ のどの有限部分集合も充足可能なら、$\Sigma$ 全体も充足可能である。論理式・付値・充足の定義は 命題論理 の記事に従うが、ここでは命題変数の集合 $\mathrm{Var}$ を任意の集合とし、結合子は $\neg$ と $\wedge$ だけを基本とする($\varphi\vee\psi$ は $\neg(\neg\varphi\wedge\neg\psi)$、$\varphi\to\psi$ は $\neg(\varphi\wedge\neg\psi)$ の略記とする)。
$\mathsf{ZF}$ において、次の四つは同値である。
(1 ⇒ 2)真のイデアル $I\subset B$ をとる。lem-bpi-quotient により $B/I$ は非自明な Boole 代数なので、1 により素イデアル $K$ をもつ。$P:=\pi^{-1}(K)$ とおく。$\pi$ は準同型なので $P$ はイデアルであり、$\pi(1)\notin K$ より真である。$\pi(\neg a)=\neg\pi(a)$ なので、prop-bpi-prime-characterization の 2 が $K$ から $P$ へ引き戻され、$P$ は素イデアルである。$a\in I$ なら $\pi(a)=\pi(0)\in K$ なので $I\subset P$ である。
(2 ⇒ 3)$\mathcal{F}$ を $S$ 上のフィルターとする($\emptyset\notin\mathcal{F}$)。$I:=\{S\setminus A\mid A\in\mathcal{F}\}$ は $\mathcal{P}(S)$ のイデアルで、$S\notin I$ なので真である。2 により素イデアル $P\supset I$ をとり、$U:=\{A\subset S\mid S\setminus A\in P\}$ とおく。$\emptyset\in P$ より $S\in U$、$S\notin P$ より $\emptyset\notin U$ であり、$S\setminus(A\cap B)=(S\setminus A)\cup(S\setminus B)$ から $U$ は交わりで閉じ、上方にも閉じている。よって $U$ はフィルターで、$\mathcal{F}\subset U$ である。prop-bpi-prime-characterization の 2 により、各 $A$ について $A\in U$ と $S\setminus A\in U$ のちょうど一方が成り立つので、$U$ は超フィルターである(真に大きいフィルターは、ある $A\notin U$ を含み、$S\setminus A\in U$ と合わせて $\emptyset$ を含んでしまう)。
(3 ⇒ 4)$\Sigma$ を、どの有限部分集合も充足可能な論理式の集合とする。付値全体の集合を $V:=\{0,1\}^{\mathrm{Var}}$、論理式 $\varphi$ を真にする付値の集合を $\mathrm{Mod}(\varphi)\subset V$ と書く。$\Sigma$ の有限部分集合 $\Delta$ について $\mathrm{Mod}(\Delta):=\bigcap_{\varphi\in\Delta}\mathrm{Mod}(\varphi)$($\Delta=\emptyset$ なら $V$)は仮定により空でなく、$\mathrm{Mod}(\Delta)\cap\mathrm{Mod}(\Delta')=\mathrm{Mod}(\Delta\cup\Delta')$ である。よって
$$
\mathcal{F}:=\{A\subset V\mid \text{ある有限の } \Delta\subset\Sigma \text{ で } \mathrm{Mod}(\Delta)\subset A\}
$$
は $V$ 上のフィルターである。3 により超フィルター $U\supset\mathcal{F}$ をとり、付値 $v^*$ を「$v^*(p)=1\iff\mathrm{Mod}(p)\in U$」で定める。
論理式の構成についての帰納法で、すべての $\varphi$ について
$$
v^*\models\varphi\iff\mathrm{Mod}(\varphi)\in U
$$
を示す。命題変数では定義そのものである。$\mathrm{Mod}(\neg\varphi)=V\setminus\mathrm{Mod}(\varphi)$ は、超フィルターの性質(超フィルター の記事の命題「二者択一による特徴づけ」)により $\mathrm{Mod}(\varphi)\notin U$ のときちょうど $U$ に属し、これは帰納法の仮定により $v^*\not\models\varphi$ と同値である。$\mathrm{Mod}(\varphi\wedge\psi)=\mathrm{Mod}(\varphi)\cap\mathrm{Mod}(\psi)$ は、フィルターが交わりと上方に閉じていることから、$\mathrm{Mod}(\varphi)$ と $\mathrm{Mod}(\psi)$ がともに $U$ に属するときちょうど $U$ に属する。$\varphi\in\Sigma$ なら $\mathrm{Mod}(\varphi)\in\mathcal{F}\subset U$ なので $v^*\models\varphi$ であり、$v^*$ が $\Sigma$ を充足する。
(4 ⇒ 1)$B$ を非自明な Boole 代数とする。$b\in B$ ごとに命題変数 $p_b$ を用意し、$\Sigma$ を次の論理式全体とする($\varphi\leftrightarrow\psi$ は $\neg(\varphi\wedge\neg\psi)\wedge\neg(\psi\wedge\neg\varphi)$ の略記)。
$$
p_1,\qquad \neg p_0,\qquad p_{a\wedge b}\leftrightarrow(p_a\wedge p_b),\qquad p_{\neg a}\leftrightarrow\neg p_a\qquad(a,b\in B).
$$
$\Sigma$ の有限部分集合 $\Sigma_0$ に現れる変数の添字の集合 $E$ は有限である。lem-bpi-finite の 1 により $E$ を含む有限部分代数 $A$ があり、$A$ は $0\neq1$ を含むので非自明である。lem-bpi-finite の 2 を $J=\{0\}$ に使って準同型 $h\colon A\to\mathbf{2}$ をとり、$v(p_b):=h(b)$($b\in A$)、$v(p_b):=0$($b\notin A$)とおく。$\Sigma_0$ の論理式に現れる $a$、$b$、$a\wedge b$、$\neg a$ はすべて $E\subset A$ に属するので、$h$ が準同型であることから $v$ は $\Sigma_0$ を充足する。4 により $\Sigma$ 全体を充足する付値 $v$ があり、$g(b):=v(p_b)$ は $0,1,\wedge,\neg$ を保つ写像 $B\to\mathbf{2}$、したがって(De Morgan の法則で $\vee$ も保つ)準同型である。prop-bpi-prime-characterization の 4 により $g^{-1}(0)$ は素イデアルである。
(2 ⇒ 1)非自明なら $\{0\}$ は真のイデアルなので、2 を適用すればよい。以上で $1\Rightarrow2\Rightarrow3\Rightarrow4\Rightarrow1$ が示された。$\square$
3 と 4 の証明は、「有限個ずつなら矛盾なく決められる」ことを超フィルターで一度にまとめる、という同じ考え方に基づく。3 ⇒ 4 の超フィルター $U$ は、付値全体の集合の上で「ほとんどすべての付値で成り立つ」を定めており、$v^*$ はその多数決で決めた付値である。
一階論理についても同じ同値が成り立つ。
$\mathsf{ZF}$ において、$\mathsf{BPI}$ は、任意の(記号の個数を可算に限らない)一階言語についてのコンパクト性定理(一階論理)と同値である。
この記事では証明しない。Jec73 Theorem 2.2(印刷 pp. 17–18)は、$\mathsf{BPI}$、超フィルター定理、有限部分関数の族についての「無矛盾性原理」、一階論理のコンパクト性定理の四つが同値であることを証明している。コンパクト性から $\mathsf{BPI}$ への向きは、上の 4 ⇒ 1 と同じく、$B$ の元を定数記号とし、素イデアルを表す一項述語 $I$ についての公理を並べる。
$\mathsf{ZFC}$ において、任意の Boole 代数の任意の真のイデアルは素イデアルに含まれる。特に $\mathsf{AC}$ は $\mathsf{BPI}$ を含意する。
真のイデアル $I\subset B$ を含む真のイデアル全体を包含で順序づける。$I$ 自身を含むので空でない。空の鎖は $I$ を上界にもつ。空でない鎖 $\mathcal{C}$ の和集合は、どの二元も鎖の一つの元に入ることからイデアルで、どの元も $1$ を含まないので真であり、$\mathcal{C}$ の上界である。Zornの補題により極大元 $P$ があり、$P$ を含む真のイデアルは $I$ も含むので、$P$ は真のイデアル全体の中でも極大である。prop-bpi-prime-characterization の 3 ⇒ 1 により $P$ は素イデアルである。$\square$
逆は成り立たない。$\mathsf{BPI}$ は成り立つが $\mathsf{AC}$ は成り立たない $\mathsf{ZF}$ のモデルがある(Jec73 Theorem 7.1、印刷 p. 97。この記事では証明しない)。$\mathsf{BPI}$ から従う主張としては、任意の集合上に全順序が存在すること(Jec73 §2.3 の例、印刷 p. 19)、コンパクト Hausdorff 空間の族の直積のコンパクト性、Hahn–Banach の定理(Jec73 第 2 章 Problems 14–19 とその出典注、印刷 pp. 27–30)などがある。これらはこの記事では証明しない。一方、Tychonoffの定理をコンパクト空間一般について主張すると $\mathsf{AC}$ と同値になる(Tychonoffの定理 の記事の定理「Kelley の定理」、Jec73 第 2 章 Problem 8、印刷 p. 26)。
$\mathsf{BPI}$ と従属選択公理は、どちらも $\mathsf{AC}$ から従う $\mathsf{AC}$ より弱い原理である。$\mathsf{BPI}$ は $\mathsf{DC}$ を含意しない。$\mathsf{BPI}$ が成り立つ基本 Cohen モデル(Jec73 Theorem 7.1、印刷 p. 97)には Dedekind 有限な無限の実数の集合があり(Jec73 第 5 章 Problem 18、印刷 p. 81)、可算選択公理、したがって $\mathsf{DC}$ が成り立たないからである。この記事では証明しない。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 非自明($0\neq1$) | 一元の Boole 代数 $\{0\}$ | 素イデアルの存在 |
| イデアルが真 | $B$ 自身 | 素イデアルへの延長 |
| 素であること | $\mathcal{P}(\{1,2\})$ のイデアル $\{\emptyset\}$ | $a\wedge b\in I\Rightarrow a\in I$ または $b\in I$ |
| 補元の存在(分配束で考える) | 三元の鎖 $0< c<1$ | 素イデアルは極大である |
| 選択原理($\mathsf{ZF}$ だけで考える) | $\omega$ 上に非主超フィルターがない $\mathsf{ZF}$ のモデル | 超フィルター定理、したがって $\mathsf{BPI}$ |
1 行目:$\{0\}$ ではイデアルは $\{0\}$ だけで、これは代数全体なので真でない。2 行目:$I=B$ は $1$ を含むので、どの真のイデアルにも含まれない。3 行目:$\{1\}\cap\{2\}=\emptyset\in\{\emptyset\}$ だが、$\{1\}$ も $\{2\}$ も $\{\emptyset\}$ に属さない。真のイデアルでも素とは限らず、素イデアルは「延長して得る」必要がある。
4 行目:三元の鎖は分配束だが、$c$ に補元がないので Boole 代数でない。そこでは $\{0\}$ と $\{0,c\}$ がともに素イデアル($x\wedge y=\min\{x,y\}$ がイデアルに入れば $x$ か $y$ が入る)で、$\{0\}\subsetneq\{0,c\}$ なので $\{0\}$ は素だが極大でない。prop-bpi-prime-characterization の 1 ⇒ 3 は補元を使っている。
5 行目:$\mathbb{N}$ 上の補有限集合の全体は $\mathbb{N}$ 上のフィルターで、これを含む超フィルターはどの一点集合も含まない(非主である)。$\omega$ 上に非主超フィルターが一つもない $\mathsf{ZF}$ のモデルがあり(Jec73 第 5 章 Problem 24、印刷 p. 82。$\mathsf{ZF}$ が無矛盾なら。この記事では証明しない)、そこでは超フィルター定理が成り立たないので、thm-bpi-equivalents により $\mathsf{BPI}$ も成り立たない。したがって $\mathsf{BPI}$ は $\mathsf{ZF}$ では証明できない。一点を固定した主超フィルター(ex-bpi-principal)は $\mathsf{ZF}$ でいつでもとれるので、超フィルター定理の本質は「与えられたフィルターを含む」という延長の条件にある(Jec73 §2.3、印刷 p. 16)。
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